(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る方向推定システム100の概略的な構成の一例を示す図である。方向推定システム100は、
図1に示すように、車両側ユニット1と自転車側ユニット2を備える。車両側ユニット1は、車両で用いられるデバイスであり、自転車側ユニット2は自転車に取り付けられて用いられるデバイスである。便宜上以降では、車両側ユニット1が用いられている車両を自車両と記載するとともに、自転車側ユニット2が取り付けられている自転車のことを搭載自転車とも記載する。
【0012】
車両側ユニット1が請求項に記載の方向推定装置に相当し、自転車側ユニット2が請求項に記載の送信元端末に相当する。なお、ここでは自車両が四輪自動車である場合を想定して方向推定システム100の作動を説明するが、これに限らない。車両側ユニット1は、二輪自動車や三輪自動車等で用いられてもよい。車両側ユニット1は、道路上を移動しうる存在(つまり移動体)で用いられればよい。
【0013】
<自転車側ユニット2について>
まずは、自転車側ユニット2の構成について述べる。自転車側ユニット2は、
図1に示すように、アンテナ21、送信部22、及び通信制御部23を備える。
【0014】
アンテナ21は、車両側ユニット1が受信可能な周波数帯の信号を送信するためのアンテナである。ここでは一例として、自転車側ユニット2は、300MHz帯の電波を送信するものとする。アンテナ21は、送信部22から入力された信号を前述の周波数帯の電波に変換して空間へ放射する。
【0015】
送信部22は、通信制御部23からの指示に基づき、所定の搬送波信号を生成し、アンテナ21に出力する。通信制御部23は、送信部22の動作を制御する。例えば、通信制御部23は、電力が供給されている場合に所定の送信周期で送信部22に対して搬送波信号の送信を指示する。これにより、自転車側ユニット2は、所定の送信周期で無線信号を送信する。送信周期は適宜設計されればよく、例えば100ミリ秒などとすれば良い。なお、自転車側ユニット2の電力源は、図示しないバッテリーとしてもよいし、搭載自転車のハブの回転によって発電を行うハブダイナモ等を用いて実現してもよい。
【0016】
上述した自転車側ユニット2は、少なくとも自転車の前方に無線信号が送信されるような姿勢で取り付けられる。換言すれば、自転車側ユニット2の自転車における取り付け位置は適宜、アンテナ21の指向性等を鑑みて設計されればよい。例えば自転車側ユニット2は、トップチューブ等のフレーム部分に、無線信号を自転車の前方に放射する姿勢で取り付けられれば良い。なお、ここでの自転車前方とは斜め前方を含む。もちろん、自転車側ユニット2は自転車の全方位に無線信号を送信する構成となっていてもよい。
【0017】
<車両側ユニット1について>
次に、車両側ユニット1の構成について述べる。便宜上、車両側ユニット1が搭載されている車両を自車両とも記載する。車両側ユニット1は、
図1に示すように、複数のアンテナ11A〜Dと、複数のアンテナ11A〜Dのそれぞれに対応する複数の受信部12A〜Dと、方向推定部13と、報知処理部14と、報知装置15と、を備える。なお、以降においてアンテナ11A〜Dのそれぞれを区別しない場合には、それらの総称としてアンテナ11と記載する。受信部12A〜Dについても同様に受信部12とも記載する。
【0018】
アンテナ11A〜Dは、自転車側ユニット2から送信される信号を受信するためのアンテナである。アンテナ11Aは、
図2に示すように、自車両において右側前方に設けられており、アンテナ11Bは、右側後方に設けられている。アンテナ11Cは、自車両において左側前方に設けられており、アンテナ11Bは、左側後方に設けられている。
【0019】
より具体的には、アンテナ11Aは運転席のドアハンドル付近に設けられており、アンテナ11Bは右側後部座席用のドアハンドル付近に設けられている。アンテナ11Cは、助手席のドアハンドル付近に設けられており、アンテナ11Dは左側後部座席用のドアハンドル付近に設けられている。
【0020】
なお、各アンテナ11の設置位置は適宜設計されれば良い。また、本実施形態においてアンテナ11は、本実施形態では無指向性アンテナとするが、これに限らない。アンテナ11は、指向性アンテナであってもよい。ただし、その場合、アンテナ11は、指向性の中心が、車両側方か、又は、車両側方よりも車両前方側を向くように構成されているものとする。ここでの車両側方とは、車幅方向において、車両内側から外側に向かう方向である。
【0021】
受信部12Aは、アンテナ11Aと接続されてあって、アンテナ11Aが受信した信号の受信強度R
1を検出する。そして、受信強度R
Aを方向推定部13に出力する。受信部12B〜Dについても、接続しているアンテナが異なる点を除いて、受信部12Aと同様に構成されている。
【0022】
つまり、受信部12Bはアンテナ11Bで受信した信号の受信強度R
Bを方向推定部13に出力し、受信部12Cはアンテナ11Cで受信した信号の受信強度R
Cを方向推定部13に出力する。受信部12Dはアンテナ11Dで受信した信号の受信強度R
Dを方向推定部13に出力する。なお、ここでの受信強度は周知の受信信号強度に相当するものであって、受信強度の検出は、周知のRSSI回路を用いて実現すれば良い。受信部12A〜Dが請求項に記載の受信強度取得部に相当する。
【0023】
方向推定部13は、受信部12A〜Dのそれぞれから入力される受信強度に基づいて、自転車側ユニット2が存在する方向を推定する。この方向推定部13については別途後述する。
【0024】
この方向推定部13は、ROMやフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を用いて実現されるパラメータ記憶部131を備える。なお、パラメータ記憶部131は、フラッシュメモリのような、不揮発性であって且つ書き換え可能な記憶媒体を用いて実現されていることが好ましい。
