特許第6558259号(P6558259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558259
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/022 20060101AFI20190805BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20190805BHJP
【FI】
   H01S5/022
   G02B1/115
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-19293(P2016-19293)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-139332(P2017-139332A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】萩元 将人
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 泰
(72)【発明者】
【氏名】宮本 晋太郎
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−014803(JP,A)
【文献】 特開2009−200433(JP,A)
【文献】 特開平06−196818(JP,A)
【文献】 特開2014−149465(JP,A)
【文献】 特開昭62−276517(JP,A)
【文献】 特開平10−313147(JP,A)
【文献】 特開2004−165398(JP,A)
【文献】 特開2007−225696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステムと、
前記ステムに搭載され、レーザ光を出射する半導体レーザ素子と、
塑性変形可能な材料により構成され、前記半導体レーザ素子を包囲する筒状の本体部を有し、前記本体部の一端側が前記ステムに接合されるキャップと、
前記キャップの前記本体部の他端側に、当該本体部の開口部を塞ぐように固定されたレンズと、
前記キャップの前記本体部と前記レンズとの間に配置されたリング状の塑性変形可能なスペーサと、を備え、
前記レンズは、前記キャップの前記本体部の塑性変形により当該本体部に固定されていることを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記本体部の前記他端側の外径が、前記一端側の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記キャップは、前記本体部の内側面に突出する突起部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記半導体レーザ素子は、前記キャップ、前記レンズおよび前記ステムによって気密封止されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記気密封止による気密空間のリーク量は、10-6[Pa・m3/sec]以下であることを特徴とする請求項4に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記レンズは、その表面に反射防止膜を有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
半導体レーザ素子をステムに固定する工程と、
塑性変形可能な材料により構成された筒状の本体部の一端を塑性変形させ、前記本体部の開口部を塞ぐようにレンズを固定する工程と、
前記キャップの前記本体部の他端側を前記ステムに接合する工程と、を含み、
前記レンズを固定する工程は、
前記本体部の前記開口部に前記レンズを挿入する工程と、
前記本体部と前記レンズとの間にリング状のスペーサを挿入する工程と、
前記スペーサを塑性変形させることで前記本体部の前記一端を塑性変形させ、前記本体部の前記一端側の外径を前記他端側の外径よりも大きくする工程と、を含むことを特徴とする半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項8】
前記レンズを固定する工程の前に、前記レンズの表面に反射防止膜を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザチップを金属製のステムに配置し、レーザ光の出射窓が設けられたキャップを用いて封止するキャンパッケージ型の半導体レーザ装置が知られている。このような半導体レーザ装置においては、円筒状のキャップの一端にレーザ光の出射窓となるレンズを固定したレンズ付きキャップが用いられる。
