【実施例】
【0058】
[実施例1]
<オーラプテン及びタンゲレチンによる暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の細胞障害抑制>
1.材料
(1)ヒト正常細胞株
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC:クラボウ(日本)より購入)を本実施例に用いた。
【0059】
(2)細胞培養培地
HuMedia−EB2(クラボウ)500mLに、ウシ胎児血清(FBS)10mLを添加し、培養キットに付属の補助因子、hEGF、ハイドロコーチゾン、抗菌剤、hFGF−B、ヘパリンを各500μL添加したものをHUVECの培養培地(Medium)として使用した。
【0060】
RPMI−1640(SIGMA)に、FBS50mL添加し、GltaMAX(Gbico)、Na−Pyruvate(Gbico)、Pen−Strep(Gbico)を各5mL添加したものをリンパ球の培養培地(Medium)として使用した。
【0061】
(3)ELISAキット
リンパ球上清中の炎症性サイトカイン濃度を測定するために、Human IL−6(BioLegend)、Human MCP1/CCL2(BioLegend)を用いた。
【0062】
(4)使用抗体
血管内皮細胞の暑熱ストレス耐性及び脂質代謝に関わるタンパク質の発現変化を確認するために、抗PPARα抗体(Cell Signaling)、抗PPARγ抗体(Cell Signaling)、抗CPT−II抗体(ATLAS ANTIBODIES)、抗ABCD3抗体(ATLAS ANTIBODIES)、BODIPY(Thermo Fisher Scientific)及びMitoSpy−Green(BioLegend社)を用いた。蛍光抗体には、Dylight649標識抗Mouse IgG抗体(ROCKLAND)、Dylight649標識抗Rabbit IgG抗体(ROCKLAND)を二次抗体として用いた。
【0063】
(5)使用蛍光色素
細胞死を計測する蛍光色素としてDiOC
6(Invitrogen)、PI(SIGMA)を用いた。
【0064】
(6)ファイトケミカル
薬理・生理作用研究用試薬Ergothioneine(Wako(日本))、Nobiletin(Wako)、成分Auraptene(Wako)、Tangeretin(Wako)を本実験の暑熱ストレス耐性成分をして用いた。Ergothioneineは、1×PBSで溶解し、濃度を5mg/mLに調整した。Nobiletin、Auraptene、Tangeretinは、DIMETHYL SULPHOXIDE(DMSO;SIGMA)で溶解し、濃度を1mMに調整した。溶液は−20℃で保存した。
【0065】
2.実験及び結果
(1)暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の形態変化
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO
2環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10
4細胞/mLに調整した。その後、6ウエルプレートを用いて、HUVEC濃度調整溶液を4mL/ディッシュで各プレートの5ウエルに播種し、1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後に40℃にて3日間5%CO
2でインキュベートした。
【0066】
6ウエルプレートで培養したHUVECの上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュに添加し、細胞固定のために室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、Crystal Violet(CV;キシダ化学(日本))を1mL/ウエル添加し、37℃で一晩静置した。溶液除去後、1×PBSを添加し、位相差顕微鏡にて写真撮影を行った。
【0067】
位相差顕微鏡観察の結果、40℃での暑熱ストレス負荷培養時におけるヒト血管内皮細胞(HUVEC)は、通常培養時に比べ、形状変化が見られ、細胞の立体的構造が弱まっており、暑熱ストレス負荷による細胞増殖障害を確認した。また、細胞が縮むことで細胞間の隙間が空き、細胞密度も減少し、細胞減少が観察された(
図1)。
【0068】
(2)暑熱ストレス負荷血管内皮細胞のATP産生量の変化
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を40℃で培養することによって細胞数が減少したことをCV染色で定性的に確認したため、ATP量の測定を行い定量的に評価した。
【0069】
上記(1)と同様に、血管内皮細胞(HUVEC)を37℃と40℃の環境下で培養し、3日後の細胞に対して、ATP産生量を測定した。細胞内ATPの測定は、細胞のATP測定試薬(東洋ビーネット(日本))を使用した。方法は手順書に従い実施し、ATP量を、ルシフェラーゼアッセイによる発光量としてマイクロプレートリーダーを用いて測定した。
その結果、ATPの産生量が70%以上減少することを確認した(
図2)。
【0070】
