特許第6557740号(P6557740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557740カルシウム阻害に関するCREAセンサの補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557740
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】カルシウム阻害に関するCREAセンサの補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20190729BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20190729BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20190729BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   G01N27/26 381A
   G01N27/416 336J
   G01N27/416 336C
   C12Q1/26
   C12Q1/34
【請求項の数】18
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-564592(P2017-564592)
(86)(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公表番号】特表2018-518681(P2018-518681A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】EP2016064182
(87)【国際公開番号】WO2017005479
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2017年12月12日
(31)【優先権主張番号】PA201500384
(32)【優先日】2015年7月6日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】500554782
【氏名又は名称】ラジオメーター・メディカル・アー・ペー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】ハンスン,トマス・スティーン
(72)【発明者】
【氏名】ニュゴー,トマス・ピーダスン
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6397134(JP,B2)
【文献】 特表2004−506224(JP,A)
【文献】 特表2008−541104(JP,A)
【文献】 特表2000−507457(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0181189(US,A1)
【文献】 特開2009−271075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
A61B 5/1468
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の酵素モジュレーターを含有するサンプル中のクレアチン及び/又はクレアチニン濃度を測定し、酵素層を備えるデバイスを較正する方法であって、
1つ以上の較正溶液の各々に対する前記デバイスの感度を決定する工程、
測定すべき前記サンプルに対する調節の程度を決定する工程、及び
較正溶液の各々に対する調節の程度を決定する工程を含み、
前記調節の程度の各々を決定する前記工程は、前記デバイスの前記酵素層内における酵素モジュレーターの濃度を推定する工程、及び
前記デバイスの前記サンプルへの前記感度を算出する工程を含み、算出する前記工程は、前記サンプル及び前記較正溶液の前記決定された調節の程度を含む因子によって、較正溶液の各々に対する前記デバイスの前記感度を調整する工程を含む方法。
【請求項2】
前記サンプルに対する調節の程度を決定する前記工程に先立って、前記デバイス内に先のサンプルを吸引する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記先のサンプルを吸引してから前記サンプル中のクレアチニンの濃度を測定するまでの時間は、2分未満、及び好ましくは1分である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素モジュレーターの濃度を推定する工程は、前記先のサンプルを吸引してからの経過時間を決定する工程を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素モジュレーターの濃度を推定する工程は、前記デバイスの、前記酵素層内における酵素モジュレーターの、前記決定された時間での濃度変化を推定する工程を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記濃度変化を推定する工程は、指数関数型減衰項を評価する工程を含み、前記指数関数型減衰項の時定数は、酵素モジュレーターが前記酵素層の内部へ、又は外部へ移動する速度に関係している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルに対する前記調節の程度を決定する前記工程に先立って、
前記先のサンプルを吸引した後に、前記酵素層内部における酵素モジュレーターの先の濃度を推定する工程を更に含み、
前記調節の程度を決定する前記工程では、前記先の濃度を使用する、請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプル中の酵素モジュレーターの濃度を測定する工程を更に含み、
前記サンプルに対する前記調節の程度を決定する前記工程では、前記サンプルの酵素モジュレーターの濃度を使用する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各較正溶液中の酵素モジュレーターの濃度を受け付ける工程を更に含み、
