(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558164
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】立体装置の温度計測装置、燃焼機関の温度計測装置、燃焼機関及び立体装置の温度計測方法
(51)【国際特許分類】
G01K 13/02 20060101AFI20190805BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20190805BHJP
G01N 21/3581 20140101ALI20190805BHJP
【FI】
G01K13/02
F02D45/00 368Z
G01N21/3581
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-178530(P2015-178530)
(22)【出願日】2015年9月10日
(65)【公開番号】特開2017-53755(P2017-53755A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】柿木 宗篤
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第103076107(CN,A)
【文献】
特開2013−249838(JP,A)
【文献】
特開2011−58374(JP,A)
【文献】
特開2004−251766(JP,A)
【文献】
特開2011−137445(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/070667(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/12
G01K 13/00
G01K 13/02
F02D 45/00
F02C 9/00
G01N 21/3581
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体装置の内部空間の温度を計測する温度計測装置において、
前記計測領域の内部に設定された小計測領域のそれぞれに対して異なる種類のガス成分を供給するガス成分供給装置と、
前記立体装置の前記内部空間に向けて周波数が0.01THz〜10THzの範囲内にある複数の波長のテラヘルツ波を前記内部空間の計測領域に送信する送信ユニットと、
前記計測領域を通過してくる複数の波長のテラヘルツ波を受信する受信ユニットと、
前記受信ユニットで受信した複数の波長のテラヘルツ波の強度の変化量と、予め設定された前記ガス成分のそれぞれにおけるテラヘルツ波の各波長での変化特性と比較して、前記小計測領域のそれぞれにおける温度を算出する温度算出装置を備えて構成されることを特徴とする立体装置の温度計測装置。
【請求項2】
前記送信ユニットから送信されるテラヘルツ波の進行方向と前記ガス成分供給装置から噴射される各ガス成分の噴射方向とが交差するように、前記送信ユニットと前記受信ユニットとガス成分供給装置を配置して構成される請求項1に記載の立体装置の温度計測装置。
【請求項3】
前記送信ユニットと前記受信ユニットとガス成分供給装置のいずれか一つ又はいくつかの組み合わせ又は全部が移動可能に構成される請求項1又は2に記載の立体装置の温度計測装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体装置の温度計測装置を備えて、燃焼機関の内部空間の温度を計測するように構成された燃焼機関の温度計測装置。
【請求項5】
請求項4の燃焼機関の温度計測装置を備えた燃焼機関。
【請求項6】
立体装置の内部空間の温度を計測する温度計測方法において、
前記計測領域の内部に設定された小計測領域のそれぞれに対して異なる種類のガス成分を供給すると共に、
前記立体装置の前記内部空間に向けて周波数が0.01THz〜10THzの範囲内にある複数の波長のテラヘルツ波を前記内部空間の計測領域に送信して、
