(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
カカオ豆をそれぞれの食品に加工するために利用される方法および工程のタイプは、香味(flavor)、強度、または抗酸化剤もしくはビタミンの含有量など、および収率さえに関しても、得られるカカオ製品の様々な品質に重大な影響を及ぼす。この理由から、カカオ豆をカカオ製品(食料品など)に加工するために利用される方法は、(市場における、または他の製品の強化のための使用における)このような製品の商業的実行可能性または成功または受け入れに対して決定的に重要であり得る。
【0003】
典型的なカカオ豆の処理手順は、豆の収穫とそれに続くカカオ豆の発酵および乾燥から始まる。不適切な取り扱いが豆を損傷し、発酵および焙煎の間に製品に品質の問題を引き起こす可能性があるため、カカオ莢を収穫する際には、豆を注意深く莢から取り除いて豆がその過程で傷つかないようにしなければならない。多くの有機物質と同様に、カカオの発酵は空気に曝されるとほぼすぐに始まる。天然に存在する酵母からの胞子は、砂糖分の多い豆に定着し、糖を二酸化炭素、香料およびアルコールに分解し始め、このアルコールは細菌によって提供される微生物活性によってさらに酢酸に変換される。このプロセスの最終段階(以下、「天然発酵プロセス」と呼ぶ)において、カカオ豆内の胚芽は、上記微生物活性によって生じるアルコール、酢酸および熱の存在によって不活性化され、豆の中での渋味を低減することができる酵素の放出をもたらし、このことはチョコレート香味の発現(development)にとって重要である。典型的には、この天然カカオ発酵プロセスは、微生物活性によって自発的に誘発され、微生物活性が過剰の酢酸および/または上記微生物活性によって引き起こされる熱によって阻害されるまで、約2日間以上の間、行われる。
【0004】
さらなる加工のために一度調製されれば、発酵され乾燥されたカカオ豆は、従来技術または先行技術の方法において、特許公報PCT/JP2002/012064に記載されているものなどの加工技術に供される。
【0005】
酢酸の大部分は発酵が完了した後に豆の中に残されるので、酢酸の存在によって引き起こされる最終的なカカオ製品中の酸味および苦味の香味を避けるために、豆から酢酸を除去しなければならない。
【0006】
自発的な微生物活性によって引き起こされる上述の(天然のまたは自発的な)カカオ発酵プロセスは、カカオ豆の発芽を阻害し、従って、カカオ豆の発芽の結果として生成されるであろう望ましくない香味の発生を回避することができる唯一のプロセスではない。カカオ豆の発芽は、莢から豆を除去した直後に新たに収穫したカカオ豆に特定の物理的および/または化学的な前処理を施すことによって阻害することが可能である。特に、新鮮に収穫したカカオ豆を例えば25℃と70℃との間の加熱温度で2日間に満たない間インキュベートすることにより、カカオ豆の発芽を阻害することが可能である。上記インキュベーションが滅菌(無菌)条件下で行われない場合、インキュベーションの結果として微生物活性が停止するまで、自発的な微生物活性が、少なくとも莢からカカオ豆を除去した後の一定の時間間隔において起こり得る。滅菌(無菌)条件下でない当該後者の場合には、酢酸は、上記微生物活性に起因して産生される(但し、特定量のカカオ豆のインキュベーションの間に産生される酢酸の量は、一般に、同じ量のカカオ豆の天然発酵により生成される酢酸の量よりも少ない)。
【0007】
一般に、酸の存在は、カカオ豆の香味の発現能力において重要な役割を果たすと考えられている。例えば、酢酸の存在下でのカカオ豆の前処理が、天然発酵がない場合においてさえ、チョコレート香味の発現に対して好ましい効果を有し得ることが示されてきた。V.C.Quesnel(Proceedings of "1957 Cocoa Conference"、150-155ページ)による論文において、酢酸の存在下でインキュベートされた未発酵のカカオ豆が、酢酸の非存在下でインキュベートされたものよりも強く香味付けされることが開示されている。しかし、Bole Biehl、Ernst Brunner、Detlef Passern、Victor C. QuesnelおよびDaniel Adomako著の論文「Acidification, Proteolysis and Flavour Potential in Fermenting Cocoa Beans」Journal of the Science of Food and Agriculture(J. Sci.Food Agric.)1985, 36, 583-598頁に開示されているように、酢酸の濃度が高すぎる場合には、酢酸の存在下でカカオ豆をインキュベートすると、チョコレート香味の潜在能力の低下を引き起こすことがある。従って、酢酸の存在下での未発酵カカオ豆のインキュベーションにおいて、強力なチョコレート香味の潜在能力を提供するカカオ豆を得るために、pH値が一定の範囲内になるようにカカオ豆のpH値を制御することが有利である。さらに、インキュベートされたカカオ豆の香味は、インキュベーションの間に達成されたカカオ豆の温度に依存する。カカオ豆を処理するための対応する方法は、米国特許第8,501,256 B2号から知られており、当該方法はi)カカオ豆に物理的前処理を施し、ii)前処理されたカカオ豆に対して当該カカオ豆のpHが3.6〜5.5の値に達するまで水性酸性媒体で少なくとも1回の処理を施し、ここで当該豆を工程ii)において25〜70℃の間の温度で24時間に満たない間インキュベートする。米国特許第8,501,256 B2号によれば、上記水性酸性媒体は、無機酸または有機酸のいずれか、好ましくは両親媒性酸を含んでもよいが、しかし、酢酸がカカオ豆に効率的に浸透し、濃度が十分であるときに生物学的膜に浸透することが示されているので、酢酸を使用して特に良好な結果が達成された。
