特許第6558041号(P6558041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6558041-ころ軸受用保持器、及びころ軸受 図000002
  • 特許6558041-ころ軸受用保持器、及びころ軸受 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558041
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ころ軸受用保持器、及びころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20190805BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   F16C33/46
   F16C19/26
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-82658(P2015-82658)
(22)【出願日】2015年4月14日
(65)【公開番号】特開2016-200264(P2016-200264A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】外山 正基
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−046391(JP,A)
【文献】 特開2013−072478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に対向配置された一対の円環部と、前記円環部の周方向に離間して設けられ、前記一対の円環部を連結する複数の柱部と、を備え、前記一対の円環部と隣り合う前記柱部とに囲まれた保持孔にころを転動可能に保持するころ軸受用保持器であって、
前記柱部は、軸方向の両端部に配置された大径部と、軸方向の中央部に配置された前記大径部よりも外径が小さい小径部と、前記小径部と前記大径部とを連結する連結部と、前記小径部を補強する梁部とを有し、
前記梁部は、前記小径部の外周面から径方向外側に突出して軸方向に沿って形成されており、
前記小径部と前記梁部とを合わせた径方向の厚さが、前記大径部の径方向の厚さよりも厚い、
ころ軸受用保持器。
【請求項2】
前記大径部と前記小径部とは径方向の厚さが略同じとなるように形成されている、
請求項1に記載のころ軸受用保持器。
【請求項3】
周方向に沿った前記梁部の幅が、前記小径部の幅の1/2以下である、
請求項1又は2に記載のころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記梁部は、前記小径部と前記連結部とにわたって形成されている、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のころ軸受用保持器。
【請求項5】
前記梁部は、前記小径部と前記連結部とに囲まれた空間内に形成されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のころ軸受用保持器。
【請求項6】
ころと、前記ころを転動可能に保持するころ軸受用保持器と、を備えたころ軸受であって、
前記ころ軸受用保持器は、
軸方向に対向配置された一対の円環部と、前記円環部の周方向に離間して設けられ、前記一対の円環部を連結する複数の柱部と、を備え、前記一対の円環部と隣り合う前記柱部とに囲まれた保持孔に前記ころを転動可能に保持するように構成され、
前記柱部は、軸方向の両端部に配置された大径部と、軸方向の中央部に配置された前記大径部よりも外径が小さい小径部と、前記小径部と前記大径部とを連結する連結部と、前記小径部を補強する梁部とを有し、
前記梁部は、前記小径部の外周面から径方向外側に突出して軸方向に沿って形成されており、
前記小径部と前記梁部とを合わせた径方向の厚さが、前記大径部の径方向の厚さよりも厚い
ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころを転動可能に保持するころ軸受用保持器、及びころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向に対向配置された一対の円環部と、円環部の周方向に離間して設けられ、一対の円環部を連結する複数の柱部と、を備え、一対の円環部と隣り合う柱部とに囲まれた保持孔にころを転動可能に保持するころ軸受用保持器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1のころ軸受用保持器では、柱部は、軸方向の両端部に配置された大径部と、軸方向の中央部に配置された大径部よりも外径が小さい小径部と、小径部と大径部とを連結する連結部と、を一体に有しており、全体として周方向に垂直な断面視で略M字状に形成されている。
