特許第6557906号(P6557906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ホリ・コンの特許一覧

特許6557906ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法
<>
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000002
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000003
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000004
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000005
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000006
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000007
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000008
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000009
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000010
  • 特許6557906-ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6557906
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   E04G23/02 B
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-59402(P2019-59402)
(22)【出願日】2019年3月26日
【審査請求日】2019年3月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503032795
【氏名又は名称】株式会社ホリ・コン
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】特許業務法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 宏一郎
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3759157(JP,B1)
【文献】 特開2011−026798(JP,A)
【文献】 特開2011−094392(JP,A)
【文献】 特開2002−121902(JP,A)
【文献】 特開2014−070451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入器本体に装着して用いられ、壁体を所定の深さまで穿孔した下穴に、その開口部を封止しながら接着剤を注入するピンニング工法用の注入ノズルであって、
前記下穴の奥部に臨む第1ノズル口と、
前記下穴の前記開口部近傍に臨む第2ノズル口と、
前記第1ノズル口に連通する第1接着剤流路と、
前記第2ノズル口に連通する第2接着剤流路と、
前記第1接着剤流路および前記第2接着剤流路のうち、前記第2接着剤流路のみを開閉する第2開閉弁機構と、を備えたことを特徴とするピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項2】
上流側を前記注入器本体に連通し、下流側を前記第1接着剤流路および前記第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、
前記第1ノズル口を有すると共に、前記第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、
前記第2ノズル口を有すると共に、前記第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、
前記第1ノズル部および前記第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、
前記第2接着剤流路および前記共有接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ、
前記第2開閉弁機構は、第2操作部を前記ノズルボディの外部に露出した状態で、前記第2接着剤流路に介設されていることを特徴とする請求項1に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項3】
前記第2開閉弁機構は、
前記第2接着剤流路に直交し、内部周面壁に前記第2接着剤流路が開口する円柱空間状の弁座部と、前記弁座部に嵌合し、前記第2操作部により軸線廻りに回転操作されて前記第2接着剤流路を開閉する弁体部と、を有していることを特徴とする請求項2に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項4】
前記第2開閉弁機構は、
前記第2接着剤流路に直交し、内部周面壁に前記第2接着剤流路が開口する円柱空間状の弁座部と、前記弁座部に嵌合し、前記第2操作部により軸方向に進退操作されて前記第2接着剤流路を開閉する円柱状の弁体部と、を有していることを特徴とする請求項2に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項5】
上流側を前記注入器本体に連通し、下流側を前記第1接着剤流路および前記第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、
前記第1ノズル口を有すると共に、前記第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、
前記第2ノズル口を有すると共に、前記第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、
前記第1ノズル部および前記第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、
前記共有接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ、
前記第2接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ前記第2注入流路に連通する第2下流側流路部と、前記ノズルボディの内部に設けられ前記共有接着剤流路に連通する第2上流側流路部と、前記ノズルボディの外部に設けられ前記第2下流側流路部と前記第2上流側流路部とを連通する第2ボディ外流路部と、を有し、
前記第2開閉弁機構は、前記第2ボディ外流路部に介設されていることを特徴とする請求項1に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項6】
上流側を前記注入器本体に連通し、下流側を前記第1接着剤流路および前記第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、
前記第1ノズル口を有すると共に、前記第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、
前記第2ノズル口を有すると共に、前記第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、
前記第1ノズル部および前記第2ノズル部を保持するノズルボディと、
前記注入器本体と前記ノズルボディとの間に介設された接続継手部と、を備え、
前記共有接着剤流路は、前記接続継手部の内部に設けられ、
前記第2接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ前記第2注入流路に連通する第2下流側流路部と、前記接続継手部の内部に設けられ前記共有接着剤流路に連通する第2継手内流路部と、前記ノズルボディおよび前記接続継手部の外部に設けられ前記第2下流側流路部と前記第2継手内流路部とを連通する第2直結流路部と、を有し、
前記第2開閉弁機構は、前記第2直結流路部に介設されていることを特徴とする請求項1に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項7】
前記第1接着剤流路のみを開閉する第1開閉弁機構を、更に備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項8】
上流側を前記注入器本体に連通し、下流側を前記第1接着剤流路および前記第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、
前記第1ノズル口を有すると共に、前記第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、