【0008】
従来、酢酸の濃度は、典型的には70〜180℃の焙煎工程、およびコンチングの間に低下される。しかし、発酵豆中の酢酸濃度が高すぎると、焙煎中およびコンチング中のいずれにおいても酢酸濃度の低下が不十分となる。これは、高い酸味および苦味を有するチョコレート製品をもたらすものであるか、或いは、激しい条件(高温、長時間の熱曝露(例えば、過度の焙煎および長いコンチング時間)、および/または、酸性成分を中和するためのアルカリ化剤の使用)を要求するものである。そのような激しい条件は、抗酸化物質、芳香成分およびビタミンの含有量を減少させ、望ましくない副生成物(例えば、アクリルアミド)の生成をもたらし、そしてそれに応じて産生されるココアバターの品質を劣化させることがある。
【0009】
さらに、上に述べた理由から、高品質のチョコレートまたはチョコレート様製品の製造のための従来のプロセスは、非常に特殊な発酵段階にあって特定の画一性(consistencies)を有するカカオ豆の使用を可能にするだけであるが、しかし、これは、採用される収穫方法および乾燥方法ならびに発酵の条件が様々であることに起因して維持することが困難である。
【0010】
コンチングは、一般に、香味を発現させ、製品の粘度を低下させるために、プロセスの必須工程とみなされる。しかし、これは、製品を高温で比較的長時間維持することを伴うため、エネルギー集約的である。コンチング時間が短縮されているか、またはコンチング工程がないチョコレートを製造するための方法および装置は、WO 2004/000028に記載されており、これは、チョコレートフレークをギアポンプに送達するプレミキサーを使用する装置を開示している。欧州特許第2 180 793号明細書は、生産能力を増大させ、コンチング時間をコンチングされる混合物の生産速度に一致させるための複数の特定の混合工程および粉砕工程の実施を提案している。
【0011】
従来のカカオ豆処理で遭遇するさらなる問題は、カカオ脂肪の抽出を助ける高い機械的負荷もしくは剪断応力並びに/または高い熱による、生カカオ材料の細胞区画の破壊である。米国特許出願公開第2002/034579 A1号明細書には、低香味カカオを得るために未発酵豆を意図的に処理して細胞および細胞下構造を破壊し、次いで酸化処理を施すプロセスが開示されている。
【0012】
これに関連して、WO 2010/073117は、機械的処理の間にカカオ脂肪の液化およびチョコレートリカーの形成を避けるために、カカオ豆またはカカオニブおよび水を含む懸濁液を形成すること、懸濁した豆またはニブを多段階で湿式粉砕すること、懸濁液を加熱すること、および当該懸濁液をデカンテーションして水相分、脂肪相分および固相分に分離することを含む、カカオ豆処理方法を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のより完全な理解のために、その例示的な実施形態である以下の説明を参照する。
発酵カカオ豆および/またはニブの加工処理方法
【0025】
本発明の第1の実施形態に従う発酵カカオ豆またはカカオニブを処理する方法は、概して、発酵またはインキュベートしたカカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、上記懸濁液を湿式粉砕する工程と、上記懸濁液を70℃以下の温度で熱処理に供する工程と、上記懸濁液を水相分(重質相)、脂肪相分(軽質相)および固相分の3つの相に分離する工程であって、上記脂肪相分は主成分としてココアバターならびに微量成分として固形分および/または水を含み、上記固相分はココア粉末および水を含む工程と、上記3つの相を別々に処理する工程であって、これは、発酵の間に形成されたか或いはカカオ豆をインキュベートする前もしくはその間に形成もしくは添加された酢酸を水相分を介して中和および/または除去すること、ココアバターを脂肪相分から分離すること、ココア粉末を固相分から分離すること、および少なくとも水相分からココア香料およびポリフェノール性濃縮物を分離することを含む、工程とを包含する。
【0026】
「ココアバターを脂肪相分から分離する」および「ココア粉末を固相分から分離する」という表現は、主成分のココアバター(脂肪相分中)またはココア粉末(固相分中)の濃縮がそれぞれ達成される操作を指す。「少なくとも水相分からのココア香料およびポリフェノール粉末の分離」という表現は、ココア香料およびポリフェノール粉末をそれぞれの相から濃縮型で回収する操作を指す。これらの操作には、例えば、ろ過、乾燥プロセス(例えば、残留水のエバポレーション、場合により真空条件下)および/または遠心分離が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0027】
最初に、主題のカカオ加工技術は、一般に、カカオ豆/カカオニブの粉砕の前またはその間のいずれかに、水を添加することによって、発酵またはインキュベートしたカカオ豆またはカカオニブの懸濁液を形成することから始まる。出発材料として、発酵またはインキュベートされたホール豆を使用するか、或いは、豆を発酵させるかインキュベートし、続いて豆をより小さな非全豆粒子(例えば、カカオニブ)に砕く「崩壊」工程に供する。
【0028】
水は、カカオ豆/カカオニブ懸濁液を形成するために加えられる。
