【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(多孔性粒子の製造)
(実施例1−1)
リン脂質(日油(株)製、水添大豆レシチン)を混合溶媒(t−ブタノール:シクロヘキサン=1:2混合溶媒)に溶解させて、リン脂質溶液(9.6wt%の水添大豆レシチン溶液)を調製した。
【0051】
次に、前記リン脂質溶液を氷冷によって0℃に冷却して相分離させた後、0℃で24時間保持して、沈殿物を生成させた。
【0052】
次に、前記沈殿物を液体窒素で凍結して、凍結物を生成した。
【0053】
次に、前記凍結物を、凍結乾燥機内に保持して、減圧下で、−20℃で半日保持してから温度を室温に上げ、1日凍結乾燥することによって、実施例1−1の多孔性粒子を製造した。
【0054】
図7は、実施例1−1の多孔性粒子のSEM写真である。窒素吸着法(日本ベル製BEL-sorp mini)を用いて測定した該粒子の比表面積は23.9m
2/gであり、その体積基準平均粒子径は15.8μmであった。同図から分かるように、得られた粒子は粒径がほぼ揃った狭い粒径分布を示しており、分布の標準偏差は2.7μmであった。
【0055】
(実施例1−2)
前記リン脂質溶液を−20℃に冷却してから、その温度で24時間保持して、沈殿物を生成した他は実施例1−1と同様にして、実施例1−2の多孔性粒子を製造した。
【0056】
図8は、実施例1−2の多孔性粒子のSEM写真である。比表面積は6.73m
2/gであり、平均粒子径は8.2μm(標準偏差1.2μm)であった。
【0057】
(実施例1−3)
3.0wt%の水添大豆レシチン溶液を用いて、リン脂質溶液を調製した他は実施例1−1と同様にして、実施例1−3の多孔性粒子を製造した。
【0058】
図9は、実施例1−3の多孔性粒子のSEM写真である。比表面積は19.8m
2/gであり、平均粒子径は11.5μm(標準偏差1.6μm)であった。
【0059】
(実施例1−4)
6.0wt%の水添大豆レシチン溶液を用いて、リン脂質溶液を調製した他は実施例1−1と同様にして、実施例1−4の多孔性粒子を製造した。
【0060】
図10、11は、実施例1−4の多孔性粒子のSEM写真である。比表面積は43.1m
2/gであり、平均粒子径は12.4μm(標準偏差1.8μm)であった。
【0061】
(実施例1−5)
6.0wt%の水添大豆レシチン溶液を用いて、リン脂質溶液を調製し、混合溶媒として、t−ブタノール:シクロヘキサン=2:1混合溶媒を用いた他は実施例1−1と同様にして、実施例1−5の多孔性粒子を製造した。
【0062】
図12は、実施例1−5の多孔性粒子のSEM写真である。比表面積は49.3m
2/gであり、平均粒子径は13.0μm(標準偏差1.8μm)であった。
【0063】
(実施例1−6)
6.0wt%の水添大豆レシチン溶液を用いて、リン脂質溶液を調製し、混合溶媒として、t−ブタノール:シクロヘキサン=1:1混合溶媒を用いた他は実施例1−1と同様にして、実施例1−6の多孔性粒子を製造した。
【0064】
図13は、実施例1−6の多孔性粒子のSEM写真である。比表面積は50.4m
2/gであり、平均粒子径は15.6μm(標準偏差1.7μm)であった。
【0065】
(実施例1−7)
6.0wt%の水添大豆レシチン溶液を用いて、リン脂質溶液を調製し、混合溶媒として、t−ブタノール:シクロヘキサン=1:4混合溶媒を用いた他は実施例1−1と同様にして、実施例1−7の多孔性粒子を製造した。
【0066】
図14は、実施例1−7の多孔性粒子のSEM写真である。比表面積は41.7m
2/gであり、平均粒子径は9.9μm(標準偏差2.4μm)であった。
【0067】
(実施例1−8)
前記リン脂質溶液を4℃に冷却してから、その温度で保持して、沈殿物を生成した他は実施例1−1と同様にして、実施例1−8の多孔性粒子を製造した。
【0068】
図15は、実施例1−8の多孔性粒子のSEM写真である。
【0069】
(実施例1−9)
ジステアロイルホスファチジルコリンとジパルミトイルホスファチジルコリンをモル比1:1で混合し、合計濃度3.9wt%としてt−ブタノール:シクロヘキサン=1:2混合溶媒に均一に溶解させ、4℃に冷却してから、その温度で保持して、沈殿物を生成した他は実施例1−1と同様にして、実施例1−9の多孔性粒子を製造した。
【0070】
図16は、実施例1−9の多孔性粒子のSEM写真である。
【0071】
<細孔分布の解析結果>