レンズをキャップに固定する方法として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術は、キャップの開口部に溶融ガラスを滴下、固化することで、キャップの開口部にレンズを形成するものである。また、特許文献2には、接着剤によりレンズをキャップに固定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−121841号公報
【特許文献2】特開2015−041736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術のように溶融ガラスを滴下固定する方法の場合、レンズの曲率は、表面張力とガラス材の自重とによって決定される。そのため、レンズの曲率を自由に設計することができない。また、この方法では、表面に反射防止膜を有するレンズとする場合、レンズをキャップに形成した後にコーティング処理を行うことになるが、キャップの形状によっては上記コーティング処理が困難となる。
また、上記特許文献2に記載の技術のようにレンズを接着剤により固定する方法の場合、製造過程においてレンズの光透過部分に接着剤が付着し、光出力が低下してしまうおそれがある。更には、キャップ内で反射された迷光等が接着剤に照射されることによって、接着剤に含有される揮発成分等がレンズ面に蒸着され、光出射面を汚して光出力が低下するといった問題も起こり得る。
そこで、本発明は、レンズ曲率の設計自由度の向上と光出力低下の防止とを実現することができる半導体レーザ装置およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る半導体レーザ装置の一態様は、ステムと、前記ステムに搭載され、レーザ光を出射する半導体レーザ素子と、塑性変形可能な材料により構成され、前記半導体レーザ素子を包囲する筒状の本体部を有し、前記本体部の一端側が前記ステムに接合されるキャップと、前記キャップの前記本体部の他端側に、当該本体部の開口部を塞ぐように固定されたレンズと、前記キャップの前記本体部と前記レンズとの間に配置されたリング状の塑性変形可能なスペーサと、を備え、前記レンズは、前記キャップの前記本体部の塑性変形により当該本体部に固定されている。
このように、レンズをキャップの塑性変形により固定するため、レンズの曲率の設計自由度を向上させることができる。また、レンズをキャップにかしめにより固定することができるので、レンズの固定に際し、接着剤を使用する必要がない。そのため、接着剤によるレンズの汚れを防止することができ、半導体レーザ装置の光出力の低下を防止することができる。
【0006】
また、上記の半導体レーザ装置において、前記本体部の前記他端側の外径が、前記一端側の外径よりも大きくてもよい。この場合、筒状の封止電極をキャップに装着し、加圧、通電してキャップとステムとを溶接したとき、封止電極をキャップから抜き取りやすくなる。したがって、キャップとステムとを適切に接合することができる。
さらに、上記の半導体レーザ装置において、前記キャップは、前記本体部の内側面に突出する突起部を有してもよい。この場合、突起部によってレンズの高さ方向位置を容易に定めることができる。したがって、半導体レーザ素子の発光点からレンズまでの距離を適切な距離に設定することが可能となる。
【0007】
また、上記の半導体レーザ装置において、前記半導体レーザ素子は、前記キャップ、前記レンズおよび前記ステムによって気密封止されていてもよい。ここで、気密封止による気密空間のリーク量は、10-6[Pa・m3/sec]以下とすることができる。これにより、高品質な半導体レーザ装置を実現することができる。
さらに、上記の半導体レーザ装置において、前記レンズは、その表面に反射防止膜を有していてもよい。これにより、光出力効率を向上させることができる
【0008】
さらにまた、本発明に係る半導体レーザ装置の製造方法の一態様は、半導体レーザ素子をステムに固定する工程と、塑性変形可能な材料により構成された筒状の本体部の一端を塑性変形させ、前記本体部の開口部を塞ぐようにレンズを固定する工程と、前記キャップの前記本体部の他端側を前記ステムに接合する工程と、を含み、前記レンズを固定する工程は、前記本体部の前記開口部に前記レンズを挿入する工程と、前記本体部と前記レンズとの間にリング状のスペーサを挿入する工程と、前記スペーサを塑性変形させることで前記本体部の前記一端を塑性変形させ、前記本体部の前記一端側の外径を前記他端側の外径よりも大きくする工程と、を含む。
