特許第6557771号(P6557771)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557771層状複水酸化物を含む機能層及び複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557771
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】層状複水酸化物を含む機能層及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20190729BHJP
   C01F 7/00 20060101ALI20190729BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20190729BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20190729BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20190729BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   C01F7/00 C
   C01G53/00 A
   C01G23/04 C
   H01M2/16 M
   H01M2/16 P
   B32B5/18
   B32B9/00 A
【請求項の数】26
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-226808(P2018-226808)
(22)【出願日】2018年12月3日
(62)【分割の表示】特願2018-524146(P2018-524146)の分割
【原出願日】2017年6月21日
(65)【公開番号】特開2019-79815(P2019-79815A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2018年12月28日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/003333
(32)【優先日】2017年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/012422
(32)【優先日】2017年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/012427
(32)【優先日】2017年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/012435
(32)【優先日】2017年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-125531(P2016-125531)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-125554(P2016-125554)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-125562(P2016-125562)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 直子
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−235437(JP,A)
【文献】 特開2003−277646(JP,A)
【文献】 特開2016−084263(JP,A)
【文献】 特開2001−302944(JP,A)
【文献】 特許第6448861(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
B32B 5/18
B32B 9/00
C01F 7/00
C01G 23/04
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材上に設けられ、且つ/又は前記多孔質基材中に組み込まれる、層状複水酸化物を含む機能層と、
を含む、複合材料であって、
前記機能層がチタニアをさらに含み、前記機能層が0.1mS/cm以上のイオン伝導率を有する、複合材料
【請求項2】
前記チタニアの結晶構造がアナターゼ型又はルチル型である、請求項1に記載の複合材料
【請求項3】
前記機能層の表面をX線回折法により測定した場合に、前記層状複水酸化物の(003)面に由来するピーク強度ILDHに対する、前記チタニアに起因するピーク強度ITiO2の比、すなわち比ITiO2/ILDHが0.1以上であり、
前記ITiO2は、前記チタニアがアナターゼ型の場合は最強線である(101)面に由来するピーク強度であり、前記チタニアがルチル型の場合は最強線である(110)面に由来するピーク強度である、請求項2に記載の複合材料
【請求項4】
前記比ITiO2/ILDHが10以下である、請求項3に記載の複合材料
【請求項5】
前記比ITiO2/ILDHが1.0以下である、請求項3に記載の複合材料
【請求項6】
前記機能層が水酸化物イオン伝導性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合材料
【請求項7】
前記層状複水酸化物は、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間浸漬させた場合に、表面微構造及び結晶構造の変化が生じない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材料
【請求項8】
前記機能層は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の複合材料
【請求項9】
前記機能層が100μm以下の厚さを有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の複合材料
【請求項10】
前記多孔質基材が、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項11】
前記多孔質基材が高分子材料で構成され、前記機能層が前記多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項12】
前記複合材料は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項11のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項13】
請求項12のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた電池。
【請求項14】
層状複水酸化物を含む機能層であって、
前記機能層がチタニアをさらに含み、前記機能層は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、機能層。
【請求項15】
前記チタニアの結晶構造がアナターゼ型又はルチル型である、請求項14に記載の機能層。
【請求項16】
前記機能層の表面をX線回折法により測定した場合に、前記層状複水酸化物の(003)面に由来するピーク強度ILDHに対する、前記チタニアに起因するピーク強度ITiO2の比、すなわち比ITiO2/ILDHが0.1以上であり、
