(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分析チップの前記流路は、前記基板の外縁まで放射状に複数形成され、それぞれの流路には、前記対象液体の成分に対して選択的に反応可能な複数種類の反応物質が所定の間隔で固定化されている請求項1に記載の分析チップ。
隣り合う前記反応物質の間の距離は固定化される複数の前記反応物質のうち、最小径の前記反応物質の径の60%以上離間した位置である請求項1から3までの何れかに記載の分析チップ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の試料分析装置としての生化学分析装置及び分析チップの好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態では、ELISA法による抗原抗体反応の化学発光を利用して、対象液体としての検体のアレルギー測定を行う生化学分析装置50及びこの生化学分析装置50に用いられる分析チップ10を本発明の試料分析装置及び分析チップの一例として説明する。
【0020】
本実施形態の分析チップ10について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る分析チップ10の斜視図である。
図2は、分析チップ10の構成斜視図である。
図3は、分析チップ10の平面図である。
図4は、
図3のA−A線断面図である。
図5は、
図1のB部(鎖線で囲われた範囲)拡大図である。
図6はマイクロ流路23に固定化された反応物質である抗原30を模式的に示した基板の平面図である。
図7は、マイクロ流路23で隣り合う反応物質である抗原30を模式的に示した拡大図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の分析チップ10は、その外形が略円板状に構成される。
図2から
図4までに示すように、分析チップ10は、基板20と、フィルム14と、下側ハウジング12と、上側ハウジング13と、吸収体15と、液体捕捉空間16と、エア連通口17と、を備える。
【0022】
基板20は、環状ポリオレフィン等の透光性を有する材料で略円板状に形成される。
図6に示すように、基板20には、測定対象である検体(対象液体)に含まれる対象物質と特異的に反応する抗原30が固定化される。
【0023】
本実施形態の基板20は、注入口22と、マイクロ流路23と、を備え、この基板20に反応物質としての抗原30が固定化される。
【0024】
基板20は、円板状に構成されている。基板20の構成について説明する。基板20には、注入口22となる貫通状の孔が形成されている。また、基板20の下面には複数のスリットが注入口22を中心に等角度に放射状に形成されている。このスリットは、一側の端部が注入口22に接続され、他側の端部が基板20の外縁端面の開口部に接続されている。抗原30は、このスリットの底面に固定化される。後述のフィルム14は、基板20におけるスリットが形成される面に取り付けられる。このように、本実施形態では、基板20に形成されるスリットがフィルム14によって塞がれ、基板20のスリット及びフィルム14によってマイクロ流路23が形成されている。
【0025】
注入口22は、検体、試薬溶液等の対象液体をマイクロ流路23に導入するためのものである。この注入口22は、略円板状に形成された基板20の略中心に位置し、基板20の内部で複数のマイクロ流路23のそれぞれと連通している。
【0026】
マイクロ流路23は、基板20の内部で一端が注入口22に連通し、他端が基板20の径方向外縁まで貫通したキャピラリとなっている。
図6に示すように、マイクロ流路23は、注入口22から略等角度に放射状に複数形成されている。本実施形態の基板20では、8つのマイクロ流路23を有する。
【0027】
マイクロ流路23は、毛細管現象によってその内部空間に液体が導入されるように構成される。例えば、本実施形態では、対象液体である血清検体の粘度及び実証結果に基づき、その幅が0.1mm以上3mm以下、その高さが0.1mm以上0.5mm以下になるように設定されている。
【0028】
抗原30は、前述のように、マイクロ流路23の内壁に固定化される。抗原30は、それぞれのマイクロ流路23の長手方向に直線状に並ぶように複数固定化される。
図6に示すように、抗原30は、マイクロ流路23の壁面幅よりも小さい径のスポット状に固定化されている。マイクロ流路23の全壁面を抗原30により固定化するのではなく、スポット状に固定化することによって抗原30が固定化される面積を必要最小限にすることができ、固定化される面積が大きいことによって生じるコンタミネーションや反応の不均一性が抑制される。また、後述する発光反応の測定時においても、本実施形態のように小径スポット状に抗原30が固定化される構成は、マイクロ流路23全域に抗原が固定化されている構成に比べ、隣り合うマイクロ流路23内で生じる発光反応の光の干渉が効果的に抑制される。更に後述するように、本実施形態ではカメラユニット83によって発光反応が生じている抗原30を、その上方から撮像することで画像情報を取得するので、他の発光している抗原30と区別し、互いの光干渉を防止するために、個々の小径スポット状の抗原30の反応発光を充分な状態で面内の均一性をもって確保する必要がある。このために、スポット状の抗原30の上面はマイクロ流路23と略直交方向に撮像素子へ向けて発光反応による光の主たる照射方向を設けるために、ほぼ平滑に形成される。このために抗原30の粘度等が調整され、あるいはスタンプ状のもので平滑に押圧する等して形成される。
【0029】
抗原30は、所定の間隔を以て配置される。
図7に示すように、隣り合う抗原30間の距離dは、発光反応の測定時に、隣り合う場所に位置する抗原30の発光が互いに干渉しないように設定される。本実施形態では、距離dは、マイクロ流路23に固定化される抗原30のうち、最小径の抗原30の径の60%以上離間した位置に形成される必要がある。
【0030】
抗原30は、検体中の特定成分(対象物質)に特異的に反応する各種のアレルゲンである。本実施形態では、基板20には、8つのマイクロ流路23が形成されており、それぞれのマイクロ流路23には、5つの抗原30が前述の所定の間隔dで略直線状に配列されている。基板20に固定化される複数の抗原30は、抗原30の反応を確実に測定するために、同種の抗原を複数のマイクロ流路、あるいは異なる位置に配置しても良いし、全てを異なる種類のものとして多数の分析情報を一括して得ることもできる。
【0031】
本実施形態の基板20は、以上のように構成される。なお、基板20の構成は、前述の構成に限定されるものではなく、マイクロ流路23の数を変更し、あるいは不均等な角度で配置する等、その目的によって適宜変更可能である。また、基板20に固定化される反応物質として抗原30を例に説明したが、抗体を固定化してもよい。
【0032】
フィルム14は、略円形の薄膜状に形成されており、前述のように基板20の下面に取り付けられる。このフィルム14を介して基板20が下側ハウジング12の上面に配置される。