前記計測領域を通過してくる複数の波長のテラヘルツ波を受信して複数の波長のテラヘルツ波の強度を検出して、
この複数の波長のテラヘルツ波の強度の変化量と、予め設定された前記ガス成分のそれぞれにおけるテラヘルツ波の各波長での変化特性と比較して、前記小計測領域のそれぞれにおける温度を算出することを特徴とする立体装置の温度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体装置の内部空間の温度を低コストかつ高精度で計測することができる立体装置の温度計測装置、燃焼機関の温度計測装置、燃焼機関及び立体装置の温度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の気筒(シリンダ)の内の燃焼状況は、この内燃機関を搭載した車両の燃費や排気ガスの浄化処理性能に影響を強く及ぼすため、気筒の内の燃焼状況を制御する必要があり、そのために、気筒の内部空間の温度を把握することが非常に重要となる。この気筒の内部空間の温度の計測は、気筒の内部空間の局所的な領域の温度を計測して、この局所的な温度を計測場所と対応させて集約することにより温度分布を作成するのが一般的である。
【0003】
この気筒の内部空間の局所的な領域の温度の計測手法としては、2次元レーザー誘起蛍光法(LIF法)やレーザー吸収法に、CT法(コンピュータ断層撮影法)を組み合わせる手法、及び、さらに、気筒内に蛍光体(粒子)を混入させ、この蛍光体にレーザー光を照射して、この照射による蛍光体の発光強度に基づいて、気筒の内部空間の局所的な領域の温度を計測する手法が用いられている。
【0004】
しかしながら、この蛍光体を用いた計測手法は、次のような多くの問題を抱えている。第1の問題として、気筒内に蛍光体を混入させる必要があるため、通常のエンジンの気筒の内部空間では使用できず、この計測手法を用いることができる内部空間は限定されてしまう。
【0005】
第2の問題として、この計測手法は、レーザー光を蛍光体に入射しても、いわゆる失活現象により、蛍光体が発光しない場合があり、そのために、温度の推定が難しくなる場合がある。
【0006】
第3の問題として、この計測手法は、発光強度を検出した蛍光体の存在位置の測定精度が高くないため、計測位置を精度良く特定できない。
【0007】
一方、温度測定ではなく、粒子状物質の濃度測定に関するものであるが、ディーゼルエンジンの排気系に配置されたフィルタのPM堆積分布を検出する場合等に用いる粒子状物質の捕集量分布検出装置として、粒子状物質を含む気体が流通する流路中に配置されて粒子状物質を捕集する捕集装置に対して、この捕集装置の外部から捕集装置に周波数が数10GHz〜数THzの電磁波を照射する照射手段と、捕集装置を透過した電磁波の強度を検出する受信手段を、互いに対向させた状態で設けて、照射手段より電磁波を2以上の照射角度で照射して、それぞれの角度で透過した電磁波の強度を受信手段によってそれぞれ検出することで、捕集装置内の粒子状物質の捕集分布を検出する粒子状物質の捕集量分布検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−58374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、蛍光体とレーザー光を用いて内部空間の局所的な領域の温度を計測する従来の計測手法ではなく、電波の透過性と光の直進性を有する、電波と光の中間の波長を持つ、周波数が0.01THz〜10THzの範囲のテラヘルツ波を使用することにより、従来の計測手法が有する上記の第1〜第3の問題を解決して、気筒等のガスを内包する内部空間の局所的な領域の温度をより低コストかつ高精度で計測でき、その結果、内部空間の温度をより低コストかつ高精度で計測することができるとの知見を得た。
【0010】
更に、本発明者は、計測領域を通過した後のテラヘルツ波の減衰量即ち強度の変化量が計測領域の温度と密接な関係があること、及び、