前記較正溶液に対する前記調節の程度を決定する前記工程では、各較正溶液の酵素モジュレーターの、1つ以上の濃度を使用する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプルに対する調節の程度を決定する前記工程に先立って、前記デバイス内のすすぎを行う工程を更に含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記すすぎで使用されるすすぎ溶液の酵素モジュレーターの濃度を受け付ける工程を更に含み、
前記調節の程度を決定する前記工程は、すすぎ溶液の酵素モジュレーターの濃度を使用する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1種以上の酵素モジュレーターは、Ca2+,Mg2+、及びその塩類である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記1種以上の酵素モジュレーターは、酵素活性を阻害する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記デバイスの各較正溶液に対する前記感度を決定する前記工程は、前記較正溶液内での前記デバイスの出力値と、前記較正溶液内のクレアチニン及び/又はクレアチンの濃度の比を算出する工程を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記因子は、異なる量の酵素モジュレーターを有する2つの較正溶液の、2つの前記決定した感度の比を更に含、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記デバイスがクレアチン及び/又はクレアチニンセンサである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
命令を含むコンピュータ可読媒体であって、前記命令が、電子デバイスの1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、前記電子デバイスを、請求項1〜16のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる、コンピュータ可読媒体。
【請求項18】
電子デバイスであって、
1つ以上のプロセッサと、
前記プロセッサのうちの1つ以上によって実行されたときに、前記電子デバイスを請求項1〜16のいずれか一項に記載されている方法に従って動作させる命令を含むメモリと、を含む電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に酵素モジュレーターの存在下での、クレアチン及びクレアチニン測定デバイスの較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレアチニン(Crn)及びクレアチン(Cr)濃度の測定技術は、医療において、例えば、腎疾患をモニタリングする際、及び実演する運動選手をモニタリングする際に使用されている。水溶液中のCr濃度(cCr)及びCrn濃度(cCrn)は、電流測定によって求めることができる。cCrnの測定では2つのセンサ、すなわち、Crを検出するCreaAセンサ、並びにCrとCrnの両方を検出するCreaBセンサ、を使用することができる。cCrnは、CreaAセンサの測定値と、CreaBセンサの測定値の差に基づいている。
【0003】
センサは典型的には、Crn及びCrを電流測定システムにおいて検出することができる過酸化水素等の測定可能な生成物へと変換するための酵素を使用する。未知のサンプル中のcCrn及びcCrを十分に正確に測定するためには、CreaA及びCreaBセンサを、それらの実際の感度を決定するために較正しなければならない。
【0004】
しかしながら、サンプル中の酵素モジュレーターの存在により、センサ内の酵素の活性が調節(すなわち、増加又は減少)され、このことにより、センサの感度が調節される可能性がある。従って、測定されているサンプルとは異なる量又は種類の酵素モジュレーターを有する較正溶液で較正されたセンサは、不正確な結果をもたらす場合がある。
【0005】
酵素モジュレーターは、測定しているサンプル中に自然に発生する可能性があり、更に予測できない量で発生する場合がある。例えば、カルシウム(Ca2+)及び炭酸水素イオン(HCO)は、酵素阻害剤であり、血液に内因であり、異なる人々は各人の血液中に異なる濃度のモジュレーターを有するであろう。従って、これらのモジュレーターの存在は、得られる測定値に影響を及ぼし得る。
【0006】
更に、Ca2+等のいくつかのモジュレーターは、非常にゆっくりと、センサ内へと拡散する。そうすると、新規サンプルの測定を実行するときに、先のサンプルから残留するCa2+の影響により、結果にも影響を与え得る。拡散速度が遅い場合、前回のサンプルからの、任意の残留するモジュレーターを除去するには長時間のすすぎが必要となり、サンプル間のサイクルタイムを増大させることになる。
【0007】
従って、サイクルタイムをできる限り短く保つ一方で、センサ内における異なるレベルの酵素調節を考慮するためにCr及び/又はCrnセンサを較正する有効な方法が求められている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様では、本出願人は、1種以上の酵素モジュレーターを含むサンプル中のCr及び/又はCrn濃度を測定するデバイスの較正方法を可能にした。デバイスは酵素層を備え、該方法は、1つ以上の較正溶液の各々に対するデバイスの感度を決定する工程、測定すべきサンプルに対する調節の程度を決定する工程、較正溶液の各々に対する調節の程度を決定する工程を含む。なお、上述した調節の程度の各々を決定する工程は、該デバイスの酵素層内における酵素モジュレーターの濃度を推定する工程、及び該デバイスのサンプルに対する感度を算出する工程を含み、上述した算出する工程は、サンプル及び較正溶液への決定された調節の程度を含む因子によって、較正溶液の各々に対するデバイスの感度を調整する工程を含む。
【0009】
サンプル及び較正溶液中における調節の程度を決定することで、測定値を較正し、モジュレーターが読み取り値に有し得る任意の影響を補正することができ、このことにより、より正確な結果がもたらされる。所定のモジュレーターは較正デバイスの酵素層内に残存し得るため、結果に影響を及ぼし得る。従って、上述した調節の程度は、酵素層内に存在すると推定されるモジュレーターの濃度又は量を考慮し得る。
