(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アイオノマー樹脂組成物が、(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂および/または(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂を含有する請求項1に記載の繊維強化プラスチック成型品。
前記樹脂層の一方面側に接する樹脂含侵繊維層中の繊維の配向方向と、前記樹脂層の他方面側に接する樹脂含侵繊維層中の繊維の配向方向とのなす角度が80°〜90°である請求項5に記載の繊維強化プラスチック成型品。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維強化プラスチック成型品は、複数の樹脂含侵繊維層の積層体からなり、前記樹脂含侵繊維層の層間の少なくとも一部に、アイオノマー樹脂組成物から形成された樹脂層が、全ての樹脂層の厚みの総和が1μm〜100μmとなるように配置されている。樹脂含侵繊維層の層間に、全ての樹脂層の厚みの総和が1μm〜100μmとなるような厚みの薄いアイオノマー樹脂層を配置することによって、質量の増大を抑制しつつ、繊維強化プラスチック成型品の強度を向上できる。
【0011】
[樹脂層]
前記樹脂層は、アイオノマー樹脂組成物から形成される。前記アイオノマー樹脂組成物は、アイオノマー樹脂を含有する。前記アイオノマー樹脂は特に限定されないが、(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂および/または(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂であることが好ましい。
【0012】
前記(a−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物(以下、「(a−1)二元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。)、および、前記(a−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物(以下、「(a−2)三元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。)は、共重合体が有するカルボキシ基を金属イオンにより中和したアイオノマー樹脂である。
【0013】
前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸などが挙げられ、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0014】
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、炭素数が3〜8個α,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸またはマレイン酸のアルキルエステルがより好ましく、特にアクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。エステルを構成するアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステルなどが挙げられる。
【0015】
前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。前記(a−2)三元系アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0016】
前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂を構成する二元共重合体、および(a−2)三元系アイオノマー樹脂を構成する三元共重合体は、共重合体中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率(以下、「酸含量」と称する場合がある。)が、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、25質量%以下が好ましく、24質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、18質量%以下が特に好ましい。前記酸含量が8質量%以上であれば、樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂と、樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基との反応が十分に起きるため、繊維強化プラスチック成形品の強度が向上する。前記酸含量が25質量%以下であれば、アイオノマー樹脂の有するカルボキシル基のうち、樹脂含侵繊維層と樹脂層との剥離を発生させる未反応のカルボキシル基が少なくなるため、繊維強化プラスチック成形品の強度が向上する。
【0017】
前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂、および/または、(a−2)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂、および、(a−2)三元系アイオノマー樹脂は、Na
+、Mg
2+、Ca
2+、および、Zn
2+よりなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンにより中和されていることが好ましい。
【0018】
前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂、および、(a−2)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましく、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、22モル%以下がさらに好ましい。中和度が5モル%以上であれば、樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂と、樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基との反応において、アイオノマー樹脂を中和している金属イオンによる触媒効果が高くなるため、繊維強化プラスチック成形品の強度が向上する。中和度が50モル%以下であれば、アイオノマー樹脂の溶融粘度が低くなり、樹脂層を形成する際の樹脂層の膜厚の均一性が向上する。なお、前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂、および、(a−2)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
