(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557875
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】マイクロホン、マイクロホンの筐体
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
H04R1/00 321
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-177190(P2015-177190)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-55228(P2017-55228A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100177367
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 崇
(72)【発明者】
【氏名】池田 達也
【審査官】
鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−038644(JP,A)
【文献】
特開2013−017226(JP,A)
【文献】
特開2004−235870(JP,A)
【文献】
特開2012−175379(JP,A)
【文献】
特開2011−160142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R1/00−1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットと、
音波を前記マイクロホンユニットへ通過させる第1開口部が設けられていて前記マイクロホンユニットを収容している筒状の筐体と、
通気性と撥水性が付与されていて前記第1開口部を覆うシート部材と、
前記第1開口部の形状に対応した形状の第2開口部を備え前記第1開口部の位置で前記シート部材を覆うフレームと、
排水性を備え前記筐体の外側を覆うウインドスクリーンと、
を有する、
マイクロホン。
【請求項2】
前記フレームは、前記第2開口部により前記シート部材と前記ウインドスクリーンとの間において間隙を形成する、
請求項1記載のマイクロホン。
【請求項3】
前記シート部材は、前記第1開口部と前記筐体とに密着して前記筐体に設けられている、
請求項1または2記載のマイクロホン。
【請求項4】
前記シート部材は、表面に撥水加工が施されている合成樹脂材料により形成されているメッシュ材である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のマイクロホン。
【請求項5】
前記シート部材は、ポリエステルのメッシュ材により形成されている、
請求項1乃至4のいずれかに記載のマイクロホン。
【請求項6】
前記ウインドスクリーンは、空隙率が90パーセント以上のスポンジにより構成されている、
請求項1乃至5のいずれかに記載のマイクロホン。
【請求項7】
外部からの音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットを収容し、前記音波を前記マイクロホンユニットへ通過させる第1開口部を備えた筒状の筐体と、
前記通気性と撥水性が付与されていて、前記第1開口部を覆うシート部材と、
前記第1開口部の形状に対応した形状の第2開口部を備え、前記第1開口部の位置で前記シート部材を覆うフレームと、
排水性を備え前記筐体の外側を覆うウインドスクリーンと、
を有する、
マイクロホンの筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン、マイクロホンの筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、雨中などの水に曝されるような状況下で使用されるマイクロホンには、水分から保護するため、ポリ塩化ビニル(PVC)など撥水性や防水性を有する素材のレインカバーがかけられていた。
【0003】
しかし、マイクロホンにレインカバーがかけられた場合には、外部からの音波、主に低域と高域の音波がレインカバーによって減衰されるため、収音される音波の周波数特性が悪化してしまう。
【0004】
また、水分からマイクロホンを保護するため、マイクロホンの筐体の開口部に防水透湿性を有する素材が設けられている場合もある。このような防水透湿性を有する素材は、素材の音響抵抗値が高いため収音される音波の周波数特性が悪化してしまう。また、多くの防水透湿性を有する素材は、高価な材料である。
【0005】
なお、筐体の開口部に防水膜を設けることで防水性を高めたマイクロホンに関する技術が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−78676号公報
【特許文献2】特開2004−235870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のマイクロホンでは、防水性を高めようとすると収音される音波の周波数特性が悪化するなどの音響性能の低下が生じ、音響性能を考慮すると防水性能が低下していた。
【0008】