【0010】
いくつかの例示的実施形態では、サンプルに対する調節の程度を決定する工程に先立って、該方法は、デバイス中に先のサンプルを吸引する工程を更に含む。別の実施形態では、該方法は、あらかじめデバイス内に吸引されたサンプルに対して実施される。本提案の解決手段は、先のサンプルを吸引した場合に、これらのサンプルを吸引すると、各測定の合間に酵素層内に残存する酵素モジュレーターの濃度の増加がもたらされる可能性があるため、特に有益である。本提案の解決手段は、酵素層内の酵素モジュレーターの量を考慮しているので、該提案の解決手段は、特に先のサンプルを測定した後に測定を行うのに、非常に優れている。
【0011】
いくつかの例示的実施形態では、先のサンプルを吸引してからサンプル中のCrn濃度を測定するまでの時間は、2分未満、及び好ましくは1分である。2つのサンプル間の時間を短く(例えば2分又は1分未満等)保つことは、所定時間内に測定できるサンプル数が増加するので、有利であり得る。しかしながら、すすぎが短いと(例えば2分未満)と、結果の正確性に影響を及ぼすのに十分な酵素モジュレーターが残存している可能性がある。本提案の解決手段では、短いすすぎの後に酵素層内に残存する酵素モジュレーターの量を考慮している。本提案の解決手段により、酵素モジュレーターが酵素層内に残存していても、正確に測定を行うことが可能になる。
【0012】
いくつかの例示的実施形態では、上述した酵素モジュレーターの濃度を推定する工程は、先のサンプルを吸引してからの経過時間を決定する工程を含む。測定は必ずしも定常状態の間に実施しないので、酵素モジュレーターの量は時間依存であり得る。従って、前回のサンプル測定(及び、従って、前回の酵素モジュレーターの測定)から経過した時間を測定することによって、所定時間後に、残存している酵素モジュレーターの量を評価することが可能である。
【0013】
いくつかの例示的実施形態では、酵素モジュレーターの濃度を推定する工程は、該決定した時間での、デバイスの酵素層内における酵素モジュレーターの濃度変化を推定する工程を更に含む。
【0014】
いくつかの例示的実施形態では、上述した濃度変化を推定する工程は、指数関数型減衰項を評価する工程を含む。なお、該指数関数型減衰項の時定数は、酵素モジュレーターが酵素層の内部へ、又は外部へ移動する速度に関係している。
【0015】
いくつかの例示的実施形態では、サンプルに対する調節の程度を決定する工程に先立って、該方法は、先のサンプルを吸引した後に、酵素層内部における酵素モジュレーターの先の濃度を推定する工程を更に含む。なお、該調節の程度を決定する工程では、該先の濃度を使用する。
【0016】
いくつかの例示的実施形態では、該方法は、サンプル中の酵素モジュレーターの濃度を測定する工程を更に含む。なお、該サンプルに対する調節の程度を決定する工程では、該サンプルの酵素モジュレーターの濃度を使用する。
【0017】
いくつかの例示的実施形態では、該方法は、各較正溶液中の酵素モジュレーターの濃度を受け付ける工程を更に含む。なお、該較正溶液に対する調節の程度を決定する工程では、各較正溶液の酵素モジュレーターの、1つ以上の濃度を使用する。
【0018】
いくつかの例示的実施形態では、サンプルに対する調節の程度を決定する工程に先立って、該方法は、デバイス内のすすぎを行う工程を更に含む。
【0019】
いくつかの例示的実施形態では、該方法は、すすぎで使用するすすぎ溶液の酵素モジュレーターの濃度を受け付ける工程を更に含む。なお、調節の程度を決定する工程は、すすぎ溶液の酵素モジュレーターの濃度を使用する。
【0020】
いくつかの例示的実施形態では、該1種以上の酵素モジュレーターは、Ca2+、Mg2+、及びそれらの塩類を含む。
【0021】
いくつかの例示的実施形態では、該1種以上の酵素モジュレーターは、酵素活性を阻害する。
【0022】
いくつかの例示的実施形態では、上述の各較正溶液に対するデバイスの感度を決定する工程は、較正溶液でのデバイスの出力値と、較正溶液でのCr及び/又はCrnの濃度の比を算出する工程を含む。
【0023】
いくつかの例示的実施形態では、上述した因子は、2つの、上述した較正溶液への決定した感度(determined sensitivities of calibration solutions)の比を更に含む。なお、各較正溶液は、異なる量の酵素モジュレーターを有する。
【0024】
いくつかの例示的実施形態では、デバイスはCr及び/又はCrnセンサである。
【0025】
本発明の別の態様によると、コンピュータ可読媒体であって、電子デバイスの1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、該電子デバイスを、上述の方法のいずれかに従って動作させる命令を含むコンピュータ可読媒体が提供される。
【0026】
本発明の別の態様によると、1つ以上のプロセッサと、1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、電子デバイスを上述の方法のいずれかに従って動作させる命令を含むメモリと、を含む電子デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本提案の装置の実施例を、添付図面を参照して詳細に記述する。
図1】電流測定システムの実施例の概略図である。
図2】Crnが過酸化水素へと変換される酵素カスケードを説明する、一連の図である。
図3】本提案の方法の工程を要約したフロー図である。
図4】本提案の方法を使用した際の、改善された結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ここで、3電極電流測定システム101の概略図である図1を参照する。電流測定システムは少なくとも2つの電極、作用電極(WE)110並びに結合した対極及び参照電極(CE/RE)を有し得る。3電極電流測定システム101では、CE/RE電極の機能は、2つの別個の電極、参照電極(RE)111及び対極(CE)112へと分割される。電流測定システム101の実施例は、また、電流計120、電圧計121及び電圧源122並びに電解液140を含む。
