(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒転写シート用の基材フィルムであって、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニルからなる群より選択される1種または2種以上のポリマーから形成されたベースフィルムの少なくとも一方の表面にフッ素原子が導入されてなり、該フッ素原子を導入した表面、すなわち改質表面の、X線光電子分光法で測定したフッ素原子数/炭素原子数の比が、0.02以上1.9以下である基材フィルムの前記改質表面に触媒層を形成してなる触媒転写シート。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソード間のプロトン伝導体からなる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(以降、MEAと略称することがある。)を構成し、このMEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。具体的には、アノード電極においては、触媒層で燃料ガスが反応してプロトン及び電子を生じ、電子は電極を経て外部回路に送られ、プロトンは電極電解質を介して電解質膜へと伝導する。一方、カソード電極では、触媒層で、酸化ガスと、電解質膜から伝導してきたプロトンと、外部回路から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。
【0004】
固体高分子型燃料電池ではエネルギー効率の一層の向上が要求されている。そのためには電極構造を工夫し、電極反応の反応活性点を増加させるとともに、電解質ポリマーを電極触媒層にも配合し、速やかに水素イオンが移動できるようにしている。発生した水素イオンを速やかに対極まで移動できるようにするためには、電極触媒層と電解質膜との接触が良く、また電解質膜自体の膜抵抗を低くする必要がある。そのためには膜厚はできるだけ薄い方が好ましい。
【0005】
このようなMEAの製造方法としては、片面に印刷法又はスプレー法を適用して基材フィルムに触媒層を形成した2枚の触媒転写シートを用い、該シートの触媒層面が電解質膜の両面に接するように配置し、熱プレスなどで触媒層を転写後、触媒転写シートの基材フィルムを除去し、さらに各々の触媒層面に電極基材が接するように配置し熱プレスするデカール法が知られている。
【0006】
デカール法をMEA製造方法に採用する場合、基材フィルムへの触媒塗液の塗布性、電解質膜への転写後、触媒層と基材フィルムの剥離性が良好であることが望まれる。
【0007】
触媒転写シート用基材としては、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂フィルムが知られている(特許文献1、3)。また、表面を酸溶液処理した後、親水性界面活性剤で処理を行なったフッ素樹脂フィルム(特許文献2)が知られている。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムに、離型層としてフッ素樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂(好ましくはフッ素樹脂)を公知の方法に従って基材シート上にコーティングした基材フィルム(特許文献3)が知られている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<基材フィルム>
本発明の基材フィルムのベースとなるベースフィルムは、フッ素原子の導入が可能であり、かつ安価であることから、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニルから選択される単独または2種以上のポリマーから形成されるものを用いるとよい。2種以上のポリマーからフィルムを形成する場合には、2種以上のブレンドポリマーからフィルムを形成してもよく、また各ポリマーから形成した層を積層した積層体としてもよい。コストの点からは1種のポリマーからなる単層フィルムを用いることが好ましい。
【0016】
本発明の基材フィルムは、上記ベースフィルムの少なくとも一方の表面にフッ素原子を導入したものである。本発明において、表面改質とは、ベースフィルムの表面に存在する炭素に結合した水素原子の一部をフッ素の原子に置き換えることを指すものとする。表面改質を行った際には、さらに水酸基やカルボン酸基、スルホン酸基などの導入が伴っていてもよい。水酸基やカルボン酸基、スルホン酸基の導入により、ベースフィルムの表面の接触角を下げることができ、触媒転写シート作製時の触媒金属、炭素材料、電解質ポリマー溶液を含む塗液(触媒塗液)の塗布性(濡れ性)をポリマー溶液の組成や性質により制御可能となる。なお、本明細書において、このフッ素原子を導入した表面を指して単に「改質表面」ということがある。
【0017】
表面改質は、フィルムの片面のみに行われていてもよいし両面とも行われていてもよい。触媒転写シートとして使用する場合には、コストの点からは片面のみ改質することが好ましい。また、触媒塗液を塗布する部分のみに、局所的にフッ素化されてなるものであってもよい。