【0025】
パラメータ記憶部131には、受信部12A〜Dのそれぞれから入力される受信強度に基づいて自転車側ユニット2が存在する方向するためのパラメータ(以降、推定用パラメータ)が格納されている。推定用パラメータは、後述するパラメータ学習処理によって決定される。
【0026】
報知処理部14は、報知装置15と協働して、方向推定部13の推定結果を自車両の乗員(例えばドライバ)に報知する処理(以降、報知処理)を実施する。報知装置15は、方向推定部13の推定結果を自車両の乗員に提示するためのデバイスであって、例えば、スピーカやディスプレイを用いることができる。
【0027】
例えば報知処理部14は、方向推定部13によって自転車側ユニット2が右側前方の見通し外に存在すると推定された場合、搭載自転車が右側前方の見通し外に存在することを知らせる音声メッセージや警告音を報知装置15としてのスピーカから出力させる。また、報知装置15がディスプレイである場合には、自転車側ユニット2が存在する方向をユーザに知らせるための画像やテキストを表示させてもよい。
【0028】
なお、報知装置として利用可能な装置は、スピーカやディスプレイに限らない。LEDなどから成るインジケータを点灯させたり、点滅させたりすることで、推定された方向に自転車側ユニット2が存在する旨を通知してもよい。また、振動装置(いわゆるバイブレータ)を振動させることで、自転車側ユニット2が存在する旨を警告してもよい。
【0029】
<パラメータ学習処理>
ここではパラメータ学習処理について述べる。このパラメータ学習処理は、例えば、方向推定システム100の設計者や管理者等によって実施される。また、製品の設計や製造段階だけでなく、工場出荷後においてディーラーショップ等で実施されても良い。以下、パラメータ学習処理の具体的な手順について述べる。
【0030】
パラメータ学習処理は、
図3に示すように、複数のステップS1〜S4を備える。ステップS1は、訓練用の受信強度データを収集するステップである。訓練用の受信強度データは、後述する訓練用の特徴ベクトルを生成するための元データとして利用される。個々の訓練用受信強度データは、アンテナ11A〜Dのそれぞれにおける受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dを一つのデータセットとして備える。
【0031】
訓練用受信強度データを収集するための試行は、自車両から見て右側前方の見通し外に自転車側ユニット2が存在する場合と、自車両から見て左側前方の見通し外に自転車側ユニット2が存在する場合を想定して複数回実施される。つまり、訓練用受信強度データには、大きくは、自車両から見て右側前方の見通し外に自転車側ユニット2が存在する場合を示すデータと、自車両から見て左側前方の見通し外に自転車側ユニット2が存在する場合を示すデータの2種類のデータに分類される。
【0032】
便宜上、自車両から見て右側前方の見通し外に自転車側ユニット2が存在する場合を想定した試行によって得られるデータを右側想定受信強度データ、自車両から見て左側前方の見通し外に自転車側ユニット2が存在する場合を想定した試行によって得られるデータを左側想定受信強度データと記載する。
【0033】
なお、ここでの見通し外とは、搭載自転車から送信された信号が直接的に自車両Vまで到達しないような領域を指す。搭載自転車が見通し外に存在する場合とは、
図4に示すように車両側ユニット1から見て、搭載自転車Bkが、電波の電波を阻害する障害物の陰に隠れている状態を表す。
【0034】
なお、
図4は自車両Vから見て自転車側ユニット2が右側前方の見通し外に存在する場合を表している。また、
図4は一例として、自転車Bkと自車両Vとは、それぞれ異なる方向からT字路に接近している状況を表している。
【0035】
ステップS1において収集された訓練用受信強度データは、右側想定受信強度データと左側想定受信強度データとで区別されて、訓練用受信強度記憶部M1に格納される。
【0036】
ステップS2では、訓練用受信強度記憶部M1に保存されている訓練用受信強度データのそれぞれにおける特徴量を抽出する。ここでの特徴量とは、自車両から見て右側前方の見通し外に自転車側ユニット2に存在するのか、左側前方の見通し外に存在するのかを識別するための特徴量である。
【0037】
本実施形態では、一例として4つの受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dから7種類の特徴量を抽出する。7種類の特徴量は、それぞれを1つの要素とする特徴ベクトルとして表されればよい。便宜上、特徴ベクトルが備える要素を順に、X
1,X
2,X
3,X
4,X
5,X
6,X
7とする。
【0038】
また、特徴量としての各要素X
1,X
2,X
3,X
4,X
5,X
6,X
7を、ここでは一例として次のように定義する。
・X
1=(R
A+R
B)>(R
C+R
D)
・X
2=R
A>(R
B+R
D)
・X
3=(R
B+R
D)>R
C
・X
4=R
A>R
C
・X
5=R
B>R
D
・X
6=R
A>R
D
・X
7=R
B>R
C
各要素の値は、右辺の比較の結果が真であれば1に、偽であれば0に設定する。ここでは一例として何れの要素も、自車両から見て右側前方の見通し外に自転車側ユニット2に存在する場合に、比較結果が真となって1が設定されるように定義している。なお、R
A+R
Bや、R
C+R
D、R
B+R
D等が請求項に記載の合成受信強度に相当する。
【0039】
なお、以上の構成によれば、各要素は1と0に2値化されているため、各要素を1つのビットで表すことができる。つまり、本実施形態における7つの要素からなる特徴ベクトルは、7ビットのビット列で取り扱うことが出来る。便宜上、以降では特徴ベクトルを表すビット列を、特徴量データと記載する。特に、訓練用受信強度データから生成した特徴量データを、訓練用特徴量データと記載する。