【0019】
アイオノマー樹脂の中和度(モル%)=100×共重合体中の中和されているカルボキシル基のモル数/共重合体中のカルボキシル基の総モル数
【0020】
前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂、および、(a−2)三元系アイオノマー樹脂は、予め中和されたアイオノマー樹脂を用いてもよいし、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、および/または、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体と、金属化合物とを混合して用いてもよい。また、(a−1)二元系アイオノマー樹脂および(a−2)三元系アイオノマー樹脂、および、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、および/または、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体と、金属化合物との混合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂としては、ハイミラン(登録商標)1555(Na)、1557(Zn)、1605(Na)、1702(Zn)、1706(Zn)、1707(Na)、AM7311(Mg)、AM7329(Zn)(三井・デュポンポリケミカル社製);サーリン(登録商標)8945(Na)、9945(Zn)、8140(Na)、8150(Na)、9120(Zn)、9150(Zn)、6910(Mg)、6120(Mg)、7930(Li)、7940(Li)、AD8546(Li)(デュポン社製);アイオテック(登録商標)8000(Na)、8030(Na)、7010(Zn)、7030(Zn)(エクソンモービル化学社製)などが挙げられる。
【0022】
前記(a−2)三元系アイオノマー樹脂としては、ハイミランAM7327(Zn)、1855(Zn)、1856(Na)、AM7331(Na)(三井・デュポンポリケミカル社製);サーリン6320(Mg)、8120(Na)、8320(Na)、9320(Zn)、9320W(Zn)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)(デュポン社製);アイオテック7510(Zn)、7520(Zn)(エクソンモービル化学社製)などが挙げられる。前記商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
【0023】
前記二元共重合体としては、ニュクレル(登録商標)N410、N1050H、N1525、N2050H、N2060、N1110H、N0200H(三井・デュポンポリケミカル社製);プリマコール(登録商標)5980I(ダウ・ケミカル社製)などが挙げられる。前記三元共重合体としては、ニュクレルAN4318、AN4319(三井・デュポンポリケミカル社製)、プリマコールAT310、AT320(ダウ・ケミカル社製)などが挙げられる。
【0024】
前記金属化合物としては、カルボキシル基を中和することができるものであれば、特に限定されず、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。
【0025】
前記金属化合物の配合量は、(a−1)二元系アイオノマー樹脂、(a−2)三元系アイオノマー樹脂の中和度に応じて適宜調整すればよい。
【0026】
前記アイオノマー樹脂組成物は、前記アイオノマー樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。この場合、前記アイオノマー樹脂組成物が含有する全ての熱可塑性樹脂のうち前記アイオノマー樹脂の占める比率は50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。前記アイオノマー樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として、前記(a−1)二元系アイオノマー樹脂、および/または、(a−2)三元系アイオノマー樹脂のみを含有することが特に好ましい。
【0027】
前記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性オレフィン共重合体、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性スチレン系樹脂、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性アクリル樹脂、熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリジエン、熱可塑性ポリエーテルなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0028】
前記アイオノマー樹脂組成物は、さらに、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、粘着剤、顔料、染料などの添加剤を含有することができる。
【0029】
前記アイオノマー樹脂組成物が有する単位質量あたりのカルボキシル基のモル数は、0.10mmol/g以上が好ましく、より好ましくは0.50mmol/g以上、さらに好ましくは1.00mmol/g以上であり、5.00mmol/g以下が好ましく、より好ましくは3.00mmol/g以下、さらに好ましくは2.00mmol/g以下である。前記モル数が0.10mmol/g以上であれば、樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有する官能基(例えば、エポキシ基)と、樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基との反応による効果がより大きくなる。前記モル数が5.00mmol/g以下であれば、樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基が樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有する官能基(例えば、エポキシ基)に対して過剰になることなく、かつ、カルボキシル基と官能基(例えば、エポキシ基)との反応が促進される。
