(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558032
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】分取クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/80 20060101AFI20190805BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
G01N30/80 F
G01N30/86 E
G01N30/86 Q
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-76422(P2015-76422)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-197037(P2016-197037A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2017年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大古場 努
(72)【発明者】
【氏名】入来 隆之
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−523074(JP,A)
【文献】
特開昭60−154156(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0052701(US,A1)
【文献】
特表2004−508566(JP,A)
【文献】
特開2011−033556(JP,A)
【文献】
特表2005−512029(JP,A)
【文献】
特開平04−138357(JP,A)
【文献】
特開2002−014025(JP,A)
【文献】
特開2001−165923(JP,A)
【文献】
特開2005−055262(JP,A)
【文献】
実開平05−092717(JP,U)
【文献】
特開平03−108660(JP,A)
【文献】
CHROMELEON Chromatography Management System Tutorial and User Manual,Dionex Tutorial and User Manual,Thermo Scientific,2005年 4月,Version 6.7,Pi-ii,T1,P23,643,655-657,661,1356,1357,URL,http://users.teiath.gr/petef/Web_Lessons/Lessons/Manuals/Chromeleon_Manual.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/93
G01N 35/00−37/00
G01N 1/00− 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 試料に含まれる1乃至複数の目的成分を時間的に分離するカラムと、該カラムから溶出した目的成分を検出する検出器を有するクロマトグラフと、
b) 前記検出器を通過した目的成分を採取するフラクションコレクターと、
c) 前記検出器からの出力信号に基づいて該出力信号の変化率を求め、該変化率が予め決められた正の基準値よりも大きくなった時点を基に前記フラクションコレクターに目的成分の採取動作を開始させ、前記変化率が負に転じた後に該変化率の絶対値が予め決められた負の基準値の絶対値よりも小さくなった時点を基に前記フラクションコレクターに目的成分の採取動作を終了させる制御部と、
d) 前記検出器からの出力信号の値と、前記制御部が前記出力信号の変化率を求める時間間隔とが対応付けられたサンプリングレート情報が保存された記憶部と、
e) 前記サンプリングレート情報と前記制御部が前記検出器から取得した出力信号の値に基づいて、該制御部が前記出力信号の変化率を求める時間間隔を決定するサンプリングレート決定部と、
を備え、
前記サンプリングレート情報は、前記検出器からの出力信号が小さいほど前記変化率を求める時間間隔が短く、前記出力信号が大きいほど前記変化率を求める時間間隔が長くなるように定められている
ことを特徴とする分取クロマトグラフ。
【請求項2】
クロマトグラフのカラムで時間的に分離された1乃至複数の成分の検出信号の変化率が予め決められた正の基準値よりも大きくなった時点を基に目的成分の採取動作を開始し、前記変化率が負に転じた後に該変化率の絶対値が予め決められた負の基準値の絶対値よりも小さくなった時点を基に目的成分の採取動作を終了する分取クロマトグラフを用いた目的成分の採取方法であって、
前記検出信号の値の大きさに応じた時間間隔で該検出信号の変化率を求める
