(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、ポリオレフィン製積層多孔質膜を製造する工程において、特定のポリオレフィン樹脂溶液を用い、押し出し機からダイを経由して押し出されたポリオレフィン樹脂溶液の冷却速度を高度に制御することで得られる、表面に適度な形状と数の突起を有するポリオレフィン製積層多孔質膜であり、さらに該ポリオレフィン製積層多孔質膜に改質多孔層を積層した場合において、優れた改質多孔層との剥離強度を有し、かつ、透気抵抗度の上昇幅が小さいポリオレフィン製積層多孔質膜である。
【0030】
本発明でいう突起とは、ポリオレフィン製積層多孔質膜に、例えば無機粒子等を添加して得られる突起とは本質的に異なる。ポリオレフィン製積層多孔質膜に無機粒子を添加して得られる突起は通常、極めて高さが小さいものであり、同手段で高さ0.5μm以上の突起を形成しようとすればポリオレフィン製積層多孔質膜の厚さと同等かそれ以上の粒径を有する粒子の添加が必要となる。しかし、このような粒子を添加するとポリオレフィン製積層多孔質膜の強度が低下してしまい、現実的ではない。
【0031】
本発明でいう突起とは、ポリオレフィン製積層多孔質膜の表層の一部を適度な形状の隆起に成長させたものであり、ポリオレフィン製積層多孔質膜の基本的な特性を低下させるものではない。
【0032】
また、本発明でいう不規則に点在する突起とは、ポリオレフィン製積層多孔質膜の製造に際して、延伸工程の前、あるいは後にエンボス加工ロールを通過させて得られる規則性、あるいは周期性のある配置とは明確に異なる。エンボス加工等のプレス加工は基本的に突起以外の部分を圧縮することによって突起を形成するものであり、透気抵抗度、電解液浸透性の低下を生じやすいため好ましくない。
【0033】
本発明でいう適度な形状の突起とは、大きさ5μm以上、50μm以下で且つ、高さ0.5μm以上の突起を意味する。すなわち、5μm≦W≦50μm(Wは突起の大きさ)、且つ0.5μm≦H(Hは突起の高さ)である。このような突起は多孔質膜に改質多孔層を積層した際、アンカーとして機能し、その結果、前記0°剥離強度の大きい電池用セパレータが得られる。一方、突起の高さの上限は特に限定されないが、3.0μmもあれば十分である。十分な高さの突起が数多くあるほど前述の0°剥離強度は高くなる傾向にある。すなわち、0°剥離強度は高さ0.5μm以上の突起の数とその平均高さに影響される。突起の数(片面あたり)の下限は3個/cm
2、好ましくは5個/cm
2、より好ましくは10個/cm
2である。突起の数の上限は200個/cm
2、好ましくは150個/cm
2である。突起の高さの下限は0.5μm、好ましくは0.8μm、より好ましくは1.0μmである。
なお、本発明における突起の大きさ及び高さは、後述する測定方法で測定した値をいう。
【0034】
本発明でいう透気抵抗度の上昇幅とは、基材となるポリオレフィン製積層多孔質膜の透気抵抗度と改質多孔層が積層された電池用セパレータの透気抵抗度の差を意味し、100秒/100ccAir以下が好ましい。
【0035】
本発明のポリオレフィン製積層多孔質膜及び電池用セパレータについて概要を説明するが、当然この代表例に限定されるものではない。
【0036】
まず、本発明のポリオレフィン製積層多孔質膜について説明する。
本発明のポリオレフィン製積層多孔質膜は、少なくとも2層以上の層からなる積層多孔質膜である。
【0037】
本発明のポリオレフィン製積層多孔質膜の厚さ(総厚み)は20μm以下である。ポリオレフィン製積層多孔質膜の厚さ(総厚み)の好ましい上限は16μm、より好ましくは12μmである。ポリオレフィン製積層多孔質膜の厚さ(総厚み)の下限は5μm、好ましくは9μmである。ポリオレフィン製積層多孔質膜の厚さが上記好ましい範囲であると、実用的な膜強度と孔閉塞機能を保有させることが出来き、電池ケースの単位容積当たりの面積が制約されず、今後、進むであろう電池の高容量化には適する。
【0038】
本発明のポリオレフィン製積層微多孔膜のメルトダウン温度は165℃以上、より好ましくは170℃以上である。メルトダウン温度が上記範囲であれば、高温においても寸法の安定性が高いために、電池の安定性が高くなる。
【0039】
ポリオレフィン製積層多孔質膜の透気抵抗度の上限は、300sec/100ccAir、好ましくは200sec/100ccAir、より好ましくは150sec/100ccAirである。ポリオレフィン製積層多孔質膜の透気抵抗度の下限は50sec/100ccAir、好ましくは70sec/100ccAir、より好ましくは100sec/100ccAirである。
【0040】
ポリオレフィン製積層多孔質膜の空孔率については、上限は好ましくは70%、より好ましくは60%、さらに好ましくは55%である。ポリオレフィン製積層多孔質膜の空孔率の下限は好ましくは30%、より好ましくは35%、さらに好ましくは40%である。透気抵抗度および空孔率が上記好ましい範囲であると、十分な電池の充放電特性、特にイオン透過性(充放電作動電圧)および電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)において十分であり、電池としての機能を十分に発揮することができ、十分な機械的強度と絶縁性が得られることで充放電時に短絡が起こる可能性が低くなる。
【0041】
