特許第6557744号(P6557744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557744
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤及び抗腫瘍効果増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7072 20060101AFI20190729BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20190729BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190729BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   A61K31/7072ZMD
   A61K31/513
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-4516(P2018-4516)
(22)【出願日】2018年1月15日
(62)【分割の表示】特願2015-535524(P2015-535524)の分割
【原出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-76369(P2018-76369A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2018年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-184684(P2013-184684)
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 博之
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 Eur. J. Cancer, 2011, Vol.47, No.Suppl.1, p.S392,6005欄
【文献】 Cancer Sci., 2010, Vol.101, No.2, pp.440-447
【文献】 Cancer Sci., 2007, Vol.98, No.6, pp.779-789
【文献】 Eur. J. Cancer, 2007, Vol.43, No.1, pp.175-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 39/00−39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セツキシマブ又はパニツムマブの抗腫瘍効果を増強するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍効果増強剤であって、
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の投与量が、単独療法における推奨用量の17〜115%であり、セツキシマブ又はパニツムマブの投与量が、単独療法における推奨用量の11〜100%であることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤。
【請求項2】
セツキシマブ又はパニツムマブの抗腫瘍効果を増強するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍効果増強剤であって、
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の投与量が、トリフルリジン換算量で11〜80mg/m2/dayであり、セツキシマブの投与量が44〜400mg/m2/dayであり、パニツムマブの投与量が0.67〜6mg/kg/dayであることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤。
【請求項3】
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤と、セツキシマブ又はパニツムマブを併用投与し癌患者を治療するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍剤であって、
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の投与量が、単独療法における推奨用量の17〜115%であり、セツキシマブ又はパニツムマブの投与量が、単独療法における推奨用量の11〜100%であることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項4】
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤と、セツキシマブ又はパニツムマブを併用投与し癌患者を治療するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍剤であって、
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の投与量が、トリフルリジン換算量で11〜80mg/m2/dayであり、セツキシマブの投与量が44〜400mg/m2/dayであり、パニツムマブの投与量が0.67〜6mg/kg/dayであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項5】
セツキシマブ又はパニツムマブと併用投与するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍剤であって、
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の投与量が、単独療法における推奨用量の17〜115%であり、セツキシマブ又はパニツムマブの投与量が、単独療法における推奨用量の11〜100%であることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項6】
セツキシマブ又はパニツムマブと併用投与するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍剤であって、
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の投与量が、トリフルリジン換算量で11〜80mg/m2/dayであり、セツキシマブの投与量が44〜400mg/m2/dayであり、パニツムマブの投与量が0.67〜6mg/kg/dayであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項7】
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤をトリフルリジン換算量で35〜70mg/m2/day投与する請求項1又は2に記載の抗腫瘍効果増強剤、又は請求項3〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項8】
トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤をトリフルリジン換算量で70mg/m2/day投与する請求項1又は2に記載の抗腫瘍効果増強剤、又は請求項3〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項9】
対象となる癌が、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、膵癌又は胃癌である請求項1又は2に記載の抗腫瘍効果増強剤、又は請求項3〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩の配合剤と、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体とを含有する抗腫瘍剤、及び抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルリジン(別名:α,α,α−トリフルオロチミジン。以下、「FTD」とも称す)は、チミジレート生成阻害作用によるDNA合成阻害とDNAへの取り込みによるDNA機能障害により抗腫瘍効果を発揮する。一方、チピラシル塩酸塩(化学名:5−クロロ−6−[(2−イミノピロリジン−1−イル)メチル]ピリミジン−2,4(1H,3H)−ジオン塩酸塩。以下、「TPI」とも称す)は、チミジンホスホリラーゼ阻害作用を有する。TPIがチミジンホスホリラーゼによるFTDの生体内での分解を抑制することにより、FTDの抗腫瘍効果が増強されることが知られている(特許文献1)。現在、FTDとTPIをモル比1:0.5で含有する抗腫瘍剤(以下、「FTD・TPI配合剤」とも称す)は、結腸直腸癌等の固形癌の治療剤として開発中である(非特許文献1及び2)。
さらに、FTD・TPI配合剤の抗腫瘍効果を高めるべく、併用療法の検討がなされており、これまで当該配合剤とイリノテカンやオキサリプラチン等との併用効果が示唆されている(非特許文献3及び4)。
【0003】
なお、近年、血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor。以下、VEGF)や上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor。以下、EGFR)等の血管新生や細胞増殖に関与する分子を標的とした薬剤の開発が盛んに行われている。例えば、VEGFに対する分子標的薬としては、抗VEGFヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブが結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、腎細胞癌等の癌腫に対する治療剤として臨床で用いられている。また、EGFRに対する分子標的薬としては、抗EGFRヒト・マウスキメラ化モノクローナル抗体であるセツキシマブが結腸直腸癌、頭頸部癌に対する治療剤として、抗EGFRヒト型完全モノクローナル抗体であるパニツムマブが結腸直腸癌に対する治療剤としてそれぞれ臨床で用いられている(非特許文献5、6及び7)。
上記のとおり、FTD・TPI配合剤を含む治療法の開発が精力的に行われているが、FTD・TPI配合剤とVEGF又はEGFRに対する分子標的薬を用いた併用療法は全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第96/30346号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Invest New Drugs 26(5):445−54,2008.