(3)暑熱ストレス負荷された血管内皮細胞のCPT−IIの局在解析
10cmディッシュで培養したヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO
2環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度を5×10
4細胞/mLに調整した。その後、35mmディッシュを用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後に37℃又は40℃でインキュベーター内で培養した。
【0071】
培養3日後に上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、0.5%Triton−X100(Wako)−PBSを2mL/ディッシュ添加し、室温で5分静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて500倍希釈した抗CPT−II抗体(Rabbit)を1mL/ディッシュ添加し、2時間室温で静置して反応させた。
【0072】
溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて500倍希釈したDylight649標識抗Rabbit IgG抗体を1mL/ディッシュ添加し、1時間、室温で遮光し、静置して反応させた。溶液除去後、リンスを2回行い、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0073】
暑熱ストレス負荷時のヒト血管内皮細胞(HUVEC)におけるCPT−IIの発現量の変化を蛍光抗体反応法と共焦点レーザー顕微鏡にて解析した結果、CPT−IIは熱不安定酵素であるために、暑熱ストレス負荷培養時(40℃)においてCPT−IIの発現量が、通常の培養条件(37℃)の細胞と比較して減少していることを確認した(
図3)。
【0074】
(4)暑熱ストレス負荷された血管内皮細胞のミトコンドリアの局在解析
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)を細胞濃度5×10
4細胞/mLに調整した。その後、35mmディッシュを用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後に37℃又は40℃でインキュベーター内で培養した。
【0075】
3日後に培養血管内皮細胞に対してMitoSpy−Green溶液(250nM)を添加し、さらに1時間培養した。その後培養上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、0.5%Triton−X100(Wako)−PBSを2mL/ディッシュ添加し、室温で5分静置した後に、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0076】
暑熱ストレス負荷のかかったヒト血管内皮細胞(HUVEC)のミトコンドリア量の変化をMitoSpy−Green染色にて解析した結果、37℃培養のHUVECは細胞質内に多くのミトコンドリアが分散して存在していることが観察された。それに対して40℃培養のHUVECでは、ミトコンドリアは細胞質には分散せずに、核付近に集合しており、またミトコンドリアの量も減少していた(
図4)。このことは、上記(2)におけるATP量の産生減少と一致していた。
【0077】
(5)ファイトケミカル添加暑熱ストレス負荷血管内皮細胞における細胞障害抑制
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO
2環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10
4細胞/mLに調整した。その後、6ウエルプレート2枚を用いて、HUVEC濃度調整液を4mL/ウエルで各プレートに3ウエル播種し、そのうち各ファイトケミカル成分を1ウエルずつに最終濃度10μMになるように4μL添加した。また、残りのウエルにはファイトケミカルの溶解液であるDMSOを4μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後、各1枚ずつを2日間37℃及び40℃に分けて5%CO
2でインキュベートした。
【0078】
2日後、各ウエルの培養液をアスピレーターで除去し、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO
2環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に37℃の培養培地を5mL加えて撹拌した。撹拌後、DiOC
6を最終濃度80nMになるように各15mLチューブに添加し、培養時同様の温度で30分間反応させた。
【0079】
反応後、遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を1mL加えてPI(SIGMA)を各2μL添加した。添加後、FACSチューブに移し換え、フローサイトメーター(BD)で測定した。
【0080】
