特許第6558052号(P6558052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558052
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/02 20160101AFI20190805BHJP
   C08G 75/06 20060101ALI20190805BHJP
   C07C 323/20 20060101ALN20190805BHJP
【FI】
   C08G75/02
   C08G75/06
   !C07C323/20
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-91328(P2015-91328)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-204590(P2016-204590A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高尾 英伸
(72)【発明者】
【氏名】海法 秀
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/057319(WO,A1)
【文献】 特開平05−301962(JP,A)
【文献】 特開2011−173953(JP,A)
【文献】 特開平05−105757(JP,A)
【文献】 特開平05−163349(JP,A)
【文献】 特開2010−084125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07G75/00−75/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環式ポリアリーレンスルフィド(a)を、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対し、下式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物(b)0.1モル%〜10モル%の存在下、加熱するポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法;
【化1】
Sは硫黄原子、XおよびYは、−O−、−S−、−(C=O)−O−−(SO)−O−のいずれか、Mはアルカリ土類金属、Zは炭素数1〜3の−O−(C=O)−Rであり、ここでRは水素、メチル基、エチル基のいずれか、lおよびmは0または1の整数を表す。
【請求項2】
環式ポリアリーレンスルフィド(a)が、下式(A)で表される環式化合物を少なくとも50重量%以上含み、かつ、式中の繰り返し数nが4〜50である請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法;
【化2】
Arはアリーレン基を表す。
【請求項3】
加熱を溶媒の非存在下で行う請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法。
【請求項4】
得られるポリアリーレンスルフィド(c)の重量平均分子量が10,000以上であり、かつ、重量平均分子量/数平均分子量で表される多分散度指数が2.5以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法。
【請求項5】
得られるポリアリーレンスルフィド(c)を加熱した際の重量減少が下記式を満たすことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法。
ΔWr=(W100−W330)/W100×100≦0.18(%)
ΔWrは重量減少率であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の、100℃到達時の試料重量(W100)と330℃到達時の試料重量(W330)から求められる値である。
【請求項6】
前記式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物(b)に含まれるXおよびYが−O−、−(C=O)−O−のいずれかである請求項1〜5いずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法。
【請求項7】
前記式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物(b)に含まれるアルカリ土類金属がカルシウムである請求項1〜6いずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶化温度が低下し、固化速度が抑制された、成形加工性に優れたポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機硫黄化合物(チオール、チオケトン、チオエーテル、チオ酸など)はその特異な物性により注目を集め、医薬、農薬、工業薬品などに使用されている。また、硫黄を結合手とする芳香族高分子化合物(ポリアリーレンスルフィド、以下PASと略することもある)も多数製造されている。ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略することもある)に代表されるPASは耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂であり、射出成形、押出成形により成形部品、フィルム、シート、繊維などに成形可能であるため、電気・電子部品、機械部品および自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。そのなかでも、繊維・フィルムなどの押出成形用途に用いられるPASは、溶融紡糸時の糸切れや溶融製膜時のフィルム破れ・割れを抑制するため、結晶温度が低いことが要求される(特許文献1)。
【0003】
現在、主流となっているPASの工業的製造方法は、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させるというものである。この方法で製造されるPASは重量平均分子量と数平均分子量の比で表される分散度指数が大きく、低分子量成分を多く含むため、加熱時の揮発成分の発生量、つまり加熱時のガス発生量が多いという課題がある。この揮発成分の発生は溶融成形加工時における金型・口金汚れの原因となるため、品質、生産性向上の観点から、その低減が望まれている。加熱時の揮発成分の発生が低減されたPASの製造方法として、環式ポリアリーレンスルフィドを溶媒の非存在下で加熱するPASの製造方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
上記技術に関連する公知技術としては、反応性官能基を含有するPASを製造する方法として、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱する際に、アミノ基に代表される官能基を有するスルフィド化合物を共存させる方法(特許文献3)が提案されているほか、PASを製造する際の重合速度を向上させる方法として、チオフェノールのナトリウム塩に代表されるイオン性化合物とルイス酸を共存させる方法(特許文献4)、カルボン酸金属塩を共存させる方法(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−225931号公報
【特許文献2】国際公開2007/034800号
【特許文献3】国際公開2012/057319号
【特許文献4】特開平5−301962号公報
【特許文献5】特開2011−173953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法では、PASを製造する際に溶媒を使用しないことや、得られるPASが高純度であること、また、低分子量成分の含有量が少ないことなどから、加熱時の重量減少が低減したPASが得られるものと考えられる。しかしながら、この方法においては溶融紡糸や溶融製膜に好適な、結晶化温度の低いPASを得難いという課題があった。
【0007】
公知技術のうち、特許文献3、4に記載された方法で得られるPASは特許文献2に記載の方法で得られるPASと同様に加熱時のガス発生量が少ないものの、結晶化温度を低下させる効果は見出されておらず、また、特許文献5に記載された方法で得られるPASには加熱時のガス発生量が多くなるという課題がある。
【0008】