【0030】
[樹脂含侵繊維層]
本発明の繊維強化プラスチック成形品を構成する複数の樹脂含侵繊維層の積層体について説明する。前記樹脂含侵繊維層は、層状に成形された繊維集合体と、この繊維集合体に含侵された樹脂の硬化物とから構成される。
【0031】
[繊維]
前記樹脂含侵繊維層が含有する繊維としては、繊維強化プラスチックに使用される繊維が挙げられ、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などを挙げることができる。また、これらの繊維は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも炭素繊維が好ましい。
【0032】
前記炭素繊維としては、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられるが、中でも、引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維の形態としては、前駆体繊維に撚りをかけて焼成して得られる炭素繊維、いわゆる有撚糸、その有撚糸の撚りを解いた炭素繊維、いわゆる解撚糸、前駆体繊維に実質的に撚りをかけずに熱処理を行う無撚糸などが使用できる。無撚糸又は解撚糸が、繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスを考慮すると好ましい。また、プリプレグを用いて積層体を作製する場合、プリプレグシート同士の接着性などの取扱性の面からは無撚糸が好ましい。また、本発明における炭素繊維は、黒鉛繊維も含むことができる。
【0033】
前記繊維の引張弾性率は、10tf/mm
2以上が好ましく、24tf/mm
2以上がより好ましく、70tf/mm
2以下が好ましく、50tf/mm
2以下がより好ましい。前記引張弾性率は、JIS R7601(1986)「炭素繊維試験方法」に準拠して測定する。強化繊維の引張弾性率が、前記範囲内であれば、曲げ強度の高い繊維強化プラスチック成形品が得られる。
【0034】
樹脂含侵繊維層中の繊維の含有率は、65質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましい。繊維の含有率が、前記範囲内であれば、樹脂の性能が十分に生かせる良好な繊維強化プラスチック成形品となる。
【0035】
樹脂含侵繊維層中の繊維の形態としては、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組み紐などを挙げることができる。ここで、長繊維とは、実質的に10mm以上連続な単繊維または繊維束を意味する。一方向に引き揃えられた長繊維は、繊維の方向が揃っており、繊維の曲がりが少ないため繊維方向の強度利用率が高い。また、一方向に引き揃えられた長繊維は、繊維の配列方向が異なるように適切に積層した後成形すると、成形物の各方向の弾性率と強度の設計が容易になる。
【0036】
[マトリックス樹脂]
前記樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもエポキシ樹脂が好ましい。
【0037】
前記エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物が挙げられる。前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、(トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0038】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の水素添加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の水素添加物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などが挙げられる。前記ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。前記フェノキシ型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂とビスフェノールS型フェノキシ樹脂との共重合フェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、100g/eq以上が好ましく、150g/eq以上がより好ましく、200g/eq以上がさらに好ましく、600g/eq以下が好ましく、500g/eq以下がより好ましく、400g/eq以下がさらに好ましい。前記エポキシ当量が100g/eq以上であれば、エポキシ樹脂の硬化反応が十分に起こる。前記エポキシ当量が600g/eq以下であればエポキシ樹脂が硬くなりすぎず、また、繊維強化プラスチックの成型時に安定な状態を保ちやすい。
【0040】
前記樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有する単位質量あたりのエポキシ基のモル数は、0.50mmol/g以上が好ましく、より好ましくは1.00mmol/g以上、さらに好ましくは2.00mmol/g以上であり、10.00mmol/g以下が好ましく、より好ましくは6.00mmol/g以下、さらに好ましくは4.00mmol/g以下である。前記モル数が0.50mmol/g以上であれば、樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有するエポキシ基と、樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基との反応による効果がより大きくなる。前記モル数が10.00mmol/g以下であれば、前記モル数が5.00mmol/g以下であれば、樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有するエポキシ基が樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基に対して過剰になることなく、かつ、カルボキシル基とエポキシ基との反応が促進される。
