(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557637
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】歯科用矯正器具
(51)【国際特許分類】
A61C 7/36 20060101AFI20190729BHJP
A61C 7/08 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
A61C7/36
A61C7/08
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-134009(P2016-134009)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-720(P2018-720A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】516067818
【氏名又は名称】株式会社NN
(74)【代理人】
【識別番号】100074169
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 文彦
(72)【発明者】
【氏名】永井 光希子
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0335465(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0009449(US,A1)
【文献】
特開昭60−53139(JP,A)
【文献】
特開平10−33561(JP,A)
【文献】
特表2002−512075(JP,A)
【文献】
特開2014−113241(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0134499(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0094522(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/36
A61C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内に装着した状態で使用するための歯科用矯正器具(1)において、
前記歯科用矯正器具(1)は、口腔内に着脱自在に装備される矯正機器(10)と、該矯正機器近傍に立設される臼歯キャップ(20)と、からなり、
前記矯正機器(10)は、上顎用矯正部(11)と下顎用矯正部(12)とをワイヤー(13)により一体的に形成した一対のU字型矯正具からなり、上下顎の位置を調整しつつ歯列の矯正を行うとともに、
前記臼歯キャップ(20)は、周辺の歯より少し高さのある臼歯と略同じ形状の大型の固定用被覆蓋体からなり、上下の臼歯キャップを咬合させて咬合せの最適化を行うように、上下顎の各臼歯の4カ所であって、上下の臼歯キャップが咬合する位置に嵌合装着可能に形成され、
前記矯正機器(10)は、前記臼歯キャップ(20)を左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行いながら矯正機器(10)による歯列矯正を行うため、前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)に設けられた凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されることを特徴とする歯科用矯正器具。
【請求項2】
前記臼歯キャップ(20)は、レジンからなることを特徴とする請求項1記載の歯科用矯正器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に歯列矯正に用いられる矯正器具に関し、特に、口腔内における歯の適正な咬合位置を確保することにより、就寝中等一定時間内の装着によって歯列の矯正を行う事を可能とする歯科用矯正器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯列矯正を行うための様々な器具が開発され使用されている。歯列矯正治療は、歯列の不正を直すための治療のことであり、主に、ワイヤー等による矯正力を利用して歯を正常な位置に移動させることで不正咬合を是正する治療を行う。
【0003】