【非特許文献2】Lancet Oncol.13(10):993−1001, 2012.
【非特許文献3】Eur J Cancer.43(1):175−83,2007.
【非特許文献4】Br J Cancer.96(2):231−40,2007.
【非特許文献5】Curr Oncol Rep.14(4):277−84,2012.
【非特許文献6】Curr Cancer Drug Targets.10(1):80−95,2010.
【非特許文献7】Pathol Oncol Res.16(2):143−8,2010.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、顕著に優れた抗腫瘍効果を示し、副作用の少ないFTD・TPI配合剤を用いた新規な癌治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこのような現状に鑑み、FTD・TPI配合剤と抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を併用することにより、副作用の発生を抑えつつ、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果が顕著に増強することを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、次の〔1〕〜〔21〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤と、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を併用投与することを特徴とする抗腫瘍剤。
〔2〕抗VEGF抗体がベバシズマブである〔1〕記載の抗腫瘍剤。
〔3〕抗EGFR抗体がセツキシマブ又はパニツムマブである〔1〕又は〔2〕記載の抗腫瘍剤。
〔4〕対象となる癌が、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、膵癌又は胃癌である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
〔5〕抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果を増強するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍効果増強剤。
〔6〕抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を投与された癌患者を治療するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤からなる抗腫瘍剤。
〔7〕トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤と使用説明書を含むキット製剤であって、
当該使用説明書には、癌患者に対して、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤と抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体が併用投与されることが記載されていることを特徴とするキット製剤。
〔8〕抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果を増強するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤。
〔9〕抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を投与された癌患者を治療するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤。
〔10〕抗VEGF抗体がベバシズマブである〔8〕又は〔9〕記載の配合剤。
〔11〕抗EGFR抗体がセツキシマブ又はパニツムマブである〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の配合剤。
〔12〕対象となる癌が、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、膵癌又は胃癌である〔8〕〜〔11〕のいずれかに記載の配合剤。
〔13〕抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果を増強する抗腫瘍効果増強剤を製造するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の使用。
〔14〕抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を投与された癌患者の治療薬を製造するための、トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤の使用。
〔15〕抗VEGF抗体がベバシズマブである〔13〕又は〔14〕記載の使用。
〔16〕抗EGFR抗体がセツキシマブ又はパニツムマブである〔13〕〜〔15〕のいずれかに記載の使用。