前記ITiO2は、前記チタニアがアナターゼ型の場合は最強線である(101)面に由来するピーク強度であり、前記チタニアがルチル型の場合は最強線である(110)面に由来するピーク強度である、請求項15に記載の機能層。
【請求項17】
前記比ITiO2/ILDHが10以下である、請求項16に記載の機能層。
【請求項18】
前記比ITiO2/ILDHが1.0以下である、請求項16に記載の機能層。
【請求項19】
前記機能層が水酸化物イオン伝導性を有する、請求項1418のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項20】
前記層状複水酸化物は、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間浸漬させた場合に、表面微構造及び結晶構造の変化が生じない、請求項1419のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項21】
前記機能層が100μm以下の厚さを有する、請求項1420のいずれか一項に記載の機能層。
【請求項22】
多孔質基材と、
前記多孔質基材上に設けられ、且つ/又は前記多孔質基材中に組み込まれる、請求項1421のいずれか一項に記載の機能層と、
を含む、複合材料。
【請求項23】
前記多孔質基材が、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項22に記載の複合材料。
【請求項24】
前記多孔質基材が高分子材料で構成され、前記機能層が前記多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている、請求項23に記載の複合材料。
【請求項25】
前記複合材料は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項2224のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項26】
請求項1421のいずれか一項に記載の機能層又は請求項2225のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状複水酸化物を含む機能層及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物(以下、LDHともいう)は、積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びHOを有する物質であり、その特徴を活かして触媒や吸着剤、耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。
【0003】
また、LDHは水酸化物イオンを伝導する材料としても注目され、アルカリ形燃料電池の電解質や亜鉛空気電池の触媒層への添加についても検討されている。特に、近年、ニッケル亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池等のアルカリ二次電池用の固体電解質セパレータとしてのLDHの利用も提案されており、かかるセパレータ用途に適したLDH含有機能層を備えた複合材料が知られている。例えば、特許文献1(国際公開第2015/098610号)には、多孔質基材と、多孔質基材上及び/又は中に形成される透水性を有しないLDH含有機能層とを備えた複合材料が開示されており、LDH含有機能層が、一般式:M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+はMg2+等の2価の陽イオン、M3+はAl3+等の3価の陽イオンであり、An−はOH、CO2−等のn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)で表されるLDHを含むことが記載されている。特許文献1に開示されるLDH含有機能層は、透水性を有しない程に緻密化されているため、セパレータとして用いた場合に、アルカリ亜鉛二次電池の実用化の障壁となっている亜鉛デンドライト進展や、亜鉛空気電池における空気極からの二酸化炭素の侵入を阻止することができる。
【0004】
しかしながら、LDHが適用されるアルカリ二次電池(例えば金属空気電池やニッケル亜鉛電池)の電解液には、高い水酸化物イオン伝導度が要求され、それ故、pHが14程度で強アルカリ性のKOH水溶液が用いられることが望まれる。このため、LDHにはこのような強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。この点、特許文献2(国際公開第2016/51934号)には、上述した一般式のM2+及び/又はM3+に対応する金属元素(例えばAl)を含む金属化合物を電解液に溶解させておくことでLDHの電解液による浸食が抑制されるように構成された、LDH含有電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/098610号
【特許文献2】国際公開第2016/051934号
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、LDHを含む機能層にチタニアをさらに含ませることで、アルカリ電解液に対する耐久性(すなわち耐アルカリ性)が向上するとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、耐アルカリ性が向上したLDH含有機能層及びそれを備えた複合材料を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、層状複水酸化物を含む機能層であって、
前記機能層がチタニアをさらに含むことを特徴とする、機能層が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、多孔質基材と、
前記多孔質基材上に設けられ、且つ/又は前記多孔質基材中に組み込まれる機能層と、
を含む、複合材料が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、前記機能層又は前記複合材料をセパレータとして備えた電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のLDH含有複合材料の一態様を示す模式断面図である。
図2】本発明のLDH含有複合材料の他の一態様を示す模式断面図である。
図3】例1〜6で用いた電気化学測定系を示す模式断面図である。
図4A】例1〜6の緻密性判定試験で使用された測定用密閉容器の分解斜視図である。
図4B】例1〜6の緻密性判定試験で使用された測定系の模式断面図である。
図5A】例1〜6で使用されたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
図5B図5Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
図6】例3において作製された機能層のX線回折結果である。
図7】例3において作製された機能層について得られた、BF−STEM像、FFT解析パターン、及びアナターゼ型酸化チタンの電子解析シミュレーション結果である。