このように、レンズをキャップの塑性変形により固定するため、レンズの曲率の設計自由度を向上させることができる。また、レンズをキャップにかしめにより適切に固定することができるので、レンズの固定に際し、接着剤を使用する必要がない。そのため、接着剤によるレンズの汚れを防止することができ、半導体レーザ装置の光出力の低下を防止することができる。
【0009】
らに、上記の半導体レーザ装置の製造方法において、前記レンズを固定する工程の前に、前記レンズの表面に反射防止膜を形成する工程をさらに含んでもよい。この場合、光出力効率の高い半導体レーザ装置の実現が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体レーザ装置によれば、半導体レーザチップおよびサブマウントを封止するキャップに固定されるレンズの曲率の設計自由度を向上させることができる。また、製造過程や使用過程におけるレンズの汚れを防止し、半導体レーザ装置の光出力低下の防止を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一の実施形態における半導体レーザ装置の構成例を示す断面図である。
図2】レンズの固定方法を説明する図である。
図3】レンズ固定後のキャップを示す図である。
図4】半導体レーザ装置の製造工程を説明する図である。
図5】半導体レーザ装置の製造工程を説明する図である。
図6】半導体レーザ装置の製造工程を説明する図である。
図7】溶接後のキャップの形状を示す図である。
図8】従来の半導体レーザ装置の製造工程を説明する図である。
図9】従来の溶接後のキャップの形状を示す図である。
図10】第二の実施形態における半導体レーザ装置の構成例を示す断面図である。
図11】第二の実施形態のレンズの固定方法を説明する図である。
図12】第三の実施形態における半導体レーザ装置の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態における半導体レーザ装置100の構成例を示す断面図である。
半導体レーザ装置100は、半導体レーザ素子を構成する半導体レーザチップ(以下、単に「チップ」という。)11とサブマウント12とを備える。
チップ11は、サブマウント12に固定され、所定の注入電流が供給された場合に、レーザ光Lを発振する。このチップ11は、半導体基板の主面に、エピタキシャル成長によって形成された多層の半導体層を備える構造を有する。サブマウント12の本体部の材料は、放熱性、絶縁性、チップ11との線膨張係数差およびコストなどを考慮して適宜選択される。サブマウント12の表面には、金(Au)によって電極配線が設けられており、チップ11は、その電極配線上に、例えば、金スズ(AuSn)はんだを介して接合される。
【0013】
チップ11が接合されたサブマウント12は、円盤状のステム21が有するヒートシンク部21aに固定されている。このとき、サブマウント12は、チップ11から出射されるレーザ光Lの出射方向が、ステム21の円盤状の表面に対して垂直な方向に一致する向きとなるよう、はんだを介してヒートシンク部21aに接合される。ステム21は、例えば、Fe合金により構成することができる。なお、ステム21は、例えば、金めっきした鉄(Fe)および金めっきした銅(Cu)であってもよい。ヒートシンク部21aは、例えば、銅(Cu)などの熱伝導の良い金属によって構成することができる。
ステム21の円盤状の表面にはキャップ31が装着され、溶接などにより気密封止されている。キャップ31は、円筒状(円環状)の本体部31aと、本体部31aの内側面(内周面)に突出する突起部31bと、フランジ部31cとを備える。突起部31bは、キャップ31のステム21への固定側とは反対側の端部近傍に設けられている。フランジ部31cは、キャップ31のステム21への固定側端部に設けられている。このキャップ31は、例えば、切削加工により形成することができる。
【0014】
また、キャップ31は、塑性変形可能な材料により構成されている。例えば、キャップ31の材料としては、ステンレス鋼を使用することができる。なお、キャップ31の材料は、Fe−Ni、Fe−Ni−Co、Fe−Cr、Fe−Cr−NiなどのFe系の合金材料であってもよいし、Al系、Cu系の合金材料であってもよい。ただし、溶接によりキャップ31をステム21に固定する場合には、キャップ31の材料に熱伝導率の低いFe系材料を使用することが好ましい。溶接以外の方法(例えば接着剤)によりキャップ31を固定する場合には、キャップ31の材料は熱伝導率の高いAl系材料やCu系材料であってもよい。