ポリオレフィン製積層多孔質膜の平均孔径については、孔閉塞性能に大きく影響を与えるため、好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.05〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmである。ポリオレフィン製積層多孔質膜の平均孔径が上記好ましい範囲であると、機能性樹脂のアンカー効果により十分な改質多孔層の前記0°の剥離強度が得られ、改質多孔層を積層した際に透気抵抗度が大幅に悪化せず、かつ、孔閉塞現象の温度に対する応答が緩慢になることもなく、昇温速度による孔閉塞温度がより高温側にシフトすることもない。
【0042】
ポリオレフィン製積層多孔質膜を構成するポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等である。以下、本発明で用いるポリオレフィン樹脂を詳述する。
【0043】
[1]第一の層(A層)におけるポリオレフィン樹脂組成物
本発明のA層を構成するポリオレフィン微多孔膜は、ポリエチレンを主成分とするポリオレフィン樹脂である。ここで、透過性と突刺強度を向上させる為には、ポリオレフィン樹脂全体を100質量%として、ポリエチレンが80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、さらにポリエチレンを単独で用いることが好ましい。
【0044】
ポリエチレンの種類としては、密度が0.94g/cm
3を越えるような高密度ポリエチレン、密度が0.93〜0.94g/cm
3の範囲の中密度ポリエチレン、密度が0.93g/cm
3より低い低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられるが、強度の観点より、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。超高分子量ポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。α−オレフィンとしてはプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン等が挙げられる。積層フィルムにおいては、特に共押出法により製造する場合は、各層の粘度差などにより幅方向の物性ムラの制御が困難となることがあるが、A層に超高分子量ポリエチレンを使用することによって、膜全体の分子ネットワークが強固となるために不均一変形が起こりにくく、物性の均一性にすぐれる微多孔膜を得ることができる。
【0045】
さらに、超高分子量ポリエチレンの含有量が好ましい範囲内であると、十分な高さの突起が得られる。この突起によって改質多孔層を積層した場合に突起がアンカーとして機能し、ポリエチレン多孔質膜の面方向に平行に加わる力に対し極めて高い剥離耐性を得ることができるのである。また、超高分子量ポリエチレンの含有量が好ましい範囲内であると、ポリエチレン多孔質膜の厚さを薄膜化させた場合であっても、十分な引っ張り強度が得られる。引っ張り強度は100MPa以上が好ましい。引っ張り強度の上限は特に定めない。
【0046】
ここで、高密度ポリエチレンの重量平均分子量(以下、Mwという)は1×10
5以上、より好ましくは2×10
5以上であることが好ましい。高密度ポリエチレンの重量平均分子量の上限は好ましくは8×10
5、より好ましくは7×10
5である。高密度ポリエチレンのMwが上記範囲であれば、製膜の安定性と最終的に得られる突刺強度とを両立することができる。また、超高分子量ポリエチレンのMwとしては、1×10
6以上4×10
6未満であることが好ましい。Mwが1×10
6以上4×10
6未満の超高分子量ポリエチレンを使用することで、孔およびフィブリルを微細化することができ、突刺強度を高めることが可能となる。また、超高分子量ポリエチレンのMwが4×10
6以上であると、溶融物の粘度が高くなりすぎるために、口金(ダイ)から樹脂を押し出せないなど製膜工程において不具合が出る場合がある。超高分子量ポリエチレンの含有量はポリオレフィン樹脂全体を100質量%として、下限は5質量%であることが好ましく、より好ましくは18質量%である。超高分子量ポリエチレンの含有量の上限はポリオレフィン樹脂全体を100質量%として45質量%であることが好ましく、より好ましくは40質量%である。超高分子量ポリエチレンの含有量がこの範囲であると突刺強度と透気抵抗度の両立が得られやすくなる。
【0047】
[2]第二の層(B層)におけるポリオレフィン樹脂組成物
本発明のB層を構成するポリオレフィン微多孔膜は、ポリエチレンを主成分とするポリオレフィン樹脂である。ポリエチレンの種類としては、強度の観点から高密度ポリエチレンを主成分とすることが好ましい。また、高密度ポリエチレンの重量平均分子量(以下、Mwという)は1×10
5以上、より好ましくは2×10
5以上であることが好ましい。高密度ポリエチレンのMwの上限は好ましくは8×10
5、より好ましくは7×10
5である。高密度ポリエチレンのMwが上記範囲であれば、製膜の安定性と最終的に得られる突刺強度とを両立することができる。
【0048】