〔17〕対象となる癌が、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、膵癌又は胃癌である〔13〕〜〔16〕のいずれかに記載の使用。
〔18〕トリフルリジン及びチピラシル塩酸塩をモル比1:0.5で含有する配合剤と、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を併用投与することを特徴とする癌の治療方法。
〔19〕抗VEGF抗体がベバシズマブである〔18〕記載の治療方法。
〔20〕抗EGFR抗体がセツキシマブ又はパニツムマブである〔18〕記載の治療方法。
〔21〕対象となる癌が、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、膵癌又は胃癌である〔18〕〜〔20〕のいずれかに記載の治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗腫瘍剤によれば、副作用の発症を抑えつつ、高い抗腫瘍効果を奏する癌治療を行うことが可能であり、よって癌患者の長期間の生存をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】FTD・TPI配合剤とベバシズマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図2】FTD・TPI配合剤とベバシズマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図3】FTD・TPI配合剤とベバシズマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図4】FTD・TPI配合剤とベバシズマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図5】FTD・TPI配合剤とベバシズマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図6】FTD・TPI配合剤とベバシズマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図7】FTD・TPI配合剤とセツキシマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図8】FTD・TPI配合剤とセツキシマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図9】FTD・TPI配合剤とセツキシマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図10】FTD・TPI配合剤とセツキシマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図11】FTD・TPI配合剤とセツキシマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図12】FTD・TPI配合剤とセツキシマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図13】FTD・TPI配合剤とセツキシマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図14】FTD・TPI配合剤とパニツムマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図15】FTD・TPI配合剤とパニツムマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図16】FTD・TPI配合剤とパニツムマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
図17】FTD・TPI配合剤とパニツムマブの大腸癌に対する併用効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における抗腫瘍剤は、FTD・TPI配合剤と、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を併用投与することを特徴とするものである。FTD・TPI配合剤と、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を併用投与する限り、さらに他の抗腫瘍剤を併用投与してもよい。
【0013】
本発明におけるFTD及びTPIはそれぞれ公知の化合物であり、例えば、国際公開第96/30346号パンフレットに記載の方法に準じて合成することができる。また、FTD及びTPIをモル比1:0.5で含有する配合剤も公知である(非特許文献1及び2)。
【0014】
本発明における「抗VEGF抗体」が認識するVEGFとしては、ヒトVEGFファミリーであるVEGF−A、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−D、VEGF−E、PLGF(placental growth factor)−1、PLGF−2のいずれかであればよく、好ましくはヒトVEGF−Aである。なお、ヒトVEGF−Aの塩基配列及びアミノ酸配列は、それぞれアクセッション番号NM001171623及びNP001165094としてGenBankに登録されており、本発明においては、これらの配列情報を利用することができる。