前記第2ノズル口を有すると共に、前記第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、
前記第1ノズル部および前記第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、
前記第1接着剤流路および前記共有接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ、
前記第1開閉弁機構は、第1操作部を前記ノズルボディの外部に露出した状態で、前記第1接着剤流路に介設されていることを特徴とする請求項7に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項9】
上流側を前記注入器本体に連通し、下流側を前記第1接着剤流路および前記第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、
前記第1ノズル口を有すると共に、前記第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、
前記第2ノズル口を有すると共に、前記第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、
前記第1ノズル部および前記第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、
前記共有接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ、
前記第1接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ前記第1注入流路に連通する第1下流側流路部と、前記ノズルボディの内部に設けられ前記共有接着剤流路に連通する第1上流側流路部と、前記ノズルボディの外部に設けられ前記第1下流側流路部と前記第1上流側流路部とを連通する第1ボディ外流路部と、を有し、
前記第1開閉弁機構は、前記第1ボディ外流路部に介設されていることを特徴とする請求項7に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項10】
上流側を前記注入器本体に連通し、下流側を前記第1接着剤流路および前記第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、
前記第1ノズル口を有すると共に、前記第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、
前記第2ノズル口を有すると共に、前記第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、
前記第1ノズル部および前記第2ノズル部を保持するノズルボディと、
前記注入器本体と前記ノズルボディとの間に介設された接続継手部と、を備え、
前記共有接着剤流路は、前記接続継手部の内部に設けられ、
前記第1接着剤流路は、前記ノズルボディの内部に設けられ前記第1注入流路に連通する第1下流側流路部と、前記接続継手部の内部に設けられ前記共有接着剤流路に連通する第1継手内流路部と、前記ノズルボディおよび前記接続継手部の外部に設けられ前記第1下流側流路部と前記第1継手内流路部とを連通する第1直結流路部と、を有し、
前記第1開閉弁機構は、前記第1直結流路部に介設されていることを特徴とする請求項7に記載のピンニング工法用の注入ノズル。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載のピンニング工法用の注入ノズルと、前記注入ノズルが着脱自在に装着された前記注入器本体と、から成る接着剤注入器を用い、前記壁体を補修するピンニング工法であって、
前記壁体を所定の深さまで穿孔して前記下穴を形成する穿孔工程と、
前記接着剤注入器により、前記下穴の開口部を封止しつつ前記下穴に接着剤を注入する注入工程と、
接着剤が注入された前記下穴に、アンカーピンを挿入・装着する装着工程と、を備えたことを特徴とするピンニング工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる「浮き」が生じた外壁や内壁等の壁体の補修に使用されるピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の注入ノズルとして、壁体に形成した挿填穴に接着剤を注入するための第1注入流路および第2注入流路の2つの注入流路を有するものが知られている(特許文献1参照)。
この注入ノズルは、注入器本体に装着され、内部に注入器本体に連なる接着剤流路を有するノズルボディと、ノズルボディの先端から突出するように且つ進退自在に設けられ、接着剤流路に連通するノズル内筒と、を備えている。また、ノズルボディは、間隙を存してノズル内筒を保持するノズル外筒と、ノズル外筒を囲繞する共に挿填穴の開口部を封止する封止部材と、を有している。そして、ノズル内筒の内部には第1注入流路が構成され、ノズル内筒の先端には第1注入流路に連なる吐出口が形成されている。また、ノズル内筒とノズル外筒との間隙には第2注入流路が構成され、ノズル外筒の先端には第2注入流路に連なる漏出口が形成されている。
封止部材により挿填穴の開口部を封止しつつ挿填穴に接着剤を注入してゆくと、接着剤は、第1注入流路を通ってノズル内筒の吐出口から吐出され、挿填穴の最深部から徐々に満たされてゆく。また、接着剤は、第2注入流路を通ってノズル外筒の漏出口から吐出され、挿填穴の手前から満たされてゆく。これにより、接着剤は、挿填穴に充填されると共に、挿填穴に連なる複数の「浮き部」にも充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3759157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ピンニングの対象となる壁体において、例えば外壁では、コンクリート躯体と下地モルタルとの界面、下地モルタルと張付けモルタルとの界面、張付けモルタルとタイルとの界面に、それぞれ「浮き部」が生ずる可能性がある。このため、現場によって「浮き部」の発生個所や発生数が区々となり、これら界面の一箇所のみ「浮き部」が生じている場合のみならず、複数個所に「浮き部」が生じている場合も珍しくはない。
一方、従来のピンニング工法用の注入ノズルでは、接着剤が、第1注入流路に連なるノズル内筒の吐出口から吐出されると共に、第2注入流路に連なるノズル外筒の漏出口から吐出される。このため、張付けモルタルとタイルとの界面を含む複数個所に「浮き部」が生じている壁体に対し、接着剤を効率良く注入することができる。しかし、張付けモルタルとタイルとの界面に「浮き部」が生じていない場合や、逆にこの部分の「浮き部」の容積が大きい場合(例えば、大型タイルや規格石の「ダンゴ張り」)には、接着剤を効率良く注入することができない問題があった。
【0005】
本発明は、壁体に生ずる「浮き部」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤を効率良く注入することができるピンニング工法用の注入ノズルおよびこれを用いたピンニング工法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のピンニング工法用の注入ノズルは、注入器本体に装着して用いられ、壁体を所定の深さまで穿孔した下穴に、その開口部を封止しながら接着剤を注入するピンニング工法用の注入ノズルであって、下穴の奥部に臨む第1ノズル口と、下穴の開口部近傍に臨む第2ノズル口と、第1ノズル口に連通する第1接着剤流路と、第2ノズル口に連通する第2接着剤流路と、第1接着剤流路および第2接着剤流路のうち、第2接着剤流路のみを開閉する第2開閉弁機構と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、第2開閉弁機構を「開」としておいて、注入器本体から接着剤を送り込むと、接着剤は、第1接着剤流路を介して第1ノズル口から吐出されると共に、第2接着剤流路を介して第2ノズル口から吐出される。これにより、下穴の奥部および下穴の開口部近傍から接着剤を注入することができる。また、第2開閉弁機構を「閉」としておいて、注入器本体から接着剤を送り込むと、接着剤は、第1接着剤流路を介して第1ノズル口のみから吐出される。これにより、下穴の奥部からのみ接着剤を注入することができる。
したがって、壁体において、下穴の開口部近傍を含む複数個所に「浮き部」が発生している場合には、第2開閉弁機構を「開」とし、下穴の開口部近傍に「浮き部」が発生していない場合には、第2開閉弁機構を「閉」とて、接着剤の注入を行うことができる。このように、壁体に生ずる「浮き部」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤を効率良く注入することができる。
【0008】
