特許第6557893号(P6557893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557893熱中症の予防、軽減及び/又は治療のための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6557893
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】熱中症の予防、軽減及び/又は治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20190805BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20190805BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20190805BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20190805BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190805BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190805BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190805BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20190805BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20190805BHJP
   A23K 20/121 20160101ALI20190805BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61K31/23
   A61K36/752
   A61P3/00
   A61P43/00 111
   A61P9/00
   A61P29/00
   A23L33/10
   A23L33/105
   A23K20/121
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-520759(P2019-520759)
(86)(22)【出願日】2018年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2018035650
【審査請求日】2019年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2017-184343(P2017-184343)
(32)【優先日】2017年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和則
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−7149(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/132893(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/99962(WO,A1)
【文献】 赤穂化成、熱中対策にも役立つ「ココナッツオイル塩あめ」を発売,マイライフニュース,2015年 5月26日,pp.1-3,p.1,URL,http://www.mylifenews.net/drink/2015/05/post-1927.html
【文献】 加藤和則,「血管内皮細胞の代謝メカニズムと暑熱ストレス〜細胞代謝学から熱中症を科学しその対策を考える〜」,生体医工学研究センターシンポジウム2016「暑熱ストレス応答の可視化とストレスコーピングの多階層的研,2016年,pp.1-2,p.1,URL,https://toyo.ac.jp/site/sce/100561.html
【文献】 KINOSHITA,K. et al.,Delayed Augmentation Effect of Cytokine Production after Hyperthermia Stimuli,Molecular Biology,2014年,Vol.48,No.3,pp.371-376,ISSN 0026-8933,Abstract,Fig.2,3
【文献】 LEON Lisa R. et al.,Plasma Cytokine Response during Heat Strain Recovery in Mice,FASEB Journal,2005年,Vol.19,No.5,Suppl.S,Part 2,pp.A1192,ISSN 0892-6638,677.1
【文献】 PLAMPER.Mark L. et al.,Monocyte chemoattractant protein-1 expression in the lung and kidney is a marker of severity during,FASEB Journal,2017年 4月,Vol.31,No.Suppl.1,AN:1018.5,ISSN 0892-6638,Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A23K 20/121
A23L 33/10
A23L 33/105
A61K 36/00−36/9068
A61P 3/00
A61P 9/00
A61P 29/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーラプテン、タンゲレチン、並びに、カプリル酸及びカプリン酸の含有率60〜100%のトリグリセリドである中鎖脂肪酸油(MCT)からなる群から選択される少なくとも1つの物質を有効成分として含む、被験体において熱中症を予防、軽減及び/又は治療するための組成物。
【請求項2】
熱中症が、暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
熱中症が、暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害を抑制する作用、脂質代謝を増加させる作用、並びに、暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出を減少させる作用からなる群から選択される少なくとも1つの作用を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
被験体が、恒温動物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
恒温動物が、ヒト、家畜動物又はペット動物である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
オーラプテン及び/又はタンゲレチンが、合成物であるか又は、カンキツ類の植物原料の抽出物に由来する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
植物原料が、果実である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
オーラプテンが、合成物であるか又は、ナツミカン、ハッサク、グレープフルーツ、ユズ、カボス、及びブンタンから選択される少なくとも1種のカンキツ類の果実抽出物に由来する、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
タンゲレチンが、合成物であるか又は、ポンカン及びシイクワシャーから選択される少なくとも1種のカンキツ類の果実抽出物に由来する、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項11】
飲食品又は医薬品である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
動物飼料又は飼料添加物である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
被験体(ヒトを除く)に請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物を投与する又は給与することを含む、被験体において熱中症、或いは暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常、を予防、軽減及び/又は治療するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱中症、或いは暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞等の細胞の細胞障害及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常、を予防、軽減及び/又は治療することが可能な、オーラプテン(Auraptene)、タンゲレチン(Tangeretin)及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱中症は、日光や気温等により体の体温・体液調節機能が障害を受け、体の中の熱が放出できなくなる状態を指す。熱中症は、軽度から重度まで3段階に分かれており、軽度の症状として、めまいや失神、筋肉の硬直等による熱けいれんが起こる。中等度では、頭痛や嘔吐、下痢等の症状が重なり合って起こり、従来の熱疲労と云われている。重度では、意識障害や過呼吸、運動障害等と中等度の症状が重なり合って起こる症状であり、従来の熱射病と云われている。原因としては、環境的・身体的な要因が考えられるが、熱中症が重度化した際には、再発しやすくなることも報告されている。しかしながら、温暖化などによる気候変動のために、また一部には熱中症に対する有効な予防・治療薬がないために、熱中症患者は増加傾向にあり、深刻な社会問題となっている。また、熱中症について、夏場だけではなく年間を通して緊急搬送される患者がおり、特に高齢者や乳幼児が多くなっている。
【0003】