【0033】
下側ハウジング12は、基板20の下面(一側の面)側に配置され、その外周が基板20の径よりも大きい径の略円形に形成される。また、下側ハウジング12には、分析チップ10の周面の下部を形成する壁部が外周に沿って形成される。
【0034】
上側ハウジング13は、基板20の上面(他側の面)側に配置され、その外周が基板20の径よりも大きい径の略リング状に形成される。上側ハウジング13は、その中央に基板20の径よりも小さい径の円形の開口部18を有する。また、上側ハウジング13には、分析チップ10の周面の上部を形成する壁部が外周に沿って形成される。本実施形態の分析チップ10のハウジングは、下側ハウジング12と上側ハウジング13とから構成される。
【0035】
吸収体15は、保湿性のある部材で構成されており、基板20の径よりも大きく、下側ハウジング12及び上側ハウジング13の径よりも小さいリング状に形成され、液体捕捉空間16内に配置される。マイクロ流路23から排出された液体は、この吸収体15に吸収される。生化学分析等の場合、分析の対象液体は分析装置から系外への排出を厳しく避けねばならず、そのために基板20の外周に吸収体15が設けられる。
【0036】
図4に示すように、液体捕捉空間16は、下側ハウジング12と上側ハウジング13とによって形成され、基板20の外周を取り巻くようにリング状の空間として形成される。基板20の周面に形成されるマイクロ流路23の外縁側の開口部は、液体捕捉空間16に対して開口している。これにより、後述するようにマイクロ流路23の前記開口部から排出される対象液体は、この液体捕捉空間16に排出される。この液体捕捉空間16に排出された対象液体は液体捕捉空間16に配置される前記吸収体15により吸収され、かつ液体捕捉空間16、及び基板20内のマイクロ流路23の保湿効果をもたらす。
【0037】
図5に示すように、エア連通口17は、上側ハウジング13の内側開口壁に基板20の上面と上側ハウジング13とによって形成され、略等間隔に複数配置される。
図3に示すように、エア連通口17は、基板20の外縁に設けられたマイクロ流路23の液体捕捉空間16側の開口より、基板20の径方向やや内側に形成される。このエア連通口17によって、マイクロ流路23を介して基板20の注入口22と外部とが連通される。これにより、後述のエア注入処理でエアノズルユニット100によって注入口22から注入されたエアは、マイクロ流路23を通ってエア連通口17から外部へと排出される。エア連通口17がマイクロ流路23の液体捕捉空間16側の液体排出口である開口よりも基板20の径方向内側に配置されているので、マイクロ流路23から排出される液体がエア連通口17より分析チップ10の系外への排出が防止される。
【0038】
本実施形態の分析チップ10は、以上のように構成される。次に、本実施形態の分析チップ10を用いて対象液体の分析を行う生化学分析装置50について説明する。
図8は、本発明の一実施形態に係る生化学分析装置50の斜視図である。
図9は、生化学分析装置50の内部を概略的に示す斜視図である。
図10は、生化学分析装置50の内部を概略的に示す平面図である。
図11は、分注ユニット90により対象液体が分析チップ10に注入される状態を示すチップホルダ53の平面図である。
図12は、制御ユニット110と各構成の関係を模式的に示すブロック図である。
図13は、測定ユニット80によって取得された分析画像情報の一例である。
【0039】
図8から
図12までに示すように、生化学分析装置50は、ハウジング51と、タッチパネル52と、チップホルダ回転ユニット54と、測定ユニット80と、分注ユニット90と、エアノズルユニット100と、試薬ホルダユニット58と、制御ユニット110と、を備える。
【0040】
ハウジング51は、生化学分析装置50の各構成を収容するとともに、分析を行う内部機構と外部とを隔てている。ハウジング51には、ドア55が設けられている。
【0041】
タッチパネル52は、生化学分析装置50の操作手段と表示手段を兼ねる。タッチパネル52は、各種の設定や操作及び測定結果、分析結果の表示等を行う。
【0042】
チップホルダ回転ユニット54は、分析チップ10を回転させるためのものである。本実施形態では、分析チップ10への対象液体を注入する注入処理及びマイクロ流路23に導入された液体の排液処理は、チップホルダ回転ユニット54による分析チップ10を回転させて行われる。以下、チップホルダ回転ユニット54の構成について説明する。
【0043】
チップホルダ回転ユニット54は、本実施形態では、チップホルダ53と、チップホルダ駆動モータと、調温装置と、温度センサと、を備える。
【0044】
チップホルダ53は、チップホルダ回転ユニット54の上部に設置される。チップホルダ53は、分析チップ10を嵌合するための嵌合部531を備える。嵌合部531は、分析チップ10の周面の一部に接触する枠部としてチップホルダ53の上面に形成される。
図11に示すように、分析チップ10がチップホルダ53にセットされた状態では、嵌合部531が分析チップ10の外周の一部を保持し、遠心力による分析チップ10のチップホルダ53からの脱落を防止される。
【0045】
嵌合部531は、分析チップ10の注入口22の中心とチップホルダ53の回転中心とが略一致するように、分析チップ10を嵌合するように構成される。また、分析チップ10は、チップホルダ53に設置された状態では略水平となるように構成される。
【0046】
なお、分析チップ10及び嵌合部531を以下のように構成することもできる。分析チップ10の下面(下側ハウジング12の下面)に凸部、凹部又はその両方からなる分析チップ嵌合部を形成する。そして、嵌合部531における分析チップ10の下面に接触する面に、分析チップ嵌合部に対応する形状を形成する。これにより、分析チップ10と嵌合部531との嵌合をより確実なものにすることができ、分析チップ10の回転速度もより適切に調整することができる。また、分析チップ10と嵌合部531との接触面積が大きくなるので、後述のインキュベーション処理において、調温装置によってチップホルダ53を介して分析チップ10に熱を調温させ易くなり、効率的な調温を行うことができる。なお、分析チップ嵌合部及び嵌合部531に形成される形状は、インキュベーションでチップホルダ53が熱による膨張圧縮することを考慮し、簡便な取り外しが可能な山谷型や、歯型、錐状、波形状等で構成することもできる。
【0047】
チップホルダ駆動モータは、チップホルダ回転ユニット54の内部に配置されており、その駆動軸はチップホルダ53の回転軸に連結されている(図示省略)。チップホルダ駆動モータは、その回転数を任意の値に調整可能に構成される。チップホルダ回転ユニット54は、制御ユニット110に電気的に接続されており、制御ユニット110からの信号に基づきチップホルダ駆動モータの回転数を調節してチップホルダ53を所定の速度で回転させる。本実施形態では、チップホルダ53の回転速度を後述する注入回転速度と後述する排液速度との間で切り替え可能に構成されている。
