(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンから変速機への動力伝達を断接する湿式多板クラッチ装置が知られている。一般的な湿式多板クラッチ装置は、入力シャフトと一体回転するクラッチハブと、出力シャフトと一体回転するクラッチドラムと、これらクラッチハブ及びクラッチドラムにそれぞれ設けられた複数枚のクラッチプレートと、作動油圧によってストローク移動して各クラッチプレートを圧接(クラッチ接)するピストンと、クラッチプレートからピストンを離隔させて各クラッチプレートの圧接を開放(クラッチ断)するリターンスプリングなどを備えている。
【0003】
このクラッチ装置では、クラッチプレート同士の摩擦に起因する温度上昇を、オイルの潤滑によって抑制している。オイルを効率よく潤滑させるため、クラッチプレートを2枚重ね合わせ、重ねあわせ面にオイル流路を形成したものが知られている。例えば、径方向に延びる扁平なオイル流路や周方向と径方向に屈曲された矩形断面のオイル流路を重ね合わせ面に形成したもの(特許文献1を参照)、2枚のプレートの間に軸方向へ変形可能なクッションプレートを配置したもの(特許文献2を参照)、2枚のプレートの間に軸方向へ変形可能な波板を配置したもの(特許文献3を参照)が知られている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係るクラッチ装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0011】
図1に示すように、本実施形態のクラッチ装置10は、第1湿式多板クラッチC1及び第2湿式多板クラッチC2を備えたデュアルクラッチ装置である。このクラッチ装置10は、入力シャフト11と第1出力シャフト12A及び第2出力シャフト12Bの間に設けられ、エンジンEの駆動力を第1出力シャフト12Aと第2出力シャフト12Bへ選択的に伝達している。本実施形態において、第2出力シャフト12Bは、第1出力シャフト12Aの中空軸内に回転自在に挿入されている。そして、入力シャフト11、第1出力シャフト12A、及び、第2出力シャフト12Bは同軸上で回転している。第1出力シャフト12A及び第2出力シャフト12Bの駆動力は変速機Tに伝達され、それぞれ奇数段の変速ギア群と偶数段の変速ギア群を回転させる。
【0012】
第1湿式多板クラッチC1は、第1クラッチハブ13と、第1セパレートプレート14Aと、第1クラッチドラム15と、第1フリクションプレート14Bと、圧接プレート16と、第1ピストン17と、カバー部材18とを備えている。
【0013】
第1クラッチハブ13は、入力シャフト11と一体に回転される円筒状の部材であり、外周面には各シャフト11、12A、12Bの軸方向(以下、単に軸方向という)と平行な溝(スプライン溝)GR1が形成されている。第1セパレートプレート14Aは、本発明に係る第1プレート部材の一例であり、第1クラッチハブ13の外周面にスプライン嵌合し、軸方向に移動可能な状態で取り付けられている。この第1セパレートプレート14Aは、軸方向に複数枚取り付けられている。なお、第1セパレートプレート14Aについては、後で詳しく説明する。
【0014】
第1クラッチドラム15は、入力シャフト11側が開放されると共に第1クラッチハブ13よりも大径に形成された有底の円筒状部材であり、第1出力シャフト12Aと一体回転する。第1クラッチドラム15における円筒部分の内周面には、軸方向と平行なスプライン溝GR2が形成されている。第1フリクションプレート14Bは、本発明に係る第2プレート部材の一例であり、第1クラッチドラム15の内周面にスプライン嵌合し、軸方向に移動可能な状態で取り付けられている。この第1フリクションプレート14Bは、第1セパレートプレート14Aと交互に複数枚取り付けられており、第1セパレートプレート14Aとの対向面には摩擦材(不図示)が取り付けられている。
【0015】
圧接プレート16は、第1クラッチハブ13に対して回転自在に挿入された円環板状の部材である。圧接プレート16と第1フリクションプレート14Bの間には、皿バネ16Aが配置されている。第1ピストン17は円筒状をしており、軸方向に沿って出力シャフト12A,12B側に移動することで、圧接プレート16及び皿バネ16Aを介して各プレート14A,14Bを軸方向に圧接させる。反対に、第1ピストン17が入力シャフト11側へ移動することで、各プレート14A,14Bは開放される。第1湿式多板クラッチC1は、各プレート14A,14Bの圧接によってクラッチ接の状態となり、各プレート14A,14Bの開放によってクラッチ断の状態となる。