ことを特徴とする目的成分の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフのカラムで分離した目的成分をフラクションコレクターにより採取する分取クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる複数の成分を分離して個別に採取する装置として、高速液体クロマトグラフ等のカラムにより時間的に分離した後、フラクションコレクターにより各成分を採取する分取クロマトグラフが知られている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
分取クロマトグラフは、送液ポンプやカラムを有する分離部と、その後段に設けられた検出器、フラクションコレクター、及びこれらを制御する制御部を備えている。前記カラムによって時間的に分離されて溶出した試料成分は、紫外可視分光光度計等の検出器によって順次検出された後、後段のフラクションコレクターに導入される。フラクションコレクターでは、上記制御部からの指示に従い内部の流路が切り替えられて、目的成分がバイアル瓶等の分取容器に採取される。
【0004】
分取クロマトグラフの多くは、カラムから溶出する成分を自動的に採取する自動分取と呼ばれる機能を備えている。自動分取では、上記制御部が検出器からの出力信号に基づいて成分の溶出開始及び溶出終了を判定する。そして、成分の溶出開始から所定時間後にフラクションコレクターにおいて採取動作を開始し、成分の溶出終了から所定時間後にフラクションコレクターにおける採取動作を終了する。この所定時間は、検出器を通過した成分がフラクションコレクターの採取部に到達するまでに要する時間に相当し、検出器からフラクションコレクターまでの流路長や移動相の流速等に基づいて決められる。
【0005】
自動分取には、大別して、閾値を用いる方法(Level法)と変化率を用いる方法(Slope法)の2つがある。Level法では、検出器からの出力信号の値が閾値を超えた時点をクロマトグラムのピーク開始(成分の溶出開始)と判定し、閾値を下回った時点をピーク終了(成分の溶出終了)と判断する。しかし、移動相の組成を時間的に変化させるグラジエント溶出法のように、クロマトグラムのバックグラウンドの大きさが変化する場合、Level法では成分の溶出開始及び終了を正確に判定することが難しく、また、バックグランドの大きさが閾値を超えると判定そのものが不可能になる。
【0006】
一方、Slope法では、一定の時間間隔で検出器からの出力信号を取得し、前回取得した出力信号からの変化率を求める。そして、変化率の大きさが予め設定された正のSlope値を超えた時点をクロマトグラムのピーク開始点(即ち、成分の溶出開始)と判定し、また、変化率が予め設定された負のSlope値を下回った時点をクロマトグラムのピーク終了点(即ち、成分の溶出終了)と判定する。例えば、正のSlope値が200μV/sec、負のSlope値が-200μV/secである場合、まず検出器の信号強度変化の傾きが200μV/secを超えた時点をピーク開始点と判定する。その後、ピークトップを超えて信号強度変化の変化率が負に転じ、その絶対値が負の変化率の絶対値(200μV/sec)よりも小さくなった時点をピーク終了点と判定する。このように、Slope法では出力信号の値の絶対値ではなく変化率に基づいてピーク開始及び終了を判定するため、バックグラウンドの大きさが変化する場合にも用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−214151号公報
【特許文献2】特開2007−183173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記分取クロマトグラフでは、制御部は一定の時間間隔で検出器からの出力信号を取得する。この時間間隔は、平均的な含有量の成分を検出したときのピーク(標準ピーク)の半値幅の1/10程度となるように、つまり1つのピークを20点程度の測定点数で表すことができるように設定されている。これは、1つのピークを構成する測定点数が少なすぎるとピークの再現性が悪くなり、測定点数が多すぎると測定点ごとのばらつきの影響を抑えるためにピークデータのスムージングが必要になるためである。
【0009】
しかし、実際の試料に含まれる各種成分の量は一律ではない。つまり、マスクロマトグラムにおいて微量の成分のピーク幅及び高さはいずれも標準ピークよりも小さくなり、大量の成分のピーク幅及び高さはいずれも標準ピークよりも大きくなる。上述のとおり、従来の分取クロマトグラフでは成分の量の大小に関わらず一定の時間間隔で検出器からの出力信号を取得して成分の溶出開始及び終了を判定するため、微量成分の小さなピークを取り損ねて当該成分を採取できなかったり、大量の成分の大きなピークに現れる検出信号の揺らぎをピーク終了と誤判定して当該成分の採取を終了してしまったりする場合があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、試料に含まれる成分の量の大小に関わらず、該成分の溶出開始及び終了を正確に判定して採取することができる分取クロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分取クロマトグラフは、
