特許第6557921号(P6557921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557921
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】電動弁装置および電動弁制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20190805BHJP
   F16K 37/00 20060101ALI20190805BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20190805BHJP
   F25B 41/06 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   F16K31/04 K
   F16K37/00 D
   B60H1/32 613B
   F25B41/06 U
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-90899(P2015-90899)
(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-205584(P2016-205584A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(74)【代理人】
【識別番号】100120536
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和司
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−006020(JP,A)
【文献】 米国特許第05152308(US,A)
【文献】 特開2014−196810(JP,A)
【文献】 特開2003−194252(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0210899(US,A1)
【文献】 特開2005−325964(JP,A)
【文献】 特開2005−204392(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0048266(US,A1)
【文献】 特開2005−351308(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0107513(KR,A)
【文献】 特開2004−204515(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0214265(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00−31/05
F16K 37/00
B60H 1/00− 3/06
F25B 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ駆動式の電動弁と、そのモータを駆動する駆動部と、その駆動部を制御する制御部と、外部制御装置と通信するための通信部と、を備える電動弁装置であって、
前記モータがステッピングモータであり、
前記制御部は、
前記外部制御装置からの指令に基づいて前記電動弁の制御を開始し、
前記電動弁の制御の開始に際して前記モータを閉弁方向に駆動させ、その駆動のために前記駆動部が出力する駆動パルスの波形をモニタし、その波形の変化量が予め定める基準値に達したときの駆動状態を弁部の弁開閉点として設定し、
前記弁部の弁開閉点を基準として前記モータを駆動させることにより、前記弁部の開度が制御指令値に対応した開度となるように制御することを特徴とする電動弁装置。
【請求項2】
前記電動弁は、
上流側から流体を導入する導入ポートと、下流側へ流体を導出する導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとを連通させる弁孔と、を有するボディと、
前記弁孔の開口端部に形成された弁座に着脱して前記弁部を開閉する弁体と、
前記モータとして、前記弁体を駆動するためのロータを含むステッピングモータと、
前記ロータに連動して回転し、先端部にて前記弁体を支持するシャフトと、
閉弁時に前記弁体を前記弁座に弾性的に押し付けるための付勢構造と、