熱中症の原因の一つに暑熱ストレスによる影響が提案されている。暑熱ストレスは、体内の体温が上昇することにより生体に様々な機能障害を及ぼすストレスのことである。生体内で暑熱ストレスを受けることによって、体温調節、体液バランス、血液循環調整などの身体恒常性が破綻する結果、血管に障害を与え、血管内皮細胞が暑熱ストレスを受け、細胞内で代謝障害が起きると考えられている。このことが原因となって組織や細胞が酸欠状態及び栄養不足に陥り、機能障害のために重篤の熱中症を引き起こすと云われている。そのため、熱中症に対する従来の予防法である水分補給や塩類(ナトリウム、マグネシウムなど)と糖類の補給に加えて、新たな予防・治療薬の開発、対処療法などの対策が希求されている。
【0004】
これまで報告された熱中症の予防・治療剤として、例えば、α−リノレン酸を含む油脂組成物を含有する熱中症予防剤(特許文献1)、トレハロースを有効成分として含有する家畜の暑熱ストレス軽減剤(特許文献2)、酒粕と米麹を少なくとも含有する暑熱ストレス軽減組成物(特許文献3)、アスタキサンチンと乳カゼイン加水分解物を併用する暑熱ストレス(heat stress)症状の予防・治療法(特許文献4)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−37498号公報
【特許文献2】特開2015−140347号公報
【特許文献3】特開2007−001937号公報
【特許文献4】US2017/0000746A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり熱中症発症の要因の一つとして、暑熱ストレスに曝された血管に障害が生じることにより発生する、組織や細胞における酸欠・栄養不足に伴う組織・細胞機能障害が考えられるため、新たな予防・治療薬、対処療法等が求められている。
【0007】
そこで本発明は、暑熱ストレスによる血管内皮細胞等の細胞の代謝障害や機能障害などの細胞障害を予防、軽減及び/又は治療することを含む、新たな熱中症の予防及び/又は治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質を暑熱ストレスの条件下にある培養血管内皮細胞や培養血液細胞(例、リンパ球、白血球、等)に添加することによって、暑熱ストレスが血管内皮細胞等の細胞に及ぼす代謝障害、機能障害、細胞死などの細胞障害、並びに、暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出を低減することができることを見出し、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質が暑熱ストレスによる上記細胞障害を抑制し、及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出を減少させることによって熱中症を予防、軽減及び/又は治療できることが判明し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有する。
[1]オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質を有効成分として含む、被験体において熱中症を予防、軽減及び/又は治療するための組成物。
[2]熱中症が、暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害を含む、[1]に記載の組成物。
[3]熱中症が、暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常を含む、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害を抑制する作用、脂質代謝を増加させる作用、並びに、暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出を減少させる作用からなる群から選択される少なくとも1つの作用を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]被験体が、恒温動物である、[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]恒温動物が、ヒト、家畜動物又はペット動物である、[5]に記載の組成物。
[7]オーラプテン及び/又はタンゲレチンが、合成物であるか又は、カンキツ類の植物原料の抽出物に由来する、[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]植物原料が、果実である、[7]に記載の組成物。
[9]オーラプテンが、合成物であるか又は、ナツミカン、ハッサク、グレープフルーツ、ユズ、カボス、及びブンタンから選択される少なくとも1種のカンキツ類の果実抽出物に由来する、[7]又は[8]に記載の組成物。
[10]タンゲレチンが、合成物であるか又は、ポンカン及びシイクワシャーから選択される少なくとも1種のカンキツ類の果実抽出物に由来する、[7]又は[8]に記載の組成物。
[11]中鎖脂肪酸が、中鎖脂肪酸油(MCT)である、[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
[12]飲食品又は医薬品である、[1]〜[11]のいずれかに記載の組成物。
[13]動物飼料又は飼料添加物である、[1]〜[11]のいずれかに記載の組成物。
[14]被験体に[1]〜[13]のいずれかに記載の組成物を投与する又は給与することを含む、被験体において熱中症、或いは暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常、を予防、軽減及び/又は治療するための方法。
【0010】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願第2017−184343号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被験体に対しオーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質を投与又は給与することにより暑熱ストレスによる血管内皮細胞等の細胞の細胞障害を抑制すること、及び/又は、暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出を減少させることができるため、新しいタイプの熱中症対策を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この図は、暑熱ストレスの負荷によるヒト臍帯静脈血管内皮細胞(以下、単に「ヒト血管内皮細胞」又は「HUVEC」とも称する。)の形態変化を示す。ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を37℃(A)及び40℃(B)で培養すると、40℃、1日後には形態変化(すなわち、細胞萎縮)が認められ、2日後には細胞増殖抑制、そして細胞死が観察された。細胞は、クリスタルバイオレット染色され、位相差顕微鏡下で撮影された。
図2】この図は、暑熱ストレスの負荷(40℃、3日間の培養)によるヒト血管内皮細胞(HUVEC)のATP量の減少を示す。比較対照として、37℃、3日間培養後のHUVECのATP量の測定結果を示す。ここで細胞中のATP量は、ルシフェラーゼ発光法を使用して測定された。
図3】この図は、暑熱ストレスの負荷によるCPT−II発現変化を示す細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真である。ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃で3日間培養すると、長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に輸送する酵素CPT−IIの発現が低下する(B)。比較対照として、37℃、3日間培養後のHUVECのCPT−II発現の測定結果を示す(A)。ここで細胞中のCPT−II発現は、Alexa647抗CPT−II抗体を使用して測定された。
図4】この図は、暑熱ストレスの負荷による細胞内ミトコンドリア活性の低下を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃で3日間培養し、ミトコンドリアをMitoSpy−Greenで染色したときの細胞内ミトコンドリア量の減少を示す(B)。比較対照として、37℃、3日間培養後のHUVECのミトコンドリア活性の測定結果を示す(A)。
図5】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を培地のみで40℃、2日間培養したときの細胞の位相差顕微鏡写真である。図から、死細胞が多いことが観察される。
図6】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)をタンゲレチン含有培地で40℃、2日間培養液したときの細胞の位相差顕微鏡写真である。図5(対照)と比較して、死細胞が減少し、生細胞が増加していることが観察される。
図7】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)をオーラプテン含有培地で40℃、2日間培養液したときの細胞の位相差顕微鏡写真である。図5(対照)と比較して、死細胞が減少し、生細胞が増加していることが観察される。
図8】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃で3日間培養したときのオーラプテン(AURAPTENE)及びタンゲレチン(TANGERETIN)による暑熱ストレス耐性効果を示す(それぞれB及びC)。対照は、DMSO含有培地での培養である(A)。ここで細胞は、クリスタルバイオレット染色され、位相差顕微鏡下で撮影された。
図9】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃で2日間暑熱ストレス負荷培養したときのオーラプテン(成分A)及びタンゲレチン(成分T)添加による、DiOC6染色陽性細胞の増加、細胞障害(細胞死)の抑制効果の定量結果を示す。対照は、37℃又は40℃での成分を含まない培地での細胞の培養である。また、死細胞は、PI染色により定量された。
