特許第6557816号(P6557816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557816
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】平衡シフト法による結合定数の決定
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20190805BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190805BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   G01N33/531 Z
   G01N33/53 Z
   G01N33/15 Z
【請求項の数】15
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-520424(P2017-520424)
(86)(22)【出願日】2015年10月15日
(65)【公表番号】特表2017-534867(P2017-534867A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】EP2015073902
(87)【国際公開番号】WO2016059164
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2017年6月8日
(31)【優先権主張番号】102014115088.0
(32)【優先日】2014年10月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515153303
【氏名又は名称】スリービー・ファーマシューティカルズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】ヒナーク ボリス
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/017528(WO,A1)
【文献】 特表2008−503753(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0203181(US,A1)
【文献】 特表2007−510206(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0166549(US,A1)
【文献】 Raffaele Longhi, Silvia Corbioli, Stefano Fontana, et al.,Brain Tissue Binding of Drugs: Evaluation and Validation of Solid Supported Porcine Brain Membrane Vesicles (TRANSIL) as a Novel High-Throughput Method,Drug Metabolism and Disposition,米国,2011年,Vol. 39, No.2,Page.312-321
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53 − 33/579
G01N 33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性ターゲットおよび固定化されたターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数を決定する方法であって、
・前記物質または前記物質混合物の第1の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第1の試料容器中で、固体粒子状担体に固定化されたターゲットとインキュベートするステップと、
・前記物質または前記物質混合物の第2の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第2の試料容器中で、固体粒子状担体に固定化された前記ターゲットとインキュベートするステップと、
・前記物質または前記物質混合物の第3の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第3の試料容器中で、固体粒子状担体に固定化された前記ターゲットとインキュベートするステップと、
・前記物質または前記物質混合物の第4の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第4の試料容器中で、固体粒子状担体に固定化された前記ターゲットとインキュベートするステップと、を含み、
異なる物質量の前記固定化されたターゲットおよび同じ物質量の前記溶解したターゲットを含有する前記物質の前記第1および第2の試料をインキュベートし、前記物質の前記第1および第2の試料と同じ物質量の前記固定化されたターゲットを含有し、同じ物質量の前記可溶性ターゲットを含有する前記物質の前記第3および前記第4の試料をインキュベートし、
試料容器3および4の中の前記可溶性ターゲットの物質量が試料容器1および2の中の前記可溶性ターゲットの物質量と異なり、
前記試料容器がインキュベーション中に緩衝溶液、溶解したターゲット、および物質試料からなる同じ体積の液相を含有し、
前記方法は、さらに、
・前記固体粒子状担体をそれぞれのインキュベーションバッチから分離するステップと、
・前記それぞれのインキュベーションバッチの上清中の前記固定化されたターゲットに結合していない前記物質または前記固定化されたターゲットに結合していない前記物質混合物の濃度(APA濃度)を測定するステップと、
・前記測定したAPA濃度に基づいて前記固定化されたターゲットに関する前記物質または前記物質混合物の結合定数および前記溶解したターゲットに関する前記物質または前記物質混合物の結合定数を決定するステップと、を含み、
前記結合定数が解離定数であり、該解離定数の決定が数式I
【数1】
に従って行われ、
式中、APAは、前記固定化されたターゲットに結合していない前記物質、すなわち遊離の物質および前記可溶性ターゲットに結合した物質の濃度であり、
【数2】

は、前記固定化されたターゲットの解離定数であり、
【数3】

は、前記溶解したターゲットの解離定数であり、
は、一定量の添加した物質の総濃度であり、
[immoT]は、前記固定化されたターゲットの濃度であり、
[P]は、前記溶解したターゲットの濃度である、方法。
【請求項2】
前記解離定数の決定が、
・数式Iにおいて
【数4】

および
【数5】

についての解離定数のマトリックスを使用するステップと、
・前記解離定数のマトリックスについて予想されるそれぞれのAPA濃度を計算するステップと、
・前記計算したAPA濃度を前記測定したAPA濃度と比較するステップと、
・前記固定化されたターゲットまたは前記溶解したターゲットに関する前記試験する物質の特定された解離定数として、計算したAPA濃度と測定したAPA濃度との乖離が最も小さい
【数6】

および
【数7】

値のペアを選択するステップと、をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
計算したAPA濃度と測定したAPA濃度との乖離が最も小さい
【数8】