【0018】
本発明の基材フィルムは、改質表面の、X線光電子分光法で測定したフッ素原子数/炭素原子数の比が、0.02以上1.9以下である。改質表面のフッ素原子数/炭素原子数の比が0.02以上であることで、改質表面から意図的に触媒層を剥離する際の剥離性が良好となり、剥離工程で触媒層が欠けたり転写不良が起こったりしにくく、高い表面品位の膜電極複合体が作製できると共に、高価な触媒金属を電解質膜に無駄なく接触させることが可能となる。また、改質表面のフッ素原子数/炭素原子数の比が1.9以下であることで、膜電極複合体工程において触媒層が脱落したり欠けたりしにくくなり、膜電極複合体の製造収率が向上する。こうした観点から、改質表面のフッ素原子数/炭素原子数の比は、0.03以上1.5以下であることが好ましく、0.04以上1.0以下であることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の基材フィルムは、改質表面の、X線光電子分光法で測定した酸素原子数/炭素原子数の比が、0.10以上1.0以下が好ましい。改質表面の、酸素原子数/炭素原子数の比が0.10以上であることで、改質表面へのポリマー溶液の塗布性(ぬれ性)が良好となる傾向にあり、電解質膜へ触媒層を転写する工程や転写後に触媒層が電解質膜から滑落しにくくなる。また、酸素原子数/炭素原子数の比が1.0以下であることで、改質表面から意図的に触媒層を剥離する際の剥離性が良好となる傾向にある。こうした観点から、酸素原子数/炭素原子数の比が0.15以上0.8以下であることがより好ましく、0.20以上0.7以下であることがさらに好ましい。
【0020】
X線光電子分光法では、超高真空中においた試料表面に軟X線を照射し、表面から放出される光電子をアナライザーで検出する。超高真空下で試料表面にX線を照射すると、光電効果により表面から光電子が真空中に放出される。その光電子の運動エネルギーを観測すると、その表面の元素組成や化学状態に関する情報を得ることができる。
E
b=hν−E
kin−φ
sp(式1)
式1のE
bは束縛電子の結合エネルギー、hνは軟X線のエネルギー、E
kinは光電子の運動エネルギー、φは分光器の仕事関数となる。ここで上記式1により求められる束縛電子の結合エネルギー(E
b)は元素固有のものとなる。よって光電子のエネルギースペクトルを解析すれば、物質表面に存在する元素の同定が可能となる。光電子が物質中を進むことができる長さ(平均自由行程)が数nmであることから、本分析手法における検出深さは数nmとなる。すなわち、本発明において、改質表面のフッ素原子数/炭素原子数の比および酸素原子数/炭素原子数の比は表面より数nmの深さの原子数比である。
【0021】
X線光電子分光法では物質中の束縛電子の結合エネルギー値から表面の原子情報が、また各ピークのエネルギーシフトから価数や結合状態に関する情報が得られる。さらにピーク面積比を用いて原子数の比を求めることができる。本発明で用いたX線光電子分光法の測定条件は下記のとおりである。
【0022】
装置:Quantera SXM(米国PHI 社製)
励起X 線:monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6 eV)
X 線径:100μm(分析領域:100μmφ)
光電子脱出角度:45 °(試料表面に対する検出器の傾き)
スムージング:9 points smoothing
横軸補正:C1s ピークメインピークを284.6 eV に合わせた。
【0023】
また、改質表面は、水の接触角(θ)が90°以下であることが好ましい。90°以下であれば、触媒金属、カーボン、電解質ポリマー溶液を含む塗液を塗布する際に、塗布ムラが発生しにくく表面品位の良好な触媒層被膜が得られる。接触角は固体の液体による濡れを表す最も直感的な尺度である。本発明では液滴法で測定した値を採用した。具体的には、JIS R3257に準拠して実施した。ガラスの代わりに本発明の基材フィルムの改質表面に水を滴下し、改質表面と形成した液滴との接触点における液滴の接線と、改質表面とのなす角度を測定した。
【0024】
本発明の基材フィルムの厚みは製造する触媒層の厚みや製造装置により適宜決定でき、特に制限はない。5μm〜500μmがハンドリングの観点から好ましい。また、生産性、コストや乾燥時の変形などの低減効果より50μm〜200μmの厚みがより好ましい。
【0025】
<基材フィルムの製造方法>
本発明の基材フィルムの製造方法は特に限定されず、公知の様々な方法を用いることができる。例えば、フッ素ガスによる直接フッ素化反応のほか、高原子価金属フッ化物によるフッ素化、ハロゲン交換反応を主体とした間接フッ素化、電解法によるフッ素化などが挙げられる(有機合成化学 第31巻 第6号(1973)441頁〜454頁)。これらの中でも、量産性、導入量の制御性の観点から、ベースフィルムをフッ素ガスと接触させることによる直接フッ素化反応が好ましく適用できる。
【0026】