【0048】
注入回転速度は、分注ユニット90によって液体を分析チップ10の注入口22に注入するときのチップホルダ53の回転速度である。
【0049】
排液速度は、分析チップ10のマイクロ流路23に導入した液体をマイクロ流路23から液体捕捉空間16に排出するときの回転速度である。本実施形態の排液速度は、遠心力を利用して液体をマイクロ流路23から排出させるために、マイクロ流路内に導入した液体が排出されない注入回転速度よりも速い速度で回転させるように設定される。
【0050】
調温装置は、チップホルダ回転ユニット54の内部に配置されており、チップホルダ53に設置された分析チップ10を調温可能に構成される(図示省略)。この調温装置により、抗原30と対象液体を反応させるためのプレインキュベーション及びインキュベーションが適切に行われる。
【0051】
温度センサは、チップホルダ回転ユニット54の内部に配置されている(図示省略)。温度センサが取得した温度情報は、制御ユニット110に送信され、制御ユニット110は、温度情報に基づいて調温装置の加温を調整可能に構成される。
【0052】
次に、測定ユニット80について説明する。測定ユニット80は、発光反応を測定するためのものである。測定ユニット80は、暗箱81と、チップホルダ移動機構82と、カメラユニット83と、LEDユニットと、を備える。
【0053】
暗箱81は、密閉された直方体の箱として構成され、測定時に系外から遮光する暗室と、プレインキュベーション及びインキュベーションの際の保温のための調温室として機能する。暗箱81の一側の側面には開口部が形成されている。
【0054】
チップホルダ移動機構82は、暗箱81の開口部に配置され、チップホルダ回転ユニット54を移動させるための駆動手段(図示省略)を備える。チップホルダ移動機構82によって、チップホルダ回転ユニット54は、液体注入位置、エア注入位置及び測定位置に移動可能になっている。
【0055】
チップホルダ回転ユニット54の液体注入位置は、分注ユニット90によって液体が分析チップ10に注入されるときの位置であり、暗箱81の外部に位置する(
図9及び
図10の状態)。エア注入位置は、エアノズルユニット100によってエアが分析チップ10に注入されるときの位置である。
【0056】
チップホルダ回転ユニット54の測定位置は、暗箱81の内部で測定ユニット80によって分析チップ10が測定される位置である。測定位置では、暗箱81の開口部がチップホルダ回転ユニット54の移動により閉じられ、暗箱81が密閉される。
【0057】
カメラユニット83は、暗箱81の上部に配置されており、測定位置の分析チップ10を上方から撮像する測定装置(撮像装置)である。このカメラユニット83によって撮像された画像情報に基づいて各種判定が行われる。本実施形態のカメラユニット83は、微弱な発光も検出できるように、その露光時間が実験結果等に基づいて調整される。なお、反射光の影響を抑制するために、暗箱81内に偏光板等を配置してもよい。
【0058】
測定ユニット80は、カメラユニット83によって発光反応が生じている測定位置の分析チップ10を撮像することで、測定情報としての画像情報を取得する。
図13に示すように、カメラユニット83は、発光反応の位置が明確に特定できる精度の画像情報を取得する。また、カメラユニット83は、LEDユニットを備える。
【0059】
LEDユニットは、カメラユニット83による撮像時に、暗箱81の内部を照明するための照明装置である。
【0060】
測定ユニット80は、制御ユニット110に電気的に接続されている。測定ユニット80が備えるチップホルダ移動機構82、カメラユニット83、LEDユニット及び温度センサは、制御ユニット110と各種の信号を送受信可能に構成される。制御ユニット110の信号に基づいて、測定ユニット80は、チップホルダ回転ユニット54を液体注入位置、エア注入位置、又は測定位置に移動するようにチップホルダ移動機構82の駆動手段を駆動する。また、制御ユニット110からの信号に基づいて、カメラユニット83の撮像及びLEDユニットの明度の調整等が行われる。
【0061】
次に、分注ユニット90について説明する。分注ユニット90は、チップホルダ53にセットされた分析チップ10の注入口22に液体(対象液体)を分注するものである。分注ユニット90によって分析チップ10に注入される液体としては、ブロック液、検体、洗浄液、発光基質等がある。
【0062】
分注ユニット90は、分注ケーシング91と、分注ノズル92と、分注ノズル移動機構93と、分注ユニット移動機構94と、を備える。
【0063】
分注ノズル92には、着脱可能なピペットチップ95が取り付けられ、このピペットチップ95を分注ノズル92の先端部として分析チップ10への分注を行う。分注ノズル移動機構93は、分注ノズル92を上下方向に移動させるためのものである。分注ユニット移動機構94は、分注ユニット90を移動させるものであり、この分注ユニット移動機構94によって分注ユニット90は、水平方向に移動可能になっている。分注ユニット90は、
図11に示すチップホルダ53側へ接近する液体注入位置と、
図10に示すチップホルダ53から離間する待機位置と、の間の移動が可能である。
【0064】
分注ユニット90は、分注ノズル移動機構93及び分注ユニット移動機構94によって、ピペットチップ取付位置と、ピペットチップ取り外し位置と、待機位置と、液体注入位置と、の間で分注ノズル92を移動させる。分注ユニット90は、制御ユニット110の信号に基づいて、分注ノズル92が液体注入位置、ピペットチップ取付位置、ピペットチップ取り外し位置、又は待機位置へと移動するように分注ノズル移動機構93及び分注ユニット移動機構94のそれぞれの駆動手段が駆動される。
【0065】
分注ユニット90のピペットチップ取付位置は、後述の試薬ホルダユニット58にセットされる未使用のピペットチップ95を取り付けるための位置である。分注ユニット90のピペットチップ取り外し位置は、試薬ホルダユニット58が備えるピペットチップ取り外し機構(図示省略)によって使用済みのピペットチップ95が分注ノズル92から取り外される位置である。待機位置は、分注ユニット90の移動時の分注ノズル92の位置であり、液体注入位置、ピペットチップ取付位置及びピペットチップ取り外し位置のいずれの位置よりも高い位置にある。分注ユニット90の移動時は、分注ノズル92が待機位置にあるので、分注ノズル92の移動の障害となることがない。
【0066】
分注ユニット90の液体注入位置は、分析チップ10に液体を注入する位置である。本実施形態の液体注入位置は、平面視において、分注ノズル92の先端に設置されたピペットチップ95の先端がチップホルダ53の回転中心に略一致するように設定される。
【0067】
本実施形態の液体注入位置では、ピペットチップ95の先端が、基板20の上面よりも下側にあり、注入口22の底面に接触しないようにその位置が設定されている。