図8】例3において作製された機能層の、KOH水溶液への浸漬前及び70℃で3週間浸漬後における表面微構造を示すSEM画像である。
図9】例3において作製された機能層の、KOH水溶液への浸漬前及び70℃で3週間浸漬後のX線回折結果である。
図10】例6において作製された機能層及び複合材料の断面微構造を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
LDH含有機能層及び複合材料
本発明の機能層は、層状複水酸化物(LDH)を含む層である。この機能層はチタニアをさらに含むものである。前述のとおり、アルカリ二次電池用LDHには強アルカリ性電解液中においても殆ど劣化しないといった高度な耐アルカリ性が望まれる。この点、本発明によれば、LDHを含む機能層にチタニアをさらに含ませることで、アルカリ電解液に対する耐久性(すなわち耐アルカリ性)を向上させることができる。そうでありながらも、本発明の機能層は、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。すなわち、本発明によれば、イオン伝導性のみならず耐アルカリ性にも優れたLDH含有機能層を提供することができる。
【0013】
本発明の機能層におけるチタニアの結晶構造は特に限定されないが、好ましくはアナターゼ型又はルチル型である。機能層に含まれるチタニアの含有割合は機能層のイオン伝導性を殆ど損なわずに耐アルカリ性を向上できる量であるのが好ましく、特に限定されない。チタニアの含有割合はX線回折法により特定することができる。機能層の表面をX線回折法により測定した場合に、層状複水酸化物の(003)面に由来するピーク強度ILDHに対する、チタニアに起因するピーク強度ITiO2の比(すなわち比ITiO2/ILDH)が0.1以上であるのが好ましく、より好ましくは0.1以上10以下であり、さらに好ましくは0.1以上1.0以下である。チタニアがアナターゼ型の場合、ITiO2は、最強線である(101)面に由来するピーク強度であり、そのような最強線ピークは典型的には2θ=24.5〜26.5°に検出される。一方、チタニアがルチル型の場合、ITiO2は、最強線である(110)面に由来するピーク強度であり、そのような最強線ピークは典型的には2θ=26.5〜28.5°に検出される。機能層のITiO2/ILDHが上記範囲内であることで、イオン伝導性と耐アルカリ性の両方に優れたLDH含有機能層を提供できる。
【0014】
本発明の機能層におけるLDHの組成は特に限定されない。一般的に知られているように、LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。機能層に含まれるLDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO2−を含む。本発明におけるLDHは上述した耐アルカリ性評価により表面微構造及び結晶構造の変化が生じないものが好ましい。また、上述したとおり、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含むか、又はNi、Al及びOH基を含む。LDHの中間層は、上述のとおり、陰イオン及びHOで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、LDHの水酸化物基本層をNi、Al、OH基及び場合によりTiを含む所定の元素ないしイオンで構成することにより、機能層のイオン伝導性と耐アルカリ性の両方を向上することができる。この場合、LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基以外の他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、OH基、及び場合によりTiを主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、OH基、及び場合によりTiからなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、OH基、及び場合によりTi及び/又は不可避不純物で構成されるのが典型的である。例えば、水酸化物基本層が、Ni、Al、Ti及びOH基で構成される、又はNi、Al、Ti、OH基及び不可避不純物で構成される。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。機能層に含まれるLDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO2−を含む。上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni2+1−x−yAl3+Ti4+(OH)n−(x+2y)/n・mHO(式中、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0016】
機能層に含まれるLDHは、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に70℃で3週間(すなわち504時間)浸漬させた場合に、表面微構造及び結晶構造の変化が生じないのが、耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。表面微構造の変化の有無はSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた表面微構造により、結晶構造の変化の有無はXRD(X線回折)を用いた結晶構造解析(例えばLDH由来の(003)ピークのシフトの有無)により、好ましく行うことができる。
【0017】
機能層(特に機能層に含まれるLDH)は水酸化物イオン伝導性を有するのが好ましい。特に、機能層は0.1mS/cm以上のイオン伝導率を有するのが好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、より好ましくは1.0mS/cm以上である。イオン伝導率が高ければ高い方が良く、その上限値は特に限定されないが、例えば10mS/cmである。このように高いイオン伝導率であると電池用途に特に適する。例えば、LDHの実用化のためには薄膜化による低抵抗化が望まれるが、本態様によれば望ましく低抵抗なLDH含有機能層を提供できるので、亜鉛空気電池やニッケル亜鉛電池等のアルカリ二次電池へ固体電解質セパレータとしてLDHの適用においてとりわけ有利となる。
【0018】
好ましくは、機能層は、多孔質基材上に設けられ、且つ/又は多孔質基材中に組み込まれる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、多孔質基材と、多孔質基材上に設けられ且つ/又は多孔質基材中に組み込まれる機能層とを含む、複合材料が提供される。例えば、図1に示される複合材料10のように、機能層14は、その一部が多孔質基材12中に組み込まれ、残りの部分が多孔質基材12上に設けられてもよい。このとき、機能層14のうち多孔質基材12上の部分がLDH膜からなる膜状部であり、機能層14のうち多孔質基材12に組み込まれる部分が多孔質基材とLDHで構成される複合部であるといえる。複合部は、典型的には、多孔質基材12の孔内がLDHで充填された形態となる。また、図2に示される複合材料10’のように、機能層14’の全体が多孔質基材12中に組み込まれる場合には、機能層14’は主として多孔質基材12及びLDHで構成されるといえる。図2に示される複合材料10’及び機能層14’は、図1に示される複合材料10から機能層14における膜状部(LDH膜)を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。図1及び2では多孔質基材12,12’の表面近傍の一部にのみ機能層14,14’が組み込まれているが、多孔質基材のいかなる箇所に機能層が組み込まれていてもよく、多孔質基材の全体又は全厚にわたって機能層が組み込まれていてもよい。