図10】この図は、オーラプテンの細胞死抑制効果を示す濃度依存性実験の結果を示す。パネルは、オーラプテン濃度0、0.3、0.6、1.2、2.5.5.0μMを含有する培地でヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃、3日間培養したときの培養細胞の位相差顕微鏡写真である。
図11】この図は、オーラプテンによる結果(図10)と対比するために行ったL−カルニチンの細胞死抑制効果を示す濃度依存性実験の結果を示す。L−カルニチン濃度0、1.2、2.5mg/mlを含有する培地でヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃、3日間培養したときの培養細胞の位相差顕微鏡写真である。
図12】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃で2日間暑熱ストレス負荷培養したときのオーラプテン(AUR)及びタンゲレチン(TAN)添加によるHUVECの蓄積脂肪滴量が減少したこと、すなわち細胞内の脂肪酸代謝が亢進したことを示す細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真である(それぞれB及びC)。対照は、上記成分に代えてDMSOを添加したときの顕微鏡写真である(A)。脂肪滴の染色には、BODIPY488が使用された。
図13】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃、1日間培養したときのオーラプテン(AUR)及びタンゲレチン(TAN)によるPPARαの発現増加を示す細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真である(それぞれB及びC)。対照は、上記成分に代えてDMSOを添加したときの顕微鏡写真である(A)。PPARαの発現は、抗PPARα抗体染色により検出された。
図14】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃、1日間培養したときのオーラプテン(AUR)によるPPARγの発現増加を示す細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真である(B)。対照は、上記成分に代えてDMSOを添加したときの顕微鏡写真である(A)。しかし、タンゲレチン(TAN)によるPPARγの発現増加は観察されなかった(C)。ここでPPARγの発現は、抗PPARγ抗体染色により検出された。
図15】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃、3日間培養したときのオーラプテン(AUR)添加によるABCD3発現に変化が認められなかったことを示す細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真である(B)。対照は、上記成分に代えてDMSOを添加したときの顕微鏡写真である(A)。ここでABCD3の発現は、Alexa647抗ABCD3抗体染色により検出された。
図16】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃、3日間培養したときの中鎖脂肪酸(0μl/ml、8μl/ml、64μl/ml)による暑熱ストレス耐性効果を示す。上のパネル及び下のパネルはそれぞれ倍率100倍及び200倍の位相差顕微鏡写真の図である。図中、使用した中鎖脂肪酸は、MCT(Medium Chain Triglycerides)オイル(日清オイリオ社、日本)であり、C8〜C12の中鎖脂肪酸を主成分とする。
図17】この図は、暑熱ストレス負荷によるヒト血管内皮細胞(HUVEC)の死細胞率(%)と中鎖脂肪酸量(μl/ml)の関係を示す。図中、使用した中鎖脂肪酸は、MCT(Medium Chain Triglycerides)オイル(日清オイリオ社、日本)であり、C8〜C12の中鎖脂肪酸を主成分とする。
図18】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)が暑熱ストレス負荷を受けたときの中鎖脂肪酸量(μl/ml)とHSP70産生量(pg/ml)の関係を示す。図中、使用した中鎖脂肪酸は、MCT(Medium Chain Triglycerides)オイル(日清オイリオ社、日本)であり、C8〜C12の中鎖脂肪酸を主成分とする。
図19】この図は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)が暑熱ストレス負荷を受けたときのオーラプテンと中鎖脂肪酸による暑熱ストレス細胞死の併用抑制効果を示す位相差顕微鏡写真の図である。Aは、オーラプテン(5μM)のみを使用したときの結果を示し、Bは、オーラプテン(5μM)及び中鎖脂肪酸(64μl/ml)を併用したときの結果を示し、並びにCは、オーラプテン(5μM)及び中鎖脂肪酸(8μl/ml)を併用したときの結果を示す。図中、使用した中鎖脂肪酸は、MCT(Medium Chain Triglycerides)オイル(日清オイリオ社、日本)であり、C8〜C12の中鎖脂肪酸を主成分とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、第1の態様において、オーラプテン、はタンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質を有効成分として含む、被験体において熱中症を予防、軽減及び/又は治療するための組成物を提供する。
【0014】
本発明の実施形態において、上記熱中症が、暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞等の細胞の細胞障害(例えば代謝障害、機能障害、細胞死、等)及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)を含む。このため、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質を有効成分として含む組成物を、被験体に投与もしくは給与することによって、暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞等の細胞の細胞障害、及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)、を予防、軽減及び/又は治療することができる。
【0015】
したがって、本発明は、第2の態様において、被験体に上記組成物を投与する又は給与することを含む、被験体において熱中症、又は暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞等の細胞の細胞障害、及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)、を予防、軽減及び/又は治療するための方法を提供する。
【0016】
本明細書中「発熱誘発炎症性サイトカイン」は、発熱性因子と互換的に使用されているとおり、発熱を誘発する炎症性サイトカインであり、例えばインターロイキン6(IL−6)、C−C motif chemokine ligand 2(CCL−2)などが挙げられる。熱射病症例では、血中のIL−6が異常に高いレベルになることが知られている(織田成人、日集中医誌.2008;15:166〜167)。
【0017】
本発明についてさらに詳細に説明する。
1.有効成分
「オーラプテン」(Aurapten)とは、クマリン類に分類される化合物であり、7−ゲラニルオキシクマリン、アウラプテンなどとも称され、下記の構造式を有する化合物である。
【0018】
【化1】
【0019】
オーラプテンは、植物原料から抽出又は精製したものであってもよいし、人為的に合成されたもの(合成物という。)であってもよい。
【0020】
前記植物原料としては、オーラプテンを含有する植物原料であれば良く、特に限定されないが、好ましくはカンキツ類の果実が挙げられる。より好ましくは、ナツミカン(Citrus natsudaidai)、ハッサク(Citrus hassaku)、グレープフルーツ(Citrus × paradisi)、ユズ(Citrus junos)、カボス(Citrus sphaerocarpa)、及びブンタン(Citrus grandis)から選択される少なくとも1種のカンキツ類の果実(品種は特に限定されない。)である。これらの果実の果皮にはオーラプテンが豊富に含まれており、これらを植物原料とすることによりオーラプテンを効率的に得ることができる。
【0021】
あるいは、オーラプテンは、7−ヒドロキシクマリンとtrans−ゲラニルブロミドをDBUの存在下、アセトン中、室温で約1日間反応させたのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤、石油エーテル:酢酸エチル9:1(v/v))により精製し、約65%の収率で得ることができる(M. Askari et al., Iran J Basic Med Sci 2009, 12(2):63−69)。
【0022】
「タンゲレチン」(Tangeretin)とは、ポリメトキシフラボノイド化合物であり、4',5,6,7,8−ペンタメトキシフラボンとも称され、下記の構造式を有する化合物である。
【0023】
【化2】
【0024】
タンゲレチンは植物原料から抽出又は精製したものであってもよいし、人為的に合成されたもの(合成物という。)であってもよい。
【0025】
前記植物原料としては、タンゲレチンを含有する植物原料であれば良く、特に限定されないが、好ましくはカンキツ類の果実が挙げられる。より好ましくは、ポンカン(Citrus reticulata)及びシイクワシャー(Citrus depressa)から選択される少なくとも1種のカンキツ類の果実(品種は特に限定されない。)である。これらの果実の果皮にはタンゲレチンが豊富に含まれており、これらを植物原料とすることによりタンゲレチンを効率的に得ることができる。
【0026】
