(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.実施例:
図1〜
図4は、一実施例としての車両10を示す説明図である。
図1は、車両10の右側面図を示し、
図2は、車両10の上面図を示し、
図3は、車両10の下面図を示し、
図4は、車両10の背面図を示している。
図2〜
図4では、
図1に示す車両10の構成のうち、説明に用いる部分が図示され、他の部分の図示が省略されている。
図1〜
図4には、6つの方向DF、DB、DU、DD、DR、DLが示されている。前方向DFは、車両10の前進方向であり、後方向DBは、前方向DFの反対方向である。上方向DUは、鉛直上方向であり、下方向DDは、上方向DUの反対方向である。右方向DRは、前方向DFに走行する車両10から見た右方向であり、左方向DLは、右方向DRの反対方向である。方向DF、DB、DR、DLは、いずれも、水平な方向である。右と左の方向DR、DLは、前方向DFに垂直である。
【0016】
本実施例では、この車両10は、一人乗り用の小型車両である。車両10(
図1、
図2)は、車体90と、車体90に連結された1つの前輪12Fと、車体90に連結され車両10の幅方向(すなわち、右方向DRに平行な方向)に互いに離れて配置された2つの後輪12L、12Rと、を有する三輪車である。前輪12Fは、操舵可能であり、車両10の幅方向の中心に配置されている。後輪12L、12Rは、操舵不能な駆動輪であり、車両10の幅方向の中心に対して対称に配置されている。
【0017】
車体90(
図1)は、本体部20を有している。本体部20は、前部20aと、底部20bと、後部20cと、支持部20dと、を有している。底部20bは、水平な方向(すなわち、上方向DUに垂直な方向)に拡がる板状の部分である。前部20aは、底部20bの前方向DF側の端部から前方向DF側かつ上方向DU側に向けて斜めに延びる板状の部分である。後部20cは、底部20bの後方向DB側の端部から後方向DB側かつ上方向DU側に向けて斜めに延びる板状の部分である。支持部20dは、後部20cの上端から後方向DBに向かって延びる板状の部分である。本体部20は、例えば、金属製のフレームと、フレームに固定されたパネルと、を有している。
【0018】
車体90(
図1)は、さらに、底部20b上に固定された座席11と、底部20b上の座席11よりも前方向DF側に配置されたアクセルペダル45とブレーキペダル46と、座席11の座面の下に配置され底部20bに固定された制御装置110と、底部20bのうちの制御装置110よりも下の部分に固定されたバッテリ120と、前部20aの前方向DF側の端部に固定された操舵装置41と、操舵装置41に取り付けられたシフトスイッチ47と、を有している。なお、図示を省略するが、本体部20には、他の部材(例えば、屋根、前照灯など)が固定され得る。車体90は、本体部20に固定された部材を含んでいる。
【0019】
アクセルペダル45は、車両10を加速するためのペダルである。アクセルペダル45の踏み込み量(「アクセル操作量」とも呼ぶ)は、ユーザの望む加速力を表している。ブレーキペダル46は、車両10を減速するためのペダルである。ブレーキペダル46の踏み込み量(「ブレーキ操作量」とも呼ぶ)は、ユーザの望む減速力を表している。シフトスイッチ47は、車両10の走行モードを選択するためのスイッチである。本実施例では、「ドライブ」と「ニュートラル」と「リバース」と「パーキング」との4つの走行モードから1つを選択可能である。「ドライブ」は、駆動輪12L、12Rの駆動によって前進するモードであり、「ニュートラル」は、駆動輪12L、12Rが回転自在であるモードであり、「リバース」は、駆動輪12L、12Rの駆動によって後退するモードであり、「パーキング」は、少なくとも1つの車輪(例えば、後輪12L、12R)が回転不能であるモードである。
【0020】
操舵装置41(
図1)は、回動軸Ax1を中心に車両10の旋回方向に向けて前輪12Fを回動可能に支持する装置である。操舵装置41は、前輪12Fを回転可能に支持する前フォーク17と、ユーザによる操作によってユーザの望む旋回方向と操作量とが入力される操作入力部としてのハンドル41aと、回動軸Ax1を中心に前フォーク17(すなわち、前輪12F)を回動させる操舵モータ65と、を有している。
【0021】
前フォーク17(
図1)は、例えば、サスペンション(コイルスプリングとショックアブソーバ)を内蔵したテレスコピックタイプのフォークである。操舵モータ65は、例えば、ステータとロータとを有する電気モータである。ステータとロータとのうちの一方は、本体部20に固定され、他方は、前フォーク17に固定されている。
【0022】
ハンドル41a(
図1)は、ハンドル41aの回転軸に沿って延びる支持棒41axを中心に回動可能である。ハンドル41aの回動方向(右、または、左)は、ユーザの望む旋回方向を示している。直進を示す所定方向からのハンドル41aの操作量(ここでは、回動角度。以下「ハンドル角」とも呼ぶ)は、操舵角AF(
図2)の大きさを示している。操舵角AFは、下方向DDを向いて車両10を見る場合に、前方向DFを基準とする前輪12Fの転がる方向D12の角度である。この方向D12は、前輪12Fの回転軸に垂直な方向である。本実施例では、「AF=ゼロ」は、「方向D12=前方向DF」を示し、「AF>ゼロ」は、方向D12が右方向DR側を向いていることを示し、「AF<ゼロ」は、方向D12が左方向DL側を向いていることを示している。制御装置110(
図1)は、ユーザによってハンドル41aの向きが変更された場合に、前フォーク17の向き(すなわち、前輪12Fの操舵角AF(
図2))をハンドル41aの向きに合わせて変更するように、操舵モータ65を制御可能である。
【0023】
また、操舵装置41の動作モードは、ハンドル41aの状態に拘わらず前輪12Fの操舵角AFが、車体90の傾斜に追随して変化する状態で前輪12Fを支持する第1モードと、操舵モータ65によって操舵角AFが制御される第2モードと、を含んでいる。第1モードの詳細については、後述する。
【0024】
図1に示すように、本実施例では、車両10が水平な地面GL上に配置されている場合、操舵装置41の回動軸Ax1は、地面GLに対して斜めに傾斜しており、具体的には、回動軸Ax1に平行に下方向DD側へ向かう方向は、斜め前方を向いている。そして、操舵装置41の回動軸Ax1と地面GLとの交点P2は、前輪12Fの地面GLとの接触点P1よりも、前方向DF側に位置している。これらの点P1、P2の間の後方向DBの距離Ltは、トレールと呼ばれる。正のトレールLtは、接触点P1が交点P2よりも後方向DB側に位置していることを示している。
【0025】
2つの後輪12L、12R(
図4)は、後輪支持部80に回動可能に支持されている。後輪支持部80は、リンク機構30と、リンク機構30の上部に固定されたリーンモータ25と、リンク機構30の上部に固定された第1支持部82と、リンク機構30の前部に固定された第2支持部83(
図1)と、を有している。
図1では、説明のために、リンク機構30と第1支持部82と第2支持部83のうちの右後輪12Rに隠れている部分も実線で示されている。
図2では、説明のために、本体部20に隠れている後輪支持部80と後輪12L、12Rと連結部75とが、実線で示されている。
図1〜
図3では、リンク機構30が簡略化して示されている。
【0026】
第1支持部82(
図4)は、リンク機構30の上方向DU側に配置されている。第1支持部82は、左後輪12Lの上方向DU側から、右後輪12Rの上方向DU側まで、右方向DRに平行に延びる板状の部分を含んでいる。第2支持部83(
図1、
図2)は、リンク機構30の前方向DF側の、左後輪12Lと右後輪12Rとの間に配置されている。
【0027】
右後輪12R(
図1)は、リムを有するホイール12Raと、ホイール12Raのリムに装着されたタイヤ12Rbと、を有している。ホイール12Ra(
図4)は、右電気モータ51Rに接続されている。右電気モータ51Rは、ステータとロータとを有している(図示省略)。ロータとステータとのうちの一方は、ホイール12Raに固定され、他方は、後輪支持部80に固定されている。右電気モータ51Rの回転軸は、ホイール12Raの回転軸と同じであり、右方向DRに平行である。左後輪12Lの構成は、右後輪12Rの構成と、同様である。具体的には、左後輪12Lは、ホイール12Laとタイヤ12Lbとを有している。ホイール12Laは、左電気モータ51Lに接続されている。左電気モータ51Lのロータとステータとのうちの一方は、ホイール12Laに固定され、他方は、後輪支持部80に固定されている。これらの電気モータ51L、51Rは、後輪12L、12Rを直接的に駆動するインホイールモータである。
【0028】
リンク機構30(
図4)は、右方向DRに向かって順番に並ぶ3つの縦リンク部材33L、21、33Rと、下方向DDに向かって順番に並ぶ2つの横リンク部材31U、31Dと、を有している。縦リンク部材33L、21、33Rは、車両10の停止時には鉛直方向に平行である。横リンク部材31U、31Dは、車両10の停止時には水平方向に平行である。2つの縦リンク部材33L、33Rと、2つの横リンク部材31U、31Dとは、平行四辺形リンク機構を形成している。左縦リンク部材33Lには、左電気モータ51Lが固定されている。右縦リンク部材33Rには、右電気モータ51Rが固定されている。上横リンク部材31Uは、縦リンク部材33L、33Rの上端を連結している。下横リンク部材31Dは、縦リンク部材33L、33Rの下端を連結している。中縦リンク部材21は、横リンク部材31U、31Dの中央部分を連結している。これらのリンク部材33L、33R、31U、31D、21は、互いに回動可能に連結されており、回動軸は、前方向DFに平行である。中縦リンク部材21の上部には、第1支持部82と第2支持部83(
図1)とが、固定されている。リンク部材33L、21、33R、31U、31Dと、支持部82、83とは、例えば、金属で形成されている。
【0029】