【0019】
本発明の複合材料における多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有機能層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有機能層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有機能層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液を機能層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0020】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましくはセラミックス材料及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有機能層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム、亜鉛、及びニッケルが挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。
【0021】
多孔質基材は高分子材料で構成されるのが特に好ましい。高分子多孔質基材には、1)フレキシブル性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔がLDHで埋まっている)のが特に好ましい。この場合における高分子多孔質基材の好ましい厚さは、5〜200μmであり、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは5〜30μmである。このような高分子多孔質基材として、リチウム電池用セパレータとして市販されているような微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0022】
多孔質基材は、最大100μm以下の平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは最大50μm以下であり、例えば、典型的には0.001〜1.5μm、より典型的には0.001〜1.25μm、さらに典型的には0.001〜1.0μm、特に典型的には0.001〜0.75μm、最も典型的には0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有機能層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡画像の倍率は20000倍以上であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0023】
多孔質基材は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有機能層を形成することができる。多孔質基材の気孔率はアルキメデス法により好ましく測定することができる。もっとも、多孔質基材が高分子材料で構成され、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている場合、多孔質基材の気孔率は30〜60%が好ましく、より好ましくは40〜60%である。
【0024】
機能層は通気性を有しないのが好ましい。すなわち、機能層は通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「通気性を有しない」とは、後述する実施例で採用される「緻密性判定試験」又はそれに準ずる手法ないし構成で通気性を評価した場合に、水中で測定対象物(すなわち機能層及び/又は多孔質基材)の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。こうすることで、機能層又は複合材料は、全体として、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。電池用固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、バルク形態のLDH緻密体では高抵抗であるとの問題があったが、本発明の好ましい態様においては、多孔質基材により強度を付与できるため、LDH含有機能層を薄くして低抵抗化を図ることができる。その上、多孔質基材は透水性及び通気性を有しうるため、電池用固体電解質セパレータとして使用された際に電解液がLDH含有機能層に到達可能な構成となりうる。すなわち、本発明のLDH含有機能層及び複合材料は、金属空気電池(例えば亜鉛空気電池)及びその他各種亜鉛二次電池(例えばニッケル亜鉛電池)等の各種電池用途に適用可能な固体電解質セパレータとして、極めて有用な材料となりうる。
【0025】
機能層又はそれを備えた複合材料は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。このような範囲内のHe透過度を有する機能層は緻密性が極めて高いといえる。したがって、He透過度が10cm/min・atm以下である機能層は、アルカリ二次電池においてセパレータとして適用した場合に、水酸化物イオン以外の物質の通過を高いレベルを阻止することができる。例えば、亜鉛二次電池の場合、電解液中においてZnの透過を極めて効果的に抑制することができる。こうしてZn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、機能層の一方の面にHeガスを供給して機能層にHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して機能層の緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に機能層に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもHガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、機能層が亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価A5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0026】
機能層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことで機能層の低抵抗化を実現できる。機能層が多孔質基材上にLDH膜として形成される場合、機能層の厚さはLDH膜からなる膜状部の厚さに相当する。また、機能層が多孔質基材中に組み込まれて形成される場合には、機能層の厚さは多孔質基材及びLDHからなる複合部の厚さに相当する。なお、機能層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合には膜状部(LDH膜)と複合部(多孔質基材及びLDH)の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0027】