この場合、上流側を注入器本体に連通し、下流側を第1接着剤流路および第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、第1ノズル口を有すると共に、第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、第2ノズル口を有すると共に、第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、第1ノズル部および第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、第2接着剤流路および共有接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ、第2開閉弁機構は、第2操作部をノズルボディの外部に露出した状態で、第2接着剤流路に介設されていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、第1ノズル部に連なる第1接着剤流路および第2ノズル部に連なる第2接着剤流路が形成されたノズルボディに、第2開閉弁機構を作り込むことで、第2開閉弁機構を簡単に構成することができる。
【0010】
この場合、第2開閉弁機構は、第2接着剤流路に直交し、内部周面壁に第2接着剤流路が開口する円柱空間状の弁座部と、弁座部に嵌合し、第2操作部により軸線廻りに回転操作されて第2接着剤流路を開閉する弁体部と、を有していることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、弁体部を軸線廻りに回転操作するだけで、第2接着剤流路を開閉することができる。また、第2開閉弁機構を、部品点数の少ない簡単な構造とすることができ、注入作業後の分解、洗浄、組立を容易に行うことができる。
なお、弁体部は、貫通孔を有するコック形式であってもよいし、仕切り板を有するゲート弁形式であってもよい。
【0012】
同様に、第2開閉弁機構は、第2接着剤流路に直交し、内部周面壁に第2接着剤流路が開口する円柱空間状の弁座部と、弁座部に嵌合し、第2操作部により軸方向に進退操作されて第2接着剤流路を開閉する円柱状の弁体部と、を有していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、弁体部を軸方向に進退操作するだけで、第2接着剤流路を開閉することができる。また、第2開閉弁機構を、部品点数の少ない簡単な構造とすることができ、注入作業後の分解、洗浄、組立を容易に行うことができる。
【0014】
また、上流側を注入器本体に連通し、下流側を第1接着剤流路および第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、第1ノズル口を有すると共に、第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、第2ノズル口を有すると共に、第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、第1ノズル部および第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、共有接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ、第2接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ第2注入流路に連通する第2下流側流路部と、ノズルボディの内部に設けられ共有接着剤流路に連通する第2上流側流路部と、ノズルボディの外部に設けられ第2下流側流路部と第2上流側流路部とを連通する第2ボディ外流路部と、を有し、第2開閉弁機構は、第2ボディ外流路部に介設されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、第2開閉弁機構が、ノズルボディの外部に設けられた第2ボディ外流路部に介設されているため、故障や機種変更等による第2開閉弁機構の付け替えを容易に行うことができる。
【0016】
同様に、上流側を注入器本体に連通し、下流側を第1接着剤流路および第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、第1ノズル口を有すると共に、第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、第2ノズル口を有すると共に、第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、第1ノズル部および第2ノズル部を保持するノズルボディと、注入器本体とノズルボディとの間に介設された接続継手部と、を備え、共有接着剤流路は、接続継手部の内部に設けられ、第2接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ第2注入流路に連通する第2下流側流路部と、接続継手部の内部に設けられ共有接着剤流路に連通する第2継手内流路部と、ノズルボディおよび接続継手部の外部に設けられ第2下流側流路部と第2継手内流路部とを連通する第2直結流路部と、を有し、第2開閉弁機構は、第2直結流路部に介設されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、第2開閉弁機構が、ノズルボディおよび接続継手部の外部に設けられた第2直結流路部に介設されているため、故障や機種変更等による第2開閉弁機構の付け替えを容易に行うことができる。
【0018】
一方、第1接着剤流路のみを開閉する第1開閉弁機構を、更に備えることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、第1開閉弁機構を「開」とし且つ第2開閉弁機構を「開」としておいて、注入器本体から接着剤を送り込むと、接着剤は、第1接着剤流路を介して第1ノズル口から吐出されると共に、第2接着剤流路を介して第2ノズル口から吐出される。これにより、下穴の奥部および下穴の開口部近傍から接着剤を注入することができる。また、第1開閉弁機構を「開」とし且つ第2開閉弁機構を「閉」としておいて、注入器本体から接着剤を送り込むと、接着剤は、第1接着剤流路を介して第1ノズル口のみから吐出される。これにより、下穴の奥部からのみ接着剤を注入することができる。また、第1開閉弁機構を「閉」とし且つ第2開閉弁機構を「開」としておいて、注入器本体から接着剤を送り込むと、接着剤は、第2接着剤流路を介して第2ノズル口のみから吐出される。これにより、下穴の開口部近傍からのみ接着剤を注入することができる。
したがって、壁体において、下穴の開口部近傍を含む複数個所に「浮き部」が発生している場合には、第1開閉弁機構を「開」且つ第2開閉弁機構を「開」とし、下穴の開口部近傍に「浮き部」が発生していない場合には、第1開閉弁機構を「開」且つ第2開閉弁機構を「閉」とし、接着剤の注入を行うことができる。さらに、下穴の開口部近傍に生じた「浮き部」の容積が大きい場合には、第1開閉弁機構を「開」且つ第2開閉弁機構を「開」とした注入作業の、注入途中から第1開閉弁機構を「閉」且つ第2開閉弁機構を「開」とし、接着剤の注入を行うことができる。このように、壁体に生ずる「浮き部」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤を効率良く注入することができる。
【0020】
この場合、上流側を注入器本体に連通し、下流側を第1接着剤流路および第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、第1ノズル口を有すると共に、第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、第2ノズル口を有すると共に、第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、第1ノズル部および第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、第1接着剤流路および共有接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ、第1開閉弁機構は、第1操作部をノズルボディの外部に露出した状態で、第1接着剤流路に介設されていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、第1ノズル部に連なる第1接着剤流路および第2ノズル部に連なる第2接着剤流路が形成されたノズルボディに、第1開閉弁機構を作り込むことで、第1開閉弁機構を簡単に構成することができる。
【0022】
