(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着剤流路は、前記注入器本体に連通する共有接着剤流路と、上流側を前記共有接着剤流路に連通すると共に下流側を同軸上において前記第1注入流路に連通する第1接着剤流路と、上流側を前記共有接着剤流路に連通すると共に下流側をオフセットした状態で前記第2注入流路に連通する第2接着剤流路と、を有し、
前記ノズル保持部は、前記ノズルボディに形成され、前記第1接着剤流路から同軸上に延びると共に前記第1ノズル部を基端部で保持する嵌合孔を有することを特徴とする請求項1に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
前記ノズル保持部は、前記開口封止部の内周面に内向きに突出形成され、前記第1ノズル部を中間部で保持する複数の保持凸部を、更に有すること特徴とする請求項2に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
前記複数の保持凸部は、周方向に均等配置された3つの突起および軸方向に平行に且つ周方向に均等配置された3つの突条の、いずれか一方を有することを特徴とする請求項3に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
前記複数の保持凸部は、軸方向に離間した2組の突起群を有し、前記各突起群が周方向に均等配置された3つの突起で構成されていることを特徴とする請求項6に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
請求項1ないし11のいずれかに記載のピンニング工法用の注入ノズルと、前記注入ノズルが着脱自在に装着される前記注入器本体と、から成る接着剤注入器を用い、前記壁体を補修するピンニング工法であって、
前記壁体を所定の深さまで穿孔して前記下穴を形成する穿孔工程と、
前記接着剤注入器により、前記下穴の開口部を封止しつつ前記下穴に接着剤を注入する注入工程と、
接着剤が注入された前記下穴に、アンカーピンを挿入・装着する装着工程と、を備えたことを特徴とするピンニング工法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来のピンニング工法用の注入ノズルでは、ノズル内筒とノズル外筒との間隙に第2注入流路が構成されているため、第1注入流路が構成されたノズル内筒は、基部側においてノズル外筒に遊嵌された構造となっている。これにより、ノズル内筒は、非注入状態(自由状態)において、軸線に対し斜め先下がりの状態となる。このため、ノズル内筒を挿填穴に挿入してゆくときに、その先端が挿填穴の穴壁につかえる等の不具合があった。
【0005】
本発明は、第2注入流路を維持しつつ、第1注入流路を構成した第1ノズル部が下穴の穴壁につかえるのを抑制することができるピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のピンニング工法用の注入ノズルは、注入器本体に装着して用いられ、 壁体を所定の深さまで穿孔した下穴に、その開口部を封止しながら接着剤を注入するピンニング工法用の注入ノズルであって、注入器本体に装着され、内部に注入器本体に連通する接着剤流路を有するノズルボディと、ノズルボディの先端部に取り付けられ、開口部を封止する開口封止部と、ノズルボディから開口封止部を軸方向に貫通して先方に延び、内部に接着剤流路に連通する第1注入流路を有すると共に、先端部に第1注入流路に連通する第1吐出口を有する注射針様の第1ノズル部と、第1ノズル部と開口封止部との間隙に接着剤流路に連通する第2注入流路を有すると共に、開口封止部の先端部に第2注入流路に連通する第2吐出口を有する第2ノズル部と、ノズルボディおよび開口封止部の少なくとも一方に設けられ、第1ノズル部を、第2ノズル部と同軸上に保持するノズル保持部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、第1ノズル部を下穴に挿入し且つ下穴の開口部を開口封止部により封止した状態で、注入器本体から接着剤を送り込むと、接着剤は、接着剤流路および第1注入流路を介して第1ノズル部の第1吐出口から下穴内に吐出される。同様に接着剤は、接着剤流路および第2注入流路を介して第2ノズル部の第2吐出口から下穴内に吐出される。第1ノズル部から吐出された接着剤は、下穴の奥側から充填されてゆき、第2ノズル部から吐出された接着剤は、下穴の手前側から充填されてゆく。一方、第1ノズル部は、ノズル保持部により第2ノズル部と同軸上に保持されており、第1ノズル部が先下がりに傾くことがなく、且つ第2注入流路がその機能を損なうことがない。このため、第1ノズル部を下穴に挿入するに際し狙いが定めやすく、第2注入流路を維持しつつ、先端が下穴の内壁につかえる等の不具合を抑制することができる。
【0008】
この場合、接着剤流路は、注入器本体に連通する共有接着剤流路と、上流側を共有接着剤流路に連通すると共に下流側を同軸上において第1注入流路に連通する第1接着剤流路と、上流側を共有接着剤流路に連通すると共に下流側をオフセットした状態で第2注入流路に連通する第2接着剤流路と、を有し、ノズル保持部は、ノズルボディに形成され、第1接着剤流路から同軸上に延びると共に第1ノズル部を基端部で保持する嵌合孔を有することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、第1ノズル部の第1注入流路に連通する第1接着剤流路の同軸上に、嵌合孔としてノズル保持部を形成するようにしているため、ノズルボディにおいて、ノズル保持部を精度良く簡単に形成することができる。
【0010】
この場合、ノズル保持部は、開口封止部の内周面に内向きに突出形成され、第1ノズル部を中間部で保持する複数の保持凸部を、更に有することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、第1ノズル部は、ノズルボディの嵌合孔と開口封止部の複数の保持凸部とにより、基端部および中間部において両持ち状態で保持される。このため、第1ノズル部を第2ノズル部と同軸上において、精度良く且安定に保持することができる。
【0012】
この場合、複数の保持凸部は、周方向に均等配置された3つの突起および軸方向に平行に且つ周方向に均等配置された3つの突条の、いずれか一方を有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、第1ノズル部の中間部における保持は、3つの突起或いは3つの突条による3点支持となるため、第1ノズル部を第2ノズル部と同軸上において、精度良く且安定に保持することができる。なお、3つの突起は、軸方向において同位置に設けられていてもよいし、相互に位置ズレして設けられていてもよい。また、3つの突条は、第2注入流路と同長であってもよいし、第2注入流路よりも短いものであってもよい。なお、各突起の先端は、第1ノズル部に対し点接触となるものであってもよいし、面接触となるものであってもよい。同様に、各突条は、第1ノズル部に対し線接触となるものであってもよいし、面接触となるものであってもよい。