位相差顕微鏡観察の結果、暑熱ストレス負荷によるヒト血管内皮細胞(HUVEC)の細胞障害を抑制できる成分として、オーラプテン及びタンゲレチンを見出し、これらの各成分を添加して培養されたHUVECが明らかな生存増加を示した(
図5〜
図7)。このとき陰性対照を物質(有効成分)無添加とした。また図には示されていないが、PPARアゴニストであるベザフィブレートをはじめとしてエルゴチオネイン、ノビレチン、オスソール、レスベラトロール、スルフォラファンの添加では暑熱ストレスによる細胞障害を抑制することはできなかった。とりわけノビレチンは、タンゲレチンと構造的に極めて類似したポリメトキシフラボノイド(タンゲレチンよりメトキシ基が1個多い。)であるが、上記の抑制効果は認められなかった。
【0081】
さらにオーラプテン及びタンゲレチンの細胞障害抑制効果を確認するために、40℃で培養した細胞をクリスタルバイオレット染色にて観察した結果、溶媒のDMSO添加では著しい細胞障害が認められたのに対して、オーラプテン及びタンゲレチン添加では明らかな細胞生存の増加が認められた(
図8)。
【0082】
またその効果を定量化するために、暑熱ストレスの負荷による細胞死を阻害するオーラプテン(成分A)及びタンゲレチン(成分T)の細胞障害抑制効果を、上記のとおりDiOC6染色を行いフローサイトメトリーを用いて定量化した。DiOC6色素は、ミトコンドリアの活性を測定するための試薬であり、細胞障害(細胞死、等)になると蛍光量が減弱することで測定できる試薬である。通常培養時でのコントロールであるDMSO添加HUVECに比べ、暑熱ストレス負荷培養時でのDMSO添加HUVECでは細胞障害(細胞死、等)が確認されたが、暑熱ストレス負荷培養時のオーラプテン(成分A)及びタンゲレチン(成分T)添加においては、DiOC6染色陽性細胞が増加し、細胞障害(例えば、細胞死、等)の抑制が確認された(
図9)。
【0083】
さらに、オーラプテンの細胞死抑制効果を通常5〜10μMの濃度で検討していたが、効果を発揮する濃度検討を行った。段階的希釈列でオーラプテンを添加し、暑熱ストレスによるHUVECの細胞死をクリスタルバイオレット染色で観察した結果、0.6μM(600mM)の濃度まで、抑制効果が確認できた(
図10)。
【0084】
それに対して脂肪酸代謝に有効とされているLカルニチンを添加した場合は、2.5mg/ml(15mM)で抑制効果が認められた(
図11)。つまりLカルニチンは、オーラプテンの約2万5千倍の濃度を必要としていることから、オーラプテンの効果が著しく強いことが明らかとなった。
【0085】
(6)細胞内脂肪滴の局在解析
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO
2環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/dish添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10
4細胞/mLに調整した。その後、35mディッシュを9枚用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、そのうち各3枚ずつにオーラプテン(10mM)及びタンゲレチン(10mM)を最終濃度10μMになるように2μL添加した。また、他の3枚にはDMSOを2μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後、各2枚ずつを2〜3日間40℃、5%CO
2でインキュベートし、他のディッシュは3日間37℃、5%CO
2でインキュベートした。
【0086】
35mmディッシュで培養していたHUVECの上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、細胞固定のために室温で1時間静置した。溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて2000倍希釈したBODIPYを1mL/ディッシュ添加し、30分室温で遮光し、静置し反応させた。
【0087】
溶液除去後、リンスを2回行い、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0088】
その結果、通常培養時では、コントロールであるDMSO添加HUVECと同様にオーラプテン(AUR)及びタンゲレチン(TAN)添加HUVECでの脂肪滴量に変化は確認されなかったが、2日間の暑熱ストレス負荷培養時にはオーラプテン及びタンゲレチン添加HUVECの脂肪滴量が減少したことを確認した(
図12)。これらの成分が、細胞内の脂肪酸代謝を亢進したと考えられた。
【0089】
(7)ABCD3、PPARα及びPPARγの局在解析
10cmディッシュで培養を行ったヒト血管内皮細胞(HUVEC)の上清をアスピレーターで除去後、Trypsin/EDTAを2mL添加して37℃、5%CO
2環境下でインキュベートし、細胞剥離を行った。細胞剥離後に、培養培地を5mL/ディッシュ添加し、15mLチューブに移し換えて遠心分離器にて1200rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に培養培地を5mL加えて細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度5×10