リーンモータ25は、例えば、ステータとロータとを有する電気モータである。リーンモータ25のステータとロータのうちの一方は、中縦リンク部材21に固定され、他方は、上横リンク部材31Uに固定されている。リーンモータ25の回動軸は、これらのリンク部材31U、21の連結部分の回動軸と同じであり、車両10の幅方向の中心に位置している。リーンモータ25のロータがステータに対して回動すると、上横リンク部材31Uが、中縦リンク部材21に対して、傾斜する。これにより、車両10が傾斜する。
【0030】
図5は、車両10の状態を示す概略図である。図中には、車両10の簡略化された背面図が示されている。
図5(A)は、車両10が直立している状態を示し、
図5(B)は、車両10が傾斜している状態を示している。
図5(A)に示すように、上横リンク部材31Uが中縦リンク部材21に対して直交する場合、全ての車輪12F、12L、12Rが、平らな地面GLに対して直立する。そして、車体90を含む車両10の全体は、地面GLに対して、直立する。図中の車両上方向DVUは、車両10の上方向である。車両10が傾斜していない状態では、車両上方向DVUは、上方向DUと同じである。なお、後述するように、車体90は、後輪支持部80に対して回動可能である。そこで、本実施例では、後輪支持部80の向き(具体的には、リンク機構30の動きの基準である中縦リンク部材21の向き)を、車両上方向DVUとして採用する。
【0031】
図5(B)に示すように、上横リンク部材31Uが中縦リンク部材21に対して傾斜する場合、右後輪12Rと左後輪12Lとの一方が、車両上方向DVU側に移動し、他方は、車両上方向DVUとは反対方向側に移動する。すなわち、リンク機構30とリーンモータ25とは、幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪12L、12Rの間の回転軸に垂直な方向の相対位置を変化させる。この結果、全ての車輪12F、12L、12Rが地面GLに接触した状態で、これらの車輪12F、12L、12Rは、地面GLに対して傾斜する。そして、車体90を含む車両10の全体は、地面GLに対して、傾斜する。
図5(B)の例では、右後輪12Rが車両上方向DVU側に移動し、左後輪12Lが反対側に移動している。この結果、車輪12F、12L、12R、ひいては、車体90を含む車両10の全体は、右方向DR側に、傾斜する。後述するように、車両10が右方向DR側に旋回する場合に、車両10は、右方向DR側に傾斜する。車両10が左方向DL側に旋回する場合に、車両10は、左方向DL側に傾斜する。
【0032】
図5(B)では、車両上方向DVUは、上方向DUに対して、右方向DR側に傾斜している。以下、前方向DFを向いて車両10を見る場合の、上方向DUと車両上方向DVUとの間の角度を、傾斜角Tと呼ぶ。ここで、「T>ゼロ」は、右方向DR側への傾斜を示し、「T<ゼロ」は、左方向DL側への傾斜を示している。車両10が傾斜する場合、車体90も、おおよそ、同じ方向に傾斜する。車両10の傾斜角Tは、車体90の傾斜角Tということができる。
【0033】
なお、リーンモータ25は、リーンモータ25を回動不能に固定する図示しないロック機構を有している。ロック機構を作動させることによって、上横リンク部材31Uは、中縦リンク部材21に対して回動不能に固定される。この結果、傾斜角Tが固定される。例えば、車両10の駐車時に、傾斜角Tはゼロに固定される。ロック機構としては、メカニカルな機構であって、リーンモータ25(ひいては、リンク機構30)を固定している最中に電力を消費しない機構が好ましい。
【0034】
図5(A)、
図5(B)には、傾斜軸AxLが示されている。傾斜軸AxLは、地面GL上に位置している。車両10は、傾斜軸AxLを中心に、右と左とに傾斜可能である。傾斜軸AxLは、後方向DB側から前方向DF側に向かって延びている。本実施例では、傾斜軸AxLは、地面GL上に位置しており、前輪12Fと地面GLとの接触点P1を通り前方向DFに平行な直線である。接触点P1は、前輪12Fの接地面(前輪12Fと地面GLとの接触領域)の重心位置である。このような接触点P1は、前輪12Fと地面GLとの接触面の中心を示している。領域の重心は、領域内に質量が均等に分布していると仮定した場合の重心の位置である。後述するように、車両10が旋回する場合に、リーンモータ25は、車両10を旋回方向側(すなわち、旋回の中心側)に向けて傾斜させる。これにより、車両10の旋回を安定化できる。このように、後輪12L、12Rを回動可能に支持するリンク機構30と、リンク機構30を作動させるアクチュエータとしてのリーンモータ25とは、車体90を車両10の幅方向に傾斜させる傾斜機構を構成する。傾斜角Tは、傾斜機構による傾斜角である。
【0035】
車体90(具体的には、本体部20)は、
図1、
図5(A)、
図5(B)に示すように、後方向DB側から前方向DF側に向かって延びるロール軸AxRを中心に回動可能に、後輪支持部80に連結されている。
図2、
図4に示すように、本実施例では、本体部20は、サスペンションシステム70と連結部75とによって、後輪支持部80に連結されている。サスペンションシステム70は、左サスペンション70Lと、右サスペンション70Rと、を有している。本実施例では、各サスペンション70L、70Rは、コイルスプリングとショックアブソーバとを内蔵するテレスコピックタイプのサスペンションである。各サスペンション70L、70Rは、各サスペンション70L、70Rの中心軸70La、70Ra(
図4)に沿って、伸縮可能である。
図4に示すように車両10が直立している状態では、各サスペンション70L、70Rの中心軸は、鉛直方向におおよそ平行である。サスペンション70L、70Rの上端部は、第1軸方向(例えば、前方向DF)に平行な回動軸を中心に回動可能に本体部20の支持部20dに連結されている。サスペンション70L、70Rの下端部は、第2軸方向(例えば、右方向DR)に平行な回動軸を中心に回動可能に後輪支持部80の第1支持部82に連結されている。なお、サスペンション70L、70Rと他の部材との連結部分の構成は、他の種々の構成であってもよい(例えば、玉継ぎ手)。
【0036】
連結部75は、
図1、
図2に示すように、前方向DFに延びる棒である。連結部75は、車両10の幅方向の中心に配置されている。連結部75の前方向DF側の端部は、本体部20の後部20cに連結されている。連結部分の構成は、例えば、玉継ぎ手である。連結部75は、後部20cに対して、予め決められた範囲内で、任意の方向に動くことができる。連結部75の後方向DB側の端部は、後輪支持部80の第2支持部83に連結されている。連結部分の構成は、例えば、玉継ぎ手である。連結部75は、第2支持部83に対して、予め決められた範囲内で、任意の方向に動くことができる。
【0037】
このように、本体部20(ひいては、車体90)は、サスペンションシステム70と連結部75とを介して、後輪支持部80に連結されている。車体90は、後輪支持部80に対して、動くことが可能である。
図1のロール軸AxRは、車体90が後輪支持部80に対して右方向DRまたは左方向DLに回動する場合の中心軸を示している。本実施例では、ロール軸AxRは、前輪12Fと地面GLとの接触点P1と、連結部75の近傍と、を通る直線である。車体90は、サスペンション70L、70Rの伸縮によって、ロール軸AxRを中心に、幅方向に回動可能である。なお、本実施例では、傾斜機構による傾斜の傾斜軸AxLは、ロール軸AxRと異なっている。
【0038】
図5(A)、
図5(B)には、ロール軸AxRを中心に回動する車体90が、点線で示されている。図中のロール軸AxRは、サスペンション70L、70Rを含み前方向DFに垂直な平面上のロール軸AxRの位置を示している。
図5(B)に示すように、車両10が傾斜した状態においても、車体90は、さらに、ロール軸AxRを中心に、右方向DRと左方向DLとに回動可能である。
【0039】
車体90は、後輪支持部80による回動と、サスペンションシステム70と連結部75とによる回動と、によって、鉛直上方向DU(ひいては、地面GL)に対して、車両10の幅方向に回動し得る。このように、車両10の全体を総合して実現される車体90の幅方向の回動を、ロールとも呼ぶ。本実施例では、車体90のロールは、主に、後輪支持部80とサスペンションシステム70と連結部75との全体を通じて引き起こされる。また、車体90やタイヤ12Rb、12Lbなどの車両10の部材の変形によっても、ロールは生じる。
【0040】
図1、
図5(A)、
図5(B)には、重心90cが示されている。この重心90cは、満載状態での車体90の重心である。満載状態は、車両10が、車両10の総重量が許容される車両総重量になるように、乗員(可能なら荷物も)を積んだ状態である。例えば、荷物の最大重量は規定されず、最大定員数が規定される場合がある。この場合、重心90cは、車両10に対応付けられた最大定員数の乗員が車両10に搭乗した状態の重心である。乗員の体重としては、最大定員数に予め対応付けられた基準体重(例えば、55kg)が採用される。また、最大定員数に加えて、荷物の最大重量が規定される場合がある。この場合、重心90cは、最大定員数の乗員と、最大重量の荷物と、を積んだ状態での、車体90の重心である。
【0041】
図示するように、本実施例では、重心90cは、ロール軸AxRの下方向DD側に配置されている。従って、車体90がロール軸AxRを中心に振動する場合に、振動の振幅が過度に大きくなることを抑制できる。本実施例では、重心90cをロール軸AxRの下方向DD側に配置するために、車体90(
図1)の要素のうち比較的重い要素であるバッテリ120が、低い位置に配置されている。具体的には、バッテリ120は、車体90の本体部20のうちの最も低い部分である底部20bに固定されている。従って、重心90cを、容易に、ロール軸AxRよりも低くできる。
【0042】
図6は、旋回時の力のバランスの説明図である。図中には、旋回方向が右方向である場合の後輪12L、12Rの背面図が示されている。後述するように、旋回方向が右方向である場合、制御装置110(