同様に、上流側を注入器本体に連通し、下流側を第1接着剤流路および第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、第1ノズル口を有すると共に、第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、第2ノズル口を有すると共に、第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、第1ノズル部および第2ノズル部を保持するノズルボディと、を備え、共有接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ、第1接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ第1注入流路に連通する第1下流側流路部と、ノズルボディの内部に設けられ共有接着剤流路に連通する第1上流側流路部と、ノズルボディの外部に設けられ第1下流側流路部と第1上流側流路部とを連通する第1ボディ外流路部と、を有し、第1開閉弁機構は、第1ボディ外流路部に介設されていることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、第1開閉弁機構が、ノズルボディの外部に設けられた第1ボディ外流路部に介設されているため、故障や機種変更等による第1開閉弁機構の付け替えを容易に行うことができる。
【0024】
同様に、上流側を注入器本体に連通し、下流側を第1接着剤流路および第2接着剤流路に連通する共有接着剤流路と、第1ノズル口を有すると共に、第1接着剤流路に連通する第1注入流路を有する第1ノズル部と、第2ノズル口を有すると共に、第2接着剤流路に連通する第2注入流路を有する第2ノズル部と、第1ノズル部および第2ノズル部を保持するノズルボディと、注入器本体とノズルボディとの間に介設された接続継手部と、を備え、共有接着剤流路は、接続継手部の内部に設けられ、第1接着剤流路は、ノズルボディの内部に設けられ第1注入流路に連通する第1下流側流路部と、接続継手部の内部に設けられ共有接着剤流路に連通する第1継手内流路部と、ノズルボディおよび接続継手部の外部に設けられ第1下流側流路部と第1継手内流路部とを連通する第1直結流路部と、を有し、第1開閉弁機構は、第1直結流路部に介設されていることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、第1開閉弁機構が、ノズルボディおよび接続継手部の外部に設けられた第1直結流路部に介設されているため、故障や機種変更等による第1開閉弁機構の付け替えを容易に行うことができる。
【0026】
本発明のピンニング工法は、上記したピンニング工法用の注入ノズルと、注入ノズルが着脱自在に装着された注入器本体と、から成る接着剤注入器を用い、壁体を補修するピンニング工法であって、壁体を所定の深さまで穿孔して下穴を形成する穿孔工程と、接着剤注入器により、下穴の開口部を封止しつつ下穴に接着剤を注入する注入工程と、接着剤が注入された下穴に、アンカーピンを挿入・装着する装着工程と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、壁体の要補修箇所に下穴を穿孔した後、接着剤注入器により下穴に接着剤を注入する。その際、壁体におけるの「浮き部」の数や発生個所等の性状に合わせて、第1ノズル部および第2ノズル部から接着剤を注入する場合と、第1ノズル部からのみ接着剤を注入する場合と、の2通りの注入形態のうちから適切な注入形態を執ることができる。したがって、接着剤の下穴への充填および「浮部」への充填を、壁体の性状に合わせて適切且つ効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係る注入ノズルと外壁との関係を表した断面模式図である。
図2】第1実施形態に係る注入ノズルを含む接着剤注入器の側面図である。
図3】第1実施形態に係る注入ノズルの裁断側面図である。
図4】第1実施形態の変形例に係る注入ノズルの第2開閉弁機構廻りの構造図であって、第2接着剤流路を「開」とした図(a)、および第2接着剤流路を「閉」とした図(b)である。
図5】第1接着剤流路を「開」、第2接着剤流路を「開」として行われるピンニング工法の作業手順(a)、作業手順(b)、作業手順(c)、作業手順(d)を表した説明図である。
図6】上記作業手順(b)において、注入形態が異なる場合の説明図であって、第1接着剤流路を「開」、第2接着剤流路を「閉」とした注入形態の図(a)、および第1接着剤流路を「閉」、第2接着剤流路を「開」とした注入形態の図(b)である。
図7】第2実施形態に係る注入ノズルの第2開閉弁機構廻りの構造図であって、第2接着剤流路を「閉」とした図(a)、および第2接着剤流路を「開」とした図(b)である。
図8】第2実施形態の変形例に係る注入ノズルの第2開閉弁機構廻りの構造図であって、第2接着剤流路を「閉」とした図(a)、および第2接着剤流路を「開」とした図(b)である。
図9】第3実施形態に係る注入ノズルの裁断側面図である。
図10】第4実施形態に係る注入ノズルの接続継手部廻りの裁断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るピンニング工法用の注入ノズル(以下、単に「注入ノズル」と言う)およびこれを用いたピンニング工法について説明する。ピンニング工法における注入ノズルは、これが装着される注入器本体と共に、接着剤を下穴に注入するための接着剤注入器を構成する。ピンニング工法は、「浮き」が生じた建物の外壁や内壁等の壁体の要補修箇所に下穴を穿孔し、この下穴に接着剤注入器を用いて接着剤を注入し、その後、下穴にアンカーピンを装填して、これを補修する(剥落防止)ものである。以下、建物の外壁を例に、これを補修する場合について説明する。
【0030】
[第1実施形態]
図1は、外壁と接着剤注入器との関係を表した断面模式図である。同図に示すように、外壁1は、コンクリート躯体2と、コンクリート躯体2の表面に塗り付けた下地モルタル3と、下地モルタル3の表面に塗り付けた張付けモルタル4と、張付けモルタル4の表面に張り付けたタイル等の仕上げ材5とで構成されている。なお、仕上げ材5には、大型タイルや規格石(石材)も含まれる。
【0031】
本実施形態の外壁1では、コンクリート躯体2と下地モルタル3との界面に第1浮き部6aが、下地モルタル3と張付けモルタル4との界面に第2浮き部6bが、さらに張付けモルタル4と仕上げ材5との界面に第3浮き部6cが生じているものとする。外壁1には、これを補修すべく、仕上げ材5、張付けモルタル4および下地モルタル3を貫通し、且つコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔した下穴8が形成されている。そして、外壁1の補修に際し、この下穴8に接着剤注入器10により接着剤Rが注入される。
【0032】
[接着剤注入器]
ここで、図1および図2を参照して、接着剤注入器10について簡単に説明する。両図に示すように、接着剤注入器10は、接着剤Rを供給するポンプ形式の注入器本体11と、注入器本体11の先端部に着脱自在に装着されたピンニング工法用の注入ノズル12と、で構成されている。
【0033】
注入器本体11は、有底円筒状の接着剤貯留部15と、接着剤貯留部15が着脱自在に取り付けられたポンプ部16と、ポンプ部16に保持された略「L」字状の操作レバー17とを備えている。ポンプ部16の基端側には、内部に接着剤Rが貯留された接着剤貯留部15が取り付けられ、先端側には注入ノズル12が装着されている。接着剤貯留部15を手持ちすると共に、手動で操作レバー17を操作する(ポンピング)ことにより、ポンプ部16(往復動)を介して注入ノズル12から接着剤Rが一定量ずつ吐出される。
【0034】
接着剤Rには、いわゆる2液タイプのエポキシ樹脂接着剤を用いることが好ましい。もっとも、接着剤Rは、粘性を有する無機接着剤であってもよい。なお、注入器本体11は、上記のような、手動でポンプ駆動を行うタイプの他、モーターやエアーアクチュエータ等により自動でポンプ駆動を行うタイプであってもよい。
【0035】
[注入ノズル]
次に、図3の裁断側面図(構造図)を参照して、注入ノズル12について詳細に説明する。注入ノズル12は、注入器本体11に装着される装着部21と、装着部21に連なるノズルボディ22と、ノズルボディ22の先端部に取り付けられた開口封止部23と、ノズルボディ22に支持され、開口封止部23を軸方向に貫通して先方に延びる第1ノズル部24と、第1ノズル部24と開口封止部23との間隙に構成された第2ノズル部25と、を備えている。
【0036】
[第1ノズル部]
第1ノズル部24は、下穴8に挿入され下穴8の奥部に接着剤Rを注入する部位であり、ステンレスやスチール等の細径の金属パイプにより、注射針様に形成されている。また、第1ノズル部24は、ノズルボディ22に対し偏心した位置に配設されている。第1ノズル部24の基端部には、ロート状に拡開した規制部31が形成され、先端部には斜めにカットした第1ノズル口32が形成されている。また、第1ノズル部24の内部には、後述するノズルボディ22の第1接着剤流路61に連通する第1注入流路33が構成されている。そして、第1ノズル部24は、軸方向において、後述するノズルボディ22の嵌合孔65に進退自在(スライド自在)に保持され、開口封止部23を遊嵌状態で貫通し、開口封止部23から大きく突出している。
【0037】
[開口封止部]