【0014】
この場合、開口封止部は、開口部を封止する封止部本体と、封止部本体の内周部に嵌合し、第1ノズル部との間隙に第2注入流路を構成する筒状体と、を有し、複数の保持凸部は、筒状体に形成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、複数の保持凸部が筒状体に形成されているため、複数の保持凸部を精度良く且つ簡単に作り込むことができる。また、下穴の開口部を封止するときに、封止部本体は適宜変形するが、筒状体の変形は抑制される。このため、第2ノズル部の第2注入流路を適切に維持することができる。なお、筒状体は、硬質樹脂材料または金属材料で構成され、封止部本体は、弾性材料で構成されていることが好ましい。
【0016】
また、接着剤流路は、同軸上において、第1注入流路および第2注入流路に連通し、ノズル保持部は、開口封止部の内周面に内向きに突出形成され、第1ノズル部を保持する複数の保持凸部を、有することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、開口封止部に突出形成された複数の保持凸部により、第1ノズル部を中間部で保持するようにしているため、第1ノズル部を第2ノズル部と同軸上において安定に保持することができる。
【0018】
この場合、複数の保持凸部は、軸方向に平行に且つ周方向に均等配置された3つの突条を有することが好ましい。
【0019】
この構成によれば、開口封止部の3つの突条により、第1ノズル部を中間部で保持するようにしているため、第1ノズル部を第2ノズル部と同軸上において、精度良く且安定に保持することができる。また、複数の保持凸部を簡単に形成することができる。なお、3つの突条は、第2注入流路と同長であってもよいし、第2注入流路よりも短いものであってもよい。また、各突条は、第1ノズル部に対し線接触となるものであってもよいし、面接触となるものであってもよい。
【0020】
同様に、複数の保持凸部は、軸方向に離間した2組の突起群を有し、各突起群が周方向に均等配置された3つの突起で構成されていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、3つの突起を1組とし、これを離間した2組により、第1ノズル部を保持するようにしているため、第1ノズル部は開口封止部に両持ち状態で保持される。このため、第1ノズル部を第2ノズル部と同軸上において、精度良く且安定に保持することができる。なお、3つの突起は、軸方向において同位置に設けられていてもよいし、相互に位置ズレして設けられていてもよい。また、各突起の先端は、第1ノズル部に対し点接触となるものであってもよいし、面接触となるものであってもよい。
【0022】
これらの場合、開口封止部は、開口部を封止する封止部本体と、封止部本体の内周部に嵌合し、第1ノズル部との間隙に第2注入流路を構成する筒状体と、を有し、複数の保持凸部は、筒状体に形成されていることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、複数の保持凸部が筒状体に形成されているため、複数の保持凸部を精度良く且つ簡単に作り込むことができる。また、下穴の開口部を封止するときに、封止部本体は適宜変形するが、筒状体の変形は抑制される。このため、第2ノズル部の第2注入流路を適切に維持することができる。なお、筒状体は、硬質樹脂材料または金属材料で構成され、封止部本体は、弾性材料で構成されていることが好ましい。
【0024】
一方、第1ノズル部は、ノズル保持部に対し進退自在に保持されていることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、第1ノズル部を最大限に延ばしておいて、下穴に挿入してゆくと、第1ノズル部の先端が下穴の穴底に突き当たり、続いて開口封止部が下穴の開口部を封止することになる(第1ノズル部は、ノズルボディに相対的に引き込まれる。)。このように、第1ノズル部の先端は、下穴の深さが区々であっても、下穴の穴底に確実に達する。このため、接着剤を下穴の最奥部から確実に充填することができ、下穴の最奥部にエアー溜りが生ずる不具合を、確実に防止することができる。
【0026】
また、ノズル保持部は、ノズルボディおよび開口封止部の少なくとも一方に代えて、第1ノズル部の開口封止部を軸方向に貫通する部分に設けられており、ノズル保持部は、第1ノズル部の中間部外周面に突出形成され、軸方向に平行に且つ周方向に均等配置された3つの線状凸部を、有することが好ましい。
【0027】
この構成によれば、第1ノズル部に3つの線状凸部を設けることで、第1ノズル部を第2ノズル部と同軸上において、相対的に保持することができる。
【0028】
本発明のピンニング工法は、上記したピンニング工法用の注入ノズルと、注入ノズルが着脱自在に装着される注入器本体と、から成る接着剤注入器を用い、壁体を補修するピンニング工法であって、壁体を所定の深さまで穿孔して下穴を形成する穿孔工程と、接着剤注入器により、下穴の開口部を封止しつつ下穴に接着剤を注入する注入工程と、接着剤が注入された下穴に、アンカーピンを挿入・装着する装着工程と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、壁体の要補修箇所に下穴を穿孔した後、接着剤注入器により下穴に接着剤を注入する。この場合、第1ノズル部および第2ノズル部からそれぞれ吐出された接着剤は、下穴の奥側および手前側からそれぞれ注入される。このため、接着剤の下穴への充填および複数の「浮部」への充填を、確実且つ効率良く行うことができる。したがって、ピンニング作業を短時間で効率良く行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るピンニング工法用の注入ノズル(以下、単に「注入ノズル」と言う)およびこれを用いたピンニング工法について説明する。ピンニング工法における注入ノズルは、これが装着される注入器本体と共に、接着剤を下穴に注入するための接着剤注入器を構成する。ピンニング工法は、「浮き」が生じた建物の外壁や内壁等の壁体の要補修箇所に下穴を穿孔し、この下穴に接着剤注入器を用いて接着剤を注入し、その後、下穴にアンカーピンを装填して、これを補修する(剥落防止)ものである。以下、建物の外壁を例に、これを補修する場合について説明する。
【0032】
[第1実施形態]
図1は、外壁と接着剤注入器との関係を表した断面模式図である。同図に示すように、外壁1は、コンクリート躯体2と、コンクリート躯体2の表面に塗り付けた下地モルタル3と、下地モルタル3の表面に塗り付けた張付けモルタル4と、張付けモルタル4の表面に張り付けたタイル等の仕上げ材5とで構成されている。なお、仕上げ材5には、大型タイルや規格石(石材)も含まれる。
【0033】