【0041】
前記樹脂層に接する樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有する単位質量あたりのエポキシ基のモル数に対する、前記樹脂層のアイオノマー樹脂組成物が有する単位質量あたりのカルボキシル基のモル数の比率((カルボキシル基)/(エポキシ基))は、0.050以上が好ましく、より好ましくは0.100以上、さらに好ましくは0.150以上であり、0.900以下が好ましく、より好ましくは0.800以下、さらに好ましくは0.700以下である。前記比率が0.050以上であれば、樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有するエポキシ基と、樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基との反応による効果がより大きくなる。前記比率が0.900以下であれば、樹脂層のアイオノマー樹脂の有するカルボキシル基が樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂が含有するエポキシ基に対して過剰になることなく、かつ、カルボキシル基とエポキシ基との反応が促進される。
【0042】
前記エポキシ樹脂は、硬化剤を含有することが好ましい。前記硬化剤としては、ジシアンジアミド;4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミンのような活性水素を有する芳香族アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステルのような活性水素を有する脂肪族アミン;これらの活性水素を有するアミンにエポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミン;ジメチルアニリン、トリエチレンジアミン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールのような活性水素を持たない第三アミン;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;ポリアミド樹脂;ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物のようなカルボン酸無水物;アジピン酸ヒドラジドやナフタレンジカルボン酸ヒドラジドのようなポリカルボン酸ヒドラジド;ノボラック樹脂などのポリフェノール化合物;チオグリコール酸とポリオールのエステルのようなポリメルカプタン;および、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などを用いることができる。これらの中でも、硬化剤としてジシアンジアミドを使用することが好ましい。
【0043】
前記硬化剤には、硬化活性を高めるために適当な硬化促進剤を組合せることができる。硬化促進剤としては、尿素に結合する水素の少なくとも1つが、炭化水素基で置換された尿素誘導体が好ましい。前記炭化水素基は、例えば、さらに、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基などで置換されていてもよい。前記尿素誘導体としては、例えば、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(パラクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(オルソメチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(パラメチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(メトキシフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(ニトロフェニル)−1,1−ジメチル尿素等のモノ尿素化合物の誘導体;および、N,N−フェニレン−ビス(N’,N’−ジメチルウレア)、N,N−(4−メチル−1,3−フェニレン)−ビス(N’,N’−ジメチルウレア)などのビス尿素化合物の誘導体を挙げることができる。好ましい組合せの例としては、ジシアンジアミドに、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化助剤として組合せる例が挙げられる。これらのなかでも、ジシアンジアミドに、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)を硬化促進剤として組み合わせることがより好ましい。
【0044】
前記エポキシ樹脂は、硬化物の曲げ弾性率が、100GPa以上が好ましく、より好ましくは150GPa以上、さらに好ましくは200GPa以上であり、600GPa以下が好ましく、より好ましくは550GPa以下、さらに好ましくは500GPa以下である。曲げ弾性率が100GPa以上であれば、繊維強化プラスチック成形品の強度がより良好となる。600GPa以下であれば、繊維強化プラスチック成型品の柔軟性がより良好となる。
【0045】
前記樹脂含侵繊維層は、繊維に樹脂を含侵させて作製してもよいし、市販のプリプレグを用いて形成してもよい。
【0046】
[構成]
本発明の繊維強化プラスチック成形品は、複数の樹脂含侵繊維層の積層体からなり、前記樹脂含侵繊維層の層間の少なくとも一部に、アイオノマー樹脂組成物から形成された樹脂層が配置されている。前記樹脂層は、前記積層体が有する複数の層間のうち1つの層間に、単層または複数層配置されてもよいし、前記積層体が有する複数の層間のうち2つ以上の層間のそれぞれに、単層または複数層配置されてもよい。また、前記樹脂層は、前記積層体が有する複数の層間のうち1つの層間に配置されることが好ましい。
【0047】