本発明は、防水性能と音響性能とを両立することができるマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、音波を電気信号に変換するマイクロホンユニットと、筐体の外部からの音波をマイクロホンユニットへ通過させる第1開口部が設けられていてマイクロホンユニットを収容している筒状の筐体と、通気性と撥水性が付与されていて第1開口部を覆うシート部材と、第1開口部の形状に対応した形状の第2開口部を備え第1開口部の位置でシート部材を覆うフレームと、排水性を備え筐体の外側を覆うウインドスクリーンと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防水性能と音響性能とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るマイクロホンの実施の形態を示す側面の断面図である。
【
図2】
図1のマイクロホンの筐体とメッシュ材と接着テープとフレームとウインドスクリーンとを分解した状態を示す側面図である。
【
図3】
図1のマイクロホンを示す側面の拡大断面図である。
【
図4】関連技術のマイクロホンを示す側面の拡大断面図である。
【
図5】
図1のマイクロホンの指向周波数特性を示すグラフである。
【
図6】関連技術のマイクロホンの指向周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るマイクロホンの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
●マイクロホンの構成
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るマイクロホン10は、マイクロホンユニット1、筐体2、メッシュ材3、フレーム4、ウインドスクリーン5などを有している。
【0014】
マイクロホンユニット1は、振動板を備え、マイクロホン10の外部などからの音波を電気信号に変換する。マイクロホンユニット1は、ショックマウント6により筐体2の内部の所定位置に保持されている。筐体2は、その内部のマイクロホンユニット1の後方(
図1の紙面右側)に、回路基板7を備える。回路基板7には、例えばインピーダンス変換器としてのFET(Field effect transistor)、増幅回路、ローカット回路などが実装されている。また、筐体2は、内部のマイクロホンユニット1の後方に、回路基板7と電気的に接続している出力コネクタ8を備える。
【0015】
筐体2は、内部が空洞の管状の部材である。筐体2は、内部の空洞により、マイクロホンユニット1の前方(
図1の紙面左側)において音響管21を構成している。筐体2には、外部からの音波を通過させてマイクロホンユニット1の振動板に伝達するための第1開口部22が設けられている。また、筐体2は、前側の開放端(以下「前端」という。)に金属網などで形成されている前カバー23を有している。
【0016】
メッシュ材3は、例えば筐体2の外側から第1開口部22を覆うように設けられている。メッシュ材3は、外部からの音波が筐体2の内部のマイクロホンユニット1に届くような通気性を有する繊維材料のシート部材により形成されている。メッシュ材3は、例えば表面に撥水加工が施されているポリエステルなどの合成樹脂の繊維材料からなり、撥水性を備えている。メッシュ材3には、例えばJIS L 1096 フラジール法で440[cc/cm
2/秒]程度の通気性を有し、JIS L 1092 スプレー法で5級の撥水性を有する繊維材料が望ましい。
【0017】
なお、繊維材料には、上述のポリエステルの他に、例えばポリプロピレンメッシュやテフロンメッシュなどの撥水加工が施されていなくても撥水性を有する合成樹脂材料が用いられてもよい。また、メッシュ材3は、メッシュ状に形成されている繊維材料には限定されない。
【0018】
フレーム4は、第1開口部の位置に設けられている。フレーム4は、メッシュ材3を覆うように設けられている。フレーム4は、第1開口部22の形状に対応した形状の第2開口部41を備える。フレーム4は、第2開口部41の内部に間隙を形成するための部材である。
【0019】
ウインドスクリーン5は、筐体2の形状に対応した形状の筒状の部材である。ウインドスクリーン5は、筐体2の形状に対応した形状の収容部51を備える。例えば、筐体2が略円筒形状である場合に、収容部51の形状は、略円筒形状の凹部である。収容部51は、筐体2を収容するため、ウインドスクリーン5の後端側で開放している。開放されている後端側からマイクロホン10の筐体2が収容部51に挿入されることにより、筐体2は、ウインドスクリーン5によって覆われる。
【0020】
ウインドスクリーン5は、収容部51によりマイクロホン10の筐体2を外部から覆うことでマイクロホン10の外部の風などに起因するノイズを抑制している。ウインドスクリーン5は、例えば90パーセント以上の空隙率を備えたウレタンなどのスポンジが用いられる。
【0021】
●筐体の第1開口部周辺の構成
次に、マイクロホン10の筐体2の第1開口部22周辺の構成について説明する。
【0022】
図2に示すように、マイクロホン10の筐体2には、その第1開口部22
に近い順に、両面テープ9、メッシュ材3、フレーム4が設けられている。
【0023】
メッシュ材3は、両面テープ9により、筐体2の外側に密着させて第1開口部22を覆うように取り付けられている。フレーム4は、両面テープ9により、メッシュ材3とともに第1開口部22を覆って筐体2の外側に取り付けられている。
図1に示したように、フレーム4に設けられている第2開口部41では、その位置が第1開口部22の位置に対向している。つまり、第1開口部22と第2開口部41とにより、マイクロホン10の筐体2の外部からの音波は、筐体2の内部に伝達される。