図1)は、後輪12L、12R(ひいては、車両10)が地面GLに対して右方向DRに傾斜するように、リーンモータ25を制御する場合がある。
【0043】
図中の第1力F1は、車体90に作用する遠心力である。第2力F2は、車体90に作用する重力である。ここで、車体90の質量をm(kg)とし、重力加速度をg(おおよそ、9.8m/s
2)とし、鉛直方向に対する車両10の傾斜角をT(度)とし、旋回時の車両10の速度をV(m/s)とし、旋回半径をR(m)とする。第1力F1と第2力F2とは、以下の式1、式2で表される。
F1 = (mV
2)/R (式1)
F2 = mg (式2)
【0044】
また、図中の力F1bは、第1力F1の、車両上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F2bは、第2力F2の、車両上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F1bと力F2bとは、以下の式3、式4で表される。
F1b = F1 cos(T) (式3)
F2b = F2 sin(T) (式4)
【0045】
力F1bは、車両上方向DVUを左方向DL側に回動させる成分であり、力F2bは、車両上方向DVUを右方向DR側に回動させる成分である。車両10が傾斜角T(さらには、速度Vと旋回半径R)を保ちつつ安定して旋回を続ける場合には、F1bとF2bとの関係は、以下の式5で表される
F1b = F2b (式5)
式5に上記の式1〜式4を代入すると、旋回半径Rは、以下の式6で表される。
R = V
2/(g tan(T)) (式6)
式6は、車体90の質量mに依存せずに、成立する。
【0046】
図7は、操舵角AFと旋回半径Rとの簡略化された関係を示す説明図である。図中には、下方向DDを向いて見た車輪12F、12L、12Rが示されている。図中では、前輪12Fは、右方向DRに回動しており、車両10は、右方向DRに旋回する。図中の前中心Cfは、前輪12Fの中心である。前中心Cfは、前輪12Fの回転軸上に位置している。前中心Cfは、接触点P1(
図1)とおおよそ同じ位置に位置している。後中心Cbは、2つの後輪12L、12Rの中心である。後中心Cbは、後輪12L、12Rの回転軸上の、後輪12L、12Rの間の中央に位置している。中心Crは、旋回の中心である(旋回中心Crと呼ぶ)。ホイールベースLhは、前中心Cfと後中心Cbとの間の前方向DFの距離である。
図1に示すように、ホイールベースLhは、前輪12Fの回転軸と、後輪12L、12Rの回転軸との間の前方向DFの距離である。
【0047】
図7に示すように、前中心Cfと後中心Cbと旋回中心Crとは、直角三角形を形成する。点Cbの内角は、90度である。点Crの内角は、操舵角AFと同じである。従って、操舵角AFと旋回半径Rとの関係は、以下の式7で表される。
AF = arctan(Lh/R) (式7)
【0048】
なお、現実の車両10の挙動と、
図7の簡略化された挙動と、の間には、種々の差異が存在する。例えば、現実の車輪12F、12L、12Rは、地面GLに対して滑り得る。また、現実の後輪12L、12Rは、傾斜する。従って、現実の旋回半径は、式7の旋回半径Rと異なり得る。ただし、式7は、操舵角AFと旋回半径Rとの関係を示す良い近似式として、利用可能である。
【0049】
前進中に
図5(B)のように車両10が右方向DR側へ傾斜した場合、車体90の重心90cが右方向DR側へ移動するので、車両10の進行方向は、右方向DR側へ変化する。また、本実施例では、
図1で説明したように、車両10は、正のトレールLtを有する。従って、前進中に車両10が右方向DR側へ傾斜した場合、前輪12Fの向き(すなわち、操舵角AF)は、自然に、車両10の新たな進行方向、すなわち、傾斜方向(
図5(B)の例では、右方向DR)に、回動可能である。操舵装置41が第1モードで動作している場合には、前輪12Fの向きは、傾斜角Tの変更開始に続いて、自然に、傾斜方向に回動する。そして、車両10は、傾斜方向に向かって、旋回する。
【0050】
また、旋回半径が上記の式6で表される旋回半径Rと同じである場合には、力F1b、F2b(
図6、式5)が釣り合うので、車両10の挙動が安定する。傾斜角Tで旋回する車両10は、式6で表される旋回半径Rで旋回しようとする。また、車両10が正のトレールLtを有するので、前輪12Fの向き(操舵角AF)は、自然に、車両10の進行方向と同じになる。従って、車両10が傾斜角Tで旋回する場合、回動自在な前輪12Fの向き(操舵角AF)は、式6で表される旋回半径Rと、式7と、から特定される操舵角AFの向きに、落ち着き得る。このように、操舵角AFは、車体90の傾斜に追随して、変化する。
【0051】
また、本実施例では、車体90が傾斜する場合に、前輪12Fには、トレールLtに依存せずに、操舵角AFを傾斜方向に回動させる力が作用する。
図8は、回転する前輪12Fに作用する力の説明図である。図中には、前輪12Fの斜視図が示されている。
図8の例では、前輪12Fの方向D12は、前方向DFと同じである。回転軸Ax2は、前輪12Fの回転軸である。車両10が前進する場合、前輪12Fは、この回転軸Ax2を中心に、回転する。図中には、操舵装置41(
図1)の回動軸Ax1と、前軸Ax3とが示されている。回動軸Ax1は、上方向DU側から下方向DD側に向かって延びている。前軸Ax3は、前輪12Fの重心12Fcを通り、前輪12Fの方向D12に平行な軸である。なお、前輪12Fの回転軸Ax2も、前輪12Fの重心12Fcを通っている。
【0052】
図1等で説明したように、本実施例では、前輪12Fを支持する操舵装置41は、車体90に固定されている。従って、車体90が傾斜する場合には、操舵装置41が車体90とともに傾斜するので、前輪12Fの回転軸Ax2も、同様に、同じ方向へ傾斜しようとする。走行中の車両10の車体90が右方向DR側に傾斜する場合、回転軸Ax2を中心に回転する前輪12Fに、右方向DR側へ傾斜させるトルクTq1(
図8)が作用する。このトルクTq1は、前軸Ax3を中心に前輪12Fを右方向DR側へ傾斜させようとする力の成分を含んでいる。このように、回転する物体に外部トルクが印加される場合の物体の運動は、歳差運動として知られている。例えば、回転する物体は、回転軸と外部トルクの軸とに垂直な軸を中心に、回動する。
図8の例では、トルクTq1の印加によって、回転する前輪12Fは、操舵装置41の回動軸Ax1を中心に右方向DR側へ回動する。このように、回転する前輪12Fの角運動量に起因して、前輪12Fの方向(すなわち、操舵角AF)は、車体90の傾斜に追随して変化する。
【0053】
以上、車両10が右方向DR側に傾斜する場合について説明した。車両10が左方向DL側に傾斜する場合も、同様である。
【0054】
車両10が、右旋回と左旋回とを繰り返す場合、傾斜角Tは、右と左との間で振動する。これにより、車体90も、右と左との間で振動する。操舵角AFは、車体90の振動に追随して、振動し得る。具体的には、操舵角AFは、傾斜角T(
図5(B))の振動に追随して、振動し得る。なお、
図5(A)、
図5(B)で説明したように、車体90は、サスペンション70L、70Rの伸縮によって、傾斜角Tから、さらに、幅方向に回動し得る。操舵角AFは、車体90のこのような回動後の傾斜に追随して変化し得る。ただし、通常は、車体90の傾斜の傾斜角Tからのズレは、傾斜角Tと比べて小さい。従って、操舵角AFは傾斜角Tに追随して変化する、ということができる。
【0055】
図9(A)〜
図9(D)は、それぞれ、傾斜角Tの振動に対する操舵角AFの振動の例を示すグラフである。横軸は、時間TM(単位は秒)を示し、縦軸は、傾斜角Tと操舵角AF(単位は度)を示している。これらのグラフの間では、速度Vと、前輪12F(
図8)の慣性モーメントIと、の少なくとも1つが、互いに異なっている。慣性モーメントIは、前輪12Fの回転軸Ax2を中心とする慣性モーメントである。速度Vは、第1速度V1と第2速度V2のいずれかであり(V2>V1>ゼロ)、慣性モーメントIは、第1値I1と第2値I2のいずれかである(I2>I1>ゼロ)。
図9(A)では、V=V1、I=I1であり、
図9(B)では、V=V2、I=I1であり、
図9(C)では、V=V1、I=I2であり、
図9(D)では、V=V2、I=I2である。各グラフは、車両10(
図1〜
図4)のモデルの力学的動きを表すシミュレーションの結果を示している。シミュレーションでは、第1速度V1は、20km/hであり、第2速度V2は、40km/hであり、第1値I1は、0.165kgm
2であり、第2値I2は、1.0kgm
2である。また、傾斜角Tの振動数は、0.5Hzである。
【0056】
図9(A)に示すように、速度Vが比較的遅く、慣性モーメントIが比較的小さい場合、操舵角AFは、傾斜角Tの振動に遅れて振動する。図中の位相差Dp1は、傾斜角Tからの操舵角AFの位相の遅れを示し、0.24秒である。一方、
図9(B)〜
図9(D)に示すように、速度Vと慣性モーメントIとの少なくとも一方が比較的大きい場合、操舵角AFは、傾斜角Tの振動に進んで振動する。
図9(B)〜
図9(D)の位相差Dp2〜Dp3は、それぞれ、傾斜角Tからの操舵角AFの位相の進みを示し、Dp2=0.25秒、Dp3=0.07秒、Dp3=0.48秒である。このように、速度Vと慣性モーメントIとの少なくとも一方が大きい場合に、操舵角AFの位相は、傾斜角Tの位相よりも、進んだ。このような現象は、シミュレーションに限らず、車両10の試作機が実際に走行した場合にも、観察された。このような操舵角AFの位相の進みと遅れとは、傾斜角Tの振動と前輪12Fに作用するトルクとの関係を用いて説明できる。
【0057】
図10(A)〜
図10(C)は、傾斜角Tの振動と前輪12Fに作用するトルクとを説明するグラフである。各図において、横軸は、時間TMを示している。
図10(A)は、傾斜角Tの振動に対する前輪12Fに作用するトルクtqa、tqbの振動が示されている。第1トルクtqaは、