a) 試料に含まれる1乃至複数の目的成分を時間的に分離するカラムと、該カラムから溶出した目的成分を検出する検出器を有するクロマトグラフと、
b) 前記検出器を通過した目的成分を採取するフラクションコレクターと、
c) 前記検出器からの出力信号に基づいて該出力信号の変化率を求め、該変化率が予め決められた正の基準値よりも大きくなった時点を基に前記フラクションコレクターに目的成分の採取動作を開始させ、前記変化率が負に転じた後に該変化率の絶対値が予め決められた負の基準値の絶対値よりも小さくなった時点を基に前記フラクションコレクターに目的成分の採取動作を終了させる制御部と、
d) 前記検出器からの出力信号の値と、前記制御部が前記出力信号の変化率を求める時間間隔とが対応付けられたサンプリングレート情報が保存された記憶部と、
e) 前記サンプリングレート情報と前記制御部が前記検出器から取得した出力信号の値に基づいて、該制御部が前記出力信号の変化率を求める時間間隔を決定するサンプリングレート決定部と、
を備え、
前記
サンプリングレート情報は、前記検出器からの出力信号が小さいほど前記変化率を求める時間間隔が短く、前記出力信号が大きいほど前記変化率を求める時間間隔が長くなるように定められていることを特徴とする。
【0012】
上記サンプリングレート情報は、例えば検出器のダイナミックレンジを複数に分割し、各ダイナミックレンジをそれぞれ時間間隔と対応付けたテーブルとすることができる。あるいは、検出器からの出力信号の値から時間間隔を計算する数式とすることもできる。
【0013】
変化率が予め決められた正の基準値を上回った時点を基に前記フラクションコレクターに目的成分の採取動作を開始させる、とは、変化率が正の基準値を上回った時点(目的成分の溶出開始時点)から所定時間だけ遅れてフラクションコレクターに目的成分の採取動作を開始させることを意味する。この所定時間は、検出器を通過した目的成分がフラクションコレクターの採取部に到達するまでに要する時間(遅れ時間)に相当し、検出器からフラクションコレクターまでの流路長や、目的成分の移動速度(移動相の流速)等に基づき決められる。また、目的成分の採取動作の終了時も同様に、変化率が負に転じたあと、その絶対値が予め決められた負の基準値の絶対値よりも小さくなった時点(目的成分の溶出終了時点)から予め決められた時間だけ遅れてフラクションコレクターに目的成分の採取動作を終了させる。
【0014】
上記制御部が検出器から出力信号を取得する時間間隔は、該制御部が出力信号の変化率を求める時間間隔以下であればよく、必ずしも同一でなくてもよい。例えば、制御部が変化率を求める最小時間間隔以下の一定の時間間隔で検出器からの出力信号を取得し、取得した出力信号の一部を用いて該出力信号の変化率を求めるように構成することができる。
【0015】
微量の成分のピーク幅及び高さはいずれも標準的なピークのピーク幅及び高さよりも小さく、大量の成分のピーク幅及び高さはいずれも標準ピークのピーク幅及び高さよりも大きい。上記サンプリングレート情報では、成分量に応じて異なるピーク幅や高さに対応すべく、検出器からの出力信号が小さいほど変化率を求める時間間隔が短く、出力信号が大きいほど変化率を求める時間間隔が長くなるように設定する。これにより、微量成分の小さなピークを取り損ねて当該成分を採取できなかったり、大量の成分の大きなピークに現れる検出信号の揺らぎを当該成分の溶出終了と誤判定してしまったりすることを防ぎ、試料に含まれる目的成分の量の大小に関わらず、該成分の溶出開始及び終了を正確に判定してフラクションコレクターにより採取することができる。
【0016】
上記課題を解決するために成された本発明の別の態様は、クロマトグラフのカラムで時間的に分離された1乃至複数の成分の検出信号の変化率が予め決められた正の基準値よりも大きくなった時点を基に目的成分の採取動作を開始し、前記変化率が負に転じた後に該変化率の絶対値が予め決められた負の基準値の絶対値よりも小さくなった時点を基に目的成分の採取動作を終了する分取クロマトグラフを用いた目的成分の採取方法であって、
前記検出信号の値の大きさに応じた時間間隔で該検出信号の変化率を求める
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る分取クロマトグラフあるいは目的成分の採取方法を用いることにより、試料に含まれる成分の量の大小に関わらず、該成分の溶出開始及び終了を正確に判定してフラクションコレクターにより採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る分取クロマトグラフの一実施例の要部構成図。