本発明では従来技術において達成が困難であった、結晶化温度および固化温度が低下し、加熱時のガス発生量の少ないポリアリーレンスルフィドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.環式ポリアリーレンスルフィド(a)を、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対し、下式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物(b)0.1モル%〜10モル%の存在下、加熱するポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法;
【0010】
【化1】
【0011】
Sは硫黄原子、XおよびYは、−O−、−S−、−(C=O)−O−−(SO)−O−のいずれか、Mはアルカリ土類金属、Zは炭素数1〜3の−O−(C=O)−Rであり、ここでRは水素、メチル基、エチル基のいずれか、lおよびmは0または1の整数を表す。
2.環式ポリアリーレンスルフィド(a)が、下式(A)で表される環式化合物を少なくとも50重量%以上含み、かつ、式中の繰り返し数nが4〜50である前記1項に記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法;
【0012】
【化2】
【0013】
Arはアリーレン基を表す。
3.加熱を溶媒の非存在下で行う前記1または2項に記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法、
4.得られるポリアリーレンスルフィド(c)の重量平均分子量が10,000以上であり、かつ、重量平均分子量/数平均分子量で表される多分散度指数が2.5以下である前記1〜3項のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法、
5.得られるポリアリーレンスルフィド(c)を加熱した際の重量減少が下記式を満たすことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法;
ΔWr=(W100−W330)/W100×100≦0.18(%)
ΔWrは重量減少率であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の、100℃到達時の試料重量(W100)と330℃到達時の試料重量(W330)から求められる値である。
6.前記式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物(b)に含まれるXおよびYが−O−、−(C=O)−O−のいずれかである前記1〜5項のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法、
7.前記式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物(b)に含まれるアルカリ土類金属がカルシウムである前記1〜6項のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱するポリアリーレンスルフィドの製造において、加熱時のガス発生量が少ないという特徴を維持したまま、結晶化温度および固化温度が低下したポリアリーレンスルフィドの製造が可能となる。つまり、結晶化温度および固化温度が低下し、加熱時のガス発生量の少ないポリアリーレンスルフィドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法は、環式ポリアリーレンスルフィド(a)を、スルフィド化合物(b)の存在下、加熱することによってポリアリーレンスルフィド(c)に転化させることを特徴とする。
【0016】
(1)環式ポリアリーレンスルフィド(a)
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法における環式ポリアリーレンスルフィドとは、下記一般式(A)
【0017】
【化3】
【0018】
で表される環式化合物を含む組成物である。前記環式ポリアリーレンスルフィドは、構成単位中、−(Ar−S)−の繰り返し単位を好ましくは80モル%以上含有する環式化合物を、少なくとも50重量%以上含むものが好ましく、70重量%以上含むものがより好ましく、80重量%以上含むものがさらに好ましく、90重量%以上含むものがことさら好ましい。
【0019】
Arとしては下記式(C)〜式(M)から選ばれた単位などがあるが、なかでも式(C)で表される単位が特に好ましい。
【0020】
【化4】
【0021】
R1,R2は水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基およびハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。
【0022】
なお、前記式(A)の環式化合物は、前記式(C)〜式(M)から選ばれる複数の繰り返し単位を含むランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよく、それらの混合物であってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらの環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい前記式(A)の環式化合物としては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0023】
【化5】
【0024】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0025】
環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記式(A)の環式化合物の繰り返し数nに特に制限は無いが、4〜50が好ましい。繰り返し数nの上限は、25以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は、環式ポリアリーレンスルフィドを含む反応混合物が溶融する温度以上で行うことが好ましい。繰り返し数nが大きくなると、環式ポリアリーレンスルフィドの溶融温度が高くなる傾向にあるため、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うことが可能になるという観点で、繰り返し数nを前記範囲にすることは有利となる。
【0026】
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記式(A)の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物でも、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよい。異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が、単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融温度が低い傾向があるので、ポリアリーレンスルフィドへの転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
【0027】
また、環式ポリアリーレンスルフィドは前記式(A)の環式化合物以外の成分を含む混合物であっても良い。前記式(A)の環式化合物を少なくとも50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことがことさら好ましい。環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記式(A)の環式化合物の量の上限値には特に制限は無いが、98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。通常、環式ポリアリーレンスルフィドにおける環式化合物の重量比率が高いほど、加熱後に得られるポリアリーレンスルフィドの分子量が高くなる傾向にある。すなわち、環式ポリアリーレンスルフィドにおける環式化合物の重量比率を調整することで、得られるポリアリーレンスルフィドの分子量を容易に調整することが可能である。また、環式ポリアリーレンスルフィドにおける環式化合物の重量比率が前記した上限値を超えると、反応混合物の溶融温度が高くなる傾向にあるため、環式化合物の重量比率を前記範囲にすることは、環式ポリアリーレンスルフィドをポリアリーレンスルフィドへ転化する際の温度をより低くできるため好ましい。