LDH及びチタニア含有機能層及び複合材料の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDH含有機能層及び複合材料の製造方法(例えば特許文献1及び2を参照)の諸条件を適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材にアルミナ及びチタニアの混合ゾルを塗布して熱処理することでアルミナ・チタニア層を形成させ、(3)ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDH含有機能層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより、LDH含有機能層及び複合材料を製造することができる。混合ゾルとしては、無定形アルミナ溶液に酸化チタンゾル溶液を加えたものを用いるのが好ましい。特に、上記工程(2)においてアルミナ・チタニア層を多孔質基材に形成することで、LDHの原料を与えるのみならず、LDH結晶成長の起点として機能させて多孔質基材の表面に高度に緻密化されたLDH含有機能層をムラなく均一に形成することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。
【0028】
特に、多孔質基材が高分子材料で構成され、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている複合材料を作製する場合、上記(2)におけるアルミナ及びチタニアの混合ゾルの基材への塗布を、混合ゾルが基材内部の全体又は大部分に浸透させるような手法で行うのが好ましい。こうすることで最終的に多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔をLDHで埋めることができる。好ましい塗布手法の例としては、ディップコート、ろ過コート等が挙げられ、特に好ましくはディップコートである。ディップコート等の塗布回数を調整することで、混合ゾルの付着量を調整することができる。ディップコート等により混合ゾルが塗布された基材は、乾燥させた後、上記(3)及び(4)の工程を実施すればよい。
【実施例】
【0029】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例で作製される機能層及び複合材料の評価方法は以下のとおりとした。
【0030】
評価1:機能層の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、機能層の結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)及びJCPDSカードNO.01−071−1169に記載されるTiOの回折ピークを用いて同定を行った。LDHの(003)面に由来するピーク強度ILDH(2θ=11.42°付近に検出)対する、チタニアに起因するピーク強度ITiO2の比、すなわち比ITiO2/ILDHを算出した。このとき、ITiO2として、アナターゼ型チタニアの最強線である(101)面に由来するピーク強度(2θ=25.16°付近に検出)を採用した。
【0031】
評価2:チタニアの同定
走査透過電子顕微鏡(STEM)(製品名:JEM−ARM200F、JEOL社製)を用いて、機能層のBF−STEM像を取得した。得られたBF−STEM像を高速フーリエ変換(FFT)解析して、FFT解析パターンを得た。得られたFFT解析パターンを、アナターゼ型酸化チタンの電子解析シミュレーション結果と比較して、FFT解析パターンから読み取れる格子定数がアナターゼ型酸化チタンと概ね一致するか否かを確認した。
【0032】
評価3:イオン伝導率の測定
電解液中での機能層の伝導率を図3に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。複合材料試料S(LDH膜付き多孔質基材)を両側から厚み1mmシリコーンパッキン40で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル42に組み込んだ。電極46として、#100メッシュのニッケル金網をセル42内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液44として、6MのKOH水溶液をセル42内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタッド−周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz〜0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片を複合材料試料S(LDH膜付き多孔質基材)の抵抗とした。上記同様の測定をLDH膜の付いていない多孔質基材のみに対しても行い、多孔質基材のみの抵抗も求めた。複合材料試料S(LDH膜付き多孔質基材)の抵抗と基材のみの抵抗の差をLDH膜の抵抗とした。LDH膜の抵抗と、LDHの膜厚及び面積を用いて伝導率を求めた。
【0033】
評価4:耐アルカリ性評価
6mol/Lの水酸化カリウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させて、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を得た。こうして得られた水酸化カリウム水溶液15mlをテフロン(登録商標)製密閉容器に入れた。1cm×0.6cmのサイズの複合材料を機能層が上を向くように密閉容器の底に設置し、蓋を閉めた。その後、70℃又は30℃で1週間(すなわち168時間)又は3週間(すなわち504時間)保持した後、複合材料を密閉容器から取り出した。取り出した複合材料を室温で1晩乾燥させた。得られた試料について、SEMによる微構造観察およびXRDによる結晶構造観察を行った。XRDによる結晶構造観察においては、水酸化カリウム水溶液への浸漬前後でのLDHの(003)ピークに関して、0.25°を超えるピーク位置(2θ)のシフトが生じた場合に、結晶構造が有意に変化したものと判断した。
【0034】
なお、SEMによる微構造観察は以下のようにして行った。すなわち、機能層の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。また、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000によって、機能層(LDH膜からなる膜状部とLDH及び基材からなる複合部)の断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を表面微構造の観察と同様の条件でSEMにより観察した。一方、XRDによる結晶構造観察は評価1と同様にして行った。
【0035】
評価5:元素分析評価(EDS)
