(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
FRPを製造する方法として、上型と下型から形成されるキャビティ内に強化繊維基材を配置し、型を加圧することによって型締めして、加圧したマトリックス樹脂を強化繊維基材に注入して含浸させ、含浸した樹脂を硬化させることにより、所定厚みのFRP成形品を成形する、上型と下型を用いるRTM法が知られている。上型と下型を用いるRTM法において、特に大型のFRP構造体を成形するための技術として、広い面積にわたってマトリックス樹脂を良好に強化繊維基材に注入、含浸する目的を達成するために、樹脂を複数箇所からほぼ同時に注入するようにした多点注入技術も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、上記のような、上型と下型を用いるRTM法に対し、上型の代わりに樹脂製フィルムなどのバッグ材を用い、下型の上に設置された強化繊維基材をバッグ材で覆うとともに、バッグ材と下型とをシール材で密閉し、バッグ材で覆われた内部を真空吸引して減圧するとともにその減圧状態を利用して内部にマトリックス樹脂を注入して強化繊維基材に含浸させ、含浸した樹脂を硬化させるようにした、バッグ材を用いるRTM法が知られている。また、バッグ材を用いるRTM法において、樹脂含浸後、バッグ材内部に配置した吸引ラインから強化繊維基材内の余剰樹脂を吸引除去することによりVfを制御するようにした技術も知られている(例えば、特許文献2)。
【0004】
また、上記した上型と下型を用いるRTM法では、強化繊維基材の厚みが成形により得ようとする成形品、いわゆる製品の厚みと同等になるようにキャビティの内寸法の高さを調整した状態で、加圧したマトリックス樹脂を強化繊維基材に注入、含浸させるのが、一般的である。しかしながら、上型と下型を用いるRTM法において、大型のFRP構造体の成形に適用する技術として、上型と下型によって形成されるキャビティ内に強化繊維基材を配置し、製品の厚みよりもキャビティの内寸法の高さを大きくした状態で樹脂を強化繊維基材に注入、含浸させ、しかる後に、強化繊維基材に余剰に注入、含浸された樹脂を吸引、除去するとともに、上型および下型の少なくとも一方を他方に向けて加圧することによりキャビティの内寸法の高さを、強化繊維基材の厚みが製品の厚みになるように制御し、その状態にて樹脂を硬化させる技術が知られている(例えば、特許文献3)。特許文献3に開示された技術を用いることにより、大型厚肉かつ高Vfである、平板状の成形品を効率よく製造することができるようになる。
【0005】
また、FRPの成形時に必要な圧力の供給源としてゴムやエラストマーの熱膨張を利用した技術が知られている(例えば、特許文献4、5)。特許文献4に開示された技術では、加熱することによりゴム層が膨張して余分な樹脂を押し出し、安定した量の樹脂が付着し固化した構造体を製造できるようになり、特許文献5に開示された技術では、プリプレグ成形法において、オートクレーブ装置を使用せずに大型成形品を製造できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施態様は、あくまで本発明の望ましい実施の形態の例示であって、本発明は、これら実施態様に限定されるものではない。
【0017】
本発明の第1の実施態様について、
図1〜3を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係るFRPの製造方法に用いる製造装置の概略斜視図を示しており、その縦断面図を
図2に示している。また、
図1,2に示すFRPの製造装置における金型の概略縦断面図を
図3に示している。
図1〜3において、FRPの製造装置1は、上型2と下型3を有しており、本実施態様では、上型2は平面状のプレートであり、下型3の断面形状は凹型の枠体の中に凸部10が形成されており、上型2と下型3によって形成されるキャビティ4の断面形状はC型となる。
【0018】
本発明において、上型2、下型3、内型6は、必要な強度、剛性があれば特に材料および形態を限定しないが、成形品の精度と成形品の表面品位を高めるために、材料は金属であることが望ましく、例えば、スチールであることが好ましく、さらには、熱膨張の観点から、インバーであることがより好ましい。