また、本発明においては、B層にポリプロピレンを含有することが重要である。B層にポリプロピレンを添加すると、本発明のポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合にメルトダウン温度をより向上させることができる。ポリプロピレンの種類は、単独重合体のほかに、ブロック共重合体、ランダム共重合体も使用することができる。ブロック共重合体、ランダム共重合体には、プロピレン以外の他のα−オレフィンとの共重合体成分を含有することができ、当該他のα−オレフィンとしては、エチレンが好ましい。
【0049】
ポリプロピレンのMwは5×10
5以上が好ましく、より好ましくは6.5×10
5以上、さらに好ましくは、8×10
5以上である。ポリプロピレンのMwが上記の範囲であると、シート形成時にポリプロピレンの分散性が悪化することなく、膜厚が均一な膜を得ることができる。また、ポリプロピレンの融解熱(ΔH
m)は90J/g以上が好ましく、より好ましくは95J/gである。ポリプロピレンのΔH
mが上記範囲であると、良好なメルトダウン特性を得ることができる。
【0050】
ポリプロピレンの含有量は、ポリオレフィン組成物の全質量に対して60質量%未満であることが好ましい。ポリプロピレンの含有量を60質量%以上とすると透過性が悪化する恐れがある。また、特に、表層をB層とした場合において、ポリプロピレンの含有量を60質量%以上とすると積層微多孔膜をスリットした時にポリプロピレン脱落により発生する粉の量が増加したりする。ポリプロピレン脱落による粉発生量が多いと、積層微多孔膜製品にピンホール等の欠陥が生じる恐れがある。ポリプロピレンの添加量の下限としては、3質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%、さらに好ましくは20質量%以上である。ポリプロピレンの含有量が上記以上であると、良好なメルトダウン特性を得ることができる。また、ポリプロピレンの添加量を上記範囲とすることで、超高分子量ポリエチレンを添加しない場合においても十分な高さの突起が得られる。
【0051】
ここで、強度の観点より、B層においても超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。超高分子量ポリエチレンとしては、A層に例示したような超高分子量ポリエチレンがあげられる。さらに、B層に超高分子量ポリエチレンを含有することで、より多くの突起を形成することができる。
【0052】
A層およびB層ともに、本発明のポリオレフィン微多孔膜には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤や帯電防止剤、紫外線吸収剤、さらにはブロッキング防止剤や充填材、あるいは核剤等の各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリオレフィン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤や熱安定剤の種類および添加量を適宜選択することは微多孔膜の特性の調整又は増強として重要である。
【0053】
また、本発明のポリオレフィン微多孔膜には、実質的に無機粒子を含まないことが好ましい。「実質的に無機粒子を含まず」とは、例えばケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子をポリオレフィン微多孔膜に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはポリオレフィン微多孔膜製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、膜中に混入する場合があるためである。
【0054】
A層とともに、B層のポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比である分子量分布(Mw/Mn)は5〜200の範囲内であることが好ましく、10〜100であることがより好ましい。Mw/Mnの範囲が上記好ましい範囲であると、ポリオレフィンの溶液の押出が容易であり、また十分な数の突起が得られ、さらにポリオレフィン多孔質膜の厚さを薄膜化させた場合、十分な機械的強度が得られる。Mw/Mnは分子量分布の尺度として用いられるものであり、すなわち単一物からなるポリオレフィンの場合、この値が大きい程分子量分布の幅が大きい。単一物からなるポリオレフィンのMw/Mnはポリオレフィンの多段重合により適宜調整することができる。またポリオレフィンの混合物のMw/Mnは各成分の分子量や混合割合を調整することにより適宜調整することができる。
【0055】
本発明でいう突起が形成されるメカニズムについて、本発明者らは以下のように考えている。溶融したポリオレフィン樹脂と成形用溶剤との樹脂溶液がダイから押し出されると同時にポリオレフィンの結晶化が開始され、冷却ロールに接触し急冷されることで結晶化速度は増大する。この時、結晶核を有する対称構造の球晶が形成される(
図2)。冷却ロール表面と前記溶融したポリオレフィン樹脂間の熱伝達速度が比較的小さい場合は、結晶化速度は小さく、その結果、比較的小さい結晶核を有する球晶となる。熱伝達速度が大きい場合は比較的大きい結晶核を有する球晶となる。これら球晶の結晶核は後工程であるTD(幅方向)及び/又はMD(機械方向)延伸時に突起となる。また、球晶はポリオレフィン多孔質膜表面にリング状痕となって現れる(
図3)。
【0056】
ポリオレフィン製積層多孔質膜は、上記の各種特徴を満足する範囲内ならば、目的に応じた製造方法を自由に選択することができる。多孔質膜の製造方法としては、発泡法、相分離法、溶解再結晶法、延伸開孔法、粉末焼結法などがあり、これらの中では微細孔の均一化、コストの点で相分離法が好ましい。