【0040】
つまり、ステップS2では、上述した定義に基づいて各訓練用受信強度データに対応する訓練用特徴量データを生成して、訓練用特徴量記憶部M2に格納する。もちろん、訓練用特徴量記憶部M2において、右側想定受信強度データを元に生成された訓練用特徴量データと、左側想定受信強度データを元に生成された訓練用特徴量データは、互いに区別されて保存される。以降では、右側想定受信強度データを元に生成された訓練用特徴量データを右側訓練用特徴量データ、左側想定受信強度データを元に生成された訓練用特徴量データを左側訓練用特徴量データと称する。
【0041】
ステップS3では、訓練用特徴量記憶部M2に保存されている右側訓練用特徴量データと左側訓練用特徴量データを訓練データ(換言すれば教師データ)として、周知の機械学習アルゴリズムによって、自車両から見て右側前方の見通し外に自転車側ユニット2に存在する場合を表すクラスと、左側に存在する場合を表すクラスとを区切る境界面を決定する。
【0042】
当該境界面は、特徴量としての各要素X
1〜X
7に付与する重み係数W
1〜W
7と、閾値Ythと、バイアス係数Bとを用いて表現される。各要素に乗算する重み係数W
1〜W
7と、閾値Ythと、バイアス係数Bが、推定用パラメータに相当する。
【0043】
各要素に乗算する重み係数W
1〜W
7は、次の式1によって定まるYが、自転車側ユニット2が右側前方の見通し外に存在する場合に取りうる値の範囲と、左側前方の見通し外に存在する場合に取りうる値の範囲とを分離させるためのパラメータである。W
iは要素X
iに対応する重み係数である。なお、添字のiは、各要素のインデックス(換言すれば番号)に相当し、1〜7までの値をとる。
【数1】
【0044】
また、閾値Ythは、前述の2つのクラスの境界として機能する値である。閾値Ythは、次の式2によって表される。式中のパラメータKは、重み係数W
1〜W
7から閾値Ythを決定するためのパラメータである。例えばK=0.5である。閾値Ythが請求項に記載の方向推定用閾値に相当する。
【数2】
【0045】
バイアス係数Bは、次の式3によって定まる。式中のパラメータρは、重み係数W1〜W
7からバイアス係数Bを決定するためのパラメータである。ρの具体的な値は、サポートベクタマシン法によって定まる。
【数3】
【0046】
なお、ここでは用いる機械学習アルゴリズムは、周知となっている種々のアルゴリズムを用いることができる。本実施形態では一例としてサポートベクタマシン法を用いることとする。もちろん他の態様として、例えば、ニューラルネットワーク法やベイズ推定法などを用いてもよい。
図5は、サポートベクタマシン法によって定まる重み係数W1〜W
7とρ値の一例を表している。
【0047】
また、本実施形態では、線形性の式を用いて各要素X
iを1つの値(つまりY)に帰結させる態様を採用しているが、これに限らない。他の態様として非線形性の式を用いてもよい。各要素X
iが1つの値に帰結しさえすればよい。
【0048】
ステップS4では、ステップS3で取得した重み係数W1〜W
7、閾値Yth、及びバイアス係数Bを、推定用パラメータとして採用して、パラメータ学習処理を終了する。以上によって決定される種々のパラメータが、パラメータ記憶部131に格納される。
【0049】
<方向推定部13について>
次に、方向推定部13の構成及び作動について
図6を用いて説明する。
図6に示すように方向推定部13は、特徴量抽出部F1、重み付け部F2、方向指標値算出部F3、閾値判定部F4、方向特定部F5を備える。
【0050】
これら方向推定部13が備える種々の機能ブロックのそれぞれは、CPUが所定のプログラムを実行することによってソフトウェア的に実現されても良いし、1つ又は複数のICを用いてハードウェア的に実現されてもよい。また、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせて実現されても良い。ファームウェアとして実現されても良い。
【0051】
特徴量抽出部F1は、受信部12A〜12Dのそれぞれから受信強度R
A,R
B,R
C,RDを取得する。そして、パラメータ学習処理時と同様の定義を用いて、各アンテナでの受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dから、特徴量データを取得する。ここでの特徴量データとは、7種類の特徴量をビット列として表したものである。すなわち、特徴量抽出部F1は、受信部12A〜12Dのそれぞれから入力された受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dに対応する要素X
1,X
2,…,X
7を取得する。そして、要素X
1,X
2,…,X
7を示す特徴量データを重み付け部F2に提供する。
【0052】
重み付け部F2は、各要素X
iに対応する重み係数乗算部F21〜F27を備え、特徴量抽出部F1から提供される特徴量データに示される各要素X
iに対して、各要素X
iに対応する重み係数W
iを乗算する。
【0053】
例えば、重み係数乗算部F21は、要素X
1に対して重み係数W
1を乗算する。そして、重み係数乗算部F21は、その乗算結果として得られる値Z
1を方向指標値算出部F3に出力する。他の重み係数乗算部F22〜27も同様に、自分自身が対応する要素X
iに、重み係数W
iを乗算した値Z
iを方向指標値算出部F3に出力する。なお、重み係数W
iは、パラメータ記憶部131に格納されている値を用いれば良い。
【0054】
方向指標値算出部F3は、重み付け部F2から入力される値Z
iを全て加算する。そして、その合計値(つまりZ
iの総和)から、バイアス係数Bを減算した値を方向指標値として採用する。方向指標値は、前述のYに相当する。つまり、重み付け部F2と方向指標値算出部F3は、式1の演算処理を分担して実施している。なお、バイアス係数Bは、パラメータ記憶部131に格納されている値を用いれば良い。