図17は、レシチン濃度9.6wt%(実施例1−1)、3.0wt%(実施例1−3)、6.0wt%(実施例1−4)について、窒素吸着法(日本ベル製BEL-sorp mini)にて求めた細孔分布の解析結果であって、rp(多孔性粒子の孔径)に対するVp(多孔性粒子全体のポアボリューム)の関係を示すグラフである。縦軸は、dVp/drpとしている。本図はつまり、細孔径の分布を表している。
3.0wt%(実施例1−3)では、鮮明なピークは観察されず、100nm以下の細孔は少ないと考えられた。
9.6wt%(実施例1−1)では、10nm近傍にピークが見られた。
6.0wt%(実施例1−4)では、20nm近傍にピークが見られた。
表1は、多孔性粒子の製造条件及び得られた多孔性粒子の比表面積及び平均粒子径を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例2−1)
溶媒にt−ブタノール:シクロヘキサン=1:2混合溶液を用いて、9.2wt%の水添大豆レシチンを含有する溶液を調製した。
次に、この溶液を4℃で一日保持し、沈殿物を得た。
次に、その沈殿物を液体窒素で凍結させたのち、凍結乾燥を行った。
以上により、実施例2−1の多孔性粒子を得た。
小角X線散乱より求めたラメラ様の層の間隔(以下「ラメラ間隔」とする)は6.17nmであった。
【0074】
(実施例2−2)
溶媒にt−ブタノール:シクロヘキサン=1:2混合溶液を用い、9.2wt%の水添大豆レシチン溶液を調製した。別に20wt%のグルコース水溶液を調製し、これをレシチン溶液に対して4.6wt%となるように添加して、グルコースを含むレシチン溶液を調製した。沈澱操作以降は実施例2−1と同様にして、実施例2−2の多孔性粒子を得た。
図18は、実施例2−2の多孔性粒子のSEM写真である。
小角X線散乱より求めたラメラ間隔は6.35nmであった。
【0075】
(実施例2−3)
グルコース水溶液濃度が40wt%である以外は実施例2−2と同様にして、実施例2−3の多孔性粒子を得た。
図19は、実施例2−3の多孔性粒子のSEM写真である。
小角X線散乱より求めたラメラ間隔は6.59nmであった。
【0076】
(実施例2−4)
グルコース水溶液濃度が60wt%である以外は実施例2−2と同様にして、実施例2−4の多孔性粒子を得た。
図20は、実施例2−4の多孔性粒子のSEM写真である。
小角X線散乱より求めたラメラ間隔は6.74nmであった。
【0077】
(実施例2−5)
グルコース水溶液濃度が80wt%である以外は実施例2−2と同様にして、実施例2−5の多孔性粒子を得た。
図21は、実施例2−5の多孔性粒子のSEM写真である。
小角X線散乱より求めたラメラ間隔は6.84nmであった。
表2は、製造条件及びラメラ間隔の結果をまとめたものである。
【0078】
【表2】
【0079】
添加したグルコース水溶液濃度の上昇に伴いラメラ間隔が広がった。これは、(1)グルコースが主に脂質二分子膜間に存在しており、(2)グルコース濃度の上昇に伴い、脂質二分子膜間に存在するグルコース量が増え、脂質二分子膜間距離が広がったことによるものと思われる。
【0080】
(実施例3)
(デキストラン包含多孔性粒子の製造)
t−ブタノール:シクロヘキサン=1:2混合溶液を用いて9.6wt%の水添大豆レシチン溶液を調製した。続いて0.1wt%の、フルオレセインイソシアネートで修飾されたデキストラン(以下「FITCデキストラン」とする)を、デキストラン/レシチン=0.5μg/200mg又は0.5μg/100mgになるように添加した。
次に、この水添大豆レシチン溶液を4℃で一日保持して、沈殿物を生成した。
次に、この沈殿物を液体窒素で凍結させたのち、凍結乾燥を行って、実施例3のFITCデキストラン包含多孔性粒子を製造した。
【0081】
(FITCデキストラン放出実験)
(実施例3−1)
実施例3のFITCデキストラン包含多孔性粒子(デキストラン/レシチン=0.5μg/200mg)を200mg/100mLでpH7のリン酸緩衝液に分散させた。
次に、溶液を経時的に採取、フィルタによる濾過、ろ液の蛍光分析を行い、FITCデキストラン濃度を測定した。
【0082】
(実施例3−2)
実施例3のFITCデキストラン包含多孔性粒子(デキストラン/レシチン=0.5μg/100mg)を100mg/100mLで分散させた他は実施例3−1と同様にして、溶液中のFITCデキストラン濃度を測定した。
【0083】
図22は、実施例3のFITCデキストラン包含多孔性粒子からのFITCデキストランの放出パーセンテージと経時時間との関係を示すグラフであって、実施例3−1(b)、3−2(a)である。
いずれも、二相性を有する放出挙動が観察された。これは、ラメラ間に捕獲されたFITCデキストランが、孔内に捕獲されたFITCデキストランより放出されにくいことによると考えられる。