前記積層体に配置された全ての前記樹脂層の厚みの総和は、1μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、100μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは25μm以下、特に好ましくは20μm以下である。樹脂層の厚みの総和が1μm未満では、樹脂含侵繊維層のマトリックス樹脂と、樹脂層のアイオノマー樹脂組成物の有するカルボキシル基との反応が十分に起こらず、繊維強化プラスチック成形品の強度が低下する。樹脂層の厚みの総和が100μm超では、樹脂層の弾性率が低くなり、座屈による樹脂層の破断が生じやすくなるため、樹脂層による繊維強化プラスチック成型品の強度向上効果が十分に得られない。
【0048】
複数の樹脂含侵繊維層の積層体としては、一定方向に引き揃えられた長繊維に樹脂を含侵した樹脂含侵繊維層を複数積層したものが好ましい。前記樹脂層は、隣り合う2層の樹脂含侵繊維層の繊維の配向方向のなす角度が45°〜90°となる繊維交差層間を有することが好ましい。なお、繊維の配向方向のなす角度とは、交差する繊維がなす鋭角側の角度である。前記積層体が繊維交差層間を有する場合、前記樹脂層は繊維交差層間に配置することが好ましい。言い換えると、前記樹脂層の一方面側に接する樹脂含侵繊維層中の繊維の配向方向と、前記樹脂層の他方面側に接する樹脂含侵繊維層中の繊維の配向方向とのなす角度が45°〜90°であることが好ましく、より好ましくは80°〜90°である。繊維交差層間に樹脂層を配置することにより、樹脂層における層間せん断剥離の発生が抑えられ、管状体の強度が向上する。
【0049】
また、前記積層体が前記繊維交差層間を複数有している場合には、前記積層体の厚さ方向の中央部から最も遠くに位置する前記繊維交差層間に、前記樹脂層を配置することが好ましい。特に、隣り合う2層の樹脂含侵繊維層の繊維の配向方向のなす角度が80°〜90°となる繊維交差層間であって、前記積層体の厚さ方向の中央部から最も遠くに位置する前記繊維交差層間に、前記樹脂層を配置することが好ましい。なお、前記層間の位置は、樹脂層を配置せずに積層体を作製した場合の位置である。
【0050】
前記繊維強化プラスチック成形品の製造方法は特に限定されないが、未硬化の樹脂と繊維とを含有するプリプレグと、樹脂フィルムとを積層して、この積層物に圧力をかけながら硬化させる方法が挙げられる。樹脂フィルムを用いることで、各樹脂含侵繊維層中の繊維含有量を低下させることなく、樹脂層を形成することができる。樹脂フィルムを製造する方法としては、インフレーション法、Tダイ法等の公知の方法によって製造できる。
【0051】
前記プリプレグとしては、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、パイロフィル(登録商標)TRH350E−075S、TRH350E−100S、MRX350E−100S、MRX350C−75S、MRX350E−100S(三菱レイヨン社製);トレカプリプレグP805S−3、8051S−5、8253S−5、2255S−10、2255S−17(東レ社製)などが挙げられる。
【0052】
前記繊維強化プラスチック成形品の形状は特に限定されないが、例えば、管状体が挙げられる。繊維強化プラスチックの管状体を製造する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、プリプレグを、管状体を構成する各材料の形状に裁断し、積層後、積層体を加熱しながら圧力を付与する方法を挙げることができる。
【0053】
プリプレグの積層体を加熱しながら圧力を付与する方法には、ラッピングテープ法、内圧成型法などがある。ラッピングテープ法は、マンドレルなどの芯金にプリプレグを巻いて、成形体を得る方法である。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻き付け、プリプレグの固定及び圧力付与のために、プリプレグの外側に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを巻き付け、オーブン中で樹脂を加熱し硬化させた後、芯金を抜き去って管状成形体を得る方法である。管状成形体の表面を切削し、塗装などを施してもよい。
【0054】
内圧成型法は、熱可塑性樹脂製のチューブなどの内圧付与体にプリプレグを巻きつけプリフォームとし、次にこれを金型中に設置し、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力をかけると共に金型を加熱して成形する方法である。
【0055】
繊維強化プラスチックの管状体を構成するプリプレグの積層枚数、繊維の含有率、および、1枚のプリプレグの厚みなどは、所望の特性に応じて、適宜変更することが好ましい。特に、管状体の軸線に対して、繊維の配列が傾斜して配されるバイアスプリプレグと、管状体の軸線に対して、繊維の配列が平行に配されるストレートプリプレグと、管状体の軸線に対して、繊維の配列が直角に配されるフーププリプレグとを適宜配置して、管状体に必要な剛性や強度を付与することが好ましい。管状成形体の表面を切削し、塗装などを施してもよい。
【0056】
前記管状体の長さは、40インチ(101.6cm)以上が好ましく、より好ましくは41インチ(104.1cm)以上であり、49インチ(124.5cm)以下が好ましく、より好ましくは48インチ(121.9cm)以下である。管状体の長さが上記範囲内であれば、この管状体からなるゴルフクラブシャフトを用いたゴルフクラブの操作性が良好となる。また、管状体の質量は、30g以上が好ましく、より好ましくは35g以上であり、80g以下が好ましく、より好ましくは75g以下である。質量が30g以上であればシャフトが十分な肉厚となり機械的強度がより向上し、80g以下であればシャフトが重くなりすぎず操作性がより良好となる。
【0057】
前記管状体の肉厚は、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.6mm以上であり、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.5mm以下である。管状体の肉厚が上記範囲内であれば、良好なしなりが得られる。また、管状体の肉厚は、薄肉部の位置を調整することにより、管状体の重心や、しなりの位置を制御できる。
【0058】