【0055】
閾値判定部F4は、方向指標値算出部F3によって算出された方向指標値Yと、閾値Ythとを比較する。閾値Ythは、前述のとおり、方向指標値Yから搭載自転車が右側前方の見通し外に存在するか左側に存在するかを判定するための閾値である。方向指標値Yが閾値Ythよりも大きい場合には真を示す値(例えば1)を方向特定部F5に出力し、方向指標値Yが閾値Yth以下である場合には偽を示す値(例えば0)を方向特定部F5に出力する。
【0056】
方向特定部F5は、閾値判定部F4の判定結果に基づいて、自転車が存在する方向を特定する。つまり、閾値判定部F4から真を表す値が入力された場合には搭載自転車は右側前方の見通し外に存在すると判定し、閾値判定部F4から偽を表す値が入力された場合には搭載自転車は左側前方の見通し外に存在すると判定する。方向指標値Yが閾値Ythよりも大きいということは、搭載自転車は右側前方の見通し外に存在することを示唆しており、方向指標値Yが閾値Yth以下ということは搭載自転車が左側前方の見通し外に存在することを示唆しているためである。
【0057】
<実施形態のまとめ>
以上の構成では、それぞれ自車両において異なる位置に設けられている4つのアンテナ11A〜Dでの受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dに基づいて、7種類の特徴量(つまり、要素X
1〜X
7)を抽出する。また、各要素X
1〜X
7を、各要素に対応する重み係数W
1〜W
7及びバイアス係数Bを用いて重み付け線形結合させることで、1つの値である方向指標値Yに帰結させる。そして、方向指標値Yと、予め機械学習によって決定しておいた閾値Ythとを比較することで、搭載自転車が自車両にとって見通し外右側に存在するのか、見通し外左側に存在するのかを推定する。
【0058】
以上で提示したアルゴリズムでは、例えばMUSIC法のような、アレイアンテナで受信した信号の振幅及び位相を要素とした行列計算による解析を必要としない。本実施形態の車両側ユニット1は、スカラー量である受信強度Rを用いて10回以下の乗算と加減算のみで方向を推定することができる。
【0059】
つまり、本実施形態にて提示したアルゴリズムは、計算能力の低い安価なマイコンに実装できる簡便なアルゴリズムとなっている。そして、このアルゴリズムによれば、行列計算を必要とする周知の電波到来方向推定法に比べて、方向推定部13において必要となる演算量を低減させることができる。
【0060】
また、パラメータ学習処理に用いる訓練データとしての訓練用特徴量データの数が増えるほど、見通し外電波伝搬環境において、自転車側ユニット2が存在する方向を誤った方向に推定する恐れを低減できる。つまり、以上の構成によれば、アルゴリズムの簡略化と、方向推定精度向上を両立することができる。
【0061】
また、信号の送信元としての通信装置が見通し外に存在する場合、その通信装置から送信された電波は様々な経路で方向推定装置に到来する。MUSIC法等といった、周知の到来方向推定法(以降、従来方法)では、そのような場合、信号の到来方向の候補が複数検出される。したがって、従来方法では、見通し外に存在する通信装置が存在する方向を推定することが困難となる。
【0062】
そのような課題に対し、本実施形態の構成では、そもそも見通し外に信号の送信元(つまり搭載自転車)が存在する場合を想定した種々の推定用パラメータを用いて、搭載自転車が存在する方向を推定している。したがって、見通し外に搭載自転車が存在する場合であっても、当該搭載自転車が存在する方向を推定することができる。
【0063】
さらに、以上の構成によれば、方向推定に受信信号の位相差を用いない。そのため、自転車側ユニット2と車両側ユニット1とが位相同期している必要はない。したがって、自転車側ユニット2と車両側ユニット1とが位相同期できない態様であっても、方向推定を可能となる。
【0064】
ところで、上述したアルゴリズムは、位置指紋法を応用した技術と見なすこともできる。位置指紋法を用いて方向を推定する技術としては、特開2011−179946号公報に開示の方向推定装置(以降、比較構成)がある。しかし、比較構成においては、方向推定に50個度の要素が必要となる。
【0065】
これに対し、本実施形態において方向推定に用いる変数としての要素は、各アンテナ11A〜Dでの受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dから定まる要素X
1〜X
7だけである。つまり、本実施形態において方向推定に必要となる要素数は7つだけである。したがって、本実施形態の構成によれば、従来構成と比べて5分の1以下の要素数で無線信号の送信元が存在する方向を推定できる。
【0066】
当然、演算に用いる要素数が少ないほど、演算負荷を低減でき、より低価なマイコンを用いて方向推定部13を実現することができる。また、演算に用いる要素数の低減は演算時間の短縮といった効果も奏する。つまり、本実施形態の構成によれば、比較構成に対して、部品コストの低減や、演算速度の向上といった効果を奏する。
【0067】
なお、受信している電波の送信元が見通し外に存在するか否かは、種々の方法で判定すればよい。例えば、自車両前方を撮影する車載カメラが撮影した画像データに対して画像認識処理を施すことで判定すればよい。つまり、画像認識処理の結果、自転車を認識していないにも関わらず、電波を受信した場合には、見通し外に搭載自転車が存在すると判定すれば良い。もちろん、見通し内における自転車の存在を検出するデバイスは、車載カメラに限らず、レーザレーダなどであっても良い。
【0068】
また、パラメータ学習処理によって、見通し内に自転車側ユニット2が存在するパターンを学習させることによって、推定用パラメータを見通し内に自転車側ユニット2が存在する場合を除外できる値に設定してもよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0070】