前記ロータの回転運動を、前記シャフトの並進運動に変換する作動変換機構と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電動弁装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記弁体が前記弁座に着座後、前記シャフトがさらに閉弁方向に所定の駆動ステップ分移動したときに前記シャフトを停止させ、
前記弁開閉点は、前記シャフトが停止された状態を原点とした開弁方向への駆動ステップ数により定められていることを特徴とする請求項2に記載の電動弁装置。
【請求項4】
前記電動弁、前記駆動部、前記制御部および前記通信部が、一体に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電動弁装置。
【請求項5】
前記電動弁が、自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される電動膨張弁であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電動弁装置。
【請求項6】
外部制御装置と通信するための通信部と、電動弁のモータを駆動する駆動部と、その駆動部を制御する制御部と、を備える電動弁制御装置であって、
前記モータがステッピングモータであり、
前記制御部は、
前記外部制御装置からの指令に基づいて前記電動弁の制御を開始し、
前記電動弁の制御の開始に際して前記モータを閉弁方向に駆動させ、その駆動のために前記駆動部が出力する駆動パルスの波形をモニタし、その波形の変化量が予め定める基準値に達したときの駆動状態を弁部の弁開閉点として設定し、
前記弁部の弁開閉点を基準として前記モータを駆動させることにより、前記弁部の開度が制御指令値に対応した開度となるように制御することを特徴とする電動弁制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動式の電動弁およびその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置の冷凍サイクルには一般に、循環する冷媒を圧縮するコンプレッサ、圧縮された冷媒を凝縮するコンデンサ、凝縮された液冷媒を絞り膨張させて霧状の気液混合冷媒にして送出する膨張弁、その霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却するエバポレータ等が設けられている。膨張弁としては、エバポレータの出口側の冷媒の温度および圧力を感知して弁部が自律的に開閉する機械式の膨張弁が広く用いられている。一方、近年の電気自動車やハイブリッド車両の普及に伴い、駆動部にステッピングモータを用いて弁開度の精密な制御を実現する電動膨張弁も採用されつつある。
【0003】
このような電動膨張弁は、ボディに設けられた小口径の弁孔を開閉するために例えばニードル状の弁体を有し、また、ロータの回転運動をシャフトの並進運動に変換してその弁体を駆動する作動変換機構を有する(例えば特許文献1参照)。弁体はシャフトの先端に支持され、弁孔の開口端部に形成された弁座に着脱して弁部を開閉する。弁体の着座性能を確保するために、弁体がシャフトに弾性的に支持され、その弾性力により弁体が弁座に押し付けられるようにして閉弁状態を保持するものもある。
【0004】
このような電動弁は、弁開閉点(弁部の開閉位置)を基準とした駆動ステップの設定により弁開度が制御される。しかしながら、弁を構成する部品の寸法のバラツキや、部品間の組み付け誤差等により、その弁開閉点に個体差が生じることがある。また、電動弁の使用開始後(初回の使用後)においても、例えば振動の影響を受けるなどの使用環境によって弁開閉点に変化が生じる場合がある。このため、このような要因による弁開閉点の相異や変化を考慮して弁開閉点を設定する必要がある。
【0005】
このような観点から、電動弁の使用開始後に設定時間ごとに開弁点検出を実行する電動弁も提案されている(例えば特許文献2参照)。具体的には、電動弁を全閉位置から所定時間ごとに所定開度だけ開弁していくとともに、電動弁の出口温度が所定温度以上変化したときの弁開度を開弁点(下限開度)として検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−196810号公報