フッ素ガスによるフッ素原子の導入量の制御は、フッ素ガスを含む気体中のフッ素ガス濃度、フッ素ガスを含む気体の温度や圧力、基材フィルムを連続的に処理する場合におけるベースフィルムの搬送速度などを調整することにより、使用する機器や設備に応じて当業者は適宜実験的に決定することができる。連続的に触媒転写シートを作製するために使用するなど、基材フィルムの量産性が必要な用途には、コスト、品質安定性の観点から、ベースフィルムを連続的に搬送しながらフッ素ガスと接触させることにより表面改質を行うことが好ましい。
【0027】
図1に、ベースフィルムを連続的に搬送しながらフッ素ガスと接触させる装置の一例を概念図として示す。フィルム基材6を巻出し部4から巻き取り部5に連続的に搬送しながら、ガス供給口1とガス排出口2を備えたフッ素ガス接触室3で表面改質を実施する。支持ロール7はフッ素ガスの漏洩を最小限にとどめるよう構成される。また、支持ロール7にヒーターやクーラントを内蔵することで、フッ素化反応における温調が可能となる。
【0028】
<触媒転写シート>
本発明の触媒転写シートは、燃料電池用の電解質膜またはガス拡散電極に触媒層を転写するために用いられるものであり、上記本発明の基材フィルムの改質表面に触媒層を形成してなるものである。触媒層は、触媒金属、炭素材料および電解質ポリマーを含む層であることが好ましい。必要よっては、触媒金属の脱落を防ぐ目的で電解質ポリマー以外の高分子結着剤を加えてもよい。触媒層の組成や構成や形状は特に制限ない。触媒層は一層であってもよいし、異なる組成の触媒層の積層体であってもよいし、パターン塗工されていてもよい。触媒層は、膜電極複合体として使用する用途、例えば、燃料電池、水電解装置、レドックスフロー電池、金属空気電池、水素圧縮装置などの用途に合わせ適宜実験的に設計できる。触媒層の厚みは使用する用途によって実験的に決定でき、通常1μm以上500μm以下が好ましい。
【0029】
触媒層に含まれる触媒金属としては、公知のものが使用できる。例えば、金属粒子として、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、マンガン、コバルト、金などの金属が好ましく用いられる。これらの内の1種類を単独で用いてもよいし、合金、混合物など、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
また、上記金属を担持した粒子を使用することで、金属触媒の利用効率が向上し、膜電極複合体の発電性能、耐久性の向上および低コスト化に寄与できることがある。担持体としては、炭素材料、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、RuO
2、ゼオライトなどが使用できるが電子伝導性の観点からは炭素材料が好ましい。
【0031】
炭素材料としては、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカンXC−72”(R)、“バルカンP”(R)、“ブラックパールズ880”(R)、“ブラックパールズ1100”(R)、“ブラックパールズ1300”(R)、“ブラックパールズ2000”(R)、“リーガル400”(R)、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック”EC(R)、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック”(R)などが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。
【0032】
これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。また、これら炭素材料を熱処理や化学処理などの後処理加工したものを用いてもよい。これらは、前記、金属の担持体として使用しても、触媒層の電子伝導向上剤として単独で使用してもよい。
【0033】
電解質ポリマー溶液とは電解質ポリマーを溶媒に溶解させたものであり、完全に電解質ポリマーが溶けていない分散液も本発明では、便宜上、電解質ポリマー溶液として表現する。電解質ポリマーとしては炭化水素系ポリマーやフッ素系ポリマーなど、イオン性基を含む一般公知のポリマーが使用できる。
【0034】
該イオン性基としては、スルホン酸基( −SO
2(OH) )、硫酸基( −OSO
2(OH) )、スルホンイミド基( −SO
2NHSO
2R(Rは有機基を表す。) )、ホスホン酸基( −PO(OH)
2 )、リン酸基( −OPO(OH)
2 )、カルボン酸基( −CO(OH) )、水酸基(−OH)およびこれらの塩等が挙げられる。また、これらのイオン性基は電解質ポリマー中に2種類以上含むことができる。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。これらのイオン性基のなかでもプロトン伝導性と生産性の観点からホスホン酸基、スルホン酸基が好ましく、これらのNa塩、Mg塩、Ca塩、アンモニウム塩などが含まれていてもよい。
【0035】