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0071】
[変形例1]
車両側ユニット1が備えるアンテナ11A〜Dと、自転車側ユニット2のアンテナ21は、アンテナ偏波が互いに直交するような構成となっていても良い。例えば、車両側ユニット1が備えるアンテナ11A〜Dの偏波面を垂直偏波とし、自転車側ユニット2のアンテナ21が信号送信に用いる偏波面を水平偏波としてもよい。もちろん、車両側ユニット1が備えるアンテナ11A〜Dの偏波面を水平偏波とし、自転車側ユニット2のアンテナ21の偏波面を垂直偏波としてもよい。そのように、車両側ユニット1と自転車側ユニット2とが送受信の対象とする偏波面を互いに直交させることで、
図7、
図8に示すように推定精度を向上させることができる。
【0072】
なお、
図7、
図8は、車両側ユニット1が受信対象とする偏波面を垂直偏波として、自転車側ユニット2のアンテナ21の偏波面を、車両側ユニット1における偏波面と同一の偏波面(つまり垂直偏波)とした場合と直交する偏波面(つまり垂直偏波)とした場合の試験結果を表している。
図7は、自転車側ユニット2が自車両から見て見通し外左側に存在する場合の試験結果を、
図8は、自転車側ユニット2が自車両から見て見通し外左側に存在する場合の試験結果を、それぞれ表している。
【0073】
図7、
図8における丸型のプロットは互いの偏波面を直交させた場合の推定結果を、四角形のプロットは互いの偏波面を同一偏波面とした場合の推定結果を、それぞれ表している。
図7、
図8を参照すれば確認できるように、自転車側ユニット2のアンテナ21の偏波面を、車両側ユニット1における偏波面と直交する偏波面(つまり垂直偏波)とした場合のほうが、正しい方向を推定できている。
【0074】
[変形例2]
上述した実施形態では、方向特定部F5は、閾値判定部F4による1回の比較結果に基づいて、自転車側ユニット2が存在する方向を推定する態様を例示したが、これに限らない。
【0075】
閾値判定部F4による直近の判定結果を、少なくともN回分(つまり所定回数分)保持しておき、当該N回分の判定結果から多数決の原理に則って、自転車側ユニット2が存在する方向を推定してもよい。ここで用いるNは、奇数個であればよい。また、Nは、誤推定が抑制されるような十分に大きい数に設定されていることが好ましい。例えば、Nは7以上の奇数とすればよい。
【0076】
そのような多数決による方向推定は、方向特定部F5が備える多数決判定部F51(
図9参照)によって実施されれば良い。なお、多数決判定部F51は、N回分の閾値判定部F4による判定結果を保持するためのメモリを備えるものとする。
【0077】
このような態様によれば、
図10、
図11に示すように、自転車側ユニット2が存在する方向を誤った方向に推定してしまう恐れを、より一層低減することができる。なお、
図9、10は、車両側ユニット1の偏波面を垂直偏波とし、自転車側ユニット2の偏波面を水平偏波とした場合の試験結果を表している。
図10は、自転車側ユニット2が自車両から見て見通し外左側に存在する場合の試験結果を、
図11は、自転車側ユニット2が自車両から見て見通し外左側に存在する場合の試験結果を、それぞれ表している。
【0078】
図10、
図11における丸型のプロットは、多数決判定を実施しなかった場合の推定結果を、四角形のプロットは多数決判定部F51による多数判定を実施した場合の推定結果を、それぞれ表している。
【0079】
図10に示す四角形のプロットと
図7に示す丸型のプロットの分布、及び、
図11に示す四角形のプロットと
図8に示す丸型のプロットの分布を比較すれば分かるように、多数決判定部F51による多数決判定を導入することにより、推定精度が向上する。
【0080】
[変形例3]
図12に示すように、方向推定システム100は、種々のパラメータを管理するセンタ3を備え、車両側ユニット1での推定結果及びその推定に用いた特徴量データ等をセンタ3にフィードバックすることで、より適切なパラメータを学習させる態様としてもよい。そのような態様を変形例3とし、以下、この変形例3の具体的な構成の一例について述べる。
【0081】
本変形例3における車両側ユニット1は、
図12に示すように、上述した実施形態の車両側ユニット1が備える各部材に加えて、加速度センサ16、GNSS受信機17、広域通信部18、及び、車両側制御部19を備える。
【0082】
加速度センサ16は、車両側ユニット1に作用する加速度を検出し、その検出結果を車両側制御部19に逐次提供する。加速度センサ16が検出する加速度は、自車両のドライバが急なブレーキを実施したか否かを車両側制御部19が判断するための指標として利用される。なお、前述の指標として、加速度センサ16が検出する加速度に代わって、例えば車速センサなど、その他のセンサの検出結果を利用してもよい。加速度センサ16が請求項に記載の物理状態量取得部に相当し、加速度が物理状態量に相当する。
【0083】
GNSS受信機17は、GNSS(Global Navigation Satellite System)で用いられる衛星(GNSS衛星とする)から送信される電波を受信することで、GNSS受信機17の現在位置を示す情報を取得する。GNSS受信機17が取得した現在位置は、例えば、緯度、経度で表されれば良い。GNSS受信機17が取得した位置情報は逐次(例えば100ミリ秒毎に)車両側制御部19に提供される。
【0084】
広域通信部18は、広域通信網に接続し、センタ3と通信を実施するための通信モジュールである。広域通信部18は、車両側制御部19から入力されたデータを変調して、センタ3に送信する。また、センタ3から送信されたデータを受信する。なお、ここでの広域通信網とは、携帯電話網やインターネット等といった、電気通信事業者等によって提供される公衆無線通信網を指す。広域通信部18が請求項に記載の無線通信部に相当する。