【0004】
特許文献1のころ軸受用保持器では、隣り合う柱部の大径部間の間隔が径方向外側ほど狭まるように形成されており、これにより、ころの径方向外側への移動が規制されるように構成されている。また、特許文献1のころ軸受用保持器では、隣り合う柱部の小径部の間隔が径方向内側ほど狭まるように形成されており、これにより、ころの径方向内側への移動が規制されるように構成されている。
【0005】
このようなころ軸受用保持器を用いたころ軸受は、例えば、車両のトランスミッションにおけるシャフトとギアとの間に取り付けられ、シャフト及びギアの回転を円滑に行うために用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−156337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のころ軸受では、例えば車両を高速で運転した場合など、ころ軸受が高速回転された際に、遠心力によりころ軸受用保持器における柱部の中央部が径方向外側に撓み(弓型に変形し)、柱部の中央部がころと接触して潤滑性が悪化し、摩耗が発生するおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、高速回転時の柱部の変形を抑制し、摩耗の発生を抑制可能なころ軸受用保持器、及びころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、軸方向に対向配置された一対の円環部と、前記円環部の周方向に離間して設けられ、前記一対の円環部を連結する複数の柱部と、を備え、前記一対の円環部と隣り合う前記柱部とに囲まれた保持孔にころを転動可能に保持するころ軸受用保持器であって、前記柱部は、軸方向の両端部に配置された大径部と、軸方向の中央部に配置された前記大径部よりも外径が小さい小径部と、前記小径部と前記大径部とを連結する連結部と、前記小径部を補強する梁部とを有し、前記梁部は、前記小径部の外周面から径方向外側に突出して軸方向に沿って形成されており、前記小径部と前記梁部とを合わせた前記柱部の径方向の厚さが、前記大径部の径方向の厚さよりも厚い、ころ軸受用保持器を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するために、ころと、前記ころを転動可能に保持するころ軸受用保持器と、を備えたころ軸受であって、前記ころ軸受用保持器は、軸方向に対向配置された一対の円環部と、前記円環部の周方向に離間して設けられ、前記一対の円環部を連結する複数の柱部と、を備え、前記一対の円環部と隣り合う前記柱部とに囲まれた保持孔に前記ころを転動可能に保持するように構成され、前記柱部は、軸方向の両端部に配置された大径部と、軸方向の中央部に配置された前記大径部よりも外径が小さい小径部と、前記小径部と前記大径部とを連結する連結部と、前記小径部を補強する梁部とを有し、前記梁部は、前記小径部の外周面から径方向外側に突出して軸方向に沿って形成されており、前記小径部と前記梁部とを合わせた前記柱部の径方向の厚さが、前記大径部の径方向の厚さよりも厚い、ころ軸受を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高速回転時の柱部の変形を抑制し、摩耗の発生を抑制可能なころ軸受用保持器、及びころ軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係るころ軸受用保持器を示す斜視図である。
図2図1のころ軸受用保持器におけるころの保持状態を示す平面図である。
図3図1のころ軸受用保持器におけるころの保持状態を示す断面図である。
図4】(a)は図1のA−A線断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
図5】本発明の一変形例に係るころ軸受用保持器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
(ころ軸受用保持器の全体構成)
図1は、本実施の形態に係るころ軸受用保持器の一部を破断した斜視図である。
【0015】