電解質ポリマーとしては、具体的にはポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリフェニレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、非晶性ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスチレンマレイミド共重合体、ポリメチルアクリレート等の(メタ)アクリル系共重合体およびポリウレタン等の高分子材料にイオン性基を導入した炭化水素系イオン伝導性ポリマー、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン性基を有するパーフルオロ系イオン伝導性ポリマーが挙げられる。
【0036】
また触媒層に含まれる電解質ポリマーの量としては、特に限定されるものではない。触媒層に含まれる電解質ポリマーの量は、0.1重量%以上50重量%以下の範囲が好ましく、1重量%以上30重量%以下の範囲がさらに好ましい。0.1重量%以上であれば、触媒金属または触媒担持炭素材料の滑落が防ぎやすく、50重量%未満であれば、膜電極複合体としたときの燃料やガス透過性の透過を阻害しにくく、発電性能に対する悪影響が小さい。
【0037】
本発明の触媒転写シートは、触媒金属、炭素材料および電解質ポリマー溶液を含む塗液を本発明の基材フィルムの改質表面に塗布した後、塗液から溶媒を除去することにより得られる。
【0038】
電解質ポリマー溶液は、電解質ポリマーを溶媒に溶解または分散したものである。使用できる溶媒としては特に制限はなく、例えば、水、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノールなどのアルコール系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒などが挙げられる。なお、電解質ポリマーには、後の処理によって電解質となる電解質前駆体ポリマーも含まれるものとする。
【0039】
本発明の触媒金属、炭素材料、電解質ポリマー溶液を含む塗液の作製方法としては、通常公知の方法が適用できる。例えば、電解質ポリマー溶液、触媒金属粒子および/または触媒金属担持炭素材料粒子を加え、撹拌混練することで触媒塗液を作製し、本発明の基材フィルムの改質表面に塗布し、乾燥、必要によってはプレスを行うことで触媒転写シートが製造できる。塗工方法としては公知の方法が採用でき、ナイフコート、ダイレクトロールコート(コンマコート)、グラビアコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、リバースコート、スクリーン印刷などの手法が適用でき、連続塗工はダイコートや、コンマコートが好適である。
【0040】
本発明の基材フィルム上に塗布された触媒塗液被膜からの溶媒の蒸発は、加熱、熱風、赤外線ヒーター等の公知の方法が選択できる。溶媒の乾燥時間や温度、風速、風向など適宜実験的に決めることができる。
【0041】
<膜電極複合体の製造方法>
本発明の触媒転写シートは、触媒層面を電解質膜に接触させて貼り付けた後、前記基材を触媒層から剥離する工程を有する膜電極複合体の製造方法に用いることができる。当該工程では、触媒転写シートの基材から触媒層が剥離・脱落すると、膜電極複合体の触媒層に抜けがでたり表面品位が低下したりする。本発明の触媒転写シートを使用すると、このような触媒層の剥離・脱落することなく製造可能となる。また、基材と触媒層の密着性が高すぎると基材と触媒層が容易に剥離できず、触媒層表面に欠陥、抜けがでたり、転写不良となったりして膜電極複合体の性能が低下する原因となる。本発明の触媒転写シートを使用すると、触媒層から基材を意図的に剥離する場合の剥離性が良好となり、高品位な膜電極複合体が製造可能となる。
【0042】
このような膜電極複合体の製造方法に用いられる電解質膜は特に制限がない。例としては、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレンなどの、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマー、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン性基を有するパーフルオロ系イオン伝導性ポリマーが挙げられる。
【0043】
ここでのイオン性基は、スルホン酸基(−SO
2(OH))、硫酸基(−OSO
2(OH))、スルホンイミド基(−SO
2NHSO
2R(Rは有機基を表す。))、ホスホン酸基(−PO(OH)
2)、リン酸基(−OPO(OH)
2)、カルボン酸基(−CO(OH))およびこれらの金属塩からなる群より選択される一種以上を好ましく採用することができる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基のいずれかを有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0044】
触媒転写シートの触媒層面を電解質膜に接触させて貼り付ける方法は、公知の技術を適用できる。例えば触媒層面を電解質膜の両面または片方に接触させ、触媒転写シートごと加熱プレスすることで触媒層と電解質膜を貼り付け、触媒層被覆電解質膜を製造する事ができる。プレス温度は電解質膜や基材フィルムの耐熱性で適宜決定でき、20〜200℃が好ましい。プレス圧力も使用する材料により実験的に適宜決定でき、1〜100MPaが好ましい。プレスはバッチ式でもよいし、連続ロールプレスでもよい。