【0085】
車両側制御部19は、通常のコンピュータとして構成されており、CPU、RAM、ROM、I/O、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備えている。ROMには、通常のコンピュータを車両側制御部19として機能させるためのプログラム(以降、制御プログラム)や種々の設定データが格納されている。
【0086】
この車両側制御部19は、加速度センサ16からの入力に基づき、自車両のドライバが急なブレーキ操作を実施したか否かを判定する。例えば、加速度の単位時間あたりの変量が所定の閾値以上となった場合に、急ブレーキを実行したと判定する。急ブレーキを実行したと判定するということは、急ブレーキを検出することに相当する。なお、車両側ユニット1が自車両の車速情報を取得できる構成となっている場合には、車速の時間変化に基づいて急ブレーキを検出してもよい。車両側制御部19が請求項に記載の判断部に相当する。
【0087】
また、車両側制御部19は、方向特定部F5によって見通し外に搭載自転車が存在していると判定している状態において急ブレーキを検出した場合にはフィードバックデータを生成して広域通信部18に出力する。フィードバックデータには、今回の方向推定に用いた推定用パラメータ、特徴量データ、及び推定結果(以降、特徴量データ等)を含むデータである。
【0088】
見通し外に搭載自転車が存在していると判定している状態においてドライバが急ブレーキを実施したということは、推定が誤っていた可能性がある。そのため、フィードバックデータは、誤推定を実施した状況を示すデータとして機能する。
【0089】
また、フィードバックデータは、GNSS受信機17が検出している自車両の現在位置を含むことが好ましい。そのような構成によれば、センタ3は、フィードバックデータに含まれる特徴量データ等と誤推定が生じた地点とを対応付けて蓄積することができる。その結果、誤推定が起きやすい地点や、自転車が飛び出してくる可能性が高い地点をセンタ3が特定することができる。
【0090】
センタ3は、車両の外部において、車両側ユニット1と広域通信網を介して相互通信可能に構成されている。センタ3は、
図12に示すようにセンタ側広域通信部31、センタ側制御部32、特徴量データベース33、及び、配信パラメータ記憶部34を備える。センタ側広域通信部31は、広域通信網を介して車両側ユニット1と無線通信を実施するための通信モジュールである。センタ側広域通信部31は、車両側ユニット1から送信されてきたデータを受信して、センタ側制御部32に提供する。また、センタ側制御部32から入力されたデータを変調して車両側ユニット1に送信する。
【0091】
センタ側制御部32は、センタ3の動作を制御する。センタ側制御部32は、1つのサーバ装置によって実現されていてもよいし、クラウドコンピューティング技術によって複数のサーバ装置を用いて実現されていてもよい。
【0092】
このセンタ側制御部32は、主として、前述のパラメータ学習処理と同様の処理を実施し、推定用パラメータの更新等を実施する。具体的には、センタ側制御部32は、次のような機能を提供する。まず、センタ側制御部32は、車両側ユニット1から送信され、センタ側広域通信部31が受信したフィードバックデータに含まれている特徴量データ等と、そのフィードバックデータに含まれている位置情報とを対応付けて、特徴量データベース33に保存する。
【0093】
フィードバックデータには、前述の通り、特徴量データと、その特徴量データを用いた推定の結果とが含まれている。そのため、車両側ユニット1からフィードバックされてきた特徴量データは訓練用データとして利用することができる。ただし、推定の結果は、誤推定の結果を表している。したがって、例えば、推定結果が見通し外右方向となっている特徴量データは、左側訓練用特徴量データとして利用し、推定結果が見通し外左方向となっている特徴量データは、右側訓練用特徴量データとして利用する。
【0094】
そして、センタ側制御部32は、特徴量データベース33に格納されているフィードバックデータに基づいて機械学習処理を実施し、新たな推定用パラメータを算出する。なお、センタ側制御部32は、地点情報毎、換言すれば、交差点毎のフィードバックデータを訓練用データとして用いることで、交差点毎の推定用パラメータを算出してもよい。そのような態様によれば、交差点毎の特性(例えば形状等)に応じた推定用パラメータを算出することができる。どのフォードバック情報が、何れの交差点に属する情報であるかは、フィードバック情報に対応付けられている位置情報と、別途用意されている道路地図データとから特定されれば良い。ここでの道路地図データとは、道路の接続関係を示す地図データであって、交差点の位置等を示すデータである。
【0095】
そして、推定用パラメータを算出した場合には、その新たな推定用パラメータを配信パラメータ記憶部34に格納する。もちろん、推定用パラメータを交差点毎に算出した場合には、算出した推定用パラメータは、交差点の位置を示す位置情報と対応付けて保存されれば良い。
【0096】
また、センタ側制御部32は、センタ側広域通信部31と協働し、新たに算出した推定用パラメータを随時車両側ユニット1に配信する。推定用パラメータを配信する条件は適宜設計されれば良い。例えば、車両側ユニット1からの要求に基づいて配信する態様とすればよい。もちろん、一定の時間間隔(例えば1週間おきに)配信する態様としてもよい。
【0097】
特徴量データベース33は、車両側ユニット1から送信されてきたフィードバックデータに含まれている特徴量データ等と、そのフィードバックデータに含まれている位置情報とを対応付けて記憶する。位置情報毎の特徴量データは、前述の訓練用特徴量データとして、センタ側制御部32によって利用される。つまり、特徴量データベース33は、前述の訓練用特徴量記憶部M2として機能する。