図8で説明した歳差運動に関連するトルクTq1と同じであり、回転する前輪12Fの回転軸Ax2を傾斜させることによって生じるトルクである。第2トルクtqbは、
図1等で説明したトレールLtによって生じるトルクである。
【0058】
図10(B)は、第1トルクtqaを説明するグラフである。グラフ中には、傾斜角Tと、傾斜角Tの変化の速度Vt(すなわち、角速度Vt)と、第1トルクtqaと、が示されている。図示するように、振動する傾斜角Tの角速度Vtは、傾斜角Tがゼロである状態(例えば、状態Sa、Sc)で、最大である。この状態で、角速度Vtの方向は、傾斜角Tの変化する方向と同じである。例えば、傾斜角Tが左方向DL側から右方向DR側へ変化する状態Saでは、角速度Vtの方向は、右方向DRである。また、角速度Vtは、傾斜角Tの絶対値が最大である状態、すなわち、車体90が最大振幅で傾斜した状態(例えば、状態Sb)で、ゼロである。このように、角速度Vtの位相は、傾斜角Tの位相から90度進んでいる。歳差運動に関連する第1トルクtqaは、前輪12F(
図8)の回転軸Ax2を回動させる速度(すなわち、角速度)が大きいほど、大きい。従って、
図10(B)に示すように、第1トルクtqaは、角速度Vtと同じ位相で振動する。すなわち、第1トルクtqaの位相は、傾斜角Tの位相から90度進んでいる。このような第1トルクtqaは、傾斜角Tの位相よりも進んだ位相で前輪12Fを回動させるように、前輪12Fに作用する。
【0059】
図10(C)は、第2トルクtqbを説明するグラフである。グラフ中には、傾斜角Tと、傾斜角Tの変化の加速度At(すなわち、角加速度At)と、第2トルクtqbと、が示されている。図示するように、振動する傾斜角Tの角加速度Atは、傾斜角Tがゼロである状態(例えば、状態Sa、Sc)で、ゼロである。また、角加速度Atは、傾斜角Tの絶対値が最大である状態、すなわち、車体90が最大振幅で傾斜した状態(例えば、状態Sb)で、最大である。この状態で、角加速度Atの方向は、傾斜角Tの方向とは逆である。例えば、傾斜角Tが右方向DRの最大値である状態Sbは、車体90の回動の方向が、右方向DRから左方向DLへ変化する状態であり、角加速度Atの方向は、左方向DLである。このように角加速度Atの位相は、傾斜角Tの位相と、180度ずれている。また後述するように、トレールLt(
図1)によって生じる第2トルクtqbの大きさは、角加速度Atの絶対値が大きいほど大きく、第2トルクtqbの方向は、角加速度Atの方向と反対である。この結果、第2トルクtqbは、傾斜角Tと同じ位相で振動する。
【0060】
図11(A)〜
図11(C)は、それぞれ、第2トルクtqbの説明図である。各図の左部には、下方向DDを向いて見た車両10の概略が示され、右部には、前方向DFを向いてみた車両10の概略が示されている。各図の左部には、
図1で説明した前輪12Fの接触点P1と交点P2とが示されている。
図11(A)は、
図10(C)中の状態Saから状態Sbまでの期間Praにおける車両10を示している。
図11(B)は、状態Sbの車両10を示している。
図11(C)は、状態Sbから状態Scまでの期間Prbにおける車両10を示している。
【0061】
図11(A)に示すように、車体90が直立した状態Saから車体90が最大振幅で右方向DR側へ傾斜した状態Sbへ移行する期間Praでは、車体90は、傾斜軸AxLを中心に右方向DR側へ傾斜(回動)する。また、車両10は右方向DRへ旋回しているので、車体90は、右方向DR側へ移動する。これらの結果、
図11(A)の右部に示すように、車体90の下部91は、右方向DR側に移動する。車体90の下部91が右方向DR側へ移動すると、
図11(A)の左部に示すように、回動軸Ax1が右方向DR側へ移動するので、交点P2も、右方向DR側へ移動する。前輪12Fの接触点P1は、地面GLとの摩擦により、交点P2のように右方向DRへ移動することができない。この結果、前輪12Fには、回動軸Ax1を中心に右方向DR側へ回動するトルクtqbが作用する(
図10(C))。
【0062】
図11(B)に示すように、車体90が最大振幅で右方向DR側へ傾斜した状態Sbでは、車体90は、旋回方向である右方向DRとは反対の左方向DL側に回動し始める。ただし、車両10は右方向DRへ旋回しているので、車体90は、右方向DR側へ移動する。さらに、傾斜角Tの角加速度Atが大きい場合には、角加速度Atが小さい場合と比べて、車体90の重心90cを中心に回動させようとする強い力が車体90に作用する。これらの結果、車体90の下部91は、右方向DR側へ移動する。そして、
図11(A)の状態と同様に、前輪12Fには、回動軸Ax1を中心に右方向DR側へ回動するトルクtqbが作用する(
図10(C))。また、角加速度Atが大きいので、第2トルクtqbは強くなる。
【0063】
図11(C)に示すように、車体90が右方向DR側へ傾斜した状態Sbから、車体90が直立した状態Scへ移行する期間Prbでは、車体90は、傾斜軸AxLを中心に左方向DL側へ回動する。ただし、車両10は、右方向DRへ旋回しているので、車体90は、右方向DR側へ移動する。これらの結果、
図11(C)の右部に示すように、車体90の下部91は、右方向DR側へ移動する。そして、
図11(A)の状態と同様に、前輪12Fには、回動軸Ax1を中心に右方向DR側へ回動するトルクtqbが作用する(
図10(C))。
【0064】
以上、車体90が右方向DR側に傾斜する場合について説明した。車体90が左方向DL側に傾斜する場合も、同様にトルクtqa、tqbが前輪12Fに作用する。
【0065】
前輪12Fは、第1トルクtqaと第2トルクtqbとを合わせたトルクによって、操舵装置41(
図1)の回動軸Ax1を中心に回動する。このようなトルクは、傾斜角Tの振動と同じ位相で、または、傾斜角Tの位相よりも進んだ位相で、操舵角AFを変化させ得る。特に、第1トルクtqaが強い場合には、操舵角AFの位相は、傾斜角Tの位相よりも進み得る。
【0066】
一方、操舵角AFの位相は、種々の原因に起因して、傾斜角Tの位相から遅れ得る。例えば、前輪12Fの向き(すなわち、操舵角AF)の変化は、操舵装置41の回動軸Ax1を中心に前輪12Fとともに回動する部材(例えば、前フォーク17)の慣性モーメントによって、抑制される。また、回動軸Ax1を中心とする回動の抵抗(例えば、摩擦)によって、操舵角AFの変化が抑制される。これらの結果、操舵角AFの変化が、傾斜角Tの変化に対して遅れ得る。また、車両10の進行方向の変化は、車両10の旋回に関する慣性モーメント(ヨーモーメントとも呼ばれる)によって抑制される。この結果、進行方向の変化が、傾斜角Tの変化に対して遅れ得る。そして、進行方向の変化の遅れによって、操舵角AFの変化が遅れ得る。
【0067】
第1トルクtqaと第2トルクtqbとを合わせたトルクが小さい場合には、操舵角AFの位相は、傾斜角Tの位相から遅れ易い。第1トルクtqaと第2トルクtqbとを合わせたトルクが大きい場合には、操舵角AFの位相の遅れが小さくなる。そして、第1トルクtqaが大きい場合には、操舵角AFの位相が、傾斜角Tの位相よりも、進み得る。操舵角AFの位相が傾斜角Tの位相よりも進んでいることは、車体90が傾斜するよりも先に操舵角AFが変化することを意味している。操舵角AFが車体90の傾斜よりも先に変化する場合、変化後の操舵角AFでの旋回に起因する遠心力が、車体90の傾斜よりも先に車体90に作用する。これにより、車両10の走行安定性が低下し得る。従って、操舵角AFの位相の進みを抑制することが好ましい。
【0068】
なお、操舵角AFの位相が進みやすいのは、第1トルクtqaが大きい場合である。
図8でも説明したように、第1トルクtqaは、前輪12Fの角運動量が大きいほど、大きい。前輪12Fの角運動量は、前輪12Fの回転軸Ax2を中心とする慣性モーメントと、前輪12Fの回転軸Ax2を中心とする角速度(すなわち、速度V)と、の少なくとも一方が大きい場合に、大きい。従って、
図9(A)〜
図9(D)で説明したように、慣性モーメントIと速度Vとの少なくとも一方が大きい場合(
図9(B)〜
図9(D))、操舵角AFの位相が、傾斜角Tの位相よりも進み得る。そして、慣性モーメントIと速度Vとの両方が小さい場合(
図9(A))、操舵角AFの位相は、傾斜角Tの位相よりも、遅れ得る。また、前輪12Fの角運動量が同じである場合、第1トルクtqaは、前輪12Fの回転軸Ax2の回動の速度(すなわち、角速度Vt(
図10(B)))が大きいほど、大きい。このように、速度Vが速い場合と、角速度Vtが速い場合とに、第1トルクtqaが大きくなりやすい、すなわち、操舵角AFの位相が進み易い。そこで、本実施例では、制御装置110(
図1)は、第1トルクtqaが大きくなりやすい場合に、前輪12Fと車体90との間に作用する回動抵抗力が強くなるように、操舵モータ65を制御する。これにより、操舵角AFの位相の進みが抑制される。
【0069】
図12は、車両10の制御に関する構成を示すブロック図である。車両10は、制御に関する構成として、車速センサ122と、ハンドル角センサ123と、操舵角センサ124と、リーン角センサ125と、アクセルペダルセンサ145と、ブレーキペダルセンサ146と、シフトスイッチ147と、制御装置110と、右電気モータ51Rと、左電気モータ51Lと、リーンモータ25と、操舵モータ65と、を有している。
【0070】
車速センサ122は、車両10の車速を検出するセンサである。本実施例では、車速センサ122は、前フォーク17(
図1)の下端に取り付けられており、前輪12Fの回転速度、すなわち、車速を検出する。
【0071】
ハンドル角センサ123は、ハンドル41aの向き(すなわち、ハンドル角)を検出するセンサである。「ハンドル角=ゼロ」は、直進を示し、「ハンドル角>ゼロ」は、右旋回を示し、「ハンドル角<ゼロ」は、左旋回を示している。ハンドル角は、ユーザの望む操舵角AF、すなわち、操舵角AFの目標値を示している。本実施例では、ハンドル角センサ123は、ハンドル41a(
図1)に固定された支持棒41axに取り付けられている。
【0072】