古くから行われている歯列矯正治療としては、例えば、マルチブラケット法が存在する。これは、ブラケットを動かしたい歯の表面に装着し、装着した各ブラケットにワイヤーで連結して歯の移動を行うことで歯列を整える方法である。この方法は、ブラケットを歯に接合するため、矯正治療が完了するまで装置を取り外すことが出来ず汚れが溜まるという問題点や、ワイヤーを少しずつ締める事により歯を強制的に動かして歯列を矯正するため、装置を装着している間は歯に違和感があり最悪の場合痛みや痒みを生ずるという問題点や、更に、ブラケットを歯の外側面に装着する場合にはブラケットとワイヤーが外から視認でき、装着時の見栄えが悪いという問題点を包含していた。
【0004】
このような問題点を解消するための技術として、特開2014−23672号公報が存在する。ここでは、マウスピースタイプの歯科矯正装置として、平面視U字状のベースと、ベースの外周縁から上下に突出して上唇、下唇、頬に内側から当接する拡開周壁と、ベースの内周縁から上下に突出して上下の歯列に内側から当接する整列周壁とから構成される歯科矯正装置であって、拡開周壁の内周面と整列周壁の外周面とが上下の歯列の厚みより離れた状態の歯科矯正装置に関する技術が開示されている。
【0005】
この技術によると、確かに使用者に痛みや違和感を与えることなく、見栄えも問題なく、着脱式であるため汚れが溜まるという問題点も解消することが可能となるが、上下の歯の位置関係については、自然かつ正常な咬合位置を確保することが困難という問題点があり、更に装着時の違和感や不快感はブラケットとワイヤーを使用したものより大きくなると考えられ、歯科矯正装置としては不十分であった。
【0006】
また、特開2015−150179号公報では、弾性材料または可撓性材料から形成されたU字型マウスピースの上下顎各々の外周壁、内周壁、咬合面にそれぞれ形状記憶合金を埋入した歯科矯正装置に関する技術が開示されている。これにより、上下顎や歯列に対して、持続的かつ適切な力を付与可能な着脱自在の歯科矯正装置を提供可能となる事が示唆されている。
【0007】
しかしながら、この技術によっても、自然で正常な咬合位置を確保した状態で持続的に使用することが困難という問題点があり、更に装着時の違和感や不快感が大きく、就寝中や日常生活を行う上での矯正器具の使用には困難が伴うという問題点があった。
【0008】
ブラケットやワイヤーを使用しない歯科矯正器具として、ビムラー装置を用いた矯正が用いられている。ビムラー矯正とは、特殊装置を口腔内の特定の位置に装着することで歯列矯正を行うものであり、就寝中に該装置を口腔内に装着する事で、咀嚼や嚥下の際の力を利用して歯を矯正し、特に顎が成長する小児の歯列矯正に効果的な歯科矯正器具である。
【0009】
ビムラー装置を用いる事により、就寝中や日常生活を行う上での矯正器具の使用が容易となり、口腔内に着脱自在であることから汚れが溜まる等の問題もないため、歯列矯正を行う者が抵抗感や不快感を覚えることが少ないという大きなメリットがある。しかしながら、自然で正常な咬合位置を確保した状態で持続的に使用するという点に関してはまだ不十分であり、正しい咬合位置を確保した精確な矯正を行うことが困難であったのが実情である。
【0010】
そこで、歯列矯正を行う者が抵抗感や不快感を覚えることを低減するとともに、正しい咬合位置を確保した精確な矯正を行う事を可能とするための歯科用矯正器具の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2014−23672号公報
【特許文献2】特開2015−150179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題を解決するために、主に歯列矯正に用いられる矯正器具であって、特に、口腔内における歯の適正な咬合位置を確保することにより、正しい咬合を確保した精確な矯正を行うとともに、矯正機器の一部については、就寝中等一定時間内の装着によって歯列の矯正を行う事を可能とする歯科用矯正器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明に係る歯科用矯正器具は、口腔内に装着した状態で使用するための歯科用矯正器具であって、前記歯科用矯正器具は、口腔内に着脱自在に装備される矯正機器と、該矯正機器近傍に立設される臼歯キャップと、からなり、前記矯正機器は、上顎用矯正部と下顎用矯正部とをワイヤーにより一体的に形成した一対のU字型矯正具からなり、上下顎の位置を調整しつつ歯列の矯正を行うとともに、前記臼歯キャップは、周辺の歯より少し高さのある
臼歯と略同じ形状の大型の固定用被覆蓋体からなり、
