(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コンクリートとは異なる材料であってコンクリートよりも小さな弾性係数を具備する2枚の板部材で形成された壁部材と、棒状又は板状の2本の軸部材が互いに交差する構造筋と、を備えた非コンクリート造の非構造壁を、構造物に設置する非コンクリート造の非構造壁構築方法であって、
前記構造物に定着具を設置する定着具設置工程と、
前記軸部材を前記定着具に固定して、前記構造筋を設置する構造筋設置工程と、
前記構造筋を挟み込んだ状態で2枚の前記板部材を貼り合わせて、該構造筋と前記壁部材からなる壁体を構築する壁体設置工程と、を備え、
前記壁体設置工程では、一方又は両方の前記板部材に設けられた収容溝に前記構造筋を収容するとともに、該構造筋が座屈補剛されるように2枚の前記板部材によって該構造筋を挟み込んで固定する、
ことを特徴とする非構造壁構築方法。
コンクリートとは異なる材料であってコンクリートよりも小さな弾性係数を具備する2枚の板部材で形成された壁部材と、棒状又は板状の2本の軸部材が互いに交差する構造筋と、を備えた非コンクリート造の非構造壁を、構造物に設置する非コンクリート造の非構造壁構築方法であって、
前記構造物に定着具を設置する定着具設置工程と、
2枚の前記板部材のうち第1の板部材が取り付けられた前記軸部材を、前記定着具に固定して、前記構造筋を設置する構造筋設置工程と、
前記構造筋を挟み込んだ状態で、2枚の前記板部材のうち第2の板部材を前記第1の板部材に貼り合わせて、該構造筋と前記壁部材からなる壁体を構築する壁体設置工程と、を備え、
前記第1の板部材には収容溝が設けられるとともに、前記構造筋は該収容溝内に収容され、
前記壁体設置工程では、前記構造筋が座屈補剛されるように、2枚の前記板部材によって該構造筋を挟み込んで固定する、
ことを特徴とする非構造壁構築方法。
コンクリートとは異なる材料であってコンクリートよりも小さな弾性係数を具備する2枚の板部材で形成された壁部材と、棒状又は板状の2本の軸部材が互いに交差する構造筋と、を備えた非コンクリート造の非構造壁を、構造物に設置する非コンクリート造の非構造壁構築方法であって、
前記構造物に定着具を設置する定着具設置工程と、
前記構造筋を内蔵するように前記壁部材と該構造筋が一体化された壁体を設置する、壁体設置工程と、を備え、
前記壁体設置工程では、前記壁部材から一部突出した前記構造筋が、前記定着具に固定され、
前記壁体は、一方又は両方の前記板部材に設けられた収容溝に前記構造筋が収容されるとともに、2枚の前記板部材で挟み込むことによって前記構造筋が座屈補剛された構造である、
ことを特徴とする非構造壁構築方法。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建築構造物では、居住性の確保や空間を区画する目的で、方立壁や袖壁のような非構造壁(又は非耐力壁)が構築されることがある。この非構造壁は、鉄筋とコンクリートで構成されるが、その名が示すように、地震時の外力などに対して積極的に抵抗する構造ではない。
【0003】
しかしながら、地震時外力等は非構造壁に対しても作用する。非構造壁の耐力を超える荷重を受けると、コンクリートにはひび割れが生じ、居住空間としては著しく外観を損ねる結果となる。一般的なコンクリートの引張強度は、圧縮強度の1/10程度であり、ひとたび引張力が作用すると、比較的容易にひび割れが生じてしまう。
【0004】
図10は、従来方式の方立壁に地震時外力が作用すると、斜張力ひび割れが生じることを説明するモデル図である。この図の構造は、左柱PLと右柱PRの間に上部梁BUと下部梁BLが設けられたラーメン構造であり、方立壁が上部梁BUと下部梁BLの間に構築されている。このようなラーメン構造に対して地震時外力が作用すると、上部梁BUと下部梁BLに拘束された方立壁にも地震時外力が作用する。この場合、非構造壁であるはずの方立壁は、アーチ機構(いわば突っ張り機構)に伴う圧縮束を形成し、地震時外力に抵抗しようとする結果斜張力ひび割れが生じてしまう。