あるいは、タンゲレチンは、2'−ヒドロキシ−3',4',5',6'−テトラメトキシアセトフェノンと3−メトキシベンズアルデヒドをエタノール中、14%水酸化カリウム水溶液の存在下、室温で反応させて2'−ヒドロキシ−3',4',5',6',3−ペンタメトキシカルコンを合成し、さらにエタノール中、ナトリウムエトキシドの存在下で加熱還流して5,6,7,8,3'−ペンタメトキシ−フラバノンを合成し、次いで、ジオキサン中、DDQの存在下で酸化反応を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより精製して得ることができる(例えば、S−I Cai et al., Chem Res Chinese Universities 2012, 28(4):631−636)。
【0027】
「中鎖脂肪酸」は、炭素数6〜12(中鎖)の脂肪酸であり、例えばC6のカプロン酸(caproic acid)、C8のカプリル酸(caprylic acid)、C10のカプリン酸(capric acid)、及びC12のラウリン酸(lauric acid)を含む。また、本明細書中で使用される「中鎖脂肪酸」は、生体内で分解されて中鎖脂肪酸を形成する中鎖脂肪酸グリセリド、例えばMCT(Medium Chain Triglycerides;中鎖脂肪酸油)を含むことができる。MCTは、中鎖脂肪酸を主成分(例えば約60%〜100%)とするトリグリセリドオイルである。
【0028】
例えば、ココナッツオイルは、カプリル酸(C8)7.5%、カプリン酸(C10)6.0%、ラウリン酸(C12)45%を含む中鎖脂肪酸を約60%含有する。カプリル酸(C8)やカプリン酸(C10)が主体のMCTオイルが液体であるのに対して、ココナッツオイルは、20℃以下で固体状であり、20℃〜25℃でクリーム状であり、25℃以上で液体状である。
【0029】
中鎖脂肪酸は、比較的水に溶けやすいため、胆汁酸によるミセル化は不要であり、小腸吸収細胞に容易に吸収され、分子が小さいことから腸管で毛細血管に吸収され、長鎖脂肪酸のように中性脂肪に再合成されず、カイロミクロンを形成することなく遊離脂肪酸のまま門脈に入って肝臓へ運ばれ、速やかにエネルギー源となって代謝されやすい。
【0030】
また、中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸より約4倍も吸収が速く、代謝も5〜10倍も速いと云われている。中鎖脂肪酸のエネルギー利用速度は速いので、激しい運動の持続時間を延長する効果も報告されている。また、動物や人間での実験結果から、長鎖脂肪酸を含む脂肪に比べて、中鎖脂肪酸中性脂肪は、肥満を引き起こしにくいことが示されている。ココナッツオイルには中鎖脂肪酸のラウリン酸が約50%含まれており、ココナッツオイルを多く消費する南アジアやオセアニア地域の人々は心血管系の疾病の発生率が低いとされている。
【0031】
本発明の組成物には、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質として、合成物、あるいは植物原料の抽出物に由来するもの、例えば、抽出物の形態や抽出物からの精製形態を含めることができる。
【0032】
「抽出物の形態」とは、植物原料よりオーラプテン、タンゲレチン又は中鎖脂肪酸を含む画分を分離・取得したものを意味し、例えば、「抽出物」として、搾汁、抽出液、又はそれら混合物、あるいは前記搾汁、抽出液又はそれらの混合物を濃縮又は乾燥した濃縮物又は乾燥物を挙げることができる。
【0033】
「搾汁」は、植物原料を破砕、圧搾して、液体画分と細胞壁等の固体画分とを分離し、液体画分を取得することにより調製することができる。液体画分と固体画分との分離は遠心分離、ろ過等の通常の固液分離手段により行うことができる。
【0034】
「抽出液」は、植物原料より目的の成分を抽出媒体により抽出することにより調製することができる。抽出媒体としては、オーラプテン又はタンゲレチンの抽出に一般的に用いられる溶媒を利用することができる(特開平11−29565号公報、特開2009−215318号公報等)。このような抽出溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、ヘキサン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、又はそれらの溶媒の2種以上の混合物を利用することができる。溶媒抽出により抽出液を製造する場合には、各植物原料を適量の溶媒(例えば各植物原料に対して重量基準で0.5〜20倍量)中に浸漬し、適宜撹拌又は静置して溶媒中に溶媒可溶性成分を溶出させる。抽出時間は特に限定されないが、5分間〜1週間より適宜選択することができる。抽出温度は特に限定されないが、0℃〜125℃、例えば25℃〜125℃とすることができる。抽出後、溶媒可溶性成分を含む溶媒画分と細胞壁等の固体画分とを上述の固液分離手段により分離し、溶媒画分を抽出液として取得する。抽出に用いる各植物原料の形態は、原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットした状態、あるいは乾燥物、破砕物、又は搾汁の形態とすることができる。
【0035】
得られた抽出液を必要に応じてさらに、溶媒分画、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超臨界二酸化炭素クロマトグラフィー等)吸着剤の使用及び/又は再結晶化等の精製手段に付して、目的の成分を分離又は精製してもよい(特開平11−29565号公報、特開2004−35709号公報、WO2014/057727等)。精製は、例えば純度約1%〜100%の目的成分を与える部分精製又は完全精製であってもよい。
【0036】
「濃縮物又は乾燥物」は、上記搾汁又は抽出液あるいはそれら混合物を濃縮又は乾燥することにより製造することができる。ここで濃縮とは搾汁又は抽出液あるいはこれらの混合物中の液体(水及び/又は抽出溶媒)を減少させることであり、例えば糖度(Bx)又は酸度を指標にして濃縮の程度を決定することができる。糖度は市販の糖度計で測定することができるし、また酸度は中和滴定法によって測定することができる。濃縮の方法としては、例えば真空蒸発濃縮、膜濃縮等が採用できる。真空蒸発濃縮は一般的に減圧濃縮と呼ばれる。膜濃縮は、例えば逆浸透膜(RO)、限外ろ過膜(UF)等の膜を使用して行うことができる。使用する膜の種類は、例えば糖度約50%以上とすることができる範囲で選択でき、特に限定されない。乾燥は上記搾汁又は抽出液あるいはそれら混合物を上記通常の乾燥手段を用いて乾燥することにより実施することができる。濃縮又は乾燥に際して、上記搾汁、上前記抽出液、又は上前記濃縮物と賦形剤等の他の成分とを組み合わせて濃縮又は乾燥を行ってもよい。
【0037】
2.組成物及びその使用
本発明の組成物には、有効成分であるオーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質に加えて、医薬又は飲食品として許容可能な、あるいは動物飼料又は飼料添加物として許容可能な、例えば賦形剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、矯味矯臭剤、防腐剤、pH調整剤等のその他の成分(添加剤ともいう)を、当該組成物において所望される形態に応じて適宜選択、配合することができる。
【0038】
本発明の組成物にはさらに、熱中症を予防、軽減及び/又は治療するのに有効なその他の物質を含めることができる。このような物質としては、例えばミネラル(ナトリウム、カリウム等)、カルニチン(WO2013/005403)、αリノレン酸(特開2016−37498号公報)、卵白ペプチド(特開2008−72968号公報)、酒かすや米麹(特開2007−001937号公報)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0039】
本発明の組成物は、医薬品(医薬部外品を含む)又は飲食品(すなわち、飲料又は、飲料以外の食品)の形態、あるいは動物飼料又は飼料添加物の形態で提供することができる。
【0040】
本明細書中、「被験体」は、鳥類、哺乳動物などの恒温動物であり、好ましくは、ヒト、家畜動物、ペット動物など、特に好ましくはヒトである。家畜動物には、暑熱ストレスが例えば乳や食肉の生産、鶏卵の生産、繁殖などに多大な被害をもたらすことが知られている経済的に重要なウシ、ブタ、ニワトリなどの動物が含まれる。ペット動物には、家の中で飼われるイヌ、ネコ、ウサギ、リス、ハムスターなどの動物が含まれる。被験体がヒトの場合、すべてのヒトが対象であり、以下の者に限定されないが、例えば、特に暑熱ストレスを受けやすい、高齢者や乳幼児、高温環境で作業、活動、運動又は生活する者などが挙げられる。
【0041】
医薬品は、その投与形態(経口及び非経口投与形態)に特に制限はないが、経口投与に適した形態であることが好ましい。例えば、経口投与用固体組成物(固形医薬製剤)としては、例えば錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、トローチ剤、チュアブル剤、ドロップ剤等の形態を、また経口投与用液状組成物(液状医薬製剤)としては、例えば乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態をとることができる。あるいは、非経口投与用組成物として、静脈内投与のための乳濁形態、経直腸内投与のための坐剤などの形態をとることができる。これらの製剤には、上記オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質に加えて、上記その他の成分(添加剤)をその剤形に応じて、適宜配合し、常法に従って製剤化することができる。
【0042】
飲食品は、その形態に特に制限はないが、キャンディ、タブレット、清涼飲料水(例えば、炭酸飲料、果実飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、ミネラルウォーター、豆乳類、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料等)、ゼリー飲料等、食品(例えば、調味料、菓子類、パン類、ケーキ類、アイスクリーム類、氷菓、乳製品、肉製品、魚肉製品、果菜食品、果物食品、発酵食品、食品添加物等)が挙げられる。飲食品には、一般的な飲食品に加えて、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品、病者用食品等が含まれ、これらの飲食品には、熱中症予防、熱中症対策等に効果を有する旨表示することができる。