【0019】
本実施態様では、キャビティ4内に、三次元形状のプリフォームとして、ベース部30と補強部31で構成されるC型断面形状を有し、強化繊維基材からなるプリフォーム5を、下型の凸部10に沿うように配置し、キャビティの両補強部31において、プリフォーム5と下型3の側壁との間に、凸部10と相対する形状の内型6を配置する。ベース部は水平側面を呈し、補強部は垂直側面を呈している。
【0020】
本発明において、内型6は、キャビティ内で少なくとも上下方向と異なる横方向にプリフォームを加圧するように動作可能となっている。また、本実施態様では、内型6は、樹脂を注入する前の時点でキャビティ4に隙間ができない程度のサイズであることが好ましい。プリフォーム5の板厚は、得ようとする成形品の厚み、すなわち製品の厚みよりも大きい状態(つまり、製品におけるVfよりも低Vfの状態)に形成されている。
【0021】
下型3の側壁には貫通孔8が設けられており、棒状体7が貫通孔8を通って、内型6と接触している。本実施態様においては、棒状体7は雄ネジのボルトで構成され、貫通孔8には雌ネジが設けられているのがよい。貫通孔は、
図1や
図2では下型に設けられているが、成形品や金型の形状に対応して、上型と下型のいずれか、もしくは両方に設けられていても良い。
【0022】
上型2と下型3の間には、キャビティ4の周囲に全周にわたって延びる、シール手段としてのOリング9が設けられ、Oリング9を介して、キャビティ4が上型2と下型3とで密閉される。Oリング9を用いていることにより、上型2と下型3の間に隙間ができ、上型2と下型3は、少なくとも一方を他方に向けて動作可能となっている。そして、上型2と下型3の間に隙間があることにより、マトリックス樹脂を含浸する際にプリフォームを低Vf状態とでき、マトリックス樹脂の流路が大きくなる。上型2と下型3を押圧するか、キャビティ4を減圧にすることにより、上型2と下型3は、一方が他方に向けて動作し、シール手段としてのOリング9の潰れ量が大きくなり、プリフォーム5におけるベース部の厚みが、徐々に薄くなり、上型2と下型3の表面が接触して止まることによって、所定の製品の厚みになるように制御される。
【0023】
Oリングは、特に材料および形態を限定しないが、材料として、例えばニトリルゴム、スチロールゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムを利用することができ、特に離型特性が高いものが好ましいため、シリコーンゴムを使用することが好ましい。
【0024】
また、本実施態様では、キャビティ4にマトリックス樹脂を注入するための樹脂注入手段として、下型3に樹脂注入口12を備えている。プリフォーム5の厚みが製品の厚みよりも大きい状態(つまり、プリフォームのVfが、得ようとする製品のVfよりも低い状態)にて、樹脂ポット11内に収容されているマトリックス樹脂が、樹脂注入ライン13を介して、樹脂注入ライン13に接続されて下型3に形成された樹脂注入口12から、キャビティ4内のプリフォーム5に向けて注入され、含浸される。
【0025】
なお、本発明では、
図2に示すように、下型3とプリフォーム5の間に樹脂拡散媒体21を介装し、樹脂拡散媒体21を介してマトリックス樹脂がより均一に拡散された状態でプリフォーム5に注入、含浸できるようにしてもよい。樹脂拡散媒体21としては、樹脂の拡散を促進する機能を有すれば、特に材料および形態を限定しないが、樹脂の流動抵抗が、プリフォーム5を構成する強化繊維基材内を流れる場合の流動抵抗に比べ1/10以下の低い抵抗であるシート状の媒体であることが好ましく、具体的には、ポリエチレンやポリプロピレン製のメッシュ織物で、目開きがメッシュ数400以下(ピッチ63.5μm以上)のものが好ましい。
【0026】
また、
図1、2に示す装置では、真空ポンプ18により、樹脂トラップ19を介して上型2に形成された真空吸引口15を通してキャビティ4内を吸引により減圧状態にし、その減圧状態を利用してマトリックス樹脂が樹脂注入口12からプリフォーム5に注入、含浸されるようになっている。ただし、本発明では、この減圧状態を利用した注入、含浸の代わりに、後述するように、マトリックス樹脂を加圧注入することも可能であり、減圧状態を利用した注入と加圧注入とを併用することも可能である。キャビティ内を減圧状態にすると、残存空気が排除でき、成形品内の空隙といった不具合を減少させることができる。