以上により、本発明の方法で得られる多孔性粒子は、放出速度を制御可能な担体として作用することが示された。
表3は、製造条件及び放出特性の結果をまとめたものである。
【0084】
【表3】
【0085】
(テオフィリン包含多孔性粒子の製造)
(実施例4−1)
t−ブタノール:シクロヘキサン=1:2混合溶液を用いて、9.2wt%の水添大豆レシチン溶液を調製した。続いて0.25wt%のテオフィリン水溶液を調製し、上記レシチン溶液に対して4.6wt%のテオフィリン水溶液を添加した。
次に、この水添大豆レシチン溶液を4℃で一日保持し、沈殿物を生成した。
次に、その沈殿物を液体窒素で凍結させたのち、凍結乾燥を行って、実施例4−1のテオフィリン包含多孔性粒子を得た。
図23の(a)は、実施例4−1の多孔性粒子のSEM写真である。
【0086】
(実施例4−2)
加えた4.6wt%のテオフィリン水溶液の濃度を2倍とした他は実施例4−1と同様にして、実施例4−2のテオフィリン包含多孔性粒子を得た。
図23の(b)は、実施例4−2の多孔性粒子のSEM写真である。
【0087】
(実施例4−3)
加えた4.6wt%のテオフィリン水溶液の濃度を3倍とした他は実施例4−1と同様にして、実施例4−3のテオフィリン包含多孔性粒子を得た。
図23の(c)は、実施例4−3の多孔性粒子のSEM写真である。
【0088】
(実施例4−4)
加えた4.6wt%のテオフィリン水溶液の濃度を4倍とした他は実施例4−1と同様にして、実施例4−4のテオフィリン包含多孔性粒子を得た。
図23の(d)は、実施例4−4の多孔性粒子のSEM写真である。
【0089】
(テオフィリン放出実験)
まず、実施例4−1〜4−4のテオフィリン包含多孔性粒子を200mg/100mLでpH7のリン酸緩衝液に分散させた。
次に、溶液を経時的に採取し、フィルタで濾過した後、高速液体クロマトグラフィー分析して、溶液中のテオフィリン濃度を測定した。
【0090】
図24は、実施例4−1〜4−4のテオフィリン包含多孔性粒子からのテオフィリンの放出パーセンテージと経時時間との関係を示すグラフである。
実施例4−1〜4−4のテオフィリン包含多孔性粒子からテオフィリンが時間とともに少しずつ放出された。
テオフィリン単独では一瞬で全量が溶解したことと比較すると、実施例4−1〜4−4のテオフィリン包含多孔性粒子にテオフィリンが包含されていること、包含されたテオフィリンが少しずつ放出されることを確認した。
表4は、製造条件及び放出特性の結果をまとめたものである。
【0091】
【表4】
【0092】
(参考例1)
水添大豆レシチンをt−ブタノールに9.6wt%で溶解した後、凍結乾燥した。
図25のSEM写真に示すようなバルク体が得られ、球形粒子は得られなかった。
【0093】
(参考例2)
t−ブタノール:シクロヘキサン=1:2混合溶液を用い、9.6wt%の水添大豆レシチン溶液を調製した。
次に、この水添大豆レシチン溶液を25℃で一日保持し、沈殿物を生成した。
次に、その沈殿物を液体窒素で凍結させたのち、凍結乾燥を行った。
板状構造体が得られた。球形粒子は得られなかった。
図26は、比較例2の板状構造体のSEM写真である。
実験条件及び結果を表5にまとめた。
【0094】
【表5】
【0095】
(実施例5)
3.9wt%の水添大豆レシチンと0.2wt%のプレドニゾロンを含むt−ブタノール:シクロヘキサン=1:2溶液を4℃で一日保持した後、その沈殿物を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥を行うことによって、多孔性粒子を得た。
図27は、該多孔性粒子の電子顕微鏡写真である。
プレドニゾロンの多孔性粒子への含有率は80%であった。
【0096】
(実施例6)
t−ブタノール:シクロヘキサン=1:2の混合溶液を用いて、9wt%の水添大豆レシチンと1wt%のフェノフィブラートを含有する溶液を調製した。この溶液を4℃で1日保持したのち、液体窒素で凍結させ、さらに凍結乾燥を行って、フェノフィブラートを含む多孔性粒子を得た。
図28(a)にそのSEM写真を示す。得られた粒子を薬物量換算7.5mg/kgでラットに経口投与して、フェノフィブラート代謝物の血中濃度を測定した。比較として、多孔性粒子の原料に用いた水添大豆レシチンとフェノフィブラートを9対1の割合で物理的に混合し、同じ量を投与した。
図28(b)に示すように、多孔性粒子を投与した場合、原料の水添大豆レシチンとフェノフィブラートとの物理混合物の投与と比べて顕著に経口吸収性が向上した。これは、多孔性粒子と腸管粘膜が親和性を有し、経粘膜吸収性が促進されたためと考えられる。