図1に示すように、ころ軸受用保持器1は、軸方向に対向配置された一対の円環部2,3と、円環部2,3の周方向に離間して設けられ、一対の円環部2,3を連結する複数の柱部4と、を一体に備え、一対の円環部2,3と隣り合う柱部4とに囲まれた保持孔5にころを転動可能に保持するように構成されている。ころ軸受用保持器1は、鉄等の金属、あるいは66ナイロン、46ナイロン等の樹脂から構成される。
【0016】
一対の円環部2,3は、軸方向に所定の間隔をもって互いに並列するように配置され、ころ軸受用保持器1の軸方向両端部に配置されている。
【0017】
複数の柱部4は、円環部2,3の周方向に沿って等間隔に並列して配置されている。柱部4は、円環部2,3と一体に形成されており、円環部2,3の外周縁部同士を連結するように構成されている。
【0018】
柱部4は、軸方向の両端部に配置された2つの大径部4aと、軸方向の中央部に配置された大径部4aよりも外径が小さい1つの小径部4bと、小径部4bと大径部4aとを連結する2つの連結部4cと、を有しており、全体として周方向に垂直な断面視で略M字状に形成されている。
【0019】
大径部4aは、その外径が円環部2,3の外径と等しく形成されており、軸方向に対して平行に形成されている。大径部4aの一方の端部は円環部2,3に連結され、大径部4aの他方の端部は連結部4cに連結されている。なお、2つの大径部4aの軸方向に沿った長さは等しくされる。
【0020】
小径部4bは、その内外径が大径部4aの内外径よりも小さく形成されており、軸方向に対して平行に形成されている。小径部4bは、柱部4の軸方向における中央部に配置されている。
【0021】
連結部4cは、その一方の端部が大径部4aに連結され、その他方の端部が小径部4bに連結されている。連結部4cは、小径部4bに近づくほど内外径が小さくなるように、軸方向に対して傾斜するように形成されている。
【0022】
大径部4aと小径部4bと連結部4cとは、周方向に沿った幅および厚さが略同じとなるように形成されている。また、大径部4aと小径部4bと連結部4cとは、軸方向に垂直な断面においては、周方向に沿った円弧状に形成されている。
【0023】
(ころを保持する構造の説明)
図2は、ころ軸受用保持器1におけるころ6の保持状態を示す平面図であり、図3はその断面図である。
【0024】
図2及び図3に示すように、本実施の形態では、ころ6として、円柱状の針状ころを用いる。ころ軸受用保持器1の保持孔5内にころ6を収容したものが、本実施の形態に係るころ軸受100である。ころ軸受100は、例えば、車両のトランスミッションにおけるシャフトとギアとの間に取り付けられ、シャフト及びギアの回転を円滑に行うために用いられる。
【0025】
大径部4aには、その周方向の両側面から保持孔5内に突出する爪部7が一体に形成されている。大径部4aの両側面から突出する爪部7は、軸方向における同じ位置に形成され、隣り合う大径部4aの爪部7が保持孔5内で対向するように形成されている。柱部4を構成する2つの大径部4aには、それぞれ爪部7が形成されており、保持孔5内の軸方向における2箇所で爪部7が対向するように構成されている。
【0026】
保持孔5内で対向する爪部7間の距離d1は、ころ6の外径Dよりも小さく設定される。このように構成することで、爪部7により、ころ6の径方向外側への移動が規制される。なお、ここでは爪部7によりころ6の径方向外側への移動を規制するようにしたが、例えば、隣り合う大径部4a間の距離が径方向外側ほど狭くなるように大径部4aを形成し、大径部4aの側面でころ6の径方向外側への移動を規制するように構成してもよい。
【0027】
また、本実施の形態では、隣り合う小径部4b間の距離が径方向内側ほど狭くなるように構成している。隣り合う小径部4b間の最短距離、すなわち径方向内側の端部における隣り合う小径部4b間の距離d2は、ころ6の外径Dよりも小さく設定される。このように構成することで、小径部4bの周方向における側面により、ころ6の径方向側への移動が規制される。なお、ここでは、小径部4bの側面によりころ6の径方向側への移動を規制するようにしたが、例えば、小径部4bの両側面から保持孔5内に突出する爪部を形成し、この爪部によりころ6の径方向側への移動を規制するように構成してもよい。
【0028】
(梁部の説明)
図4(a)は、図1のA−A線断面図、図4(b)は図4(a)のB−B線断面図である。
【0029】
図1及び図4に示すように、ころ軸受用保持器1は、柱部4の小径部4bの外周面Sに軸方向に沿って設けられ、外周面Sから径方向外側に突出する梁部8をさらに備えている。