【0098】
配信パラメータ記憶部34は、センタ側制御部32によって算出された推定用パラメータを記憶する。特徴量データベース33及び配信パラメータ記憶部34は不揮発性であって、かつ、書き換え可能な記憶媒体を用いて実現されれば良い。
【0099】
以上の構成によれば、車両側ユニット1が用いる推定用パラメータを、より適切な推定結果を提供できるパラメータへと随時更新することができる。また、センタ3が交差点ごとの推定用パラメータを車両側ユニット1に配信する態様とした場合には、車両側ユニット1は、交差点の形状等に応じた推定用パラメータを用いて方向推定を実施できるようになる。それにより、見通し外電波伝播環境における推定精度を向上させることができる。
【0100】
[変形例4]
上述したセンタ3による推定パラメータの更新機能は、車両側ユニット1自身が備えていても良い。つまり、報知処理部14が報知処理を実施している状態において、車両側制御部19がドライバによる急なブレーキ操作を検出した場合には、その報知処理の元となった推定結果は誤推定であったと見なして、メモリ等に保存する。そして、その保存した特徴量データを訓練データとした機械学習処理を実行することで、当該特徴量データに基づいた推定結果が正しい推定結果となる推定用パラメータを算出し、パラメータ記憶部131に格納する。つまり、パラメータ記憶部131が記憶する推定用パラメータを更新する。なお、この変形例4における車両側ユニットは、機械学習処理を実行するための機能を備えているものとする。
【0101】
[変形例5]
報知処理部14は、各アンテナ11での受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dに基づいて報知処理の要否を判定してもよい。自転車側ユニット2との距離(以降、端末間距離)が小さいほど受信強度は大きくなる傾向がある。つまり、受信強度がある程度小さいということは、自転車側ユニット2は相対的に遠方に存在することを意味する。
【0102】
したがって、受信強度が所定の閾値以下となっている場合には報知処理を実施せず、受信強度が所定の閾値以上となっている場合に報知処理を実施する態様としてもよい。そのような態様によれば過度な報知を抑制することができる。
【0103】
この変形例4における報知処理部14は、例えば、
図13に示すように、受信強度評価部G1と報知要否判定部G2を備えることで実現されれば良い。受信強度評価部G1は、各受信部12A〜Dから提供される受信強度R
A,R
B,R
C,R
Dに基づいて、アンテナ11A〜Dのそれぞれにおける受信強度の代表値R
repを決定する。
【0104】
ここでは一例としてアンテナ11毎の受信強度の平均値を、代表値R
repとして採用する構成とするがこれに限らない。複数の受信部12A〜Dから出力される受信強度のうち、最も大きい値を代表値R
repとして採用してもよい。
【0105】
また、各アンテナ11における受信強度は、そのアンテナ11に対応する受信部から提供される複数時点における受信強度を母集団として定まる移動平均値であっても良い。移動平均値は、たとえは、直近N回分の検出結果の平均値として算出されれば良い。Nは、10や50など、適宜設計されれば良い。受信強度評価部G1が請求項に記載の代表値特定部に相当する。
【0106】
受信強度評価部G1が決定した代表値R
repは、報知要否判定部G2に提供される。報知要否判定部G2は、代表値R
repと、予め設定されている閾値とを比較して、報知処理が必要か否かを判定する。ここで用いる閾値は、報知処理が必要か否か、換言すれば、報知が必要なほど端末間距離が小さくなっているか否かを判定するための閾値である。
【0107】
ここでは、一例として、上記閾値として、注意喚起閾値Th1と警告閾値Th2の、警告レベルが異なる2つの閾値が設定されているものとする。注意喚起閾値Th1は、警告閾値Th2よりも小さい値であればよい。ただし、自車両が向かっている交差点に接近中の自転車の存在を、ドライバ等の乗員に通知する必要があると見なされる距離に応じた値とすることが好ましい。警告閾値Th2は、例えば見通し外に存在する自転車との距離が10メートル程度となっている状況に対応する受信強度とすればよい。注意喚起閾値Th1と警告閾値Th2の具体的な値は試験等に基づき、適宜設計されれば良い。
【0108】
そして、報知要否判定部G2は、方向推定部13によって見通し外に搭載自転車が存在すると判定している場合において、代表値R
repが注意喚起閾値Th1以上となった場合には、予め設定されている態様での報知処理(以降、注意喚起処理)を実行する。また、報知要否判定部G2は、方向推定部13によって見通し外に搭載自転車が存在すると判定している場合において、代表値R
repが警告閾値Th2以上となった場合には、予め設定されている態様での報知処理(以降、警告処理)を実行する。
【0109】
注意喚起処理や警告処理の態様は適宜設計されれば良い。例えば、注意喚起処理ではディスプレイやインジケータといった視覚的な要素によって搭載自転車の存在を報知する一方、警告処理では、視覚的な報知に加えて、スピーカから警告音を出力する態様とすれば良い。なお、注意喚起処理の際には、搭載自転車が見通し外左側から来るのか、右側から来るのかといった、搭載自転車が存在する方向については言及しない一方、警告処理の際には、搭載自転車が見通し外左側から来るのか、右側から来るのかを表す情報を出力する態様としてもよい。
【0110】
そのような態様によれば、
図14に示すように、自車両が交差点に接近するに連れて段階的に情報を提供することが出来る。また、受信強度が注意喚起閾値Th1未満となっている場合には、報知処理を実施しない。
【0111】
端末間距離が離れている場合には、
図7や
図8、
図10、
図11に示すように、推定結果が誤ってしまう場合がある。したがって、受信強度が注意喚起閾値Th1未満となっている場合には報知処理を実施しない構成とすることで、誤った推定結果に基づく報知を実施してしまう可能性を抑制することが出来る。