【0029】
WE110は、そこで酸化反応が起こり、正に帯電する電極である。あるいは、WE110はそこで還元反応が起こり、負に帯電する電極であってもよい。RE111は典型的には、Ag/AgCl製であり、特に電流が流れていない場合は、安定な電位を維持することができる。従って、電流をWE110から電解液140に戻すためのCE112が必要である。電解液140及びサンプル150は、3つの電極間にイオンによる接続(ionic contact)をもたらす。膜130は、検体を、サンプル150から選択的に通過することができる物質へと選択的に変換する。電圧源122は、所望の還元又は酸化反応を維持するために必要な電位を印加し、電源122は電圧計121により制御される。電流計120は、流動する自由電子の尺度である電気回路を流れる発生した電流を測定する。
【0030】
図1に示す電流測定システムは例示的実施例であり、その他のいくつかの実施態様も想定される。例えば、電流測定システムは上述のように2電極システムとすることができる。
【0031】
電極鎖(electrode chain)を流れる電流は、WE110において酸化されている(又は還元されている)物質の濃度に比例する。理想的には、電流と濃度を関係づける比例定数が既知であるときは、任意の所与のサンプルの濃度を、その特定のサンプルにより生じる電流を測定することによって得ることができる。
【0032】
電流測定システムでの測定プロセスを示すために次のように想定する。サンプル150は、膜130内で選択的に化学種Aに変換される化学種Bを含有し、化学種AはWE110(陽極)においてAに酸化され得る。そして、電解質140はCE112(陰極)でXへと還元される化学種Xを含有する。膜130は化学種Aのみをサンプルから電解液140へと通過させるということもまた、想定する。
【0033】
適切な電位を電極間に印加するとき、Aは以下の反応に従ってWE110で酸化される。
A→A+e
【0034】
Aの酸化は電子の流れを生じさせる。電気回路を完成させるためには、電子を消費する還元反応が必要である。このため、化学種Xが以下の反応に従ってCE112で還元される。
X+e→X
【0035】
回路を流れる電流は、酸化されている検体の濃度に比例する。このため、化学種Xが過剰量であるとすれば、分析装置は自動的にサンプル中の検体の濃度を算出することができる。
【0036】
用語「センサ」とは図1にて示すような、サンプル150を除く完全な電流測定システムを意味する。
【0037】
Crnは水溶液(例えば血液)中では安定ではなく、可逆的にCrに変換される(スキーム1参照)。cCrを測定するために、Crセンサを使用する(CreaA)。cCrnを測定するために、一方のセンサ(CreaA)がCrのみを検出し、他方のセンサ(CreaB)がCrとCrnの両方を検出する、2センサシステムを使用することができる。差異測定を用いることで、cCrn値を得ることが可能である。
【化1】
【0038】
センサは少なくとも3つの機能層からなる多層膜130により保護されており、言い換えると、外膜層はCrn及びCr透過性であり、中間酵素層及び内膜層はH透過性である。以下、多層膜層130を、酵素層と称し得る。
【0039】
別の実施形態では、cCrnを、本質的にCrnに対する感度のみを有するセンサを使用して直接的に決定する。これは、Crに対して不透過性であるがCrnに対しては透過性である外膜を適用することによって行うことができる。
【0040】
測定システムは、また、各サンプル測定の合間にシステムを洗浄するすすぎ機構を含んでよい。例えば、すすぎ溶液をサンプルチャンバへと移し、サンプルチャンバ内又は膜内に残存する任意の残留物質をすすぎ落としてもよい。すすぎに要する時間は、典型的には、任意の残留物質を除去するのに要する所要時間によって決定される。酵素層の外への拡散がその他の物質よりもずっと遅い、Ca2+等の特定の残留物は、除去するのに、特に長い時間を要し得る。本提案の解決手段の実施形態では、本較正方法はすすぎによって除去されなかった任意の残留物質を考慮するように構成されているので、すすぎサイクルを全ての残留物を除去するのに十分長く行う必要はない。
【0041】
測定システムは、また、Ca2+、HCO及びpH等のモジュレーターの濃度の測定手段を含んでもよい。これらは、例えば、各使用の合間に測定システムをすすぐために使用するサンプル及び溶液中の、モジュレーターの濃度を測定するのに好適であり得る。すすぎ溶液中のモジュレーターの濃度は、すすぎ溶液と共に提供することができるので、すすぎ溶液の測定が必要ない場合がある。
【0042】
図2は、Cr及びCrnを過酸化水素に変換するための例示的酵素カスケードを示している。この例では、酵素クレアチナーゼ(クレアチンアミジノヒドロラーゼ)220、サルコシンオキシダーゼ230及びクレアチニナーゼ(クレアチニンアミドヒドロラーゼ)210が酵素カスケードで使用される。これらの酵素は、内膜層と外膜層の間に固定され、一方でCrn及びCr分子は外膜層中を拡散することができる。
【0043】
CreaAセンサは、反応202及び203に従ってCrを過酸化水素に変換することによって、Crを検出する。この変換を達成するために、CreaAセンサは、クレアチンアミジノヒドロラーゼ220及びサルコシンオキシダーゼ230を使用する。CreaAセンサでは、酵素カスケードは次のようにCrを変化させる。
【数1】
【0044】
CreaBセンサは、クレアチニンアミドヒドロラーゼ210、クレアチンアミジノヒドロラーゼ220、及びサルコシンオキシダーゼ230の3つの酵素全てを含むので、CrnとCrの両方を検出する。酵素カスケードでは、Crn/Crは反応201、202及び203を伴う。
【数2】
【0045】
CreaAとCreaBセンサの両方において、酵素反応は同一の最終生成物をもたらす。最終生成物の1つは、内膜層を越えてWE110(好ましく白金)へと拡散できる、Hである。CreaA及びCreaBセンサの電極鎖に十分に高い電位を印加することによって、HをPtアノード240で酸化することができる。
→2H+O+2e
【0046】
電気回路を完成させるために、電子はCE112における還元反応で消費され、それによって、WE110、CE112間の電荷バランスが保たれる。
【0047】