4細胞/mLに調整した。その後、35mmディッシュを6枚用意し、HUVEC濃度調整液を2mL/ディッシュ播種し、そのうち各2枚ずつにオーラプテン(10mM)及びタンゲレチン(10mM)を最終濃度10μMになるように2μL添加した。また、他の2枚にDMSOを2μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後、各1枚ずつを2日間37℃及び40℃に分けて5%CO
2でインキュベートした。
【0090】
35mmディッシュで培養していたHUVECの上清を除去し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を2mL/ディッシュ添加し、室温で1時間静置した。
【0091】
溶液除去後にリンスを2回行い、0.5%Triton−X100(Wako)−PBSを2mL/ディッシュ添加し、室温で5分静置する。溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて150倍希釈した抗ABCD3抗体、抗PPARα抗体又は抗PPARγ抗体を1mL/ディッシュ添加し、2時間、室温で静置して反応させた。
【0092】
溶液除去後にリンスを2回行い、Facs Bufferにて500倍希釈したDylight 649標識抗Rabbit IgG抗体を1mL/ディッシュ添加し、1時間、室温で遮光し、静置で反応させた。溶液除去後、リンスを2回行い、Diamond Antifade Mountant with DAPIを2滴添加し、丸カバーガラスをかけ、共焦点レーザー顕微鏡にて蛍光写真撮影を行った。
【0093】
その結果、PPARαの発現変化について、暑熱ストレス負荷のヒト血管内皮細胞(HUVEC)では、通常培養時と暑熱ストレス負荷培養時ともにコントロールであるDMSO(ジメチルスルホキシド)添加HUVECと同様にPPARαの発現量に変化は見られなかったが、オーラプテン(AUR)及びタンゲレチン(TAN)を添加培養したHUVECでは、40℃、1日間の培養条件下でPPARαの発現増加が観察された(
図13)。この結果は、リアルタイムPCR及びウェスタンブロッティング法でも明らかに発現増加したことと一致した。
【0094】
PPARγの発現変化について、暑熱ストレス負荷のヒト血管内皮細胞(HUVEC)では、通常培養時と暑熱ストレス負荷培養時ともにコントロールであるDMSO添加HUVECと同様にPPARγの発現量に変化は見られなかったが、オーラプテン(AUR)を添加培養した血管内皮細胞では、40℃、1日間培養条件下でPPARγの発現増加が観察された(
図14)。タンゲレチン(TAN)添加ではその増加効果は観察されず、変化は見られなかった。またこれらの効果は、リアルタイムPCRでも確認された。
【0095】
ABCD3の発現変化について、暑熱ストレス負荷のヒト血管内皮細胞(HUVEC)では、通常培養時と暑熱ストレス負荷培養時ともにコントロールであるDMSO添加HUVEC及びオーラプテン(AUR)又はタンゲレチン(データ示さず)添加でもABCD3の発現に変化は認められなかった(
図15)。
【0096】
(8)暑熱ストレス負荷時オーラプテン添加リンパ球における炎症性サイトカインの抑制効果
<IL−6濃度測定>
ヒト末梢血をヘパリン採血により10mL採血し、PBS(−)を10mL加え撹拌した。Lymphocyte Separation Medium 1077(PromoCell)15mLを血液が混和しないように重層し、遠心分離器にて1600rpm、30分間血液分離を行った。分離後、単核球層をスポイトで採取し、20mLの培養培地に添加し、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に20mLの培養培地を添加し、撹拌した。再度、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に10mLの培養培地を添加し、撹拌し、10cmディッシュに全量を添加し、37℃、5%CO
2環境下で1時間インキュベートした。その後、上清(リンパ球)を15mLチューブに回収し、細胞数を、セルカウントキットを用いて細胞濃度1×10
5細胞/mLに調整した。6ウエルプレートを用いて、リンパ球濃度調整液を4mL/ウエルで各2ウエルに播種し、そのうちオーラプテン(10mM)を1ウエルずつに最終濃度10μMになるように4μL添加した。また、残りのウエルにはファイトケミカルの溶解液であるDMSOを4μL添加し、コントロール(対照)とした。1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後に、3日間40℃で5%CO
2でインキュベートした。その後、上清を1.5mLエッペンチューブに回収し、遠心分離器にて8000rpm、5分間遠心分離を行い、上清を新しい1.5mLエッペンチューブに回収し、−20℃で保存した。
【0097】
IL−6の測定には、ELISAキットのHuman IL−6を用いた。測定キットに同包されている5×Coating Buffer Aを蒸留水にて5倍希釈し、Coating Bufferにて200倍希釈したCapture Antibodyを96ウエルプレートに100μL/ウエル添加し、4℃で一晩静置した。