【0045】
基材を触媒層から剥離する方法は特に限定されない。基材の端部をつまみ引きはがしてもよいし、真空チャックなどで支持フィルムを吸着させ引きはがしたりできる。また連続的に搬送しながら基材を剥離しロール状に巻き取る方法も生産性の観点から好ましい。本発明の触媒転写シートは剥離性が良好なことから、回収した基材の再利用も可能となる。
【0046】
こうして触媒層が転写された電解質膜(触媒層被覆電解質膜)の触媒層上にカーボンペーパーやカーボン織物からなるガス拡散電極を配置し、膜電極複合体が製造できる。
【0047】
以上、本発明の触媒転写シートを電解質膜へ転写する方法について説明したが、本発明の触媒転写シートは、カーボンペーパーやカーボン織物からなるガス拡散電極への触媒層転写にも使用できる。すなわち、本発明の触媒転写シートは、触媒層面をガス拡散層に接触させて貼り付けた後、基材を触媒層から剥離する工程を有する膜電極複合体の製造方法にも用いることができる。ガス拡散層に触媒塗液を直接塗工する場合、表面の凹凸で触媒層の厚みムラが発生しやすい。本発明の触媒転写シートを使用すると触媒層の厚みが均一となり、膜電極複合体の発電性能、耐久性が向上する場合がある。
【0048】
また、ガス拡散電極には炭素粉末と結着剤からなるカーボン層が形成されていてもよい。これは、カーボンペーパーやカーボン織物の炭素繊維間に触媒層が入り込んで不均一に形成されるのを防止でき、触媒転写シートを用いて触媒層を転写する場合に好ましい好適なガス拡散電極の形態である。
【0049】
この炭素粉末としては、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカンXC−72”(R)、“バルカンP”(R)、“ブラックパールズ880”(R)、“ブラックパールズ1100”(R)、“ブラックパールズ1300”(R)、“ブラックパールズ2000”(R)、“リーガル400”(R)、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック”EC(R)、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック”(R)などが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。
【0050】
結着剤は特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリフェニレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、非晶性ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスチレンマレイミド共重合体、ポリメチルアクリレート等の(メタ)アクリル系共重合体およびポリウレタン等の高分子材料やこれらにイオン性基を導入した高分子材料などの炭化水素系高分子が挙げられ、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ素系ポリアクリレート、フッ素系ポリメタクリレートなどのフッ素原子を含むポリマーを使用することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によりポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とした基材フィルムについて実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニルの表面改質も本実施例に準じて作製できる。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0052】
(1)フィルム表面のフッ素原子数/炭素原子数の比(F/C比)
本発明では、X線光電子分光法で測定した値を採用する。光電子が物質中を進むことができる長さ(平均自由行程)が数nm であることから、本分析手法における検出深さは数nm となり、本発明のフッ素原子数/炭素原子数の比は表面より数nmの深さの原子比であり、炭素原子基準で(C/C=1)表した。X線光電子分光法の測定条件の一例を下記する。なお、酸素原子数/炭素原子数の比(O/C比)も同方法で取得できる。
【0053】
装置:Quantera SXM(米国PHI 社製)
励起X 線:monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6 eV)
X 線径:100μm(分析領域:100μmφ)
光電子脱出角度:45 °(試料表面に対する検出器の傾き)
スムージング:9 points smoothing
横軸補正:C1s ピークメインピークを284.6 eV に合わせた。
【0054】
(2)水の接触角
水に対する接触角は、JIS−R3257(1999)に準拠した方法で測定した。
【0055】