さらに、キャップ31のステム21への固定側とは反対側の端部には、レンズ32が固定されている。このレンズ32は、チップ11から出射されるレーザ光Lを平行光として取り出すための光取出し窓である。レンズ32は、例えば非球面レンズであり、突起部31bに当接されることで高さ方向位置(チップ11の発光点からの距離)が定められている。
【0015】
また、レンズ32は、キャップ31の塑性変形によってキャップ31に固定されている。図2に示すように、レンズ32の径は、キャップ31の本体部31aのレンズ固定前におけるレンズ固定側の端部(図2の上端部)の内径よりも大きい。レンズ32をキャップ31に固定する際には、レンズ32を本体部31a上に置き、矢印Aに示すようにレンズ32の外周部32aに荷重を加えて、レンズ32を本体部31aに押し込む。このとき、矢印Bに示すように、本体部31aのレンズ固定側端部の径が拡がり、レンズ32が突起部31bに当接するまで本体部31aに圧入される。このように、レンズ32は圧入によりキャップ31に固定されている。
レンズ32がキャップ31に固定された状態では、図3の実線に示すように、キャップ31の本体部31aのレンズ固定側の外径R2は、キャップ31の本体部31aのステム固定側の外径R3よりも大きい。また、キャップ31の本体部31aのレンズ固定側の外径R2は、キャップ31のフランジ部31cの外径R1よりも小さい。つまり、R1>R2>R3の関係が成り立つ。
【0016】
また、レンズ32は、キャップ31に固定される前に、表面に反射防止用の誘電体多層膜をコーティング(ARコーティング)されていてもよい。このとき、反射防止膜は、レンズ32の光入射面および光出射面の双方に設けられていてもよい。反射防止膜として用いられる誘電体としては、例えば、MgF、CaF、SiO、Al、Ta、TiO、ZrO、Nb等がある。反射防止膜を形成する方法としては、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法、イオンビームスパッタ法などを用いることができる。
【0017】
次に、半導体レーザ装置100の製造方法について説明する。
図4に示すように、先ずチップ11をサブマウント12に接合し、チップ11が接合されたサブマウント12をステム21のヒートシンク部21aに接合する。次に、チップ11とステム21に固定された電極22とを、Auワイヤ24によって電気的に接合(ワイヤボンディング)する。また、サブマウント12表面の電極配線とステム21に固定された電極23とを、Auワイヤ25によって電気的に接合(ワイヤボンディング)する。なお、電極22および23は、それぞれステム21とは電気的に絶縁されている。
また、レンズ32の光入射面および光出射面をARコーティングした後、上述した図2に示すように、キャップ31の一端を塑性変形させてレンズ32をキャップ31に固定する。そして、図5に示すように、チップ11およびサブマウント12が接合されたステム21の円盤状の表面に、レンズ32が固定されたキャップ31を装着し、溶接により気密封止する。
【0018】
はじめに、キャップ31を円筒状のキャップ側封止電極41によってマグネット吸着(または真空吸着)すると共に、ステム21をステム側封止電極42によってマグネット吸着する。次に、キャップ31のフランジ部31cのステム21の円盤状の表面と対向する面に形成したプロジェクション(突起部)31dとステム21とを接触させる。つまり、キャップ側封止電極41とステム側封止電極42とによって、キャップ31のフランジ部31cとステム21とを挟み込む。
そして、図6に示すように、チップ11の発光点位置とレンズ32の中心位置とを一致させ、図中矢印に示すようにキャップ側封止電極41に荷重を加える。このとき、キャップ側封止電極41とステム側封止電極42との間に電圧を印加し、プロジェクション31dに電流を集中させ溶接する。これにより、キャップ31とレンズ32とステム21とで仕切られた空間は、気密空間となる。この気密空間のリーク量は、例えば10-6[Pa・m3/sec]以下であることが好ましい。
【0019】
以上の工程により、半導体レーザ装置100が製造される。この半導体レーザ装置100において、電極22と電極23との間に所定の電圧を印加すると、チップ11の端面からレーザ光が出射され、そのレーザ光がレンズ32を透過して放射される。
なお、上記の半導体レーザ装置100の製造方法では、レンズ32が固定されたキャップ31をステム21に接合している。しかしながら、半導体レーザ装置100の製造方法は、上記の方法に限定されない。例えば、キャップ31をステム21に接合した後、キャップ31にレンズ32を固定してもよい。ただし、チップ11の発光点位置とレンズ32の中心位置とのアライメント精度を向上させるためには、レンズ32が固定されたキャップ31をステム21に接合する方が好ましい。