【0028】
環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記式(A)の環式化合物以外の成分は、線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここで線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記式(C)〜式(M)などで表される単位などがあるが、なかでも式(C)で表される単位が特に好ましい。
【0029】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0030】
【化6】
【0031】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
【0032】
線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量10,000未満であることが好ましい。
【0033】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に用いる環式ポリアリーレンスルフィドの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000以下が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましい。一方、分子量の下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。
【0034】
(2)スルフィド化合物(b)
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法におけるスルフィド化合物とは、式(B1)または(B2)で表される化合物である。
【0035】
【化7】
【0036】
前記式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物において、XおよびYは、−O−、−S−、−(C=O)−O−−(SO)−O−のいずれか表す。XおよびYはスルフィド化合物の安定性の観点から−O−、−(C=O)−O−−(SO)−O−のいずれかであることが好ましい。また、XおよびYは入手性の観点から−O−、−S−、−(C=O)−O−のいずれかであることが好ましい。XおよびYは同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0037】
前記式(B1)または(B2)で表されるスルフィド化合物において、XおよびYが結合する位置は、前記式(B1)および(B2)中スルフィド結合の、オルト位、メタ位、パラ位の任意の位置をとることができる。そのなかでも、スルフィド化合物を合成する際に、立体障害がより小さく、収率が向上するという観点から、メタ位、パラ位であることがより好ましく、パラ位であることがさらに好ましい。一方、XおよびYが−(C=O)−O−または−(SO)−O−である場合は、これらの置換基が電子求引性を示すことから、オルト位、パラ位に結合することが、スルフィド化合物を合成する際の収率が向上するという観点から好ましい。
【0038】
Mはアルカリ土類金属を表し、カルシウム、ストロンチウム、バリウムのいずれかである。そのなかでも、入手性の観点からカルシウムであることが好ましい。
【0039】
Zは炭素数1〜3のカルボキシル基を表し、ギ酸残基、酢酸残基、プロピオン酸残基のいずれかである。示性式を用いると−O−(C=O)−Rと表すことができ、ここでRは水素、メチル基、エチル基のいずれかである。
【0040】
アルカリ土類金属塩構造をもつスルフィド化合物の構造が対称なものである場合、調製が容易となる観点から特に好ましい。
【0041】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法におけるスルフィド化合物の添加量の下限値は、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対し、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましい。一方、添加量の上限値は、環式ポリアリーレンスルフィド(a)中の硫黄原子に対し、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、3モル%以下がさらに好ましい。スルフィド化合物の添加量が上記範囲より少ないと、本発明の効果であるポリアリーレンスルフィドの結晶化温度および固化温度を低下させる効果が得られ難く、逆に添加量が上記範囲を超えるとポリアリーレンスルフィドの加熱時のガス発生量の増加や、成形品の機械的強度低下の原因となるため好ましくない。
【0042】
前記スルフィド化合物の具体例としては、式(B1a)〜式(B1n)および式(B2a)〜式(B2i)に示したものなどが挙げられる。
【0043】
【化8】
【0044】
【化9】
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
Mはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのいずれかであり、R3は水素、メチル基、エチル基のいずれかである。
【0048】
前記スルフィド化合物は対応するスルフィド化合物より調製することが可能である。調製方法は限定されるものではないが、例えば、式(B2f)で表される化合物であれば、イオン交換水中で5,5’−チオジサリチル酸1モルに対し、4モルの水酸化ナトリウムを作用させることで5,5’−チオジサリチル酸ナトリウム塩の水溶液とする。ここに4モル以上のアルカリ土類金属の酢酸塩を含んだ水溶液を添加することで目的の化合物が生成、沈殿する。この沈殿物をろ別、イオン交換水で洗浄することにより水溶性の金属塩を除去し、精製を行うことができる。
【0049】
(3)ポリアリーレンスルフィド
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。ここで、主要構成単位とは、ポリマーに含まれる全構成単位中、当該構成単位が80モル%以上含有されることをいう。Arとしては前記式(C)〜式(M)から選ばれた構造式で表される単位などがあるが、なかでも式(C)で表される単位が特に好ましい。
【0050】
前記式(C)〜式(M)の繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記式(N)〜式(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−で表されるアリーレンスルフィド単位に対して0モル%〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0051】
【化12】
【0052】
また、ポリアリーレンスルフィドはランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0053】
ポリアリーレンスルフィドの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0054】
【化13】
【0055】
を80モル%以上、好ましくは90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0056】
(4)ポリアリーレンスルフィド(c)の製造方法
本発明では、環式ポリアリーレンスルフィド(a)を、スルフィド化合物(b)の存在下、加熱することによってポリアリーレンスルフィド(c)を得る。
【0057】
加熱温度は、環式ポリアリーレンスルフィド(a)が溶融する温度であることが好ましい。加熱温度が反応混合物の溶融温度未満ではポリアリーレンスルフィドを得るために必要な加熱時間が長時間となる傾向がある。
【0058】