図3に模式的に示すように、この減衰量と温度と濃度の関係はガス成分の分子(例えば、二酸化炭素、窒素、酸素、水等)の種類ごとに異なることを見出し、特定の範囲の波長を複数持つテラヘルツ波を使用することで、計測領域の測定温度を測定できるとの知見を得た。
【0011】
また、テラヘルツ波のスペクトラム分析ができるので、各ガス成分に特徴的なスペクトラムがある場合には、テラヘルツ波の透過光を検出することで、各ガス成分ごとのスペクトラムを検出することができ、これにより、特定のガス成分のスペクトラムの変化量を見ることで、そのガス成分のある領域の温度を測定することが可能になるとの知見を得た。
【0012】
なお、
図3は、実際のガス成分におけるテラヘルツ波の透過スペクトラムと周波数の関係を示すものではなく、模式的に、ガス成分(G1)とガス成分(G2)で、テラヘルツ波の透過スペクトラムで見られる減衰量が著しい周波数(下向き矢印部分)が幾つかあり、それぞれの周波数によって減衰量が異なるが、ガス成分(G1)とガス成分(G2)とでは、その減衰の著しい周波数も、その周波数における、減衰量も異なることを説明するための模式的な図であり、実際の特定のガス成分に相当する図ではない。
【0013】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば、エンジンの気筒内のように、立体装置の内部空間の局所的な領域の温度を、従来技術よりも低コストかつ高精度で計測でき、その結果、立体装置の内部空間の温度を低コストかつ高精度で計測することができる立体装置の温度計測装置、立体装置の温度計測方法、燃焼機関の温度計測装置、及び、燃焼機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するための本発明の立体装置の温度計測装置は、立体装置の内部空間の温度を計測する温度計測装置において、前記計測領域の内部に設定された小計測領域のそれぞれに対して異なる種類のガス成分を供給するガス成分供給装置と、前記立体装置の前記内部空間に向けて周波数が0.01THz〜10THzの範囲内にある複数の波長のテラヘルツ波を前記内部空間の計測領域に送信する送信ユニットと、前記計測領域を通過してくる複数の波長のテラヘルツ波を受信する受信ユニットと、前記受信ユニットで受信した複数の波長のテラヘルツ波の強度の変化量と、予め設定された前記ガス成分のそれぞれにおけるテラヘルツ波の各波長での変化特性と比較して、前記小計測領域のそれぞれにおける温度を算出する温度算出装置を備えて構成される。
【0015】
つまり、計測領域を通過した複数の波長のテラヘルツ波を受信ユニットで受信して、この受信した信号強度(計測領域を通過した透過強度)の変化量(減衰量)を、温度算出装置内の演算機構で、理論的に計算される各周波数のテラヘルツ波の減衰量と温度の関係と比較し、テラヘルツ波の通過領域である計測領域に設けられた小計測領域の各ガス成分中を通過して吸収された信号強度から、小計測領域のそれぞれにおける、それぞれのガス成分(分子)に対しての温度を算出し、これらの温度から計測領域の温度を算出する。なお、このテラヘルツ波の強度は、テラヘルツ波の振幅と密接な関係を持っているので、テラヘルツ波の振幅を検出又は算出できる場合はこの振幅を強度の代用としてもよい。
【0016】
この構成では、立体装置の内部空間の温度を算出するために、計測領域の内部に設定された小計測領域のそれぞれに対して異なる種類のガス成分(分子)を供給すると共に、複数の波長のテラヘルツ波を送信する。そして、ガス成分ごとに特徴的な吸収スペクトルの変化を検出することで温度の推定を行う。この異なるガス成分を異なる小計測領域に供給することで、テラヘルツ波の通過領域全体の温度分布を同時に計測することが可能となる。つまり、これまでの従来技術のように、センサ・配線、レーザー光学系などの部品を多数配置する構造を改めて、対向する1組のセンサシステムと、温度に対して安定な分子(ガス成分)を微量供給するシステムで温度の分布を検出することが可能になる。
【0017】