本発明の繊維強化プラスチック成形品は、例えば、ゴルフクラブシャフト、釣竿、テニスラケット、バトミントンラケットなどに好適に使用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0060】
[評価方法]
(1)管状体の3点曲げ試験
図1に示すように、支点20、20間距離が300mmになるように管状体10を下方から2点で支え、支点間の中点21において管状体10の上方から荷重Fを加えて、管状体が破断したときの荷重値(ピーク値)を測定した。なお、管状体10に荷重Fをかける中点21は、管状体の中心部に位置させるようにした。測定は以下の条件で行った。
試験装置:島津製作所製、オートグラフ
荷重速度:20mm/min
【0061】
[樹脂層の作製]
樹脂層には、表1〜3に示した配合材料で調整されたアイオノマー樹脂組成物からなる樹脂フィルムを用いた。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
表1〜3で使用した原料は、以下の通りである。
ハイミラン1702:三井・デュポンポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸二元共重合体系アイオノマー樹脂(酸含量:15質量%、中和度:22モル%)
ニュクレルN1525:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン−メタクリル酸二元共重合体(酸含量:15質量%)
ニュクレルN0200H:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン−メタクリル酸二元共重合体(酸含量:2質量%)
ニュクレルN410:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン−メタクリル酸二元共重合体(酸含量:9質量%)
ニュクレルN1110H:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン−メタクリル酸二元共重合体(酸含量:11質量%)
ニュクレルN2060:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン−メタクリル酸二元共重合体(酸含量:20質量%)
アクリフトCM5021:住友化学社製、エチレン−メタクリル酸メチル二元共重合体(酸含量:28質量%);加水分解をし、酸含量が25質量%のエチレン−メタクリル酸二元共重合体として使用
酸化亜鉛:東方亜鉛社製「銀嶺R」
【0066】
[繊維強化プラスチックの管状体の作製]
繊維強化プラスチックの管状体は、シートワインディング法により作製した。すなわち、
図2に示したように、プリプレグ1〜8を順番に芯金(マンドレル)に巻回した。プリプレグ1〜8はいずれも一定方向に引き揃えられた長繊維層に樹脂を含侵したプリプレグであって、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂、強化繊維は炭素繊維である。プリプレグ1が、最内層を構成し、プリプレグ8が最外層を構成する。プリプレグ1、4、5、7、8は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して平行に配されるストレートプリプレグである。プリプレグ2、3は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して傾斜して配されるバイアスプリプレグである。プリプレグ6は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して直角に配されるフーププリプレグである。
図3に示したように、プリプレグ2とプリプレグ3、および、プリプレグ5とプリプレグ6とを貼り合わせて、強化繊維の傾斜方向が交差するようにした。なお、プリプレグ1〜5、7、8には、プリプレグA(繊維目付100g/m
2、樹脂含有量:30質量%、目付143g/m
2、厚さ0.093μm、エポキシ樹脂成分が含有する単位質量あたりのエポキシ基のモル数:3.03mmol/g)を用いた。プリプレグ6には、プリプレグB(炭素繊維の引張弾性率30tf/mm
2、樹脂含有量:40質量%、目付50g/m
2、厚さ34μm、エポキシ樹脂成分が含有する単位質量あたりのエポキシ基のモル数:3.05mmol/g)を用いた。また、管状体No.2〜27においては、プリプレグ6とプリプレグ7との間に樹脂フィルムを配置した。得られた巻回体の外周面にテープを巻き付けて、加熱して硬化反応を行った。巻回条件および硬化条件を以下に示した。
図2、3中、寸法は、mm単位で表示されている。
【0067】
巻回条件:
ローリングスピード:34Hz
テープ:信越化学社製PT−30H
ラッピング主軸回転数:1870〜1890rpm
ラッピングテンション:6000±100gf
ラッピングピッチ:2.0mm
硬化条件:
(1)常温から80℃に30分で昇温
(2)80℃±5℃で30分±5分保持
(3)80℃から130℃に30分間で昇温
(4)130℃±5℃で120分±5分間保持。
【0068】
各管状体の評価結果を表1〜3に示した。
【0069】
管状体No.1〜7、10〜25は、樹脂含侵繊維層の層間の少なくとも一部に、アイオノマー樹脂組成物から形成された樹脂層が配置されており、積層体に配置された全ての前記樹脂層の厚みの総和が1μm〜100μmである、複数の樹脂含侵繊維層の積層体からなる繊維強化プラスチック成型品である。これらの管状体は、積層体に配置された全ての前記樹脂層の厚みの総和が1μm〜100μmでない管状体No.8やNo.9よりも、三点曲げ強度が高い。このことから、樹脂含侵繊維層の層間の一部にアイオノマー樹脂層を配置することで、繊維強化プラスチック成形品の質量を維持しつつ、強度を高めることができる。
【0070】
管状体No.11〜15は、樹脂含侵繊維層の一部に、酸含量が8質量%〜25質量%のアイオノマー樹脂層が配置されている場合である。これらの管状体は、酸含量が8質量%未満の樹脂層が配置されてる管状体No.10よりも、三点曲げ強度が高い。
【0071】
管状体No.18〜24は、樹脂含侵繊維層の一部に、中和度が5モル%〜50モル%のアイオノマー樹脂層が配置されている場合である。これらの管状体は、中和度が5モル%未満の樹脂層が配置されてる管状体No.17や、中和度が50モル%超の樹脂層が配置されている管状体No.25よりも、三点曲げ強度が高い。