本発明における「抗EGFR抗体」が認識するEGFRとしては、ヒトEGFRが好ましい。なお、ヒトEGFRの塩基配列及びアミノ酸配列は、それぞれアクセッション番号NM005228及びNP005219としてGenBankに登録されており、本発明においては、これらの配列情報を利用することができる。
また、本発明における「抗VEGF抗体」及び「抗EGFR抗体」は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、Fab、Fab’、F(ab’)2などの抗体断片であってもよい。さらに抗VEGF抗体の場合、VEGF受容体の細胞外ドメインでもよい。また、これら抗体の由来としては、免疫原性を低減する観点から、ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が好ましい。
なお、本発明における「抗VEGF抗体」及び「抗EGFR抗体」は当該分野において通常公知の抗体作製方法に準じて作製することができる。また、市販されている抗体を用いても良い。
【0015】
本発明における「抗VEGF抗体」としては、VEGFを特異的に認識する抗体であれば特に制限されず、ベバシズマブ、アフリベルセプト、ラニビズマブ、イクルクマブが例示され、ベバシズマブが好ましい。なお、これら抗体は市販品を使用することができる。
本発明における「抗EGFR抗体」としては、EGFRを特異的に認識する抗体であれば特に制限されず、セツキシマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ニモツズマブ、ザルツムマブ、ネシツムマブが例示され、セツキシマブ及びパニツムマブが好ましい。なお、これら抗体は市販品を使用することができる。
【0016】
本発明の抗腫瘍剤におけるFTD・TPI配合剤の投与日における1日投与量としては、FTD・TPI配合剤による抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果の増強作用の観点から、FTD・TPI配合剤を単独で癌患者に投与する場合における推奨用量の17〜115%が好ましく、50〜100%がより好ましく、70〜100%がより好ましく、100%が特に好ましい。具体的には、FTDとして11〜80mg/m2/dayが好ましく、35〜70mg/m2/dayがより好ましく、50〜70mg/m2/dayがより好ましく、70mg/m2/dayが特に好ましい。
【0017】
本発明の抗腫瘍剤におけるベバシズマブの投与日における1日投与量としては、FTD・TPI配合剤によるベバシズマブの抗腫瘍効果の増強作用の観点から、ベバシズマブを単独で癌患者に投与する場合における推奨用量の4〜100%が好ましく、11〜100%がより好ましく、34〜100%が特に好ましい。具体的には、0.4〜15mg/kg/dayが好ましく、0.4〜10mg/kg/dayがより好ましく、1.10〜10mg/kg/dayがより好ましく、3.4〜10mg/kg/dayが特に好ましい。
【0018】
本発明の抗腫瘍剤におけるセツキシマブの投与日における1日投与量としては、FTD・TPI配合剤によるセツキシマブの抗腫瘍効果の増強作用の観点から、セツキシマブを単独で癌患者に投与する場合における推奨用量の4〜100%が好ましく、11〜100%がより好ましく、50〜100%が特に好ましい。具体的には、15〜400mg/m2/dayが好ましく、44〜400mg/m2/dayがより好ましく、200〜400mg/m2/dayが特に好ましい。
【0019】
本発明の抗腫瘍剤におけるパニツムマブの投与日における1日投与量としては、FTD・TPI配合剤によるパニツムマブの抗腫瘍効果の増強作用の観点から、パニツムマブを単独で癌患者に投与する場合における推奨用量の4〜100%が好ましく、11〜100%がより好ましく、34〜100%が特に好ましい。具体的には、0.23〜6mg/kg/dayが好ましく、0.67〜6mg/kg/dayがより好ましく、2.03〜6mg/kg/dayが特に好ましい。
【0020】
本発明において「併用投与」とは、副作用の発症を抑えつつ、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果を増強するという本発明の効果を奏する範囲において、FTD・TPI配合剤と、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体が一定の期間内に併せて投与されることをいう。具体的な本発明の抗腫瘍剤の投与スケジュールは、癌腫や病期等に応じて適宜選択しうる。FTD・TPI配合剤は、5日間連日投与し2日間休薬を2回繰り返した後、2週間休薬する投与スケジュールが好ましく、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体は、1〜3週間毎に1回投与する投与スケジュールが好ましい。このような投与スケジュールを1回又は2回以上繰り返して実施してもよい。