環式ポリアリーレンスルフィド(a)が溶融する温度は、環式ポリアリーレンスルフィド(a)の組成や分子量、および、加熱時の環境により変化するが、例えば反応混合物を示差走査型熱量分析装置で分析することで溶融温度を把握することが可能である。加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。この温度範囲では、環式ポリアリーレンスルフィド(a)が溶融し、短時間でポリアリーレンスルフィド(c)を得ることができる。一方、温度が高すぎると、架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリアリーレンスルフィドの特性が低下することがあるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示でき、好ましくは360℃以下、より好ましくは340℃以下である。この温度以下では、好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にあり、優れた特性を有するポリアリーレンスルフィド(c)を得ることができる。
【0059】
加熱時間は、環式ポリアリーレンスルフィド(a)における前記式(A)の環式化合物の含有率や繰り返し数n、および分子量などの各種特性、および、加熱温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.05時間〜100時間が例示でき、0.1時間〜20時間が好ましく、0.1時間〜10時間がより好ましい。
【0060】
環式ポリアリーレンスルフィド(a)とスルフィド化合物(b)からなる反応混合物の加熱は、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことが好ましい。このような条件下で行う場合、溶媒由来のガス成分を低減できることに加え、短時間での昇温が可能であることから、短時間でポリアリーレンスルフィド(c)が得られる傾向がある。ここで実質的に溶媒を含まない条件とは、反応混合物中の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下がより好ましく、溶媒を全く含まないことがさらに好ましい。
【0061】
加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
【0062】
環式ポリアリーレンスルフィド(a)とスルフィド化合物(b)からなる反応混合物の加熱の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧下で行うこともまた好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィドと、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、およびポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などでの架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とは反応混合物が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更に好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示できる。好ましい下限未満では、反応温度によっては環式ポリアリーレンスルフィド(a)に含まれる分子量の低い環式化合物が揮散しやすくなる傾向にある。
【0063】
また、環式ポリアリーレンスルフィド(a)と前記スルフィド化合物(b)からなる反応混合物の加熱は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
【0064】
また、環式ポリアリーレンスルフィド(a)と前記スルフィド化合物(b)からなる反応混合物の加熱の際に、転化を促進する各種触媒成分を使用することも可能である。このような触媒成分としては、例えば特開2012−176607広報に示される、種々の0価遷移金属化合物が用いられ、0価遷移金属としては、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属が好ましく用いられる。例えば金属種として、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金が例示できる。0価遷移金属化合物としては、各種錯体が適しているが、例えば配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、ジメトキシジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン、カルボニルの錯体が挙げられる。具体的にはビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−i−プロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、ビス(3,5,3’,5’−ジメトキシジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフルオロホスフィン)白金、エチレンビス(トリフェニルホスフィン)白金、白金−2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサデカカルボニル六ロジウム、ドデカカルボニル三ルテニウム等が例示できる。これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。このような0価遷移金属化合物を触媒成分として用いた場合、短時間で環式ポリアリーレンスルフィドを高重合度体化することができ、好ましくない副反応に起因する揮発成分の発生を抑制できるため好ましい。
【0065】
(5)本発明によって得られるポリアリーレンスルフィド
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、好ましい実施様態において降温結晶化温度が140℃〜220℃の範囲を、より好ましい実施様態において降温結晶化温度が140℃〜200℃の範囲を満たす。本発明での降温結晶化温度とは示差走査型熱量測定において、溶融状態のポリアリーレンスルフィドを40℃/分で冷却し、結晶化させた際にみられる発熱ピークのピークトップ温度を表す。
【0066】
上記降温結晶化温度は一般的な示差走査型熱量測定で測定することが可能である。降温結晶化温度の測定においては試料全量が溶融した状態より測定を行うことが重要である。試料全量が溶融していない場合には、不融樹脂による結晶化への影響が無視できず、試料の結晶化特性を正確に比較することが困難となる。降温結晶化温度の測定における試料全量が溶融状態となる加熱条件は、ポリアリーレンスルフィドの構成単位や分子量、加熱を行う際の昇温速度などによって異なるため一様には規定できないが、溶融温度としては240℃〜340℃が例示でき、溶融温度での保持時間としては1分〜5分が例示できる。そのなかでも、p−フェニレンスルフィド主要構成単位とするポリフェニレンスルフィドの降温結晶化温度を測定する際の溶融条件は340℃で1分間保持することが好ましい。
【0067】
また、降温結晶化温度の測定における冷却条件は一般的な示差走査型熱量分析装置で設定できる範囲であれば特に制限はないが、冷却速度としては10℃/分〜100℃/分が例示でき、冷却後の到達温度としては100℃以下が例示できる。そのなかでも、押出成形時の結晶化特性を比較する目的においては、冷却速度は10℃/分〜50℃/分であることが好ましい。
【0068】
降温結晶化温度の測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
【0069】
また、本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、好ましい実施様態において固化温度が170℃〜240℃の範囲を、より好ましい実施様態において固化温度170℃〜230℃の範囲を満たす。本発明での固化温度とは粘弾性測定において、溶融状態のポリアリーレンスルフィドを10℃/分で冷却し、ポリアリーレンスルフィドの固化に伴い粘度上昇が始まる温度(固化開始温度)と、固化が完了することにより粘度上昇が終わる温度(固化終了温度)の中間の温度を表す。
【0070】
上記固化温度は一般的な粘弾性測定で測定することが可能である。固化温度の測定においては試料全量が融解した状態より測定を行うことが重要である。試料全量が溶融していない場合には、不融樹脂による固化への影響が無視できず、試料の固化特性を正確に比較することが困難となる。固化温度の測定における試料全量が溶融状態となる加熱条件は、ポリアリーレンスルフィドの構成単位や分子量、加熱を行う際の昇温速度などによって異なるため一様には規定できないが、溶融温度としては240℃〜340℃が例示でき、溶融温度での保持時間としては1分〜5分が例示できる。そのなかでも、p−フェニレンスルフィドを主要構成単位とするポリフェニレンスルフィドの固化温度を測定する際の溶融条件は320℃で1分間保持することが好ましい。