これにより、従来技術の計測手法に対して、煤などの汚れに強いテラヘルツ波の特定の波長を活用して、分子の回転準位を直接観察していることになるため、従来技術のような蛍光物質の失活現象を回避することができる。また、立体装置の内部空間に反応性のある蛍光物質を混入する必要がない。さらに、テラヘルツ波の進路上に異なる分子(ガス成分)を適宜配置する仕組みであることから、ジェットエンジンの燃焼室等の内燃機関以外の内部空間にも適用が可能となる。
【0018】
この構成によれば、従来技術のような精度良く位置を特定することが難しい発光強度を検出した蛍光体の存在位置ではなく、テラヘルツ波の送信及び受信の位置及び各ガス成分が供給される位置を用いるので、これらの位置を正確に確定でき、テラヘルツ波が通過する計測領域と各ガス成分が供給される小計測領域のそれぞれの位置を明確に把握した上で、温度を計測できるので、計測位置が正確となる。
【0019】
更に、この構成では、従来技術のレーザー誘起蛍光法のように、蛍光体とレーザー光を使用しないので、レーザー光学系の設備が不要になる上に、立体装置の内部空間の各領域の温度を計測するための多数の部品を配置する必要がなくなるので、装置が簡略化され、低コスト化することができる。また、立体装置の内部空間に蛍光体を混入しないので、通常のエンジンの気筒の内部空間等でも使用できるようになり、本発明の温度計測装置を採用できる内部空間は制限されなくなる。その上、蛍光体の失活現象により温度の推定が難しくなることもない。
【0020】
従って、電波の透過性と光の直進性を有する、電波と光の中間の波長を持つ、周波数が0.01THz〜10THzの範囲のテラヘルツ波を活用することにより、ボイラーやガスタービンなどの燃焼装置の内部空間のように、立体装置の内部空間の局所的な領域の温度を、従来技術よりも低コストかつ高精度で計測でき、その結果、立体装置の内部空間の温度を低コストかつ高精度で計測することができる。
【0021】
上記の立体装置の温度計測装置において、前記送信ユニットから送信されるテラヘルツ波の進行方向と前記ガス成分供給装置から噴射される各ガス成分の噴射方向とが交差するように、前記送信ユニットと前記受信ユニットとガス成分供給装置を配置して構成されると、テラヘルツ波の一つの進行方向に対して、複数の小計測領域の温度を同時に計測できるので効率よく温度計測できる。
【0022】
このテラヘルツ波の進行方向と各ガス成分の噴射方向とは、直交でもよいが、傾きがあって交差している箇所の領域であっても、略ピンポイントとなり同党の計測が可能であり、傾きがあることにより、装置の配置の自由度が増す。つまり、直交の条件では部品の取り付けが不可能な場合でも、交差すればよいという条件の下では、部品同士の干渉を避けて取り付けることができる。
【0023】
また、上記の立体装置の温度計測装置において、前記送信ユニットと前記受信ユニットとガス成分供給装置のいずれか一つ又はいくつかの組み合わせ又は全部が移動可能に構成されると、テラヘルツ波の進行方向となる計測領域、又は、ガス成分が供給される小計測領域の位置を変更することができ、立体装置の内部空間の多くの場所を少ない装置で計測できるようになる。
【0024】
そして、上記の目的を達成するための本発明の燃焼機関の温度計測装置は、上記の立体装置の温度計測装置を備えて、燃焼機関の内部空間の温度を計測するように構成され、上記の温度計測装置と同様の作用効果を奏することができる。
【0025】
また、上記の目的を達成するための本発明の燃焼機関は、上記の燃焼機関の温度計測装置を備えて構成され、上記の温度計測装置、及び、上記の燃焼機関の温度計測装置と同様の作用効果を奏することができる。
【0026】
特に、燃焼機関がボイラーやガスタービン等の燃焼室の場合には、内部空間で計測された温度から、燃焼室に備えられた燃料噴射装置に対する指示信号を変更することで、例えば、温度上昇を検知したときに燃料噴射量を低減する指示をする等で、燃焼室への熱負荷を低減することが可能となる。
【0027】