【0029】
特に限定されるものではないが、形成される懸濁液中の水対カカオ豆/カカオニブの重量比は、好ましくは1:1〜6:1の間、より好ましくは2:1〜4:1の間、とりわけ好ましくは約3:1であり、これは、以降の工程(例えば、ポンピングを容易にすること、粉砕およびより容易な相分離)における加工性に有利に影響し得る。
【0030】
追加の香味を導入するという観点から望ましい場合には、代替の水含有液体、好ましくは、コーヒー、茶、および60〜約95重量%の含水量を有する液体、例えば、フルーツジュース、フルーツジュース濃縮物、またはミルクなどの1種以上から選択される液体もまた、水の供給源として使用してもよい。このような場合において、形成された懸濁液中の含水量が上記に定義した比率に入ることが好ましい。以降の方法工程における熱負荷は比較的低いので、上記液体に由来する温度感受性香味が保持され、カカオ豆の主要な香味および副次的な香味と良好に相互作用する可能性がある。
【0031】
コーヒー豆の内容物が湿式製粉および相分離工程を妨害したりまたは悪影響を及ぼしたりしないようにカカオ豆/カカオニブが豆の混合物中の主要部分を形成するならば、コーヒー風味のカカオ製品を得るために、水懸濁液を形成するときにコーヒー豆(ホールまたは破砕、未焙煎または焙煎)を発酵カカオ豆/カカオニブに混合してもよい。好ましくは、コーヒー豆の含有量は、豆の混合物の20重量%未満、より好ましくは10重量%未満である。
【0032】
カカオ豆/カカオニブは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは20μm以下の豆粒サイズをもたらす、単回または複数回の湿式粉砕工程に供される。このようなサイズ範囲まで豆粒を減少させることは、豆粒材料の露出表面積を実質的に増加させ、従って、抽出結果の改善(例えば、脂肪または脂質、芳香物質、および/またはポリフェノールの抽出の改善)のために、これをより効率的に濡らすことを可能にする(例えば、化学溶媒ではなく水を用いて)。豆粒サイズの減少は、例えば、ディスクミル(例えば、有孔ディスクミル)、コロイドミル(例えば、歯付きコロイドミル)、またはコランダム石ミルを使用することによって達成されてもよい。少なくとも1回の粉砕工程において、カカオ豆セルは、ふやかされたカカオ豆の利用可能な表面積の増加によって溶媒(水)がカカオ豆材料をより良好に湿らせることができるように、ふやかされることが好ましい。湿式粉砕のために使用される方法および装置は、顕著な摩擦熱生成または高い機械的力による望ましくない乳化が回避される限り、特に限定されない。例えば、複数回の粉砕工程を使用する場合、粗い湿式粉砕工程(例えば、場合によってはさらなる水を用いる)を有孔ディスクミルを用いて実施してもよく、粗粉砕懸濁液を細かい粉砕工程のために歯付きコロイドミルにポンプで送り込んでもよい。
【0033】
湿式粉砕工程の後、懸濁液は、全体的な熱負荷を低減し、乳化を防止するために、約70℃以下の温度で熱処理に供される。ココアバター収率と、芳香物質、抗酸化物質および/またはビタミン等の所望の香味の保存との、好ましいバランス観点から、加熱温度は43〜65℃が好ましい。ココアバターの液化および/または機械的相分離の改善の点で、45〜50℃の加熱温度範囲が特に好ましい。湿式粉砕された懸濁液の加熱は、スクラップまたはチューブ熱交換器によって行われてもよいが、これに限定されるものではない。
【0034】
その後、3つの相、すなわち、水相分(重質相)、脂肪相分(軽質相)、および固相分が得られるように相分離を行い、ここで、上記脂肪相分はココアバターを主成分として、ならびに微量成分として固形分および/または水を含み、上記固相分はココア粉末および水を含む。加えて、上記固相分は、総乾燥重量に対して30重量%まで、好ましくは27重量%未満、より好ましくは20重量%未満の含有量の残留ココアバターを含んでもよい。好ましくは、機械的な粒子分離を達成するために、デカンタまたはノズルセパレータなど、遠心力を利用する装置を利用してもよい。例えば、懸濁液は、液体から粗い又は大きい又は高質量の固形分を分離するためにデカンテーションされてもよく、次いで、より小さく、および/または微細な固形分粒子が液体からさらに分離されてもよく、および/または油脂製品が非油脂製品から分離されてもよい。
【0035】
水相分(重質相)、脂肪相分(軽質相)および固相分の間の分離の改善を達成するために、複数の相分離工程および再び合わせる工程を利用することができる。例えば、最初のデカンテーション工程によって得られた脂肪相分をさらにろ過または遠心分離して残存する微粒子または水を脂肪相分から分離し、このように得られた微粒子および水を、最初のデカンテーション工程から、または上記の相のより後の処理段階の水相分および固相分と再び合わせてもよい。また、水相分は、微粒子を除去して液体の曇りを減少させるために、例えば、真空回転フィルターを用いるろ過による、さらなる精製工程に供されてもよい。
【0036】
3つの相(すなわち、水相分(重質相)、脂肪相分(軽質相)および固相分)の分離に際し、これらを独立して処理して、
図1に図示されるように、ココアバター(脂肪相分から)、ココア粉末(固相分から)、ココア香料(少なくとも水相分から、場合によっては固相分からも)およびポリフェノール性濃縮物(水相分から)を分離してもよい。
【0037】