【0071】
また、固化温度の測定における冷却条件は一般的な粘弾性測定装置で設定できる範囲であれば特に制限はないが、冷却速度としては5℃/分〜20℃/分が例示でき、冷却後の到達温度としては120℃以下が例示できる。そのなかでも、押出成形時の固化特性を比較する目的においては、冷却速度は10℃/分〜20℃/分であることが好ましい。
【0072】
固化温度の測定は約0.7g程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約3mm以下のペレット状もしくは細粒状であることが望ましい。
【0073】
前述の降温結晶化温度および固化温度の測定条件はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを溶融成形する際の温度変化に準ずるものであるため、好ましい測定条件における降温結晶化温度および固化温度が低いポリアリーレンスルフィドは溶融成形の際の降温結晶化・固化速度が小さいといえる。このような降温結晶化・固化速度の小さいポリアリーレンスルフィドは、繊維・フィルムなどの押出成形用途において溶融紡糸時の糸切れや溶融製膜時のフィルム破れ・割れが抑制されることから、品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。
【0074】
また、本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドの分子量分布の広がり、即ち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される多分散度指数は好ましい実施様態において2.5以下を、より好ましい実施様態において2.3以下を満たす。なお、前記重量平均分子量および数平均分子量は、示差屈折率検出器を具備したサイズ排除クロマトグラフィーを使用して、ポリスチレンやポリメタクリル酸メチルなど絶対分子量が既知の標準物質の測定により得られた分子量と保持時間の関係より検量線を作成して求めることが可能である。サイズ排除クロマトグラフィーの測定条件としては、ポリアリーレンスルフィドを0.1重量%の濃度で溶解せしめることが可能な溶媒と温度の組み合わせを用いることができる。溶媒(溶離液)としては1−クロロナフタレンまたはN−メチル−ε−カプロラクタムが例示できる。測定温度は50℃〜250℃の範囲が例示できるが、カラムや検出器など装置を構成する工程毎に異なっていてもよい。
【0075】
上記の測定により得られる重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される多分散度指数が小さいポリアリーレンスルフィドは低分子成分の含有量が少なくなる傾向にあり、溶融成形を行う際のガス発生量が少なく、また溶剤と接した際の溶出成分量が少ないことから品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。
【0076】
また、本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、一般的な合成方法により得られたものとは異なり、加熱時のガス発生量が少ない特徴を有し、加熱した際の重量減少が下記式(1)を満たす。
△Wr=(W330−W100)/W100×100≦0.18(%) ・・・(1)
△Wrは重量減少率であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の、100℃到達時の試料重量(W100)と330℃到達時の試料重量(W330)から求められる値である。
【0077】
上記△Wrは好ましい実施様態において0.18%以下、より好ましい実施様態において0.12%以下、さらに好ましい実施様態において0.10%以下、よりいっそう好ましい実施様態において0.085%以下を満たす。
【0078】
上記重量減少率△Wrは、一般的な熱重量分析によって求めることが可能である。この分析における雰囲気は、常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気である。酸素を実質的に含有しない雰囲気とは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指す。この中でも特に経済性および取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気圧、すなわち大気の標準状態近傍における圧力のことであり、絶対圧で101.3kPa近傍の圧力条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中にポリアリーレンスルフィドの酸化等が起こる場合や、実際にポリアリーレンスルフィドの成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、ポリアリーレンスルフィドの実使用に即した測定にならない可能性がある。
【0079】
また、重量減少率△Wrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間保持した後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のポリアリーレンスルフィドを溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分の量などに関連する。従って、△Wrが小さいポリアリーレンスルフィドは、品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。重量減少率の測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
【0080】
また、本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、加熱した際のラクトン型化合物および/またはアニリン型化合物の発生量が著しく少ないという特徴を有する。ここでラクトン型化合物とは、例えばβ−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ペンタノラクトン、β−ヘキサノラクトン、β−ヘプタノラクトン、β−オクタノラクトン、β−ノナラクトン、β−デカラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ペンタノラクトン、γ−ヘキサノラクトン、γ−ヘプタノラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、δ−ペンタノラクトン、δ−ヘキサノラクトン、δ−ヘプタノラクトン、δ−オクタノラクトン、δ−ノナラクトン、δ−デカラクトンなどが例示でき、また、アニリン型化合物とは、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N−エチルアニリン、N−メチル−N−エチルアニリン、4−クロロ−アニリン、4−クロロ−N−メチルアニリン、4−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、4−クロロ−N−エチルアニリン、4−クロロ−N−メチル−N−エチルアニリン、3−クロロ−アニリン、3−クロロ−N−メチルアニリン、3−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、3−クロロ−N−エチルアニリン、3−クロロ−N−メチル−N−エチルアニリンなどが例示できる。
【0081】
ポリアリーレンスルフィドを加熱した際のラクトン型化合物および/またはアニリン型化合物の発生は、成形加工時の樹脂の発泡や金型汚れ等の要因となり成形加工性を悪化させることのみならず周辺環境の汚染の要因にもなるため、発生量を可能な限り低減することが望まれており、加熱を行う前のポリアリーレンスルフィド重量基準でラクトン型化合物の発生量が好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm、更に好ましくは100ppm以下、よりいっそう好ましくは50ppm以下が望ましい。同様にアニリン型化合物の発生量は好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm、更に好ましくは50ppm以下、よりいっそう好ましくは30ppm以下が望ましい。なお、ポリアリーレンスルフィドを加熱した際のラクトン型化合物および/またはアニリン型化合物の発生量を評価する方法としては非酸化性雰囲気下320℃で60分処理した際の発生ガスをガスクロマトグラフィーによって成分分割して定量する方法が例示できる。