【0057】
相分離法による製造方法としては、例えばポリオレフィンと成形用溶剤とを加熱溶融混練し、得られた溶融混合物をダイより押出し、冷却することによりゲル状成形物を形成し、得られたゲル状成形物に対して少なくとも一軸方向に延伸を実施し、前記成形用溶剤を除去することによって多孔質膜を得る方法などが挙げられる。
【0058】
[3]ポリオレフィン製積層微多孔膜の製造方法
本発明のポリオレフィン製積層多孔質膜の製造方法について説明する。
本発明のポリオレフィン製積層多孔質膜の製造方法は以下の(a)〜(f)の工程を含むものである。
(a)A層を構成するポリオレフィン樹脂に成形用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する工程
(b)B層を構成するポリオレフィン樹脂に成形用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する工程
(c)工程(a)および(b)にて得られたポリオレフィン樹脂溶液A及びBをダイより押し出して、うち少なくとも一方を、成形用溶剤除去手段により成形用溶剤を除去した表面を有する冷却ロールにて冷却し、積層ゲル状成形物を形成する工程
(d)前記積層ゲル状成形物をMD(機械方向)およびTD(幅方向)に延伸し、積層延伸成形物を得る工程
(e)前記積層延伸成形物から前記成形用溶剤を抽出除去し、乾燥し、積層多孔質成形物を得る工程
(f)前記積層多孔質成形物を熱処理し、ポリオレフィン製積層多孔質膜を得る工程
更に(a)〜(f)の以前、途中、以降に親水化処理、除電処理等の他の工程を追加することもできる。また、(f)工程の後に、再延伸工程を設けることもできる。
【0059】
以下、各工程については、詳細に説明する。
(a)、(b)A層及びB層を構成するポリオレフィン樹脂に成形用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液AおよびBを調製する工程
成形用溶剤としては、ポリオレフィンを十分に溶解できるものであれば特に限定されない。成形用溶剤としては、例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィンなどの脂肪族または環式の炭化水素、あるいは沸点がこれらに対応する鉱油留分などがあげられるが、溶剤含有量が安定なゲル状成形物を得るためには流動パラフィンのような不揮発性の溶剤が好ましい。加熱溶解は、ポリオレフィン組成物が完全に溶解する温度で攪拌または押出機中で均一混合して溶解する方法で行う。加熱溶解の温度は、押出機中又は溶媒中で攪拌しながら溶解する場合は使用する重合体及び溶媒により異なるが、例えば140〜250℃の範囲が好ましい。
【0060】
ポリオレフィン樹脂の濃度は、ポリオレフィン樹脂と成形用溶剤の合計を100重量部として、25〜40重量部であり、好ましくは28〜35重量部である。ポリオレフィン樹脂の濃度が上記の好ましい範囲であると、突起を形成するための結晶核の数が十分形成され、十分な数の突起が形成される。また、ポリオレフィン樹脂の濃度が上記の好ましい範囲であると、ポリオレフィン樹脂溶液を押し出す際のダイス出口でスウェルやネックインを抑え、押出し成形体の成形性及び自己支持性が維持される。
【0061】
樹脂溶液A及びBの樹脂濃度に差を設けると、平均細孔径が膜厚方向において変化した構造(傾斜構造)を有する積層微多孔膜を得ることができる。濃度の低い方の樹脂溶液を用いて形成した層の平均細孔径が、濃度の高い方の樹脂溶液を用いて形成した層の平均細孔径より大きくなる。樹脂溶液A又はBのどちらの濃度を高くするかは、積層微多孔膜に要求される物性に応じて適宜選択することができるが、好ましい平均孔径としては、内層が0.01〜0.05μmの緻密構造層とし、表層平均細孔径が上記緻密構造層の1.2〜5.0倍の粗大構造層とすると、イオン透過性と突刺強度のバランスを良好にすることができる。
【0062】
溶融混練の方法は特に限定されないが、通常は押出機中で均一に混練することにより行う。この方法は、ポリオレフィンの高濃度溶液を調製するのに適する。溶融混練温度は、使用するポリオレフィン樹脂によって異なるが、下限は(ポリオレフィン樹脂の融点+10℃)が好ましく、さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+20℃)である。溶融混練温度の上限は(ポリオレフィン樹脂の融点+120℃)とするのが好ましく、さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+100℃)である。ここで、融点とは、JIS K7121(1987)に基づき、DSCにより測定した値をいう(以下、同じ)。例えば、具体的には、ポリオレフィン組成物は約130〜140℃の融点を有するので、溶融混練温度の下限は140℃が好ましく、さらに好ましくは160℃、最も好ましくは170℃である。溶融混練温度の上限は250℃が好ましく、230℃、最も好ましくは200℃である。また、B層では、ポリオレフィン溶液にポリプロピレンを含むが、その場合の溶融混練温度は190〜270℃が好ましい。
【0063】