【0005】
非構造壁のひび割れが、建築構造物そのものにとって構造的な影響を及ぼすことは少ないが、先にも述べたように居住空間としては著しく外観が損ねられる。従来から、この非構造壁のひび割れは問題視されており、これまでも種々の改善技術が提案されてきた。例えば特許文献1では、コンクリート造の非構造壁の配筋に補強材を追加配設する技術を提案している。具体的には、通常の配筋(いわゆる縦筋と横筋)に加え、X字状に補強材を配置し、この補強材を上部梁や下部梁のような部材に固定することとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案される技術は、X字状に配設された補強材が地震時荷重に対して効果的に働くことから、非構造壁であるにもかかわらず耐震強度を期待することができるという効果を奏する技術である。しかしながら、コンクリートのひび割れを抑えるという課題を解決できる技術ではない。
【0008】
コンクリートは、既述のとおり圧縮強度に比べ引張強度が極端に小さいことから、極めてひび割れが生じやすい。さらに、壁状のコンクリート構造物とすると、断面2次モーメントが大きくなり、これに伴い断面2次モーメントと弾性係数の積で表される曲げ剛性も大きくなり、その結果、大きな荷重を負担するようになる。通常、コンクリート壁は部材厚が薄く、しかも引張強度が小さいことから、大きな荷重が作用すると簡単にひび割れが生じてしまう。このようなひび割れ発生の機構は、X字状に配設された補強材で防ぐことはできない。例えば
図10の構造にX字状補強材を配置したとしても、アーチ機構を形成したコンクリートには大きな圧縮力が作用し、その圧縮力方向と直交する方向にはひび割れが生じてしまう。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、地震時外力が作用しても、ひび割れが生ずることがない、すなわち外観を損うことがない非コンクリート造の非構造壁と、この非構造壁を構築する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、非構造壁を非コンクリート造とし、さらに非構造壁を構成する壁部材は、コンクリートよりも小さな弾性係数を具備する材料を用いる、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0011】
本願発明の非コンクリート造の非構造壁は、構造筋と板状の壁部材を備えた非コンクリート造の非構造壁である。この壁部材は、コンクリートとは異なる材料であって、コンクリートよりも小さな弾性係数を具備する材料で形成されるものである。また構造筋は、棒状又は板状の軸部材からなるもので、2本の軸部材が互いに交差する構成である。そして、構造筋が壁部材に内蔵された構造となっている。
【0012】
本願発明の非コンクリート造の非構造壁は、コンクリートの圧縮強度と引張強度の強度差よりも、その強度差が小さい壁部材を備えるものとすることもできる。
【0013】
本願発明の非コンクリート造の非構造壁は、木製材、又は木質単板の積層材で形成された壁部材を備えるものとすることもできる。
【0014】
本願発明の非構造壁構築方法は、コンクリートとは異なる材料であってコンクリートよりも小さな弾性係数を具備する2枚の板部材で形成された壁部材と、棒状又は板状の2本の軸部材が互いに交差する構造筋と、を備えた非コンクリート造の非構造壁を、構造物に設置する方法であり、定着具設置工程と、構造筋設置工程、壁体設置工程を備えている。定着具設置工程では、構造物に定着具が設置され、構造筋設置工程では、軸部材を定着具に固定することで構造筋が設置される。壁体設置工程では、壁部材を構成する2枚の板部材を、構造筋を挟み込むように配置し固定することで、構造筋と壁部材からなる「壁体」が構築される。なお、壁部材を構成する一方又は両方の板部材には、構造筋を収容する収容溝が設けられている。
【0015】