【0021】
本発明の抗腫瘍剤の対象となる癌としては、具体的には、頭頚部癌、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(胆嚢・胆管癌など)、膵臓癌、小腸癌、大腸癌(結腸直腸癌、結腸癌、直腸癌など)など)、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌(子宮頚癌、子宮体癌など)、腎癌、膀胱癌、前立腺癌等が挙げられる。このうち、抗腫瘍効果と副作用の観点から、消化器癌、肺癌又は乳癌が好ましく、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、膵癌又は胃癌がより好ましく、結腸直腸癌が特に好ましい。なお、ここで癌には、原発巣のみならず、他の臓器(肝臓など)に転移した癌をも含む。また、本発明の抗腫瘍剤は、腫瘍を外科的に摘出した後に再発防止のために行われる術後補助化学療法に用いるものであっても、腫瘍を外科的に摘出するために事前行われる術前補助化学療法であってもよい。
【0022】
各有効成分で投与手段や投与スケジュールが異なり、全ての有効成分を一つの剤形にまとめて製剤化することはできないため、本発明の抗腫瘍剤は各有効成分を複数の剤形に分けて製剤化する。FTD及びTPIは配合剤として、抗VEGF抗体及び抗EGFR抗体は単剤として製剤化することが好ましい。
【0023】
また、本発明の投与量によって各有効成分が投与される限り、各製剤を併用投与に適した1個のパッケージにまとめて製造販売してもよく、また各製剤を別個のパッケージに分けて製造販売してもよい。
【0024】
本発明の抗腫瘍剤の投与形態としては特に制限は無く、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には経口剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤など)、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示できる。FTD及びTPIの配合剤は経口剤が、抗VEGF抗体及び抗EGFR抗体は注射剤が好ましく、特に静脈内投与用注射剤が好ましい。
【0025】
本発明における抗腫瘍剤は、その投与形態に応じて、薬学的に許容される担体を用いて、通常公知の方法により調製することができる。斯かる担体としては、通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。
【0026】
本発明はまた、癌患者(特に、結腸直腸癌患者)に対する抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体の抗腫瘍効果を増強するためのFTD・TPI配合剤からなる抗腫瘍効果増強剤に関する。当該抗腫瘍効果増強剤は、上記抗腫瘍剤の製剤形態を有する。
【0027】
本発明はまた、抗VEGF抗体又は抗EGFR抗体を投与された癌患者(特に、結腸直腸癌患者)を治療するためのFTD・TPI配合剤からなる抗腫瘍剤に関する。当該抗腫瘍剤は、上記の製剤形態を有する。
【0028】
本発明はまた、FTD・TPI配合剤と、癌患者(特に、結腸直腸癌患者)に対してFTD・TPI配合剤と抗VEGF抗体又は抗EGFRを併用投与することを記載した使用説明書を含むキット製剤に関する。ここで「使用説明書」とは、上記投与量が記載されたものであればよく、法的拘束力の有無を問わないが、上記投与量が推奨されているものが好ましい。具体的には、添付文書、パンフレット等が例示される。また、使用説明書を含むキット製剤とは、キット製剤のパッケージに使用説明書が印刷・添付されているものであっても、キット製剤のパッケージに抗腫瘍剤とともに使用説明書が同封されているものであってもよい。
【0029】
本発明はまた、FTD・TPI配合剤と、抗VEGF抗体又は抗EGFRを併用投与することを特徴とする癌の治療方法に関する。FTD・TPI配合剤、抗VEGF抗体又は抗EGFRを含有する抗腫瘍剤は、上記抗腫瘍剤の製剤形態を有する。
【実施例】
【0030】
次に実施例及び参考例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0031】
参考例
ヒト大腸癌株(KM20C)の培養細胞(1×107cells/マウス)を生後5〜6週齢のBALB/cA Jcl−nuマウスの腹腔内に移植し、各群の平均体重が均等になるように各群にマウスを割り付け、群分け(n=10)を実施した日をDay 0とした。
FID・TPI配合剤(FTDとTPIのモル比1:0.5の混合物)は、FTDとして75、100、150、300及び450mg/kg/dayとなるように調製した。薬剤の投与はDay3から開始し、FTD・TPI配合剤は5日間連日経口投与・2日間休薬を6週間行った。