樹脂の劣化を抑制する観点から溶融混練温度は低い方が好ましいが、上述の温度よりも低いとダイから押出された押出物に未溶融物が発生し、後の延伸工程で破膜等を引き起こす原因となる場合があり、上述の温度より高いと、ポリオレフィンの熱分解が激しくなり、得られる微多孔膜の物性、例えば、突刺強度、引張強度等が劣る場合がある。
【0064】
二軸押出機のスクリュー長さ(L)と直径(D)の比(L/D)は良好な加工混練性と樹脂の分散性・分配性を得る観点から、20〜100が好ましい。比(L/D)の下限はより好ましくは35である。比(L/D)の上限は、より好ましくは70である。L/Dを20以上にすると、溶融混練が十分となる。L/Dを100以下にすると、ポリオレフィン溶液の滞留時間が増大し過ぎない。混練する樹脂の劣化を防ぎながら良好な分散性・分配性を得る観点から、二軸押出機のシリンダ内径は40〜100mmであるのが好ましい。
【0065】
押出物中にポリオレフィンを良好に分散させて、優れた微多孔膜の厚み均一性を得るために、二軸押出機のスクリュー回転数(Ns)を150rpm以上とすることが好ましい。さらに、Ns(rpm)に対するポリオレフィン溶液の押出量Q(kg/h)の比、Q/Nsを0.64kg/h/rpm以下にするのが好ましい。Q/Nsはさらに好ましくは0.35kg/h/rpm以下である。
【0066】
(c)工程(a)および(b)にて得られたポリオレフィン樹脂溶液A及びBをダイより押し出して、うち少なくとも一層を、成形用溶剤除去手段により成形用溶剤を除去した表面を有する冷却ロールにて冷却し、積層ゲル状成形物を形成する工程
押出機で溶融混練したポリオレフィン樹脂溶液AおよびBを直接に、あるいはさらに別の押出機を介して、ダイから押し出し、冷却ロールにて冷却し、積層ゲル状成形物を形成する。積層ゲル状成形物を得る方法としては、積層するゲル状成形物を別々に作製した後、カレンダーロール等を通して貼り合わせる方法(貼りあわせ法)や、ポリオレフィン溶液を別々に押出機に供給して所望の温度で溶融させ、ポリマー管あるいはダイ内で合流させて共押出して積層させ、その後に積層ゲル状成形物とする方法(共押出法)などのどの方法を使用しても良いが、層間の密着性の観点からは、共押出法を用いることが好ましい。
【0067】
ダイから押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を冷媒で表面温度20℃から40℃に設定した回転する冷却ロールに接触させることによりゲル状成形物を形成する。押出されたポリオレフィン樹脂溶液は25℃以下まで冷却するのが好ましい。ここで、実質的に結晶化が行われる温度域での冷却速度が重要となる。例えば、実質的に結晶化が行われる温度域での冷却速度が10℃/秒以上で押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を冷却し、ゲル状成形物を得る。好ましい冷却速度は20℃/秒以上、より好ましくは30℃/秒以上、さらに好ましくは50℃/秒以上である。このような冷却を行うことによりポリオレフィン相が溶剤によりミクロ相分離された構造を固定化し、冷却ロールと接していたゲル状成形物の表面に比較的大きな核を有する球晶が形成され、延伸後に適度な形状の突起を形成することができる。冷却速度は、ゲル状成形物の押し出し温度、ゲル状成形物の熱伝導度、ゲル状成形物の厚み、成形用溶剤、冷却ロール、空気の熱伝達率よりシミュレーションすることによって推定できる。
【0068】
また、本発明では、ダイから押し出したポリオレフィン樹脂溶液A及び/又はBと接する部分の冷却ロール表面に付着している成形用溶剤を極力除去しておくことが重要である。すなわち、
図4に示すように、ポリオレフィン樹脂溶液は回転する冷却ロールに巻きつくことにより冷却されゲル状成形物となるが、ゲル状成形物となって引き離された後の冷却ロール表面には成形用溶剤が付着しており、通常はそのままの状態で再びポリオレフィン樹脂溶液と接触することになる。しかし、成形用溶剤が冷却ロール表面に多く付着しているとその断熱効果により、冷却速度が緩慢になり、突起が形成されにくくなる。そのため、冷却ロールにおいて既にポリオレフィン樹脂溶液と接触した部位が再びポリオレフィン樹脂溶液と接触するまでに成形用溶剤を極力除去しておくことが重要となる。
【0069】
成形用溶剤除去手段、すなわち成形用溶剤を冷却ロールから除去する方法は特に限定されないが、冷却ロール上にドクターブレード(成形用溶剤除去部材)をゲル状成形物の幅方向と平行になるようにあてて、ドクターブレードを通過した直後からゲル状成形物が接するまでの冷却ロール表面に成形用溶剤が視認できない程度に掻き落とす方法が好ましく採用される。あるいは圧縮空気で吹き飛ばす、吸引する、またはこれらの方法を組み合わせる等の手段で冷却ロール上の成形用溶剤を除去することもできる。なかでもドクターブレードを用いて掻き落とす方法は比較的容易に実施できるため好ましく、ドクターブレードは1枚より複数枚用いるのが成形用溶剤の除去効率を向上させる上でさらに好ましい。
【0070】
ドクターブレードの材質は成形用溶剤に耐性を有するものであれば特に限定されないが金属製より樹脂製、あるいはゴム製のものが好ましい。ドクターブレードの材質が金属製の場合、冷却ロールをキズつけてしまう恐れがあるためである。樹脂製ドクターブレードとしてはポリエステル製、ポリアセタール製、ポリエチレン製などが挙げられる。
【0071】
冷却ロールの温度を20℃未満に設定しても、これだけでは成形用溶剤の断熱効果により、十分な冷却速度が得られないだけでなく、冷却ロールへの結露の付着によって、ゲル状成形物に表面荒れを引き起こす場合がある。