本願発明の非構造壁構築方法は、構造筋設置工程において、壁部材を構成する2枚の板部材のうち第1の板部材が取り付けられた軸部材を、定着具に固定することで構造筋を設置する方法とすることもできる。この場合、壁体設置工程では、壁部材を構成する第2の板部材を、構造筋を挟み込むように第1の板部材に固定することで壁部材が構築される。
【0016】
本願発明の非構造壁構築方法は、構造筋を内蔵するように壁部材と構造筋が一体化された壁体を、設置する方法とすることもできる。この場合、壁体設置工程では、壁部材から一部突出した構造筋が定着具に固定される。
【0017】
本願発明の非構造壁構築方法は、間詰め工程をさらに備えた方法とすることもできる。この場合の非構造壁は、上部梁と下部梁の間であって、上部梁と壁部材の間、下部梁と壁部材の間に隙間が設けられるように配置される。間詰め工程では、上部梁と壁部材の間の隙間、下部梁と壁部材の間の隙間に、間詰材が充填される。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の非コンクリート造の非構造壁、及び非構造壁構築方法には、次のような効果がある。
(1)2本の軸部材が互いに交差する構造筋を配置することで、従来の非構造壁より高いエネルギー吸収能力を備えた構造である。
(2)構造筋を覆う壁部材はコンクリートよりも小さな弾性係数であるため、従来のコンクリート造の非構造壁に比べ、荷重を負担しないため、ひび割れや損傷の発生を著しく抑制することができる。
(3)構造筋は壁部材によって座屈補強されているため、引張力に加え圧縮力に対しても効果的に抵抗することができる。
(4)壁部材を木製材(あるいは木質単板の積層材)とすることで、居住空間として優れた外観を提供することができる。
(5)構造筋の降伏耐力や破壊耐力は明確に把握することができ、容易に設計できることから、計画する際に構造筋を積極的に耐震部材として採用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の非構造壁、及び非構造壁構築方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0021】
1.全体概要
図1は、本願発明の非構造壁100を示す正面図であり、(a)は方立壁とした非構造壁100を、(b)は袖壁とした非構造壁100を示している。この図に示すように、本願発明の非構造壁100は、壁部材110と構造筋120で構成され、壁部材110は2枚の板部材からなり、構造筋120は断面寸法に比して軸長が極端に長い2本の軸部材121からなるもので鉄筋や鋼板などが使用される。そして、例えば既設の左柱PLと右柱PRの間に設けられた上部梁BUと下部梁BLの間に、本願発明の非構造壁100は構築される。なおこの図では、便宜上、構造筋120が見えるように描かれているが、実際には構造筋120は壁部材110に内蔵されている。
【0022】
図2は、本願発明の主な工程の流れを示すフロー図である。このフロー図を参考に、本願発明の全体概要について説明する。はじめに、構造筋120を固定するための定着具を構造物(例えば梁など)に設置する(Step10)。既述のとおり構造筋120は軸部材121で構成されており、この軸部材121を固定するのがホールアンカーといった定着具である。定着具が設置されると、構造筋120を定着具に固定する(Step20)。そして、構造筋120を両側(表裏)から挟み込むように、2枚の板部材111を配置し、これら板部材111を接着(あるいは接合)することで壁部材110が形成され、その結果、壁部材110と構造筋120からなる「壁体」が構築される(Step30)。
図3は、構造筋120を両側から挟み込むように配置される2枚の板部材111を示す説明図であり、(a)は配置前の各部品を示す正面図、(b)は板部材111を配置する状況を示す側面図である。
【0023】