抗腫瘍効果の指標として、各群のマウスの生存数を確認し、各群の生存期間を比較した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に記載のように、マウスでは、FTD・TPI配合剤は、FTDとして150mg/kg/dayの群で生存期間が長かったことから、マウスにおけるFTD・TPI配合剤の推奨投与量(RD)はFTDとして150mg/kg/dayである。一方、ヒトにおけるFTD・TPI配合剤のRDはFTDとして70mg/m2/dayであることから、マウスにおける150mg/kg/dayは、ヒトにおける70mg/m2/dayに相当する。
【0034】
また、ベバシズマブでは、ヒト乳癌細胞株MX−1を移植したヌードマウスを用いて、7日毎に3週間、1.25、5、20mg/kgの用量を腹腔内投与することより、最適な投与量を検討したところ、5mg/kgが最も腫瘍増殖阻害率が高く、それ以上の用量では効果が頭打ちであったとの報告から(ベバシズマブ インタビューフォーム)、マウスにおけるベバシズマブのRDは5mg/kg/dayである。一方、ヒトにおけるベバシズマブのRDは10mg/kg/dayであることから、マウスにおける5mg/kg/dayは、ヒトにおける10mg/kg/dayに相当する。
【0035】
また、セツキシマブでは、ヒト腎細胞癌細胞株SK−RC−29を移植したヌードマウスを用いて、3日毎に5週間、0.5、1mg/doseの用量を静注することにより、最適な投与量を検討したところ、1mg/dose(マウスの体重を25gとすると40mg/kgに相当)が最も腫瘍増殖阻害率が高かったとの報告から(Clinical cancer research (1998)4、2957−2966)、マウスにおけるセツキシマブのRDは40mg/kg/dayである。一方、ヒトにおけるセツキシマブのRDは400mg/m2/dayであることから、マウスにおける40mg/kg/dayは、ヒトにおける400mg/m2/dayに相当する。
【0036】
また、パニツムマブでは、ヒト大腸癌細胞株HT29を移植したヌードマウスを用いて、週2回5週間、20、200、500、1000μg/doseの用量を静注することにより、最適な投与量を検討したところ、200μg/dose(マウスの体重を25gとすると8mg/kgに相当)以上の用量では効果が頭打ちであったとの報告から(パニツムマブ インタビューフォーム)、マウスにおけるパニツムマブのRDは8mg/kgである。一方、ヒトにおけるパニツムマブのRDは6mg/kg/dayであることから、したがって、マウスにおける8mg/kg/dayは、ヒトにおける6mg/kg/dayに相当する。
【0037】
実施例1
ヒト大腸癌株(KM20C)を生後5〜6週齢のBALB/cA Jcl−nuマウスの右側胸部に移植した。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)および短径(mm)を測定し、腫瘍体積(tumor volume:TV)を算出後、各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、群分け(n=6〜7)を実施した日をDay 0とした。
薬剤の投与容量は10mL/kgであり,FTD・TPI配合剤(FTDとTPIのモル比1:0.5の混合物)は、FTDの投与量として150mg/kg/dayとなるように調製した。ベバシズマブ(アバスチン注射液、中外製薬株式会社)は0.20,0.55,1.7及び5mg/kg/dayとなるように調製した。FTD・TPI配合剤はDay 1−14に連日経口投与し、ベバシズマブはDay1から週2回の頻度で腹腔内に2週投与した。併用投与群は、単剤投与群と同じ投与量及び投与スケジュールでFTD・TPI配合剤とベバシズマブを投与した。
【0038】
抗腫瘍効果の指標として、各群のTVを算出し、下式によりDay 0に対する相対腫瘍体積(relative tumor volume:RTV)を求めてプロットし、無処置群(control)、FTD・TPI配合剤投与群、ベバシズマブ投与群及びFTD・TPI配合剤とベバシズマブ併用投与群のRTVの経日的推移を比較した。また、毒性として体重減少を評価した。結果を表2及び図1図4に示す。
TV(mm3)=(長径×短径2)/2
RTV=(評価日におけるTV)/(Day 0におけるTV)
【0039】
【表2】
【0040】
次に、ヒト乳癌株(MC−2)を用いて同様に試験を行った。ただし、FTD・TPI配合剤(FTDとTPIのモル比1:0.5の混合物)はFTDの投与量として25及び50mg/kg/dayになるよう、ベバシズマブは1.5mg/kg/dayとなるように調製した。結果を表3及び図5図6に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表2〜表3及び図1図6に示す通り、FTD・TPI配合剤がFTDとして25〜150mg/kg/day(ヒトにおける11〜70mg/m2/day相当)、ベバシズマブが0.20〜5mg/kg/day(ヒトにおける0.40〜10mg/kg/day相当)のとき、顕著な抗腫瘍効果の増強が見られ、ベバシズマブが0.55〜5mg/kg/day(ヒトにおける1.10〜10mg/kg/day相当)のとき、統計上有意に相乗的な抗腫瘍効果が得られた。
【0043】