【0082】
本発明の製造方法における、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率は、前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得る観点から、70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0083】
本発明により得られるポリアリーレンスルフィドは、優れた低ガス性を示すとともに、結晶化・固化温度が低く、耐熱性、耐薬品性、機械的性質に優れ、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、シート、フィルム、繊維およびパイプなどの押出成形用途に好適な特徴を備えたものとなる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の方法を実施例および比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、物性の測定法は以下の通りである。
【0085】
<分子量測定>
ポリアリーレンスルフィドスルフィドおよび環式ポリアリーレンスルフィドの分子量測定はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記の条件で行い、分子量をポリスチレン換算で算出した。
装置:センシュー科学製SSC−7110
カラム名:昭和電工製Shodex UT−806M×2
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
溶離液:1−クロロナフタレン
流量:1.0mL/min
サンプル濃度:0.1重量%
試料注入量:300μL。
【0086】
<加熱時の重量減少率測定>
ポリアリーレンスルフィドの加熱時の重量変化率を、熱重量分析装置を用いて、下記条件で行った。重量減少率△Wrは50℃から350℃の昇温における、100℃到達時の試料重量(W100)と330℃到達時の試料重量(W330)から前述の式(1)を用いて算出した。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:パーキンエルマー社製TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:10mg
測定条件:
・50℃で1分保持
・昇温速度20℃/分で50℃から350℃まで昇温。
【0087】
<加熱時発生ガス成分の分析>
ポリアリーレンスルフィドを加熱した際に発生するガス成分の定量は以下の方法により行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
【0088】
加熱時発生ガスの捕集:
約10mgのポリアリーレンスルフィドを窒素気流下(50ml/分)の320℃で60分間加熱し、発生したガス成分を大気捕集用加熱脱離用チューブcarbotrap400に捕集した。
【0089】
ガス成分の分析:
上記チューブに捕集したガス成分を熱脱着装置TDU(Supelco社製)を用いて室温から280℃まで5分間で昇温することで熱脱離させた。熱脱離した成分をガスクロマトグラフィーによって成分分割して、ガス中のγブチロラクトンおよび4−クロロ−N−メチルアニリンの定量を行った。
【0090】
<降温結晶化温度測定>
ポリアリーレンスルフィドの熱特性は示差走査型熱量分析装置を用いて下記条件で行った。融点としてはSecond Runの吸熱ピークのピークトップ温度の値を用い、降温結晶化温度としてはFirst Runの発熱ピークのピークトップ温度の値を用いた。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:TAインスツルメンツ社製Q20
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:10mg
測定条件:
(First Run)
・50℃で1分保持
・昇温速度40℃/分で50℃から340℃まで昇温
・340℃で1分保持
・冷却速度40℃/分で340℃から100℃まで冷却
(Second Run)
・100℃で1分保持
・昇温速度40℃/分で100℃から340℃まで昇温
・340℃で1分保持
・冷却速度40℃/分で340℃から100℃まで冷却。
【0091】
<固化温度測定>
ポリアリーレンスルフィドの固化温度は粘弾性測定装置を用いて下記条件で行い、固化温度を、ポリアリーレンスルフィドの固化に伴い粘度上昇が始まる温度(固化開始温度)と、固化が完了することにより粘度上昇が終わる温度(固化終了温度)の中間の温度として求めた。
装置:Anton Paar社製Physica MCR501
プレート:25mmφパラレルプレート
測定モード:振動
剪断応力:1000Pa
周波数:1Hz
測定条件:冷却速度10℃/分で320℃から120℃まで冷却。
【0092】
[参考例1]
<ポリフェニレンスルフィド混合物含有スラリーの調製>
撹拌機付きのステンレス製反応器1に48%水硫化ナトリウム水溶液1169kg(10.0キロモル)、48%水酸化ナトリウム水溶液841kg(10.1キロモル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を1983kg、50%酢酸ナトリウム水溶液322kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水1200kgおよびNMP26kgを留出した。なお、この脱液操作の間に仕込んだ硫黄原子の0.02モル%の硫化水素が系外に飛散した。
【0093】
次いで、約200℃まで冷却した後、内容物を別の攪拌機付きのステンレス製反応器2に移送した。反応器1にNMP932kgを仕込み内部を洗浄し、洗浄液を反応器2に移した。次に、p−ジクロロベンゼン1477kg(10.0キロモル)を反応器2に加え、窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃まで昇温した。次いで200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、この温度で140分保持した。水353kgを15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、約80℃まで急冷し、スラリー(A)を得た。
【0094】
このスラリー(A)を2623kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。80℃に加熱したスラリー(B)をふるい(80メッシュ、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(C)を得た。
【0095】
[参考例2]
<ポリフェニレンスルフィド混合物の調製>
参考例1で得られたスラリー(C)1000kgをステンレス製反応器に仕込み、反応器内を窒素で置換してから、撹拌しながら減圧下100℃〜150℃で約1.5時間処理して大部分の溶媒を除去した。
【0096】
次いでイオン交換水1200kgを加えた後、約70℃で30分撹拌してスラリー化した。このスラリーを濾過して白色の固形物を得た。得られた固形物にイオン交換水1200kgを加えて70℃で30分撹拌して再度スラリー化し、同様に濾過後、窒素雰囲気下120℃で乾燥したのち、80℃で減圧乾燥を行い、乾燥固形物を11.6kg得た。
【0097】
この固形物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、この固形物はフェニレンスルフィド単位からなるポリフェニレンスルフィド混合物であることがわかった。
【0098】
[参考例3]
<環式ポリフェニレンスルフィドの調製>