クロスセクションポリッシャ(CP)により、機能層(LDH膜からなる膜状部とLDH及び基材からなる複合部)の断面研磨面が観察できるように研磨した。FE−SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、機能層(LDH膜からなる膜状部とLDH及び基材からなる複合部)の断面イメージを10000倍の倍率で1視野取得した。この断面イメージの基材表面のLDH膜と基材内部のLDH部分(点分析)についてEDS分析装置(NORAN System SIX、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)により、加速電圧15kVの条件にて、元素分析を行った。
【0036】
評価6:緻密性判定試験
機能層が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図4A及び4Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに複合材料試料136の機能層136b側を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料136の機能層136b側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の多孔質基材136a側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して機能層136a内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料136から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった場合に、機能層136bは通気性を有しない程に高い緻密性を有するものと判定した。
【0037】
評価7:He透過測定
He透過性の観点から機能層の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図5A及び図5Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持された機能層318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0038】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、機能層318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a、326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a、326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a、328b(PTFE製)で挟持した。こうして、機能層318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。なお、機能層318は多孔質基材320上に形成された複合材料の形態であるが、機能層318側がガス供給口316aに向くように配置した。支持部材328a、328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管34を接続した。
【0039】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持された機能層318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時に機能層に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。
【0040】
例1(比較)
LDHを含む(チタニアを含まない)機能層及び複合材料を以下の手順により作製し、評価した。
【0041】
(1)多孔質基材の作製
ジルコニア粉末(東ソー社製、TZ−8YS)100重量部に対して、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)70重量部、バインダー(ポリビニルブチラール:積水化学工業株式会社製BM−2)11.1重量部、可塑剤(DOP:黒金化成株式会社製)5.5重量部、及び分散剤(花王株式会社製レオドールSP−O30)2.9重量部を混合し、この混合物を減圧下で攪拌して脱泡することにより、スラリーを得た。このスラリーを、テープ成型機を用いてPETフィルム上に、乾燥後膜厚が220μmとなるようにシート状に成型してシート成形体を得た。得られた成形体を2.0cm×2.0cm×厚さ0.022cmの大きさになるよう切り出し、1100℃で2時間焼成して、ジルコニア製多孔質基材を得た。
【0042】
得られた多孔質基材について、多孔質基材の気孔率をアルキメデス法により測定したところ、40%であった。
【0043】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ0.2μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0044】
(2)多孔質基材へのアルミナゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)0.2mlを上記(1)で得られたジルコニア製多孔質基材上へスピンコートにより塗布した。スピンコートは、回転数8000rpmで回転した基材へ混合ゾルを滴下してから5秒後に回転を止め、100℃に加熱したホットプレートへ基材を静置し、1分間乾燥させた。その後、電気炉にて300℃で熱処理を行った。こうして形成された層の厚さは1μm程度であった。
【0045】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO、関東化学株式会社製、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。0.015mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO(モル比)=16の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0046】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で作製した基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で24時間、水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間放置し、乾燥させて、LDHを含む機能層を、その一部が多孔質基材中に組み込まれた形で得た。得られた機能層の厚さは(多孔質基材に組み込まれた部分の厚さを含めて)約5μmであった。
【0047】
(5)評価結果
得られた機能層ないし複合材料に対して評価1及び3〜7を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:得られたXRDプロファイルから、機能層はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)を含むことが確認された。また、機能層はチタニアを含まないことが確認された。したがって、比ITiO2/ILDHは表1に示されるとおり0であった。