および
【数9】
値の前記ペアの選択を数値最適化法によって行う、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記物質の前記第1、第2、第3、および第4の試料に加えて、前記物質または前記物質混合物の少なくとも1つのさらなる試料であって、1〜21個のさらなる試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する少なくとも1つのさらなる試料容器であって、緩衝溶液を含有する1〜21個のさらなる試料容器中で、固体粒子状担体に固定化された前記ターゲットとインキュベートする方法であって、
異なる物質量の前記固定化されたターゲットを含有する前記さらなる試料をインキュベートし、
異なる物質量の前記溶解したターゲットを含有する前記さらなる試料をインキュベートし、
前記さらなる試料の少なくとも1つを、2つの試料容器中で、同じ濃度の固定化されたターゲットおよび同時に、異なる濃度の溶解したターゲットとインキュベートし、
全てのさらなる試料容器がインキュベーション中に前記第1、第2、第3、および第4の試料容器と同じ量の緩衝溶液を含有する、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記それぞれのインキュベーションバッチの前記上清中の前記物質または前記物質混合物の濃度(APA)を参照試料と比較して決定する、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記溶解したターゲットと前記固定化されたターゲットが同一または異なる、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記担体が水溶液に不溶である、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記担体が有機または無機ポリマー、特にアガロースからなる、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記担体が粒子形状であり、
該粒子が少なくとも部分的にミクロまたはナノスケールの粒子である、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記固定化されたターゲットがアルブミンである、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記可溶性ターゲットがヒトまたは動物由来の血漿または血清である、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
磁場を加えて前記担体を脱離することによって前記担体の分離を行う、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記物質または前記物質混合物の濃度の測定を、質量分析法、蛍光分光法、放射能を用いる方法、もしくはクロマトグラフィー法またはこれらの方法の組み合わせによって行う、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記試料容器がマイクロタイタープレートのキャビティ、または前記物質または前記物質混合物に干渉しない表面特性を有する、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の方法により物質または物質混合物とターゲットとの間の結合定数を決定するためのキットであって、
少なくとも4つの試料容器またはマイクロタイタープレートのキャビティ、緩衝溶液、ある量の溶解したターゲット、および固体粒子状担体に固定化されたある量のターゲットを含み、
前記溶解したターゲットと前記固定化されたターゲットが同一または異なる、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質または物質混合物とターゲットとの間の結合定数を決定するための、請求項1に記載の方法および請求項16に記載のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
物質または物質混合物とターゲットとの間の相互作用および結合定数の決定は、製薬工業、特に製薬の研究および開発において重要な役割を果たしている。これら両方の領域は、物質または物質混合物と生体との間の相互作用を含んでいる。個々の物質と結合パラメーターおよび結合定数との結合特性を定量化することが重要である。
【0003】
結合定数を決定する方法は、特許文献1によって公知である。この方法においては、たとえば固体上に固定化されたタンパク質を、試験する物質の水溶液と接触させ、溶解した物質がタンパク質と結合するために十分な期間、インキュベートする。次いで、固体に支持されたタンパク質を溶液から(たとえば沈降によって)分離する。適当な測定法を用いて、残存する溶液(上清)中、または任意選択で分離した固体に支持されたタンパク質中の、試験する物質の濃度を、特に固体に支持されたタンパク質と試験する物質の複数の異なる混合比について決定する。この目的のため、結合について試験する同じ量の物質を、均一な溶液体積の中で、固体に支持された異なる量のタンパク質とインキュベートする。試験する物質または物質混合物が溶解した緩衝溶液の体積からなる、試験する試料の液相の全量は、全ての場合において一定に保った。
【0004】
この方法の欠点は、プラスチックまたはガラスに極めて高い親和性を有する物質が試料容器に非特異的に付着し、したがって溶解性が低いために失われ、または沈殿してしまうことである。
【0005】
さらに、特許文献2には希釈された血漿および血清中における物質の結合定数または遊離分率を決定する方法が記載されており、ここでは固定化された膜(ターゲット1)および希釈された血漿(ターゲット2)への物質の結合を決定する。この方法の欠点は、膜に対して極めて高いまたは低い親和性を示す物質とターゲットとの間の相互作用が決定できないことである。たとえば、後者はたとえば脂質アンカーとして脂肪酸とコンジュゲートしたペプチドの場合であり、前者の多くはそのようなアンカーを有しない脂質の場合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010018 965号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1658499号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、公知の方法に付随する欠点を克服した、物質または物質混合物とターゲットとの間の結合定数を決定する方法を提供することである。特に、従来法を用いる場合に膜に対して極めて高いまたは低い親和性、または試料容器に対して極めて高い親和性を示す物質とターゲットとの間の結合定数を決定することが可能になる。さらなる実施形態によれば、物質と固定化されたターゲットとの間、および物質と可溶性ターゲットとの間の結合定数を同時に決定することができる方法も提供される。本発明のさらなる目的は、本発明による方法を容易にかつ安価に実施できるキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法および請求項16の特徴を有するキットによって達成することができる。実施形態は請求項2から15までの主題である。