【0027】
樹脂ポット11、樹脂トラップ19、樹脂注入ライン13および真空吸引ライン16は、良好な樹脂含浸を達成できるような樹脂粘度を保つため、加温機能もしくは保温機能を有していることが望ましい。樹脂注入口12、樹脂注入ライン13、真空吸引口15および真空吸引ライン16については、その個数、その径、その位置といった条件を、樹脂拡散媒体21の性能や成形品の大きさや形状を考慮して決定することが望ましい。なお、真空吸引口15は、プリフォームにおいて樹脂の含浸が最も遅れる位置に設置されることが望ましい。
【0028】
やがて、マトリックス樹脂がプリフォーム5全体にわたって含浸され、含浸完了後には、真空吸引口15からマトリックス樹脂が真空吸引ライン16に向けて流出するようになる。このマトリックス樹脂の注入、含浸時には、目標とする高Vfの製品の厚みよりプリフォームの厚みの方が大きいので、この状態では、マトリックス樹脂は未だ硬化されていないものの、この状態でのVfは、目標とする高Vfの成形品のVfよりも低い。したがって、樹脂を注入、含浸する際のプリフォームにおける強化繊維の嵩密度が、目標とする高Vfの成形品における強化繊維の嵩密度よりも低く、プリフォーム5内で樹脂が流動しやすくなっているので、比較的厚いプリフォームであっても、マトリックス樹脂は高い注入圧を加えないでも十分に良好に含浸される。すなわち、先ず、低Vf状態ではあるが、プリフォームに容易にかつ十分に良好にマトリックス樹脂が含浸された状態が形成される。
【0029】
このように低Vf状態にてプリフォーム5に十分に良好にマトリックス樹脂が含浸された後、上記のように使用している樹脂の真空吸引ライン16で、プリフォーム5に余剰に注入、含浸された樹脂が吸引、除去される。樹脂が、プリフォームの全体に含浸する前に、真空吸引口15に到達すると、樹脂は真空吸引口15から排出され、プリフォーム内への樹脂の含浸が進行しなくなり、未含浸部が生じることがある。斯かる不都合を避けるために、複数の真空吸引口15を配置し、樹脂が排出されるようになった真空吸引口15から延びる真空吸引ライン16を、クランプなどを用いて塞ぐことが望ましい。このとき、真空吸引により減圧されたキャビティ4の内圧と上型2の外面にかかっている大気圧との差圧を利用して、上型2が押し下げられ、上型2がプリフォーム5を加圧することで、キャビティ4内に配置されているプリフォーム5の厚みが製品の厚みになるように、キャビティ4の内寸法の高さが制御される。
【0030】
そして、キャビティ4の外部から、棒状体7で内型6を押圧して、上下方向(
図2では高さ方向)とは別の横方向に所定量動作させることにより、キャビティ4の横方向の寸法を、キャビティ4内に配置されているプリフォーム5の厚みが製品の厚みになるように制御した後に、加熱手段で加熱をすることによりマトリックス樹脂を硬化させる。
【0031】
棒状体7は、内型を押圧出来る構造であれば特に形態は限定されないが、例えば油圧や空圧のシリンダーで圧縮する構造とすることも出来る。また、より精度良く成形品の板厚を制御するためには、棒状体の変位量を計測出来ることが好ましい。たとえば、棒状体7を雄ネジのボルトとし、貫通孔8に雌ネジを設けることにより、貫通孔の中で棒状体7を回転させ、その回転数によって棒状体7の移動量を制御することができる。雌ネジは貫通孔8の内部に設けられていても良いし、雌ネジが切られたナット状の治具を貫通孔8に固定しても良い。
【0032】
図3(a)は、本実施態様において、上型2と下型3によって形成されるキャビティについて、プリフォームと内型を設置する前の状態を示しており、
図3(b)は、そこに、プリフォーム5と内型6を設置して、マトリックス樹脂を含浸する前の状態を示している。
図3(b)の状態で、マトリックス樹脂をプリフォーム5に注入、含浸した後に、上型2および下型3の少なくとも一方を他方に向けて動作するとともに、キャビティ4の外部から、棒状体7で内型6を押圧して、横方向に所定量動作させることにより、
図3(c)の状態としてから、加熱手段で加熱してマトリックス樹脂を硬化させるのである。
【0033】