【特許文献2】特開2012−149857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような電動弁では、弁機構とは直接的な関係がない電動弁の出口温度に基づいて開弁点を検出するため、その開弁点は上述した弁開閉点とは基本的に一致しない。このため、弁開度の設定も予想の範囲に留まらざるを得ない。また、その出口温度をフィードバックする手法をとるため、その温度変化が検出されるまでに時間を要し、電動弁の起動から速やかに制御を開始できないといった問題がある。閉弁を繰り返すごとに弁座の摩耗が進行し、それによって弁開閉点が変化することも考慮すると、開弁点検出の頻度もそれなりに確保する必要がある。そのため、その検出に要する時間は可能な限り短くできるのが望ましい。なお、このような問題は、上記電動膨張弁に限らず、弁開閉点に個体差や経時変化がある電動弁には同様にあてはまる。
【0008】
本発明の目的の一つは、モータ駆動式の電動弁において、弁開閉点を速やかに検出し、効率良く高精度な制御を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は電動弁装置である。この電動弁装置は、モータ駆動式の電動弁と、そのモータを駆動する駆動部と、その駆動部を制御する制御部と、外部制御装置と通信するための通信部とを備える。制御部は、外部制御装置からの指令に基づいて電動弁の制御を開始し、電動弁の制御の開始に際してモータを閉弁方向に駆動させ、その駆動のために駆動部が出力する駆動パルスに基づいてモータの負荷を検出し、検出された負荷が所定の基準値に達したときの駆動状態を弁部の弁開閉点として設定し、弁部の弁開閉点を基準としてモータを駆動させることにより、弁部の開度が制御指令値に対応した開度となるように制御する。
【0010】
この態様によると、モータを閉弁方向に駆動したときの駆動パルスからモータの負荷が検出され、その負荷に基づいて弁開閉点が設定される。すなわち、弁機構の着座動作に伴うモータ負荷の変化に基づいて弁開閉点が検出されるため、その弁開閉点を精度良く設定することができる。また、閉弁作動をさせるだけで弁開閉点を速やかに検出できる。その結果、効率良く高精度な制御を実現することができる。
【0011】
本発明の別の態様は電動弁制御装置である。この電動弁制御装置は、外部制御装置と通信するための通信部と、電動弁のモータを駆動する駆動部と、その駆動部を制御する制御部とを備える。制御部は、外部制御装置からの指令に基づいて電動弁の制御を開始し、電動弁の制御の開始に際してモータを閉弁方向に駆動させ、その駆動のために駆動部が出力する駆動パルスに基づいてモータの負荷を検出し、検出された負荷が所定の基準値に達したときの駆動状態を弁部の弁開閉点として設定し、弁部の弁開閉点を基準としてモータを駆動させることにより、弁部の開度が制御指令値に対応した開度となるように制御する。
【0012】
この態様によると、モータを閉弁方向に駆動したときの駆動パルスからモータの負荷が検出され、その負荷に基づいて弁開閉点が設定される。すなわち、弁機構の着座動作に伴うモータ負荷の変化に基づいて弁開閉点が検出されるため、その弁開閉点を精度良く設定することができる。また、電動弁制御装置そのものの出力信号に基づいて弁開閉点を検出できる。その結果、効率良く高精度な制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータ駆動式の電動弁において、弁開閉点を速やかに検出し、効率良く高精度な制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る電動弁装置が適用されるシステムを表す図である。
図2】電動弁装置の構成を表す一断面図である。
図3】イニシャル処理の流れを示すフローチャートである。
図4】弁制御処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。
【0016】
図1は、実施形態に係る電動弁装置が適用されるシステムを表す図である。
電動弁装置10は、車両制御システムの一部であるエアコンシステムに適用される。電動弁装置10は、冷凍サイクルの膨張弁として機能する電動弁12と、その電動弁12を制御する電動弁制御装置20とを一体に組み付けて構成される。
【0017】
車両制御システムには、各システム系統を制御するための複数の電子制御装置(Electronic Control Unit:以下「ECU」と表記する)が、車載ネットワークを介して接続されている。図示のように、エンジンを制御するエンジンECU102、ブレーキ装置を制御するブレーキECU104、エアコンを制御するエアコンECU106、その他のECUが、通信ラインL1を介して接続されている。エアコンECU106は、エアコンシステムを構成する各機器の制御装置と通信ラインL2を介して接続されており、電動弁制御装置20は、その制御装置の一つを構成する。