上記のように、脂肪相分(軽質相)は、(例えば、振動ふるいを利用することによって)ろ過され、および/または3相分離機(例えば、遠心分離機)に運ばれて、微粒子(これは、場合によっては、乾燥/焙煎工程の前またはその間に固相分に加えられてもよい)および残渣水(これは、場合によっては、香料回収前に水相分に加えられてもよい)を除去してもよい。ココアバターは、精製脂肪相分をろ過することによって得られる。
【0038】
3相分離後に得られた(湿潤)固相分は、粒子サイズを減少させ、予備乾燥を開始するために、加熱可能なロールグラインダーで任意に処理されてもよい。また、糖、糖溶液および/またはフルーツジュースは、乾燥/焙煎プロセスの間の香味発現を改善するために、乾燥前に、分離したカカオ固形物に任意に添加してもよい。
【0039】
3相分離後に得られた固相分は、焙煎した香料および他の芳香成分の収集を可能にするために、55〜100℃の間の温度で、熱負荷を低減して健康誘導成分を保存する観点からは好ましくは55〜70℃の間で選択される温度で減圧下にて、穏やかに乾燥させ同時に焙煎してもよい。所望される場合、必要に応じて、上記香味および他の芳香成分は、カカオ豆の加工処理方法のさらなる進行において、ココアバターまたは水相分の香料回収工程に加えられてもよい。
【0040】
乾燥/焙煎を実行する方法は特に限定されず、例えば、ドラム式乾燥機の中で達成されてもよい。
【0041】
好ましい実施形態では、乾燥/焙煎工程は、チョコレートコンチングのためにEP 0 71 1 505 A1において開示されているような混合装置内で実行される。この混合装置は、水平軸心をもつように構成され且つエンドプレートによってその両末端が閉じている、円筒形の管状体を備え、これは、加熱冷却用同軸ジャケットを有し、これを通して、例えば、この部材の内壁を所定の温度に維持するために透熱性油または他の流体が流れることが意図される。この管状体は、固相分のための入口開口部および出口開口部を有する。出口開口部は、ダクトによって、乾燥生成物から香料相を分離するための装置と連絡している。この装置はさらに、管状体内で回転するように支持されたブレード付きロータを備え、そのブレードはらせん状に配置され、処理される固相分を遠心分離し、同時にこれを出口開口部に向けて移送するように配向される。この混合装置を使用することで、有利に乾燥/焙煎工程と、焙煎香味および他の芳香成分の分離を連続的に行うことが可能になり、また、ココア粉末の調製(乾燥カカオ材料)までのカカオ豆の加工を著しく加速し、20分間に満たない間、典型的には15分間に満たない間の加工時間をもたらす。
【0042】
上記のカカオ豆/カカオニブ加工方法において、カカオ豆の発酵の間に形成されるか或いはインキュベーションの前またはその間に形成もしくは添加された酢酸の大部分は水相分中に見い出され、従って都合よく中和されてもよく、および/または相分離の際に水相分を適切に処理することによって除去されてもよい。この理由から、相分離前に、pH条件の調整に関して、および/または、カカオ豆またはカカオニブの中の香味発現を改善する目的で、好ましいと思われる任意の所望の量で、水溶性酸を添加されてもよい。これらの添加は必ずしも最終製品において酸味または苦味を生じるとは限らないからである。
【0043】
遊離酢酸を水相分を介して除去する方法は、特に限定されず、当該技術分野で公知である任意の適切な方法によって実行されてもよい。例えば、酢酸は、例えば、蒸留(例えば、抽出蒸留または反応蒸留)、抽出(例えば、液−液抽出)、エマルジョン型液体の膜分離、塩析またはこれらの組み合わせによって、水相分から除去されてもよい。あるいは、ココア香料およびポリフェノール粉末が選択的に抽出されるのであれば、水相分に酢酸が残っていてもよい。
図2に図示されているように、遊離酢酸および場合により他の水溶性成分は、香料分離工程の前もしくはその間に、および/または濃縮工程の前もしくはその間に、水相分から除去されてもよい。
【0044】
水相分を介する遊離酢酸の中和および/または除去は、先行技術に開示された方法よりも顕著な利点を有し、そのいくつかを以下に論じる。
【0045】
酢酸は、固相分を乾燥/焙煎工程に供する前に、水相分を介してカカオ豆またはカカオニブから抽出される。従って、酢酸を蒸発させるために、発酵したカカオ豆に対して長時間の乾燥/焙煎および高い熱負荷が要求されず、それによって、香料フレーバー(aromatic flavors)、抗酸化物質、ビタミンの高い含有量が維持される可能性がある。また、コンチングプロセスの継続時間が大幅に短縮される可能性がある。
【0046】
さらに、水の使用およびその除去に関連する比較的高いコストは、より低い温度での加熱ならびに乾燥/焙煎工程およびコンチング工程の加速によるエネルギー節約によってはるかに凌駕されるので、本発明に従う方法はまた、カカオ製品の調製のための従来の方法と比較した場合に、経済的な利点を含んでいる。
【0047】
加えて、従来のカカオ製品の製造とは対照的に、比較的高い酢酸含有量を有するカカオ豆および/または様々な発酵段階にあるカカオ豆を用いて、チョコレートなどの高品質カカオ製品が製造されうる。
【0048】
本発明のさらなる利点は、望ましくない親水性成分(苦味および/または収斂味のある低分子ポリフェノール(例えば、カテキン)など)も同様に水相分を介して除去されてもよいことである。
【0049】
デカンテーション工程で得られた水相分は、所望の香味もまた含有し、これは、芳香成分を得るために水相分を第1の濃縮工程に供することにより回収されうることがさらに判明した。加えて、ココア香味の増強は、還流を伴う蒸留(すなわち、香味化合物および水を分離するための)を使用して達成されてもよい。
【0050】