【0068】
液体注入位置での注入処理は、チップホルダ53が注入回転速度で回転している状態で行われる。また、分注ユニット90による分析チップ10への液体の注入は、一定速度で連続的又は段階的に行われる。ピペットチップ95の先端が基板20の上面よりも下側に位置するので、液体が基板20の上面へ飛散したり対象液体の液滴による注入口22の閉塞が防止され、注入口22からマイクロ流路23への微量な対象液体の迅速かつ適切な導入が可能となる。
【0069】
チップホルダ53を回転させながら分注を行うことで、ピペットチップ95の先端部が回転中心から偏在していたとしても、ピペットチップ95の先端部からそれぞれのマイクロ流路23までの距離が略等距離に近似され、複数のマイクロ流路23へ導入される液体の導入確率も略等しくなる。このことにより、複数のマイクロ流路23の一部の流路に液体が適切に導入されなくなるといった不具合が防止される。分注ノズル92の先端部が使い捨てのピペットチップ95で構成されている場合等、その形状の精度や取付状態が注入処理に与える影響を効果的に抑制することができるので特に有効である。
【0070】
分注ユニット90による分析チップ10への液体の注入は、液体の注入量によって適宜の方法を用いることができる。例えば、注入の時間を短縮するために段階的でなく一度に所定量を注入し、あるいは注入する速度を変化させてもよい。
【0071】
次に、エアノズルユニット100について説明する。エアノズルユニット100は、分析チップ10のマイクロ流路23に回転による遠心力だけでは排出されず残留した液体を、エアによって液体捕捉空間16に補助的に排出するためのものである。エアノズルユニット100は、チップホルダ回転ユニット54の上方に配置される。
【0072】
エアノズルユニット100は、エアノズル101と、エアノズル移動機構102と、を備える。本実施形態では、エアノズルユニット100によるエアの注入は、チップホルダ53を排液速度で回転させながら行われる。
【0073】
エアノズル移動機構102は、エアノズル101をエア注入位置と、待機位置と、の間で移動させるためのものである。エアノズル101は、エアノズル移動機構102によってエア注入位置と待機位置との間を移動する。
【0074】
エア注入位置は、分析チップ10の注入口22にエアを注入する位置であり、エアノズル101の先端部が分析チップ10の注入口22に対向する位置である。本実施形態では、待機位置は、エアノズルユニット100によるエア注入が行われていないときの位置であり、エアノズル101の先端部がエア注入位置よりも上方であって、注入口22に対向していない位置である。
【0075】
エア注入位置でのエア注入は、チップホルダ53が排液速度で回転している状態で行われる。分析チップ10の内部では、注入口22から注入されたエアによって、マイクロ流路23の内部に残留していた液体が液体捕捉空間16に排出される。液体が毛細管現象によりマイクロ流路23内に残留している場合でも、エアノズルユニット100から注入されるエアによりこれらの残留液体をマイクロ流路23から確実に取り除くことができる。液体捕捉空間16に排出された液体は吸収体15に吸収され、マイクロ流路23を出たエアはエア連通口17を通って分析チップ10の系外に排出される。前述のように、分析チップ10は、
図3において、エア連通口17が、マイクロ流路23の出口よりも径方向内側に形成されていることにより、マイクロ流路23から排出される液体がエア連通口17より分析チップ10の系外への排出を防止するとともにエアを分析チップ10の系外に排出することが可能となる。
【0076】
また、本実施形態では、チップホルダ53の回転開始後にエア注入が行われる。これにより、遠心力により予め大部分の液体がマイクロ流路23から排出されたのちにエアが注入される。エアの注入のみの場合、特定のマイクロ流路23の液体の排出が先行して完了してしまうとエアがその排出経路のみに集中してしまい、残りのマイクロ流路の液体を排出できないことがあるが、チップホルダ53の回転による遠心力によって予め大部分の液体が排出されているので、このような不具合を避けることができる。このように、本実施形態の構成によれば、複数のマイクロ流路23の全ての排液を効率的に行うことが可能である。
【0077】
次に、試薬ホルダユニット58について説明する。試薬ホルダユニット58は、試薬カートリッジ96と、ピペットチップ95と、をセットするためのものである。
【0078】
試薬カートリッジ96は、ブロック液、検体、発光基質及び洗浄液等の分析チップ10に注入する複数種類の対象液体を収容するためのものである。また、試薬カートリッジ96には、未使用のピペットチップ95が複数セットされている。本実施形態の試薬ホルダユニット58には、試薬カートリッジ96を着脱可能にセットするためのセット部が設けられており(図示省略)、試薬カートリッジ96は、このセット部に固定される。
【0079】
ピペットチップ95は、分注ユニット90の分注ノズル92に取り付けられる。ピペットチップ95は、注入すべき液体ごとに取り換えられる使い捨て式のものである。本実施形態の試薬ホルダユニット58は、使用済みのピペットチップ95を収容する廃棄収容部97と、ピペットチップ取り外し機構(図示省略)と、を備える。ピペットチップ取り外し機構は、使用済みのピペットチップ95を分注ノズル92から取り外すためのものである。
【0080】
次に、制御ユニット110について説明する。制御ユニット110は、CPU、記憶部としてのメモリ等で構成されるコンピュータである。
図12に示すように、制御ユニット110には、タッチパネル52、チップホルダ回転ユニット54、測定ユニット80、分注ユニット90、エアノズルユニット100等が電気的に接続されている。前述のように各ユニットの諸動作の全部又は一部がこの制御ユニット110の信号によってなされる。即ち、チップホルダ53の回転速度制御、チップホルダ回転ユニット54の移動、分注ユニット90の移動及び分注処理、エアノズルユニット100のエア注入、測定ユニット80による撮像、及び調温装置による加温等の生化学分析装置50のシーケンス制御等である。また、制御ユニット110は、画像処理、検査条件の設定、保存及び分析データの出力等も行う。また、制御ユニット110が測定ユニット80を制御するといった場合は、カメラユニット83、チップホルダ移動機構82及びLEDユニット等の各構成の制御を行うことを含む。更に、チップホルダ回転ユニット54、分注ユニット90、エアノズルユニット100及び試薬ホルダユニット58について制御する場合、各構成の移動機構の制御等も含む。
【0081】
本実施形態では、抗原抗体反応の測定は、前述のように、測定位置での発光反応をカメラユニット83によって撮像し、取得した画像情報に基づき行われる。
【0082】
この画像情報から、その発光反応を示す抗原30から特定物質への反応特異性を得られ、その発光強度から反応特異性の強度等の情報が得られる。
【0083】