【0018】
本実施形態では、メインネットワークの通信ラインL1をCANバスとし、サブネットワークの通信ラインL2をLINバスとしている。すなわち、メインネットワークの通信プロトコルとしてCAN(Controller Area Network)が採用され、サブネットワークの通信プロトコルとしてLIN(Local Interconnect Network)が採用されている。エアコンECU106は、LINバスに接続されたマスターノードとして動作する。電動弁制御装置20は、LINバスに接続されたスレーブノードとして動作する。なお、変形例においては、メインネットワークおよびサブネットワークの双方にCANを採用してもよい。あるいは、メインネットワークおよびサブネットワークの少なくとも一方に、CANやLIN以外の通信プロトコルを採用してもよい。すなわち、車載ネットワークの通信プロトコルとして、CAN,LIN,FlexRay(登録商標),MOST(登録商標)等、種々の規格を採用することができる。
【0019】
冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮するコンプレッサ110、圧縮された冷媒を凝縮するコンデンサ112、凝縮された液冷媒を絞り膨張させて霧状の気液混合冷媒にして送出する膨張弁(電動弁12)、その霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却するエバポレータ114等が設けられている。
【0020】
電動弁12は、後述する弁本体16とモータユニット18を含む。電動弁制御装置20は、マイクロコンピュータ22(「制御部」として機能する)を中心に構成され、モータユニット18を駆動するモータドライバ24と、LINトランシーバ26(「通信部」として機能する)とを含む。マイクロコンピュータ22は、各種演算処理を実行するCPU、ステッピングモータの制御プログラム等を格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、電源遮断後も記憶内容を保持する不揮発性メモリ(EEPROM等)、入出力インタフェース、通信インタフェース、計時用のタイマ等を備える。
【0021】
エアコンECU106は、例えばエバポレータ114の出口側に設置された温度センサや圧力センサの検出情報に基づき、エバポレータ114の出口側の過熱度が設定値となるように電動弁12の目標開度を演算する。そして、その演算結果を制御指令値として電動弁制御装置20へ送信する。
【0022】
電動弁制御装置20は、エアコンECU106からの制御指令信号をLINトランシーバ26を介して受信する。マイクロコンピュータ22は、その制御指令信号に基づいて目標開度を実現するための制御量(ステッピングモータの駆動ステップ数)を設定し、これを実現するための駆動信号(駆動パルス)をモータドライバ24に出力する。モータドライバ24は、その駆動信号に基づいてモータユニット18に駆動電流(電流パルス)を供給し、ステッピングモータを回転駆動させる。
【0023】
図2は、電動弁装置の構成を表す一断面図である。
電動弁装置10は、電動弁12に電動弁制御装置20を組み付けて構成される。電動弁12は、ステッピングモータ駆動式の電動膨張弁として構成され、弁本体16とモータユニット18とを組み付けて構成されている。弁本体16は、弁部を収容するボディ30を有する。モータユニット18は、ボディ30の上端開口部を封止するように取り付けられている。電動弁制御装置20は、円板状の基板にマイクロコンピュータ22,モータドライバ24,LINトランシーバ26等の各モジュールを実装して構成され、モータユニット18の上部に取り付けられている。各モジュールは、基板上の配線(信号線)を介して接続されている。
【0024】
ボディ30の一側面には上流側から冷媒を導入する導入ポート32が設けられ、反対側面には下流側へ冷媒を導出する導出ポート34が設けられている。導入ポート32と導出ポート34とをつなぐ通路には弁孔36が設けられ、その上端開口部に弁座38が形成されている。ボディ30の内方には、モータユニット18のロータ75から同軸状に延びるシャフト42が挿通されている。シャフト42は、一端部にニードル状の弁体40を支持している。弁体40が弁座38に上流側から着脱することにより弁部を開閉する。
【0025】