【0016】
カバー部材18は、出力シャフト12A,12B側が開放された有底円筒状の部材であり、その内周面の直径は、第1ピストン17の外周面の直径に揃えられている。第1ピストン17における入力シャフト11側の部分は、カバー部材18に液密状態で挿入されている。
【0017】
第1ピストン17とカバー部材18の間には、作動油で満たされる作動油室19が形成されている。この作動油室19における油圧が上昇すると、第1ピストン17は第1クラッチハブ13側に向かって軸方向にストローク移動して各プレート14A,14Bを互いに圧接する(第1湿式多板クラッチC1:接)。圧接状態において、エンジンEの駆動力は、入力シャフト11、第1クラッチハブ13、各プレート14A,14B、第1クラッチドラム15を介して第1出力シャフト12Aに伝達される。
【0018】
第1ピストン17と第1クラッチハブ13との間には、第1ピストン17を第1クラッチハブ13から離隔する方向に付勢する複数のリターンスプリング(不図示)が介設されている。すなわち、作動油室19の油圧が降下すると、
図2に示すように、第1ピストン17はリターンスプリングの付勢力によって第1クラッチハブ13から離隔する方向に移動して各プレート14A,14Bの圧接状態を開放する(第1湿式多板クラッチC1:断)。
【0019】
また、第1湿式多板クラッチC1は、第1クラッチハブ13及び第1ピストン17を一体回転可能に連結する有底円筒状の第1回り止めピン部材20と、第1回り止めピン部材20を第1クラッチハブ13のピン挿入穴に向けて付勢する第1スプリング部材21を備えている。
【0020】
第2湿式多板クラッチC2は、第2クラッチハブ33と、第2セパレートプレート34Aと、第2クラッチドラム35と、第2フリクションプレート34Bと、皿バネ36Aと、第2ピストン37と、作動油室39と、第2回り止めピン部材40と、第2スプリング部材41とを備えており、第1湿式多板クラッチC1と略同様に構成されている。
【0021】
例えば、第2セパレートプレート34A(本発明に係る第1プレート部材の一例)は、第2クラッチハブ33の内周面(スプライン溝GR3)にスプライン嵌合し、軸方向に移動可能な状態で取り付けられている。また、第2フリクションプレート34B(本発明に係る第2プレート部材の一例)は、第2クラッチドラム35の外周面(スプライン溝GR4)にスプライン嵌合し、軸方向に移動可能な状態で取り付けられている。
【0022】
なお、第2湿式多板クラッチC2の各構成は、第1湿式多板クラッチC1と同様の機能を有する。簡単に説明すると、作動油室39における油圧の上昇に伴い、第2ピストン37が第2クラッチハブ33に向けて軸方向へストローク移動される。これにより、第2湿式多板クラッチC2はクラッチ接とされる。作動油室39における油圧が降下すると、第2ピストン37はリターンスプリングの付勢力によって第2クラッチハブ33から離隔する方向に移動し、第2湿式多板クラッチC2はクラッチ断とされる。
【0023】
この第2湿式多板クラッチC2では、第1湿式多板クラッチC1が接の際に断にされ(
図1参照)、第1湿式多板クラッチC1が「断」にされた際に「接」にされる(
図2参照)。第2湿式多板クラッチC2が接にされると、エンジンEの駆動力は、入力シャフト11、第1クラッチハブ13、第2クラッチハブ33、各プレート34A,34B、第2クラッチドラム35を介して第2出力シャフト12Bに伝達される。
【0024】
次に、セパレートプレートについて説明する。まず、第1セパレートプレート14Aについて説明する。
【0025】
図3(A),(B)に示すように、第1セパレートプレート14Aは、第1プレート51と第2プレート61を備えている。
【0026】
第1プレート51は、円環板状のベース部52と、ベース部52の内周縁から径方向の中心側に突出されると共に、周方向に所定角度間隔で設けられた複数のスプライン突部53とを備えている。このスプライン突部53は、本発明の板状突起の一例であり、第1クラッチハブ13の外周面に形成された軸方向のスプライン溝GR1に嵌められる部分である。