任意の第2の濃縮相において、ポリフェノール粉末を得るために過剰の水の蒸発が実施されてもよい。
【0051】
望ましくない水の除去は、利用されるとき、望ましくは水懸濁香味化合物をもたらすことができる蒸発技術を用いて達成されてもよい。さらに、濃縮ポリフェノールが生じる可能性がある。さらに別の実施形態では、回収されたココア香味は、熱負荷を最小化するために、好ましくは低圧下(300mbar未満)および室温で実行される還流を伴う蒸留(例えば香味成分を水から分離するための)によって増強されてもよい。
【0052】
一般に、カカオ抽出材料(すなわち、ココアバター、ココア粉末、ココア香料およびポリフェノール濃縮物)の微生物腐敗が存在する場合、そのような材料は、真空脱気装置を利用して脱臭することができる。さらに、微生物汚染が発生した場合、パスカリゼーションなどの高圧処理が可能である(例えば、これは、芳香成分を保存できるため望ましい)。しかし、微生物の腐敗と汚染の両方が発生した場合、熱処理および脱臭が利用されてもよい。しかし、有利には、本発明に従う方法は、カカオ豆/カカオニブの迅速な処理を可能にするので、微生物の増殖を最小限に維持することができる。
【0053】
本明細書に記載の技術を使用して、カカオ豆を効率的に加工して、望ましい、商業的に価値のある収率の、乾燥し抽出したココア粉末、疎水性ココア香味を有するココアバター、親水性ココア香味、およびポリフェノール濃縮物を産生してもよい。さらに、特定の得られたカカオ製品は、望ましいレベルの抗酸化物質および/もしくはビタミンを保持もしくは含有し、ならびに/または、食べ物に使用する場合の砂糖の添加(もしくは少なくとも高レベルの砂糖の添加)を必要としないより望ましい(例えば、苦味の少ない)香味を有する。
チョコレート構築キット
【0054】
第2の実施形態では、上記に概説した第1の実施形態に記載の方法工程に従って製造された複数のカカオ豆抽出製品を含むチョコレート構築キットが提供される。言い換えれば、本発明に従うチョコレート構築キットは、本質的に、上記のカカオ豆/カカオニブ加工方法によって得られたポリフェノール粉末抽出物、ココア粉末抽出物、ココアバター抽出物およびココア香料抽出物を含む。本発明のキットにおいて使用される抽出物(これは、所望されるように組み合わせられてもよい)の好ましい実施形態は、以下において特定される。
【0055】
好ましい実施形態において、ココアバターは、ココアバターの総重量に基づいて少なくとも5mg / kg、より好ましくは少なくとも20mg / kg、とりわけ好ましくは40mg / kgの、2-アセチルピラジン、メチルピラジン、テトラメチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、トリメチルピラジン、エチルピラジン、 2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、1-メチル-1H-ピロール、エチル-2-メチルブタノエート、3-メチルブチルアセテート、2-ヘプタノン、ヘキシルアセテート、リナロール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、桂皮酸エチル、2-フェネチルアセテート、2-フェニル-2-ブテナール、エチルオクタノエート、4-エチルグアヤコール、4-ビニルグアヤコール、バニリン、イソブタナール、2-メチルブタナール、イソバレルアルデヒド、アセトイン、ジアセチル、フルフラール、2-アセチルフラン、ベンズアルデヒド、5-メチルフルフラール、2-フランメタノール、メチオナール、フェニルアセトアルデヒドおよび4-メチルフェノールの総濃度を含む。さらなる実施形態では、ココアバターは、ココアバターの総重量に基づいて好ましくは15mg / kg未満、より好ましくは14mg未満、とりわけ好ましくは13mg / kg未満である、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、2-メチル酪酸、3-メチルブタン酸およびペンタン酸の総濃度を有する。
【0056】
好ましい実施形態では、ココア粉末は、ココア粉末の総重量に基づいて少なくとも8mg / kg、より好ましくは少なくとも9mg / kg、とりわけ好ましくは少なくとも10mg / kgである、2-アセチルピラジン、メチルピラジン、テトラメチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、トリメチルピラジン、エチルピラジン、2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、1-メチル-1H-ピロール、エチル-2-メチルブタノエート、3-メチルブチルアセテート、2-ヘプタノン、ヘキシルアセテート、リナロール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、桂皮酸エチル、2-フェネチルアセテート、2-フェニル-2-ブテナール、エチルオクタノエート、4-エチルグアヤコール、4-ビニルグアヤコール、バニリン、イソブタナール、2-メチルブタナール、イソバレルアルデヒド、アセトイン、ジアセチル、フルフラール、2-アセチルフラン、ベンズアルデヒド、5-メチルフルフラール、2-フランメタノール、メチオナール、フェニルアセトアルデヒドおよび4-メチルフェノールの総濃度を含む。さらなる実施形態では、ココア粉末は、各々がココア粉末の総重量に基づいて、好ましくは60mg / kg未満、より好ましくは50mg未満、とりわけ好ましくは45mg / kg未満である、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、2-メチル酪酸、3-メチルブタン酸およびペンタン酸の総濃度を有する。