本発明において通常、マトリックス樹脂には熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)が用いられ、マトリックス樹脂の硬化は加熱手段によって行われる。加熱手段としては、金型に内設したヒータや熱媒等の周知の手段(図示は省略されている)を用いればよい。
【0034】
このように、所定の製品の厚みに維持されているプリフォーム5に含浸されたマトリックス樹脂が硬化することにより、目標とする高VfのFRP成形品が得られる。樹脂の硬化完了後に、型を開いて成形品を取り出せばよい。
【0035】
なお、本発明に係る、上下方向と異なる横方向とは、上型2と下型3の上下の型締め方向以外の全ての方向を含み、通常、プリフォーム5の三次元形状に対応して、補強部31の板厚方向を意味する。
【0036】
プリフォーム5は、形状付与された強化繊維基材から構成され三次元形状を有していれば、特に形態は問わないが、マトリックス樹脂含浸時の板厚を製品厚みよりも大きい状態に固定するために、複数の強化繊維基材を、バインダー(接着樹脂)を介して接着して、嵩高く形状固定されていることが好ましい。また、マトリックス樹脂含浸後に、板厚が薄くなるように変形するために、バインダーはマトリックス樹脂に溶解する特性を有するものであることが好ましく、熱可塑樹脂を主成分とするものであることが好ましい。強化繊維基材は、強化繊維で構成されるシート状の基材であり、強化繊維基材としては、強化繊維で構成される、織物、編物、不織布、一方向基材を例示できる。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ケブラー繊維等を用いることが好ましい。また、強化繊維基材は、予め設計により定められた繊維配向と繊維量を満たしている。設計に応じた強化繊維基材を利用することにより、繊維配向に沿った強度・剛性をより有効に発現するようになる。
【0037】
上型2および下型3の少なくとも一方を他方に向けて動作するとともに内型6を横方向に動作させて、プリフォーム5を加圧するのは、プリフォーム5に完全にマトリックス樹脂が含浸された後であっても良いし、十分な樹脂量が注入されていればプリフォーム5への含浸途中で行っても良い。含浸途中にプリフォーム5を加圧すれば、樹脂の余剰量を少なくでき、樹脂の無駄を削減出来る。
【0038】
図4は、第2の実施態様に係るFRPの製造装置の概略斜視図を示しており、その縦断面図を
図5に示している。第1の実施態様と同様に、上型2と下型3によって形成されるキャビティ4の断面形状はC型であり、キャビティ4内に、三次元形状のプリフォームとして、ベース部30と補強部31で構成されるC型断面形状を有し、強化繊維基材からなるプリフォーム5を下型の凸部10に沿うように配置している。
【0039】
下型3のキャビティ4とは反対側の外部に位置する、下型3の下側に、複数のブラダーバッグ22を配置し、それらブラダーバッグ22の内部に加圧流体(例えば、圧縮空気)を導入してブラダーバッグ22を膨張させることにより、下型3を上型2側に向けて動作させ、それによりプリフォームを加圧する態様を例示している。このとき、上型2の位置を固定しておくために、上型/下型固定治具23が用いられている。もちろん、プリフォームを加圧するように下型3を動作させるとともに、真空吸引ライン16を介して余剰樹脂の吸引、除去も行われる。なお、
図5では、ブラバーバッグ22および上型/下型固定治具23について表示を省略している。
【0040】
そして、本実施態様では、キャビティ4の両補強部において、プリフォーム5と下型3の側壁との間に、凸部10と相対する形状で、かつ、移動可能な内型6と、膨張可能な袋体24を配置している。すなわち、内型6と下型3との間隙に、袋体24を設置しており、袋体24は、袋体用の加圧流体導入孔25より加圧流体(例えば、圧縮空気)を封入することにより膨張できる。袋体は、
図5では、内型と下型との間隙に設置されているが、成形品や金型の形状に対応して、内型と上型との間隙に設置されてもよい。
【0041】
また、
図5で示すように、本発明では、内型6と下型の凸部10の間にスペーサー17を設置してもよい。マトリックス樹脂を注入する前の時点で、袋体24にある程度の加圧流体を封入して膨張させ、キャビティ4に隙間が無くなる程度に、袋体24と内型6とでキャビティ4の容積を占めるようにすることが好ましい。