【0043】
動物飼料又は飼料添加物は、その形態に特に制限はないが、粉末状、顆粒状、ペレット状、丸状、スティック状などの経口投与形態又は経口給与に適した形態に調製される。上記オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質に加えて、被験体の種類に適した通常の食餌成分をその剤形に応じて、適宜配合し、常法に従って製剤化することができる。飼料及び飼料添加物には、例えばトウモロコシ、豆類、米、麦などの穀類(例えば穀粉、穀粒等)の他に、規制当局が指定した飼料添加用物質である、例えばアミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類、生菌剤(乳酸菌、ビフィズス菌、酵母菌等)、乳化剤などの成分を適宜配合することができる。
【0044】
本発明の組成物は、熱中症を予防、軽減及び/又は治療するために用いることができる。
【0045】
本明細書において「熱中症」とは、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病、並びに、高温浴による体温上昇に起因する失神(熱失神)、ショック又は意識障害(熱射病)(失神の診断・治療ガイドライン、第37〜39頁(2012年改訂版、日本循環器学会)などを含む健康障害の総称を意味する。
【0046】
本発明において「熱中症を予防、軽減及び/又は治療する」とは、暑熱ストレスの負荷によって生じる例えば血管内皮細胞、脳神経細胞、筋肉細胞(例えば、横紋筋、等)などの細胞の代謝障害、機能障害、細胞死などの細胞障害、それに起因する血管、脳、筋肉などの器官の障害、並びに/或いは、暑熱ストレスの負荷による血液細胞(例えば、リンパ球、白血球、等)からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)、を予防、軽減及び/又は治療して、そのような器官の障害に由来する組織や細胞の酸欠や栄養不足を予防又は改善し、細胞障害に基づく熱中症を予防、軽減及び/又は治療することを含む。
【0047】
「暑熱ストレス」とは、例えば血管内皮細胞、脳神経細胞、筋肉細胞などの細胞が曝される37℃超、例えば、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、又はそれ以上の温度条件を意味する。ヒトの場合、体温が40℃を超えると細胞障害が起きるリスクが高まる。一方、ヒト以外の被験体、例えばブタの場合、体温が42℃を超えると細胞障害が認められる。このように被験体の種類によって暑熱ストレスの影響を受ける温度に多少の違いがみられる。またこのようなとき温度や湿度の上昇などの環境条件の変化に伴ってからだの体温・体液調節機能が障害されて上記のような熱中症の症状が生じることが知られている。
【0048】
「細胞障害」としては、暑熱ストレスの負荷によって生じる、例えば血管内皮細胞、脳神経細胞、筋肉細胞などの細胞の細胞障害が挙げられ、特に限定はされないが、細胞障害には、例えば、代謝の低下(例えば、脂質代謝の低下)、発熱性因子の増加、細胞増殖能の低下、細胞死等が挙げられる。
【0049】
「組織や細胞の機能障害に基づく熱中症症状」としては、熱中症において一般的に認められる症状が挙げられ、特に限定はされないが、めまい、失神、顔面蒼白、筋肉痛、手足がつる、筋肉けいれん、大量の発汗、全身倦怠感・虚脱感、頭痛、悪心、嘔吐、集中力・判断力の低下、高体温、意識障害、全身けいれん、手足の運動障害、組織障害等が挙げられる。
【0050】
本発明の組成物の有効成分であるオーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質は、細胞死等を含む上記細胞障害を抑制する。具体的に、後述の実施例に示されるように、これらの成分は、暑熱ストレス負荷による血管内皮細胞等の細胞の脂質代謝を増加もしくは亢進(細胞内の脂肪滴量の減少、PPARα及びPPARγの発現増加)し、発熱誘発炎症性サイトカイン(発熱性因子)の産生を抑制し、血管内皮細胞の細胞死を含む細胞障害を抑制するため、熱中症、又は暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害や暑熱ストレスの負荷による発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)、の予防、軽減及び/又は治療のために有効である。
【0051】
熱中症は、暑熱ストレスが原因のひとつと考えられており、一般に暑熱ストレスの度合いが高まると熱中症の危険性が増す。後述の実施例に示されるように、暑熱ストレスが原因となって血管細胞、特に血管内皮細胞の細胞増殖が抑制され、かつ細胞死などの細胞障害が誘導される。さらに、血管が暑熱ストレス負荷を受けた際、血管と同様に血液細胞も暑熱ストレス負荷を受ける。このとき血液細胞(例えば、リンパ球、等)から炎症性サイトカイン(例えばIL−6、CCL2等)が放出され、血管内皮細胞等の細胞に障害や影響を与える。後述の実施例に示されるように、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質は、暑熱ストレスが負荷された例えば血管細胞(例えば、血管内皮細胞)等の細胞の細胞障害及び血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)を抑制もしくは軽減することから、熱中症の予防、軽減及び/又は治療を可能にする。
【0052】
このように本発明の組成物は、後述の実施例にも記載されるように、暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞の細胞障害を抑制する作用、脂質代謝を増加もしくは亢進させる作用、並びに、暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出を減少させる作用からなる群から選択される少なくとも1つの作用、好ましくはすべての作用を有する。
【0053】
本発明の組成物の投与量又は給与量は、投与又は給与する被験体の年齢、体重、性別、症状等の要因、あるいは投与経路によって変化し、特に限定されるものではないが、例えばヒトを含む被験体の体重1kgあたり、1回あたりの有効成分(オーラプテン、タンゲレチン又は中鎖脂肪酸の用量)換算で、例えば約0.04mg以上、約0.1mg以上、約0.5mg以上、又は約1mg以上である。また、本発明の組成物の投与量又は給与量は、1日あたりの有効成分換算で、例えば約0.05mg〜約5000mg又はそれ以上、約0.1mg〜約1000mg又はそれ以上、あるいは約1mg〜約500mg又はそれ以上としうる。さらにまた、本発明の組成物は、1日に1回又は複数回に分けて投与又は給与することができる。「複数回」とは、2回以上を意味し、特に限定はされないが、例えば、2、3、4、5、6回、又はそれ以上を意味する。
【0054】
本発明により、被験体に上記組成物を投与する又は給与することを含む、被験体において熱中症、或いは暑熱ストレスの負荷による例えば血管内皮細胞、脳神経細胞、筋肉細胞などの細胞の細胞障害及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)、を予防、軽減及び/又は治療するための方法が提供される。例えば暑熱ストレスを受けやすい、又は該ストレスを受ける可能性のある被験体に、該組成物を上記の用量で投与又は給与することによって、熱中症を予防することが可能である。あるいは、暑熱ストレスを受けた又は熱中症の症状がみられる被験体に、該組成物を上記の用量で投与又は給与することによって、熱中症の症状を軽減もしくは改善することが可能である。このとき、さらに水分や電解質を補給すると上記の予防もしくは改善の効果が得られるだろう。
【0055】
本発明はさらに、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質の、被験体において熱中症を予防、軽減及び/又は治療するための組成物の製造における使用、ならびに、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質の、被験体において暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞、脳神経細胞、筋肉細胞などの細胞の細胞障害、及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常(例えば、発熱、高体温、等)、を予防、軽減及び/又は治療するための上記組成物の使用、あるいは上記組成物の製造における使用、を提供する。
【0056】
該組成物では、用途に応じて上記の種々の形態及び有効成分量とすることができる。組成物の製造では、有効成分であるオーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質の所定量を賦形剤や飲食品もしくは飼料、必要であれば添加剤、と配合し、目的用途の形状もしくは形態に処方もしくは加工することができる。
【0057】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
<オーラプテン及びタンゲレチンによる暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の細胞障害抑制>
1.材料
(1)ヒト正常細胞株
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC:クラボウ(日本)より購入)を本実施例に用いた。
【0059】
(2)細胞培養培地
HuMedia−EB2(クラボウ)500mLに、ウシ胎児血清(FBS)10mLを添加し、培養キットに付属の補助因子、hEGF、ハイドロコーチゾン、抗菌剤、hFGF−B、ヘパリンを各500μL添加したものをHUVECの培養培地(Medium)として使用した。
【0060】