本実施形態の外壁1では、コンクリート躯体2と下地モルタル3との界面に第1浮き部6aが、下地モルタル3と張付けモルタル4との界面に第2浮き部6bが、さらに張付けモルタル4と仕上げ材5との界面に第3浮き部6cが生じているものとする。外壁1には、これを補修すべく、仕上げ材5、張付けモルタル4および下地モルタル3を貫通し、且つコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔した下穴8が形成されている。そして、外壁1の補修に際し、この下穴8に接着剤注入器10により接着剤Rが注入される。
【0034】
[接着剤注入器]
ここで、
図1および
図2を参照して、接着剤注入器10について簡単に説明する。両図に示すように、接着剤注入器10は、接着剤Rを供給するポンプ形式の注入器本体11と、注入器本体11の先端部に着脱自在に装着されたピンニング工法用の注入ノズル12と、で構成されている。
【0035】
注入器本体11は、有底円筒状の接着剤貯留部15と、接着剤貯留部15が着脱自在に取り付けられたポンプ部16と、ポンプ部16に保持された略「L」字状の操作レバー17とを備えている。ポンプ部16の基端側には、内部に接着剤Rが貯留された接着剤貯留部15が取り付けられ、先端側には注入ノズル12が装着されている。接着剤貯留部15を手持ちすると共に、手動で操作レバー17を操作する(ポンピング)ことにより、ポンプ部16を介して注入ノズル12から接着剤Rが一定量ずつ吐出される。
【0036】
接着剤Rには、いわゆる2液タイプのエポキシ樹脂接着剤を用いることが好ましい。もっとも、接着剤Rは、粘性を有する無機接着剤であってもよい。なお、注入器本体11は、上記のような、手動でポンプ駆動を行うタイプの他、モーターやエアーアクチュエータ等により自動でポンプ駆動を行うタイプであってもよい。
【0037】
[注入ノズル]
次に、
図3の構造図および
図4の分解図を参照して、注入ノズル12について詳細に説明する。注入ノズル12は、注入器本体11に装着される装着部21と、装着部21に連なるノズルボディ22と、ノズルボディ22の先端部に取り付けられた開口封止部23と、ノズルボディ22に支持され、開口封止部23を軸方向に貫通して先方に延びる第1ノズル部24と、第1ノズル部24と開口封止部23との間隙に構成された第2ノズル部25と、を備えている。
【0038】
[第1ノズル部]
第1ノズル部24は、下穴8に挿入され下穴8の奥部に接着剤Rを注入する部位であり、ステンレスやスチール等の細径の金属パイプにより、注射針様に形成されている。第1ノズル部24の基端部には、ロート状に拡開した規制部31が形成され、先端部には斜めにカットした第1ノズル口32が形成されている。また、第1ノズル部24の内部には、後述するノズルボディ22の第1接着剤流路61に連通する第1注入流路33が構成されている。そして、第1ノズル部24は、軸方向において、後述するノズルボディ22のノズル保持部64に進退自在(スライド自在)に保持され、開口封止部23を遊嵌状態で貫通し、開口封止部23から大きく突出している。
【0039】
[開口封止部]
開口封止部23は、接着剤Rの注入に際し下穴8の開口部8aを封止する部位であり、下穴8の開口部8aを封止する封止部本体35と、封止部本体35をノズルボディ22に締結する締結部36と、を備えている。封止部本体35は、開口部8aを直接封止するテーパー形状のテーパー部41と、テーパー部41の基端側に連なるストレート部42と、環状の外周段部43を存してストレート部42の基端側に連なるボディ接合部44と、で一体に形成されている。そして、封止部本体35は、フッ素ゴム等の耐薬品性の弾性材料で形成され、締結部36は、ステンレスやスチール等で形成されている。
【0040】
ボディ接合部44は、ストレート部42に対し十分に太径に形成され、基端側の内部にノズルボディ22の先端部が接合される接合凹部46が形成されている。また、テーパー部41、ストレート部42およびボディ接合部44には、その軸心部に第1ノズル部24が遊嵌される遊嵌孔47が貫通形成されている。そして、この遊嵌孔47の基端が接合凹部46に連通している。いうまでもないが、遊嵌孔47とこれに挿通(貫通)する第1ノズル部24とは、間隙を存して同軸上に配設されている。
【0041】
締結部36は、上記の外周段部43に係合する引付け部位51と、引付け部位51に連なりノズルボディ22の先端部に螺合する螺合部位52とで一体に形成されている。螺合部位52を介して、締結部36をノズルボディ22の先端部に螺合すると、引付け部位51により、封止部本体35がノズルボディ22側に引き付けられる。これにより、封止部本体35の接合凹部46とノズルボディ22の先端部とが接合され、且つこの部分が封止される。なお、
図3(a)中の符号53は、締結部36をノズルボディ22に螺合するための工具掛け部である。
【0042】
[第2ノズル部]
第2ノズル部25は、下穴8の開口部8a近傍に接着剤Rを注入する部位であり、封止部本体35に形成された上記の遊嵌孔47と第1ノズル部24との間隙に構成された第2注入流路55と、第2注入流路55に連通し、封止部本体35の先端と第1ノズル部24との間に構成された環状の第2ノズル口56と、有している。そして、第2注入流路55は、後述するノズルボディ22の第2接着剤流路62に連通している。上述のように、第1ノズル部24は、ノズルボディ22のノズル保持部64にがたつきなく保持されており、第1ノズル部24と封止部本体35との間に構成された第2注入流路55の流路断面は、適切に維持されている。
【0043】
[ノズルボディ]
ノズルボディ22は、ステンレスやスチール等で略円柱状に形成されている。ノズルボディ22の内部には、下流側を第1ノズル部24の第1注入流路33に連通する第1接着剤流路61と、下流側を第2ノズル部25の第2注入流路55に連通する第2接着剤流路62と、上流側を注入器本体11に連通し下流側を第1接着剤流路61および第2接着剤流路62に連通する共有接着剤流路63と、が形成されている。また、ノズルボディ22の内部には、第1接着剤流路61の下流端から延びる嵌合孔65で構成された上記のノズル保持部64が形成されている。さらに、ノズルボディ22には、第1接着剤流路61と第2接着剤流路62とを選択的に流路切替えするバルブ形式の流路切替え機構部66が組み込まれている。
【0044】
第1接着剤流路61は、直線状に延在しており、第1接着剤流路61と第1注入流路33(第1ノズル部24)とは同軸上に配設されている。嵌合孔65(ノズル保持部64)に対し第1接着剤流路61は太径に形成され、第1接着剤流路61と嵌合孔65との間の段部67に、第1ノズル部24の規制部31が突き当たることにより、第1ノズル部24の前進端位置が規制される。なお、第1ノズル部24の後退端位置は、上記の流路切替え機構部66により規制される(
図6参照)。
【0045】
第2接着剤流路62は、第1接着剤流路61と平行に延在する第2直線流路部62aと、第2直線流路部62aの下流側に連なる細径流路部62bと、細径流路部62bの下流側に連なる円形のオフセット流路部62cと、を有している。オフセット流路部62cは、接着剤溜りを構成しており、このオフセット流路部62cに第2ノズル部25の第2注入流路55が連通している。なお、以降の説明では、第2接着剤流路62の第2直線流路部62aに対応して、第1接着剤流路61を第1直線流路部61aと称呼する場合がある。