【0020】
以上のように、本実施形態における半導体レーザ装置100は、チップ11と、チップ11を固定するサブマウント12と、サブマウント12を固定するステム21と、ステム21に接合された塑性変形可能な材料からなるキャップ31と、キャップ31のステム21とは反対側の端部に、当該キャップ31の塑性変形により固定されたレンズ32と、を備える。そして、チップ11およびサブマウント12は、キャップ31とレンズ32とで構成される空間内に封止されている。
このように、レンズ32を、キャップ31の塑性変形により固定するため、レンズ32の固定に接着剤を使用する必要がない。そのため、製造過程や使用過程において接着剤により光出射面が汚れることを防止することができる。したがって、半導体レーザ装置100の光出力の低下を防止することができる。
【0021】
また、レンズ32を、キャップ31の塑性変形により固定するため、予め所望の仕様とされたレンズ32をキャップ31に取り付けることができる。そのため、レンズ32の曲率の設計自由度を向上させることができる。さらに、レンズ32をキャップ31に固定する前にARコーティングすることが可能である。つまり、キャップ31の形状にかかわらず、表面に反射防止膜を有するレンズ32をキャップ31に固定することができる。したがって、光出力効率の高い半導体レーザ装置100の実現が可能となる。
【0022】
また、レンズ32が固定されたキャップ31の形状は、図3に示すように、R1>R2>R3の関係が成り立つ形状となっている。したがって、ステム21への封止溶接を適切に行うことができる。キャップ31とステム21とを接合する場合、図6に示すように、円筒状の封止電極41をキャップ31に装着し、加圧および通電によりキャップ31の全周を気密封止する。そして、キャップ31とステム21とを接合した後は、封止電極41をキャップ31から抜き取る。R2>R3の関係が成り立っている場合、図6に示すように、キャップ31の本体部31aのステム固定側の外周面と封止電極41の内周面との間には隙間が形成される。そして、その隙間は、R2=R3の関係にあるキャップ131を用いた場合(図7)と比較して広くなる。
【0023】
そのため、R2>R3のキャップ31を用いた場合、図8に示すように、ステム固定側におけるキャップ31の本体部31aと封止電極41との接触面積S1は、図9に示すR2=R3のキャップ131を用いた場合の接触面積S2よりも小さくなる。封止電極41との接触面積が大きいほど、溶接後、封止電極41をキャップから抜き取りにくくなる。したがって、本実施形態のようにキャップ31の形状をR2>R3とすることで、溶接後の封止電極41をキャップ31から抜き取り易くすることができ、封止溶接を適切に行うことができる。
【0024】
また、本実施形態におけるキャップ31の形状は、R1>R2の関係が成り立つ。したがって、溶接時、円筒状の封止電極41によってキャップ31のフランジ部31cに適切に荷重を加えることができる。
さらに、キャップ31は、本体部31aの内側面(内周面)に突出する突起部31bを有する。そのため、この突起部31bによってレンズ32の高さ方向位置を容易に定めることができる。したがって、チップ11の発光点からレンズ32までの距離を適切な距離に設定することが可能となる。
また、レンズ32をキャップ31に圧入して固定するので、気密性を確保した構成とすることができる。このように、キャップ31、レンズ32およびステム21によって気密空間を形成し、チップ11およびサブマウント12を気密封止することができるので、高品質な半導体レーザ装置100を実現することができる。
【0025】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
上述した第一の実施形態では、レンズを圧入してキャップに固定する場合について説明したが、第二の実施形態では、レンズをキャップにかしめ固定する場合について説明する。
図10は、第二の実施形態における半導体レーザ装置110の構成例を示す断面図である。この図10に示す半導体レーザ装置110において、上述した図1に示す半導体レーザ装置100と同一構成を有する部分には図1と同一符号を付し、以下、構成の異なる部分を中心に説明する。
キャップ31のステム21への固定側とは反対側の端部には、レンズ33が固定されている。レンズ33は、例えば非球面レンズである。レンズ33は、突起部31bによって高さ方向位置(チップ11の発光点からの距離)が定められている。このレンズ33は、リング状のスペーサ34を介してキャップ31の塑性変形によってキャップ31に固定されている。