本実施形態の生化学分析装置50は、以上のように構成される。次に、本実施形態の生化学分析装置50による測定の流れについて説明する。
図14は、本発明の一実施形態に係る生化学分析装置50による測定分析のフローチャートである。
【0084】
生化学分析装置50の使用者は、分析チップ10をチップホルダ53にセットするとともに、検体、試薬溶液、洗浄液及びピペットチップ95等が収容された試薬カートリッジを試薬ホルダユニット58にセットする。次に、使用者は、タッチパネル52を操作して生化学分析装置50の測定を開始する。制御ユニット110は、タッチパネルから測定開始の信号を受信すると、ステップS101のブロック液注入から順次測定の制御を開始する。
【0085】
まず、マイクロ流路内の抗原30以外の部分への抗体その他の、非特異吸着を防止するためのブロック液注入(S101)が行われる。ブロック液注入(S101)は、チップホルダ53を注入回転速度で回転させた状態で分注ユニット90によって分析チップ10の注入口22からブロック液が注入されることで行われる。注入口22から注入されたブロック液は、注入口22から放射状に形成された複数のマイクロ流路23内で前述の毛細管現象によりマイクロ流路23全体に導入される。ピペットチップ95が取り外された後、注入されたブロック液がマイクロ流路23内の抗原30以外の部分に充分に定着されるためのプレインキュベーションの処理(S102)が行われる。
【0086】
プレインキュベーション(S102)は、チップホルダ53を、調温室を兼ねる暗箱81の内部に移動させて行われる。所定の時間のプレインキュベーション処理(S102)後、チップホルダ53を暗箱81の外部に戻し、検体注入(S104)を行うために、ブロック液をマイクロ流路23外へ排出してマイクロ流路23内を開放するための排液処理(S103)が行われる。
【0087】
排液処理(S103)は、チップホルダ回転ユニット54の駆動によりチップホルダ53が排液速度で回転されるとともに、エアノズルユニット100により分析チップ10の注入口22からエアを注入することで行われる。
【0088】
マイクロ流路23は、回転中心から外縁方向に形成されており、残留ブロック液は遠心力によりマイクロ流路23の外縁外側の液体捕捉空間16に移動排出されるとともに、更にエアによりほぼ確実に液体捕捉空間16へ排出される。以上のように、毛細管現象によって強い表面張力を生じるマイクロ流路23にあっても、排液処理を迅速かつ効果的に行うことができる。
【0089】
マイクロ流路23から排出されたブロック液は、液体捕捉空間16で吸収体15に吸収される。本実施形態の分析チップ10は、マイクロ流路23から排出された液体を、液体捕捉空間16に設けられた吸収体15によって吸収することによって対象液体の分析チップ10の系外への排出を確実に防止できる。また、液体捕捉空間16に排出された対象液体は、吸収体15に吸収されることで、マイクロ流路23から排出された対象液が再びマイクロ流路23に逆流することがなく、これ以降の処理が適切に行われる。
【0090】
検体注入(S104)は、チップホルダ53が注入回転速度で回転している状態で分析チップ10に検体が注入されることで行われる。ブロック液注入(S101)と同様に、注入口22より注入された検体は毛細管現象により複数のマイクロ流路23内に均等に導入される。検体注入(S104)処理の後、抗原30と検体との抗原抗体反応を促進するためのインキュベーションの処理(S105)が行われる。
【0091】
インキュベーション(S105)は、チップホルダ53をプレインキュベーション処理(S102)と同様に調温室を兼ねる暗箱81の内部に移動させ、調温装置により所定時間調温されることでインキュベーションが行われる。
【0092】
分析チップ10の吸収体15にはブロック液の排液処理(S103)によりブロック液がすでに吸収されており、分析チップ10の内部は保湿された状態になっている。これにより、インキュベーション(S105)中のマイクロ流路23の内部の乾燥が防止される。その後、チップホルダ53が暗箱81の外部に取り出され、検体の排液処理(S106)が行われる。
【0093】
検体の排液処理(S106)は、ブロック液の排液処理(S103)と同様に、チップホルダ53の排液速度での回転とともに、エアノズルユニット100によるエア注入を行うことでなされる。この排液処理(S106)によりマイクロ流路23内の検体が液体捕捉空間16に排出され、吸収体15に吸収される。この検体の排液処理によってマイクロ流路23内が開放されたのち洗浄処理(S107)が行われる。
【0094】
洗浄処理(S107)は、ブロック液注入(S101)と同じくチップホルダ53の注入回転速度での回転とともに分析チップ10の注入口22から洗浄液が注入され、注入口22から放射状に形成された複数のマイクロ流路23に導入されることで行われる。次に、ブロック液の排液処理(S103)と同様に、チップホルダ回転ユニット54による排液速度でのチップホルダ53の回転とともに、エアノズルユニット100によるエアの注入が行われることで、洗浄液の排液処理が行われる。このように洗浄液の注入と排液による洗浄処理によって、基板20の複数のマイクロ流路に残留している液体が洗浄液とともに排出される。この洗浄液についても液体捕捉空間16に設けられた吸収体15に吸収される。この洗浄処理(S107)の後、最終的な発光測定処理のための発光基質を、インキュベーション(S105)によって抗原抗体反応が成された抗原30へ付加するために、発光基質を酵素反応によって導く標識抗体注入(S108)が行われる。
【0095】
標識抗体注入(S108)は、ブロック液注入(S101)及び検体注入(S104)、あるいは洗浄液注入(S107)と同様に、チップホルダ53を注入回転速度で回転させながら標識抗体が注入されることで行われる。標識抗体の注入後、抗原抗体反応を促進するためのインキュベーション(S105)と同様に、抗原抗体反応がなされた抗原30に標識抗体を確実に付加するためのインキュベーション(S109)が行われる。次に、標識抗体の排液処理(S110)が行われる。
【0096】
標識抗体の洗浄処理(S111)は、ステップS107の洗浄処理と同様の処理であり、洗浄液の注入と排液を行うことでなされる。洗浄液の注入と排液からなるこの洗浄処理(S111)は、必要に応じて複数回繰り返されることでより確実な洗浄効果を得る。洗浄処理(S111)の後、発光基質注入(S112)の処理が行われる。
【0097】
発光基質注入(S112)は、ブロック液注入(S101)及び検体注入(S104)、あるいは洗浄液注入(S107)と同様に、注入回転速度で回転するチップホルダ53に発光基質が注入されることで行われる。発光基質の注入(S112)後、測定処理(S113)が行われる。
【0098】
測定処理(S113)は、測定ユニット80のカメラユニット83により分析チップ10を撮像することで行われる。なお、測定結果である各抗原30の発光の有無、及びその発光強度をタッチパネル52等に表示、あるいは制御ユニット110の記憶部に蓄積し、又は有線や無線通信で接続される外部のコンピュータに送信、もしくは、プリンタ等の出力装置から出力することもできる。