【0072】
押し出し時のポリオレフィン樹脂溶液の厚みは1500μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは800μm以下である。押し出し時のポリオレフィン樹脂溶液の厚みが上記範囲内であると、冷却ロール側の面の冷却速度が緩慢にならず好ましい。
【0073】
ここで、貼りあわせ法によって、積層ゲル状成形物を得る場合には、A層もしくはB層となるポリオレフィン樹脂溶液のうち、少なくとも一方が上記冷却条件によって、ゲル状成形物として形成されていればよい。なお、貼りあわせる際には、上記冷却条件によって形成された層の冷却ロールに接触した面が表面となるように積層する必要がある。また、共押出法によって積層ゲル状成形物を得る場合には、積層されてダイより押し出されたポリオレフィン樹脂溶液が、上記冷却条件によって、積層ゲル状成形物として形成されればよい。
【0074】
層の構成は、シャットダウン特性と強度および透過性などの物性バランスの観点からは、少なくともA層とB層の2層であればよいが、最終的なフィルムの表裏バランスの観点からは、A層/B層/A層もしくはB層/A層/B層の3層構成とすることがより好ましい。改質多孔層との密着性の観点においては、突起はA層およびB層のどちらに形成されていても構わないが、耐酸化性の向上の観点からは、ポリプロピレンを含むB層を表層とすることが好ましい。一方、製膜時のポリプロピレン脱落による粉発生量などを抑制する観点では、表層をA層とすることが好ましい。
【0075】
ここで、B層の比率は、全層の質量に対して、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。B層の比率の下限はより好ましくは40質量%であり、上限はより好ましくは70質量%である。B層の比率が上記範囲内であれば、メルトダウン特性と、セパレータの使用範囲における透過性の安定性ならびに突刺強度のバランスを良好な範囲とすることができる。
【0076】
(d)積層ゲル状成形物をMD(機械方向)およびTD(幅方向)に延伸し、延伸成形物を得る工程
次に、この積層ゲル状成形物を延伸し、延伸成形物とする。延伸は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、もしくはこれらの方法の組み合わせによってMD及びTDの二方向に所定の倍率で行う。延伸はMD及びTD(機械方向と幅方向の)同時延伸(同時2軸延伸)または逐次延伸のいずれでもよい。逐次延伸はMDとTDの順序は問わず、MD及びTDの少なくとも一方を多段で延伸してもよい。延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが面倍率で9倍以上が好ましく、より好ましくは16〜400倍である。MD及びTD同時延伸(同時2軸延伸)であれば3×3、5×5及び7×7などのMD及びTD同倍率での延伸が好ましい。面倍率が上記好ましい範囲であると、延伸が十分であり高弾性、高強度の多孔質膜が得られる。また延伸温度を調整することによって所望の透気抵抗度を得ることができる。
【0077】
延伸温度はポリオレフィン樹脂の融点以下にするのが好ましく、より好ましくは、(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度Tcd)〜(ポリオレフィン樹脂の融点)の範囲である。延伸温度がゲル状シートの融点以下であると、ポリオレフィン樹脂の溶融が防がれ、延伸によって分子鎖を効率的に配向せしめることが可能となる。また、延伸温度がポリオレフィン樹脂の結晶分散温度以上であれば、ポリオレフィン樹脂の軟化が十分であり、延伸張力が低いために、製膜性が良好となり、延伸時に破膜しにくく高倍率での延伸が可能となる。結晶分散温度TcdはASTM D 4065に従って測定した動的粘弾性の温度特性から求める。または、結晶分散温度TcdはNMRから求める場合もある。
【0078】
(e)積層延伸成形物から成形用溶剤を抽出除去し、乾燥し、積層多孔質成形物を得る工程
次に、延伸された延伸成形物を洗浄溶剤で処理して残留する成形用溶剤を除去し、積層多孔質膜を得る。洗浄溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素などの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類などの易揮発性のものを用いることができる。これらの洗浄溶剤はポリオレフィンの溶解に用いた成形用溶剤に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。洗浄方法は、洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、洗浄溶剤をシャワーする方法、洗浄溶剤を延伸成形物の反対側から吸引する方法、またはこれらの組合せによる方法などにより行うことができる。上述のような洗浄は、延伸成形物である延伸成形物中の残留溶剤が1重量%未満になるまで行う。その後、洗浄溶剤を乾燥するが、洗浄溶剤の乾燥方法は加熱乾燥、風乾などの方法で行うことができる。
【0079】
(f)積層多孔質成形物を熱処理し、ポリオレフィン多孔質膜を得る工程