【0042】
第1の実施態様と同様に、上型2と下型3の間には、キャビティ4の周囲に全周にわたって延びるシール手段としてのOリング9が設けられ、Oリング9を介して、キャビティ4が上型2と下型3とで密閉される。
【0043】
また、第1の実施態様と同様に、キャビティにマトリックス樹脂を注入するための樹脂注入手段として、下型3に樹脂注入口12を備えており、プリフォーム5の厚みが製品の厚みよりも大きい状態(つまり、プリフォームのVfが、得ようとする製品のVfよりも低い状態)にて、樹脂ポット11内に収容されているマトリックス樹脂が、樹脂注入ライン13を介して、樹脂注入ライン13に接続されて下型3に形成された樹脂注入口12から、キャビティ4内のプリフォーム5に向けて注入され、含浸される。なお、本発明では、前記したように、マトリックス樹脂をプリフォームに注入、含浸するに際して、キャビティ内を減圧状態とするか、注入するマトリックス樹脂を加圧状態とするかすれば十分であるが、
図4,5に示すように、加圧源20により、樹脂ポット11を介して下型に形成された樹脂注入口12を通して樹脂を加圧状態にして、キャビティ内の減圧状態とマトリックス樹脂の加圧状態を併用すれば、マトリックス樹脂がプリフォーム5に、より確実に注入、含浸されるようになる。また、第1の実施態様と同様に、下型3とプリフォーム5の間に樹脂拡散媒体21を介装し、樹脂拡散媒体21を介してマトリックス樹脂がより均一に拡散された状態でプリフォーム5に注入、含浸できるようになっている。
【0044】
本実施態様では、上型2と下型3との間の隙間は確保しつつ、マトリックス樹脂を加圧して注入しても上型2と下型3とが外れない程度に、上型2と下型3とを上型/下型固定治具23で固定した上で、ブラダーバッグ22の内部に、ある程度の量の加圧流体を導入してブラダーバッグ22を膨張させる。この状態では、上型2と下型3との間の隙間を確保しているので、プリフォームは低Vfの状態にある。そして、真空ポンプ18により、樹脂トラップ19を介して下型3に形成された真空吸引口15を通してキャビティ4内を吸引により減圧状態にするとともに、マトリックス樹脂を加圧注入してマトリックス樹脂がプリフォーム5に注入、含浸されるようになっている。やがて、マトリックス樹脂がプリフォーム5の全体にわたって含浸され、含浸完了後に、真空吸引口15からマトリックス樹脂が流出するようになれば、マトリックス樹脂の供給を停止する。
【0045】
このように低Vf状態にてプリフォーム5に十分に良好にマトリックス樹脂が含浸された後、
図5に示すように、上記のように使用しているマトリックス樹脂の真空吸引ライン16で、プリフォーム5に余剰に注入、含浸されたマトリックス樹脂が吸引、除去される。このとき、それらブラダーバッグ22の内部に加圧流体をさらに導入してブラダーバッグ22の内部圧力を高めることにより、シール手段としてのOリング9の潰れ量が大きくなり、プリフォーム5のベース部の厚みが徐々に薄くなり、上型2と下型3の表面が接触して止まることによって、プリフォーム5のベース部の厚みは、所定の製品の厚みになるように制御される。
【0046】
さらに、同様に、マトリックス樹脂含浸完了後に、袋体24に加圧流体をさらに導入して、袋体24の内部圧力を高めることにより、袋体24を更に膨張させて、内型6を下型の凸部10に向かって移動させることにより、プリフォーム5の補強部は、内型6により加圧され、板厚が徐々に薄くなっていく。そして、内型6がキャビティ4内に設置されたスペーサー17に当接することによって、内型6の動作が停止し、動作距離を制御、すなわち、プリフォーム5の補強部を所定の製品の厚みになるように制御することが出来る。
【0047】
このように所定の製品の厚みに維持されているプリフォーム5に含浸されたマトリックス樹脂が硬化することにより、目標とする高VfのFRP成形品が得られる。樹脂の硬化完了後に、型を開いて成形品を取り出せばよい。
【0048】
袋体24は、圧縮空気を入れた時に、空気が漏れない密閉性と、体積が大きくなる膨張性、所定の温度、大きさまでは破裂しない強度を有していれば、特に材質、形態を限定するものでは無いが、例えば、ナイロン、ポリプロピレンなどの樹脂製のフィルムを密閉シールして袋状にしたものや、シリコーンゴム、ブチルゴムなどを材料としたゴム状のシートを接着して袋状にしたものを用いることが好ましい。