【0057】
好ましい実施形態において、ココア香料は、ココア香料の総重量に基づいて少なくとも800mg / kg、より好ましくは少なくとも1g / kg、とりわけ好ましくは少なくとも1.5g / kgである、2-アセチルピラジン、メチルピラジン、テトラメチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、トリメチルピラジン、エチルピラジン、 2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、 2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、1-メチル-1H-ピロール、エチル-2-メチルブタノエート、3-メチルブチルアセテート、2-ヘプタノン、ヘキシルアセテート、リナロール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、桂皮酸エチル、2-フェネチルアセテート、2-フェニル-2-ブテナール、エチルオクタノエート、4-エチルグアヤコール、4-ビニルグアヤコール、バニリン、イソブタナール、2-メチルブタナール、イソバレルアルデヒド、アセトイン、ジアセチル、フルフラール、2-アセチルフラン、ベンズアルデヒド、5-メチルフルフラール、2-フランメタノール、メチオナール、フェニルアセトアルデヒドおよび4-メチルフェノールの総濃度を含む。さらなる実施形態では、ココア香料は、各々がココア香料の総重量に基づいて好ましくは50g / kg未満、より好ましくは20g未満、とりわけ好ましくは5g / kg未満である、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、2-メチル酪酸、3-メチルブタン酸およびペンタン酸の総濃度を有する。
【0058】
さらに好ましい実施形態において、ポリフェノール粉末は、ポリフェノール粉末の総重量に基づいて少なくとも1mg / kg、より好ましくは少なくとも1.4mg / kg、とりわけ好ましくは少なくとも1.8mg / kgである、2-アセチルピラジン、メチルピラジン、テトラメチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、トリメチルピラジン、エチルピラジン、 2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、 2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、1-メチル-1H-ピロール、エチル-2-メチルブタノエート、3-メチルブチルアセテート、2-ヘプタノン、ヘキシルアセテート、リナロール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、桂皮酸エチル、2-フェネチルアセテート、2-フェニル-2-ブテナール、エチルオクタノエート、4-エチルグアヤコール、4-ビニルグアヤコール、バニリン、イソブタナール、2-メチルブタナール、イソバレルアルデヒド、アセトイン、ジアセチル、フルフラール、2-アセチルフラン、ベンズアルデヒド、5-メチルフルフラール、2-フランメタノール、メチオナール、フェニルアセトアルデヒドおよび4-メチルフェノールの総濃度を含む。さらなる実施形態では、ポリフェノール粉末は、各々がココア粉末の総重量に基づいて好ましくは2g / kg未満、より好ましくは1g / kg未満、とりわけ好ましくは0.5g / kg未満である、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、2-メチル酪酸、3-メチルブタン酸およびペンタン酸の総濃度を有する。
【0059】
各抽出物中の上述の総濃度は、当業者に公知である慣用のガスクロマトグラフィー質量クロマトグラフィー(GC-MS)法によって決定されてもよい。
【0060】
さらに好ましい実施形態において、ココア粉末は、少なくとも20 mg ECE((-)-エピカテキン当量)/ g脱脂乾燥物、より好ましくは少なくとも30mg ECE / g脱脂乾燥物、とりわけ好ましくは少なくとも40 mgECE / g脱脂乾燥物質である総ポリフェノール含量を有する。好ましくは、ココア粉末は、少なくとも10mg ECE / g脱脂乾燥物、より好ましくは少なくとも20mg ECE / g脱脂乾燥物質、とりわけ好ましくは少なくとも30mg ECE / g脱脂乾燥物質のフラボノイド濃度を有する。別の好ましい実施形態では、ココア粉末は、少なくとも2mg PCE(プロシアニジンB2当量)/ g脱脂乾燥物、より好ましくは少なくとも3 mg PCE / g脱脂乾燥物、とりわけ好ましくは少なくとも4mg PCE / g脱脂乾燥物のプロアントシアニジン濃度を有する。
【0061】