‐評価3:機能層のイオン伝導率は表1に示されるとおり2.2mS/cmであった。
‐評価4:耐アルカリ性評価におけるSEM観察結果は表1に示されるとおりであった。表1から分かるように、30℃又は70℃の水酸化カリウム水溶液に1週間浸漬させた後においても、機能層の微構造に変化はみられなかった。しかし、70℃の水酸化カリウム水溶液に3週間浸漬させた後に、機能層の微構造に変化がみられた。一方、耐アルカリ性評価におけるXRD結果は、表1に示されるとおり、いずれの浸漬条件においても機能層の結晶構造に有意な変化はみられなかった。
‐評価5:EDS元素分析の結果、機能層に含まれるLDH、すなわち基材表面のLDH膜と基材内のLDH部分のいずれにおいても、LDH構成元素となりうるC、Al及びNiが検出された。すなわち、Al及びNiは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO2−に対応する。
‐評価6:機能層及び複合材料は通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
‐評価7:機能層及び複合材料のHe透過度は0.0cm/min・atmであった。
【0048】
例2〜4
例1(2)におけるアルミナゾルコートの代わりに、以下に示される手順でアルミナ・チタニアゾルコートを行ったこと以外、例1と同様にして、LDH及びチタニアを含む機能層及び複合材料を作製し、評価した。
【0049】
(多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート)
無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)をTi/Alモル比が1(例2)、2(例3)又は5(例4)となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾル0.2mlを例1の(1)で得られたジルコニア製多孔質基材上へスピンコートにより塗布した。スピンコートは、回転数8000rpmで回転した基材へ混合ゾルを滴下してから5秒後に回転を止め、100℃に加熱したホットプレートへ基材を静置し、1分間乾燥させた。その後、電気炉にて300℃で熱処理を行った。こうして形成された層の厚さは1μm程度であった。
【0050】
(評価結果)
得られた機能層ないし複合材料に対して評価1〜7を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:得られたXRDプロファイルから、例2〜4で得られた機能層はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)とチタニアを含むことが確認された。図6に例3において作製された機能層のX線回折結果を示す。また、ピーク強度比ITiO2/ILDHは表1に示されるとおり0.1〜0.4であった。
‐評価2:例2〜4の機能層について得られたFFT解析パターンから読み取れる格子定数はアナターゼ型酸化チタンの電子解析シミュレーション結果と概ね一致しており、アナターゼ型のチタニアを含むことが確認された。図7に、例3の機能層について得られたBF−STEM像及びFFT解析パターンを示す。
‐評価3:例2〜4の機能層のイオン伝導率は表1に示されるとおり2.0〜2.2mS/cmであり、比較例である例1及び5と同等レベルであった。
‐評価4:耐アルカリ性評価におけるSEM観察結果は表1に示されるとおりであった。また、KOH水溶液への浸漬前、及び70℃で3週間浸漬後における例3の機能層の表面微構造を撮影したSEM画像は図8に示されるとおりであった。表1及び図8から分かるように、70℃の水酸化カリウム水溶液に3週間浸漬させた後においても、機能層の微構造に変化はみられなかった。一方、耐アルカリ性評価におけるXRD結果は、表1に示されるとおりであった。また、KOH水溶液への浸漬前、及び70℃で3週間浸漬後における例3の機能層のX線回折結果は図9に示されるとおりであった。表1及び図9から分かるように、70℃の水酸化カリウム水溶液に3週間浸漬させた後においても例2〜4のいずれにおいても結晶構造に有意な変化はみられなかった。すなわち、LDHを含むがチタニアを含まない機能層に関する前述の例1及び後述の例5と比較して、LDH及びチタニアを含む機能層に関する例2〜4では、耐アルカリ性に優れることが分かる。実際、例2〜4の機能層に含まれるLDHの(003)ピークの位置は、KOH水溶液への浸漬前、1週間浸漬後及び3週間浸漬後のいずれの機能層においても、表1に示されるとおり、有意な変化はみられなかった。
‐評価5:EDS元素分析の結果、機能層に含まれるLDH、すなわち基材表面のLDH膜と基材内のLDH部分のいずれにおいても、LDH構成元素となりうるC、Al、Ti及びNiが検出された。すなわち、Al、Ni及び場合によりTiは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO2−に対応する。また、Tiはチタニアにも対応しているのはいうまでもない。
‐評価6:機能層及び複合材料は通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
‐評価7:機能層及び複合材料のHe透過度は0.0cm/min・atmであった。
【0051】
例5(比較)
Mg及びAl含有LDHを含む機能層及び複合材料を以下の手順により作製し、評価した。
【0052】
(1)多孔質基材の作製
アルミナ粉末(住友化学社製、AES−12)100重量部に対して、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)70重量部、バインダー(ポリビニルブチラール:積水化学工業株式会社製BM−2)11.1重量部、可塑剤(DOP:黒金化成株式会社製)5.5重量部、及び分散剤(花王株式会社製レオドールSP−O30)2.9重量部を混合し、この混合物を減圧下で攪拌して脱泡することにより、スラリーを得た。このスラリーを、テープ成型機を用いてPETフィルム上に、乾燥後膜厚が220μmとなるようにシート状に成型してシート成形体を得た。得られた成形体を2.0cm×2.0cm×厚さ0.022cmの大きさになるよう切り出し、1300℃で2時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。得られた多孔質基材について、多孔質基材の気孔率をアルキメデス法により測定したところ、40%であった。また、多孔質基材の平均気孔径を例1と同様にして測定したところ0.3μmであった。
【0053】
(2)ポリスチレンスピンコート及びスルホン化
ポリスチレン基板0.6gをキシレン溶液10mlに溶かして、ポリスチレン濃度0.06g/mlのスピンコート液を作製した。得られたスピンコート液0.1mlを多孔質基材上に滴下し、回転数8000rpmでスピンコートにより塗布した。このスピンコートは、滴下と乾燥を含めて200秒間行った。スピンコート液を塗布した多孔質基材を95%硫酸に25℃で4日間浸漬してスルホン化した。