RPMI−1640(SIGMA)に、FBS50mL添加し、GltaMAX(Gbico)、Na−Pyruvate(Gbico)、Pen−Strep(Gbico)を各5mL添加したものをリンパ球の培養培地(Medium)として使用した。
【0061】
(3)ELISAキット
リンパ球上清中の炎症性サイトカイン濃度を測定するために、Human IL−6(BioLegend)、Human MCP1/CCL2(BioLegend)を用いた。
【0062】
(4)使用抗体
血管内皮細胞の暑熱ストレス耐性及び脂質代謝に関わるタンパク質の発現変化を確認するために、抗PPARα抗体(Cell Signaling)、抗PPARγ抗体(Cell Signaling)、抗CPT−II抗体(ATLAS ANTIBODIES)、抗ABCD3抗体(ATLAS ANTIBODIES)、BODIPY(Thermo Fisher Scientific)及びMitoSpy−Green(BioLegend社)を用いた。蛍光抗体には、Dylight649標識抗Mouse IgG抗体(ROCKLAND)、Dylight649標識抗Rabbit IgG抗体(ROCKLAND)を二次抗体として用いた。
【0063】
(5)使用蛍光色素
細胞死を計測する蛍光色素としてDiOC(Invitrogen)、PI(SIGMA)を用いた。
【0064】
(6)ファイトケミカル
薬理・生理作用研究用試薬Ergothioneine(Wako(日本))、Nobiletin(Wako)、成分Auraptene(Wako)、Tangeretin(Wako)を本実験の暑熱ストレス耐性成分をして用いた。Ergothioneineは、1×PBSで溶解し、濃度を5mg/mLに調整した。Nobiletin、Auraptene、Tangeretinは、DIMETHYL SULPHOXIDE(DMSO;SIGMA)で溶解し、濃度を1mMに調整した。溶液は−20℃で保存した。
【0065】
2.実験及び結果
(1)暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の形態変化
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10細胞/mLに調整した。その後、6ウエルプレートを用いて、HUVEC濃度調整溶液を4mL/ディッシュで各プレートの5ウエルに播種し、1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後に40℃にて3日間5%COでインキュベートした。
【0066】
6ウエルプレートで培養したHUVECの上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュに添加し、細胞固定のために室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、Crystal Violet(CV;キシダ化学(日本))を1mL/ウエル添加し、37℃で一晩静置した。溶液除去後、1×PBSを添加し、位相差顕微鏡にて写真撮影を行った。
【0067】
位相差顕微鏡観察の結果、40℃での暑熱ストレス負荷培養時におけるヒト血管内皮細胞(HUVEC)は、通常培養時に比べ、形状変化が見られ、細胞の立体的構造が弱まっており、暑熱ストレス負荷による細胞増殖障害を確認した。また、細胞が縮むことで細胞間の隙間が空き、細胞密度も減少し、細胞減少が観察された(図1)。
【0068】
(2)暑熱ストレス負荷血管内皮細胞のATP産生量の変化
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃で培養することによって細胞数が減少したことをCV染色で定性的に確認したため、ATP量の測定を行い定量的に評価した。
【0069】
上記(1)と同様に、血管内皮細胞(HUVEC)を37℃と40℃の環境下で培養し、3日後の細胞に対して、ATP産生量を測定した。細胞内ATPの測定は、細胞のATP測定試薬(東洋ビーネット(日本))を使用した。方法は手順書に従い実施し、ATP量を、ルシフェラーゼアッセイによる発光量としてマイクロプレートリーダーを用いて測定した。
その結果、ATPの産生量が70%以上減少することを確認した(図2)。
【0070】
(3)暑熱ストレス負荷された血管内皮細胞のCPT−IIの局在解析
10cmディッシュで培養したヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度を5×10細胞/mLに調整した。その後、35mmディッシュを用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後に37℃又は40℃でインキュベーター内で培養した。
【0071】
培養3日後に上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、0.5%Triton−X100(Wako)−PBSを2mL/ディッシュ添加し、室温で5分静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて500倍希釈した抗CPT−II抗体(Rabbit)を1mL/ディッシュ添加し、2時間室温で静置して反応させた。
【0072】
溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて500倍希釈したDylight649標識抗Rabbit IgG抗体を1mL/ディッシュ添加し、1時間、室温で遮光し、静置して反応させた。溶液除去後、リンスを2回行い、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0073】
暑熱ストレス負荷時のヒト血管内皮細胞(HUVEC)におけるCPT−IIの発現量の変化を蛍光抗体反応法と共焦点レーザー顕微鏡にて解析した結果、CPT−IIは熱不安定酵素であるために、暑熱ストレス負荷培養時(40℃)においてCPT−IIの発現量が、通常の培養条件(37℃)の細胞と比較して減少していることを確認した(図3)。
【0074】
(4)暑熱ストレス負荷された血管内皮細胞のミトコンドリアの局在解析
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)を細胞濃度5×10細胞/mLに調整した。その後、35mmディッシュを用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後に37℃又は40℃でインキュベーター内で培養した。
【0075】
3日後に培養血管内皮細胞に対してMitoSpy−Green溶液(250nM)を添加し、さらに1時間培養した。その後培養上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、0.5%Triton−X100(Wako)−PBSを2mL/ディッシュ添加し、室温で5分静置した後に、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0076】
暑熱ストレス負荷のかかったヒト血管内皮細胞(HUVEC)のミトコンドリア量の変化をMitoSpy−Green染色にて解析した結果、37℃培養のHUVECは細胞質内に多くのミトコンドリアが分散して存在していることが観察された。それに対して40℃培養のHUVECでは、ミトコンドリアは細胞質には分散せずに、核付近に集合しており、またミトコンドリアの量も減少していた(図4)。このことは、上記(2)におけるATP量の産生減少と一致していた。
【0077】
(5)ファイトケミカル添加暑熱ストレス負荷血管内皮細胞における細胞障害抑制
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10細胞/mLに調整した。その後、6ウエルプレート2枚を用いて、HUVEC濃度調整液を4mL/ウエルで各プレートに3ウエル播種し、そのうち各ファイトケミカル成分を1ウエルずつに最終濃度10μMになるように4μL添加した。また、残りのウエルにはファイトケミカルの溶解液であるDMSOを4μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後、各1枚ずつを2日間37℃及び40℃に分けて5%COでインキュベートした。
【0078】
2日後、各ウエルの培養液をアスピレーターで除去し、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に37℃の培養培地を5mL加えて撹拌した。撹拌後、DiOCを最終濃度80nMになるように各15mLチューブに添加し、培養時同様の温度で30分間反応させた。
【0079】
反応後、遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を1mL加えてPI(SIGMA)を各2μL添加した。添加後、FACSチューブに移し換え、フローサイトメーター(BD)で測定した。
【0080】
位相差顕微鏡観察の結果、暑熱ストレス負荷によるヒト血管内皮細胞(HUVEC)の細胞障害を抑制できる成分として、オーラプテン及びタンゲレチンを見出し、これらの各成分を添加して培養されたHUVECが明らかな生存増加を示した(図5図7)。このとき陰性対照を物質(有効成分)無添加とした。また図には示されていないが、PPARアゴニストであるベザフィブレートをはじめとしてエルゴチオネイン、ノビレチン、オスソール、レスベラトロール、スルフォラファンの添加では暑熱ストレスによる細胞障害を抑制することはできなかった。とりわけノビレチンは、タンゲレチンと構造的に極めて類似したポリメトキシフラボノイド(タンゲレチンよりメトキシ基が1個多い。)であるが、上記の抑制効果は認められなかった。
【0081】
さらにオーラプテン及びタンゲレチンの細胞障害抑制効果を確認するために、40℃で培養した細胞をクリスタルバイオレット染色にて観察した結果、溶媒のDMSO添加では著しい細胞障害が認められたのに対して、オーラプテン及びタンゲレチン添加では明らかな細胞生存の増加が認められた(図8)。
【0082】