【0009】
本発明は、可溶性ターゲットおよび不溶性ターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数を決定する方法であって、
・物質または物質混合物の第1の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第1の試料容器中で、固体、好ましくは粒子状担体に固定化されたターゲットとインキュベートするステップと、
・物質または物質混合物の第2の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第2の試料容器中で、固体、好ましくは粒子状担体に固定化されたターゲットとインキュベートするステップと、
・物質または物質混合物の第3の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第3の試料容器中で、固体、好ましくは粒子状担体に固定化されたターゲットとインキュベートするステップと、
・物質または物質混合物の第4の試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する第4の試料容器中で、固体、好ましくは粒子状担体に固定化されたターゲットとインキュベートするステップと、を含む。
本発明によれば、異なる物質量の固定化されたターゲットおよび同じ物質量の溶解したターゲットを含有する物質の第1および第2の試料をインキュベートし、
物質の第1および第2の試料と同じ物質量の固定化されたターゲットを含有し、同じ物質量の可溶性ターゲットを含有する物質の第3および第4の試料をインキュベートし、
試料容器3および4の中の可溶性ターゲットの物質量が試料容器1および2の中の可溶性ターゲットの物質量と異なり、試料容器がインキュベーション中に緩衝溶液、溶解したターゲット、および物質試料からなる同じ体積の液相を含有する。
本発明による方法が、さらに、
・固体、好ましくは粒子状担体をそれぞれのインキュベーションバッチから分離するステップと、
・それぞれのインキュベーションバッチの上清中の固定化されたターゲットに結合していない物質または固定化されたターゲットに結合していない物質混合物の濃度(APA濃度)を測定するステップと、
・測定したAPA濃度に基づいて固定化されたターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数および溶解したターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数を決定するステップと、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、特に、個々の物質とターゲットとの間の結合定数を決定する方法に関する。本発明の意味において、結合定数は、代替的に、物質混合物についてターゲットに関して決定することもできる。物質混合物は、特に、任意選択でターゲットに結合する少なくとも2つの物質を含有する混合物を意味すると理解される。本発明による方法において、ターゲットに関する結合定数は、そのような物質混合物中のそれぞれの物質について決定することができる。これは特に多重化において適用される。以下において明確に区別しない限り、物質という用語の使用は、物質混合物をも含む。
【0011】
本発明による方法の基本的な機能原理は、結合平衡をシフトさせることによるターゲットに対する物質の結合定数の決定である。2つのターゲット、すなわち固定化されたターゲットおよび溶解したターゲットの濃度を変動させ、個々のバッチにおいて結合平衡をシフトさせることによってターゲットとの親和性を決定する。
【0012】
したがって、本発明による方法は、物質または物質混合物とターゲットとの間の結合定数を決定するために用いられる。本発明による方法においては、従来技術とは対照的に、固定化されたターゲットの濃度を変化させるだけでなく、溶液中の同一または異なるターゲットの第2の相も導入し、その濃度も変化させる。したがって、本発明による方法の利点は、物質または物質混合物と2つの異なるターゲットとの間の相互作用も決定できるということである。さらに、第2の溶解したターゲットを導入することにより、物質または物質混合物の溶解性が増大する。結合定数を決定するために、少なくとも4つの試料、すなわち異なる物質量の固定化されたターゲットのための2つの試料、およびこれと組み合わせた異なる物質量の可溶性ターゲットのための2つの試料が必要である。これにより、本発明による固定化されたターゲットおよび溶解したターゲットに関する物質の結合定数を決定するために必要な上清中の物質の測定した最小濃度(遊離または可溶性ターゲットに結合した)が得られる。本発明による方法は固定化されたターゲットの他に可溶性ターゲットをも含んでおり、固定化されたターゲットの濃度だけでなく可溶性ターゲットの濃度も変化させるので、本発明による方法によって、物質と固定化されたターゲットとの間の結合定数および物質と可溶性ターゲットとの間の結合定数を同時に決定することが可能になる。
【0013】
本発明の基本的な実施形態によれば、結合定数を決定するために結合平衡をシフトさせる。この場合には、固定化されたターゲットおよび溶解したターゲットの濃度を変化させる。物質の第1および第2の試料を、異なる物質量の固定化されたターゲットとインキュベートする。それにより、インキュベーションバッチ1の中の固定化されたターゲットの物質量はインキュベーションバッチ2の中の固定化されたターゲットの物質量と異なることになる。さらに、物質の第3および第4の試料を、異なる物質量の可溶性ターゲットとインキュベートする。それにより、インキュベーションバッチ3および4の中の可溶性ターゲットの物質量はインキュベーションバッチ1および2の中の可溶性ターゲットの物質量と異なることになる。ターゲットの濃度において前記変化に達するために必要な物質量におけるそれぞれの差は、1.5〜100、特に2〜10倍の範囲で、互いに関わりなく、それぞれの場合において変化し得る。
【0014】
物質の第3および第4の試料を、物質の第1および第2の試料と同じ物質量の固定化されたターゲットとインキュベートする。したがってその結果、インキュベーションバッチ3および4の中の固定化されたターゲットの物質量は、インキュベーションバッチ1および2の中と同じように変化する。