上記の目的を達成するための本発明の立体装置の温度計測方法は、立体装置の内部空間の温度を計測する温度計測方法において、前記計測領域の内部に設定された小計測領域のそれぞれに対して異なる種類のガス成分を供給すると共に、前記立体装置の前記内部空間に向けて周波数が0.01THz〜10THzの範囲内にある複数の波長のテラヘルツ波を前記内部空間の計測領域に送信して、前記計測領域を通過してくる複数の波長のテラヘルツ波を受信して複数の波長のテラヘルツ波の強度を検出して、この複数の波長のテラヘルツ波の強度の変化量と、予め設定された前記ガス成分のそれぞれにおけるテラヘルツ波の各波長での変化特性と比較して、前記小計測領域のそれぞれにおける温度を算出することを特徴とする方法である。この方法によれば、上記の立体装置の温度計測装置と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の立体装置の温度計測装置、燃焼機関の温度計測装置、燃焼機関及び立体装置の温度計測方法によれば、電波の透過性と光の直進性を有する、電波と光の中間の波長を持つ、周波数が0.01THz〜10THzの範囲の複数の波長のテラヘルツ波を活用して、計測領域の内部に設定された小計測領域のそれぞれに対して異なる種類のガス成分を供給して、それぞれのガス成分に対するテラヘルツ波の各波長での変化特性から各ガス成分の温度を算出することで、それぞれのガス成分が供給された小計測領域における温度を算出することができるので、エンジンの気筒の内部空間のように、立体装置の内部空間の局所的な領域の温度を、従来技術よりも低コストかつ高精度で計測でき、その結果、立体装置の内部空間の温度を低コストかつ高精度で計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る第1の実施の形態の燃焼機関における本発明に係る実施の形態の立体装置の温度計測装置及び燃焼機関の温度計測装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明に係る第2の実施の形態の燃焼機関における本発明に係る実施の形態の立体装置の温度計測装置及び燃焼機関の温度計測装置の構成を模式的に示す図である。
【
図3】ガス成分別における、受信ユニットで受信したテラヘルツ波の透過スペクトラムと温度による減衰量の大きい周波数との関係を説明するための図である。
【
図4】特定の濃度の特定のガス成分を通過したテラヘルツ波の特定周波数における温度と透過光強度比の対数との関係の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態の立体装置の温度計測装置、燃焼機関の温度計測装置、燃焼機関及び立体装置の温度計測方法について図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、燃焼機関の例として内燃機関を、立体装置の例として、内燃機関の気筒(シリンダ)を採用して説明しているが、本発明はこれに限定されず、例えば、ガスタービン等を燃焼機関とし、その燃焼室を立体装置としてもよく、また、立体装置も燃焼機関に含まれるものでなくてもよい。
【0031】
この本発明に係る実施の形態の立体装置の温度計測装置として、エンジン(内燃機関:燃焼機関)の気筒内の温度を測定する燃焼機関の温度計測装置で説明する。つまり、この実施の形態の立体装置の温度計測装置は、本発明の実施の形態の燃焼機関の温度計測装置でもあり、このエンジンは、本発明の実施の形態の燃焼機関でもある。
【0032】
図1に示すように、本発明に係る第1の実施の形態の燃焼機関1は、本発明に係る実施の形態の立体装置の温度計測装置((この実施例では、燃焼機関の温度計測装置となっている:以下、温度計測装置という)10を備えて構成される。この燃焼機関1は、ボイラーやガスタービン等の燃焼機関の場合であり、この燃焼機関1の燃焼室2の内部に空気Aと燃料Fを導入して燃焼させるために、空気供給装置3と燃料噴射装置4を設ける。これらの空気供給装置3と燃料噴射装置4には流量調整機能を備えて構成され、制御装置20に接続される。なお、