またその効果を定量化するために、暑熱ストレスの負荷による細胞死を阻害するオーラプテン(成分A)及びタンゲレチン(成分T)の細胞障害抑制効果を、上記のとおりDiOC6染色を行いフローサイトメトリーを用いて定量化した。DiOC6色素は、ミトコンドリアの活性を測定するための試薬であり、細胞障害(細胞死、等)になると蛍光量が減弱することで測定できる試薬である。通常培養時でのコントロールであるDMSO添加HUVECに比べ、暑熱ストレス負荷培養時でのDMSO添加HUVECでは細胞障害(細胞死、等)が確認されたが、暑熱ストレス負荷培養時のオーラプテン(成分A)及びタンゲレチン(成分T)添加においては、DiOC6染色陽性細胞が増加し、細胞障害(例えば、細胞死、等)の抑制が確認された(図9)。
【0083】
さらに、オーラプテンの細胞死抑制効果を通常5〜10μMの濃度で検討していたが、効果を発揮する濃度検討を行った。段階的希釈列でオーラプテンを添加し、暑熱ストレスによるHUVECの細胞死をクリスタルバイオレット染色で観察した結果、0.6μM(600mM)の濃度まで、抑制効果が確認できた(図10)。
【0084】
それに対して脂肪酸代謝に有効とされているLカルニチンを添加した場合は、2.5mg/ml(15mM)で抑制効果が認められた(図11)。つまりLカルニチンは、オーラプテンの約2万5千倍の濃度を必要としていることから、オーラプテンの効果が著しく強いことが明らかとなった。
【0085】
(6)細胞内脂肪滴の局在解析
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/dish添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10細胞/mLに調整した。その後、35mディッシュを9枚用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、そのうち各3枚ずつにオーラプテン(10mM)及びタンゲレチン(10mM)を最終濃度10μMになるように2μL添加した。また、他の3枚にはDMSOを2μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後、各2枚ずつを2〜3日間40℃、5%COでインキュベートし、他のディッシュは3日間37℃、5%COでインキュベートした。
【0086】
35mmディッシュで培養していたHUVECの上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、細胞固定のために室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて2000倍希釈したBODIPYを1mL/ディッシュ添加し、30分室温で遮光し、静置し反応させた。
【0087】
溶液除去後、リンスを2回行い、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0088】
その結果、通常培養時では、コントロールであるDMSO添加HUVECと同様にオーラプテン(AUR)及びタンゲレチン(TAN)添加HUVECでの脂肪滴量に変化は確認されなかったが、2日間の暑熱ストレス負荷培養時にはオーラプテン及びタンゲレチン添加HUVECの脂肪滴量が減少したことを確認した(図12)。これらの成分が、細胞内の脂肪酸代謝を亢進したと考えられた。
【0089】
(7)ABCD3、PPARα及びPPARγの局在解析
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10細胞/mLに調整した。その後、35mmディッシュを6枚用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、そのうち各2枚ずつにオーラプテン(10mM)及びタンゲレチン(10mM)を最終濃度10μMになるように2μL添加した。また、他の2枚にDMSOを2μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後、各1枚ずつを2日間37℃及び40℃に分けて5%COでインキュベートした。
【0090】
35mmディッシュで培養していたHUVECの上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、室温で1時間静置した。
【0091】
溶液除去後にリンスを2回行い、0.5%Triton−X100(Wako)−PBSを2mL/ディッシュ添加し、室温で5分静置する。溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて150倍希釈した抗ABCD3抗体、抗PPARα抗体又は抗PPARγ抗体を1mL/ディッシュ添加し、2時間、室温で静置して反応させた。
【0092】
溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて500倍希釈したDylight 649標識抗Rabbit IgG抗体を1mL/ディッシュ添加し、1時間、室温で遮光し、静置で反応させた。溶液除去後、リンスを2回行い、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0093】
その結果、PPARαの発現変化について、暑熱ストレス負荷のヒト血管内皮細胞(HUVEC)では、通常培養時と暑熱ストレス負荷培養時ともにコントロールであるDMSO(ジメチルスルホキシド)添加HUVECと同様にPPARαの発現量に変化は見られなかったが、オーラプテン(AUR)及びタンゲレチン(TAN)を添加培養したHUVECでは、40℃、1日間の培養条件下でPPARαの発現増加が観察された(図13)。この結果は、リアルタイムPCR及びウェスタンブロッティング法でも明らかに発現増加したことと一致した。
【0094】
PPARγの発現変化について、暑熱ストレス負荷のヒト血管内皮細胞(HUVEC)では、通常培養時と暑熱ストレス負荷培養時ともにコントロールであるDMSO添加HUVECと同様にPPARγの発現量に変化は見られなかったが、オーラプテン(AUR)を添加培養した血管内皮細胞では、40℃、1日間培養条件下でPPARγの発現増加が観察された(図14)。タンゲレチン(TAN)添加ではその増加効果は観察されず、変化は見られなかった。またこれらの効果は、リアルタイムPCRでも確認された。
【0095】
ABCD3の発現変化について、暑熱ストレス負荷のヒト血管内皮細胞(HUVEC)では、通常培養時と暑熱ストレス負荷培養時ともにコントロールであるDMSO添加HUVEC及びオーラプテン(AUR)又はタンゲレチン(データ示さず)添加でもABCD3の発現に変化は認められなかった(図15)。
【0096】
(8)暑熱ストレス負荷時オーラプテン添加リンパ球における炎症性サイトカインの抑制効果
<IL−6濃度測定>
ヒト末梢血をヘパリン採血により10mL採血し、PBS(−)を10mL加え撹拌した。Lymphocyte Separation Medium 1077(PromoCell)15mLを血液が混和しないように重層し、遠心分離器にて1600rpm、30分間血液分離を行った。分離後、単核球層をスポイトで採取し、20mLの培養培地に添加し、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に20mLの培養培地を添加し、撹拌した。再度、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に10mLの培養培地を添加し、撹拌し、10cmディッシュに全量を添加し、37℃、5%CO環境下で1時間インキュベートした。その後、上清(リンパ球)を15mLチューブに回収し、細胞数を、セルカウントキットを用いて細胞濃度1×10細胞/mLに調整した。6ウエルプレートを用いて、リンパ球濃度調整液を4mL/ウエルで各2ウエルに播種し、そのうちオーラプテン(10mM)を1ウエルずつに最終濃度10μMになるように4μL添加した。また、残りのウエルにはファイトケミカルの溶解液であるDMSOを4μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後に、3日間40℃で5%COでインキュベートした。その後、上清を1.5mLエッペンチューブに回収し、遠心分離器にて8000rpm、5分間遠心分離を行い、上清を新しい1.5mLエッペンチューブに回収し、−20℃で保存した。
【0097】
IL−6の測定には、ELISAキットのHuman IL−6を用いた。測定キットに同包されている5×Coating Buffer Aを蒸留水にて5倍希釈し、Coating Bufferにて200倍希釈したCapture Antibodyを96ウエルプレートに100μL/ウエル添加し、4℃で一晩静置した。
【0098】
抗体溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に液を取り除いた。その後、蒸留水で5倍希釈したELISA Assay Diluent(BioLegend)を200μL/ウエル添加し、4℃で一晩静置した。
【0099】
溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay DiluentでIL−6標準タンパク質を希釈し、IL−6標準タンパク質希釈列を作成した。IL−6標準タンパク質希釈列ならびにリンパ球の40℃培養上清を100μL/ウエル添加し、室温で2時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay Diluentにて200倍希釈したDetection Antibodyを100μL/ウエル添加し、室温で1時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、Assay Diluentにて1000倍希釈したAvidin−HRPを100μL/ウエル添加し、室温で30分静置した。溶液を除去し、洗浄を5回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。TMB Microwell Peroxidase Substrateを100μL/ウエル添加し、遮光して約30分反応させた。反応を止めるために2N HSOを100μL/ウエル添加し、反応溶液における吸光度を450nmのプレートリーダーで測定した。
【0100】
<CCL−2濃度測定>