参考例2の方法で得られたポリフェニレンスルフィド混合物を10kg分取し、溶剤としてクロロホルム150kgを用いて、常圧還流下で1時間攪拌することでポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させた。ついで熱時濾過により固液分離し、抽出液を得た。ここで分離した固形物にクロロホルム150kgを加え、常圧還流下で1時間攪拌した後、同様に熱時濾過により固液分離を行い、抽出液を得て、先に得た抽出液と混合した。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。
【0099】
この抽出液スラリーを減圧下で処理する事で、抽出液重量が約40kgになるまでクロロホルムの一部を留去してスラリーを得た。次いでこのスラリー状混合液をメタノール600kgに撹拌しながら滴下した。これにより生じた沈殿物を濾過して固形分を回収し、次いで80℃で減圧乾燥することで白色粉末3.0kgを得た。
【0100】
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津製作所製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約94%であることがわかった。また、この混合物のGPC測定を行った結果、重量平均分子量は900であった。
【0101】
[参考例4]
<顆粒状ポリフェニレンスルフィドの調製>
ここでは従来法により得られるポリフェニレンスルフィドの調製について示す。
【0102】
参考例1で得られたスラリーを含んだ顆粒状ポリフェニレンスルフィド100kgにNMP約250kgを加えて85℃で30分間洗浄し、ふるい(80メッシュ、目開き0.175mm)で濾別した。得られた固形物を500kgのイオン交換水で希釈して、70℃で30分撹拌後、80メッシュのふるいで濾過し、固形物を回収する操作を合計5回繰り返した。このようにして得られた固形物を、窒素雰囲気下130℃で乾燥し、顆粒状ポリフェニレンスルフィドを得た。
【0103】
得られた顆粒状ポリフェニレンスルフィドは1−クロロナフタレンに210℃で全溶であり、GPC測定を行った結果、重量平均分子量は48,600であり、分散度は2.66であった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果△Wrは0.230%であった。さらに、ここでで得られたポリフェニレンスルフィドについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、加熱前のポリフェニレンスルフィド重量に対してγブチロラクトンが618ppm、4−クロロ−N−メチルアニリンが416ppm検出された。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は280℃、降温結晶化温度は177℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は241℃であった。
【0104】
[参考例5]
<スルフィド化合物(Q)の調製>
ここでは下式(Q)に示されるスルフィド化合物の調製方法について示す。ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド2.18g(0.01モル)、水酸化ナトリウム0.81g(0.02モル)を200mLビーカーに秤り取り、スターラーチップ、イオン交換水50gを加え、マグネチックスターラーにて撹拌を開始し、透明な水溶液となったことを確認した。ここにプロピオン酸カルシウム7.45g(0.04モル)をイオン交換水50gに溶解することで調製したプロピオン酸カルシウム水溶液の全量を10分間かけて滴下し、滴下完了後30分間撹拌を続けた。このとき、化合物(Q)が生成し水溶液中に白色の沈殿物が生じた。沈殿物をろ別回収し、50gのイオン交換水にて3回洗浄を行ったあと70℃、10時間真空乾燥することにより白色固体1.69gを得た。この白色固体の赤外分光分析を行った結果、原料であるビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィドにみられた3300cm−1付近のO−H伸縮振動に由来するピークの消失が確認された。また、白色固体を電気炉にて550℃、5時間加熱し熱分解することで得られる炭酸カルシウムの重量は、熱分解前の重量基準で44.5%であり、化合物(Q)の分子量から求められる理論値45.2%と近いことから、白色固体の主成分が化合物(Q)であることが示唆された。
【0105】
【化14】
【0106】
[参考例6]
<スルフィド化合物(R)の調製>
ここでは下式(R)に示されるスルフィド化合物の調製方法について示す。5,5’−チオジサリチル酸3.06g(0.01モル)、水酸化ナトリウム1.60g(0.04モル)を200mLビーカーに秤り取り、スターラーチップ、イオン交換水50gを加え、マグネチックスターラーにて撹拌を開始し、透明な水溶液となったことを確認した。ここに酢酸カルシウム一水和物14.1g(0.08モル)をイオン交換水50gに溶解することで調製した酢酸カルシウム水溶液の全量を10分間かけて滴下し、滴下完了後30分間撹拌を続けた。このとき、化合物(R)が生成し水溶液中に白色の沈殿物が生じた。沈殿物をろ別回収し、50gのイオン交換水にて3回洗浄を行ったあと70℃、10時間真空乾燥することにより白色固体1.72gを得た。この白色固体の赤外分光分析を行った結果、原料である5,5’−チオジサリチル酸にみられた3100cm−1付近のO−H伸縮振動に由来するピークの消失が確認された。また、白色固体を電気炉にて550℃、5時間加熱し熱分解することで得られる炭酸カルシウムの重量は、熱分解前の重量基準で51.2%であり、化合物(R)の分子量から求められる理論値52.3%と近いことから、白色固体の主成分が化合物(R)であることが示唆された。
【0107】
【化15】
【0108】
[実施例1]
参考例3で得られた環式ポリフェニレンスルフィド4.00gおよび参考例5で得られた化合物(Q)164mg(環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%)を撹拌翼、減圧アダプター、バキュームスターラ、窒素導入管を備えた試験管に入れ、系内を減圧した後、窒素雰囲気下とする操作を3回繰り返した。減圧下で撹拌しながら、340℃で5時間保持したのち撹拌を止め、放冷して重合物を得た。得られた重合物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することが分かった。また、得られたポリフェニレンスルフィドのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は62,000であり、多分散度指数は2.30であった。また、得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.070%であった。さらに、ここで得られたポリフェニレンスルフィドについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物およびアニリン型化合物は検出限界以下であった。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は279℃、降温結晶化温度は183℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は220℃であった。
【0109】
[実施例2]
参考例3で得られた環式ポリフェニレンスルフィド4.00gおよび参考例6で得られた化合物(R)141mg(環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%)を用いた以外は実施例1と同様にして重合物を得た。得られた重合物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することが分かった。また、得られたポリフェニレンスルフィドのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は59,800であり、多分散度指数は2.37であった。また、得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.096%であった。さらに、ここで得られたポリフェニレンスルフィドについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物およびアニリン型化合物は検出限界以下であった。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は280℃、降温結晶化温度は194℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は226℃であった。