ボディ30の軸線方向上段には円筒状の滑り軸受44が圧入され、その直上段には円筒状のガイド部材46が圧入されている。ガイド部材46の内周面には雌ねじ48が形成されている。ボディ30の上面には段付円筒状の軸受部材50が立設されている。軸受部材50は、上半部が小径部52、下半部が大径部54とされている。
【0026】
シャフト42は、下半部が拡径されて円筒状に形成されており、その外周面に雄ねじ58が形成されている。この雄ねじ58は、ガイド部材46の雌ねじ48と螺合する。雄ねじ58と雌ねじ48とは、ボディ30に対してシャフト42を軸線方向に相対変位させるリードねじであり、後述する「ねじ機構」を構成する。
【0027】
シャフト42の下半部には、下方(つまりシャフト42の先端側)に向けて開口する内空部Sが設けられている。内空部Sには、上方からスプリング60(「付勢構造」を構成する「付勢部材」として機能する)、ばね受け62、弁体40が収容されている。シャフト42の下端開口部には、円筒状のブッシュ64が同心状に圧入され、弁体40を摺動可能に下方から支持する。ブッシュ64は「支持部」として機能する。なお、シャフト42とブッシュ64が一体であるため、両者を合わせて広義に「シャフト」と捉えることもできる。ブッシュ64の下端開口部は、そのシャフトの「先端開口部」を構成する。
【0028】
弁体40は、ブッシュ64を貫通するが、その上端部に半径方向外向きに突出するフランジ部66を有する。そのフランジ部66の下面がブッシュ64の上面に係止されることにより、弁体40の下方への脱落が防止されている。ばね受け62は、スプリング60による下方(閉弁方向)への付勢力を弁体40に伝達する。なお、弁体40の上端が半球状の凸球面とされ、ばね受け62の底面が凹球面とされており、両者は互いの球面にて当接する。このような構成により、弁体40とばね受け62との軸線がずれ難くなり、仮にずれたとしても両者間の調心作用が得られるようになる。
【0029】
一方、モータユニット18は、ロータ75とステータコイル76とを含むステッピングモータとして構成されている。モータユニット18は、有底円筒状のキャン78を有し、そのキャン78の内方にロータ75を配置し、外方にステータコイル76を配置して構成されている。キャン78は、弁体40およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ75を内包する筒状部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間と作用しない外方の非圧力空間とを画定する。キャン78の下端開口部が、ボディ30の上部に組み付けられている。
【0030】
ステータコイル76は、励磁コイル80を収容し、キャン78の外周に配設されている。ステータコイル76は、ボディ30に対して固定されている。励磁コイル80は、電動弁制御装置20のモータドライバ24に接続されている。ロータ75は、シャフト42を軸線とする円筒状のロータコア82と、ロータコア82の外周に沿って設けられたマグネット84を備える。ロータコア82の上端部が半径方向内向きに延出し、シャフト42の上端部に固定されている。ロータ75は、その回転軸となるシャフト42が軸受部材50の小径部52と滑り軸受44とにより2点支持される。また、軸受部材50の大径部54は、ロータ75の内径にほぼ等しい外径を有し、ロータ75の触れ回りを防止又は抑制する。
【0031】
以上のように構成された電動弁12は、モータユニット18の駆動制御によってその弁開度が調整される。電動弁12の流量制御において、マイクロコンピュータ22は、設定開度に応じたステッピングモータの駆動ステップ数を演算し、その駆動ステップに対応する駆動信号(駆動パルス)をモータドライバ24に出力する。モータドライバ24は、その駆動信号に基づいて励磁コイル80に駆動電流(駆動パルス)を供給する。それによりロータ75が回転すると、それに伴ってシャフト42も回転する。このとき、シャフト42は、ガイド部材46との間のねじ機構(リードねじ)により上下方向、つまり弁部の開閉方向に並進し、弁部の開度が設定開度に調整される。すなわち、このねじ機構は、ロータ75の軸線周りの回転運動をシャフト42の軸線方向の並進運動(直進運動)に変換することにより弁体40を弁部の開閉方向に駆動する「作動変換機構」として機能する。
【0032】
図示の閉弁状態からロータ75が一方向に回転駆動(正転)されることにより、弁体40が開弁作動する。すなわち、ロータ75とともに回転するシャフト42がねじ機構によって上昇し、ブッシュ64が弁体40を吊り上げるようにして開弁方向に変位させる。ロータ75が一方向に回転されるにつれて弁部の開度が大きくなる。