【0046】
ノズルボディ22の先端部には、前方雄ネジ部71および環状接合部72が形成されており、環状接合部72の先端面には、円形の窪み部73が形成されている。この窪み部73は、封止部本体35の接合凹部46の端壁に対峙して密閉空間を構成し、この密閉空間により上記のオフセット流路部62cが構成されている。締結部36を前方雄ネジ部71に螺合すると、封止部本体35がノズルボディ22側に強く引き付けられる。これにより、ノズルボディ22の環状接合部72に封止部本体35の接合凹部46が強く密接し、オフセット流路部62cが封止される。
【0047】
また、ノズルボディ22の基端部には、後方雄ネジ部75が形成されており、後方雄ネジ部75の基端面には、円形の浅溝部76が形成されている。この浅溝部76は、ノズルボディ22に取り付けた上記の装着部21の内壁と対峙して密閉空間を構成し、この密閉空間により上記の共有接着剤流路63が構成されている。装着部21を後方雄ネジ部75に螺合すると、装着部21とノズルボディ22との間に介設され太径Oリング77により、共有接着剤流路63が封止される。
【0048】
ポンピングにより注入器本体11から送り込まれた接着剤Rは、共有接着剤流路63に流れ込み、更に共有接着剤流路63から分流して、第1接着剤流路61および第2接着剤流路62に導かれる。第1接着剤流路61に導かれた接着剤Rは、第1注入流路33を通って第1ノズル口32から吐出される。同様に、第2接着剤流路62に導かれた接着剤Rは、第2注入流路55を通って第2ノズル口56から吐出される。
【0049】
[流路切替え機構部]
流路切替え機構部66は、相互に平行に配設した第1直線流路部61a(第1接着剤流路61)および第2直線流路部62aに臨み、第1接着剤流路61と第2接着剤流路62とを選択的に流路切替え可能に構成されている。具体的には、流路切替え機構部66は、第1接着剤流路61を開放し且つ第2接着剤流路62を開放する全開放位置と、第1接着剤流路61を開放し且つ第2接着剤流路62を閉塞する第1開放位置と、第1接着剤流路61を閉塞し且つ第2接着剤流路62を開放する第2開放位置と、の間で接着剤Rの流路を切り替え得るようになっている。なお、第1直線流路部61aと第2直線流路部62aとは相互に平行に配設され、且つ同径に形成されている。
【0050】
流路切替え機構部66を全開放位置に切り替えると、接着剤Rは第1ノズル口32および第2ノズル口56から吐出され、第1開放位置に切り替えると、接着剤Rは第1ノズル口32からのみ吐出され、さらに第2開放位置に切り替えると、接着剤Rは第2ノズル口56からのみ吐出される。詳細は後述するが、外壁1における「浮き」の発生個所や数等に応じて、接着剤Rの注入形態を適宜変更できるようになっている。
【0051】
流路切替え機構部66は、第1直線流路部61aおよび第2直線流路部62aに直交し、内部周面壁に第1直線流路部61aおよび第2直線流路部62aが上下に開口した雌ネジ状の弁座部81と、弁座部81に螺合し、軸線廻りに回転操作される雄ネジ状の弁体部82と、を有している。弁体部82は、弁座部81に螺合する弁体部本体84と、弁体部本体84を回転操作するための操作摘み部85と、操作摘み部85を弁体部本体84に固定するユリヤネジ等の小ネジ86と、を有している。
【0052】
弁体部本体84には、第1直線流路部61aに対応する第1貫通孔87と、第2直線流路部62aに対応する第2貫通孔88と、が第1直線流路部61aおよび第2直線流路部62aの離間寸法分の距離を隔てて上下に、且つ軸線廻りに相互に直交するように貫通形成されている。第1貫通孔87は、第1直線流路部61aより細径に形成され、その開口縁部には2つの第1切欠き部87aが形成されている。同様に、第2貫通孔88は、第2直線流路部62aより細径に形成され、その開口縁部には2つの第2切欠き部88aが形成されている(いずれも
図5参照)。また、弁体部本体84の上部は、ノズルボディ22から露出しており、この部分に操作摘み部85が廻止め状態で係合し、且つ操作摘み部85は、小ネジ86により弁体部本体84に固定されている。
【0053】
ノズルボディ22から露出するように設けられた操作摘み部85は、弁体部本体84の位置からノズルボディ22の軸方向先方に延在しており(
図3(a)参照)、この状態(角度0°)が、上記の第1開放位置に対応している。そして、この第1開放位置から軸線廻りに角度45°回転させた位置が全開放位置に対応し、さらにこの全開放位置から軸線廻りに角度45°回転させた位置(第1開放位置から角度90°回転させた位置)が第2開放位置に対応している(
図5参照)。なお、詳細は後述するが、現場における使用頻度は、経験的に第1開放位置、全開放位置、第2開放位置の順となる。
【0054】
ノズルボディ22と操作摘み部85との間には、弁体部本体84に巻回するようにして弁部Oリング89が介設されている。弁部Oリング89は、操作摘み部85に押圧されて変形することにより、弁座部81と弁体部82との間隙を封止している。弁座部81と弁体部82とで構成される実施形態のネジ機構は、ピッチの短い1条ネジで構成されており、操作摘み部85を全開放位置、第1開放位置および第2開放位置の相互間における回転角度操作に際し、弁部Oリング89は変形状態を維持する。これにより、ポンピング時において、弁座部81と弁体部82との間隙からの接着剤Rの漏れが防止される。
【0055】
図5は、流路切替え機構部66の切替え操作を表している。同図に示すように、弁体部82に形成された第1貫通孔87と第2貫通孔88とは、軸線廻りにおいて相互に直交しており、また第1直線流路部61aおよび第2直線流路部62aは、ノズルボディ22の軸方向に延在している。3つの回転角度操作位置は、使用頻度の多い順に第1開放位置(
図5(a))、全開放位置(
図5(b))、第2開放位置(
図5(c))となっており、第1開放位置における操作摘み部85は、ノズルボディ22の軸方向に向いている(これが「デフォルト」角度0°)。
【0056】
第1開放位置において弁体部82は、第1貫通孔87が角度0°の方向を向き、第2貫通孔88が角度90°の方向を向いている(
図5(a)参照)。この状態では、第1切欠き部87aを含む第1貫通孔87が第1直線流路部61aに臨み、第1直線流路部61aは開放状態(連通状態)となる。一方、第2切欠き部88aを含む第2貫通孔88は第2直線流路部62aから外れ、第2直線流路部62aは閉塞状態(非連通状態)となる。したがって、接着剤Rは、第1直線流路部61aを介して第1ノズル部24(第1ノズル口32)からのみ吐出される。
【0057】
第1開放位置から操作摘み部85を角度45°左廻りに回転させた全開放位置では、弁体部82は、第1貫通孔87が角度45°の方向を向き、第2貫通孔88が角度逆45°の方向を向いている(
図5(b)参照)。この状態では、第1切欠き部87aを含む第1貫通孔87が第1直線流路部61aに臨むと共に、第2切欠き部88aを含む第2貫通孔88は第2直線流路部62aに臨む。これにより、第1直線流路部61aは開放状態(連通状態)となり、第2直線流路部62aも開放状態(連通状態)となる。したがって、接着剤Rは、第1直線流路部61aを介して第1ノズル部24(第1ノズル口32)から、および第2直線流路部62aを介して第2ノズル部25(第2ノズル口56)からそれぞれ吐出される。