【0015】
換言すれば、インキュベーションバッチ1および3は同じ物質量の固定化されたターゲットを含有すると言える。インキュベーションバッチ2および4も同じ物質量の固定化されたターゲットを含有するが、これはインキュベーションバッチ1および3の固定化されたターゲットの物質量とは異なる。インキュベーションバッチ1および2は同じ物質量の溶解したターゲットを含有し、インキュベーションバッチ3および4も同じ物質量の溶解したターゲットを含有するが、後者の物質量はインキュベーションバッチ1および2の物質量とは異なる。
【0016】
APA濃度の測定において、それぞれのインキュベーションバッチの上清中の、固定化されたターゲットに結合していない物質または固定化されたターゲットに結合していない物質混合物の濃度を決定する。APA濃度はそれぞれのインキュベーションバッチの上清中の、固定化されたターゲットに結合していない物質または固定化されたターゲットに結合していない物質混合物の全体の濃度であり、遊離の物質または遊離の物質混合物および可溶性ターゲットに結合した物質または物質混合物を含有している。
【0017】
本発明による方法においては、対応するインキュベーションバッチにおいて少なくとも4つの試料容器を用いるので、少なくとも4つのAPA濃度が決定されることが分かる。
【0018】
本発明による方法のさらなる実施形態は、物質の第1、第2、第3、および第4の試料に加えて、物質または物質混合物の少なくとも1つのさらなる試料、好ましくは1〜21個のさらなる試料を、緩衝溶液および溶解したターゲットを含有する少なくとも1つのさらなる試料容器、好ましくは緩衝溶液を含有する1〜21個のさらなる試料容器中で、固体、好ましくは粒子状担体に固定化されたターゲットとインキュベートすることを規定する。ここで異なる物質量の固定化されたターゲットを含有するさらなる試料をインキュベートし、異なる物質量の溶解したターゲットを含有するさらなる試料をインキュベートし、さらなる試料の少なくとも1つを、2つの試料容器中で、同じ濃度の固定化されたターゲットおよび同時に、異なる濃度の溶解したターゲットとインキュベートし、全てのさらなる試料容器がインキュベーション中に第1、第2、第3、および第4の試料容器と同じ量の緩衝溶液を含有する。試料の数を増加させることの利点は、決定に用いられ得る濃度値の数が増大するとともにエラーの割合が低減することである。
【0019】
結合定数を推定するために、固定化されたターゲットの濃度を任意選択で、それぞれ2〜5個の反応バッチで変化させ、一定量の物質を加える。さらに、一定体積の溶解したターゲット(血漿、アルブミンなど)も、これらの反応バッチに加える。ここで、この体積の中に溶解したターゲットの濃度は、緩衝液による希釈のために変わり得ることに注意すべきである。2〜5個の並行したバッチにおいて5種類までの異なる濃度の溶解したターゲットを用い、それにより、異なる濃度の固定化されたターゲットおよび溶解したターゲットを有する4〜25個の反応バッチが得られる。
【0020】
さらなる実施形態によれば、第1、第2、第3、および第4の物質試料に加えて、物質または物質混合物の少なくとも5つのさらなる試料を用いる(すなわち、3つの濃度段階の可溶性ターゲットと組み合わせた3つの濃度段階の固定化されたターゲットに対応する9個の試料)。好ましくは25個の試料を用いる。この場合には、5つの異なる物質量の固定化されたターゲットを5つの異なる物質量の可溶性ターゲットと組み合わせるので、それぞれの個別の物質量の固定化されたターゲットをそれぞれの物質量の可溶性ターゲットとインキュベートし、したがって25個の異なる結合平衡が得られる。しかしインキュベーションの間には、試料容器は常に第1、第2、第3、および第4の試料容器と同じ量の緩衝溶液を含有している。結合定数を推定するために、25個の反応バッチにおいてターゲット濃度を変化させ、一定量の物質を加える。したがって、少なくとも2つの異なる濃度の両方のターゲット、すなわち溶解したターゲットおよび固定化されたターゲットを用いる。
【0021】
さらなる実施形態は、それぞれのインキュベーションバッチの上清中の物質または物質混合物の濃度(APA)を参照試料と比較して決定することを規定する。特に、そのような参照試料は、緩衝溶液、可溶性ターゲット、および試験する物質または物質混合物のみを含有し、固定化されたターゲットを含有しない試料である。
【0022】
本発明による方法の実施形態においては、溶解したターゲットと固定化されたターゲットは同一である。さらなる変形例によれば、溶解したターゲットと固定化されたターゲットは異なる。
【0023】
本発明によるターゲットは好ましくはターゲット化合物またはターゲット受容体である。したがってターゲットは受容体と称してもよい。たとえば、活性のまたは有害な成分をターゲットに結合させてよい。特に、好適なターゲットはタンパク質、好ましくは酵素、抗体、または血漿等の混合物等の生物学的ターゲットを含む。特に、ターゲットは上皮増殖因子受容体(EGFR)および腫瘍壊死因子受容体(TNFR)等の結合に関与する非膜結合タンパク質もしくは細胞外タンパク質ドメイン、ヒト血清アルブミン(HSA)もしくはα1酸性糖タンパク質(AGP)等の血漿タンパク質、血漿もしくは血清等のタンパク質混合物、または組織ホモジネートであってよい。ターゲットは天然に産生するターゲットまたは人工的に製造したターゲットであってよい。ターゲットは異なるターゲット化合物またはターゲット受容体の混合物であってよいことが分かる。全ての固定化されたターゲットの共通の特徴は、これらが固体上に固定化されているということである。
【0024】
試験する物質または物質混合物は、リガンドと称してもよい。試験するそのような物質は、ペプチド、核酸、リボ核酸、脂質、および他のバイオ分子であってよい。試験する物質は、薬剤または毒素等の化学物質であってもよい。ターゲットと物質または物質混合物との間の相互作用は、特異的結合または非特異的結合を含んでよい。結合は一般に非共有結合である。この場合には、試験物質はターゲットへの結合において競合する。膜とは対照的に、アルブミンまたは抗体等のタンパク質を含む固定化されたターゲットを使用することにより、物質と、膜に対して極端に低い親和性または極端に高い親和性のみを示すターゲットとの間の相互作用を決定することが可能になる。ペプチドは、そのような物質の例である。
【0025】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、決定する結合定数は、親和定数または解離定数である。
【0026】
親和定数または解離定数の決定は数式I
【数1】
による有利な実施形態において行われ、
APAは固定化されたターゲットに結合していない物質、すなわち遊離の物質および可溶性ターゲットに結合した物質の濃度であり、
【数2】