を酸化すると、Hの量に比例する電流(I)が生じ、ひいては、センサ応答モデルに従い、CreaAセンサでのCrの量並びにCreaBセンサでのCr及びCrnの量に直接関係づけられる。
【数3】
【0048】
式中、I及びIはそれぞれCreaAセンサ及びCreaBセンサで生じる電流である。SensA,Cr及びSensB,Crは、電流(I)をそれぞれCreaAセンサ中のCr濃度及びCreaBセンサ中のCr濃度に関係づける感度定数であり、SensB,Crnは電流(I)をCreaBセンサ中のCrn濃度に関係づける感度定数である。以下、Sens及びSensを、各々SensA,Cr、及びSensB,Crに対する省略名称として使用する。
【0049】
電流を濃度に関係づける比例定数Sensは、通常感度と称する。定数は、センサを較正することによって決定される。各センサの電流(信号)は分析装置中の電流計120により測定する。センサ感度Sが既知である場合、所与のサンプル中の未知のCrn濃度は、上記式から容易に決定される。
【0050】
図2に示す反応は、酵素モジュレーターによって調節され得る。そのような酵素モジュレーターは、Ca2+、及びHCOのようにサンプルに対し内因性であり得て、これらの酵素モジュレーターは、使用する酵素のいずれかの作用を阻害する場合がある。酵素モジュレーターという用語は、酵素の性能を低下させる物質(阻害剤)、又は酵素の性能を高める物質を含む。
【0051】
酵素モジュレーターは、特定の分子に限定されず、溶液若しくはサンプルのpH、又は温度等のその他の因子を含み得る。溶液のpHのような因子が酵素の性能に影響を及ぼし得ることが知られているので、pH等の因子を、本明細書では酵素モジュレーターと称する場合がある。
【0052】
本明細書で開示される例示的実施形態では、モジュレーターとしてのpH、HCO、及びCa2+の影響を考慮して、センサを較正する方法が提供される。しかしながら、本提案の解決手段は、これらの特定のモジュレーターに限定されず、当業者は、特定のモジュレーターを無視する、又はその他のモジュレーターの影響を含むように、該方法を適合させることができることを理解するであろう。
【0053】
モジュレーターの挙動をモデル化するためにこの例示的実施形態では、センサを1次元コンパートメントモデルとして考える。本モデルでは、外膜は、拡散抵抗を有するのみで体積を有さず、酵素層は体積を有するのみで、濃度は酵素層の全体で同一である。以下のモデルの導出により、pH、HCO、及びCa2+の寄与を考慮しつつ、測定システムを較正する方法を導く。しかしながら、以下の導出を、異なる種類のモジュレーター及びセンサに好適な方法を提示するために適合させることができるのは、当業者には明らかであろう。
【0054】
センサは、Cr変換に関して、定常状態にあると仮定してよい。センサは定常状態にあるので、センサへの流量は、Crの変換率と等しくなければならず、変換率は測定された電流(I)に比例していなければならない。
FluxCr=ConversionCr∝I 式3
【0055】
流量は、また、透過率にサンプルと酵素層での濃度差を乗じたものに等しい。
FluxCr=AsenOM([Cr]sam−[Cr]enz) 式4
【0056】
用語「Asen」は酵素層の面積であり、POMは、外膜の透過率を表す。[Cr]samは、サンプル中のCrの濃度であり、[Cr]enzは酵素層内のCrの濃度を表す。
【0057】
Crの変換率は、ミカエリス定数K(クレアチナーゼに対して27mM)より十分に低い濃度で、ミカエリス・メンテン反応速度論に従うと仮定することができる。酵素層の体積は、酵素層の厚み(lenz)にセンサの面積を掛けたものである。
【数4】
【0058】
式4及び式5での、流量及び変換率の式を式3に代入(be inserted)し、式6を得ることができる。式中、K>>[Cr]enzと仮定する。
【数5】
【0059】
理想センサは、無限の酵素活性を有するため、酵素層内のCr濃度を0まで減少させることができる。従って、理想センサへの流量は、次のように表すことができる。
FluxCr,ideal=AsenOM([Cr]sam) 式7
【0060】
式1によれば、電流測定センサの感度は、電流をサンプル濃度で除したものとして定義される。
Sens=I/[Cr]sam 式8
【0061】
感度と理想感度の比が、センサの較正において特に有用であり得る。従って、式3の電流の式を、式8のセンサの式へと代入し、この、感度の比の式をもたらすことができる。
【数6】
【0062】
式4及び7による、流量及び理想流量の式を式9へと代入し、式10へと単純化することができる。
【数7】
【0063】
式6は、酵素層中のCr濃度の式([Cr]enz)へと書き換えることができる。
【数8】
【0064】
式11における、酵素層内のCr濃度の式を式10へと代入し、センサ感度と理想感度の比の式を得ることができる。
【数9】
【0065】
max割るKは、単位の形で表現することができる。
【数10】
【0066】
式中、Uはセンサに分配される単位量(単位mol/秒)である。Uは、酵素層の体積、つまり(Asenenz)で除すことができる。α(t)項は、時間tにおける残存活性を表し、値の範囲は0〜1であり得る。調節の程度「mod」は、所与のpH、並びにHCO及びCa2+濃度において、酵素が調節される程度についての推定値を提供する。mod値の範囲は、0〜1であり得る。この関数は、実験的にのみ予測することができる。
【0067】
式13中のVmax/Kの式を、式12に代入すると、感度比についての最終的な式が得られる。
【数11】
【0068】
式14は、Crnが考慮されていない2酵素型センサ(CreaA)にのみ適用される。該センサが過剰量のクレアチニナーゼ酵素活性を含む場合、Crの一部は、酵素層内にて、直ちにCrnへと変換される。この可能性を考慮に入れ、式14を、Cr及びCrnの全流量を考慮するよう変更することができる。サンプルが、Crのみを含有する(多くの較正溶液が行うように)と仮定すれば、以下の、式14の変形が得られる。
【数12】
【0069】
式14Aは、β、CrnとCrの平衡比、及び透過率間の比(拡散係数の比に等しいと仮定される)を導入することにより、単純化することができる。
【数13】
式中、β=[Crn]enz/[Cr]enz