上記のとおり、壁部材110と構造筋120を別部材として搬入しそれぞれ個別に設置するという手法に代えて、あらかじめ壁部材110と構造筋120が一体となった「既製の壁体」を搬入してそのまま設置する手法を採ることもできる。この場合、まずは工場等にて壁体を製作し(Step40)、この既製の壁体を施工現場に搬入して所定位置に設置する(Step50)。
【0024】
壁体設置工程(Step30)あるいは既製壁体設置工程(Step50)が完了すると、最後に間詰めを行う(Step60)。例えば、既設の上部梁BUと下部梁BLの間に壁体を設置すると、上下に(つまり、壁体と上下梁との間に)隙間が設けられることがある。この隙間に、コンクリートやモルタルなど間詰材を充填するのが間詰め工程(Step60)である。
【0025】
以下、本願発明の非構造壁、及び非構造壁構築方法を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0026】
2.非構造壁
(壁部材)
既述のとおり壁部材110は、2枚の板部材111によって構成される。この板部材111は、木板や合板(木質単板の積層材)などコンクリート製ではない材料が用いられる。木板や合板といった木製の板材111のほか、FRP(Fiber Reinforced Plastics)製の板や、ガラス板、石膏ボード、合成樹脂板なども、板部材111として利用することができる。ただし板部材111は、コンクリートよりも小さな弾性係数を有する材料で形成される。
【0027】
コンクリート壁は、壁の長さの3乗に比例して断面2次モーメントIcが大きくなる。これにともない断面2次モーメントIcと弾性係数Ecの積で表される曲げ剛性も大きくなり、その結果、コンクリート壁は大きな荷重を負担し、ひび割れ等が生じることとなる。そこで本願発明では、コンクリート壁の曲げ剛性よりも小さな曲げ剛性を持つ材料からなる板材111を使用することとした。コンクリート壁よりも曲げ剛性が小さい板材111は、コンクリート壁の場合よりも荷重負担が小さくなり、ひび割れなどの変状が生じにくくなるわけである。
【0028】
コンクリート壁よりも曲げ剛性を小さくするためには、断面2次モーメントIと弾性係数Eのいずれかを小さくすればよい。断面形状に関しては、非構造壁100を構築する現場ごとに様々な条件があることから、断面2次モーメントIを小さくすることは難しい場合も想定される。したがって本願発明では、弾性係数Eを小さくすることとした。なおここでいう弾性係数とは、静的載荷による応力−ひずみ曲線から求められる静弾性係数のことを指す。
【0029】
またコンクリートは、引張強度が圧縮強度に比べ著しく小さく(約1/10)、引張力が作用すると容易にひび割れが生じるという特性がある。したがって本願発明の板部材111は、引張強度と圧縮強度との差(以下、「強度差」という。)が、コンクリートの強度差に比べ小さい材料からなるものとすることも有効である。圧縮強度においてコンクリートと大きな差がない材料であれば、コンクリートよりも引張強度が大きくなり、圧縮力、引張力いずれが作用してもひび割れが生じにくい板部材111となるわけである。さらに、コンクリートよりも比重が小さい材料の板部材111とすれば、施工性が向上するうえ、自重に応じて増大する地震時荷重が軽減されてさらに好適である。
【0030】
(構造筋)
既述のとおり構造筋120は、2本の軸部材121によって構成される。壁部材110(板材111)の曲げ剛性を小さくした結果その荷重負担は小さくなり、必然的に構造筋120は大きな荷重を負担することとなる。したがって軸部材121は、引張強度、圧縮強度ともに大きな鋼材、例えば鉄筋や、細幅の平鋼(フラットバー)、山形鋼といった形鋼が使用される。もちろん軸部材121であって、引張強度、圧縮強度ともに大きな材料であれば、鋼材に限らず他の材料を用いることもできる。
【0031】