は固定化されたターゲットの解離定数であり、
【数3】

は溶解したターゲットの解離定数であり、
は一定量の添加した物質の総濃度であり、
[immoT]は固定化されたターゲットの濃度であり、
[P]は溶解したターゲットの濃度である。
【0027】
したがって、固定化されたターゲットに関する物質の解離定数および溶解したターゲットに関する物質の解離定数が決定される。それぞれの結合定数は解離定数から数学的に誘導され、逆も真であることが公知である。
【0028】
この数式を用いるためには、物質とターゲットとの間の相互作用は1次またはほぼ1次の結合速度論に従わなければならない。
【0029】
したがって解離定数の決定は、上述の実施形態の1つによる方法によって行われる。この方法は好ましくは、
・数式Iにおいて
【数4】

および
【数5】

についての解離定数のマトリックスを使用するステップと、
・解離定数のマトリックスについて予想されるそれぞれのAPA濃度を計算するステップと、
・計算したAPA濃度を測定したAPA濃度と比較するステップと、
・固定化されたターゲットまたは溶解したターゲットに関する試験する物質の特定された解離定数として、計算したAPA濃度と測定したAPA濃度との乖離が最も小さい
【数6】

および
【数7】

値のペアを選択するステップと、をさらに含む。
【0030】
本方法の好ましい実施形態においては、計算したAPA濃度と測定したAPA濃度との乖離が最も小さい
【数8】
および
【数9】
値のペアの選択を数値最適化法によって行う。
【0031】
本発明による方法の改善によれば、結合定数は上述の数式APA
【数10】
を用いて決定する。ここで
【数11】

および
【数12】

についての複数の結合定数値を最初に数式に代入し、これらの値について予想されるそれぞれのAPA濃度を計算する。次いで、計算したAPA濃度を測定したAPA濃度と比較する。さらなるステップにおいては、計算したAPA濃度と測定したAPA濃度との最小の乖離を数値最適化法、好ましくは「最小二乗」最適化法、および式γ=(APA測定値−APA計算値によって決定する。これらの乖離から乖離の最小値を選択する。次いで、この最小乖離値に帰すべき結合定数
【数13】

および
【数14】

についての対応する値のペアを選択する。それにより、これらは試験する物質の結合定数を構成する。
【0032】
好ましい実施形態によれば、解離定数
【数15】

および
【数16】

のマトリックスがこのようにして構築される。マトリックスに、以下の式
γ=(APA測定値−APA計算値
によって、測定したAPA値と、マトリックスのそれぞれの列および行の
【数17】