上下の臼歯キャップを咬合させて咬合せの最適化を行うように、上下顎の各臼歯の4カ所
であって、上下の臼歯キャップが咬合する位置に嵌合装着可能に形成され、前記矯正機器は、
前記臼歯キャップを左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行
いながら矯正機器による歯列矯正を行うため、前記矯正機器の上顎用矯正部に設けられた凹溝を介して前記臼歯キャップに係止することにより、前記臼歯キャップの外周に装着される構成である。
また、前記臼歯キャップは、レジンからなる構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記詳述した通りの構成であるので、以下のような効果がある。
1.口腔内に着脱自在に装備される矯正機器を用いたため、矯正器具の不快な使用感を使用者に与えることを抑制するとともに、汚れ等の付着を抑制し、更に、見栄えを良くすることが可能となる。また、固定用キャップである臼歯キャップを矯正機器近傍に立設したため、矯正器具を上顎用矯正部と下顎用矯正部とが一体化した形状で上下顎の位置を調整しつつ歯並びの矯正を行うことが可能となる。
2.臼歯キャップをレジンで構成したため、キャップを容易に形成することが可能となり、歯列矯正治療を直ぐに開始することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る歯科用矯正器具を、図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の歯科用矯正器具の斜視図であり、
図2は、臼歯キャップの側面図である。
図3は矯正器具(ビムラー)の斜視図である。本発明に係る歯科用矯正器具1は、矯正機器10と、臼歯キャップ20とからなり、矯正器具10を臼歯キャップ20に係止装着することにより接合して使用することで、歯列矯正を効果的に行う事が可能となる。
【0015】
歯科用矯正器具1のうち矯正機器10は、主に就寝中に口腔内に装着した状態で使用するための矯正器具である。本実施例では、歯科用矯正器具1は食事以外の日常生活を送る上で支障のない構造となっているため、就寝中の他、日中の活動時間においても装着することはもちろん可能であり、より高い歯列矯正の効果を得ることが可能となる。
【0016】
矯正機器10は、口腔内に着脱自在に装備される矯正器具本体であり、
図1および
図3に示すように、上顎用矯正部11と下顎用矯正部12各の矯正部材を有するフレーム状の装置である。矯正機器10は、上顎用矯正部11と下顎用矯正部12とが一体化した形状であり、それぞれを口腔内の正しい位置に装着することで、上下顎の位置を調整しつつ歯列(歯並び)の矯正を行う。該装置を適切に装着することにより、正常な咬合となるように調整して歯列矯正を行うことが可能となる。
【0017】
矯正機器10は、本実施例では、ビムラー(Bimler)装置を用いることを主眼としている。ビムラー装置は、
図3に示すように、ブラケットやワイヤーを使用しない歯列矯正用の器具であり、主に小児用の歯列矯正器具として広く用いられている。乳児の顎は成長に伴い発達しているため、この時期に歯列を整えるのが効率的であり望ましい。ビムラー装置は、装着時における咀嚼や嚥下による顎や舌の動く力を利用した歯列矯正を行う構造であり、任意のタイミングでの着脱が自由であることから、歯科矯正治療に対する抵抗が比較的少ないとともに、ブラケット等の使用による汚れの付着がないため、看者の肉体的、精神的な負担を軽減でき、特に小児向けの矯正器具と言える。
【0018】
ビムラー装置からなる矯正機器10は、より詳しくは、上顎と下顎の相互の位置関係が不適切である場合において、下顎の前方への成長を促進させることを実現する装置である。基本的にはワイヤー13を用いた構成であり、上顎側の矯正部材(上顎用矯正部11)と下顎側の矯正部材(下顎用矯正部12)のワイヤーが一体的に形成され、簡易的には、楕円形状のワイヤー13を折り畳んで上下で一対のU字型の矯正部材を形成した構成である(特許庁 標準技術集:歯科用器具 3「矯正治療」 〔技術名称〕3−2−4−4「ビムラー装置」参照)。
【0019】
上顎側のU字型からなる矯正部材(上顎用矯正部11)は、
図1および
図3に示すように、上顎の左右両側にある臼歯乃至犬歯に位置する箇所に樹脂製からなる左右2つの上顎当接部15が設けられており、更に上顎の中切歯にはワイヤー13の前部が当接する構成である。これにより、矯正機器10の装着時に左右2か所にある上顎側の臼歯乃至犬歯と中切歯とによって矯正機器10が固定されることになる。