【0070】
式4ではなく、式14Bで定義した流量を使用すると、3酵素型センサ(CreaB)についての式14の変更版が得られる。
【数14】
式中のCreaBセンサの感度SensBは、Cr及びCrnのサンプル濃度で除した電流として、式2によって定義され、後者(Crn)の濃度に、CrとCrnに対するセンサ感度の比であるαを乗じる。
【数15】
【0071】
3酵素型センサ(CreaB)の式(式14C)は、2酵素型センサ(CreaA)(式14)の式に類似しているが、3酵素型センサの式は、因数1/(1+β(Dcrn/DCr))を含む。β=0.7、Dcrn/DCrがおおよそ1.25であるとき、3酵素型センサ中の酵素活性は、2酵素型センサと比較して、おおよそ2分の1となる。
【0072】
調節されたセンサに対する補正を確立するために、mod関数の関数形式を決定する必要がある。このため、modを、式14Cから分離する。
【数16】
【0073】
様々なpH、HCO、及びCa2+を有するシリーズを、短い時間枠で同一のセンサに吸引すると、右の項は一定であるとみなすことができ、定数Cで置換可能である。
【数17】
【0074】
この項から、サンプル中のpH、及びHCOの関数としてmodを測定できる。調節項(modulation)が、3つの分離した関数からなると仮定すると、次の項を得る。
【数18】
【0075】
HCOを、競争的阻害剤であると仮定され、ミカエリス・メンテン反応速度論でのK項を、式18に示すような因数によって変更する。
【数19】
【0076】
式18中のKは、解離定数である。式17中のmod([HCOenz)項の形式は、式18を式13へと代入することで推定できる。
【数20】
【0077】
Ca2+もまた、酵素阻害に寄与するので、HCOの調節因子へと取り入れるべきである。すなわち、
【数21】
Ca2+、HCO(炭酸水素イオン)、及び酵素間の反応系を、解く(Enz−Biは、1つのHCOに阻害される酵素を意味し、Enz−Bi−Caは、1つのHCO及び1つのCa2+に阻害される酵素を意味する)。
=[Enz]enz[HCOenz/[Enz−Bi]enz
=[Enz]enz[HCOenz[Ca2+enz/[Enz−Bi−Ca]enz
【0078】
酵素の総量(cEnztotal)の物質収支は、以下によって与えられる。
[Enz−Bi−Ca]enz+[Enz−Bi]enz+[Enz]enz=cEnztotal
【0079】
上記式で、[Enz]の代入及び分離を行うと、次式を得る。
【数22】
【0080】
この式から、式19のより正確な形式は、次のようになり得る。
【数23】
【0081】
次に、pH(mod(pH))の影響を推定することができるが、pHは単純な阻害ではないので、同様の方法は使用できない。ヒスチジン(His232)は、クレアチナーゼの活性部位内での役割を担っており、このヒスチジン基の電荷によりpH依存性を決定することができる。酵素活性は、pHの増加に伴い増加するので、帯電していないヒスチジン基は、酵素活性を有すると考えることができる。従って、ヒスチジンが通常の緩衝剤の熱力学に従うと仮定すると、次のpHの式を推定できる。
【数24】
【0082】
帯電したヒスチジンに、次の式を代入する。
[Enz−HisH]=cEnztotal−[Enz−His]
【0083】
次に、帯電していないヒスチジンを分離すると、次の式が得られる。
【数25】
【0084】
帯電していないHis232を有する酵素のみが活性であると仮定すると、最終的な調節項を、次のように与えることができる。
【数26】
【0085】
式22を、全濃度cEnztotalに関して規格化すると、この項は、式16にCの一部として含まれるので、調節値の範囲を、0〜1の範囲に限定することができる。
【数27】
【0086】
の値は、様々な方法で決定できる。例えば、式23を実際のデータセットの例に当てはめることで、Kは、そのセットの例に対して、10−7.9の値を有すると決定される。
【0087】
上述のモデルは、システムが、定常状態にあると仮定している。しかしながら、システムを測定する間、特に、測定が開始した後の短時間後に、システムが必ずしも定常状態にあるとは限らない。提供された例では、この短時間は17秒間とみなされるであろうが、より短い又は長い時間が想定されてもよい。
【0088】
HCO及びpHは、典型的には、速い時定数を有するので、センサは通常、次のサンプルを吸引するより前に、短いすすぎ後に平衡化する。従って、酵素層内における、HCO及びpHレベルの非定常状態量を決定する際、前回の測定からの任意の残留量からの影響ではなく、現行のサンプルからの影響のみを考察するのが、正しい近似である。
【0089】
しかしながら、Ca2+は、はるかに高い時定数を有し、センサは高いCa2+を有する前回のサンプルを、「記憶している」可能性が高い。例えば、短時間のすすぎでは、Ca2+がすすぎ溶液へと拡散するのに十分な時間を提供しないので、残留Ca2+は、短時間すすいだ後に、依然として酵素層内に存在し得る。より長いすすぎサイクルを設定することは、残留Ca2+の量を低減するのに役立つ場合があるが、このことはサンプル間の時間を増大させ、それによってサンプル測定(sample taking)率が低下する。完全なサイクルを実施すると、測定間隔が3分以上になることがあるが、この測定間隔を1分以下に低減することが好ましい。従って、完全なすすぎサイクルを実施することに代えて、本提案の解決手段では、部分的なすすぎを行い、次に、前回のサンプルからの、システム内に残存するCa2+(又は、その他の任意のモジュレーター)の量を考慮する。
【0090】
酵素層内のHCO濃度を推定する
17秒後のサンプルにより引き起こされる酵素層内のHCO濃度の変化を、2つの主要な寄与因子(contributors)、すなわちHCO自体、及びCOの物質収支によって、推定することができる。
【数28】
【0091】
センサへの流量は、2つの定数C、及びCが導入された(t=17秒、Asen、POM、及びlenzもまた含む)
【数29】
、単純な線形モデルにより近似できる。
【0092】
Crnセンサ中で測定されたHは、センサが測定している17秒間にわたって生成しているので、17秒にわたる、平均のHCOの近似値を決定することは有用である。サンプルに対する調節(mod)の程度を決定する際には、17秒における式25の濃度の式は、式23へと代入するために、十分に正確でなければならない。