操舵角センサ124は、前輪12Fの操舵角AFを検出するセンサである。本実施例では、操舵角センサ124は、操舵モータ65(
図1)に取り付けられている。
【0073】
リーン角センサ125は、傾斜角Tを検出するセンサである。リーン角センサ125は、リーンモータ25に取り付けられている(
図4)。上述したように、中縦リンク部材21に対する上横リンク部材31Uの向きが、傾斜角Tに対応している。リーン角センサ125は、中縦リンク部材21に対する上横リンク部材31Uの向き、すなわち、傾斜角Tを検出する。
【0074】
アクセルペダルセンサ145は、アクセル操作量を検出するセンサである。本実施例では、アクセルペダルセンサ145は、アクセルペダル45(
図1)に取り付けられている。ブレーキペダルセンサ146は、ブレーキ操作量を検出するセンサである。本実施例では、ブレーキペダルセンサ146は、ブレーキペダル46(
図1)に取り付けられている。
【0075】
なお、各センサ122、123、124、125、145、146は、例えば、レゾルバ、または、エンコーダを用いて構成されている。
【0076】
制御装置110は、車両制御部100と、駆動装置制御部101と、リーンモータ制御部102と、操舵モータ制御部103と、を有している。制御装置110は、バッテリ120(
図1)からの電力を用いて動作する。制御部100、101、102、103は、それぞれ、コンピュータを有している。各コンピュータは、プロセッサ(例えば、CPU)と、揮発性記憶装置(例えば、DRAM)と、不揮発性記憶装置(例えば、フラッシュメモリ)と、を有している。不揮発性記憶装置には、制御部の動作のためのプログラムが、予め格納されている。プロセッサは、プログラムを実行することによって、種々の処理を実行する。
【0077】
車両制御部100のプロセッサは、センサ122、123、124、125、145、146とシフトスイッチ47とからの信号を受信し、受信した信号に応じて車両10を制御する。具体的には、車両制御部100のプロセッサは、駆動装置制御部101とリーンモータ制御部102と操舵モータ制御部103とに指示を出力することによって、車両10を制御する(詳細は後述)。
【0078】
駆動装置制御部101のプロセッサは、車両制御部100からの指示に従って、電気モータ51L、51Rを制御する。リーンモータ制御部102のプロセッサは、車両制御部100からの指示に従って、リーンモータ25を制御する。操舵モータ制御部103のプロセッサは、車両制御部100からの指示に従って、操舵モータ65を制御する。これらの制御部101、102、103は、それぞれ、制御対象のモータ51L、51R、25、65にバッテリ120からの電力を供給する電気回路(例えば、インバータ回路)を有している。
【0079】
以下、制御部のプロセッサが処理を実行することを、単に、制御部が処理を実行する、と表現する。
【0080】
図13は、制御装置110(
図12)によって実行される制御処理の例を示すフローチャートである。
図13のフローチャートは、後輪支持部80と操舵装置41との制御の手順を示している。
図13の実施例では、制御装置110は、車速Vが、予め決められた閾値Vth以上である場合には、前輪12Fが車体90の傾斜に追随して変化するように前輪12Fを支持する第1モードで操舵装置41を動作させる。車速Vが閾値Vth未満である場合、制御装置110は、前輪12Fの方向(すなわち、操舵角AF)を能動的に制御する第2モードで操舵装置41を動作させる。また、制御装置110は、車速Vが閾値Vth以上である場合と閾値Vth未満である場合とのそれぞれにおいて、車両10を傾斜させるリーン制御を行う。
図13では、各処理に、文字「S」と、文字「S」に続く数字と、を組み合わせた符号が、付されている。
【0081】
S100では、車両制御部100は、センサ122、123、124、125、145、146とシフトスイッチ47とからの信号を取得する。これにより、車両制御部100は、速度Vとハンドル角と操舵角AFと傾斜角Tとアクセル操作量とブレーキ操作量と走行モードとを、特定する。
【0082】
S110では、車両制御部100は、操舵装置41を第1モードで動作させるための条件が満たされるか否かを判断する(以下「解放条件」と呼ぶ)。本実施例では、解放条件は、「走行モードが「ドライブ」または「ニュートラル」であり、かつ、速度Vが閾値Vth以上である」である。閾値Vthは、例えば、15km/hである。車両10の前進時に、車速Vが閾値Vth以上である場合に、解放条件は満たされる。
【0083】
解放条件が満たされる場合(S110:Yes)、S120で、車両制御部100は、操舵装置41を第1モードで動作させるための指示を、操舵モータ制御部103に供給する。操舵モータ制御部103は、指示に従って、操舵モータ65への、操舵角AFを目標操舵角に維持するための電力供給を停止する。これにより、操舵装置41は、回動軸Ax1を中心に右方向DR側と左方向DL側とのいずれにも回動可能な状態で、前輪12Fを支持する。この結果、前輪12Fの操舵角AFは、車体90の傾斜に追随して変化する。また、本実施例では、車両制御部100は、操舵モータ65に前輪12Fと車体90との間の回動抵抗力を付与させるための指示を、操舵モータ制御部103に供給する。操舵モータ制御部103は、指示に従って、操舵モータ65へ、回動抵抗力を発生させるための電力を供給する。
【0084】
図14(A)、
図14(B)は、それぞれ、車速Vと角速度Vtと抵抗力指標値Rfとの対応関係を示すマップの例の説明図である。横軸は、車速Vを示し、縦軸は、角速度Vtを示している。車速Vの軸と角速度Vtの軸とで表される領域(すなわち、車速Vと角速度Vtとの組み合わせを表す領域)は、複数の部分領域に区分されている。各部分領域には、互いに異なる抵抗力指標値Rfが対応付けられている。抵抗力指標値Rfは、回動抵抗力の大きさを示している。回動抵抗力は、抵抗力指標値Rfが大きいほど、大きい。なお、Rf=ゼロは、操舵モータ65によって付与される回動抵抗力がゼロであることを示している。なお、抵抗力指標値Rfの各値には、回動抵抗力を発生させるために操舵モータ65に供給すべき電力が、予め対応付けられている。Rf=ゼロの場合、操舵モータ65に供給される電力は、ゼロである。従って、前輪12Fは、操舵装置41の回動軸Ax1を中心に、自由に回動できる。
【0085】
S120(
図13)では、車両制御部100は、操舵角センサ124からの信号を用いて操舵角AFの変化を検知する。操舵角AFが変化した場合、車両制御部100は、予め決められた対応関係(例えば、
図14(A))を参照して、現行の車速Vと角速度Vtとの組み合わせに対応付けられた抵抗力指標値Rfを特定する。制御部100は、角速度Vtを、リーン角センサ125(
図12)からの信号を用いて算出する。そして、制御部100は、特定した抵抗力指標値Rfに対応付けられた電力であって操舵角AFの変化の方向とは反対の方向の力を発生させるための電力を操舵モータ65に供給する指示を、操舵モータ制御部103に供給する。操舵モータ制御部103は、指示応じて電力を操舵モータ65に供給する。これにより、操舵モータ65は、操舵角AFの変化の方向とは反対の方向の力を生成する。操舵モータ65によって生成される力は、操舵角AFの変化(すなわち、前輪12Fの回動)を小さくする程度に強く、そして、操舵角AFを反対向きに変化させることができない程度に弱いように、予め決定されている。このように、操舵モータ65によって生成される力は、前輪12Fを回動させる力ではなく、前輪12Fの回動(すなわち、操舵角AFの変化)に抵抗する力である。
【0086】
図14(A)の例では、抵抗力指標値Rfは、「ゼロ」と「1」との2段階で制御される。具体的には、
図14(A)の対応関係では、角速度Vtの軸と車速Vの軸とを結ぶ境界線BLが、予め決定されている。境界線BLは、車速Vが大きいほど角速度Vtが小さくなるように構成されている。車速Vと角速度Vtの組み合わせを表す領域は、この境界線BLによって2つの部分領域に区分される。2つの部分領域のうち、車速Vと角速度Vtとが比較的小さい領域では、Rf=ゼロであり、車速Vと角速度Vtとが比較的大きい領域では、Rf=1である。このような対応関係に従って回動抵抗力が発生する場合、車速Vと角速度Vtとの少なくとも一方が大きい場合に、回動抵抗力が付与される。従って、
図9(B)〜
図9(D)のように操舵角AFの位相が傾斜角Tの位相から進み易い場合に、回動抵抗力によって操舵角AFの変化が抑制されるので、車体90が傾斜するよりも先に操舵角AFが変化することが抑制される。この結果、車両10の走行安定性の低下を抑制できる。また、車速Vと角速度Vtとが小さい場合に、回動抵抗力の付与は省略される。この結果、操舵角AFの変化が傾斜角Tの変化から過度に遅れることを抑制できる。
【0087】
なお、
図14(A)のような車速Vと角速度Vtと抵抗力指標値Rfとの対応関係を表すデータMP1(例えば、マップデータ)は、車両制御部100の不揮発性記憶装置に予め格納されている。車両制御部100は、このデータMP1を参照して、車速Vと角速度Vtとの組み合わせに対応付けられた抵抗力指標値Rfを特定する。
【0088】
図14(B)の例では、抵抗力指標値Rfは、3以上の段階(ここでは、5段階)で制御される。具体的には、
図14(B)の対応関係では、角速度Vtの軸と車速Vの軸とを結ぶ4本の境界線BL1〜BL4が、予め決定されている。各境界線BL1〜BL4は、互いに離れており、かつ、車速Vが大きいほど角速度Vtが小さくなるように構成されている。車速Vと角速度Vtの組み合わせを表す領域は、これらの境界線BL1〜BL4で5つの部分領域に区分される。5つの部分領域には、車速Vと角速度Vtとが大きいほど抵抗力指標値Rfが大きくなるように、ゼロ、1、2、3、4の抵抗力指標値Rfが、それぞれ対応付けられている。
図14(B)の例では、
図14(A)の例と比べて、回動抵抗力が、車速Vと角速度Vtとの変化に応じて、細かく調整される。この結果、車両10の走行安定性の低下を更に抑制できる。なお、