乾燥して得られた積層多孔質成形物に対して、さらに熱処理を行い、積層多孔質膜を得る。熱処理温度は90〜150℃にて行うのが好ましい。熱処理温度が上記好ましい範囲であると、得られたポリオレフィン製積層多孔質膜の熱収縮率低減および透気抵抗度が十分確保される。かかる熱処理工程の滞留時間は、特に限定されることはないが、通常は1秒以上10分以下、好ましくは3秒から2分以下で行われる。熱処理は、テンター方式、ロール方式、圧延方式、フリー方式のいずれも採用できる。
【0080】
さらに熱処理工程では、MD(機械方向)、TD(幅方向)の両方向の固定を行いながら、MD、TDの少なくとも一方向に収縮させるのが好ましい。MD、TDの両方向の固定を行いながら、MD、TDの少なくとも一方向に収縮させないと熱収縮率低減が悪化する。MD、TDの少なくとも一方向に収縮させる収縮率は、0.01〜50%、好ましくは3〜20%である。収縮率が上記好ましい範囲であると、105℃、8hrにおける熱収縮率が改善され、透気抵抗度が維持される。また、突刺強度等の突刺強度を向上させるために熱固定処理の前にさらにTD、またはMD、あるいは両方向に5%〜20%程度の再延伸を施してもよい。
【0081】
さらに、必要に応じて、延伸成形物、多孔質成形物または微多孔膜に親水化処理を施してもよい。親水化処理を行うことによって、例えば耐熱性樹脂層をコーティングする際に、微多孔高膜表面と耐熱性樹脂層との接着性および塗工膜の均一性をより改善することができる。親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。コロナ放電処理は、空気あるいは窒素あるいは炭酸ガスと窒素の混合雰囲気中で行うことができる。
【0082】
次に、本発明に用いる改質多孔層について説明する。
改質多孔層はポリオレフィン製積層多孔質膜の突起を有する面側に積層するのが好ましい形態である。ポリオレフィン製積層多孔質膜の両面に改質多孔層を設ける場合は、スリット工程や搬送工程などの後工程において、ロールやバーなどの接触によって改質多孔層面に平行な応力がより強くかかる側をポリオレフィン多孔質膜の突起を有する面側に改質多孔層を積層した面とするのが本発明による効果が発揮されるため好ましい。
【0083】
本発明でいう改質多孔層とは耐熱性、電極材料との密着性、電解液浸透性などの機能を少なくとも一つ付与、または向上させる樹脂、すなわち機能性樹脂を含む層であれば特に限定されないが、改質多孔層には機能性樹脂の他に無機粒子または架橋高分子粒子を含有させることが好ましい。
【0084】
機能性樹脂について、例えば耐熱性向上の観点からはガラス転移温度又は融点は、150℃以上、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは210℃以上である耐熱性樹脂を用いるのが好ましい。機能性樹脂のガラス転移温度又は融点に上限は特に設ける必要はない。機能性樹脂のガラス転移温度が分解温度よりも高い場合には、分解温度が上記範囲内であればよい。機能性樹脂のガラス転移温度の下限が上記好ましい範囲であると、十分な耐熱破膜温度が得られ、高い安全性を確保できる。
【0085】
耐熱性樹脂としては例えば、ポリアミドイミド、ポリイミド又はポリアミドを主成分とする樹脂を好適に用いることができる。なかでも、ポリアミドイミドを主成分とする樹脂が特に好ましい。これらの樹脂を単独又は他の材料と組み合わせて耐熱性樹脂として用いてもよい。
【0086】
電極接着性の観点からは、機能性樹脂としてフッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデン/フッ化オレフィン共重合体、フッ化ビニル単独重合体、及びフッ化ビニル/フッ化オレフィン共重合体からなる群より選ばれる1種以上を使用することが好ましい。機能性樹脂として特に好ましいものはポリテトラフルオロエチレンである。これらの重合体は、電極接着性を有し、非水電解液とも親和性が高く、しかも耐熱性が適切で、非水電解液に対する化学的、物理的な安定性が高いため、高温下での使用にも電解液との親和性を十分維持できる。また、機能性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好適である。
【0087】
以下、ポリアミドイミド樹脂を機能性樹脂の例として詳述する。
一般に、ポリアミドイミド樹脂の合成はトリメリット酸クロリドとジアミンを用いる酸クロリド法やトリメリット酸無水物とジイソシアネートを用いるジイソシアネート法等の通常の方法で合成されるが製造コストの点からジイソシアネート法が好ましい。
【0088】
ポリアミドイミド樹脂の合成に用いられる酸成分としてはトリメリット酸無水物(クロリド)が挙げられるが、その一部を他の多塩基酸またはその無水物に置き換えることができる。前記他の多塩基酸またはその無水物としては、例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸及びこれらの無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。これらの中で耐電解液性の点からは1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、シャットダウン特性からダイマー酸、分子量が1000以上のジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリルブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレンーブタジエン)が好ましい。