および
【数18】

値から計算したAPA値から誘導される残差を入れる。
【0033】
最小の乖離を生じる
【数19】
および
【数20】

値の組み合わせは、測定値を最も良く説明する
【数21】

および
【数22】

値の最適の組み合わせを構成する。このようにして決定された
【数23】

および
【数24】

値が、本発明によって得られる結合定数である。
【0034】
本方法の1つの実施形態においては、固定化されたターゲットのための、水溶液に不溶な担体が提供される。それにより、インキュベーションバッチから担体が容易に分離され、任意選択で本方法を繰り返すために再使用可能になる。
【0035】
特に好ましい実施形態においては、担体は有機または無機ポリマーからなり、アガロースが特に好ましい。アガロースの利点は、特にペプチド等の試験する物質に対する非特異的結合が少ないことである。
【0036】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、担体は粒子形状であり、粒子は少なくとも部分的にミクロまたはナノスケールの粒子であるものが提供される。この場合、粒子は磁性または非磁性ナノ粒子、シリカ粒子、またはセファロースマイクロビーズであってよい。
【0037】
本方法の特に好ましい実施形態においては、担体は粒子状アガロース担体である。そのような担体のさらなる利点は、市販されていることである。
【0038】
本発明による方法の変形実施形態は、固定化されたターゲットがアルブミンであるものが特に好ましい。アルブミンは標準的な方法によって固定化できるので、固定化されたターゲットとして特に適している。
【0039】
本方法のさらに有利な実施形態においては、可溶性ターゲットはヒトまたは動物由来の血漿または血清である。血漿または血清の利点は、測定結果が特に生理学的な関連性を有していることである。
【0040】
本発明による方法のさらなる実施形態は、担体の分離は緩衝溶液の濾過、遠心分離、またはデカンテーションによって行われることを規定する。そのような方法により、必要な時間およびコストを増大させることなく、インキュベーションバッチから担体を分離することができる。
【0041】
好ましい実施形態においては、担体は粒子状であり、粒子は磁性を有する。この場合には、本発明による実施形態においては、磁場を加えて担体を脱離することによって担体を分離する。磁性粒子および磁性分離を用いることによって、他の技術に比べて顕著な利点が得られる。磁性粒子はインキュベーションバッチから直接かつ選択的に分離し、精製することができる。従来の分離方法に比べて、磁性分離は単純かつ迅速である。さらに、緩衝液の交換または洗浄ステップ等のステップは、単純な手法で行うことができる。
【0042】
特に好ましくは、物質または物質混合物の濃度の測定は、質量分析法、蛍光分光法、放射能を用いる方法、もしくはクロマトグラフィー法またはこれらの方法の組み合わせによって行う。これらの方法は幅広く変形することができ、試験物質に対応して適合させ、および修正することができる。このようにして、物質の各濃度をできるだけ正確に決定することができる。
【0043】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、緩衝溶液は生理食塩水溶液である。用いるターゲットがその中で安定であり、溶液が市販されているので、そのような溶液は結合定数を試験するために特に適している。
【0044】
本発明による方法の特に好ましい実施形態においては、試料容器はマイクロタイタープレートのキャビティ、または特に物質または物質混合物に干渉しない表面特性を有する。
【0045】
本発明は、上述の実施形態の1つによる方法によって物質または物質混合物とターゲットとの間の結合定数を決定するためのキットにさらに関する。ここで本発明は、本発明によるキットが、少なくとも4つの試料容器またはマイクロタイタープレートの少なくともキャビティ、緩衝溶液、ある量の溶解したターゲット、および固体、好ましくは粒子状担体に固定化されたある量のターゲットを含有し、溶解したターゲットと固定化されたターゲットは同一でも異なっていてもよいことを規定する。
【0046】
本発明のさらなる実施形態によれば、上述の実施形態の1つによって可溶性ターゲットおよび固定化されたターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数を決定する方法は、特に固定化されたターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数および溶解したターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数の決定が、測定したAPA濃度に基づいてコンピュータープログラムを実行することによって行われるように構成される。したがって、本発明のさらなる実施形態は、固定化されたターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数および溶解したターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数の決定が、測定したAPA濃度に基づいて行われるように構成された、可溶性ターゲットおよび固定化されたターゲットに関する物質または物質混合物の結合定数を決定するためのコンピュータープログラムに関する。本発明のさらなる実施形態は、データキャリア、記憶媒体、またはそのようなコンピュータープログラムによって読み出すことができる機械読み出し可能な媒体等のコンピュータープログラム製品に関する。必要であれば、上述のキットはそのようなコンピュータープログラム製品を追加的に含んでもよい。