図14(B)の対応関係を用いる場合、
図14(A)のデータMP1に代えて、この対応関係を表すデータMP2(例えば、マップデータ)が用いられる。
【0089】
なお、抵抗力指標値Rf(ひいては、回動抵抗力)は、車速Vの変化に応じて滑らかに変化してもよく、角速度Vtの変化に応じて滑らかに変化してもよい。いずれの場合も、S120では、操舵モータ65によって付与される回動抵抗力は、速度Vと角速度Vtとに応じて、変更される。
【0090】
S130(
図13)では、車両制御部100は、ハンドル角に対応付けられた第1目標傾斜角T1を特定する。本実施例では、第1目標傾斜角T1は、ハンドル角(単位は、度)に所定の係数(例えば、30/60)を乗じて得られる値である。なお、ハンドル角と第1目標傾斜角T1との対応関係としては、比例関係に代えて、ハンドル角の絶対値が大きいほど第1目標傾斜角T1の絶対値が大きくなるような種々の関係を採用可能である。ハンドル角と第1目標傾斜角T1との対応関係を表す情報は、車両制御部100の不揮発性記憶装置に予め格納されている。車両制御部100は、この情報を参照し、参照した情報によって予め決められた対応関係に従って、ハンドル角に対応する第1目標傾斜角T1を特定する。
【0091】
なお、上述したように、式6は、傾斜角Tと速度Vと旋回半径Rとの対応関係を示し、式7は、旋回半径Rと操舵角AFとの対応関係を示している。これらの式6、7を総合すれば、傾斜角Tと速度Vと操舵角AFとの対応関係が特定される。ハンドル角と第1目標傾斜角T1との対応関係は、傾斜角Tと速度Vと操舵角AFとの対応関係を通じて、ハンドル角と操舵角AFとを対応付けている、ということができる(ここで、操舵角AFは、速度Vに依存して変化し得る)。
【0092】
車両制御部100は、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1となるようにリーンモータ25を制御するための指示を、リーンモータ制御部102に供給する。リーンモータ制御部102は、指示に従って、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1になるように、リーンモータ25を駆動する。これにより、車両10の傾斜角Tが、ハンドル角に対応付けられた第1目標傾斜角T1に、変更される。このように、車両制御部100とリーンモータ制御部102とは、車体90を傾斜させるリンク機構30とリーンモータ25とを制御する傾斜制御部として、機能する。
【0093】
続くS140では、上述したように、前輪12Fは、式6で表される旋回半径Rと、式7と、から特定される操舵角AFの方向に、自然に、回動する。前輪12Fの回動は、傾斜角Tの変更に応じて、自然に始まる。すなわち、操舵角AFは、車体90の傾斜に追随して変化する。また、S120で回動抵抗力が付与されている場合には、操舵角AFの急な変化(特に、傾斜角Tの位相よりも進んだ位相での変化)は抑制される。そして、
図13の処理が終了する。制御装置110は、
図13の処理を繰り返し実行する。解放条件が満たされる場合、制御装置110は、操舵装置41の第1モードでの動作と、S130での傾斜角Tの制御とを、継続して行う。この結果、車両10は、ハンドル角に適した進行方向に向かって、走行する。
【0094】
解放条件が満たされない場合(S110:No)、車両制御部100は、S160に移行する。なお、本実施例では、解放条件が満たされない場合は、以下のいずれかの場合である。
1)走行モードが「ドライブ」または「ニュートラル」であり、かつ、速度Vが閾値Vth未満である場合。
2)走行モードが「パーキング」である場合。
3)走行モードが「リバース」である場合。
【0095】
S160では、車両制御部100は、操舵装置41を第2モードで動作させるための指示を、操舵モータ制御部103に供給する。本実施例では、操舵モータ制御部103は、指示に従って、操舵モータ65へ電力を供給する。本実施例では、操舵モータ制御部103は、繰り返し実行されるS180(詳細は後述)で決定された目標操舵角に、操舵角AFが維持されるように、操舵モータ65を制御する。前輪12F(操舵角AF)の自由な回動は、操舵モータ65によって禁止される。
【0096】
S170では、車両制御部100は、S130と同様に、第1目標傾斜角T1を特定する。そして、車両制御部100は、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1となるようにリーンモータ25を制御するための指示を、リーンモータ制御部102に供給する。リーンモータ制御部102は、指示に従って、傾斜角Tが第1目標傾斜角T1になるように、リーンモータ25を駆動する。これにより、車両10の傾斜角Tが、第1目標傾斜角T1に、変更される。
【0097】
なお、S170では、傾斜角Tは、第1目標傾斜角T1よりも絶対値が小さい第2目標傾斜角T2に制御されてもよい。第2目標傾斜角T2は、例えば、以下の式8で表されてよい。
T2 = (V/Vth)T1 (式8)
式8で表される第2目標傾斜角T2は、ゼロから閾値Vthまで車速Vに比例して変化する。第2目標傾斜角T2の絶対値は、第1目標傾斜角T1の絶対値以下である。この理由は、以下の通りである。低速時には、高速時と比べて、進行方向が頻繁に変更される。従って、低速時には、傾斜角Tの絶対値を小さくすることによって、進行方向の頻繁な変更を伴う走行を、安定化できる。なお、第2目標傾斜角T2と車速Vとの関係は、車速Vが大きいほど第2目標傾斜角T2の絶対値が大きくなるような、他の種々の関係であってよい。
【0098】
傾斜角Tの変更(S170)を開始した後のS180では、車両制御部100は、第1目標操舵角AFt1を決定する。第1目標操舵角AFt1は、ハンドル角と車速Vとに応じて決定される。本実施例では、S170で特定された目標傾斜角と、上記の式6、式7と、によって特定される操舵角AFが、第1目標操舵角AFt1として用いられる。そして、車両制御部100は、操舵角AFが第1目標操舵角AFt1となるように操舵モータ65を制御するための指示を、操舵モータ制御部103に供給する。操舵モータ制御部103は、指示に従って、操舵角AFが第1目標操舵角AFt1になるように、操舵モータ65を駆動する。これにより、車両10の操舵角AFが、第1目標操舵角AFt1に変更される。
【0099】
なお、S180では、操舵角AFは、第1目標操舵角AFt1よりも絶対値が大きい第2目標操舵角AFt2に制御されてもよい。例えば、第2目標操舵角AFt2は、ハンドル角が同じ場合には、車速Vが小さいほど第2目標操舵角AFt2の絶対値が大きくなるように、決定されてよい。この構成によれば、速度Vが小さい場合の車両10の最小回転半径を小さくできる。いずれの場合も、第2目標操舵角AFt2は、車速Vが同じ場合には、ハンドル角の絶対値が大きいほど第2目標操舵角AFt2の絶対値が大きくなるように、決定されていることが好ましい。また、閾値Vth未満の車速Vと、閾値Vth以上の車速Vと、の間で車速Vが変化する場合に、操舵角AFと傾斜角Tとが滑らかに変化するように、操舵角AFと傾斜角Tとが制御されることが好ましい。
【0100】
なお、車両制御部100は、傾斜角Tの変更(S170)の開始後、傾斜角Tの変更(S170)が終了するよりも前に、前輪12Fの回動(S180)を開始する。これに代えて、車両制御部100は、傾斜角Tの変更(S170)が終了した後に、前輪12Fの回動(S180)を開始してもよい。
【0101】
S170、S180が終了したことに応じて、
図13の処理が終了する。制御装置110は、
図13の処理を繰り返し実行する。解放条件が満たされない場合、制御装置110は、操舵装置41の第2モードでの動作と、S170での傾斜角Tの制御と、S180での操舵角AFの制御とを、継続して行う。この結果、車両10は、ハンドル角に適した進行方向に向かって、走行する。
【0102】
図示を省略するが、車両制御部100と駆動装置制御部101とは、アクセル操作量とブレーキ操作量とに応じて電気モータ51L、51Rを制御する駆動制御部として機能する。本実施例では、具体的には、アクセル操作量が増大した場合には、車両制御部100は、電気モータ51L、51Rの出力パワーを増大させるための指示を、駆動装置制御部101に供給する。駆動装置制御部101は、指示に従って、出力パワーが増大するように、電気モータ51L、51Rを制御する。アクセル操作量が減少した場合には、車両制御部100は、電気モータ51L、51Rの出力パワーを減少させるための指示を、駆動装置制御部101に供給する。駆動装置制御部101は、指示に従って、出力パワーが減少するように、電気モータ51L、51Rを制御する。
【0103】
ブレーキ操作量がゼロよりも大きくなった場合には、車両制御部100は、電気モータ51L、51Rの出力パワーを減少させるための指示を、駆動装置制御部101に供給する。駆動装置制御部101は、指示に従って、出力パワーが減少するように、電気モータ51L、51Rを制御する。なお、車両10は、全ての車輪12F、12L、12Rのうちの少なくとも1つの車輪の回転速度を摩擦によって低減するブレーキ装置を有することが好ましい。そして、ユーザがブレーキペダル46を踏み込んだ場合に、ブレーキ装置が、少なくとも1つの車輪の回転速度を低減することが好ましい。
【0104】
以上のように、本実施例では、車速Vが、閾値Vth以上である場合に、車両制御部100は、操舵角AFが車体90の傾斜に追随して変化することを許容する第1モードで操舵装置41を動作させ(S120)、ハンドル41aへの入力に応じて車体90が傾斜するように後輪支持部80を制御する(S130)。さらに、車両制御部100は、操舵モータ制御部103を通じて操舵モータ65を制御することによって、車体90と前輪12Fとの間に作用する回動抵抗力を変更する。回動抵抗力の変更によって操舵角AFの変化を制御できるので、操舵角AFの変化に起因して車両10の走行安定性が低下することを抑制できる。
【0105】