【0033】
一方、ロータ75が他方向(反対方向)に回転駆動(逆転)されると、弁部の開度は小さくなる。すなわち、ロータ75とともに逆回転するシャフト42がねじ機構によって下降し、弁体40がブッシュ64に支持されたまま閉弁方向に変位する。このとき、スプリング60の付勢力がばね受け62を介して弁体40に伝達されるため、弁体40はブッシュ64と一体に安定に変位する。それにより、弁体40が閉弁方向に変位し、弁座38に着座して閉弁状態となる。
【0034】
ロータ75の回転数は駆動ステップ数に対応するため、マイクロコンピュータ22は、その駆動ステップ数を設定することにより電動弁12を任意の開度に制御することができる。コンデンサ側から導入ポート32を介して電動弁12に導入された液冷媒は、その弁部を通過することにより絞り膨張(断熱膨張)されて霧状の気液混合冷媒となり、導出ポート34からエバポレータに向けて導出される。
【0035】
次に、電動弁装置の制御方法について説明する。
上述のように、電動弁12の開度は、制御指令値に基づく駆動ステップ数により設定されるが、その設定は弁開閉点を基準になされる。ここで、「弁開閉点」は、弁部が閉弁状態から開弁状態へ変化するポイントであり、また、開弁状態から閉弁状態へ変化するポイントである(つまり開弁状態と閉弁状態との境界ポイントである)。この弁開閉点を基準とした開弁方向の駆動ステップ数として弁開度を設定することができる。
【0036】
ただし、上述のように、閉弁過程において弁体40が弁座38に着座しても、シャフト42の駆動は直ちには停止されず、スプリング60がやや押し縮められたところでシャフト42ひいてはロータ75の回転が停止される。すなわち、弁体40が弁座38に着座した後、シャフト42が最下点に到達されるまでの期間(例えば着座から1/3〜1回転の期間)、スプリング60が押し縮められつつシャフト42の回転が継続される。このようにしてスプリング60の付勢力により弁体40を弁座38に押し付けることで、安定した閉弁状態を維持するものである。
【0037】
このような構成のため、弁体40の停止ポイントとシャフト42の停止ポイントとは一致しない。すなわち、閉弁作動について、弁体40の弁座38への着座タイミングと、シャフト42の停止タイミングとの間に所定ステップ数分の制御が存在する。同様に、開弁作動について、シャフト42の駆動開始タイミングと弁体40の弁座38からの離脱タイミングとの間にも所定ステップ数分の制御が存在する。一方、ステッピングモータにより直接駆動されるのはシャフト42であるため、制御指令値としての駆動ステップ数は、シャフト42の停止ポイントを基準として設定される。つまり、安定した閉弁状態を実現するために設定されるシャフト42の停止ポイントを駆動ステップの原点とし、その原点から弁開閉点までの駆動ステップ数を勘案して弁開度指令値が設定されるようになる。この原点は、ステッピングモータの駆動ステップをカウントするときの基準位置であり、シャフト42を駆動するときの基準位置となる。
【0038】
ところで、閉弁作動時には、弁体40が弁座38に着座すると同時にブッシュ64との係合状態が解除されるため、弁体40と弁座38との間に過大な力が作用することはない。しかし、弁体40が弁座38に着座したときに両者間に摩擦が生じるため、閉弁を繰り返すごとに弁座38の摩耗が進行する。特に電動弁装置10の設置当初、つまり電動弁12の使用開始当初における弁座38の初期摩耗が大きくなる傾向にある。このような摩耗が生じたとしても、弁開度の制御性能を良好に維持する必要がある。そこで本実施形態では、電動弁12の駆動を開始させるごとに上記駆動ステップの原点を更新する(いわゆる原点出しを行う)イニシャル処理を実行する。
【0039】
この原点出しは、電動弁12を閉弁作動させ、そのときのステッピングモータの負荷を検出することにより行われる。すなわち、シャフト42が閉弁方向に駆動され、弁体40が弁座38に着座すると、その反力によってロータ75の負荷トルクが変化する。それにより、モータドライバ24からモータユニット18へ供給する駆動電流の波形が変化する。この変化を検出することにより弁開閉点への到達を判定することができる。
【0040】