【0054】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg2+/Al3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を70mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO(モル比)=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0055】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)でスルホン化した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面にLDH配向膜の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、LDHを含む機能層を、その一部が多孔質基材中に組み込まれた形で得た。得られた機能層の厚さは(多孔質基材に組み込まれた部分の厚さを含めて)約3μmであった。
【0056】
(5)評価結果
得られた機能層ないし複合材料に対して評価1及び3〜7を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:得られたXRDプロファイルから、機能層はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)を含むことが確認された。また、機能層はチタニアを含まないことが確認された。
‐評価3:機能層のイオン伝導率は表1に示されるとおり2.0mS/cmであった。
‐評価4:耐アルカリ性評価におけるSEM観察結果は表1に示されるとおりであった。表1から分かるように、例1〜4の70℃よりも低い30℃の水酸化カリウム水溶液に1週間浸漬させた後ですら(すなわち例1〜4よりも穏やかなアルカリ条件ですら)、機能層の微構造に変化がみられた。また、KOH水溶液への浸漬前、及び30℃で1週間浸漬後における機能層のX線回折結果は表1に示されるとおりであった。表1から分かるように、例1〜4の70℃よりも低い30℃の水酸化カリウム水溶液に1週間浸漬させた後ですら(すなわち例1〜4よりも穏やかなアルカリ条件ですら)、結晶構造に変化がみられた。特に、機能層に含まれるLDHの(003)ピークの位置は、KOH水溶液への浸漬前が2θ=11.70であったのに対し、1週間浸漬後には2θ=11.44にシフトしていた。この(003)ピークのシフトは、LDHに含まれるAlがKOH水溶液に溶出してLDHを劣化させたことを示唆しうるものである。これらの結果より、例5の機能層は例1〜4の機能層よりも耐アルカリ性に劣る、すなわち例1〜4の機能層(とりわけ本発明例である例2〜4の機能層)は比較例である例5の機能層よりも耐アルカリ性に優れることが分かった。
‐評価5:EDS元素分析の結果、機能層に含まれるLDH、すなわち基材表面のLDH膜と基材内のLDH部分のいずれにおいても、LDH構成元素であるC、Mg及びAlが検出された。すなわち、Mg及びAlは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO2−に対応する。
‐評価6:機能層及び複合材料は通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
‐評価7:機能層及び複合材料のHe透過度は0.0cm/min・atmであった。
【0057】
【表1】
【0058】
例6
高分子多孔質基材を用いて、LDH及びチタニアを含む機能層及び複合材料を以下の手順により作製し、評価した。
【0059】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリプロピレン製多孔質基材を、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0060】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)をTi/Al(モル比)=2となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾルを、上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合ゾル100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、90℃の乾燥機中で5分間乾燥させることにより行った。
【0061】
(3)原料水溶液の作製
例1(3)と同様にして、原料水溶液を作製した。
【0062】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で24時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、LDHを含む機能層を、多孔質基材中に組み込まれた形で得た。
【0063】
(5)評価結果
得られた機能層ないし複合材料に対して評価1〜7を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:得られたXRDプロファイルから、機能層はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)とチタニアを含むことが確認された。
‐評価2:得られた機能層について得られたFFT解析パターンから読み取れる格子定数はアナターゼ型酸化チタンの電子解析シミュレーション結果と概ね一致しており、アナターゼ型のチタニアを含むことが確認された。
‐評価3:機能層の伝導率は2.0mS/cmであり、前述の例1〜5と同等であった。
‐評価4:70℃の水酸化カリウム水溶液に3週間ないし7週間浸漬させた後においても、機能層の微構造に変化はみられなかった。
‐評価5:EDS元素分析の結果、機能層に含まれるLDH、すなわち基材表面のLDH膜と基材内のLDH部分のいずれにおいても、LDH構成元素となりうるC、Al、Ti及びNiが検出された。すなわち、Al、Ni及び場合によりTiは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO2−に対応する。
‐評価6:機能層及び複合材料は通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
‐評価7:機能層及び複合材料のHe透過度は0.0cm/min・atmであった。
【0064】
また、得られた機能層ないし複合材料に対して以下のとおり微構造の観察を行った。
(微構造の観察)
機能層の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。また、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000によって、機能層(LDH膜からなる膜状部とLDH及び基材からなる複合部)の断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を表面微構造の観察と同様の条件でSEMにより観察した。その結果、機能層ないし複合材料の断面微構造のSEM画像は図10に示されるとおりであった。図10から分かるように、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれていること、すなわち多孔質基材の孔が万遍なくLDHで埋まっていることが観察された。

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10