【0020】
また、下顎側のU字型からなる矯正部材(下顎用矯正部12)は、U字型端部に樹脂製の下顎当接部16からなる構成である。これにより、矯正機器10の装着時には、該下顎当接部16が下顎側の中切歯を内側から押す状態で矯正機器10が装着配置される。なお、上記ビムラー装置からなる矯正機器10は、患者の口腔内の形状に合わせて作成するため、患者の口腔内の形状によって矯正機器10の形状が異なるように必要に応じて適宜の形状に変形できる事となる。
【0021】
ビムラー装置からなる矯正機器10は、咀嚼や嚥下による顎や舌の動く力を利用して、咬合力を下顎へ作用させることにより、下顎当接部16が前方へ押し出されて中切歯を口腔内側から押圧し、下顎の前方への成長を促進する構成である。これにより、適正な咬合を実現して歯列矯正を行う。なお、同時にワイヤー13によって上顎側の中切歯に対する内側へ向けた押圧が掛かることから、上顎中切歯の後方への移動も実現可能となる。
【0022】
臼歯キャップ20は、矯正機器近傍に立設されるキャップ状の被覆蓋体であり、本実施例では、
図1および
図2に示すように、やや大き目の臼歯形状からなる部材である。臼歯キャップ20は上下顎の各臼歯の4カ所に嵌合装着可能に形成される固定用のキャップであり、左右上下の4カ所の臼歯に装着して咬合拳上を行うことに供される。なお、本発明に係る歯科用矯正器具1は、主に小児の矯正に使用されることを想定しているが、大人が使用することももちろん可能であるため、臼歯キャップ20は大人用の場合は小児用と比べて装着する総個数が異なる使用態様となる可能性が考えられる。
【0023】
臼歯キャップ20は、本実施例では、
図2に示すように、装着時において周辺の歯より少し高さのある大型のキャップ状の被覆蓋体となっている。臼歯キャップ20の装着時には、上下の臼歯キャップ20が咬合することとなる。これにより、正しい位置での咬合を促すことが可能となり、矯正機器10を用いた下顎の前方成長促進による歯列矯正と合わせて、より正しい咬合位置を確保した精確な歯列矯正を行う事が可能となった。
【0024】
矯正機器10の上顎用矯正部11には、
図1および
図3に示すように、左右に凹溝14が設けられている。凹溝14は、本実施例では、前述の上顎側左右の臼歯乃至犬歯に位置する箇所に設けられる樹脂製の上顎当接部15に削設される凹形状からなる。凹溝14は、臼歯キャップ20と同じ形状で削設されており、
図1に示すように、矯正機器10の凹溝14の外周に臼歯キャップ20が係止装着される構成となっている。すなわち、矯正機器10は、左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行うため、上顎用矯正部11に設けられた凹溝14を介して臼歯キャップ20に係止する構造である。これにより、矯正機器10と臼歯キャップ20とを一体的に使用することが可能となり、歯科用矯正器具1を口腔内に装着する際に使用者が不快感、違和感等の負担を感じることを抑制することが可能となるとともに、下顎の前方成長促進とともに正しい咬合位置を確保した精確な歯列矯正を行う事が可能となった。
【0025】
なお、矯正機器10の側面の凹溝14は、臼歯キャップ20の被せられた口顎部側面に係止可能な形状であるため、口顎部側面に係止する使用態様となることもある。
【0026】
臼歯キャップ20は、本実施例ではレジンからなる構成となっている。レジンは、合成樹脂の一種であり、人為的に製造された高分子化合物からなる物質である。歯科治療では、容易に変形、硬化を行う事が可能であるレジン樹脂を用いた歯の欠損部分の治療等が行われているため、臼歯キャップ20を、レジン樹脂を用いて構成することにより、臼歯キャップ20を容易に形成することが可能となり、歯列矯正治療を直ぐに開始することが可能となった。
【0027】
水平的アプローチ(下顎の前進成長促進)を主眼としたビムラー装置からなる矯正機器10に合わせて、垂直的アプローチ(咬合の適正化)を主眼とする臼歯キャップ20を用いる事により、口腔内における歯の適正な咬合位置を確保して正しい咬合を確保した精確な矯正を行うことが可能となった。すなわち、本発明に係る歯科用矯正器具1を用いる事により、歯列矯正の患者の肉体的、精神的な負担を軽減することが可能となり、患者と術者双方のストレスを軽減した歯列矯正治療を行う事が可能となった。
【符号の説明】
【0029】
1 歯科用矯正器具
10 矯正機器
11 上顎用矯正部
12 下顎用矯正部
13 ワイヤー
14 凹溝
15 上顎当接部
16 下顎当接部
20 臼歯キャップ