さらに好ましい実施形態において、ポリフェノール粉末は、少なくとも50 mg ECE / g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも60 mg ECE / g脱脂乾燥物質、とりわけ好ましくは少なくとも65 mg ECE / g脱脂乾燥物質の総ポリフェノール含量を有する。好ましくは、ポリフェノール粉末は、少なくとも20 mg ECE / g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも30 mg ECE / g脱脂乾燥物質、とりわけ好ましくは少なくとも35 mg ECE / g脱脂乾燥物質のフラボノイド濃度を有する。別の好ましい実施形態において、ポリフェノール粉末は、少なくとも2 mg PCE / g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも3 mg PCE / gの脱脂乾燥物質、とりわけ好ましくは少なくとも4 mg PCE / g脱脂乾物のプロアントシアニジン濃度を有する。
【0062】
総ポリフェノール含量、ならびにフラボノイド濃度およびプロアントシアニジン濃度は、当業者に公知である一般的な分光光度法によって決定されてもよい。例えば、総ポリフェノール含量は、Folin-Ciocalteu index, Off. J. Eur. Communities 1990, 41, 178-179およびCooper et al., J. Agric. Food Chem 2008, 56, 260-265において開示された方法に従って、(-)-エピカテキンを標準として用いるFolin-Ciocalteuアッセイを使用することによって決定されてもよい。総フラボノイド含量は、(-)-エピカテキンを標準として使用して、例えば、Emelda et al. Int. J. ChemTech Res. 2014, 6(4), 2363-2367に従って、塩化アルミニウム比色アッセイによって決定されてもよい。標準としてプロシアニジンB2を用いる酸-ブタノール法(例えば、Bates-SmithアッセイまたはPorter法など)は、プロアントシアニジンの含量を分光的に決定するために利用されてもよい。
【0063】
抽出物の香料プロファイルを例証する例として、ココアバター、ココア粉末、ココア香料およびポリフェノール粉末が、
図1に図示された例示的なスキームに従って製造されており、その製造では、焙煎されていないカカオ豆から出発してそのカカオ豆を水懸濁液形成前に焙煎し、水相分からは酢酸が中和および/または除去されていない。
【0064】
GC-MSを使用することにより、現在特許請求されている方法によって得られるココアバター、ココア粉末および水相分(および香料相のそれぞれ)、ならびに市販のココア粉末およびココアバターにおいて、様々な香味タイプを定量した。具体的には、生/土香味は2-アセチルピラジン、メチルピラジン、テトラメチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、トリメチルピラジン、エチルピラジン、2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、2-エチル-3,4-ジメチルピラジンの総濃度により定量され、フルーツ/フラワー香味は1-メチル-1H-ピロール、エチル-2-メチルブタノエート、3-メチルブチルアセテート、2-ヘプタノン、ヘキシルアセテート、リナロール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、桂皮酸エチル、2-フェネチルアセテート、2-フェニル-2-ブテナールおよびオクタン酸エチルの総濃度により定量され、スパイス香味は4-エチルグアヤコールおよび4-ビニルグアヤコールの総濃度によって定量され、モルト/バター香味はバニリン、イソブタナール、2-メチルブタナール、イソバレルアルデヒド、アセトインおよびジアセチルの総濃度によって定量され、グリル/ロースト香味はフルフラール、2-アセチルフラン、ベンズアルデヒド、5-メチルフルフラール、2-フランメタノール、メチオナール、フェニルアセトアルデヒドおよび4-メチルフェノールの総濃度によって定量され、ならびに、刺激/酸味香味は酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、2-メチル酪酸、3-メチルブタン酸、およびペンタン酸の総濃度によって定量された。測定結果を表1に示す。
【0066】
表1に示すように、心地よいと知覚される香味(すなわち、生/土、フルーツ/フラワー、スパイス、およびモルト/バター/ロースト)の合計含有量は、市販のココアバターと比較した場合、本発明の方法によって得られたココアバターにおいて実質的に高い。同様の観察は、従来的に製造されたココア粉末と比較して、本発明の方法で得られたココア粉末を用いても行われた。対照的に、これらの抽出物中の刺激/酸性香味の濃度は、その大部分が水相分に残っているので、市販品よりも著しく低いことが示されている。従って、酢酸および他の望ましくない水溶性成分を除去および/または中和することによって、得られる生成物における不快な酸味、苦味、および/または刺激味を、心地よいと知覚される香味を犠牲にすることなく、容易に回避することができる。
【0067】
一例として、カカオ抽出物のポリフェノール、フラボノイドおよびプロアントシアニジンの含量、および、
図1に例証された方法によって得られたダークチョコレートは、Folin-Ciocalteuアッセイ、塩化アルミニウムアッセイ(両方とも標準として(-)-エピカテキンを用いる)および酸−ブタノール法(標準としてプロシアニジンB2を使用する)によって分析された。結果を表2に示す。
【0069】
本発明の方法は、カカオ豆中に存在するポリフェノール、フラボノイドおよび/またはプロアントシアニジンの高い含有量が抽出物中に保存されることを確実にするので、好ましい香料プロファイル、最適な健康成分の収量を最終的なチョコレート製品において得ることができることが示される。