【0027】
第2プレート61は、円環板状のベース部62と、ベース部62の内周縁から径方向の中心側に突出されると共に、周方向に所定角度間隔で設けられた複数のスプライン突部63とを備えている。このスプライン突部63もまた、本発明の板状突起の一例であり、第1クラッチハブ13の外周面に形成された軸方向のスプライン溝GR1に嵌められる部分である。
【0028】
図3(B)に示すように、第1プレート51のスプライン突部53と第2プレート61のスプライン突部63は軸方向に対向して配置されており、対向するスプライン突部53,63同士は、スペーサSP1を介して一体化されている。スペーサSP1は、その断面形状がスプライン突部53,63の断面形状に揃えられたブロック材であり、スプライン突部53とスプライン突部63のそれぞれに対して溶接(例えばろう付け)によって接合される。
【0029】
図4に示すように、スプライン突部53,63及びスペーサSP1の接合により、第1セパレートプレート14Aの厚みTCに相当する軸方向長さのスプライン歯PR1が作製される。このスプライン歯PR1はスプライン溝GR1に嵌合され、第1セパレートプレート14Aの軸方向への移動時におけるガイドとなる。
【0030】
このスプライン歯PR1の軸方向長さは、各スプライン突部53,63の厚みよりも十分に長くなっている。このため、スプライン歯PR1は、撓みなどの変形が生じ難く、第1セパレートプレート14Aを円滑に案内できる。その結果、クラッチ装置10の作動特性を向上させることができる。
【0031】
次に、第2セパレートプレート34Aについて説明する。
【0032】
図5(A),(B)に示すように、第2セパレートプレート34Aは、第1プレート71と第2プレート81を備えている。
【0033】
第1プレート71は、円環板状のベース部72と、ベース部52の外周縁から径方向の外側に突出されると共に、周方向に所定角度間隔で設けられた複数のスプライン突部73とを備えている。このスプライン突部73は、本発明の板状突起の一例であり、第2クラッチハブ33の外周面に形成された軸方向のスプライン溝GR3に嵌められる部分である。
【0034】
第2プレート81は、円環板状のベース部82と、ベース部82の外周縁から径方向の外側に突出されると共に、周方向に所定角度間隔で設けられた複数のスプライン突部83とを備えている。このスプライン突部83もまた、本発明の板状突起の一例であり、第2クラッチハブ33の内周面に形成された軸方向のスプライン溝GR3に嵌められる部分である。
【0035】
図5(B)に示すように、第1プレート71のスプライン突部73と第2プレート81のスプライン突部83は軸方向に対向して配置されており、対向するスプライン突部73,83同士は、スペーサSP2を介して一体化されている。スペーサSP2は、その断面形状がスプライン突部73,83の断面形状に揃えられたブロック材であり、スプライン突部73とスプライン突部83のそれぞれに対して溶接(例えばろう付け)によって接合される。
【0036】
図6に示すように、スプライン突部73,83及びスペーサSP2の接合により、第2セパレートプレート34Aの厚みに相当する軸方向長さのスプライン歯PR2が作製される。このスプライン歯PR2はスプライン溝GR3に嵌合され、第2セパレートプレート34Aの軸方向への移動時におけるガイドとなる。
【0037】
このスプライン歯PR2の軸方向長さは、各スプライン突部73,83の厚みよりも十分に長くなっている。このため、スプライン歯PR2は、撓みなどの変形が生じ難く、第2セパレートプレート34Aを円滑に案内できる。その結果、クラッチ装置10の作動特性を向上させることができる。
【0038】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0039】
前述の実施形態では、セパレートプレートを第1プレートと第2プレートに分割していたが、この構成に限定されるものではない。セパレートプレートを3枚以上の複数に分割してもよい。
【0040】
前述の実施形態では、セパレートプレートを分割対象にしていたが、この構成に限定されるものではない。フリクションプレートを分割対象にしてもよい。