【0047】
本発明のさらなる特徴、詳細、および利点は、特許請求の範囲および以下の例示的な実施形態の説明の表現において特定される。本発明は説明した実施形態の1つに限定されず、広範囲の様々なやり方で用いることができる。この場合、設計の詳細、空間的配置、およびプロセスステップを含む特許請求の範囲、説明、および図面から誘導される全ての特徴および利点は、個別的にも、また最も広範囲の様々な組み合わせにおいても、本発明の本質である。
【実施例1】
【0048】
A)実験デザイン
特に好ましい実施形態は、上記の方法のために7個のキャビティを有する5列のカラムを用いたマイクロタイタープレートであり、それにより固定化されたターゲットを有する25個の試料および固定化されたターゲットを有さない参照としての10個の試料をインキュベートする。固定化されたターゲット(ターゲット1)としてヒト血清アルブミン(HSA)を用いた。HSAは標準的な方法に従って市販のセファロースビーズ(Mini−Leak beads medium、Kem−En−Tec Nordic A/S)に固定化した。可溶性ターゲットとしてヒト血漿を用いた。試験する物質はペプチドである。5種類の血漿濃度のそれぞれに対して5種類の濃度の固定化されたHSAを用いる。この目的のため、マイクロタイタープレートのキャビティを以下のように満たす。
【0049】
マイクロタイタープレートのカラムI(ライン1〜7を用いる):
【表1】
【0050】
マイクロタイタープレートのカラムII(ライン1〜7を用いる):
【表2】
【0051】
マイクロタイタープレートのカラムIII(ライン1〜7を用いる):
【表3】
【0052】
マイクロタイタープレートのカラムIV(ライン1〜7を用いる):
【表4】
【0053】
マイクロタイタープレートのカラムV(ライン1〜7を用いる):
【表5】
【0054】
ここで、血漿は以下の表に従って事前希釈してそれぞれのキャビティに加える:
【表6】
【0055】
解離定数の計算においては、全血漿の濃度は600μMであると任意に仮定する。この仮定は現実を近似するものであるが、計算された解離定数はこの濃度を参照しており、したがって「真の」濃度が異なっていても血漿に結合した物質の割合という意味では正しい結合値が得られるので、問題はない。
【0056】
2つのターゲット、すなわち固定化されたターゲットおよび溶解したターゲットの濃度を変化させるという本発明の原理が、ここで実行されていることが分かる。異なる物質量の固定化されたターゲットおよび同じ物質量の溶解したターゲットを含有する物質の第1および第2の試料をインキュベートする(たとえばキャビティI−3およびI−7は11μMまたは120μMの固定化されたHSAの濃度を有し、両方のキャビティは1:3希釈血漿を含有する)。さらに、物質の第1および第2の試料と同じ物質量の固定化されたターゲットを有し、同じ物質量の可溶性ターゲットを含有する物質の第3および第4の試料をインキュベートする(たとえばキャビティV−3およびV−7は11μMまたは120μMの固定化されたHSAの濃度を有し、両方のキャビティは1:48希釈血漿を含有する)。ここで試料容器3および4の中の可溶性ターゲットの物質量は、試料容器1および2の中の可溶性ターゲットの物質量とは異なる。
【0057】
B)実験方法
試験物質の10〜2000μMの保存溶液10μLずつをキャビティに加える。この例においては、1012.5μMのペプチドの保存溶液を用いた。上記の実験装置に10μLを加えた後、全てのキャビティにおけるペプチドの濃度は22.5μMであった。ターゲット1(ここではヒト血清アルブミン)を固定化したビーズを再懸濁することによって混合した後、担体材料の上に固定したターゲットを分離する。この目的のため、マイクロタイタープレートを遠心分離してビーズを沈降させる。LC/MS/MSまたはシンチレーション計数法等の適当な方法によって上清中の濃度を決定する。固定化されたターゲットを有するキャビティ中の物質の非結合分率を参照試料と比較して決定する。これにより、用いた試験物質および定量システムについて信号対濃度比が直線関係に従う限り、較正の必要はない。
【0058】
C)実験の評価
25個の試料の全てについて参照試料と比較して測定した濃度に、実験に用いた試験物質の濃度(ここでは22.5μM)を掛ければ、25個の試料全てにおけるAPA濃度(列3に示す)が得られる。APAについての上述の式に従って、解離定数
【数25】