開口封止部23は、接着剤Rの注入に際し下穴8の開口部8aを封止する部位であり、下穴8の開口部8aを封止する封止部本体35と、封止部本体35をノズルボディ22に締結する締結部36と、を備えている。封止部本体35は、開口部8aを直接封止するテーパー形状のテーパー部41と、テーパー部41の基端側に連なるストレート部42と、ストレート部42の基端側に連なるボディ接合部44と、で一体に形成されている。この場合、テーパー部41およびストレート部42は、ボディ接合部44に対し偏心した位置に配設されている。そして、封止部本体35は、フッ素ゴム等の耐薬品性の弾性材料で形成され、締結部36は、ステンレスやスチール等で形成されている。
【0038】
ボディ接合部44は、ストレート部42に対し十分に太径に形成され、基端側の内部にノズルボディ22の先端部が接合される接合凹部46が形成されている。また、テーパー部41、ストレート部42およびボディ接合部44には、第1ノズル部24が遊嵌される遊嵌孔47が貫通形成されている。そして、この遊嵌孔47の基端が接合凹部46に連通している。また、遊嵌孔47とこれに挿通(貫通)する第1ノズル部24とは、断面円環状の間隙を存して同軸上に配設されている。
【0039】
締結部36は、上記のボディ接合部44に係合する引付け部位51と、引付け部位51に連なりノズルボディ22の先端部に螺合する螺合部位52とで一体に形成されている。螺合部位52を介して、締結部36をノズルボディ22の先端部に螺合すると、引付け部位51により、封止部本体35がノズルボディ22側に引き付けられる。これにより、封止部本体35の接合凹部46とノズルボディ22の先端部とが接合され、且つこの部分が封止される。
【0040】
[第2ノズル部]
第2ノズル部25は、下穴8の開口部8a近傍に接着剤Rを注入する部位であり、封止部本体35に形成された上記の遊嵌孔47と第1ノズル部24との間隙に構成された第2注入流路55と、第2注入流路55に連通し、封止部本体35の先端と第1ノズル部24との間に構成された環状の第2ノズル口56と、有している。第1ノズル部24を下穴8に挿入し、開口封止部23(テーパー部41)を下穴8の開口部8aに宛がう(封止する)と、第2ノズル口56は、開口部8aから下穴8内にわずかに入った開口部8a近傍に臨む。
【0041】
そして、第2注入流路55は、後述するノズルボディ22の第2接着剤流路62に連通している。上述のように、第1ノズル部24は、ノズルボディ22の嵌合孔65にがたつきなく保持されており、第1ノズル部24と封止部本体35との間に構成された第2注入流路55の流路断面は、適切に維持されている。
【0042】
[ノズルボディ]
ノズルボディ22は、ステンレスやスチール等で略円柱状に形成されている。ノズルボディ22の内部には、下流側を第1ノズル部24の第1注入流路33に連通する第1接着剤流路61と、下流側を第2ノズル部25の第2注入流路55に連通する第2接着剤流路62と、上流側を注入器本体11に連通し下流側を第1接着剤流路61および第2接着剤流路62に連通する共有接着剤流路63と、が形成されている。また、ノズルボディ22の内部には、第1接着剤流路61の下流端から延びる嵌合孔65で構成され、嵌合孔65には、軸方向において第1ノズル部24が進退自在(スライド自在)に保持されている。
【0043】
さらに、ノズルボディ22には、第1接着剤流路61を開閉する第1開閉弁機構66と、第2接着剤流路62(後述する第2直線流路部62a)を開閉する第2開閉弁機構67と、が組み込まれている。第1開閉弁機構66と第2開閉弁機構67とは、同一の構造を有しており、ノズルボディ22の周方向において180°点対称位置に配設されている。なお、第2開閉弁機構67(第1開閉弁機構66)については、後に詳述する。
【0044】
第1接着剤流路61は、直線状に延在しており、第1接着剤流路61と第1注入流路33(第1ノズル部24)とは同軸上に配設されている。嵌合孔65に対し第1接着剤流路61は太径に形成され、第1接着剤流路61と嵌合孔65との間の段部68に、第1ノズル部24の規制部31が突き当たることにより、第1ノズル部24の前進端位置が規制される。なお、第1ノズル部24の後退端位置は、上記の第1開閉弁機構66により規制される。
【0045】
第2接着剤流路62は、第1接着剤流路61と平行に延在する第2直線流路部62aと、第2直線流路部62aの下流側に連なる円形のオフセット流路部62bと、を有している。オフセット流路部62bは、接着剤溜りを構成しており、このオフセット流路部62bに、第2ノズル部25の第2注入流路55が連通している。なお、第1接着剤流路61と第2直線流路部62a(第2接着剤流路62)とは相互に平行に配設され、且つ同径に形成されている。
【0046】
ノズルボディ22の先端部には、前方雄ネジ部71および環状接合部72が形成されており、環状接合部72の先端面には、円形の窪み部73が形成されている。この窪み部73は、封止部本体35の接合凹部46の端壁に対峙して密閉空間を構成し、この密閉空間により上記のオフセット流路部62bが構成されている。締結部36を前方雄ネジ部71に螺合すると、封止部本体35がノズルボディ22側に強く引き付けられる。これにより、ノズルボディ22の環状接合部72に封止部本体35の接合凹部46が強く密接し、オフセット流路部62bが封止される。
【0047】
また、ノズルボディ22の基端部には、後方雄ネジ部75が形成されており、後方雄ネジ部75の基端面には、円形の浅溝部76が形成されている。この浅溝部76は、ノズルボディ22に取り付けた上記の装着部21の内壁と対峙して密閉空間を構成し、この密閉空間により上記の共有接着剤流路63が構成されている。装着部21を後方雄ネジ部75に螺合すると、装着部21とノズルボディ22との間に介設され太径Oリング77により、共有接着剤流路63が封止される。
【0048】
[装着部]
装着部21は、注入ノズル12を注入器本体11に装着する部位であり、ステンレスやスチール等で形成されている。装着部21は、ノズルボディ22の後方雄ネジ部75に螺合する有底円筒状の装着部本体81と、装着部本体81の外端面に突設した装着ネジ部82と、で一体に形成されている。また、装着部本体81および装着ネジ部82の軸心部には、連通流路83が形成されている。
【0049】
太径Oリング77を介在させた状態で、ノズルボディ22に装着部21を螺合すると、連通流路83の下流端が共有接着剤流路63に連通する。また、この状態で、装着ネジ部82を介して注入ノズル12を注入器本体11に螺合すると、注入ノズル12が注入器本体11に装着されると共に、連通流路83の上流端が注入器本体11(の流路)に連通する。
【0050】
ポンピングにより注入器本体11から送り込まれた接着剤Rは、共有接着剤流路63に流れ込み、更に共有接着剤流路63から分流して、第1接着剤流路61および第2接着剤流路62に導かれる。第1接着剤流路61に導かれた接着剤Rは、第1注入流路33を通って第1ノズル口32から(下穴8の奥部に)吐出される。同様に、第2接着剤流路62に導かれた接着剤Rは、第2注入流路55を通って第2ノズル口56から(下穴8の開口部8a近傍に)吐出される。
【0051】
[弁開閉機構]
ここで、図3を参照して、第1開閉弁機構66および第2開閉弁機構67の構造について詳細に説明する。上述のように、第1開閉弁機構66と第2開閉弁機構67とは、同一の構造を有しており、また第1開閉弁機構66は省略することが可能であるため、ここでは、第2開閉弁機構67について説明し、第1開閉弁機構66の説明は省略する。
【0052】
第2開閉弁機構67は、第2接着剤流路62(第2直線流路部62a)を開閉可能に構成されている。第2開閉弁機構67は、第2接着剤流路62に直交し、内部周面壁に第2接着剤流路62が開口した円柱空間状の弁座部91と、弁座部91に嵌合すると共に回転操作される円柱状の弁体部92と、を有している。弁体部92は、弁座部91に嵌合する弁体部本体94と、弁体部本体94を回転操作するための操作摘み部95と、操作摘み部95を弁体部本体94に固定する小ネジ96と、を有している。
【0053】
弁体部本体94の上部には、鍔部97が一体に形成されている。また、弁体部本体94の下部には、第2接着剤流路62に対応する第2貫通孔98が貫通形成されている。この場合、第2貫通孔98は、第2接着剤流路62と同径に形成されている。弁体部本体94の上部は、ノズルボディ22から露出しており、この部分に操作摘み部95が廻止め状態で係合し、且つ操作摘み部95は、小ネジ96により弁体部本体94に固定されている。
【0054】
一方、ノズルボディ22の外周面には、弁体部本体94を囲繞するように突状ネジ部101が形成され、この突状ネジ部101には、キャップ状ネジ102が螺合している。具体的には、突状ネジ部101と鍔部97との間に、弁体Oリング103が介在され、この状態で、鍔部97を押さえるようにキャップ状ネジ102が突状ネジ部101に螺合している。これにより、回転操作される弁体部92と弁座部91との間が封止されている。
【0055】
ノズルボディ22から露出した操作摘み部95は、ノズルボディ22の軸方向に向いており、この状態では、第2接着剤流路62と第2貫通孔98とが合致し、第2接着剤流路62は「開」となっている。また、この状態から操作摘み部95を、軸線廻りに角度90°回転させると、第2貫通孔98が第2接着剤流路62に対し、直角を為して外れ、2接着剤流路62は「閉」となる。なお、操作摘み部95における角度90°の回転操作は、左廻りに回転操作されるものであってもよいし、右廻りに回転操作されるものであってもよい。