より具体的には、例えば以下のとおりである。すなわち、ステッピングモータを駆動する際にモニタされる電流波形は、ステップごとに供給される駆動電流と、ステップごとの変位に伴う誘導電流との重ね合わせによる波形となる。この波形は、閉弁前後で比較的大きく変化する。弁体40が弁座38に着座することによりロータ75の負荷トルクが増大し、ステップごとのロータ75の回転方向へのふらつきが抑制され、それが波形に表れるためである。この波形の変化量が予め定める基準値に達したことを検出することにより、弁体40が弁座38に着座するポイント、つまり弁開閉点を判定することができる。
【0041】
そして、その弁開閉点から予め定める駆動ステップ数(閉弁状態を保持するための設定ステップ)だけ閉弁作動を継続させる。この設定ステップに到達すると、モータユニット18の駆動を停止し、その停止ポイントを駆動ステップの原点として設定する。このような処理を電動弁12の駆動開始ごとに実行することで、弁部の摩耗状態にかかわらず、閉弁状態における弁体40と弁座38との当接力(スプリング60による閉弁方向の付勢力)をほぼ一定に保つことができる。その結果、弁開度の制御性能を良好に維持することができる。
【0042】
次に、電動弁装置10の制御部(マイクロコンピュータ22)が実行する具体的処理の流れについて説明する。図3は、制御部により実行されるイニシャル処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、電動弁装置10が起動されるごとに実行される。
【0043】
制御部は、まず、駆動ステップの原点を特定するために、シャフト42を最下点に移動させるイニシャライズ駆動を実行する(S10)。そして、弁開閉点を示す負荷(「弁開閉点負荷」ともいう)が検出されると(S12のY)、原点出しのための検出処理を開始する(S14)。すなわち、その弁開閉点負荷が検出されてからの閉弁方向への駆動ステップ数をカウントする。このとき、その駆動ステップ数が設定ステップに達すると(S16のY)、原点位置へ駆動されたとみなしてモータユニット18の駆動を停止させる(S18)。そして、RAMに設定されたステップカウンタ(cntStep)をゼロクリアする(S20)。
【0044】
このステップカウンタは、現在の原点からの駆動ステップ数をカウントするものである。このようにして、今回の弁開閉点が特定されるため、制御の基準となる弁開閉点も特定される。すなわち、ステップカウンタが開弁方向に設定ステップとなる位置が、弁開閉点ということになる。そして、エアコンECU106からの制御開始コマンドを受信すると(S22のY)、電動弁12の開度を制御する弁制御処理を開始する(S24)。
【0045】
図4は、図3のS24にて開始される弁制御処理の流れを示すフローチャートである。
制御部は、エアコンECU106からの制御コマンドを受信すると(S30のY)、その制御コマンドに含まれる目標開度を実現するための制御量(制御ステップsetStep)を設定する(S32)。ここでいう目標開度となったか否かは弁開閉点を基準とする駆動ステップにより判定される。ただし、本実施形態ではその弁開閉点そのものが原点を基準に定められているため、制御ステップ(setStep)は、原点を基準とした駆動ステップ(cntStep)の値として設定される。そして、ステッピングモータの駆動処理を実行する(S34)。弁開度が目標開度となるまで、つまり駆動ステップ(cntStep)が制御ステップ(setStep)となるまでその駆動処理を継続する(S36のN)。弁開度が目標開度になると(S36のY)、ステッピングモータの駆動を停止する(S48)。制御コマンドを受信しなければ(S30のN)、S32〜S38の処理をスキップする。
【0046】
そして、エアコンECU106からの制御終了コマンドを受信するまで(S40のN)、S30〜S38の処理を繰り返す。制御終了コマンドを受信すると(S40のY)、予め定める終了処理を実行し(S42)、本処理を終了する。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態では、モータユニット18を閉弁方向に駆動するモータドライバ24の駆動パルスからそのステッピングモータの負荷が検出され、その負荷に基づいて弁開閉点が設定される。すなわち、弁機構の着座動作に伴うモータ負荷の変化に基づいて弁開閉点が検出されるため、電動弁の個体差、組み付け誤差、摩耗による弁部の形状変化等にかかわらず、その弁開閉点を精度良く設定できる。このため、弁開度を小開度にする制御(弁開閉点付近での微小流量制御)も容易となり、小開度制御において予期せぬ閉弁状態となることも防止できる。また、電動弁12を閉弁作動させるだけで、電動弁制御装置20そのものの出力信号に基づき弁開閉点を検出できるため、効率良く制御を開始することができる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0049】