また、いずれの投与群も許容できる程度の体重減少であり、併用投与による副作用の増大は確認されなかった。KM20Cを用いた試験において、FTD・TPI配合剤投与群では−4.9%の体重減少が確認されたところ、FTD・TPI配合剤と1.7〜5mg/kg/dayのベバシズマブ併用投与群では−2.6〜−3.7%と体重減少が軽減していた。MC−2を用いた試験でも同様の結果であった。通常、抗腫瘍剤の併用投与では抗腫瘍効果の増強に伴い副作用が増大するところ、本発明では抗腫瘍効果が増強しつつ、且つ副作用が軽減しており、非常に驚くべき結果である。
【0044】
また、FTD・TPI配合剤を併用することによる腫瘍増殖遅延効果を確認した(Clin Cancer Res.2000;6(2):701−8.;J Radiat Res.2007;48(3):187−95.;Invest New Drugs.2008;26(1):1−5.;J Radiat Res.2011;52(5):646−54.)。腫瘍体積がDay0の時から2倍に大きくなる(即ち、RTVが2になる)までの期間を図5〜6の単剤投与群から併用投与群の結果を予測した。表4に単剤投与群の「RTVが2に実際に到達した日数」をまとめた。「RTVが2に実際に到達した日数」は、RTVが最初に2を超えた測定日とその直前の測定日のRTVが一次関数に従って推移していると仮定して、算出した。
【0045】
【表4】
【0046】
表5に併用投与群のRTVが2に到達するのに「期待される日数」とRTVが2に到達した「実際の日数」をまとめた。
【0047】
【表5】
【0048】
特にFTD・TPI配合剤が50mg/kg/day、ベバシズマブが1.5mg/kg/dayの併用投与群では、それぞれの単剤投与群におけるRTVが2に到達した「実際の日数」は7.33日間と7.71日間であった。よって、FTD/TPI配合剤とベバシズマブの作用効果が拮抗しないと仮定した場合、併用投与群ではその期間の合計である15.05日間が、RTVが2に到達するのに「期待される日数」である。しかし、驚くべきことに、RTVが2に到達した「実際の日数」は26.25日間であった。これらの結果は、FTD・TPI配合剤によるベバシズマブの抗腫瘍効果の増強作用が相乗的であることを示すものである。
【0049】
実施例2
ヒト大腸癌株(Co−3)を生後5〜6週齢のBALB/cA Jcl−nuマウスの右側胸部に移植した。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)および短径(mm)を測定し、腫瘍体積(tumor volume:TV)を算出後、各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、群分け(n=3〜7)を実施した日をDay 0とした。
薬剤の投与容量は10mL/kgであり、FTD・TPI配合剤(FTDとTPIのモル比1:0.5の混合物)は、FTDの投与量として75、150mg/kg/dayとなるように調製した。セツキシマブ(アービタックス注射液、メルクセローノ株式会社)は1.5、4.4、40mg/kg/dayとなるように調製した。FTD・TPI配合剤はDay 1−14に連日経口投与し、セツキシマブはDay1から週2回の頻度で腹腔内に2週投与した。併用投与群は、単剤投与群と同じ投与量及び投与スケジュールでFTD・TPI配合剤とセツキシマブを投与した。
【0050】
抗腫瘍効果の指標として、各群のDay 5、8、12、15のTVを算出し、実施例1の式によりDay 0に対する相対腫瘍体積(relative tumor volume:RTV)を求めてプロットし、無処置群(control)、FTD・TPI配合剤投与群、セツキシマブ投与群及びFTD・TPI配合剤とセツキシマブ併用投与群のRTVの経日的推移を比較した。また、毒性として体重減少を評価した。結果を表6〜表7及び図7図10に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
次に、ヒト大腸癌株(SW48)を用いて同様に試験を行った。ただし、セツキシマブは4.4、20、40mg/kg/dayとなるように調製した。結果を表8〜表9及び図11図13に示す。
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
表6〜表9及び図7図13に示す通り、FTD・TPI配合剤がFTDとして75〜150mg/kg/day(ヒトにおける35〜70mg/m2/day相当)、セツキシマブが1.5〜40mg/kg/day(ヒトにおける15〜400mg/m2/day相当)のとき、顕著な抗腫瘍効果の増強が見られ、セツキシマブが4.4〜40mg/kg/day(ヒトにおける44〜400mg/m2/day相当)のとき、統計上有意に相乗的な抗腫瘍効果が得られた。
【0057】
また、いずれの投与群も許容できる程度の体重減少であり、併用投与による副作用の増大は確認されなかった。Co−3を用いた試験において、150mg/kg/dayのFTD・TPI配合剤投与群では−13.2%(又は−18.6%)の体重減少が確認されたところ、150mg/kg/dayのFTD・TPI配合剤と1.5〜40mg/kg/dayのセツキシマブ併用投与群では−5.0%(又は−9.4〜−14.9%)と体重減少が軽減していた。SW48を用いた試験でも同様の結果であった。通常、抗腫瘍剤の併用投与では抗腫瘍効果の増強に伴い副作用が増大するところ、本発明では抗腫瘍効果が増強しつつ、且つ副作用が軽減しており、非常に驚くべき結果である。