【0056】
[変形例]
ここで、図4を参照して、第1実施形態の変形例に係る第2開閉弁機構67(第1開閉弁機構66)について説明する。この変形例では、弁体部92において、第2貫通孔98に代えて、この部分に薄板状のゲート部105が設けられている。ゲート部105は、第2接着剤流路62の径より小さな厚み寸法の薄板状に形成されている。
【0057】
この場合には、操作摘み部95がノズルボディ22の軸方向に向いた状態で、ゲート部105は軸方向に向いており、第2接着剤流路62とゲート部105の両サイドの流路部分とが合致し、第2接着剤流路62は「開」となる(図4(a)参照)。また、この状態から操作摘み部95を、軸線廻りに角度90°回転させると、ゲート部105が第2接着剤流路62に対し、直角を為し、2接着剤流路62は「閉」となる(図4(b)参照)。
【0058】
[注入形態]
上述のように、第1開閉弁機構66と第2開閉弁機構67とは、同一の構造を有するものの、それぞれが別々に開閉操作される。このため、第1開閉弁機構66を「開」とし、第2開閉弁機構67を「開」とすれば、接着剤Rは、第1ノズル部24(第1ノズル口32)および第2ノズル部25(第2ノズル口56)から吐出される。また、第1開閉弁機構66を「開」とし、第2開閉弁機構67を「閉」とすれば、接着剤Rは、第1ノズル部24(第1ノズル口32)からのみ吐出される。一方、第1開閉弁機構66を「閉」とし、第2開閉弁機構67を「開」とすれば、接着剤Rは、第2ノズル部25(第2ノズル口56)からのみ吐出される。
【0059】
例えば、図1において、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cのうち、第1浮き部6aおよび第2浮き部6bの2箇所に「浮き」が生じている場合には、第1開閉弁機構66を「開」、すなわち第1接着剤流路61を「開」とし、且つ第2開閉弁機構67を「閉」、すなわち第2接着剤流路62を「閉」として、接着剤Rを第1ノズル部24からのみ吐出させる。
【0060】
また、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cの3箇所に「浮き」が生じている場合や、第1浮き部6aおよび第3浮き部6cの2箇所に「浮き」が生じている場合には、第1開閉弁機構66を「開」、すなわち第1接着剤流路61を「開」とし、且つ第2開閉弁機構67を「開」、すなわち第2接着剤流路62を「開」として、接着剤Rを第1ノズル部24および第2ノズル部25から吐出させる。
【0061】
また、この場合において、第3浮き部6cの容積が極端に大きい場合には、第1開閉弁機構66を「開」、第2開閉弁機構67を「開」として、接着剤Rの注入をある程度行った後、接着剤注入器10の注入姿勢を維持したまま、第1開閉弁機構66を「閉」とし、接着剤Rの注入を続行する。すなわち、注入の最終段階で、接着剤Rを第2ノズル部25からのみ吐出させ、第3浮き部6cに接着剤Rを行き渡らせるようにする。
【0062】
[ピンニング工法]
次に、図5および図6を参照して、上記の接着剤注入器10を用いたピンニング工法について説明する。このピンニング工法では、前工程として、ハンマー等により外壁1を打鍵して第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cを探査し、下穴8の穿孔位置(タイルの中心部表面にマーキング)および穿孔深さが決定されているものとする。なお、後述する注入工程において、図5では、第1開閉弁機構66(第1接着剤流路61)を「開」、第2開閉弁機構67(第2接着剤流路62)を「開」とした注入形態について、図6(a)では、第1開閉弁機構66を「開」、第2開閉弁機構67を「閉」とした注入形態について、図6(b)では、第1開閉弁機構66を「閉」、第2開閉弁機構67を「開」とした注入形態について、それぞれ説明する。
【0063】
ピンニング工法は、外壁1を所定の深さまで穿孔して下穴8を形成する穿孔工程(図5(a)参照)と、接着剤注入器10により、下孔8の開口部8aを封止しつつ下孔8に接着剤Rを注入する注入工程(図5(b)および(c)参照)と、接着剤Rが注入された下孔8に、アンカーピン107を挿入・装着する装着工程(図5(d)参照)と、を備えている。
【0064】
穿孔工程では、ダイヤモンドビットを装着した電動ドリル等の穿孔工具109を使用し、上記のマーキングに倣って外壁1に下穴8を穿孔する。具体的には、仕上げ材5(タイル)、張付けモルタル4および下地モルタル3を貫通してコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔し、下穴8を形成する(図5(a)参照)。その際、穿孔は外壁1に対し直角に行い、コンクリート躯体2への穿孔深さは30mm以上とする。また、下穴8は、アンカーピン107が遊挿できるように、アンカーピン107よりも一回り大きい径(1〜2mm太径)とする。なお、後述するアンカーピン107を用いる場合には、この時点で、球形の研削ビットを用い、下穴8の開口部8aを面取りしておく。
【0065】
下穴8を形成した後には、下穴8に残った切削粉等をブロアー等の噴気で清掃し除去する。もっとも、穿孔に際し冷却水を用い、切削粉を冷却水と共に排水除去できる場合には、清掃は省略される。なお、この時点で内視鏡等を用い、下穴8を介して第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cを確認することが好ましい。ここでは、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cが確認できたものとし、第1開閉弁機構66(第1接着剤流路61)を「開」、第2開閉弁機構67(第2接着剤流路62)を「開」として接着剤Rの注入を行う。
【0066】
注入工程では、先ずノズルボディ22から第1ノズル部24を最大限引き出しておいて、第1ノズル部24を下穴8に挿入してゆく。この挿入の過程において、第1ノズル部24の先端が下穴8の穴底に到達すると、第1ノズル部24は相対的に後退してゆく。続いて、封止部本体35が下穴8の開口部8aに達し、そのテーパー部41により開口部8aが封止される。この状態では、第1ノズル部24の第1ノズル口32が下穴8の奥部に位置し、第2ノズル部25の第2ノズル口56が下穴8の開口部8a近傍に位置することとなる(図5(b)参照)。
【0067】
ここで、注入器本体11の操作レバー17を操作(ポンピング)し、接着剤Rを注入ノズル12に送り込んで、下穴8への接着剤Rの注入を開始する(図5(b)参照)。接着剤Rの注入を開始すると、接着剤Rは、第1ノズル部24の第1ノズル口32から吐出され、下穴8の奥部から満たされ、第1浮き部6aに円状に広がるようにして充填され、さらに第2浮き部6bに円状に広がるようにして充填されてゆく。同様に、接着剤Rは、第2ノズル部25の第2ノズル口56から吐出され、第3浮き部6cに円状に広がるようにして充填されてゆく(図5(c)参照)。
【0068】
このようにして、接着剤Rが、下穴8、第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cに行き渡ると、ポンピング操作が重くなり、接着剤Rが適切に注入されたことが体感される。ここで、開口封止部23を下穴8から引き離すと共に、第1ノズル部24を下穴8からゆっくり引き抜く。なお、本実施形態では、下穴8の奥部から接着剤Rの注入を行うため、奥部にエアー溜りが生ずることが無く、第1ノズル部24の引き抜きの際に、接着剤Rが下穴8の開口部8aから漏れ出ることもない。
【0069】
装着工程では、接着剤Rが注入された下穴8にアンカーピン107を挿入・装着する。この場合のアンカーピン107は、ピン軸部107aを全ネジとし、ピン頭部107bを皿状としたものが好ましい。また、ピン頭部107bは、仕上げ材5と同色に着色されたものが好ましい。下穴8に挿入したアンカーピン107は、そのピン頭部107bが開口部8aの面取り部分に没入し、その天面が仕上げ材5の表面と面一となったところで、装着を完了する(図5(d)参照)。なお、この面一は、好ましくは挿入の最終段階で、ピン頭部107bにヘラ等を突き当て押し込むことで達成される。そして、アンカーピン107の装着が完了したら、接着剤Rが硬化するまで養生を行う。
【0070】
図6(a)は、第1開閉弁機構66(第1接着剤流路61)を「開」、第2開閉弁機構67(第2接着剤流路62)を「閉」とした注入形態である。第1浮き部6aおよび第2浮き部6bの2箇所に「浮き」が生じている場合を想定している。接着剤Rの注入を開始すると、接着剤Rは、第1ノズル部24の第1ノズル口32から吐出され、下穴8の奥部から満たされ、続いて第1浮き部6aに円状に広がるようにして充填され、さらに第2浮き部6bに円状に広がるようにして充填されてゆく。接着剤Rが、下穴8、第1浮き部6aおよび第2浮き部6bに行き渡ると、ポンピング操作が重くなり、接着剤Rが適切に注入されたことが体感される。