具体的には、以下の通りである。車速Vと角速度Vtとの少なくとも一方が大きい場合、具体的には、車速Vと角速度Vtとの組み合わせにゼロよりも大きい抵抗力指標値Rfが対応付けられている場合(
図14(A)、
図14(B))、車両制御部100は、操舵モータ65に回動抵抗力を発生させる。車速Vと角速度Vtとの両方が小さい場合、具体的には、車速Vと角速度Vtとの組み合わせにゼロの抵抗力指標値Rfが対応付けられている場合(
図14(A)、
図14(B))、車両制御部100は、操舵モータ65に回動抵抗力を発生させずに、前輪12F自由な回動を許容する。このように、操舵角AFの位相が傾斜角Tの位相から進み易い場合に、前輪12Fと車体90との間に回動抵抗力が付与されるので、操舵角AFの移動が傾斜角Tの位相から進むことが抑制される。また、車速Vと角速度Vtとが小さい場合に、回動抵抗力の付与は省略される。この結果、操舵角AFの変化が傾斜角Tの変化から過度に遅れることを抑制できる。このように、車速Vと角速度Vtとに応じて回動抵抗力が変更されるので、車速Vと角速度Vtとの種々の組み合わせで、車両10の走行安定性の低下を抑制できる。なお、車両制御部100と操舵モータ制御部103と操舵モータ65との全体は、車体90と操舵輪である前輪12Fとの間に作用する回動抵抗力を変更する変更装置の例である。
【0106】
また、
図14(A)、
図14(B)に示すように、角速度Vtが一定である場合、車両制御部100は、車速Vが速い場合の回動抵抗力を、車速Vが遅い場合の回動抵抗力よりも、強くする。従って、車速Vが速い場合に、操舵角AFの位相が傾斜角Tの位相よりも進むことが抑制されるので、車速Vが速い場合の車両10の走行安定性の低下を抑制できる。
【0107】
また、
図14(A)、
図14(B)に示すように、車速Vが一定である場合、車両制御部100は、角速度Vtが速い場合の回動抵抗力を、角速度Vtが遅い場合の回動抵抗力よりも、強くする。従って、角速度Vtが速い場合に、操舵角AFの位相が傾斜角Tの位相よりも進むことが抑制されるので、角速度Vtが速い場合の車両10の走行安定性の低下を抑制できる。
【0108】
B.回動抵抗力の制御の別の実施例:
図15、
図16は、回動抵抗力の制御の別の実施例を示すグラフである。
図15には、車速Vと抵抗力指標値Rfとの対応関係を示すグラフが示されている。横軸は、車速Vを示し、縦軸は、抵抗力指標値Rfを示している。図中には、3つの実施例を表す3つのグラフRf1〜Rf3が示されている。これらのグラフRf1〜Rf3によって表される車速Vと抵抗力指標値Rfとの対応関係は、
図14(A)、
図14(B)の対応関係の代わりに利用可能である。
【0109】
第1グラフRf1では、抵抗力指標値Rfは、ゼロを含む2段階で制御される。第2グラフRf2では、抵抗力指標値Rfは、ゼロを含む3以上の段階で制御される。いずれのグラフRf1、Rf2においても、抵抗力指標値Rfは、車速Vの増大に応じて、階段状に増大する。第3グラフRf3では、抵抗力指標値Rfは、車速Vの増大に応じて、滑らかに増大する。3つのグラフRf1〜Rf3のいずれにおいても、車速Vが速い場合の抵抗力指標値Rfは、車速Vが遅い場合の抵抗力指標値Rfよりも、大きい。従って、車速Vが速い場合に、操舵角AFの位相が傾斜角Tの位相よりも進むことが抑制されるので、車速Vが速い場合の車両10の走行安定性の低下を抑制できる。なお、抵抗力指標値Rfは、角速度Vtには依存していない。このように、角速度Vtに依存せず、車速Vに応じて、抵抗力指標値Rfが制御されてもよい。
【0110】
図16には、角速度Vtと抵抗力指標値Rfとの対応関係を示すグラフが示されている。横軸は、角速度Vtを示し、縦軸は、抵抗力指標値Rfを示している。図中には、3つの実施例を表す3つのグラフRf11〜Rf13が示されている。これらのグラフRf11〜Rf13によって表される角速度Vtと抵抗力指標値Rfとの対応関係は、
図14(A)、
図14(B)の対応関係の代わりに利用可能である。
【0111】
第1グラフRf11では、抵抗力指標値Rfは、ゼロを含む2段階で制御される。第2グラフRf12では、抵抗力指標値Rfは、ゼロを含む3以上の段階で制御される。いずれのグラフRf11、Rf12においても、抵抗力指標値Rfは、角速度Vtの増大に応じて、階段状に増大する。第3グラフRf13では、抵抗力指標値Rfは、角速度Vtの増大に応じて、滑らかに増大する。3つのグラフRf11〜Rf13のいずれにおいても、角速度Vtが速い場合の抵抗力指標値Rfは、角速度Vtが遅い場合の抵抗力指標値Rfよりも、大きい。従って、角速度Vtが速い場合に、操舵角AFの位相が傾斜角Tの位相よりも進むことが抑制されるので、角速度Vtが速い場合の車両10の走行安定性の低下を抑制できる。なお、抵抗力指標値Rfは、車速Vには依存していない。このように、車速Vに依存せず、角速度Vtに応じて、抵抗力指標値Rfが制御されてもよい。
【0112】
いずれの場合も、抵抗力指標値Rfと他の情報(例えば、車速Vと角速度Vtとの少なくとも一方)との対応関係を表すデータは、車両制御部100の不揮発性記憶装置に予め格納される。車両制御部100は、そのデータを参照して、車速Vと角速度Vtとの少なくとも一方から、抵抗力指標値Rfを特定する。
【0113】
C.変形例:
(1)車体90を幅方向に傾斜させる傾斜機構の構成としては、リンク機構30(
図4)を含む構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。
図17は、車両の別の実施例の概略図である。
図17の車両10aは、
図4等で説明した車両10のリンク機構30をモータ台30aに置換して得られる車両である。後輪12L、12Rのモータ51L、51Rは、それぞれ、モータ台30aに固定されている。また、リーンモータ25aは、モータ台30aに対して、第1支持部82を、右方向DR側と左方向DL側とのそれぞれに回動させることができる。これにより、車体90は、右方向DR側と左方向DL側とのそれぞれに、傾斜できる。後輪12L、12Rは、車体90が傾斜しているか否かに拘わらずに、地面GLに対して、傾斜せずに、直立する。このように、傾斜機構としては、車輪12L、12Rが固定された台30aと、車体90を支持する部材82と、台30aに対して部材82を傾斜させるリーンモータ25aと、を含む構成を採用してもよい。また、傾斜機構の駆動装置は、電気モータに代えて他の種類の駆動装置であってもよい。例えば、傾斜機構は、ポンプからの液圧(例えば、油圧)によって駆動されてもよい。例えば、一対の車輪12L、12R(
図5(B))のそれぞれが、車体90を支持する部材82に上下方向にスライド可能に取り付けられ、そして、一対の車輪12L、12Rの間の回転軸に垂直な方向の相対位置が、部材82と車輪12Lとを連結する第1液圧シリンダと、部材82と車輪12Rとを連結する第2液圧シリンダと、によって変更されてもよい。また、車体90(
図17)を支持する部材82が台30aに左右方向に回動可能に取り付けられ、そして、台30aに対する部材82の向きが、台30aと部材82とを連結する液圧シリンダによって変更されてもよい。一般的には、地面GLに対して車体90を傾斜させることが可能な種々の構成を採用可能である。ここで、単なるサスペンションとは異なり、車体90の傾斜角Tを、目標の傾斜角に維持することが可能な機構を採用することが好ましい。
【0114】
また、操作入力部(例えば、ハンドル41a)への入力に応じて傾斜機構を制御する傾斜制御部は、
図12で説明した車両制御部100とリーンモータ制御部102とのように、コンピュータを含む電気回路であってよい。代わりに、コンピュータを含まない電気回路が、操作入力部への入力に応じて、傾斜角Tが目標の傾斜角になるように、傾斜機構を制御してもよい。
【0115】
(2)車体と操舵輪(例えば、前輪12F)との間に作用する回動抵抗力を変更する変更装置としては、車両制御部100と操舵モータ制御部103と操舵モータ65とを含む装置に代えて、車体と操舵輪との間の回動抵抗力を変更可能な任意の装置を採用可能である。一般的に、操舵輪を支持する操舵装置は、操舵輪を支持するとともに回動軸を中心に操舵輪とともに回動する部材(以下、「車輪側部材」と呼ぶ)を含んでいる。例えば、
図1の操舵装置41は、前フォーク17を含んでおり、前フォーク17は、前輪12Fを支持するとともに回動軸Ax1を中心に前輪12Fとともに回動する(前フォーク17は、車輪側部材の例である)。車体または操舵装置のうちの車体に固定された部分と、車輪側部材と、に減衰力を付与するステアリングダンパーを接続してもよい。例えば、
図1の本体部20の前部20aと前フォーク17とにステアリングダンパーを接続してもよい。ステアリングダンパーは、車体に対する車輪側部材の回動に対して減衰力を付与する。この減衰力は、車輪側部材の回動を抑制する力であり、回動抵抗力の例である。車両制御部100は、ステアリングダンパーの減衰力を調整することによって、回動抵抗力を調整できる(減衰力が大きいほど、回動抵抗力が大きい)。
【0116】
また、車体または操舵装置のうちの車体に固定された部分に、車輪側部材の回動に対する制動力を生成するブレーキ(例えば、摩擦ブレーキ)を固定し、ブレーキに、ブレーキの駆動装置(例えば、モータ)を接続してもよい。ブレーキによる制動力は、車輪側部材の回動を抑制する力であり、回動抵抗力の例である。車両制御部100は、駆動装置を制御することによって、ブレーキによる制動力(ひいては、回動抵抗力)を調整できる。ブレーキの駆動装置としては、モータに代えて、ブレーキを駆動可能な任意の装置を採用可能である。例えば、ブレーキと、複数の車輪のうちの1つ(例えば、操舵輪)とに連結された遠心クラッチを採用してもよい。遠心クラッチは、係合することにより、回転する車輪からの駆動力を、ブレーキに伝達することができる。遠心クラッチは、車輪の回転速度(すなわち、車速V)が速いほど、強く係合する。従って、ブレーキに伝達される駆動力は、車速Vが速いほど、大きい。ブレーキは、駆動力が大きいほど(すなわち、車速Vが速いほど)、大きい制動力を生成する。遠心クラッチを用いる場合、回動抵抗力を制御するための制御部(例えば、車両制御部100)を省略できる。