図1の太線FLは燃料が燃えている火炎のイメージを示す。
【0033】
そして、この燃焼機関の温度計測装置10のテラヘルツ波Teの送信ユニット12と受信ユニット13を、燃焼室2の内部をテラヘルツ波Teが通過するように配置する。また、ガス成分供給装置(ガス供給ノズル)11iと、これらのガス成分供給装置11iのそれぞれの流量調整を行うための流量調整器15が設けられる。
【0034】
これらのガス成分供給装置11iは、燃焼室2の内部に供給されるガス成分Giがテラヘルツ波Teと交差するように、テラヘルツ波Teの進行方向に沿って支持体5で支持される。この支持体5は、金属ブロック、金属メッシュ等の多孔質構造で形成することで、燃焼室2への影響を少なくすることが好ましい。また、ガス成分供給装置11iは、ラバルノズル等を用いてできるだけ拡散しないように、かつ、微量で噴射するように構成される。
【0035】
燃焼機関1が
図1に示すようなボイラーやガスタービン等の燃焼室2の場合には、内部空間Rで計測された温度Tmiを基にして、燃焼室2に備えられた空気供給装置3と燃料噴射装置4に対する指示信号を変更することで、例えば、温度上昇を検知したときに、供給空気量と燃料噴射量を低減する指示をする等で、燃焼室2への熱負荷を低減することが可能となる。
【0036】
そして、
図2に示すように、本発明に係る第2の実施の形態の燃焼機関1Aは、本発明に係る実施の形態の立体装置の温度計測装置(この実施例でも、燃焼機関の温度計測装置となっている:以下、温度計測装置という)10を備えて構成される。この燃焼機関1Aは、ピストン6を有する内燃機関の場合であり、この燃焼機関1Aの燃焼室2の内部に燃料Fを導入して燃焼させるために、燃料噴射装置4と、図示しないが吸気を導入するための吸気弁や燃焼ガスを排出するための排気弁が設けられる。
【0037】
それとともに、この燃焼機関の温度計測装置10のテラヘルツ波Teの送信ユニット12と受信ユニット13が、テラヘルツ波Teが燃焼室2の内部を通過するように配置される。また、ガス成分供給装置11iが、燃焼室2の内部に供給されるガス成分Giがテラヘルツ波Teと交差するように、テラヘルツ波Teの進行方向に沿って配置される。このガス成分供給装置11iは、シリンダヘッド7側に埋め込まれ、内部空間Rの計測領域Rmに設けられた小計測流域Rmiにガス成分(分子)Giを、ラバルノズル等を用いてできるだけ拡散しないように、かつ、微量で噴射するように構成される。さらに、燃焼機関の温度計測装置10が、小計測流域Rmiで検出された温度Tmiが予め設定した温度以上の高温部分が検出されたときには、燃料噴射装置4からの燃料噴射量を低減させるように制御される。
【0038】
そして、より詳細には、
図1及び
図2に示すように、この温度計測装置10は、エンジン(立体装置)1の内部空間Rの内部の計測領域Rmに設けられた小計測領域Rmiの温度Tmiを計測する温度計測装置であり、この温度計測装置10において、この計測領域Rmの内部に設定された小計測領域Rmiのそれぞれに対して異なる種類のガス成分Giを供給するガス成分供給装置11iと、この計測領域Rmに向けて周波数が0.01THz〜10THzの範囲内にある複数の波長のテラヘルツ波Teを送信する送信ユニット12と、計測領域Rmを通過してくる複数の波長のテラヘルツ波Teを受信する受信ユニット13を備えて構成される。
【0039】
それと共に、受信ユニット13で受信した複数の波長のテラヘルツ波Teの強度の変化量と、予め実験などにより設定されたガス成分Giのそれぞれにおけるテラヘルツ波Teの各波長での変化特性と比較して、小計測領域Rmiのそれぞれにおける温度Tmiを算出する温度算出装置14を備えて構成される。
【0040】
そして、送信ユニット12から送信されるテラヘルツ波Teの進行方向とガス成分供給装置11iから噴射される各ガス成分Giの噴射方向とが交差するように、送信ユニット12と受信ユニット13とガス成分供給装置11iを配置して構成する。これにより、テラヘルツ波Teの一つの進行方向に対して、複数の小計測領域Rmiの温度Tmiを同時に計測できるようにして効率よく温度計測できるようにする。