【0026】
図11に示すように、レンズ33の径は、キャップ31の本体部31aのレンズ固定前におけるレンズ固定側の端部(図11の上端部)の内径よりも小さい。レンズ33をキャップ31に固定する際には、レンズ33を本体部31a内の突起部31b上に置き、レンズ33の外周面と本体部31aの内周面との隙間に、当該隙間よりも厚みが薄いスペーサ34を配置する。ここで、スペーサ34は、塑性変形可能な材料により構成されている。そして、矢印Aに示すようにスペーサ34を加圧する。すると、スペーサ34は、変形してレンズ33とキャップ31との隙間に充填される。スペーサ34の加圧には、リング状の金型等を用いることができる。また、このとき矢印Bに示すように、キャップ31のレンズ固定側端部の径が拡がり、図3に示すように、R1>R2>R3の関係となる。このように、レンズ33はかしめ固定によりキャップ31に固定されている。
スペーサ34は、例えばアルミニウムを用いることができる。なお、スペーサ34に用いる材料は、塑性変形可能な材料であればよく、上記に限定されない。ただし、気密性確保のため、硬度の低いAl系材料を用いることが好ましい。
以上の構成により、上述した第一の実施形態と同様に、光出力の低下の防止とレンズ曲率の設計自由度の向上とを実現することができる。
【0027】
(第三の実施形態)
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。
上述した第一および第二の実施形態では、キャップ31に突起部31bを設ける場合について説明したが、第三の実施形態では、突起部31bを設けずにレンズを固定する場合について説明する。
図12は、第三の実施形態における半導体レーザ装置120の構成例を示す断面図である。この図12に示す半導体レーザ装置120において、上述した図1に示す半導体レーザ装置100と同一構成を有する部分には図1と同一符号を付し、以下、構成の異なる部分を中心に説明する。
キャップ35は、円筒状(円環状)の本体部35aと、本体部35aの端部に設けられたフランジ部35bとを備える。フランジ部35bは、キャップ35のステム21への固定側端部に設けられている。このキャップ35は、例えば、プレス加工により形成することができる。また、キャップ35は、塑性変形可能な材料により構成されている。キャップ35の材料としては、上述したキャップ31と同様の材料を使用することができる。
【0028】
キャップ35のステム21への固定側とは反対側の端部には、レンズ36が固定されている。レンズ36は、例えば非球面レンズである。このレンズ36は、キャップ35の塑性変形によってキャップ35に固定されており、レンズ36が固定された状態において、キャップ35の形状は、図3に示すキャップ31と同様にR1>R2>R3の関係が成り立っている。
以上の構成により、上述した第一および第二の実施形態と同様に、光出力の低下の防止とレンズ曲率の設計自由度の向上とを実現することができる。また、本実施形態では、キャップ35は、上述したキャップ31のように本体部31aの内側面に突出する突起部31bを有していないため、プレス加工等により容易に製造することができ安価である。
【0029】
(変形例)
なお、上記各実施形態においては、圧入や、かしめ固定によりレンズをキャップに固定する場合について説明したが、レンズがキャップの塑性変形により固定されていればよく、固定方法は上記に限定されない。例えば、キャップを予め加熱して熱膨張させておき、キャップの内径と同径またはそれ以下のレンズをキャップの円筒内部に配置した後、キャップを冷却してもよい。この場合にも、キャップを冷却した結果、レンズはキャップの塑性変形により固定される。
また、キャップに固定するレンズの形状は、上述した形状に限定されない。レンズの形状は、チップ11からのレーザ光を平行光、集光、発散光など、用途に応じたビーム形状で出射可能であり、且つキャップとの接触面(レンズ外周側面)において気密性を確保できる形状であればよい。
【符号の説明】
【0030】
11…半導体レーザチップ(チップ)、12…サブマウント、21…ステム、21a…ヒートシンク部、31…キャップ、31a…本体部、31b…突起部、31c…フランジ部、31d…プロジェクション、32…レンズ、33…レンズ、34…スペーサ、35…キャップ、36…レンズ、41…キャップ側封止電極、42…ステム側封止電極、100,110,120…半導体レーザ装置
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