【
図2】本実施例の分取クロマトグラフにおいて用いられるサンプリングレート情報の例。
【
図3】本実施例において作成されるクロマトグラフと、出力信号の変化率を計算する時間間隔を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る分取クロマトグラフの一実施例である分取液体クロマトグラフ、及び該分取液体クロマトグラフを用いた目的成分の採取方法について、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施例の分取液体クロマトグラフの要部構成を
図1に示す。本実施例の分取液体クロマトグラフは、試料に含まれる目的成分を分離する液体クロマトグラフ部10、液体クロマトグラフ部10で分離された目的成分を採取するフラクションコレクター20、及びこれらの動作を制御する制御部30を備えている。
【0021】
液体クロマトグラフ部10では、移動相容器11内の移動相が送液ポンプ12により吸引され所定の流量でカラム14に送液される。目的成分を含む試料は試料注入部13から注入されて移動相の流れによりカラム14に輸送される。試料中の目的成分はカラム14内部で時間的に分離され溶出する。カラム14から溶出した目的成分は、紫外可視分光光度計15で検出され、フラクションコレクター20に導入される。紫外可視分光光度計15では目的成分が100Hzで検出され、その検出信号は後述の記憶部31に保存される。
【0022】
フラクションコレクター20は、複数の分取容器21と、流路切替部である電磁弁22とを備えている。電磁弁22は後述の分取動作制御部32からの制御信号に従って動作し、液体クロマトグラフ部10からの流路を分取容器21とドレインのいずれかに接続する。
【0023】
制御部30は、記憶部31のほか、機能ブロックとして分取動作制御部32、サンプリングレート決定部33、及び溶出判定部34を備えている。制御部30の実体は所要のソフトウェアがインストールされたパーソナルコンピュータであり、該パーソナルコンピュータには入力部40と表示部50が接続されている。記憶部31には、溶出判定部34が目的成分の溶出開始及び終了を判定するために用いられるSlope値(±200μV/sec)、及びサンプリングレート情報が保存されている。
【0024】
サンプリングレート情報とは、紫外可視分光光度計15からの出力信号の値(閾値)と、溶出判定部34が出力信号の変化率を求める時間間隔とを対応付ける情報である。本実施例では
図2に示すテーブル形式の情報が用いられ、1000μV未満の出力信号に対して100Hzのサンプリングレート、1000μV以上50000μV未満の出力信号に対して50Hzのサンプリングレート、50000μV以上100000μV未満の出力信号に対して20Hzのサンプリングレート、100000μV以上の出力信号に対して5Hzのサンプリングレート、がそれぞれ対応付けられている。サンプリングレート情報としては、上記テーブル形式のもの以外にも、出力信号の値からサンプリングレートを求める数式を用いることができる。
【0025】
以下、本実施例の分取クロマトグラフにおける目的成分の採取動作について説明する。
使用者により分取開始が指示されると、分取動作制御部32は、記憶部31に保存されている正負のSlope値(±200μV/sec)、及びサンプリングレート情報を読み出して表示部50に表示する。使用者が、入力部40を通じてSlope値やサンプリングレート情報を適宜編集して決定すると、これらがそれぞれ実試料中の目的成分の採取時に使用するSlop値及びサンプリング
レート情報として決定される。
【0026】
分取動作制御部32は、液体クロマトグラフ部10の各部、及びフラクションコレクター20の各部の動作(分取動作)を開始させる。また、分取動作時の移動相の流速、紫外可視分光光度計15からフラクションコレクター20の電磁弁22までの流路長等に基づき遅れ時間tdを計算する。遅れ時間tdは、目的成分が紫外可視分光光度計15において検出された後、フラクションコレクター20の採取部である電磁弁22に到達するまでに要する時間である。
【0027】
分取動作制御部32は、目的成分の分取動作開始後、最初に紫外可視分光光度計15から出力される検出信号の値が該紫外可視分光光度計15の出力信号のゼロ点(0μV)となるように補正値を決定する。この補正値は、以降の全ての出力信号に適用される。また、分取動作制御部32は、紫外可視分光光度計15からの(補正後の)出力信号に基づきクロマトグラムを作成して表示部50に表示する。本実施例で作成されるクロマトグラムの一例を
図3に示す。
【0028】