【0110】
[実施例3]
参考例3で得られた環式ポリフェニレンスルフィド4.00gおよび参考例6で得られた化合物(R)14.1mg(環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して0.1モル%)を用いた以外は実施例1と同様にして重合物を得た。得られた重合物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することが分かった。また、得られたポリフェニレンスルフィドのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は63,800であり、多分散度指数は2.40であった。また、得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.067%であった。さらに、ここで得られたポリフェニレンスルフィドについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物およびアニリン型化合物は検出限界以下であった。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は279℃、降温結晶化温度は211℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は237℃であった。
【0111】
[比較例1]
参考例3で得られた環式ポリフェニレンスルフィド4.00gを用い、添加剤を無添加とし、保持時間を6時間とした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。得られた重合物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することが分かった。また、得られたポリフェニレンスルフィドのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は58,900であり、分散度は2.33であった。また、得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.041%であった。さらに、ここで得られたPPS樹脂組成物について加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物およびアニリン型化合物は検出限界以下であった。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は280℃、降温結晶化温度は227℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は250℃であった。
【0112】
[比較例2]
参考例3で得られた環式ポリフェニレンスルフィド4.00gおよび4−クロロフェニル酢酸ナトリウム70.6mg(環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%)を用いた以外は実施例1と同様にして重合物を得た。得られた重合物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することが分かった。また、得られたポリフェニレンスルフィドのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は53,200であり、分散度は2.43であった。また、得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.054%であった。さらに、ここで得られたポリフェニレンスルフィドについて加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物およびアニリン型化合物は検出限界以下であった。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は280℃、降温結晶化温度は228℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は250℃であった。
【0113】
[比較例3]
参考例3で得られた環式ポリフェニレンスルフィド4.00gおよびビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド80.7mg(環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%)を用い、保持時間を3時間とした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。得られた重合物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することが分かった。また、得られたポリフェニレンスルフィドのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は25,800であり、分散度は2.08であった。また、得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.108%であった。さらに、ここで得られたPPS樹脂組成物について加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物およびアニリン型化合物は検出限界以下であった。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は280℃、降温結晶化温度は229℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は249℃であった。
【0114】
[比較例4]
参考例3で得られた環式ポリフェニレンスルフィド4.00gおよびチオフェノールナトリウム塩48.9mg(環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%)を用い、保持時間を3時間とした以外は実施例1と同様にして重合物を得た。得られた重合物は赤外分光分析による吸収スペクトルよりポリフェニレンスルフィド構造を有することが分かった。また、得られたポリフェニレンスルフィドのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は28,700であり、分散度は2.28であった。また、得られたポリフェニレンスルフィドの加熱時の重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.251%であった。さらに、ここで得られたPPS樹脂組成物について加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、ラクトン型化合物およびアニリン型化合物は検出限界以下であった。また、示差走査型熱量分析装置を用いた融点および降温結晶化温度測定の結果、融点は280℃、降温結晶化温度は218℃であった。また、粘弾性測定装置を用いた固化温度測定の結果、固化温度は241℃であった
以上の結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1の実施例1〜3と参考例4の比較より、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱する方法を用いることで、多分散度指数が2.5以下を満たすポリアリーレンスルフィドが得られることが明らかである。
【0117】
また、表1の実施例1〜3と比較例4および参考例4の比較より、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱する方法を用い、かつ、チオフェノールナトリウム塩のような、得られる重合物のガス発生量を増加させる添加剤を使用しないことで、△Wrが0.18%以下を満たす、加熱時のガス発生量の少ないポリアリーレンスルフィドが得られることが明らかである。
【0118】
さらに、表1の実施例1〜3と比較例1〜4の比較より、環式ポリアリーレンスルフィドを、本発明のスルフィド化合物の存在下加熱することで、降温結晶化温度が220℃以下を満たし、かつ、固化温度が240℃以下を満たすような、降温結晶化温度および固化温度の低下したポリアリーレンスルフィドが得られることが明らかである。