(3)濡れ性評価
基材フィルム上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50E、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”(“Nafion(登録商標)”)溶液およびn−プロパノールからなる触媒塗液を塗工した。白金重量換算で0.5mg/cm
2となるように触媒付着量を調整した。濡れ性は塗布してから乾燥前の触媒層の表面品位を目視観察で評価した。
【0056】
(4)耐早期剥離性評価
上記の濡れ性を評価後、100℃で乾燥し触媒転写シートを作製した。該触媒転写シートを、支持フィルム側から軽く中指で2回はじいて触媒層の脱落の有無を目視観察で評価した。
【0057】
(5)易剥離性評価
電解質膜20重量%のスルホン化ポリエーテルケトンの前駆体(特開2006−561103号公報等参考)とN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなるポリマー溶液をPETフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)−T60、厚み125μm)に流延塗布し、100℃で乾燥後、60℃の10重量%硫酸水溶液に10分間浸漬し、ついで純水に30分浸漬し後、80℃で水分を乾燥し、PETフィルム上からポリマー皮膜を手動で剥離し、炭化水素系電解質膜を得た。
【0058】
この電解質膜の両面に上記の耐早期剥離性評価後の触媒転写シートの触媒層側を接触させ、150℃、4MPaの条件で10分間加熱プレスした。次に触媒転写シートから基材フィルムを手動で剥がしとり、はぎ取った後の電解質膜に付着した触媒層の状態および基材フィルムの触媒層の残渣を目視観察で評価した。
【0059】
[実施例1]
PETフィルム (東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)−T60、厚み125μm)をフッ素ガスおよび空気供給口と排気口を備えた20Lのステンレス製圧力容器に入れ、窒素ガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージした後、フッ素/ 空気=10/90(体積比)混合ガスを流速10ml/ m i nで吹き込み10分間反応させた。引き続き窒素ガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージしてから容器を開封し、基材フィルムAを得た。
【0060】
基材フィルムAの処理面のフッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0061】
[実施例2、3、4、5、比較例1]
実施例1の、フッ素/ 空気混合ガスの比率または吹き込み時間を変えて製造し、基材フィルムB〜EおよびGを得た。これらのフッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0062】
[実施例6]
搬送速度制御が可能なロール状のフィルムの巻出し部と、巻き取り部を有し、その間にフッ素および空気ガス供給口と排気口を備えたフッ素ガスとの接触室を有する連続フッ素表面処理装置を用い、搬送速度1m/minでフッ素ガスとの接触室にフッ素/空気=30/70(体積比)混合ガス10ml/minで吹き込みながら連続的にPETフィルム (東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)−T60、厚み125μm)の表面改質を実施し、基材フィルムFの連続処理膜を得た。基材フィルムFの処理面のフッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0063】
[比較例2]
基材フィルムFの代わりにポリテトラフルオロエチレン(PEFE)フィルムを用いた以外は実施例6と同様に実施した。フッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0064】
[膜電極複合体の製造例]
基材フィルムFの上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50E、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”(“Nafion(登録商標)”)溶液およびn−プロパノールからなる触媒塗液を塗工し、乾燥して触媒転写シートを作製した。触媒転写シートは白金重量換算で0.5mg/cm
2となるように触媒付着量を調整した。
【0065】
電解質膜としてデュポン(DuPont)社製 “ナフィオン(登録商標)品番NRE211CS”(“Nafion(登録商標)”)を使用し、その両面に触媒転写シートの触媒層側を接触させ、120℃、2MPaの条件で10分間加熱プレスした。次に触媒転写シートから基材フィルムを手動で剥がしとった。次に、両面の触媒層上に、電極基材(東レ(株)製カーボンペーパーTGP−H−060)を重ねて130℃、3MPaの条件で10分間加熱プレスし、膜電極複合体を得た。
【0066】
【表1】