【0071】
図6(b)は、第1開閉弁機構66(第1接着剤流路61)を「閉」、第2開閉弁機構67(第2接着剤流路62)を「開」とした注入形態である。第1浮き部6a、第2浮き部6bおよび第3浮き部6cの3箇所に「浮き」が生じている場合や、第1浮き部6aおよび第3浮き部6cの2箇所に「浮き」が生じている場合であって(図示のものは、3箇所に「浮き」)、特に第3浮き部6cの容積が極端に大きい場合を想定している(例えば、大型タイルや規格石の「ダンゴ張り」等)。
【0072】
この場合には、上記の図5に示した接着剤Rの注入をある程度行った後、接着剤注入器10の注入姿勢を維持したまま、第1開閉弁機構66を「閉」(第2開閉弁機構67を「開」)に切り替えて、接着剤Rの注入を続行する。すなわち、接着剤Rが、下穴8、第1浮き部6aおよび第2浮き部6bに行き渡った段階で、第1開閉弁機構66のみを「閉」とする。ここで接着剤Rの注入を続行すると、接着剤Rは、第2ノズル部25からのみ吐出し、第3浮き部6cに円状に広がるようにして充填される。
【0073】
以上のように、第1実施形態によれば、操作摘み部95を回転操作することにより、接着剤Rを、第1ノズル口32および第2ノズル口56から吐出させる場合、第1ノズル口32のみから吐出される場合、および第2ノズル口56のみから吐出させる場合の、3つの注入形態を執ることができる。したがって、外壁1に生ずる「浮き」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤Rを効率良く注入することができる。また、第1開閉弁機構66および第2開閉弁機構67を、工具不要の組立簡単な構造とすることができ、注入作業後の分解、洗浄、組立を容易に行うことができる。
【0074】
なお、上述のように、第1開閉弁機構66は、これを省略(無し)することも可能である。かかる場合には、第2開閉弁機構67により、第2接着剤流路62のみが開閉可能となる。したがって、操作摘み部95を回転角度操作することにより、接着剤Rを、第1ノズル口32および第2ノズル口56から吐出させる場合、および第1ノズル口32のみから吐出される場合の、2つの注入形態を執ることができる。また、第1開閉弁機構66と第2開閉弁機構67とは、ノズルボディ22の軸方向において、位置ずれして配設するようにしてもよい。
【0075】
[第2実施形態]
次に、図7を参照して、第2実施形態に係る注入ノズル12Aについて説明する。なお、第2実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。第2実施形態の注入ノズル12Aでは、第1開閉弁機構66は設けられておらず、第1実施形態と異なる構造の第2開閉弁機構67Aのみ設けられている。すなわち、第2接着剤流路62(第2直線流路部62a)のみ開閉可能に構成されている。
【0076】
この第2開閉弁機構67Aは、第2接着剤流路62に直交し、内部周面壁に第2接着剤流路62が開口した円柱空間状の弁座部91Aと、弁座部91Aに嵌合すると共に軸方向に進退操作される円柱状の弁体部92Aと、を有している。この場合、弁座部91Aと弁体部92Aとは、いわゆるシリンダーとプランジャーの関係を有しており、弁座部91Aに対し、弁体部92Aがその軸方向に進退することにより、第2接着剤流路62が開閉される。
【0077】
弁体部92Aは、弁座部91Aに嵌合する弁本体111と、弁本体111を進退操作するための進退操作部112と、進退操作部112の正逆回転を許容した状態でこれを保持するホルダ部113と、を有している。弁本体111は、弁座部91Aに摺接するプランジャー部115と、進退操作部112に螺合する進退雄ネジ部116とで一体に形成されている。進退操作部112は、中心部に進退雄ネジ部116に螺合する進退雌ネジ部117を有すると共、後退するプランジャー部115を受容するための受容凹部118を有している。
【0078】
ホルダ部113は、ノズルボディ22に外周面にネジ止めされたベース部121と、ベース部121の端部から逆「L」字状に延び、ベース部121との間に進退操作部112を挟み込むようにして保持する上押え片122とを有している。ベース部121には、その中心部にプランジャー部115を囲繞する環状凸部123が設けられ、この環状凸部123の内周面にプランジャー部115が挿通するガイド孔124が形成されている。一方、ノズルボディ22には、環状凸部123が挿入されるリング溝126が設けられ、リング溝126には、環状凸部123に押圧されるようにして封止Oリング127が装着されている。そして、この封止Oリング127により、進退する弁体部92Aと弁座部91Aとの間が封止されている。
【0079】
また、上押え片122には、弁本体111の進退雄ネジ部116が挿通するバカ孔128が形成されている。図示では省略したが、進退雄ネジ部116には、弁体部92Aの開放位置(開弁位置)を指標する線引きのマークが設けられており、上押え片122の外面から突出した進退雄ネジ部116においてマークが視認された状態が、弁体部92Aの開放位置(図7(b)参照)となり、上押え片122の上面と進退雄ネジ部116の端面とが面一になった状態が、弁体部92Aの閉塞位置(図7(a)参照)となる。
【0080】
すなわち、弁本体111は、進退操作部112を右回転させることで前進し、上押え片122の上面と進退雄ネジ部116の端面とが面一になった状態で、第2接着剤流路62が閉塞(「閉」)される(図7(a)参照)。逆に、弁本体111は、進退操作部112を左回転させることで後退し、進退雄ネジ部116のマークが視認された状態で、第2接着剤流路62が開放(「開」)される(図7(b)参照)。
【0081】
[変形例]
ここで、図8を参照して、第2実施形態の変形例に係る第2開閉弁機構67Aについて説明する。この変形例では、弁本体111が上記のものより軸方向に長く形成され、そのプランジャー部115には、第2接着剤流路62に対応する環状溝129が形成されている。環状溝129は、断面半円形に形成されており、この環状溝129が第2接着剤流路62に臨んだ状態が、弁体部92Aの開放位置(図8(b)参照)となり、第2接着剤流路62から奥側に外れた状態が、弁体部92Aの閉塞位置(図8(a)参照)となる。
【0082】
すなわち、弁本体111は、進退操作部112を右回転させることで前進し、上押え片122の上面と進退雄ネジ部116の端面とが面一になった状態で、環状溝129が第2接着剤流路62から外れ、第2接着剤流路62が閉塞(「閉」)される(図7(a)参照)。逆に、弁本体111は、進退操作部112を左回転させることで後退し、進退雄ネジ部116のマークが視認された状態で、環状溝129と第2接着剤流路62とが合致し、第2接着剤流路62が開放(「開」)される(図7(b)参照)。
【0083】
以上のように、第2実施形態によれば、進退操作部112を回転操作することにより、接着剤Rを、第1ノズル口32および第2ノズル口56から吐出させる場合、および第1ノズル口32のみから吐出される場合の、2つの注入形態を執ることができる。したがって、外壁1に生ずる「浮き」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤Rを効率良く注入することができる。また、第2開閉弁機構67Aを、部品点数の少ない簡単な構造とすることができ、注入作業後の分解、洗浄、組立を容易に行うことができる。
【0084】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、第2開閉弁機構67Aに加え第1開閉弁機構66を設けることが可能である。かかる場合には、接着剤Rを、第1ノズル口32および第2ノズル口56から吐出させる場合、第1ノズル口32のみから吐出される場合、および第2ノズル口56のみから吐出させる場合の、3つの注入形態を執ることができる。
【0085】
[第3実施形態]
次に、図9を参照して、第3実施形態に係る注入ノズル12Bについて説明する。なお、第3実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。第3実施形態の注入ノズル12Bでは、第1開閉弁機構66は設けられておらず、第1実施形態と異なる構造の第2開閉弁機構67Bが、ノズルボディ22の外部に配設されている。また、第1ノズル部24が、ノズルボディ22と同軸上に配設されている。
【0086】
開口封止部23には、封止部本体35の内周面に基端側から嵌合するように長尺筒状体131が設けられており、長尺筒状体131と第1ノズル部24との間隙に第2注入流路55が構成されている。この場合の第1ノズル部24は、長尺筒状体131に形成した3つの保持凸部132と、ノズルボディ22に形成された短尺嵌合孔133と、により進退自在に保持されている。
【0087】