【0041】
また、送信ユニット12と受信ユニット13とガス成分供給装置11iのいずれか一つ又はいくつかの組み合わせ又は全部を移動可能に構成して、テラヘルツ波Teの進行方向となる計測領域Rm、又は、ガス成分Giが供給される小計測領域Rmiの位置を変更することができ、立体装置1の内部空間Rの多くの場所を少ない装置で計測できるようになる。
【0042】
次に本発明に係る実施の形態の立体装置の温度計測方法について説明する。この立体装置の温度計測方法は、立体装置の内部空間Rの温度Tmiを計測する温度計測方法であり、この方法において、計測領域Rmの内部に設定された小計測領域Rmiのそれぞれに対して異なる種類のガス成分Giを供給すると共に、立体装置の内部空間Rに向けて周波数が0.01THz〜10THzの範囲内にある複数の波長のテラヘルツ波Teを内部空間Rの計測領域Rmに送信して、計測領域Rmを通過してくる複数の波長のテラヘルツ波Teを受信して複数の波長のテラヘルツ波Teの強度を検出して、この複数の波長のテラヘルツ波Teの強度の変化量と、予め設定されたガス成分Giのそれぞれにおけるテラヘルツ波Teの各波長での変化特性と比較して、小計測領域Rmiのそれぞれにおける温度Tmiを算出することを特徴とする方法である。
【0043】
上記の構成の温度計測装置10及び立体装置の温度計測方法によれば、計測領域Rmを通過した複数の波長のテラヘルツ波Teを受信ユニット13で受信して、この受信した信号強度(計測領域を通過した透過強度)の変化量(減衰量)を、温度算出装置内の演算機構で、理論的に計算される各周波数のテラヘルツ波Teの減衰量と温度の関係と比較し、テラヘルツ波Teの通過領域である計測領域Rmに設けられた小計測領域Rmiの各ガス成分Gi中を通過して吸収された信号強度から、小計測領域Rmiのそれぞれにおける、それぞれのガス成分(分子)Giに対しての温度Tiを算出し、これらの温度Tiから計測領域Rmiの温度Tmiを算出する。なお、このテラヘルツ波Teの強度は、テラヘルツ波Teの振幅と密接な関係を持っているので、テラヘルツ波Teの振幅を検出又は算出できる場合はこの振幅を強度の代用としてもよい。
【0044】
この構成では、立体装置の内部空間Rの温度Tmiを算出するために、計測領域Rmの内部に設定された小計測領域Rmiのそれぞれに対して異なる種類のガス成分Giを供給すると共に、複数の波長のテラヘルツ波Teを送信する。
図3に示すように、この複数の波長のテラヘルツ波Teの強度の変化量(減衰量又は吸収量)と温度Tの関係が顕著に表れる波長(又は、周波数=波の位相速度/波長)は、ガス成分Giの種類によって異なるので、この波長の使い分けにより、それぞれのガス成分Giが供給された小計測領域Rmiにおける温度Tmiを算出することができる。
【0045】
そして、この計測領域Rmの温度Tmに起因するテラヘルツ波Teの変化量と、計測領域Rmの温度Tmとの関係は、
図4に示すように、各ガス成分Gi及びその濃度に対して、予め実験等により求めておき、それぞれのガス成分Gi別に更にその濃度別に
図4に示すような較正データを作成しておく。このガス成分Gi別かつその濃度別の較正データに基づいて、温度計測時において、検出したテラヘルツ波Teの変化量から、小計測領域Rmiの温度Tmiを算出する。つまり、ガス成分Giの濃度はガス供給装置11iでその供給量を測定できるので、その供給量に相当するガス成分Giの濃度に対応する較正データにより、温度Tiを算出する。なお、使用するテラヘルツ波Teの波長の数としては、2つ以上で、上限は実用的に定まり、計算能力を考えると100程度であるが、通常は2〜8程度が考えられる。
【0046】