【0030】
梁部8は、柱部4を補強して高速回転時の変形を抑えるためのものであり、少なくとも、高速回転時に変形が発生し易い柱部4の中央部、すなわち小径部4bの外周面Sに沿って設けられる。梁部8は、軸方向に垂直な断面視で矩形状に形成されている。
【0031】
なお、単純に小径部4bを厚くすることでも、柱部4の高速回転時の変形を抑制することは可能であるが、この場合、増肉部分が多くなり、ころ軸受用保持器1全体の質量が増加してしまう。本実施の形態のように梁部8を設けることで、最低限の増肉で高速回転時の変形を抑制可能になり、軽量でかつ高速回転用途に適したころ軸受用保持器1を実現できる。
【0032】
梁部8の径方向に沿った厚さ(高さ)、および周方向に沿った幅は、ころ軸受用保持器1の材質、柱部4の強度、使用時の回転速度等を考慮し、使用時に柱部4の変形を十分に抑制できる厚さおよび幅に設定される。本実施の形態では、梁部8の幅を、柱部4の幅の1/3程度とした。なお、梁部8の幅が大きすぎると質量の増加につながるため、梁部8の幅は、柱部4の幅の1/2以下とすることが望ましい。
【0033】
本実施の形態では、高速回転時の柱部4の変形をより抑制するために、小径部4bと連結部4cとにわたって連続するように梁部8を形成している。梁部8は、小径部4bと連結部4cの周方向における中央部に形成されている。
【0034】
なお、本実施の形態では、1本の梁部8を形成したが、梁部8を複数本形成するようにしてもよい。この場合、複数本の梁部8を軸方向に沿って平行に形成するとよい。また、梁部8の断面形状は矩形状に限らず、例えば半円形状など任意の形状とすることができる。
【0035】
梁部8を大径部4aよりも径方向外側に突出させると、梁部8が周囲の部材に干渉して摩耗が発生してしまうおそれがあるため、梁部8は、小径部4bと連結部4cとに囲まれた台形状の空間内に形成される。なお、梁部8を小径部4bの内周面に形成することも考えられるが、この場合、梁部8が円環部2,3に挿通されるシャフト等の部材と干渉して摩耗が発生するおそれがあり、好ましくない。ただし、連結部4cの内周側の面にも、小径部4bの内周面よりも径方向内側に突出しないように梁部を設け、柱部4の強度をより高めることは可能である。
【0036】
さらに、図5に示すように、小径部4bと連結部4cとに囲まれた台形状の空間の全体を埋めるように梁部8を形成しても構わない。この場合、梁部8の外径が大径部4a及び円環部2,3の外径と等しくなる。これにより、柱部4の強度をより向上させ、高速回転時の柱部4の変形をより抑制することが可能になる。
【0037】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るころ軸受用保持器1では、小径部4bの外周面Sに軸方向に沿って設けられ、外周面Sから径方向外側に突出する梁部8を備えている。
【0038】
梁部8を備えることにより、高速回転時に変形しやすい柱部4の中央部、すなわち小径部4bを補強することが可能となり、高速回転時の柱部4の変形を抑制し、柱部4の変形による摩耗の発生を抑制することが可能になる。また、梁部8を備えることにより、柱部4全体を厚くした場合と比較して軽量化が可能であり、軽量かつ高速回転用途に適したころ軸受用保持器1を実現できる。
【0039】
また、本実施の形態では、小径部4bと連結部4cとにわたって梁部8を形成したため、柱部4の高速回転時の変形をより抑制することが可能になる。
【0040】
さらに、本実施の形態では、小径部4bと連結部4cとに囲まれた空間内に梁部8を形成したため、梁部8が周囲の部材に干渉して摩耗が発生してしまうことを抑制できる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0042】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、梁部8の材質について言及しなかったが、梁部8は、柱部4と同じ材質で構成される必要はなく、柱部4と異なる材質で構成されてもよい。例えば、柱部4を含むころ軸受用保持器1が樹脂からなる場合に、鉄等の金属からなる梁部8を設けてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…ころ軸受用保持器、2,3…円環部、4…柱部、4a…大径部、4b…小径部、4c…連結部、5…保持孔、6…ころ、7…爪部、8…梁部、100…ころ軸受、S…外周面
図1
図2
図3
図4
図5