【0099】
判定処理(S114)は、全ての種類(本実施形態では40種類)の抗原30について行われる。この判定処理(S114)では、測定処理(S113)の測定結果から発光反応を生じている抗原30の種類により、検体の各抗原30に対する反応特異性を判断し、その発光強度から反応特異性の強度を判断する。以上説明して来た通り、本実施形態の分析チップ10及び生化学分析装置50により、40種類の多数の項目の一括同時測定を短時間で行なうことができる。
【0100】
以上、説明した本実施形態の分析チップ10によれば以下の効果がある。
本実施形態の分析チップ10は、略円板状に形成される基板20と、基板20の中央に形成され、測定対象である対象液体が注入される注入口22と、注入口22から基板20の外縁まで放射状に形成され、毛細管現象を利用して対象液体を導入させることが可能な複数のマイクロ流路23と、を備え、それぞれのマイクロ流路23には、対象液体の成分に対し、選択的に反応する複数種類の抗原30が間隔を以て複数固定化される。これにより、1つのマイクロ流路23に複数種類の抗原30が固定化されているので、必要な対象液体の量を抑制しつつ、複数項目の測定を一度に行うことができる。また、マイクロ流路23が放射状に形成されているので、遠心力を利用してマイクロ流路23に残留する対象液体をマイクロ流路23から排出することができる。本実施形態のように、測定処理の過程で複数の種類の液体を注入、排液する処理を複数回繰り返すような試料分析において、特に有効である。
【0101】
分析チップ10は、抗原30は、スポット状にマイクロ流路23に固定化される。これにより、限られた面積の中で多くの抗原30を配置することができる。
【0102】
分析チップ10は、抗原30は、上面が平坦な薄膜状にマイクロ流路23に固定化される。これにより、カメラユニット83によって分析チップ10をその上方から撮像することで画像情報を取得するために、抗原30の上面がマイクロ流路23と略直交方向に、発光反応による主たる照射方向(光軸)を設けられるため他の発光している抗原30との干渉が防止され、発光反応の撮像を良好に行うことができる。
【0103】
分析チップ10は、基板20を内部に配置収納する下側ハウジング12及び上側ハウジング13によって構成されるハウジングを更に備え、ハウジングは、基板20の上面の少なくとも一部が露出する開口部18と、ハウジングの内部であって、基板20の外周側に位置する液体捕捉空間16と、を有する。これにより、ハウジングの内部の液体捕捉空間16でマイクロ流路23から排出される対象液体が分析チップ10の系外へ排出されるのを防ぎつつ、開口部18によって基板20の上方からの液体の注入やカメラユニット83による撮像を可能にすることができる。また、次のように言うこともできる。本実施形態の分析チップ10は、基板20の径よりも大きい径で形成される下側ハウジング12と、開口部18を有するとともに、基板20の径よりも大きい径で形成される上側ハウジング13と、基板20の外周側に下側ハウジング12と上側ハウジング13とによって、形成される液体捕捉空間16と、を更に備える。これにより、マイクロ流路23から排出された対象液体は、液体捕捉空間16に捕捉されるので、対象液体の分析チップ10の外部への流出を防止される。特に生化学分析装置50の場合、生体より採取した検体が生化学分析装置50の内外部への拡散、漏出は回避しなければならないため、特に有効である。
【0104】
分析チップ10は、液体捕捉空間16に配置され、吸湿性を有する部材で構成される吸収体15を更に備える。これにより、液体捕捉空間16に排出された対象液体が吸収体15に吸収されるので、液体捕捉空間16、及び基板20内のマイクロ流路23の保湿効果をもたらすとともに、マイクロ流路23から排出された対象液体のマイクロ流路23内への逆流も防止される。
【0105】
また、分析チップ10は、開口部18の周囲であって基板20における上面(開口部18側の面)と上側ハウジング13との間に形成されるエア連通口17と、を備える。これにより、エアノズルユニット100により注入口22からマイクロ流路23を経てエア連通口17まで気道が確保され、注入口22へのエア注入によりマイクロ流路23内の液体をマイクロ流路23の外に効果的に排出することができる。
【0106】
また、分析チップ10の注入口22は、基板20の略中心に形成される。これにより、注入口22に接続される複数のマイクロ流路23に略均等に液体を導入することができる。
【0107】
また、分析チップ10のマイクロ流路23は、注入口22から基板20の外縁まで放射状に形成される。これにより、チップホルダ53の回転による遠心力を利用して、マイクロ流路23内の液体を遠心力を利用して効果的に行うことができる。
【0108】
また、分析チップ10のエア連通口17は、基板20の外縁に形成されたマイクロ流路23の液体捕捉空間16への液体排出開口よりも径方向内側に配置される。即ち、エア連通口17の位置がマイクロ流路23の出口(径方向外側の開口部)よりも径方向内側になり、マイクロ流路23から径方向の外側に排出された液体のエア連通口17からの分析チップ10の外部への漏出が防止される。
【0109】
以上、説明した本実施形態の生化学分析装置50によれば以下の効果がある。
生化学分析装置50は、分析チップ10を設置可能なチップホルダ53と、チップホルダ53を回転させるチップホルダ回転ユニット54と、分析チップ10の注入口22に対象液体を注入する分注ユニット90と、対象液体と複数種類の抗原30のそれぞれの反応を一括して測定可能な測定ユニット80と、を備え、チップホルダ53をチップホルダ回転ユニット54によって回転させて、マイクロ流路23に導入した対象液体を排出する。これにより、強い表面張力を有する対象液体を、マイクロ流路23を用いて分析する分析装置にあって、迅速かつ確実に対象液体の排出を行うことができる。
【0110】
生化学分析装置50は、チップホルダ53が、分析チップ10を嵌合するための嵌合部531を備える。これにより、分析チップ10をチップホルダ53に確実に固定することができ、回転中に遠心力で分析チップ10のチップホルダ53からの脱落を防止する。
【0111】
また、チップホルダ53にセットされた分析チップ10を所定速度で適切に回転させることができる。また、本実施形態のように一定の温度下でのインキュベーションが必要な分析装置にあっては、調温手段を有するチップホルダ53への分析チップ10の設置は、分析チップ10とチップホルダ53との接触面積がより大きく得られることで、より確実な温調制御が可能となる。
【0112】