【0093】
2つの定数、C1HCO3、及びC2CO2に対する値は、様々な手段によって決定できる。例えば、標準的性能試験による最適化を行うと、2つの定数に対する最適値が、以下のようになる場合がある。
C1HCO3=0.5
C2CO2=0.05mM/mmHg
酵素層内のpHの推定
【0094】
pHは、対数関数として定義されるので、非定常状態のモデル化では多数の追加工程を必要とする。pHへの寄与因子としては、可動性緩衝剤及び固定化緩衝剤の両方を挙げることができる。ここでは、1つの可動性緩衝剤mBufを、共役酸mBuf、及び共役塩基mBufの化学種を有する主要な緩衝剤と仮定すると、酵素層内で、サンプルにより17秒後に引き起こされるpH変化を、以下の通り表すことができる。
【数30】
【0095】
緩衝剤のpKは、多数の値を取り得るが、ここではpKが7.0の緩衝剤を使用する。可動性緩衝剤と同一のpKを有する酵素から一定量の固定された緩衝剤の容量を仮定すると、pHの式は次のようになる。
【数31】
【0096】
すすぎ液(rinse)及びサンプル中の、ほとんどの化学種のpKは、7よりも著しく高い、又は低いので、センサ中のpHを変化させることに関連する唯一の機構は、COをH及びHCOへと変換することである。これは、pH式において、以下の通り反映させることができる。
【数32】
【0097】
COから生成するHの量を、次の式によって近似することができる。式中のCO定数(C2CO2)は、式25から再利用した。
【数33】
【0098】
pHを変化させる、別の非直接的な方法は、測定の間は可動性緩衝剤をなくす(そして場合により較正の間は獲得する)である。
【数34】
【0099】
これらの項は上記pHの式へと代入でき、次式がもたらされる。
【数35】
【0100】
可動性緩衝剤の拡散による寄与は、通常はわずかであり、酵素層からの緩衝剤の量は無視することができる。従って、式は式27へと単純化できる。
【数36】
【0101】
サンプルに対する調節(mod)の程度を決定する際には、このpHの式を、式23にて使用可能である。
【0102】
酵素層内のCa2+の濃度を推定する
Ca2+は、pH及びHCOよりも、はるかに遅い時定数を有するので、短いすすぎ後では、依然として残留Ca2+が残存し得る。短いすすぎ時間を可能にするため、本提案の解決手段では、測定システム内でのCa2+濃度の履歴を追跡する。
【0103】
コンパートメント(例えば、酵素層等)内外での拡散は、指数関数型減衰関数によりモデル化できる。従って、新規のサンプルが吸引される直前の酵素層内の濃度を、次式で表すことができる。
【数37】
【0104】
式中、Δtは、最後のサンプルから新規のサンプルが吸引されるまでの時間であり、[Ca2+enz,After last aspは、酵素層内の最後のサンプルの終了時におけるCa2+濃度であり、τはセンサ構造に固有の時定数である。
【0105】
サンプルにさらされている間、酵素層内の濃度は、同一の関数に従う。この例では暴露時間は20秒となる。
【数38】
【0106】
式28における、c[Ca2+enz,Before new aspの式を、式29へと代入し、最後のサンプルからの時間と、最後のサンプル後の、酵素層内の濃度と、現行のサンプルの濃度との間での相関関係を示す単一の式を形成することができる。
【数39】
【0107】
式30を使用して、時間とサンプルの関数としてCa2+濃度を追跡することができる。この式を、調節関数にて使用されるCa2+濃度を推定するために更に変形して、測定は、上記推定では20秒であるのに対して、17秒だけ実施されるという事実を考慮に入れてもよい。従って、17秒の測定の中間(8.5秒)における、Ca2+濃度を定めることで、式を最適化できる。
【数40】
【0108】
式30はCa2+濃度を経時的に追跡するのに使用されるが、式31は式23の調節関数へと代入するのにより適し得る。
【0109】
今、mod([pH]enz,[HCOenz,[Ca2+enz)を決定する式を確立したので、式14Cの残りの項を評価しなければならない。サンプル依存ではない項を、較正によって決定することができる単一の変数ファイ(φ)へと分離してよい。
【数41】
【0110】
φは、酵素活性とセンサの透過率との比の式である無次元の定数である。これは、較正を行う都度、式32の右辺を評価することにより決定できる。
【0111】
サンプルへの感度は以下の項に従い補正される必要がある。
【数42】
【0112】
modへの添え字は、調節関数を、サンプル又は較正溶液の吸引に対して評価していることを示す。Crn/Cr補正項を、組み込む必要がある場合は、POM解析式を見出すことで、φを補正することができる。
【0113】
提供する例示的実施形態では、2つの較正溶液に対する感度(SensB,Cal2及びSensB,Cal3)を決定できるが、SensB,idealに対する値は、欠けている。SensB,idealデータは欠けているが、得られるCal2及びCal3データを有するφの式は、以下の通り見出すことができる。
【数43】
【0114】
非定常状態モジュレーター関数(式33、35、37、及び41)と組み合わされた定常状態データ(式33、及び34)に対して導かれた上記較正モデルは、定常状態で測定が必ずしも行われなくても、センサを補正するのに適している。
【0115】
記載された較正モデルの導出は、酵素、モジュレーター、タイミング、及び較正溶液の数が異なる等の異なる構成に対応するよう、当業者によって適応させることができる。導出された較正モデルを使用して、当業者は、サンプル測定の合間の時間を比較的短く保ちつつ、モジュレーターを考慮した正確な較正を実行することができる。
【0116】
図3は本提案の方法の例示的実施形態を実行するための工程を要約している。本提案の方法は図3に示す工程の順序に限定されず、また、本方法を、この与えられる例示的実施形態にもっぱら限定するようには想定していない。
【0117】