【0098】
抗体溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に液を取り除いた。その後、蒸留水で5倍希釈したELISA Assay Diluent(BioLegend)を200μL/ウエル添加し、4℃で一晩静置した。
【0099】
溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay DiluentでIL−6標準タンパク質を希釈し、IL−6標準タンパク質希釈列を作成した。IL−6標準タンパク質希釈列ならびにリンパ球の40℃培養上清を100μL/ウエル添加し、室温で2時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay Diluentにて200倍希釈したDetection Antibodyを100μL/ウエル添加し、室温で1時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、Assay Diluentにて1000倍希釈したAvidin−HRPを100μL/ウエル添加し、室温で30分静置した。溶液を除去し、洗浄を5回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。TMB Microwell Peroxidase Substrateを100μL/ウエル添加し、遮光して約30分反応させた。反応を止めるために2N H
2SO
4を100μL/ウエル添加し、反応溶液における吸光度を450nmのプレートリーダーで測定した。
【0100】
<CCL−2濃度測定>
ヒト末梢血をヘパリン採血により10mL採血し、PBS(−)を10mL加え撹拌した。Lymphocyte Separation Medium 1077(PromoCell)15mLを血液が混和しないように重層し、遠心分離器にて1600rpm、30分間血液分離を行った。分離後、単核球層をスポイトで採取し、20mLの培養培地に添加し、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に20mLの培養液を添加し、撹拌した。再度、遠心分離器にて1500rpm、5分間遠心分離を行い、上清除去後に10mLの培養培地を添加し、撹拌し、10cmディッシュに全量添加し、37℃、5%CO
2環境下で1時間インキュベートした。その後、上清(リンパ球)を15mLチューブに回収し、細胞数をセルカウントキットを用いて細胞濃度1×10
5細胞/mLに調整した。6ウエルプレートを用いて、リンパ球濃度調整液を4mL/ウエルで各2ウエルに播種し、そのうちオーラプテン(10mM)を1ウエルずつに最終濃度10μMになるように4μL添加した。また、残りのウエルにはファイトケミカルの溶解液であるDMSOを4μL添加し、コントロールとした。1日間37℃、5%CO
2でインキュベートし、1日後に、3日間40℃で5%CO
2でインキュベートした。その後、上清を1.5mLエッペンチューブに回収し、遠心分離器にて8000rpm、5分間遠心分離を行い、上清を新しい1.5mLエッペンチューブに回収し、−20℃で保存した。
【0101】
CCL−2の測定には、ELISAキットのHuman MCP1/CCL2を用いた。
【0102】
測定キットに含まれている5×Coating Bufferを蒸留水にて5倍希釈し、Coating Buffer Aにて200倍希釈したCapture Antibodyを96ウエルプレートに100μL/ウエルで添加し、4℃で一晩静置した。
【0103】
抗体溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。その後、蒸留水で5倍希釈したELISA Assay Diluent(BioLegend)を200μL/ウエル添加し、4℃で一晩静置した。
【0104】
溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay DiluentでMCP1/CCL2標準タンパクを希釈し、MCP1/CCL2標準タンパク質希釈列を作成した。MCP1/CCL2標準タンパク質希釈列ならびにリンパ球40℃培養上清を100μL/ウエル添加し、室温で2時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。Assay Diluentにて200倍希釈したDetection Antibodyを100μL/ウエル添加し、室温で1時間静置した。溶液を除去し、洗浄を4回行い、Assay Diluentにて1000倍希釈したAvidin−HRPを100μL/ウエル添加し、室温で30分静置した。溶液を除去し、洗浄を5回行い、プレートに残存する微量な反応溶液をキムタオルで完全に取り除いた。TMB Microwell Peroxidase Substrateを100μL/ウエル添加し、反応溶液における吸光度を450nmのプレートリーダーで測定した。
【0105】
<結果>