また、生化学分析装置50は、チップホルダ53をチップホルダ回転ユニット54により回転させて分注ユニット90による対象液体の注入を行う。これにより、注入口22に接続される複数のマイクロ流路23に均等に液体を導入できるので、一部のマイクロ流路23に導入される液体が偏ったり、一部のマイクロ流路23に必要な量の対象液体が導入されなかったりする事態を防止できる。従って、液体注入位置において、分注ノズル92の先端部(ピペットチップ95の先端)が回転中心からずれていたとしても、あるいは分析チップ10が水平に設置されていなかったとしても、注入処理において、マイクロ流路23の液体の導入口までの距離が回転によって略均一な距離となるので、ピペットチップ95の形状の精度誤差や取付状態が与える注入処理への影響が低減され、適切な注入処理が得られる。
【0113】
また、生化学分析装置50は、分注ユニット90は、先細状に形成されるピペットチップ95を有し、このピペットチップ95が、注入口22に挿入された状態で分注ユニット90による対象液体の注入を行う。これにより、対象液体が基板20の上面周辺に飛散したり液滴による対象液体の注入口22の閉塞が防止され、対象液体の注入口22からマイクロ流路23への迅速な導入が可能となっている。
【0114】
また、生化学分析装置50は、注入口22にエアを注入するエアノズルユニット100を備える。これにより、チップホルダ53の回転と併せ、エアによって分析チップ10に形成されたマイクロ流路23内の対象液体を確実に排出することができる。
【0115】
また、生化学分析装置50は、チップホルダ53を回転させながらエアノズルユニット100による分析チップ10へのエアの注入を行う。これにより、対象液体がマイクロ流路23内に強い表面張力によってマイクロ流路23の内に滞留していても、エアノズルユニット100から注入されるエアによりこれらの対象液体をマイクロ流路23から確実に排出できる。
【0116】
以上、本発明の分析チップ10及び生化学分析装置50の好ましい一実施形態について説明したが、本発明は、これら実施形態に示された個々の形態に制限されるものではなく、本発明の思想に基づく様々な変更が可能であることは言うまでもない。
【0117】
本実施形態では、液体注入位置をピペットチップ95の先端がチップホルダ53の回転中心と略一致する位置に液体注入位置を設定する構成であるが、液体注入位置の設定は適宜変更することができる。次に、液体注入位置を、対象液体を注入するピペットチップ95の先端がチップホルダ53の回転中心から外れた位置に設定した変形例について説明する。
図15は、変形例の生化学分析装置が備える分注ユニット90による分析チップ10への対象液体の注入時の状態を概略的に示した模式図である。なお、
図15では、分析チップ10の基板20を除く構成の図示を省略している。また、生化学分析装置50が備えるチップホルダ53等の構成の図示も省略している。
【0118】
図15に示すように、変形例では、分注液を注入するピペットチップ95の先端側がチップホルダ53の回転中心から外れた位置に設定する。以下のように言い換えることもできる。前述のように、本実施形態の分析チップ10が備える基板20は、注入口22を中心として放射状に複数のマイクロ流路23を有する構成である。そして、注入口22の中心からマイクロ流路23の入口までは、各マイクロ流路23で等距離位置になっている。変形例の液体注入位置は、この等距離位置から外れた位置に設定される。なお、この液体注入位置では、ピペットチップ95の先端から分注された液体が注入口22の内側面に接触するように、ピペットチップ95が注入口22に近接配置されている。また、液体注入位置のピペットチップ95の先端は、基板20の上面よりも下側に位置するとともに、注入口22の底面との間に隙間が形成されるように設定されている。回転中のチップホルダ53にピペットチップ95の先端を液体注入位置にした状態で分注を行う。液体注入位置では、ピペットチップ95の先端側が予め注入口22の内側面の近傍に位置しているので、注入口22の内側面に形成される複数のマイクロ流路23の入口に均等かつ適切に液体を注入することができる。
【0119】
次に、上記実施形態の分析チップ10とは異なる構成の分析チップ210を用いた変形例について説明する。
図16は、変形例の分析チップ210を示す平面図である。
図17は、変形例の分析チップ210の内部の構成を模式的に示す側面断面図である。なお、当該分析チップ210が用いられる生化学分析装置50は、上記実施形態と同様の構成のものを用いる。
【0120】
変形例の分析チップ210は、第1基板220と、第2基板230と、吸収体215と、液体捕捉空間216と、エア連通口217と、回転位置基準マーク250と、を備える。
【0121】
第1基板220は、円板状に形成されている。この第1基板220の中央には、円柱状の台部241が形成されている。また、第1基板220の端面には、全周にわたって壁部242が形成される。
【0122】
第2基板230は、透光性の材料により、円板状に形成されており、第1基板220の上部に接合される。第2基板230の中央には、各種の液体が注入される円形の注入口222が形成される。注入口222は、台部241の径よりも小さい径で形成されている。従って、注入口222は、平面視において、台部241よりも内側に収まっている。また、第2基板230における注入口222の下部は、側面視において、第1基板220の台部241に近づくにつれて径方向に拡がるテーパ状に形成される。
【0123】
第1基板220の台部241の上面と第2基板230の下面の間には、注入口222から注入された液体が毛細管現象を利用して導入される隙間が形成される。この隙間は、注入口222の外周の全域に形成される。この隙間が分析チップ210の流路255となる。このように、分析チップ210の流路255は、注入口222の外周を囲うリング状に形成されている。従って、本変形例の分析チップ210の流路255は、単一の流路255と表現することもできる。
【0124】
本変形例では、複数種類の抗原30が、流路255の台部241側に固定化されている。注入口222を囲う同心円状に複数種類の抗原30が所定の間隔をあけて配置される。抗原30は、径方向において、少なくともその中心が重ならないように配列されている。これにより、抗原30と抗原30の間の距離が適切に保たれ、発光反応を精度良く撮像することが可能になっている。
【0125】
なお、抗原30の固定化の仕方は、同心円状に配列する方法に限定されない。例えば、変形例の分析チップ210が備える流路255に不規則に複数種類の抗原30を配置する構成としてもよい。また、流路255の一部に仕切りを設けて、流路255を扇形状に分割する構成としてもよい。更に、抗原30を流路255の第2基板230側に固定化してもよい。このように、抗原30の配置方法は、本変形例においても適宜変更することができる。
【0126】
吸収体215は、保湿性のある部材で構成されており、台部241の径よりも大きいリング状に形成される。液体捕捉空間216は、分析チップ210の内部空間において、台部241の外周面の周囲に形成される空間である。吸収体215は、この液体捕捉空間216に台部241の外周面を囲う形で配置される。分析チップ210の回転による遠心力又はエアノズルユニット100によるエアの注入により、流路255から排出された対象液体は、液体捕捉空間216に排出され、吸収体215に吸収される。