【0117】
いずれの場合も、変更装置は、
図14〜
図16の各実施例と同様に、車速Vと角速度Vtとの少なくとも一方に応じて回動抵抗力を変更することが好ましい。
【0118】
(3)回動抵抗力の調整に利用されるパラメータ(例えば、車速Vと角速度Vtとの少なくとも一方)と、回動抵抗力と、の間の対応関係としては、
図14〜
図16の各実施例の対応関係に代えて、他の種々の対応関係を採用可能である。例えば、回動抵抗力(例えば、抵抗力指標値Rf)が、車速Vの変化に対して曲線を描くように変化してもよい。また、回動抵抗力(例えば、抵抗力指標値Rf)が、角速度Vtの変化に対して曲線を描くように変化してもよい。
【0119】
いずれの場合も、回動抵抗力が車速Vに応じて変化する場合、車速Vのゼロを含む低速範囲内で、回動抵抗力が最小値に制御されることが好ましい。回動抵抗力の最小値は、回動抵抗力の変更装置によって変更可能な範囲内での最小値である(例えば、回動抵抗力を変更する変更装置によって付与される回動抵抗力がゼロである)。
図8、
図9で説明したように、車速Vが遅い場合には、第1トルクtqaが小さいので、操舵角AFの位相は、傾斜角Tの位相よりも、遅れ易い。回動抵抗力が最小値であれば、操舵角AFの位相の遅れを抑制できる。また、回動抵抗力が角速度Vtに応じて変化する場合、角速度Vtのゼロを含む低角速度範囲内で、回動抵抗力が最小値に制御されることが好ましい。
図8、
図9で説明したように、角速度Vtが遅い場合には、第1トルクtqaが小さいので、操舵角AFの位相は、傾斜角Tの位相よりも、遅れ易い。回動抵抗力が最小値であれば、操舵角AFの位相の遅れを抑制できる。
【0120】
(4)車体90の走行安定性の低下を抑制するためには、
図9で説明した操舵角AFの位相の遅延が小さいことが好ましい。位相の遅延を小さくする方法としては、種々の方法を採用可能である。例えば、以下の方法B1〜B5のうちの任意の1以上の方法を採用可能である。
B1:回転軸Ax2(
図8)を中心に回転する前輪12Fの慣性モーメントを大きくする
B2:操舵装置41の回動軸Ax1を中心に前輪12Fとともに回動する部材(例えば、前フォーク17)の慣性モーメントを小さくする
B3:操舵装置41の回動軸Ax1を中心とする回動の抵抗(例えば、摩擦や、ステアリングダンパーの減衰力)を小さくする
B4:トレールLt(
図1)を大きくする
B5:車両10の旋回に関する慣性モーメント(ヨーモーメントとも呼ばれる)を小さくする
【0121】
(5)上記実施例では、操舵輪である前輪12Fの状態は、車体90の傾斜に追随した操舵角AFの変化が許容される第1状態(
図13:S120、S140)と、操作入力部(例えば、ハンドル41a)への入力に応じて操舵角AFが変化する第2状態(
図13:S160、S180)と、の間で、車速Vに応じて切り替えられる。操舵装置41と、操舵装置41の動作モードを制御する車両制御部100と操舵モータ制御部103と、の全体は、操舵輪を支持するとともに、第1状態と第2状態との間で操舵輪の状態を切り替え可能な操舵輪支持部の例である。操舵輪支持部の構成としては、他の種々の構成を採用可能である。例えば、操舵モータ65が省略され、代わりに、ハンドル41aと前フォーク17とが、クラッチを介して接続されてもよい。クラッチが解放されている場合、前輪12Fの状態は、第1状態である。クラッチを接続されている場合、前輪12Fの状態は、第2状態である。この場合、クラッチを含む操舵装置と、車速Vに応じてクラッチの接続状態を切り替える切替部と、の全体が、操舵輪支持部の例である。クラッチの切替部は、例えば、電気回路で構成されてよい。いずれの場合も、コンピュータを含まない電気回路が、車速Vに応じて、駆動輪の状態を切り替えてもよい。なお、操舵モータ65が省略される場合、車体と操舵輪との間に回動抵抗力を作用させる別の装置(例えば、ステアリングダンパーやブレーキなど)が、車両に設けられる。
【0122】
なお、操舵輪の状態の切り替えが省略されて、操舵輪支持部は、第1状態のみで駆動輪を支持するように構成されていてもよい。例えば、操舵モータ65が省略され、代わりに、前フォーク17とハンドル41aとが、弾性体(例えば、トーションバースプリング、コイルスプリング、ゴム等)を介して接続されてもよい。この場合、ハンドル41aのハンドル角を変化させることによって、前輪12Fの操舵角AFは変化する。ユーザは、ハンドル41aを操作することによって、操舵角AFを好みの角度に調整できる。また、ハンドル角が一定値に維持された場合、前輪12Fの方向(操舵角AF)は、弾性体の変形によって、変化できる。従って、操舵角AFは、車体90の傾斜に追随して、変化できる。このように、操作入力部(例えば、ハンドル41a)と、操舵輪(例えば、前輪12F)と、を接続する弾性体を含む構成を採用してもよい。なお、操舵輪の状態の切り替えが省略される場合、操舵輪支持部は、操舵輪の状態を切り替える制御部を含まずに、操舵輪を支持する操舵装置(例えば、弾性体を含む操舵装置)で構成されてよい。
【0123】
一般的には、操舵輪支持部は、車速Vに拘わらずに、操舵輪の操舵角が車体の傾斜に追随して変化する状態で操舵輪を支持する装置であってよい。また、操舵輪支持部は、車速Vの一部の特定の範囲内では操舵輪の操舵角が車体の傾斜に追随して変化することを許容し、車速Vが特定の範囲外である場合には操作入力部の入力に応じて操舵角を変化させる装置であってよい。例えば、操舵輪支持部は、複数の動作モードのうちの車速Vに対応付けられた動作モードで操舵輪を支持する装置であってよい。複数の動作モードは、操舵輪の操舵角が車体の傾斜に追随して変化することを許容する動作モードと、操作入力部の入力に応じて操舵角を変化させる動作モードと、を含んでいる。ここで、車速Vが少なくとも上記の特定の範囲内である場合に、車体が操作入力部への入力に応じて傾斜機構によって傾斜されることが好ましい。例えば、傾斜機構を制御する傾斜制御部は、傾斜角Tが、操作入力部への入力に対応付けられた目標の傾斜角になるように、傾斜機構を制御することが好ましい。傾斜機構によって車体が傾斜される車速Vの範囲は、車速Vの一部の範囲であってもよく、車速Vの全範囲であってもよい。
【0124】
いずれの場合も、操舵角の変化に起因して車両の走行安定性が低下することを抑制するためには、車両は、車体と操舵輪との間に作用する回動抵抗力を変更する変更装置を備えることが好ましい。
【0125】
(6)車両の制御方法としては、
図13で説明した方法に代えて、他の種々の方法を採用可能である。例えば、車速Vに拘わらずに、操舵装置41は、第1モードで動作してよい。そして、第2モードが省略されてよい。例えば、
図13のS120、S140、S160、S180が省略されてよい。そして、第1状態のみで駆動輪を支持するように構成された上記の操舵輪支持部を採用し、操舵モータ制御部103(
図12)と操舵モータ65を省略してよい。
【0126】
(7)車両の構成としては、上述の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、制御装置110(
図12)のようなコンピュータが省略されてもよい。例えば、コンピュータを含まない電気回路が、センサ122、123、124、125、145、146とスイッチ47とからの信号に応じて、モータ51R、51L、25、65を制御してもよい。また、電気回路に代えて、油圧やモータの駆動力を利用して動作する機械が、モータ51R、51L、25、65を制御してもよい。また、複数の車輪の総数と配置としては、種々の構成を採用可能である。例えば、前輪の総数が2であり、後輪の総数が1であってもよい。また、前輪の総数が2であり、後輪の総数が2であってもよい。また、幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪が、操舵輪であってもよい。また、後輪が操舵輪であってもよい。また、駆動輪が前輪であってもよい。いずれの場合も、車両は、車両の幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪と、その一対の車輪または他の車輪で構成された操舵輪と、を含む3以上の車輪を備えることが好ましい。そして、車両の3以上の車輪は、前輪と、前輪よりも後方向DB側に配置された後輪と、を含むことが好ましい。この構成によれば、車両の停止時に車両が自立できる。また、駆動輪は、正のトレール(
図1)を有することが好ましい。これにより、操舵輪の操舵角は、車体の傾斜に追随して、容易に変化できる。また、駆動輪を駆動する駆動装置は、電気モータに代えて、車輪を回転させる任意の装置であってよい(例えば、内燃機関)。また、駆動装置を省略してもよい。すなわち、車両は、人力の車両であってもよい。この場合、傾斜機構は、操作入力部の操作に応じて動作する人力の傾斜機構であってよい。また、車両の最大定員数は、1人に代えて、2人以上であってもよい。
【0127】
(8)上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、
図12の車両制御部100の機能を、専用のハードウェア回路によって実現してもよい。
【0128】
また、本発明の機能の一部または全部がコンピュータプログラムで実現される場合には、そのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、一時的ではない記録媒体)に格納された形で提供することができる。プログラムは、提供時と同一または異なる記録媒体(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納された状態で、使用され得る。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種ROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含み得る。
【0129】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。