【0049】
スペーサー17は、内型6との当接により、プリフォーム5が所定の板厚になったときに、内型6の移動を止めるような寸法であれば、特に材質や、形態を限定するものでは無いが、耐久性の観点から、上型2や下型3、内型6と同じ材料であることが好ましく、例えば、スチールやアルミが好ましく、さらには、熱膨張の観点から、インバーであることがより好ましい。また、スペーサー17は、金型とは別体で、単体であっても良いし、内型6、下型3、または上型2と一体化していても良い。なお、スペーサーにより、内型の移動量を制御する手段は、第2の実施態様に限らず、本発明では好適に利用できる。
【0050】
図6は、第3の実施態様に係るFRPの製造方法に用いる製造装置の縦断面図を示している。内型6と下型3の側壁との間には、熱膨張体14が配置されている。熱膨張体14は延設部114を備えており、延設部114を、内型6と上型2との間隙に配設するために、上型2は下型3の凸部10と対応する位置に上型の凸部を有している。したがって、上型2と下型3によって形成されるキャビティ4の断面形状はH型となっており、キャビティ4内に、三次元形状のプリフォームとして、ベース部30と補強部31で構成されるC型断面形状の強化繊維基材からなるプリフォーム5を下型の凸部10に沿うように配置している。熱膨張体14は、本実施態様では内型と下型との間隙に設置され、延設部114は内型と上型との間隙に配設されているが、成形品や金型の形状に対応して、熱膨張体を、内型と上型との間隙に設置し、延設部114を内型と下型との間隙に配設してもよい。
【0051】
これまでに説明した実施態様と同様に、低Vf状態ではあるが、プリフォーム5に容易にかつ十分に良好にマトリックス樹脂が含浸された状態を形成した後、上型または下型の少なくとも一方を他方に向けて動作させるとともに、キャビティ4内を加熱することにより熱膨張体14を膨張させ、熱膨張体14で内型6を押圧して、上下方向とは別の横方向に所定量動作させる。それにより、キャビティ4の横方向の寸法を、キャビティ4内に配置されているプリフォーム5の厚みが製品厚みになるように制御した後に、成形温度に加熱をすることによりマトリックス樹脂を硬化させる。内型6と上型2との間に存在する熱膨張体を加熱することで、熱膨張体の延設部114も熱膨張し、延設部114を配設した内型6と上型2との間隙を横面と縦面ともに確実にシールすることができる。また、脱型する際の温度を成形温度より低くすることで、延設部114もマトリックス樹脂硬化時から熱収縮し、延設部114を配設した内型6と上型2との間隙を生成し、容易に成形品を脱型することができる。
【0052】
図7は、
図6に示すFRPの製造装置における金型の片側部分を拡大して示したもので、(a)、(b)、(c)はそれぞれ(a)マトリックス樹脂を含浸する時の内型と熱膨張体、(b)マトリックス樹脂を硬化する時の内型と熱膨張体、(c)脱型する時の内型と熱膨張体、について位置関係を模式図で示しているものである。
【0053】
マトリックス樹脂を含浸する時に、
図7(a)で示すように、プリフォーム5は、その板厚が、製品の厚みよりも大きく、低Vfの状態となっているため、プリフォーム5内にマトリックス樹脂が容易に含浸される。そして、マトリックス樹脂を硬化する時に、成形温度を、樹脂を含浸する際の温度より高くすることで、
図7(b)で示すように、熱膨張体14は、
図7(a)で示す状態から熱膨張し、内型6はスペーサー17に当接し、プリフォーム5は製品の厚みに制御される。成形により得られた成形品を脱型する時に、
図7(c)で示すように、熱膨張体14は、脱型する際の温度を成形温度より低くすることで、
図7(b)で示す状態から熱収縮し、キャビティ内に隙間を生じさせ、容易に成形品を脱型することが出来るようになる。
【0054】
図8は、