【0058】
全開放位置から操作摘み部85を更に角度45°(第1開放位置から角度90°)左廻りに回転させた第2開放位置では、弁体部82は、第1貫通孔87が角度90°の方向を向き、第2貫通孔88が角度0°の方向を向いている(
図5(c)参照)。この状態では、第1直線流路部61aは閉塞状態(非連通状態)となり、第2直線流路部62aは開放状態(連通状態)となる。したがって、接着剤Rは、第2直線流路部62aを介して第2ノズル部25(第2ノズル口56)からのみ吐出される。なお、操作摘み部85は、ノズルボディ22の上面に設けた凸部22aの回転規制により左廻りに回転操作されるようになっているが、右廻りに回転操作されるものであってもよい。
【0059】
流路切替え機構部66の切替え操作は、例えば
図1において、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cのうち、第1浮き部6aおよび第2浮き部6bの2箇所に「浮き」が生じている場合には、操作摘み部85を第1開放位置に切り替えて、接着剤Rを第1ノズル部24からのみ吐出させる。また、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cの3箇所に「浮き」が生じている場合や、第1浮き部6aおよび第3浮き部6cの2箇所に「浮き」が生じている場合には、操作摘み部85を全開放位置に切り替えて、接着剤Rを第1ノズル部24および第2ノズル部25から吐出させる。
【0060】
また、この場合において、第3浮き部6cの容積が極端に大きい場合、全開放位置における接着剤Rの注入をある程度行った後、接着剤注入器10の注入姿勢を維持したまま、操作摘み部85を第2開放位置に切り替えて、接着剤Rの注入を続行する。すなわち、注入の最終段階で、接着剤Rを第2ノズル部25からのみ吐出させ、第3浮き部6cに接着剤Rを行き渡らせるようにする。
【0061】
[装着部]
図3および
図4に示すように、装着部21は、注入ノズル12を注入器本体11に装着する部位であり、ステンレスやスチール等で形成されている。装着部21は、ノズルボディ22の後方雄ネジ部75に螺合する有底円筒状の装着部本体91と、装着部本体91の外端面に突設した装着ネジ部92と、で一体に形成されている。また、装着部本体91および装着ネジ部92の軸心部には、連通流路93が形成されている。
【0062】
太径Oリング77を介在させた状態で、ノズルボディ22に装着部21を螺合すると、連通流路93の下流端が共有接着剤流路63に連通する。また、この状態で、装着ネジ部92を介して注入ノズル12を注入器本体11に螺合すると、注入ノズル12が注入器本体11に装着されると共に、連通流路93の上流端が注入器本体11(の送込み流路)に連通する。なお、
図3(a)中の符号94は、装着部21をノズルボディ22および注入器本体11に螺合するための工具掛け部である。
【0063】
[ノズル保持部]
ここで、
図6を参照して、ノズルボディ22に形成したノズル保持部64について説明する。上述のように、ノズルボディ22の内部には、第1接着剤流路61の下流端から同軸上に延びる嵌合孔65が形成され、この嵌合孔65により、第1ノズル部24をその基端部で保持するノズル保持部64が構成されている。また、第1ノズル部24は、その基端部で嵌合孔65に進退自在(スライド自在)に保持されている。第1接着剤流路61は、直線状に延在しており、第1接着剤流路61と第1注入流路33(第1ノズル部24)とは同軸上に配設されている。
【0064】
嵌合孔65に対し第1接着剤流路61は太径に形成され、嵌合孔65は、段部67を存して第1接着剤流路61に連なっている。そして、第1ノズル部24は、その規制部31が段部67に突き当たる位置と、上記の弁体部82に突き当たる位置との間で、嵌合孔65(ノズル保持部64)に進退自在に保持されている。すなわち、第1ノズル部24は、第2ノズル部25と同軸上において、ノズルボディ22の嵌合孔65(ノズル保持部64)に進退自在に且つがたつきなく保持されている。これにより、第1ノズル部24は、自由状態において前下がりに傾くことがなく、注入ノズル12の軸線上に延びている。
【0065】
[変形例]
ここで、
図7を参照して、第1実施形態におけるノズル保持部64の複数の変形例について説明する。これらの変形例では、第1ノズル部24を、ノズルボディ22側と開口封止部23側との2箇所において、第2ノズル部25と同軸上に且つ進退自在(スライド自在)に保持するようにしている。
【0066】
図7(a)の第1変形例におけるノズル保持部64Aは、ノズルボディ22に設けられた短尺嵌合孔101と、開口封止部23に設けられた複数の保持凸部102と、を有している。この場合、開口封止部23には、封止部本体35の内周面に基端側から嵌合するように長尺筒状体103が設けられており、この長尺筒状体103と第1ノズル部24との間隙に第2注入流路55が構成されている。そして、この長尺筒状体103に複数の保持凸部102が形成されている。
【0067】
短尺嵌合孔101は、第1ノズル部24と同軸上において上記の嵌合孔65よりも短く形成され、第1ノズル部24の基端部を保持している。一方、複数の保持凸部102は、長尺筒状体103の先端部において、周方向に均等配置された3つの内向き突起102aで構成されている。そして、3つの内向き突起102aは、第1ノズル部24の中間部を保持している。このように、第1変形例のノズル保持部64Aは、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上において2箇所で保持している。
【0068】
図7(b)の第2変形例におけるノズル保持部64Bは、ノズルボディ22に設けられた短尺嵌合孔101と、開口封止部23に設けられた複数の保持凸部102と、を有している。この場合、開口封止部23には、長尺筒状体103に代えて短尺筒状体105が設けられており、この短尺筒状体105に複数の保持凸部102が形成されている。
【0069】
短尺筒状体105は、第1変形例と同様に形成され、第1ノズル部24の基端部を保持している。一方、複数の保持凸部102は、短尺筒状体105の先端部において、周方向に均等配置された3つの内向き突起102aで構成されている。そして、3つの内向き突起102aは、第1ノズル部24の中間部を保持している。このように、第2変形例のノズル保持部64Bも、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上において2箇所で保持している。なお、第1変形例および第2変形例における3つの内向き突起102aは、軸方向に相互に位置ズレしたものであってもよい。また、各内向き突起102aは、第1ノズル部24に対し点接触であってもよいし、面接触であってもよい。
【0070】