2本の軸部材121は、互いに交差するように配置される。具体的には、略同一平面(例えば鉛直面)内に2本の軸部材121が置かれ、しかもX字状となるように配置される。そしてこれら2本の軸部材121からなる構造筋120は、2枚の板部材111に表裏から挟まれるように配置される。2枚の板部材111同士は、接着剤を塗布して接着固定されたり、ビスやボルトによって接合固定されたり、種々の方法で一体化される。一方、構造筋120と板部材111とは、接着等で固定することもできるし、特段の固定処理を施さなくともよい。2枚の板部材111で挟み込むことによって、構造筋120は座屈補剛されることから、引張材としての機能に加え、軸降伏によりエネルギーを吸収する圧縮材としても機能することができる。なお2本の軸部材121の両端部は、新設の(あるいは既設の)梁といった構造部材に固定される。
【0032】
3.非構造壁構築方法
本願発明の非構造壁100をコンクリート梁等に構築する方法としては大きく3つに分類することができ、さらに鉄骨梁の場合を含め、4つの例に分けて本願発明の非構造壁構築方法について説明する。
【0033】
(第1の例)
第1の例は、コンクリート造の上部梁BUと、同じくコンクリート造の下部梁BLとの間に、本願発明の非構造壁100を構築する方法であって、壁部材110と構造筋120を別部材として搬入しそれぞれ個別に設置するという方法である。
【0034】
はじめに、定着具設置工程(Step10:
図2)と構造筋設置工程(Step20:
図2)について説明する。
図4は、上部梁BUと下部梁BLに設置した定着具130に、上下に2分割した軸部材121を固定する手順を示す説明図であり、(a)は第1の軸部材の分割上部121Uを定着具130に固定した状態を示し、(b)は第1の軸部材の分割下部121Lを定着具130に固定した状態を示し、(c)は第1の軸部材の分割上部121Uと分割下部121Lを連結した状態を示し、(d)は第1の軸部材121と第2の軸部材121が設置された状態を示す。
【0035】
図4に示すように、軸部材121は上部と下部に2分割されており、それぞれ別に固定される。なお、便宜上ここでは、軸部材121を分割した一方を分割上部121Uと、他方を分割下部121Lということとする。まずは、上部梁BUの2箇所、下部梁BLの2箇所に、定着具130として例えばホールアンカーなど「あと施工アンカー」が埋設設置される。そして
図4(a)に示すように、第1の軸部材121の分割上部121Uを、上部梁BUの定着具130に固定する。このとき、分割上部121Uの一部をネジ加工しておき、定着具130もネジ加工しておけば容易に連結固定できる。
【0036】
第1の軸部材121の分割上部121Uが固定されると、
図4(b)に示すように、第1の軸部材121の分割下部121Lを、下部梁BLの定着具130に固定する。そして
図4(c)に示すように、分割上部121Uの一端に取り付けてある連結具122(例えばカプラー)を下方に移動させて、分割上部121Uと分割下部121Lを連結する。この場合も、分割上部121U、分割下部121Lの一部をネジ加工しておき、連結具122もネジ加工しておけば容易に連結固定できる。また、軸部材が鉄筋の場合には、市販の鉄筋継手を用いることもできる。第1の軸部材121が設置できると、同様の手順で第2の軸部材121を設置し、構造筋120は構造物に設置される。なお
図4(d)に示すように、連結具122の配置位置は、第1の軸部材121、第2の軸部材121ともに、両者が交差する位置から離れた位置とする。
【0037】
ところで、軸部材121を定着具130に固定する手法は、
図4に示すほか
図5に示す手法を採ることもできる。
図5は、あらかじめ定着具130に固定された先端筋121Aに、軸部材121を固定する手順を示す説明図であり、(a)は先端筋121Aが定着具130に固定された状態を示し、(b)は第1の軸部材121を先端筋121A近くに配置した状態を示し、(c)第1の軸部材121と先端筋121Aを連結した状態を示す。
【0038】
図4では、定着具130を埋設設置した後に、搬入された軸部材121の分割上部121U(分割下部121L)を固定する例を示している。一方の