なお、ガス成分Giの濃度はガス供給装置11iで測定した値を用いることができるが、使用するテラヘルツ波Teの波長の数が多いときには、小計測領域Rmiの温度Tmiだけでなく、この温度Tmiを基準にして、テラヘルツ波Teの減衰量からガス成分Giの濃度を算出できるので、この計測で得た取得データのガス成分Giの濃度とガス供給装置11iで測定した既知のガス成分Giの濃度値とを比較して、ガス供給装置11iにおけるガス成分Giの供給精度のチェックやテラヘルツ波Teによる計測の精度チェックを行うことが好ましい。
【0047】
言い換えれば、それぞれのガス成分Gi毎に、テラヘルツ波Teの減衰量を検出することにより、受信ユニット13で検出されたテラヘルツ波Teの強度から算出される温度Tに対して、それぞれのガス成分Giに対応する温度Tiを、それぞれのガス成分Giが供給された小計測領域Rmiの温度Tmiとして計測できることになる。なお、使用するガス成分Giの種類の数としては、同時に計測する小計測領域Tmiの数(i=1〜I:I=正数)となるが、この供給するガス成分(分子)Giとしては、酸素、一酸化炭素、二酸化窒素、一酸化窒素、水、未燃HC等が考えられる。このガス成分としては、温度差によりテラヘルツ波Teで吸収スペクトラムの差が検出可能で、かつ、熱分解しないかあるいは熱分解し難いガス成分(分子)を選択する必要がある。
【0048】
従って、電波の透過性と光の直進性を有する、電波と光の中間の波長を持つ、周波数が0.01THz〜10THzの範囲のテラヘルツ波Teを活用することにより、ボイラーやガスタービンなどの燃焼装置1や内燃機関などの燃焼装置1Aの内部空間Rのように、立体装置の内部空間Rの局所的な領域Rmiの温度Tmiを、従来技術よりも低コストかつ高精度で計測でき、その結果、立体装置の内部空間Rの温度Tmiを低コストかつ高精度で計測することができる。
【0049】
そして、上記の構成の立体装置の温度計測装置10、燃焼機関の温度計測装置10、燃焼機関及び立体装置の温度計測方法によれば、電波の透過性と光の直進性を有する、電波と光の中間の波長を持つ、周波数が0.01THz〜10THzの範囲の複数の波長のテラヘルツ波Teを活用して、計測領域Rmの内部に設定された小計測領域Rmiのそれぞれに対して異なる種類のガス成分Giを供給して、それぞれのガス成分Giに対するテラヘルツ波Teの各波長での変化特性から各ガス成分Giの温度Tiを算出することで、それぞれのガス成分Giが供給された小計測領域Rmiにおける温度Tmiを算出することができるので、エンジン1の気筒の内部空間Rのように、立体装置の内部空間Rの局所的な領域Rmiの温度Tmiを、従来技術よりも低コストかつ高精度で計測でき、その結果、立体装置の内部空間Rの温度Tmiを低コストかつ高精度で計測することができる。
【0050】
また、従来技術のような精度良く位置を特定することが難しい発光強度を検出した蛍光体の存在位置ではなく、テラヘルツ波Teの送信及び受信の位置及び各ガス成分Giが供給される位置を用いるので、これらの位置を正確に確定でき、テラヘルツ波Teが通過する計測領域Rmと各ガス成分Giが供給される小計測領域Rmiのそれぞれの位置を明確に把握した上で、温度Tmiを計測できるので、計測位置が正確となる。
【0051】
更に、この構成では、従来技術のレーザー誘起蛍光法のように、蛍光体とレーザー光を使用しないので、レーザー光学系の設備が不要になる上に、立体装置の内部空間の各領域の温度を計測するための多数の部品を配置する必要がなくなるので、装置が簡略化され、低コスト化することができる。
【0052】
また、立体装置の内部空間Rに蛍光体を混入しないので、通常の内燃機関の気筒の内部空間等でも使用できるようになり、本発明の温度計測装置10を採用できる内部空間Rは制限されなくなる。その上、蛍光体の失活現象により温度の推定が難しくなることもない。
【符号の説明】
【0053】
1、1A 燃焼機関
2 燃焼室
3 空気供給装置
4 燃料噴射装置
5 支持体
6 ピストン
7 シリンダヘッド
10 立体装置の温度計測装置
11i ガス成分供給装置
12 送信ユニット
13 受信ユニット
14 温度算出装置
15 流量調整器
20 制御装置
Gi ガス成分
R 内部空間
Rm 計測領域
Rmi 小計測領域
Te テラヘルツ波(発信波)