図7(c)の第3変形例におけるノズル保持部64Cは、ノズルボディ22に設けられた短尺嵌合孔101と、開口封止部23に設けられた複数の保持凸部102と、を有している。短尺嵌合孔101は、第1変形例と同様に形成され、第1ノズル部24の基端部を保持している。一方、複数の保持凸部102は、開口封止部23の封止部本体35の内周面(遊嵌孔)において、周方向に均等配置された3つの内向き突条102bで構成されている。そして、3つの内向き突条102bは、封止部本体35と一体に形成され、第1ノズル部24の中間部を保持している。このように、第3変形例のノズル保持部64Cも、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上において2箇所で保持している。
【0071】
なお、3つの内向き突条102bは、上記の長尺筒状体103や短尺筒状体105に形成するものであってもよい。また、3つの内向き突条102bは、遊嵌孔47に比して短いものであってもよい。また、各内向き突条102bは、第1ノズル部24に対し線接触であってもよいし、面接触であってもよい。
【0072】
図7(d)の第4変形例におけるノズル保持部64Dは、ノズルボディ22に設けられた短尺嵌合孔101と、第1ノズル部24に設けられ3つの線状凸部107と、を有している。短尺嵌合孔101は、第1変形例と同様に形成され、第1ノズル部24の基端部を保持している。一方、3つの線状凸部107は、第1ノズル部24の中間部外周面にロウ接等により突設され、軸方向に平行に且つ周方向に均等配置されている。そして、3つの線状凸部107が、開口封止部23の封止部本体35の内周面に接触(摺接)することで、第1ノズル部24の中間部が封止部本体35に相対的に保持されている。このように、第4変形例のノズル保持部64Dも、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上において2箇所で保持している。
【0073】
[ピンニング工法]
次に、
図8を参照して、上記の接着剤注入器10を用いたピンニング工法について説明する。このピンニング工法では、前工程として、ハンマー等により外壁1を打鍵して第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cを探査し、下穴8の穿孔位置(タイルの中心部表面にマーキング)および穿孔深さが決定されているものとする。
【0074】
ピンニング工法は、外壁1を所定の深さまで穿孔して下穴8を形成する穿孔工程(
図8(a)参照)と、接着剤注入器10により、下穴8の開口部8aを封止しつつ下穴8に接着剤Rを注入する注入工程(
図8(b)および(c)参照)と、接着剤Rが注入された下穴8に、アンカーピン110を挿入・装着する装着工程(
図8(d)参照)と、を備えている。
【0075】
穿孔工程では、ダイヤモンドビットを装着した電動ドリル等の穿孔工具112を使用し、上記のマーキングに倣って外壁1に下穴8を穿孔する。具体的には、仕上げ材5(タイル)、張付けモルタル4および下地モルタル3を貫通してコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔し、下穴8を形成する(
図8(a)参照)。その際、穿孔は外壁1に対し直角に行い、コンクリート躯体2への穿孔深さは30mm以上とする。また、下穴8は、アンカーピン110が遊挿できるように、アンカーピン110よりも一回り大きい径(1〜2mm太径)とする。なお、後述するアンカーピン110を用いる場合には、この時点で、球形の研削ビットを用い、下穴8の開口部8aを面取りしておく。
【0076】
下穴8を形成した後には、下穴8に残った切削粉等をブロアー等の噴気で清掃し除去する。もっとも、穿孔に際し冷却水を用い、切削粉を冷却水と共に排水除去できる場合には、清掃は省略される。なお、この時点で内視鏡等を用い、下穴8を介して第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cを確認することが好ましい。なお、本実施形態では、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cが確認できたものとし、流路切替え機構部66を全開放位置に切替えて接着剤Rの注入を行うものとする。
【0077】
注入工程では、先ずノズルボディ22から第1ノズル部24を最大限引き出しておいて、第1ノズル部24を下穴8に挿入してゆく。この挿入の過程において、第1ノズル部24の先端が下穴8の穴底に到達すると、第1ノズル部24は相対的に後退してゆく。続いて、封止部本体35が下穴8の開口部8aに達し、そのテーパー部41により開口部8aが封止される。この状態では、第1ノズル部24の第1ノズル口32が下穴8の奥部に位置し、第2ノズル部25の第2ノズル口56が下穴8の開口部8a近傍に位置することとなる(
図8(b)参照)。
【0078】
ここで、注入器本体11の操作レバー17を操作(ポンピング)し、接着剤Rを注入ノズル12に送り込んで、下穴8への接着剤Rの注入を開始する(
図8(b)参照)。接着剤Rの注入を開始すると、接着剤Rは、第1ノズル部24の第1ノズル口32から吐出され、下穴8の奥部から満たされ、第1浮き部6aに円状に広がるようにして充填され、さらに第2浮き部6bに円状に広がるようにして充填されてゆく。同様に、接着剤Rは、第2ノズル部25の第2ノズル口56から吐出され、第3浮き部6cに円状に広がるようにして充填されてゆく(
図8(c)参照)。
【0079】
このようにして、接着剤Rが、下穴8、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cに行き渡ると、ポンピング操作が重くなり、接着剤Rが適切に注入されたことが体感される。ここで、開口封止部23を下穴8から引き離すと共に、第1ノズル部24を下穴8からゆっくり引き抜く。なお、本実施形態では、下穴8の奥部から接着剤Rの注入を行うため、奥部にエアー溜りが生ずることが無く、第1ノズル部24の引き抜きの際に、接着剤Rが下穴8の開口部8aから漏れ出ることもない。
【0080】
装着工程では、接着剤Rが注入された下穴8にアンカーピン110を挿入・装着する。この場合のアンカーピン110は、ピン軸部110aを全ネジとし、ピン頭部110bを皿状としたものが好ましい。また、ピン頭部110bは、仕上げ材5と同色に着色されたものが好ましい。下穴8に挿入したアンカーピン110は、そのピン頭部110bが開口部8aの面取り部分に没入し、その天面が仕上げ材5の表面と面一となったところで、装着を完了する(
図8(d)参照)。なお、この面一は、好ましくは挿入の最終段階で、ピン頭部110bにヘラ等を突き当て押し込むことで達成される。そして、アンカーピン110の装着が完了したら、接着剤Rが硬化するまで養生を行う。
【0081】
以上のように、第1実施形態によれば、第1ノズル部24により下穴8の奥側から接着剤Rの注入が行われると共に、第2ノズル部25により下穴8の手前側から接着剤Rの注入が行われる。したがって、下穴8は元より、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cにも、接着剤Rを適切に注入することができる。また、第1ノズル部24を進退自在に保持するノズル保持部64により、第2注入流路55を維持しつつ第1ノズル部24が第2ノズル部25と同軸上に保持されている。このため、第1ノズル部24が前下がりに傾くことがなく、開口封止部23から突出した第1ノズル部24の下穴8への挿入に際し狙いが定めやすく、先端が下穴8の内壁につかえる等の不具合を抑制することができる。