分取動作開始時点での出力信号は0μVであるため、サンプリングレート決定部33はサンプリングレート情報に基づいてサンプリングレートを100Hzに決定し、溶出判定部34はこのサンプリングレート(100Hz)で出力信号の変化率を求める。溶出判定部34は、100Hzで出力信号を取得する毎に変化率を計算し、変化率が正のSlope値(200μV/sec)を超えた時点(ta)を目的成分の溶出開始と判定する。溶出判定部34が目的成分の溶出開始を判定すると、分取動作制御部32は、その時点taから上述の遅れ時間tdだけ後の時点(ta+td)でフラクションコレクター20の電磁弁22を動作させて目的成分を分取容器21に採取する。
【0029】
サンプリングレート決定部33は、引き続き紫外可視分光光度計15からの出力信号をモニタリングし続ける。そして、出力信号の値がサンプリングレート情報に規定された最小の閾値(1000μV)以上になった時点(t1)で、サンプリングレートを50Hzに変更する。また、溶出判定部34も、出力信号の変化率を求める時間間隔を50Hzに変更する。その後、サンプリングレート決定部33は、出力信号の値が50000μV以上になった時点(t2)でサンプリングレートを20Hzに変更し、さらに出力信号の値が100000μV以上になった時点(t3)でサンプリングレートを5Hzに変更する。
【0030】
目的成分の溶出開始後、マスクロマトグラムのピークトップを超えると、目的成分の溶出量が徐々に減少し、紫外可視分光光度計15からの出力信号の値の変化率が負に転じる。サンプリングレート決定部34は、出力信号の値がサンプリングレート情報に規定された閾値(100000μV)未満になった時点(t4)でサンプリングレートを20Hzに、出力信号の値が50000μV未満になった時点(t5)でサンプリングレートを50Hzに、出力信号の値が1000μV未満になった時点(t6)でサンプリングレートを100Hzに、それぞれ変更する。
【0031】
また、溶出判定部34は、該出力信号の値の変化率の絶対値が負のSlope値の絶対値(200μV/sec)よりも小さくなった時点tbを目的成分の溶出終了と判定する。溶出判定部34が目的成分の溶出終了を判定すると、分取動作制御部32は、その時点tbから遅れ時間tdだけ後の時点(tb+td)でフラクションコレクター20の電磁弁22を動作させて目的成分の採取を終了する。
【0032】
本実施例では、
図3に示すように、出力信号の値が小さい時間帯では該出力信号の変化率を求める時間間隔を短くするため、微量の成分に対応する微小なピークP1を見落とすことなく当該成分を確実に採取することができる。また、出力信号の値が大きい時間帯では該出力信号の変化率を求める時間間隔を長くする。そのため、大量の成分に対応する巨大なピークP2を構成する各出力信号の小さな揺らぎ(例えば
図3のP2上の点Aや点Bにおける出力信号の揺らぎ)を成分の溶出終了と誤判定することなく当該成分を正確に採取することができる。
【0033】
上記実施例は一例であって、本発明の主旨に沿って適宜に変更することができる。例えば、上記実施例では、最初に取得した検出器からの出力信号をゼロ値とする補正を行いバックグラウンドの影響を低減したが、グラジエント溶出法のようにバックグラウンドが変化する場合には、次のようにしてバックグラウンドの影響を低減することができる。
【0034】
まず、試料中の目的成分を分取する前に、目的成分の分取と同じグラジエント条件で移動相のみを流して(試料を注入せず)検出する。そして、取得した検出器からの出力信号(ブランクデータ)を記憶部31に保存する。そして、実試料中の目的成分を分取する際に、検出器の出力信号からブランクデータを差し引く処理を行って変化率を求め、目的成分の溶出開始及び終了を判定する。これにより、グラジエント溶出法を用いた場合に生じるバックグラウンドの影響を排除し、正確に目的成分を採取することができる。
【0035】
あるいは、検出器において目的成分及び移動相の両方を検出する条件と、移動相のみを検出する条件でそれぞれ検出信号を取得し、前者の検出信号から後者の検出信号を差し引く処理を行うようにしてもよい。この方法では、リアルタイムでブランクデータを取得して差し引く処理を行うため、分取クロマトグラフの周辺環境の変化(例えば温度変化)に起因して生じるバックグラウンドの変化の影響も排除することができる。ブランクデータは、例えば検出器が紫外可視分光光度計である場合には、移動相の光吸収波長であって目的成分による光吸収がない波長を用いて吸光度測定を行うことにより取得することができる。また、検出器が質量分析器である場合には、移動相から生成されるイオンの質量電荷比であって、目的成分からはイオンが生成されない質量電荷比において選択イオンモニタリング測定を行うことによりブランクデータを取得することができる。
【符号の説明】
【0036】
10…液体クロマトグラフ部
11…移動相容器
12…送液ポンプ
13…試料注入部
14…カラム
15…紫外可視分光光度計
20…フラクションコレクター
21…分取容器
22…電磁弁
30…制御部
31…記憶部
32…分取動作制御部
33…サンプリングレート決定部
34…溶出判定部
40…入力部
50…表示部