図5では、定着具130を埋設設置すると同時に先端筋121Aを固定する。このとき、先端筋121Aの一部と定着具130をネジ加工しておけば、容易に連結固定できる。そして、搬入された軸部材121と先端筋121Aを連結する。具体的には、軸部材121の一端に取り付けてある連結具122を上方に移動させて、軸部材121と先端筋121Aを連結する。この場合も、軸部材121、先端筋121Aの一部をネジ加工しておき、連結具122もネジ加工しておけば容易に連結固定できる。
【0039】
軸部材121が上部梁BUと下部梁BLに設置できると、次に壁部材110を構築する。
図6は、構造筋120とは別部材である壁部材110を構築する手順を示す説明図であり、(a)は軸部材121が上部梁BUと下部梁BLに設置された状態を示し、(b)は背面の板部材111を配置する状態を示し、(c)は前面の板部材111を配置する状態を示し、(d)は間詰材140を充填した状態を示す。
【0040】
図6に示すように、軸部材121が上部梁BUと下部梁BLに設置された状態で、壁部材110を構成する2枚の板部材111のうち、背面の板部材111を所定位置に配置する。なお、背面の板部材111には2本の軸部材121を収容することができる溝形状の空間(以下、「収容溝112」という。)を設けるとよい。2本の軸部材121が収容溝112に収容されることで、2枚の板部材111が貼り合わされても軸部材121の体積分が膨張することがなく、外観を損なわないわけである。もちろん、背面の板部材111に代えて(あるいは加えて)、前面の板部材111に収容溝112を設けてもよい。
【0041】
背面の板部材111を所定位置に配置した状態で、前面の板部材111も所定位置に配置し、すなわち構造筋120を挟み込んだ状態で接着(接合)して2枚の板部材111を貼り合わせて壁部材110を形成する(Step30:
図2)。壁部材110と構造筋120からなる壁体が設置できると、上部梁BUと下部梁BLの間に設けられた隙間に、コンクリートやモルタルなど間詰材140を充填して(Step60:
図2)全工程が完了する。
【0042】
(第2の例)
第2の例は、コンクリート造の上部梁BUと、同じくコンクリート造の下部梁BLとの間に、本願発明の非構造壁100を構築する方法であって、「半製品」を搬入し、その後搬入された残りの板部材111を設置するという方法である。なおここで半製品とは、壁部材110を構成する2枚の板部材111のうちの一方の板部材111と、X字状に組み合わせた2本の軸部材121を一体化したものである。
【0043】
図7は、半製品を設置した後、残りの板部材111を設置して壁部材110を構築する手順を示す説明図であり、(a)は定着具130と先端筋121Aが上部梁BUと下部梁BLに設置された状態を示し、(b)は半製品が所定位置に配置された状態を示し、(c)は残りの板部材111を配置する状態を示し、(d)は間詰材140を充填した状態を示す。この図に示すように、第1の例と同様、はじめに定着具130を設置する(Step10:
図2)。この場合、
図5にも示すように、あらかじめ定着具130に先端筋121Aを固定する方式を採用するとよい。
【0044】
定着具130を設置する一方で、工場や現場近くのヤードで半製品を製作する。この半製品は、
図7(b)に示すように2本の軸部材121の先端が、板部材111から突出している。さらに、この突出した部分には連結具122が取り付けられている。そして、この連結具122を利用して、軸部材121と先端筋121Aを連結する。半製品を構成する板部材111には、軸部材121や連結具122を収容することができる収容溝112を設けておくとよい。
【0045】
半製品が設置できると、第1の例と同様、残りの板部材111を所定位置に配置し、すなわち構造筋120を挟み込んだ状態で接着(接合)して2枚の板部材111を貼り合わせて壁部材110を形成する(Step30:
図2)。壁部材110と構造筋120からなる壁体が設置できると、上部梁BUと下部梁BLの間に設けられた隙間に、コンクリートやモルタルなど間詰材140を充填して(Step60:
図2)全工程が完了する。
【0046】
(第3の例)
第3の例は、コンクリート造の上部梁BUと、同じくコンクリート造の下部梁BLとの間に、本願発明の非構造壁100を構築する方法であって、壁部材110と構造筋120が一体化された「既製の壁体」を搬入してそのまま設置するという方法である。
【0047】
第1の例と同様、はじめに定着具130を設置する(Step10:
図2)。この場合も、第2の例と同様、
図5に示す方式、すなわちあらかじめ定着具130に先端筋121Aを固定する方式を採用するとよい。定着具130を設置する一方で、工場や現場近くのヤードで壁体を製作する(Step40:
図2)。この既製の壁体も、第2の例の半製品と同じく2本の軸部材121の先端は、板部材111から突出し、この突出した部分には連結具122が取り付けられている。そして、この連結具122を利用して、軸部材121と先端筋121Aを連結し、既成の壁体を設置する(Step50:
図2)。壁部材110を構成する一方(あるいは両方)の板部材111には、軸部材121や連結具122を収容することができる収容溝112を設けておくとよい。
【0048】
既製の壁体が設置できると、第1の例と同様、上部梁BUと下部梁BLの間に設けられた隙間に、コンクリートやモルタルなど間詰材140を充填して(Step60:
図2)全工程が完了する。
【0049】
(第4の例)
第4の例は、鉄骨造の上部梁BUと、同じく鉄骨造の下部梁BLとの間に、本願発明の非構造壁100を構築する方法であり、これまでの例とは異なる定着具130の使用に特徴がある。
図8は、鉄骨造の梁に使用される定着具130を示す説明図であり、(a)は上部梁BUと下部梁BLに取り付けられた定着具130を示す正面図、(b)は上部梁BUに取り付けられた定着具130を示す部分断面図である。
【0050】
図8に示す上部梁BUと下部梁BLはH形鋼を利用したものであり、上部梁BUの2箇所、下部梁BLの2箇所に、鋼製の定着具130が溶接固定されている。この定着具130は、いわゆるガセットプレートと呼ばれるもので、
図8(b)から分かるように薄板の鋼板で形成されている。
【0051】
図9は、鉄骨造の梁に非構造壁100を構築する手順を示す説明図であり、(a)は軸部材121が鉄骨造の上部梁BUと下部梁BLに設置された状態を示し、(b)は背面の板部材111を配置する状態を示し、(c)は前面の板部材111を配置する状態を示し、(d)は間詰材140を充填した状態を示す。この図に示すように、はじめに定着具130(ガセットプレート)を上部梁BUと下部梁BLに溶接固定する(Step10:
図2)。
【0052】
次に平鋼からなる軸部材121を、定着具130に固定する(Step20:
図2)。この場合、軸部材121の先端にボルト固定された添接版123と定着具130がボルト固定される。なお、添接版123は1箇所につき2枚1組で取り付けられており、2枚の添接版123で定着具130を挟み込んで固定される。そして、壁部材110を構成する2枚の板部材111のうち、背面の板部材111を所定位置に配置し、前面の板部材111も所定位置に配置し、すなわち構造筋120を挟み込んだ状態で接着(接合)して2枚の板部材111を貼り合わせて壁部材110を形成する(Step30:
図2)。壁部材110と構造筋120からなる壁体が設置できると、上部梁BUと下部梁BLの間に設けられた隙間に、コンクリートやモルタルなど間詰材140を充填して(Step60:
図2)全工程が完了する。なお、2枚の板部材111のうち一方(あるいは両方)には、2本の軸部材121を収容することができる収容溝112を設けるとよい。
【0053】
ここでは、鉄骨造の梁に非構造壁100を構築する方法として、壁部材110と構造筋120が別部材である場合(つまり第1の例と同様のケース)で説明したが、第2の例と同様に半製品を利用した構築方法とすることもできるし、第3の例と同様に既製の壁体を利用した構築方法とすることもできる。