【0082】
[第2実施形態]
次に、
図9を参照して、第2実施形態に係る注入ノズル12Aについて説明する。なお、第2実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。第2実施形態の注入ノズル12Aは、第1ノズル部24および第2ノズル部25から接着剤Rを吐出可能に構成されているものの、上記のような流路切替え機構部66がなく、単純な構造を有している。
【0083】
図9に示すように、注入ノズル12Aは、第1実施形態のノズルボディ22と装着部21とを兼ねるボディ27と、ボディ27の先端部に取り付けられた開口封止部23と、開口封止部23に保持され、開口封止部23を軸方向に貫通して先方に延びる第1ノズル部24と、第1ノズル部24と開口封止部23との間隙に構成された第2ノズル部25と、を備えている。そして、開口封止部23、第1ノズル部24および第2ノズル部25は、第1実施形態のものと同様の形態を有している。
【0084】
もっとも、本実施形態の開口封止部23は、封止部本体35の内周面に嵌合した筒状体120を有しており、この筒状体120と第1ノズル部24との間隙に第2注入流路55が構成されている。筒状体120は、ステンレスやスチール等の金属、或いは硬質のプラスチックで構成されている。そして、詳細は後述するが、この場合のノズル保持部64Eは、この筒状体120に形成されている。
【0085】
ボディ27は、ステンレスやスチール等で略円柱状に形成されている。ボディ27の内部には、その軸心部に、第1ノズル部24の第1注入流路33に連通すると共に第2ノズル部25の第2注入流路55に連通する接着剤流路122が形成されている。接着剤流路122は、第1注入流路33および第2注入流路55と同軸上において、ボディ27を軸方向に貫くように形成されている。接着剤流路122は、第1ノズル部24の規制部31よりも太径に形成され、第2注入流路55は、第1ノズル部24の規制部31よりも僅かに細径に形成されている。したがって、第1ノズル部24は、その規制部31が筒状体120の基端に突き当たることで、前進端位置が規制(抜止め)されている。
【0086】
ボディ27の先端部には、前方雄ネジ部71および円形接合部124が形成されている。開口封止部23の締結部36を前方雄ネジ部71に螺合すると、封止部本体35がボディ27側に強く引き付けられる。これにより、ボディ27の円形接合部124に封止部本体35の接合凹部46が強く密接し、接着剤流路122と第2注入流路55とが連通すると共にその相互の境界部分が封止される。また、ボディ27の基端部には、第1実施形態と同様に装着ネジ部92が形成されている。
【0087】
ポンピングにより注入器本体11から送り込まれた接着剤Rは、接着剤流路122に送り込まれる。接着剤流路122に送り込まれた接着剤Rは、第1注入流路33を通って第1ノズル口32から吐出され、且つ第2注入流路55を通って第2ノズル口56から吐出される。
【0088】
[ノズル保持部]
ここで、
図10を照して、開口封止部23に形成したノズル保持部64Eについて説明する。上述のように、開口封止部23の封止部本体35には、同軸上において筒状体120が嵌合しており、筒状体120に第1ノズル部24を進退自在に保持するノズル保持部64Eが形成されている。ノズル保持部64Eは、軸方向に離間して配設された2組の突起群126を有し、各組の突起群126は、周方向に均等配置した3つの突起126aで構成されている。
【0089】
すなわち、第1ノズル部24は、第2ノズル部25と同軸上において、筒状体120に形成した2組、且つ各組宛て3つの突起126aから成るノズル保持部64Eに進退自在に保持されている。これにより、第1ノズル部24は、自由状態において前下がりに傾くことがない。なお、各突起126aは、第1ノズル部24に対し点接触であってもよいし、面接触であってもよい。
【0090】
[変形例]
ここで、
図11を参照して、第2実施形態におけるノズル保持部64Eの複数の変形例について説明する。これらの変形例では、第1ノズル部24を、開口封止部23において第2ノズル部25と同軸上に且つ進退自在(スライド自在)に保持するようにしている。
【0091】
図11(a)の第1変形例におけるノズル保持部64Fは、開口封止部23の筒状体120に形成した複数の保持凸部102を有している。複数の保持凸部102は、筒状体120の内周面において、周方向に均等配置された3つの内向き突条102bで構成されている。3つの内向き突条102bは、第1ノズル部24の基端側を保持している。このように、第1変形例のノズル保持部64Fは、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上において進退自在に保持している。なお、各内向き突条102bは、第1ノズル部24に対し線接触であってもよいし、面接触であってもよい。
【0092】
図11(b)の第2変形例におけるノズル保持部64Gは、開口封止部23の筒状体120に形成した複数の保持凸部102を有している。この場合の複数の保持凸部102は、筒状体120の内周面において、周方向に散在的に且つ軸方向に位置ズレして配置された複数の内向き突起102a(実施形態のものは、螺旋状を為すように配設した7つの内向き突起102a)で構成されている。この場合も、ノズル保持部64Gは、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上において進退自在に保持している。なお、複数の内向き突起102aは、筒状体120の全域に散在していればよく、その数は任意である。また、内向き突起102aは、第1ノズル部24に対し点接触であってもよいし、面接触であってもよい。
【0093】
図11(c)の第3変形例におけるノズル保持部64Hは、開口封止部23の封止部本体35に形成した複数の保持凸部102を有している。この変形例では、筒状体120は設けられておらず、複数の保持凸部102は、封止部本体35の内周面に突設されている。そして、複数の保持凸部102は、第1変形例と同様に、周方向に均等配置された3つの内向き突条102bで構成されている。この場合も、ノズル保持部64Hは、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上において進退自在に保持している。なお、各内向き突条102bは、第1ノズル部24に対し線接触であってもよいし、面接触であってもよい。
【0094】