【0112】
[変形例6]
また、先に述べた変形例4において、報知処理部14は、
図15に示すように外乱判定部G3を備えていても良い。外乱判定部G3は、外乱の有無を判定する機能ブロックである。外乱判定部G3は、受信強度評価部G1から提供される代表値R
repを、一定時間分、時系列順に保持する。各時点における代表値R
repは、その代表値R
repを特定した時点における位置情報と対応付けて保存される。
【0113】
また、外乱判定部G3は、現在から一定時間内に取得した代表値R
repの変化量と、当該一定時間内に自車両が移動した量に基づいて、単位メートル当り(換言すれば一定距離当り)の代表値の変化量(以降、受信強度変化率)を算出する。そして、当該受信強度変化率に基づいて、これからの移動距離に応じた代表値R
repを予測する。
図16に示す直線Lは、或る地点において予測した受信強度変化率から定まる代表値の予測値(以降、予測代表値)を概念的に表している。
【0114】
そして、外乱判定部G3は、予測代表値と実際の代表値R
repとの間に所定の閾値以上のギャップが生じた場合に、外乱が有ると判定する。なお、予測代表値と実際の代表値R
repとのギャップが所定の閾値未満となっている場合には、外乱は無いと判定すれば良い。外乱判定部G3の判定結果は逐次、報知要否判定部G2に提供される。
【0115】
報知要否判定部G2は、報知処理が必要だと判定している場合には、外乱判定部G3の判定結果に基づいた態様で報知処理を実施する。例えば、報知要否判定部G2は、警報処理が必要だと判定している場合であって、かつ、外乱判定部G3によって外乱が無いと判定されている場合には、搭載自転車が見通し外左側から来るのか、右側から来るのかを表す情報を出力する。
【0116】
一方、警報処理が必要だと判定している場合であっても、外乱が有ると判定されている場合には、注意喚起処理と同様の報知態様で報知を実施する。或いは、搭載自転車が存在する方向については言及せずに、単に搭載自転車が存在することを音声出力する態様としてもよい。
【0117】
外乱が有ると判定されている場合に、警報処理において乗員に提供する情報を抽象化する理由は、次の通りである。外乱判定部G3によって外乱が有ると判定される場合、つまり、代表値R
repが予測代表値から大きく離れた値となるということは、別の移動体によるシャドウイング等といった、方向推定の精度を低下させる外乱が存在している可能性を示唆している。当然、外乱が存在すれば、方向推定の精度が低下し、搭載自転車が存在する方向を誤ってしまう可能性が高まる。そのため、外乱が有ると判定されている場合の警報処理において提供する情報を、搭載自転車が存在することを示す程度に留めることで、誤った情報を乗員に提供してしまう恐れを低減することができる。
【0118】
なお、以上では、代表予測値と実際の代表値R
repとの比較に基づいて、外乱の有無を判定したが、外乱の有無の判定方法はこれに限らない。例えば、外乱判定部G3は、前回の代表値R
repと今回の代表値R
repとに基づいて、単位メートル当りの変化量を示す瞬間変化率を逐次算出する構成とし、瞬間変化率が、受信強度変化率から大きく逸脱している場合に、外乱が存在すると判定しても良い。瞬間変化率は、今回の代表値R
repから前回の代表値R
repを減算した値を、その間の移動距離で除算した値とすれば良い。
【0119】
[変形例7]
なお、各アンテナ11での受信強度から定まる情報として、どのような情報を特徴量として採用するかは、前述の実施形態で例示した態様に限らない。また、特徴ベクトルが備える要素の数は、7つに限らない。例えば、受信強度そのものを特徴ベクトルの要素として採用してもよい。また、現在から一定時間以内にサンプリングした受信強度を母集団として定まる分散を、特徴ベクトルの要素として用いても良い。
【0120】
[変形例8]
車両側ユニット1が備えるアンテナ11の配置は
図2に示す構成に限らない。また、車両側ユニット1が備えるアンテナ11の数も4つに限らない。車両側ユニット1は、自車両における受信位置及び受信方向の少なくとも何れか一方が異なる、少なくとも3種類の受信強度を取得できる構成となっていればよい。自車両における受信位置及び受信方向の組み合わせが請求項に記載の受信パターンに相当する。
【0121】
なお、ここでの受信方向とは、車両に対する指向性の向きである。仮にアンテナ11を無指向性アンテナとする場合には、車両側方よりも車両進行方向側となる方向を受信方向に含む構成となっている。
【0122】
例えば、車両側ユニット1は3つの無指向性アンテナ11L〜Nを備え、それら3つの無指向性アンテナ11L〜Nは、車両において
図17に示すようにそれぞれ異なる位置に配置されている態様としてもよい。この場合、受信位置がそれぞれ異なる3種類の受信強度を取得することになる。
【0123】
また、
図18に示すように車両側ユニット1は、1つの指向性アンテナ11Xを備え、当該指向性アンテナ11Xの指向性を、互いに異なる3つの受信方向に変更して運用する態様としてもよい。この場合、受信位置は共通である一方、受信方向がそれぞれ異なる3種類の受信強度を取得することになる。
【0124】
[変形例9]
以上では、車両側ユニット1が、自車両の前方の見通し外のうち、搭載自転車が存在する方向(つまり左側か右側)を推定する態様を例示したが、これに限らない。例えば、車両側ユニット1は、自車両の後方の見通し外のうち、搭載自転車が存在する方向(つまり左側か右側)を推定しても良い。その場合には、自車両後方の見通し外に搭載自転車が存在する状況を想定した訓練データに基づいて、推定用パラメータを予め決定すれば良い。
【0125】
[変形例10]
以上では、信号の送信元となる移動体が自転車である態様を例示したが、これに限らない。信号の送信元となる移動体は、歩行者であっても良いし、他車両であってもよい。