【0127】
エア連通口217は、平面視において、台部241よりも外側に複数形成される。このエア連通口217を通じてエアノズルユニット100によって注入されたエアが分析チップ210の内部から外部に排出される。また、複数のエア連通口217の一であるエア連通口217aが、分析チップ210の中心と回転位置基準マーク250を結ぶ仮想直線上に位置しており、エア連通口217aが回転位置基準マーク250に隣接する位置関係となっている。
【0128】
回転位置基準マーク250は、分析チップ210の向きを検出するための標識であり、第1基板220に設けられる。本変形例の回転位置基準マーク250は、台部241の縁に1箇所設けられており、その形状は半円形状になっている。なお、回転位置基準マーク250の数、配置場所及び形状は、適宜変更することができる。例えば、第2基板230に回転位置基準マーク250を設けることができる。
【0129】
回転位置基準マーク250は、回転位置を特定するための分析チップ210の形状の情報である配置状態判定情報として制御ユニット110の記憶部に予め記憶される。そして、制御ユニット110は、測定ユニット80が取得した画像情報の回転位置基準マーク250の位置と、配置状態判定情報と、に基づいて回転後の分析チップ210の向きを判定する。
【0130】
また、本変形例では、位置決めノッチ280が、第1基板220及び第2基板230のそれぞれに形成される。この位置決めノッチ280は、分析チップ210の製造工程において、第1基板220と第2基板230を接着する際の位置決めに用いられる。本変形例の位置決めノッチ280は、分析チップ210の中心を挟んで対向する位置に形成される。第1基板220及び第2基板230のそれぞれに形成される位置決めノッチ280によって、第1基板220と第2基板230が適切な位置で接着される。また、第2基板230に形成されるエア連通口217aが回転位置基準マーク250に隣接しているので、エア連通口217aによっても適切な位置か否かを確認することができる。
【0131】
変形例の分析チップ210は、以上のように構成される。そして、当該分析チップ210を用いて生化学分析装置50による対象液体の分析が行われる。検体等の対象液体は、注入口222を通じて流路255に進入し、表面張力を利用して流路255の中を内側から外側に導入するのである。
【0132】
分析チップ210への検体等の対象液体の注入方法及び抗原30の反応の測定方法については同様である。本変形例では、回転位置基準マーク250に基づいて分析チップ210の回転後の向きを正確に判定することができる。そして、分析チップ210に固定化された複数種類の抗原30の位置情報に基づいて各反応の種類を測定するのである。この抗原30の位置情報は、予め設定される情報である。
【0133】
以上、説明したように、分析チップ210は、流路255が注入口222の外周を囲うように形成される。これにより、注入口222の周囲のスペースを活用し、多くの種類の抗原30を配置することができる。また、注入口222の周囲が流路255となるシンプルな構成なので、製造コストの低減を達成することができる。
【0134】
また、変形例の分析チップ210は、その構成を適宜変更することができる。例えば、分析チップ210が、第1基板220及び第2基板230を保持するハウジングを備える構成としてもよい。この場合、第1基板220の壁部242を省略し、ハウジングの内部であって、第1基板及び第2基板の外周に液体捕捉空間を配置することもできる。また、変形例の分析チップ210が、上記実施形態と同様のハウジング(下側ハウジング12及び上側ハウジング13)を備える構成とし、ハウジングと第2基板の隙間にエア連通口を設ける構成としてもよい。
【0135】
本実施形態の生化学分析装置50は、チップホルダ回転ユニット54は、その内部に調温装置を備える構成であるが、調温装置の配置場所は適宜変更することができる。例えば、暗箱81の内部に調温装置を備える構成としてもよい。また、チップホルダ回転ユニット54に調温装置を配置するとともに、暗箱81にも調温装置を配置し、複数の調温装置によって分析チップ10を調温する構成とすることもできる。
【0136】
本実施形態の生化学分析装置50は、測定位置の分析チップ10のマイクロ流路23に設置された抗原30の測定方法は、適宜の方法を採用することができる。例えば、チップホルダ53を回転させるための駆動モータの回転数に基づき分析チップ10の回転操作後の抗原30の配置状態を推定、判断して反応を測定することができる。
【0137】
本実施形態の生化学分析装置50は、分注ユニット90による対象液体の吸引量は、対象液体の種類に応じて設定されているが、この構成は適宜変更することができる。例えば、試薬溶液の濃度を調整し、吸引量(又は分析チップ10に注入する注入量)を一定とすることができる。
【0138】
本実施形態の生化学分析装置50は、排液処理でエアノズルユニット100によるエア注入を行う構成であるが、分析対象となる検体等に応じてこのエア注入処理を省略しても良い。
【0139】
本実施形態の分析チップ10の構成は、基板20に対象液体の反応物質として抗原30が固定化されているが、抗体を固定化することもできる。このように、分析チップの基板に固定化される反応物質は、対象液体と反応する物質であれば適宜変更できる。
【0140】
本実施形態の分析チップ10の構成は、本実施形態の構成に制限されるわけではなく、適宜変更することができる。例えば、マイクロ流路23を非対称な位置に配置することもできる。
【0141】
本実施形態の分析チップ10の構成は、液体捕捉空間16に吸収体15を配置する構成であるが、この構成は適宜変更することができる。例えば、液体捕捉空間16に液体をトラップする構造を設け、このトラップ構造によりマイクロ流路23から排出された液体が再びマイクロ流路23に戻る事態を防止する構成としてもよい。また、液体捕捉空間16の底面に無数のスリットを形成し、マイクロ流路23から排出された液体がこのスリットによって液体捕捉空間16に留まるように構成してもよい。また、吸収体15を分析チップ10の構成から省略することもできる。このように、液体捕捉空間16に液体を捕捉しておくための構成は適宜変更することができる。
【0142】
本実施形態の分析チップ10が備える基板20の構成は、本実施形態の構成に制限されるわけではなく、基板は複数の部材で構成することもできる。例えば、本実施形態の基板20の下面に配置されるフィルム14に代えて略円板状の基板を固定することで、マイクロ流路23を形成する構成とすることもできる。このように、基板20の構成は、適宜の構成を採用することができる。
【0143】
本実施形態では、試料分析装置として生化学分析装置50を一例として説明してきたが、本発明は生化学分析装置50に制限されるわけではなく、各種の試料分析装置に適用することができる。例えば、微量金属の検出を行う試料分析装置等にも本発明を適用することができる。