ヒト末梢血をヘパリン採血により10mL採血し、PBS(−)を10mL加え撹拌した。Lymphocyte Separation Medium 1077(PromoCell)15mLを血液が混和しないように重層し、遠心分離器にて1600rpm、30分間血液分離を行った。分離後、単核球層をスポイトで採取し、20mLの培養培地に添加し、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に20mLの培養液を添加し、撹拌した。再度、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に10mLの培養培地を添加し、撹拌し、10cmディッシュに全量添加し、37℃、5%CO環境下で1時間インキュベートした。その後、上清(リンパ球)を15mLチューブに回収し、細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度1×10細胞/mLに調整した。6ウエルプレートを用いて、リンパ球濃度調整液を4mL/ウエルで各2ウエルに播種し、そのうちオーラプテン(10mM)を1ウエルずつに最終濃度10μMになるように4μL添加した。また、残りのウエルにはファイトケミカルの溶解液であるDMSOを4μL添加し、コントロールとした。1日間37℃、5%COでインキュベートし、1日後に、3日間40℃で5%COでインキュベートした。その後、上清を1.5mLエッペンチューブに回収し、遠心分離器にて8000rpm、5分間遠心分離を行い、上清を新しい1.5mLエッペンチューブに回収し、−20℃で保存した。
【0101】
CCL−2の測定には、ELISAキットのHuman MCP1/CCL2を用いた。
【0102】
測定キットに含まれている5×Coating Bufferを蒸留水にて5倍希釈し、Coating Buffer Aにて200倍希釈したCapture Antibodyを96ウエルプレートに100μL/ウエルで添加し、4℃で一晩静置した。
【0103】
抗体溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。その後、蒸留水で5倍希釈したELISA Assay Diluent(BioLegend)を200μL/ウエル添加し、4℃で一晩静置した。
【0104】
溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay DiluentでMCP1/CCL2標準タンパクを希釈し、MCP1/CCL2標準タンパク質希釈列を作成した。MCP1/CCL2標準タンパク質希釈列ならびにリンパ球40℃培養上清を100μL/ウエル添加し、室温で2時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay Diluentにて200倍希釈したDetection Antibodyを100μL/ウエル添加し、室温で1時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、Assay Diluentにて1000倍希釈したAvidin−HRPを100μL/ウエル添加し、室温で30分静置した。溶液を除去し、洗浄を5回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。TMB Microwell Peroxidase Substrateを100μL/ウエル添加し、反応溶液における吸光度を450nmのプレートリーダーで測定した。
【0105】
<結果>
暑熱ストレス負荷の際に、血管のみならず血管と同様に血液も暑熱ストレス負荷を受けることから生体防御を担うリンパ球に着目した。オーラプテン添加暑熱ストレス負荷時(40℃、2日間培養)の末梢血リンパ球(検体A及び検体B)においては、溶媒であるDMSO添加暑熱ストレス負荷時リンパ球に比べ、炎症性サイトカイン(発熱促進因子)であるIL−6及びCCL−2の産生を有意に抑制したことを確認した(表1、p<0.05)。対照は、オーラプテンを添加しないときの測定値である。
【0106】
【表1】
【0107】
上記(1)〜(8)の試験結果を以下にまとめて示す。
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を培地のみ、タンゲレチン含有培地、オーラプテン含有培地中40℃で培養したときの、細胞障害(細胞死)、蓄積脂肪滴量、PPARγ、PPARα、発熱性因子(炎症性サイトカイン;例えばIL−6、CCL−2等)の変化(増減)を測定した結果をそれぞれ表2にまとめて示した。ここで、37℃で培養されたヒト血管内皮細胞(HUVEC)での測定結果を比較対照とした。
【0108】
【表2】
【0109】
表2から分かるように、オーラプテン(Auraptene)及びタンゲレチン(Tangeretin)は、暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の細胞障害(細胞死、等)を抑制し、脂質代謝を増加し、さらに血液細胞であるリンパ球における発熱性因子の産生・放出を減少させることから、暑熱ストレスによる血管内皮細胞の細胞障害を抑制又は軽減し、従って熱中症に対する予防、軽減又は治療のために有効であることが実証された。
【0110】
[実施例2]
<中鎖脂肪酸による暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の細胞死抑制>
1.材料
(1)ヒト正常細胞株
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC:クラボウ(日本)より購入)を本実施例に用いた。
【0111】
(2)細胞培養培地
HuMedia−EB2(クラボウ)に、2%ウシ胎児血清(FBS)、hEGF、ハイドロコーチゾン、抗菌剤、hFGF−B、ヘパリンを添加したものをHUVECの培養培地として使用した。
【0112】
2.実験
(1)中鎖脂肪酸添加による細胞死抑制実験
HUVECを細胞濃度5×10細胞/ウエルで6ウエルプレートに撒いた。濃度別に中鎖脂肪酸を添加し、37℃で1日間培養した。中鎖脂肪酸であるMCTオイル(日清オイリオ社(日本))を脱脂牛血清アルブミン(BSA)に結合させて濃度調節して培養液に添加した(8μl/ml、64μl/ml)。中鎖脂肪酸の濃度は最高濃度として64μL/ml、そこから濃度を半減させていき、32μL、16μL、8μL、最低濃度として4μLとした。またコントロールとして中鎖脂肪酸を添加しない細胞も準備した。中鎖脂肪酸を添加してから1日培養してから、40℃の暑熱ストレスに約3日間かけ、計測に使用した。
(2)細胞固定と染色
血管内皮細胞培養後に培養液を取り除き、4%パラホルムアルデヒド溶液を1mL/ウエルで添加し、室温で30分静置し、細胞を固定した。4%パラホルムアルデヒド溶液を取り除き、1×PBSにてウエルを2回洗浄し、Cristal Violet染色液を1mL/ウエルで添加し、一晩放置した。染色液を取り除き、1×PBSを1mL/ウエルで添加し、位相差顕微鏡で細胞を観察及び撮影した。
(3)アポトーシス(細胞死)の検出
死細胞率を定量化するためにApoScreen Annexin V(コスモ・バイオ)を使用した。6ウエルプレート内の培養液を15mLチューブに回収する。プレートに1×PBSを1mL/ウエル添加し、2分間置き、1×PBSを15mLチューブに回収した。トリプシンを1mL/ウエル添加し、細胞剥離した。RPMIメディウムを2mL/ウエルで添加し、15mLチューブに回収し、1200rpmで5分間遠心分離機にかけ、上清を取り除き、2回洗浄した後、ペレットにした。Annexin Binding Bufferを15mlチューブに100μL入れ、ペレットを回収し、Facsチューブに移した。Annexin Vを10μL添加し、4℃で15分間静置した。Annexin Binding Buffeを380μL添加し、7−AADを10μL添加し、フローサイトメトリー法で測定した。
(4)ELISAキット
暑熱ストレスを負荷された血管内皮細胞から産生されるHSP70の濃度は、Human HSP70/HSP1A(R&D)を用いて測定した。測定方法は、メーカーのプロトコールに従い行った。
【0113】
3.結果
血管内皮細胞に中鎖脂肪酸を添加培養し、翌日に40℃の暑熱ストレス下で培養した結果、細胞死の抑制、すなわち生存細胞の増加が認められた(図16)。また、アネキシン染色により、死細胞比率を定量した結果、中鎖脂肪酸を添加しなかった培養条件では40%の死細胞が認められたのに対して、中鎖脂肪酸添加では4〜64μl/mlの各濃度において、細胞死の抑制効果(約50%)が認められた(図17)。
中鎖脂肪酸の添加によって、細胞からのHSP70の産生量の低下が濃度依存的に認められた(図18)。
オーラプテンの添加によって、37℃での全体的な細胞数の増加が認められ(図19左)、そして、さらに中鎖脂肪酸を添加すると、その生存細胞数が増加した(図19、中及び右)。これは、オーラプテンによる暑熱ストレス抑制効果を、中鎖脂肪酸が更に高めることができることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、血管内皮細胞等の細胞が暑熱ストレスにより細胞障害を起こすことを利用することによって、ファイトケミカルの中からオーラプテン(クマリン類の一種)、タンゲレチン(ポリメトキシフラボノイドの一種)及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質が暑熱ストレスから血管内皮細胞等の細胞を保護し熱中症を予防、軽減及び/又は治療するために有効であることが判明したことから、産業上有用である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【要約】
この出願は、オーラプテン、タンゲレチン及び中鎖脂肪酸からなる群から選択される少なくとも1つの物質を有効成分として含む、被験体において熱中症、或いは暑熱ストレスの負荷による血管内皮細胞等の細胞の細胞障害、及び/又は暑熱ストレスの負荷による血液細胞からの発熱誘発炎症性サイトカインの産生及び放出に伴う異常、を予防、軽減及び/又は治療するための組成物を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19