図6で示す実施態様において、下型を、枠体27とハット状の凸部28で構成し、その間に底部熱膨張体115が配置され、加熱により底部熱膨張体115が膨張することにより、下型3のハット状の凸部28を上型2側に向けて動作させ、それによりプリフォームを加圧する態様を例示している。下型を構成しているハット状の凸部28を上型2側に向けて動作させる際に、上型2の位置を固定しておくために、図示しない上型固定治具が用いられる。上型固定治具には、クランプやプレス装置等の周知の手段を用いればよい。上型と下型とによる加圧とともに、真空吸引ライン16を介して余剰樹脂の吸引、除去を行なう。キャビティには、ベース部の厚みが製品の厚みになったときに、上型2とハット型の凸部28のそれぞれに当接するように長さが調節された上下方向スペーサー29が配され、ハット型の凸部28の移動距離は、上下方向スペーサー29と上型2の当接を利用して制御できるようになっている。
【0055】
なお、熱膨張体14や底部熱膨張体115は、型の材料よりも大きな熱膨張率を有していれば、特に材料および形態は限定されないが、線膨張係数の大きな材料を用いるが好ましく、例えばエラストマーを利用することもできる。本発明に好適な熱膨張体または底部熱膨張体は、その線膨張係数が1.0×10
−4/℃以上であることが好ましく、1.5×10
−4/℃以上、3.0×10
−4/℃以下であることがより好ましい。熱膨張体または底部熱膨張体としては、離型特性と熱膨張特性と可撓性を考慮して、シリコーンゴムを使用することが特に好ましい。
【0056】
図9に示す実施態様では、
図6で示す実施態様に加えて、プリフォームを加圧するように下型3を上型2側に向けて動作させるために、下型3のキャビティ4とは反対側の外部に位置する、下型3の下側に、複数のブラダーバッグ22が配置されている。
図9において、ブラダーバッグ22は、下型固定治具32の上に、下型を持ち上げる形態で配置されているが、上型を押し下げるために、上型の上に配置されても良い。また、ブラダーバッグ22の代わりに、熱膨張体と同様の材料でできた、熱膨張性を有する部材を配置することも可能である。このとき、上型2の位置を固定しておくために、上型固定治具33が用いられる。下型固定治具32や上型固定治具33には、クランプやプレス装置等の周知の手段を用いればよい。下型3を上型2側に向けて動作させるために、下型3を上型2に向けて加圧するとともに、真空吸引ライン16を介して余剰樹脂の吸引、除去を行なう。
【0057】
上記説明してきたように、本発明においては、プリフォーム5のベース部の厚みは、キャビティ4の減圧度、または、ブラダーバッグ22などによる外部からの圧力によって制御できる。例えば、潰れ量の大きいOリング9を用いて、減圧度または圧力と潰れ量の相関関係から、減圧度または圧力によって、プリフォーム5のベース部の厚みを制御することが出来る。または、上型2と下型3の間に、例えば樹脂製またはゴム製の隙間調整板を配置しておき、プリフォームへの樹脂含浸後に、隙間調整板の厚みを、ブラダーバッグ22などによる外部からの圧力による潰れや、外部からの温度負荷による熱膨張で制御することにより、ベース部の厚みを制御してもよい。
【0058】
図10は、長手方向に板厚の変化点を有した成形品に用いるプリフォームを示す斜視図であり、(b)は(a)の裏面である。ここで、板厚の変化点とは、断面において板厚が変化し始める角の部分を意味する。プリフォーム26が、長手方向に板厚の変化点131を有した場合、板厚が異なる部位に、個別に内型6を配置して、変化する板厚に応じて内型6の移動量を個別に制御することも出来る。例えば、板厚が厚い部分は、内型6の移動量を小さくし、薄い部分は、移動量を大きくすることにより、繊維体積含有率が高く安定した成形品を得ることが出来る。
【0059】
すなわち、
図10に示すプリフォーム26を、
図1に示すような、第1の実施態様の製造装置に適用した場合は、プリフォーム26の長手方向に、複数の内型6を配置し、複数の貫通孔8(
図1は貫通孔3個を例示)に挿通させた棒状体7により、個別に内型6の移動量を制御すればよい。
【0060】
また、
図10に示すプリフォーム26を、
図6に示すような、第3の実施態様の製造装置に適用した場合は、プリフォーム26の長手方向に、複数の内型6を配置し、複数の熱膨張体14により、個別に内型6の移動量を制御すればよい。
【0061】
このようにして、本発明によれば、簡易な成形装置にて、優れた成形作業性をもって短時間のうちに、高Vfの成形品を製造することができ、三次元形状を有し、比較的厚みが厚い構造体であっても、容易に効率よく製造することが可能になる。