暑熱ストレス負荷の際に、血管のみならず血管と同様に血液も暑熱ストレス負荷を受けることから生体防御を担うリンパ球に着目した。オーラプテン添加暑熱ストレス負荷時(40℃、2日間培養)の末梢血リンパ球(検体A及び検体B)においては、溶媒であるDMSO添加暑熱ストレス負荷時リンパ球に比べ、炎症性サイトカイン(発熱促進因子)であるIL−6及びCCL−2の産生を有意に抑制したことを確認した(表1、p<0.05)。対照は、オーラプテンを添加しないときの測定値である。
【0106】
【表1】
【0107】
上記(1)〜(8)の試験結果を以下にまとめて示す。
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を培地のみ、タンゲレチン含有培地、オーラプテン含有培地中40℃で培養したときの、細胞障害(細胞死)、蓄積脂肪滴量、PPARγ、PPARα、発熱性因子(炎症性サイトカイン;例えばIL−6、CCL−2等)の変化(増減)を測定した結果をそれぞれ表2にまとめて示した。ここで、37℃で培養されたヒト血管内皮細胞(HUVEC)での測定結果を比較対照とした。
【0108】
【表2】
【0109】
表2から分かるように、オーラプテン(Auraptene)及びタンゲレチン(Tangeretin)は、暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の細胞障害(細胞死、等)を抑制し、脂質代謝を増加し、さらに血液細胞であるリンパ球における発熱性因子の産生・放出を減少させることから、暑熱ストレスによる血管内皮細胞の細胞障害を抑制又は軽減し、従って熱中症に対する予防、軽減又は治療のために有効であることが実証された。
【0110】
[実施例2]
<中鎖脂肪酸による暑熱ストレス負荷血管内皮細胞の細胞死抑制>
1.材料
(1)ヒト正常細胞株
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC:クラボウ(日本)より購入)を本実施例に用いた。
【0111】
(2)細胞培養培地
HuMedia−EB2(クラボウ)に、2%ウシ胎児血清(FBS)、hEGF、ハイドロコーチゾン、抗菌剤、hFGF−B、ヘパリンを添加したものをHUVECの培養培地として使用した。
【0112】
2.実験
(1)中鎖脂肪酸添加による細胞死抑制実験
HUVECを細胞濃度5×10
4細胞/ウエルで6ウエルプレートに撒いた。濃度別に中鎖脂肪酸を添加し、37℃で1日間培養した。中鎖脂肪酸であるMCTオイル(日清オイリオ社(日本))を脱脂牛血清アルブミン(BSA)に結合させて濃度調節して培養液に添加した(8μl/ml、64μl/ml)。中鎖脂肪酸の濃度は最高濃度として64μL/ml、そこから濃度を半減させていき、32μL、16μL、8μL、最低濃度として4μLとした。またコントロールとして中鎖脂肪酸を添加しない細胞も準備した。中鎖脂肪酸を添加してから1日培養してから、40℃の暑熱ストレスに約3日間かけ、計測に使用した。
(2)細胞固定と染色
血管内皮細胞培養後に培養液を取り除き、4%パラホルムアルデヒド溶液を1mL/ウエルで添加し、室温で30分静置し、細胞を固定した。4%パラホルムアルデヒド溶液を取り除き、1×PBSにてウエルを2回洗浄し、Cristal Violet染色液を1mL/ウエルで添加し、一晩放置した。染色液を取り除き、1×PBSを1mL/ウエルで添加し、位相差顕微鏡で細胞を観察及び撮影した。
(3)アポトーシス(細胞死)の検出
死細胞率を定量化するためにApoScreen Annexin V(コスモ・バイオ)を使用した。6ウエルプレート内の培養液を15mLチューブに回収する。プレートに1×PBSを1mL/ウエル添加し、2分間置き、1×PBSを15mLチューブに回収した。トリプシンを1mL/ウエル添加し、細胞剥離した。RPMIメディウムを2mL/ウエルで添加し、15mLチューブに回収し、1200rpmで5分間遠心分離機にかけ、上清を取り除き、2回洗浄した後、ペレットにした。Annexin Binding Bufferを15mlチューブに100μL入れ、ペレットを回収し、Facsチューブに移した。Annexin Vを10μL添加し、4℃で15分間静置した。Annexin Binding Buffeを380μL添加し、7−AADを10μL添加し、フローサイトメトリー法で測定した。
(4)ELISAキット
暑熱ストレスを負荷された血管内皮細胞から産生されるHSP70の濃度は、Human HSP70/HSP1A(R&D)を用いて測定した。測定方法は、メーカーのプロトコールに従い行った。
【0113】
3.結果
血管内皮細胞に中鎖脂肪酸を添加培養し、翌日に40℃の暑熱ストレス下で培養した結果、細胞死の抑制、すなわち生存細胞の増加が認められた(
図16)。また、アネキシン染色により、死細胞比率を定量した結果、中鎖脂肪酸を添加しなかった培養条件では40%の死細胞が認められたのに対して、中鎖脂肪酸添加では4〜64μl/mlの各濃度において、細胞死の抑制効果(約50%)が認められた(
図17)。
中鎖脂肪酸の添加によって、細胞からのHSP70の産生量の低下が濃度依存的に認められた(
図18)。
オーラプテンの添加によって、37℃での全体的な細胞数の増加が認められ(
図19左)、そして、さらに中鎖脂肪酸を添加すると、その生存細胞数が増加した(
図19、中及び右)。これは、オーラプテンによる暑熱ストレス抑制効果を、中鎖脂肪酸が更に高めることができることを示している。