上記実施形態では、図3に示したイニシャル処理において、弁開閉点と原点とを別々に設定する例を示した。変形例においては、弁開閉点そのものを原点としてもよい。
【0050】
上記実施形態では、イニシャル処理において、イニシャライズ駆動を1回のみ実行し、弁開閉点および原点の設定をする例を示した。変形例においては、イニシャライズ駆動を複数回実行し、弁開閉点および原点として、その複数回の平均値等を設定してもよい。ただし、電動膨張弁が車室に比較的近い位置に配置されることを考慮すると、イニシャライズ駆動による閉弁時の作動音が頻繁に発せられるのは好ましくない。このため、イニシャライズ駆動は上記実施形態のように1回に留めるのが望ましい。
【0051】
上記実施形態では述べなかったが、電動弁にシャフトの閉弁方向への移動限界を規定するストッパ機構を設けてもよい。そのストッパ機構は、弁体が弁座に着座後、シャフトがさらに閉弁方向に所定量移動したときにシャフトを係止するように設けられる。弁開閉点は、ストッパ機構によりシャフトが係止された状態を原点として、その原点から開弁方向への駆動ステップ数により定められてもよい。その場合、イニシャル処理を実行した際に弁開閉点を示す情報(原点からの駆動ステップ数:「開弁ステップ数」ともいう)を不揮発性メモリに記憶させてもよい。そして、次回のイニシャル処理において、原点位置から開弁ステップ数を所定ステップ数(少ステップ数)上回るだけシャフトを駆動して停止させ、そこから閉弁方向へ駆動して弁開閉点の検出を行ってもよい。このような手法により、弁開閉点を速やかに効率良く検出することができる。
【0052】
上記実施形態では、図1および図2に示したように、電動弁制御装置20を電動弁12に一体に設ける例を示した。変形例においては、例えば電動弁制御装置20を中継基板に実装し、電動弁12とは別体で構成してもよい。そして、両者を所定の信号線にて接続してもよい。
【0053】
上記実施形態では、上記電動弁のモータをステッピングモータとする例を示したが、DCモータその他のモータとしてもよい。
【0054】
上記実施形態では、上記電動弁を小口径の膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない制御弁としてもよい。例えば、大口径の開閉弁又は流量調整弁として構成してもよい。
【0055】
上記実施形態では、ニードル状の弁体40を採用する例を示したが、弁体としてそれ以外の形状を採用してもよい。例えば、弁体40の先端部に外径が大きい弁形成部を設けてもよい。それにより、弁部にて制御する流量を大きくすることができる。
【0056】
上記実施形態では、シャフト42がロータ75と同軸状に設けられる例を示した。変形例においては、ロータとシャフトとが互いに異なる軸線上に設けられる構成としてもよい。例えば、両者の軸線が平行にずれる構成としてもよい。そして、ロータの軸とシャフトとの間にギヤ機構(減速機)を介在させてもよい。
【0057】
上記実施形態では、閉弁時に弁体を弁座に弾性的に押し付けるための付勢構造として、コイルばね(スプリング60)を採用する例を示した。変形例においては、コイルばねに代えて、皿ばね、板ばね等その他のスプリングを採用してもよい。あるいは、ゴムやダイヤフラム等その他の付勢部材を採用してもよい。さらに、例えば弁座の肉厚を薄くすることで弾性的に弁体を受け止める構造(弁座に弾性をもたせる構造)等その他の付勢構造を採用してもよい。その場合、弁体をシャフトにより弾性的に支持しない構成としてもよい。例えば、シャフトと弁体とを一体に構成してもよい。
【0058】
上記実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC−134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルにコンデンサに代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 電動弁装置、12 電動弁、18 モータユニット、20 電動弁制御装置、22 マイクロコンピュータ、24 モータドライバ、26 LINトランシーバ、30 ボディ、32 導入ポート、34 導出ポート、36 弁孔、38 弁座、40 弁体、42 シャフト、60 スプリング、75 ロータ、S 内空部。
図1
図2
図3
図4