【0058】
また、FTD・TPI配合剤を併用することによる腫瘍増殖遅延効果を確認した(Clin Cancer Res.2000;6(2):701−8.;J Radiat Res.2007;48(3):187−95.;Invest New Drugs.2008;26(1):1−5.;J Radiat Res.2011;52(5):646−54.)。腫瘍体積がDay0の時から2倍に大きくなる(即ち、RTVが2になる)までの期間を図11と13の単剤投与群から併用投与群の結果を予測した。表10に単剤投与群の「RTVが2に実際に到達した日数」をまとめた。「RTVが2に実際に到達した日数」は、RTVが最初に2を超えた測定日とその直前の測定日のRTVが一次関数に従って推移していると仮定して、算出した。
【0059】
【表10】
【0060】
表11に併用投与群のRTVが2に到達するのに「期待される日数」とRTVが2に到達した「実際の日数」をまとめた。
【0061】
【表11】
【0062】
FTD・TPI配合剤が150mg/kg/day、セツキシマブが4.4mg/kg/dayの併用投与群では、それぞれの単剤投与群におけるRTVが2に到達した「実際の日数」は3.62日間と4.32日間であった。よって、FTD/TPI配合剤とベバシズマブの作用効果が拮抗しないと仮定した場合、併用投与群ではその期間の合計である7.94日間が、RTVが2に到達するのに「期待される日数」である。しかし、驚くべきことに、RTVが2に到達した「実際の日数」は13.66日間であった。また、同様に図12からFTD・TPI配合剤が150mg/kg/day、セツキシマブが20mg/kg/dayの併用投与群におけるRTVが2に到達するのに「期待される日数」を求めると8.50日間であったところ、RTVが2に到達した「実際の日数」は20.70日間であった。これら結果は、FTD・TPI配合剤によるベバシズマブの抗腫瘍効果の増強作用が相乗的であることを示すものである。
【0063】
実施例3
ヒト大腸癌株(Co−3)を生後5〜6週齢のBALB/cA Jcl−nuマウスの右側胸部に移植した。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)および短径(mm)を測定し、腫瘍体積(tumor volume:TV)を算出後、各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、群分け(n=6)を実施した日をDay 0とした。
薬剤の投与容量は10mL/kgであり、FTD・TPI配合剤(FTDとTPIのモル比1:0.5の混合物)は、FTDの投与量として150mg/kg/dayとなるように調製した。パニツムマブ(ベクティビックス(登録商標)注射液、アムジェン社)は0.30、0.89、2.7、8mg/kg/dayとなるように調製した。FTD・TPI配合剤はDay 1−14に連日経口投与し、パニツムマブはDay1から週2回の頻度で腹腔内に2週投与した。併用投与群は、単剤投与群と同じ投与量及び投与スケジュールでFTD・TPI配合剤とパニツムマブを投与した。
【0064】
抗腫瘍効果の指標として、各群のDay 5、8、12、15のTVを算出し、実施例1の式によりDay 0に対する相対腫瘍体積(relative tumor volume:RTV)を求めてプロットし、無処置群(control)、FTD・TPI配合剤投与群、パニツムマブ投与群及びFTD・TPI配合剤とパニツムマブ併用投与群のRTVの経日的推移を比較した。また、毒性として体重減少を評価した。結果を表12及び図14図17に示す。
【0065】
【表12】
【0066】
表12及び図14図17に示す通り、FTD・TPI配合剤がFTDとして150mg/kg/day(ヒトにおける70mg/m2/day相当)、パニツムマブが0.3〜8mg/kg/day(ヒトにおける0.23〜6mg/kg/day相当)のとき、顕著な抗腫瘍効果の増強が見られ、パニツムマブが0.89〜8mg/kg/day(ヒトにおける0.67〜6mg/kg/day相当)のとき、統計上有意に相乗的な抗腫瘍効果が得られた。
【0067】
また、いずれの投与群も許容できる程度の体重減少であり、併用投与による副作用の増大は確認されなかった。FTD・TPI配合剤投与群では−16.2%の体重減少が確認されたところ、FTD・TPI配合剤と0.89〜8mg/kg/dayのパニツムマブ併用投与群では8.7〜10.6%と体重減少が軽減していた。通常、抗腫瘍剤の併用投与では抗腫瘍効果の増強に伴い副作用が増大するところ、本発明では抗腫瘍効果が増強しつつ、且つ副作用が軽減しており、非常に驚くべき結果である。
【0068】
以上から、FTD・TPI配合剤が、副作用の発症を抑えつつ、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブの抗腫瘍効果を顕著に増大することが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図17