ノズルボディ22に形成された第1接着剤流路61は、同軸上において短尺嵌合孔133から基端側に延びており、第1接着剤流路61の基端には、同軸上において第1接着剤流路61よりも太径に形成された共有接着剤流路63が連通している。一方、第2接着剤流路62は、ノズルボディ22の内部に設けられ第2注入流路55に連通する第2下流側流路部135と、ノズルボディ22の内部に設けられ共有接着剤流路63に連通する第2上流側流路部136と、ノズルボディ22の外部に設けられ第2下流側流路部135と第2上流側流路部136とを連通する第2ボディ外流路部137と、を有している。そして、第2開閉弁機構67Bは、第2ボディ外流路部137に介設されている。
【0088】
この場合の第2開閉弁機構67Bは、市販の小型バルブであり、例えばチューブ接続用の樹脂製のボールバルブで構成されている。樹脂製の第2開閉弁機構67Bには、その前後に樹脂製の前接続チューブ141および後接続チューブ142が接続され、更に前接続チューブ141には、ノズルボディ22に螺合した樹脂製の前エルボ継手143が、後接続チューブ142には、ノズルボディ22に螺合した樹脂製の後エルボ継手144がそれぞれ接続されている。そして、前エルボ継手143、前接続チューブ141、第2開閉弁機構67B、後接続チューブ142および後エルボ継手144の内部に、第2ボディ外流路部137が構成されている。
【0089】
一方、第2下流側流路部135は、第2注入流路55に連通する円形流路146と、第1接着剤流路61に平行し円形流路146に連通する短流路147と、短流路147に連通しノズルボディ22内に位置する前エルボ継手143の前エルボ内流路148と、で構成されている。また、第2上流側流路部136は、ノズルボディ22に位置する後エルボ継手144の後エルボ内流路149により構成されている。このように、ノズルボディ22の外部に配設された第2ボディ外流路部137は、上流側が第2上流側流路部136を介して共有接着剤流路63に連通し、下流側が第2下流側流路部135を介して第2注入流路55に連通している。
【0090】
したがって、第2ボディ外流路部137(第2接着剤流路62)に介設した第2開閉弁機構67Bを開弁操作(開放操作)すると、第2接着剤流路62は開放(「開」)され、閉弁操作(閉放操作)すると、第2接着剤流路62は閉塞(「閉」)される。
【0091】
以上のように、第3実施形態によれば、第2開閉弁機構67Bを開閉操作することにより、接着剤Rを、第1ノズル口32および第2ノズル口56から吐出させる場合、および第1ノズル口32のみから吐出される場合の、2つの注入形態を執ることができる。したがって、外壁1に生ずる「浮き」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤Rを効率良く注入することができる。また、第2開閉弁機構67Bが、ノズルボディ22の外部に配設されているため、故障や機種変更等による第2開閉弁機構67Bの付け替えを容易に行うことができる。
【0092】
なお、第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、第2開閉弁機構67Bに加え第1開閉弁機構66を設けることが可能である。また、前エルボ継手143、前接続チューブ141、第2開閉弁機構67B、後接続チューブ142および後エルボ継手144は、いわゆる「使い捨て」とすることも可能である。
【0093】
[第4実施形態]
次に、図9および図10を参照して、第4実施形態に係る注入ノズル12Cについて説明する。なお、第4実施形態では、主に第3実施形態と異なる部分について説明する。第4実施形態の注入ノズル12Cでは、ノズルボディ22と注入器本体11との間にブロック状の接続継手部150が介設され、共有接着剤流路63は、この接続継手部150の内部に形成されている。したがって、上記の後エルボ継手144は接続継手部150に螺合し、後接続チューブ142は、長く延びて(図9に仮想線で表示)この後エルボ継手144に接続されている。
【0094】
接続継手部150は、注入器本体11のポンプ部16に螺合するようにして装着され、ノズルボディ22は、装着部21を介して、接続継手部150に螺合するようにして取り付けられている。接続継手部150の内部に形成された共有接着剤流路63は、同軸上において注入器本体11の送込み流路151に連通している。また、ノズルボディ22の第1接着剤流路61は、装着部21の連結流路83を介して、共有接着剤流路63に連通している。
【0095】
一方、第2接着剤流路62は、ノズルボディ22の内部に設けられ第2注入流路55に連通する第2下流側流路部135と、接続継手部150の内部に設けられ共有接着剤流路63に連通する第2継手内流路部153と、ノズルボディ22および接続継手部150の外部に設けられ、第2下流側流路部135と第2継手内流路部153とを連通する第2直結流路部154と、を有している。そして、第2開閉弁機構67Cは、第2直結流路部154に介設されている。
【0096】
この場合も、第2開閉弁機構67Cは、第3実施形態と同様に、例えばチューブ接続用の樹脂製のボールバルブで構成されている。樹脂製の第2開閉弁機構67Cには、その前後に樹脂製の前接続チューブ141および後接続チューブ142が接続され、更に前接続チューブ141には、ノズルボディ22に螺合した樹脂製の前エルボ継手143が、後接続チューブ142には、接続継手部150に螺合した樹脂製の後エルボ継手144がそれぞれ接続されている。そして、前エルボ継手143、前接続チューブ141、第2開閉弁機構67C、後接続チューブ142および後エルボ継手144の内部に、第2直結流路部154が構成されている。
【0097】
第2下流側流路部135は、第3実施形態と同様に、第2注入流路55に連通する円形流路146と、円形流路146に連通する短流路147と、短流路147に連通する前エルボ内流路148と、で構成されている。また、第2継手内流路部153は、共有接着剤流路63に連通する分岐流路156と、分岐流路156に連通し、接続継手部150に位置する後エルボ継手144の後エルボ内流路149と、で構成されている。このように、ノズルボディ22および接続継手部150の外部に配設された第2直結流路部154は、上流側が第2継手内流路部153を介して共有接着剤流路63に連通し、下流側が第2下流側流路部135を介して第2注入流路55に連通している。
【0098】
したがって、第2直結流路部154(第2接着剤流路62)に介設した第2開閉弁機構67Cを開弁操作(開放操作)すると、第2接着剤流路62は開放(「開」)され、閉弁操作(閉放操作)すると、第2接着剤流路62は閉塞(「閉」)される。
【0099】
以上のように、第4実施形態によれば、第2開閉弁機構67Cを開閉操作することにより、接着剤Rを、第1ノズル口32および第2ノズル口56から吐出させる場合、および第1ノズル口32のみから吐出される場合の、2つの注入形態を執ることができる。したがって、外壁1に生ずる「浮き」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤Rを効率良く注入することができる。また、第2開閉弁機構67Cが、ノズルボディ22の外部に配設されているため、故障や機種変更等による第2開閉弁機構67Cの付け替えを容易に行うことができる。
【0100】
なお、第4実施形態においても、第1実施形態と同様に、第2開閉弁機構67Cに加え第1開閉弁機構66を設けることが可能である。また、前エルボ継手143、前接続チューブ141、第2開閉弁機構67C、後接続チューブ142および後エルボ継手144は、いわゆる「使い捨て」とすることも可能である。
【符号の説明】
【0101】
1…外壁、8…下穴、8a…開口部、10…接着剤注入器、11…注入器本体、12,12A,12B,12C…注入ノズル、21…装着部、22…ノズルボディ、23…開口封止部、24…第1ノズル部、25…第2ノズル部、32…第1ノズル口、33…第1注入流路、55…第2注入流路、56…第2ノズル口、61…第1接着剤流路、61a…第1直線流路部、62…第2接着剤流路、63…共有接着剤流路、66…第1開閉弁機構、67,67A,67B,67C…第2開閉弁機構、91,91A…弁座部、92,92A…弁体部、94…弁体部本体、95…操作摘み部、98…第2貫通孔、105…ゲート部、107…アンカーピン、111…弁本体、112…進退操作部、113…ホルダ部、129…環状溝、135…第2下流側流路部、136…第2上流側流路部、137…第2ボディ外流路部、150…接続継手部、153…第2継手内流路部、154…第2直結流路部、R…接着剤。
【要約】
【課題】壁体に生ずる「浮き部」の数や発生個所等の性状に合わせて、接着剤を効率良く注入することができるピンニング工法用の注入ノズル等を提供する。
【解決手段】外壁1を所定の深さまで穿孔した下穴8に、その開口部8aを封止しながら接着剤Rを注入するピンニング工法用の注入ノズル12であって、下穴8の奥部に臨む第1ノズル口32と、下穴8の開口部8a近傍に臨む第2ノズル口56と、第1ノズル口32に連通する第1接着剤流路61と、第2ノズル口56に連通する第2接着剤流路62と、第2接着剤流路62のみを開閉する第2開閉弁機構67と、を備えたものである。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10