および
【数26】

から、予想されるAPA値を計算することができる。これらの解離定数を決定するために、一般に公知の数値「最小二乗」最適化法を用いる。この方法の構成は広範囲に異なっていてもよい。この例については、1.9×10−5〜1.1×10−7μMの範囲の解離定数
【数27】

および6.0×10−4〜1.8×10−11μMの範囲の解離定数
【数28】
のマトリックスを構築した。マトリックスを、測定したAPA値と、マトリックスのそれぞれの列および行の
【数29】

および
【数30】

値から計算したAPA値から、以下の式
γ=(APA測定値−APA計算値
に従って誘導される残差で満たした。
【0059】
最小の乖離を生じる
【数31】

および
【数32】

値の組み合わせは、測定値を最も良く説明する
【数33】

および
【数34】

値の最適の組み合わせを構成する。このようにして決定された
【数35】

および
【数36】

値を、結合定数の結果として採用する。この値の組み合わせから計算したAPA値を、以下の表の列4に、残差を列5に示す。
【表7】
【0060】
この例については、このようにして決定した実施例物質の解離定数は、
【数37】
=18.7μM、
【数38】

=7.3μMである。次いで、ヒト全血漿に結合した、用いたペプチドの分率を、以下の一般に公知の式
【数39】

に従って決定する。ここで[P]は任意に選択した血漿濃度、
【数40】

は最適化法によって得られた血漿からのペプチドの解離定数の値である。この例においては、ヒト全血漿(非希釈)に結合したペプチドの分率は97%である。これは、血漿に溶解したペプチドのわずか3%が遊離または非結合の形態にあることを意味する。
【実施例2】
【0061】
A)実験デザイン
特に好ましい実施形態は、上記の方法のために7個のキャビティを有する5列のカラムを用いたマイクロタイタープレートであり、それにより固定化されたターゲットを有する25個の試料および固定化されたターゲットを有さない参照としての10個の試料をインキュベートする。固定化されたターゲット(ターゲット1)としてヒト血清アルブミン(HSA)を用いた。HSAは標準的な方法に従って市販のセファロースビーズ(Mini−Leak beads medium、Kem−En−Tec Nordic A/S)に固定化した。可溶性ターゲットとしてヒト血漿を用いた。試験する物質はペプチドであるリラグルチドである。5種類の血漿濃度のそれぞれに対して5種類の濃度の固定化されたHSAを用いる。この目的のため、マイクロタイタープレートのキャビティを以下のように満たす。
【表8】
【0062】
ここで、血漿は以下の表に従って事前希釈してそれぞれのキャビティに加える。
【表9】
【0063】
解離定数の計算においては、全血漿の濃度は600μMであると任意に仮定する。この仮定は現実を近似するものであるが、計算された解離定数はこの濃度を参照しており、したがって「真の」濃度が異なっていても血漿に結合した物質の割合という意味では正しい結合値が得られるので、問題はない。
【0064】
2つのターゲット、すなわち固定化されたターゲットおよび溶解したターゲットの濃度を変化させるという本発明の原理が、ここで実行されていることが分かる。異なる物質量の固定化されたターゲットおよび同じ物質量の溶解したターゲットを含有する物質の第1および第2の試料をインキュベートし(たとえばキャビティV−3およびV−6)、物質の第1および第2の試料と同じ物質量の固定化されたターゲットならびに異なる物質量の可溶性ターゲットを有する物質の第3および第4の試料をインキュベートする(たとえばキャビティIV3およびV3)。
【0065】
B)実験方法
試験物質リラグルチドの0.022μMの保存溶液10μLずつをキャビティに加える。上記の実験装置に10μLを加えた後、全てのキャビティにおけるペプチドの濃度は22nMであった。ターゲット1(ここではヒト血清アルブミン)を固定化したビーズを再懸濁することによって混合した後、担体材料の上に固定したターゲットを分離する。この目的のため、マイクロタイタープレートを遠心分離してビーズを沈降させる。LC/MS/MSまたはシンチレーション計数法等の適当な方法によって上清中の濃度を決定する。固定化されたターゲットを有するキャビティ中の物質の非結合分率を参照試料と比較して決定する。これにより、試験物質および用いた定量システムについて信号対濃度比が直線関係に従う限り、較正の必要はない。
【0066】
C)実験の評価
25個の試料の全てについて参照試料と比較して測定した濃度に、実験に用いた試験物質の濃度(ここでは22nM)を掛ければ、25個の試料全てにおけるAPA濃度(列3に示す)が得られる。APAについての上の式に従って、解離定数
【数41】

および
【数42】

から、予想されるAPA値を計算することができる。これらの解離定数を決定するために、一般に公知の数値「最小二乗」最適化法を用いる。この方法の構成は広範囲に異なっていてもよい。この例については、1.9×10−5〜1.1×10−7μMの範囲の解離定数
【数43】

および6.0×10−4〜1.8×10−4μMの範囲の解離定数
【数44】

のマトリックスを構築した。マトリックスを、測定したAPA値と、マトリックスのそれぞれの列および行の
【数45】

および
【数46】
値から計算したAPA値から、以下の式
γ=(APA測定値−APA計算値
に従って誘導される残差で満たした。
【0067】
最小の乖離を生じる
【数47】

および
【数48】

値の組み合わせは、測定値を最も良く説明する
【数49】

および
【数50】

値の最適の組み合わせを構成する。このようにして決定された
【数51】

および
【数52】

値を、結合定数の結果として採用する。この値の組み合わせから計算したAPA値を、以下の表の列4に、残差を列5に示す。
【表10】
【0068】
この例については、このようにして決定したリラグルチド、ペプチドの解離定数は、
【数53】

=7.53μM、および
【数54】

=36.9μMである。次いで、ヒト全血漿に結合した、用いたペプチドの分率を、以下の一般に公知の式
【数55】

に従って決定する。ここで[P]は任意に選択した血漿濃度、
【数56】

は最適化法によって得られた血漿からのペプチドの解離定数の値である。この例においては、ヒト全血漿(非希釈)に結合したペプチドの分率は98.8%である。これは、血漿に溶解したペプチドのわずか1.2%が遊離または非結合の形態にあることを意味する。