以上のように、第2実施形態によれば、第1ノズル部24により下穴8の奥側から接着剤Rの注入が行われると共に、第2ノズル部25により下穴8の手前側から接着剤Rの注入が行われる。したがって、下穴8は元より、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cにも、接着剤Rを適切に注入することができる。また、第1ノズル部24を進退自在に保持するノズル保持部64Eにより、第2注入流路55を維持しつつ第1ノズル部24が第2ノズル部25と同軸上に保持されている。このため、開口封止部23から突出した第1ノズル部24の下穴8への挿入に際し狙いが定めやすく、先端が下穴8の内壁につかえる等の不具合を抑制することができる。
【0095】
[第3実施形態]
次に、
図12を参照して、第3実施形態に係る注入ノズル12Bについて説明する。なお、第3実施形態でも、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。第3実施形態の注入ノズル12Bは、第1ノズル部24および第2ノズル部25から接着剤Rを吐出可能に構成されているものの、上記のような流路切替え機構部66がなく、第2実施形態と同様に単純な構造を有している。
【0096】
図12に示すように、注入ノズル12Bは、第1実施形態のノズルボディ22と装着部21とを兼ねるボディ27と、ボディ27の先端部に取り付けられた開口封止部23と、ボディ27に支持され、開口封止部23を軸方向に貫通して先方に延びる第1ノズル部24と、第1ノズル部24と開口封止部23との間隙に構成された第2ノズル部25と、を備えている。そして、開口封止部23、第1ノズル部24および第2ノズル部25は、第1実施形態のものと同様の形態を有している。また、第1ノズル部24の内部に第1注入流路33が構成されると共に、開口封止部23(封止部本体35)と第1ノズル部24との間隙に第2注入流路55が構成されている。詳細は後述するが、この場合のノズル保持部64Jは、第1実施形態と同様にボディ27に形成されている。
【0097】
ボディ27は、ステンレスやスチール等で略円柱状に形成されている。ボディ27の内部には、その軸心部に、ボディ27を軸方向に貫くように接着剤流路122が形成されている。この場合の接着剤流路122は、注入器本体11に連通する流入流路131と、流入流路131に連通するボディ内流路132と、ボディ内流路132に連通する接着剤溜り流路133と、を有している。流入流路131は、第1ノズル部24の規制部31よりも太径に形成されており、第1ノズル部24は、流入流路131の長さ分の範囲で進退可能に構成されている。また、流入流路131は、第1ノズル部24の第1注入流路33に連通している。
【0098】
ボディ内流路132は、第1ノズル部24が保持されている嵌合孔65Aに沿って延びる3つの個別流路部135を有している。3つの個別流路部135は、嵌合孔65Aの周囲において相互に120°の角度を存して配設され、それぞれの径方向の基部が嵌合孔65Aに連通している(
図13(b)参照)。すなわち、3つの個別流路部135は、嵌合孔65Aの外側において周方向に均等配置され、且つ接着剤溜り流路133の位置まで嵌合孔65Aと平行に延在している。また、ボディ内流路132は、接着剤溜り流路133を介して、第2ノズル部25の第2注入流路55に連通している。接着剤溜り流路133は、第1実施形態のオフセット流路部62cと同様に、ボディ27の先端部に形成した窪み部73と封止部本体35の接合凹部46の端壁との間に構成されている。そして、接着剤溜り流路133が第2注入流路55に直接連通している。
【0099】
ポンピングにより注入器本体11から送り込まれた接着剤Rは、流入流路131に送り込まれる。流入流路131に送り込まれた接着剤Rは、ここで分流し、一方の接着剤Rは、第1注入流路33を通って第1ノズル口32から吐出される。また、他方の接着剤Rは、流入流路131からボディ内流路132(3つの個別流路部135)、接着剤溜り流路133および第2注入流路55を通って、第2ノズル口56から吐出される。
【0100】
[ノズル保持部]
ここで、
図13を照して、ボディ27に形成したノズル保持部64Jについて説明する。上述のように、ノズル保持部64Jは、第1実施形態と同様に、第1ノズル部24(第1注入流路33)と同軸上においてボディ27に形成された嵌合孔65Aにより構成されている。嵌合孔65Aには、これと平行に延びる3つの個別流路部135から成るボディ内流路132が併設されており、実質上のノズル保持部64Jは、この3つの個別流路部135の連通部分を除した周方向に不連続となる嵌合孔65Aの部分で構成されている。
【0101】
すなわち、この場合のノズル保持部64Jは、嵌合孔65Aの周壁のうちの3箇所の断面円弧部分で構成されている。言い換えれば、ノズル保持部64Jは、嵌合孔65Aの一部であり、第1ノズル部24に面接触する3つの突条65Aa(3箇所の断面円弧部分)で構成されている。3箇所の断面円弧部分(3つの突条65Aa)は、周方向に均等配置されており、第1ノズル部24をがたつきなく保持している。これにより、第1ノズル部24は、第2ノズル部25と同軸上において、ノズル保持部64Jに進退自在に保持され、自由状態において前下がりに傾くことがない。
【0102】
以上のように、第3実施形態によれば、第1ノズル部24により下穴8の奥側から接着剤Rの注入が行われると共に、第2ノズル部25により下穴8の手前側から接着剤Rの注入が行われる。したがって、下穴8は元より、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cにも、接着剤Rを適切に注入することができる。また、第1ノズル部24を進退自在に保持するノズル保持部64Jにより、第2注入流路55を維持しつつ第1ノズル部24が第2ノズル部25と同軸上に保持されている。このため、開口封止部23から突出した第1ノズル部24の下穴8への挿入に際し狙いが定めやすく、先端が下穴8の内壁につかえる等の不具合を抑制することができる。
【0103】
なお、第3実施形態では、嵌合孔65Aの周壁で構成されたノズル保持部64Jを、ボディ27に形成しているが、これを開口封止部23(封止部本体35)に形成してもよい。また、ノズル保持部64Jをボディ27および開口封止部23の2箇所に形成してもよい。かかる場合において、開口封止部23に形成されるノズル保持部64Jには、3つの個別流路部135からなる第2注入流路55が併設されることとなる。
【0104】
以上、3つの実施形態における注入ノズル12,12A,12Bは、作業後の洗浄(溶剤により接着剤Rを洗い落とす)を考慮して、封止部本体35以外の主な構成部品をステンレス等の金属材料で形成することとしている。しかし、この主な構成部品は、溶剤に対し耐薬品性を有する材料であれば、プラスチックやセラミック等で形成することも可能である。
【解決手段】 内部に接着剤流路61,62を有するノズルボディ22と、ノズルボディ22の先端部に取り付けられた開口封止部23と、ノズルボディ22から開口封止部23を貫通して先方に延び、内部に接着剤流路61に連通する第1注入流路33を有する第1ノズル部24と、第1ノズル部24と開口封止部23との間隙に接着剤流路62に連通する第2注入流路55を有する第2ノズル部25と、第1ノズル部24を、第2ノズル部25と同軸上に保持するノズル保持部64と、を備えたものである。