【0024】
フレーム4の大きさは、筐体2に取り付けた際にメッシュ材3を覆うことができるように、メッシュ材3の大きさよりも大きい。両面テープ9の大きさは、メッシュ材3とフレーム4とを筐体2に貼りつけるために、フレーム4の大きさに対応している。
【0025】
なお、両面テープの位置は、本実施の形態に係るマイクロホン10の筐体2の例には限定されない。つまり、両面テープ9は、フレーム4とメッシュ材3との間に設けられてメッシュ材3とフレーム4とを筐体2に貼りつけてもよい。
【0026】
ウインドスクリーン5は、メッシュ材3とフレーム4とが貼りつけられた筐体2に取り付けられることで、
図1に示したような状態になる。
【0027】
図3に示すように、マイクロホン10には、筐体2の第1開口部22の外側から順に、フレーム4、メッシュ材3、両面テープ9が設けられている。
【0028】
マイクロホン10において、筐体2の外側に被せられているウインドスクリーン5は、上述のように例えば90パーセント以上の高い空隙率を有した(スポンジの目が粗い)ウレタン製のスポンジで形成されている。空隙率が高いウレタン製のスポンジは、空隙率が低く水分を保持しやすい一般のウインドスクリーンに用いられるスポンジとは異なり、水分を保持しない。雨中などの水に曝されるような状況下でマイクロホン10を使用するときに、ウインドスクリーン5からメッシュ材3まで到達した水は、メッシュ材3の表面を流れて排水される。つまり、ウインドスクリーン5は、排水性が高い。また、マイクロホン10は
、ウインドスクリーン5を有することにより、水がウインドスクリーン5を通過するまでの間に、下層にあるメッシュ材3に加わる水圧が低減される。このように、空隙率が高いウレタン製のスポンジのウインドスクリーン5を有するマイクロホン10は、高い防水性能を得られる。
【0029】
マイクロホン10は、筐体2の外側に設けられているメッシュ材3とウインドスクリーン5と間のフレーム4が所定の厚さを持つ。このフレーム4には、第2開口部41が設けられている。このようなフレーム4を有することにより、メッシュ材3とウインドスクリーン5との間の第2開口部41には、間隙が形成されている。
【0030】
この間隙は、ウインドスクリーン5に外力が加わった場合にもメッシュ材3に力が加わることを防ぐ。また、間隙により、第1開口部22と第2開口部41の周辺において、メッシュ材3とウインドスクリーン5のそれぞれの表面が互いに接触しない。このため、このようなマイクロホン10では、ウインドスクリーン5からメッシュ材3に水分が直接的に伝わりにくくなる。第2開口部41を備え所定の厚さを持つフレーム4を有することにより、マイクロホン10は、撥水性を有するメッシュ材3のみを有する場合と比較して、高い防水性能を得られる。
【0031】
また、フレーム4により形成される間隙は、マイクロホン10の音響容量となり、ウインドスクリーン5とともに音響的にハイパスフィルターを形成する。つまり、フレーム4を有することにより、本実施の形態によるマイクロホン10は、風雑音の低減効果を高めることができる。
【0032】
上述のように、メッシュ材3は、通気性と撥水性を有するポリエステルなどの合成樹脂のシート部材により形成されている。メッシュ材3は、外部からの音波を筐体2の内部のマイクロホンユニット1を通過させ、外部からの水分を撥水する。
【0033】
マイクロホン10は、水に曝されるような状況下でも、ウインドスクリーン5、フレーム4、メッシュ材3によりマイクロホンユニット1に水分を通さず音波のみを通す。つまり、マイクロホン10によれば、防水性能と音響性能とを両立することができる。
【0034】
図4は、関連技術のマイクロホンを示す側面の拡大断面図である。関連技術のマイクロホンの筐体200には、直接的にウインドスクリーン500が被せられている。このため、関連技術のマイクロホンには、筐体200の内部の音響管210と外部とを流通させる開口部220の外側に、ウインドスクリーン500が設けられている。関連技術のマイクロホンには、防水のため、ウインドスクリーン500の外側にPVC製のレインカバー600が設けられている。関連技術のマイクロホンのように、レインカバー600を使用した場合には、外部からの音波、主に低域と高域の音波がレインカバー600によって減衰されるため、収音される音波の周波数特性が悪化してしまう。
【0035】
図5のグラフと
図6のグラフにより、マイクロホン10の指向周波数特性と
図6のPVC製のレインカバー600を被せた関連技術のマイクロホンの指向周波数特性とを比較する。
図5と
図6に示すように、マイクロホン10の指向周波数特性は、PVC製のレインカバー600が被せられている関連技術のマイクロホンとは異なり、すべての周波数帯において優れた応答特性を得られることがわかる。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態に係るマイクロホン10によれば、防水性能と音響性能とを両立することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 :マイクロホンユニット
2 :筐体
3 :メッシュ材
4 :フレーム
5 :ウインドスクリーン
6 :ショックマウント
7 :回路基板
8 :出力コネクタ
9 :両面テープ
10 :マイクロホン
21 :音響管
22 :第1開口部
23 :前カバー
41 :第2開口部
51 :収容部