【0070】
従って、本発明に従うチョコレート構築キットは、有利には、多種多様な高品質チョコレート製品のための出発材料を提供し、ここで、水溶性の望ましくない親水性成分(例えば、苦味および/または収斂味のある低分子ポリフェノール(例えば、カテキン類))は、カカオ豆/カカオニブの水溶性香気成分、ポリフェノール成分およびビタミンを保持しながら、ならびに低い熱負荷により高濃度を維持しながら除去することができる。
【0071】
従って、使用される豆/ニブの特定の発酵グレードにかかわらず、カカオ豆の起源、品種および等級の典型的な特徴が知覚可能である、多くのチョコレート製品の変種を製造することが可能である。
【0072】
チョコレート製作キットに基づくチョコレートおよびチョコレート様製品、または第1の実施形態に従う方法で得られた抽出物をそれぞれ製造する例示的な方法を以下に示す。
チョコレート製品の製造方法
【0073】
第1の実施形態に記載の方法工程に従って製造された複数のカカオ豆抽出物製品は、以下の第3の実施形態で説明するように、多種多様なチョコレート製品の調製のために使用されてもよい。
【0074】
図3Aは、ダークチョコレートおよびミルクチョコレートの調製のための方法の例を示しており、ここでは、水相分の香料分離から得られたココア香料抽出物、および/または、場合により乾燥/焙煎工程(
図2に示すような)から得られた焙煎ココア香料が、最初にココアバターに加えられる。コンチング工程に供される前に、乾燥および焙煎された固形ココア粉末が、香料の添加されたココアバターと混合され、細かく粉砕される。所望されるように、混合物にポリフェノール粉末を添加して、最終生成物中により強力な香味およびより高い含有量の抗酸化物質を提供してもよい。香味についての付加的な調整ないし発現は、糖、甘味料、カカオパルプおよび/またはフルーツジュースの1つ以上を添加することによって行われてもよい。ミルクチョコレートの調製のためには、好ましくは混合工程の前に粉乳をさらに添加する。場合によっては、コンチング前に乳化剤(例えば、レシチン)を添加して、粘性を低下させ、糖の結晶化およびチョコレートの流れ特性を制御し、成分の均質混合を助けてもよい。また、コンチング工程の前またはその間に、追加の成分および香味、例えば、バニラ、ラムなどを添加してもよい。
【0075】
コンチングプロセスは、香味を作り出す乾燥カカオからの物質を脂肪相分に再分配する一方、チョコレートから望ましくない酢酸、プロピオン酸および酪酸を除去し、水分を低減し、製品の香味を円熟させる。コンチェの温度は、チョコレートの様々なタイプに応じて制御され、変動する(ミルクチョコレート用の49℃周辺から、ダークチョコレート用の82℃まで)。温度にある程度依存するが、従来のチョコレート製造プロセスのコンチング時間は、良好な結果を得るためには、一般に16時間から72時間までの範囲である。本発明に従う方法において、コンチング時間は、好ましくは16時間未満、より好ましくは12時間未満、典型的には10時間未満である。従って、長いコンチング時間で観察される望ましい香料特性の損失は起こらない。
【0076】
図3Bに示すように、本発明に従うチョコレートを製造する方法によって製造されてもよい代替のチョコレート製品としては、通常はココアバターと、砂糖と、乳固形分と、乳化剤(例えば、レシチン)と、場合によっては製造業者のレシピに応じた香味のためのバニラとのブレンドである、ホワイトチョコレートを挙げることができる。
【0077】
ホワイトチョコレートの製造のための従来の方法は、脱臭ココアバターの使用を含む。 具体的には、ココアバターは、カカオリカーのアルカリ処理を含む従来式の方法によって調製され、これは、除去されなければならないココアバター中の高含量苦味香味成分をもたらし、その除去は、ホワイトチョコレートのさらなる調製のための低臭気で、苦味がなく、香味のないココアバターベースを提供するために、有機溶媒を用いる抽出または蒸気噴射によって達成されうる。しかし、このようなプロセスは、ココアバター中のビタミンおよび抗酸化物質の含有量の減少を伴ってしまうことが知られている。
【0078】
好都合なことに、本明細書に記載の技術を使用して、より苦味の少ない香味を有するココアバターを得ることができるので、もし行うとしても、穏やかなココアバター処理のみが、ココアバターをホワイトチョコレートの製造のために使用できるようにするために必要であり、このことは、より大量の含有量のビタミンまたは抗酸化物質のような所望の成分の保存をもたらす。
【0079】
加えて、所望の食味に従って第1の実施形態の方法によって得られたココア香料および/または焙煎ココア香料および/またはポリフェノール粉末と、ココアバターとを組合わせることにより、特徴的で独特のココア香味を有するホワイトチョコレートを製造することを可能となる。
【0080】
本発明の方法によって得られるチョコレートまたはチョコレート様製品は、任意の適切な形態をとってもよく、例えば、ブロックまたはバーとして包装および販売され、充填され、そしてコーティングとして使用されてもよく、他の菓子およびベーカリー用途(例えば、ケーキコーティングもしくはフィリング、ビスケットコーティングもしくはフィリング、スポンジコーティングもしくはフィリングまたはアイスクリームのコーティング層として)に使用されてもよい。また、得られたチョコレートまたはチョコレート様製品は、製品の最終使用前に追加されたさらなる添加剤を任意に有していてもよい。
【0081】
一旦上記の開示が与えられると、多くの他の特徴、修正、および改良が当業者に明らかになるであろう。