工程310では、1つ以上の較正溶液の各々に対するデバイスの感度が決定される。上述した感度の決定する工程は、電流計の出力値(電流、I)と、較正溶液Cr又はCrnの既知の濃度との比、並びにCreaBセンサの感度間比α、を算出する工程を伴ってよい。いくつかの実施形態では、較正溶液のCr又はCrnの濃度は、決定又は初期濃度から調整される必要があり、一方で他の実施形態では、その濃度は較正溶液に付随するデータとして提供される。
【0118】
例えば、1つの較正溶液Cal2への感度は、以下の式によって与えられ得る。
【数44】
【0119】
同様に、別の較正溶液Cal3への感度は、以下の式によって与えられ得る。
【数45】
【0120】
酵素モジュレーターと感度との関係を決定するための2つのデータポイントを効果的に提供するので、異なる量の酵素モジュレーターが較正溶液中に供給される2つの較正溶液を使用することは、有利であり得る。酵素モジュレーターの量が異なる3つ以上の較正溶液を提供することにより、より正確な結果がもたらされ得る。一方の較正溶液を、酵素モジュレーターが非常に少ない又は酵素モジュレーターを有しないように選択してよく、もう一方の較正溶液は、サンプル中の酵素モジュレーターの予想される量と、略同一桁の酵素モジュレーターを有するように選択してよい。このようにして、第2の較正溶液では、予想されるサンプルに近い感度を提供し、他方、第1の較正溶液は、第2の較正溶液から十分に離れた感度を提供して、酵素調節と感度の関係の良好な指標を提供する。
【0121】
工程320では、測定されるべきサンプルについて酵素調節の程度が決定される。この酵素調節の程度は、所与のサンプル中にて酵素活性が調節される量の指標である。例えば、HCO濃度([HCO])、Ca2+濃度([Ca2+])、及び最適値より高いアルカリ度(pH)が存在する場合、これらは、調節の程度によって与えられる所定のパーセンテージだけ酵素活性を阻害し得る。
【0122】
測定されたサンプルに対する調節関数を次のように決定することができる。
【数46】
【0123】
この調節関数を決定するために、pHenz、[HCOenz、及び[Ca2+measの値を評価する必要がある。pHenzの値は、式27、つまり次の式を使用して決定してよい。
【数47】
【0124】
HCO濃度の値は、式25、つまり次の式を使用して決定してよい。
【数48】
【0125】
酵素層(321)内の酵素モジュレーターの量を考慮するため、前回のサンプルのCa2+濃度並びに時間を考慮に入れた式31を使用して、Ca2+濃度の値を決定することができる。
【数49】
【0126】
評価されたpHenz、[HCOenz、及び[Ca2+enzの値を使用して、サンプルに対するmod関数を決定することができる。これを、測定された各サンプルについて繰り返してもよい。
【0127】
工程330では、較正溶液Cal2及びCal3に対する調節関数modCal2及びmodCal3を、サンプルに対して使用されたものと同一の方法論を使用して決定する。
【0128】
最初に、各較正溶液について、pHenz、[HCOenz、及び[Ca2+enzの値を評価する必要があり、その後、調節関数を計算できる。Cal2及びCal3較正溶液に対するpHenzの値を、式27を使用して決定してよい。
【数50】
【0129】
Cal2、及びCal3較正溶液に対するHCO3−濃度値を、式25を使用して決定することができる。
【数51】
【0130】
Cal2、及びCal3較正溶液に対するCa2+濃度値を、式31を使用して決定することができる。較正溶液を測定する間の、酵素層(331)内における酵素モジュレーターの量を考慮するため、前回の測定のCa2+濃度を、時間と共に考慮してよい。
【数52】
【0131】
工程340では、各較正溶液及びサンプルに対する測定デバイスの感度を算出した。この工程は、較正溶液での測定された感度を取得し、それを調節関数及びφの関数である因子により調整することを伴ってよい。φは、すでに算出した、較正溶液への感度及び調節関数によって与えられてもよく、式34の形態であってもよい。
【数53】
【0132】
φの値が決定し、工程320及び330において調節関数が決定すると、式33を使用して感度を決定できる。
【数54】
【0133】
感度が決定されると、測定システムが較正される。ここから、電流計の未処理の出力値を測定し、式1及び2に表すように算出した感度で除することにより、サンプルに対する感度を使用して、サンプルの、Cr又はCrnの正確な濃度を決定してすることができる。
【0134】
図4は血液中のCrn濃度の本提案の解決手段による測定結果、及び本提案の解決手段を伴わない結果を比較したグラフである。すすぎの合間に、比較的短い2分のサイクルタイムで、血液サンプルを5回吸引する。
【0135】
点410は、システム内の時間依存型の酵素モジュレーター(Ca2+)の量を考慮しない、Crnの測定値を示す。傾向線411が示すように、時間依存補正を行わない場合、Crnの測定値は、次の測定の都度、減少する。これは、測定間にCa2+を洗浄するための十分なすすぎがされていない場合に、各測定後に、酵素層内の酵素モジュレーター(Ca2+)含有量が増加することに起因する。データは、Crnに対する読み取り値が、わずか5回の測定で、5.7%(78.8μMから74.3μMへ)低下したことを示す。
【0136】
点420は、本提案の解決手段に従い、時間依存型の酵素モジュレーター(Ca2+)の量を考慮する、同一の血液サンプルの、Crnの測定値を示す。時間依存型補正では、傾向線421は、測定値は、測定値間で、はるかに一貫していることを示し、グラフは、本提案の解決手段が、測定値と短いすすぎの間で、Ca2+の濃度増加に十分影響していることを示している。データは、Crn読み取り値における最大の変動が、わずか1.1%(79.7μMから78.8μM)であるであることを示す。これは、本提案の解決手段の時間依存の酵素調節量を決定する工程によって、特に測定間のすすぎ時間が短い場合において、より正確、及び一貫した結果をもたらすことができることを示す。
【0137】
本開示は、上記した実施形態中に提示した任意の特徴の組み合わせを置換したものを含むことを理解すべきである。特に、添付の従属請求項で提示した特徴は、提供され得る任意のその他の関連する独立請求項と組み合わせて開示されており、本開示は、これらの従属請求項とこれらが元々従属する独立請求項の特徴の組み合わせのみに限定されないと理解すべきである。
図1
図2
図3
図4