【0089】
また、トリメリット酸化合物の一部をグリコールに置き換えてウレタン基を分子内に導入することもできる。グリコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールや上記ジカルボン酸の1種又は2種以上と上記グリコールの1種又は2種以上とから合成される末端水酸基のポリエステル等が挙げられ、これらの中ではシャットダウン効果からポリエチレングリコール、末端水酸基のポリエステルが好ましい。また、上記グリコールや末端水酸基のポリエステルの数平均分子量は500以上が好ましく、1000以上がより好ましい。上記グリコールや末端水酸基のポリエステルの数平均分子量の上限は特に限定されないが8000未満が好ましい。
【0090】
ポリアミドイミド樹脂の合成に用いられる酸成分の一部をダイマー酸、ポリアルキレンエーテル、ポリエステル並びに末端にカルボキシル基、水酸基及びアミノ基のいずれかを含有するブタジエン系ゴムからなる群のうち少なくとも1種で置き換える場合は、酸成分のうち、1〜60モル%を置き換えることが好ましい。
【0091】
ポリアミドイミド樹脂の合成に用いられるジアミン(ジイソシアネート)成分としては、o−トリジンとトリレンジアミンを成分とするものが好ましい。その一部を置き換える成分としてエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミン及びこれらのジイソシアネート等が挙げられ、これらの中では反応性、コスト、耐電解液性の点からジシクロヘキシルメタンジアミン及びこれのジイソシアネートが最も好ましく、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、ナフタレンジアミン及びこれらのジイソシアネートが好ましい。これらの成分のうち特には、o−トリジンジイソシアネート(TODI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)及びこれらをブレンドしたものが好ましい。これらの成分として、特に改質多孔層の0°の剥離強度を向上させるためには、剛直性の高いo−トリジンジイソシアネート(TODI)を全イソシアネートに対し50モル%以上、好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上含有させることが好ましい。
【0092】
ポリアミドイミド樹脂はN,N'−ジメチルホルムアミド、N,N'−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等の極性溶剤中、60〜200℃に加熱しながら攪拌することで容易に製造することができる。この場合、必要に応じてトリエチルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属塩等を触媒として用いることもできる。
【0093】
本発明にポリアミドイミド樹脂を用いる場合、対数粘度は0.5dl/g以上が好ましい。ポリアミドイミド樹脂の対数粘度が上記好ましい範囲であると、十分なメルトダウン特性が得られ、ポリオレフィン製積層多孔質膜が脆くなるのを防ぐ。またポリアミドイミド樹脂の対数粘度が上記好ましい範囲であると、アンカー効果により0°の剥離強度が向上する。一方、ポリアミドイミド樹脂の対数粘度は加工性や溶剤溶解性を考慮すると2.0dl/g未満が好ましい。
【0094】
本発明の改質多孔層は、機能性樹脂に対して可溶で且つ水と混和する溶剤で溶解した樹脂溶液(以下、ワニスという場合がある)を所定の基材に塗布し、加湿条件下で機能性樹脂と前記溶剤を相分離させ、さらに水浴に投入して樹脂を凝固させることによって得られる(以下、この水浴を凝固浴という場合がある。)。必要に応じてワニスに相分離助剤を添加してもよい。
【0095】
機能性樹脂を溶解するために使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),リン酸ヘキサメチルトリアミド(HMPA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、3−クロロナフタレン、パラクロロフェノール、テトラリン、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、樹脂の溶解性に併せて自由に選択できる。
【0096】
ワニスの固形分濃度は、均一に塗布できれば特に制限されないが、50重量%以上、98重量%以下が好ましく、80重量%以上、95重量%以下がより好ましい。ワニスの固形分濃度が上記好ましい範囲であると、改質多孔層が脆くなるのを防ぎ、改質多孔層の十分な0°の剥離強度が得られる。
【0097】
本発明で用いる相分離助剤としては水、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、水溶性ポリエステル、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどから選ばれる少なくとも一種類以上である。
【0098】
相分離助剤の添加量はワニスの溶液重量に対して10〜90wt%、より好ましくは20〜80wt%、さらに好ましくは30〜70%の範囲である。これらの相分離助剤をワニスに混合することによって、主に透気抵抗度、表面開孔率、層構造の形成速度をコントロールすることが出来る。相分離助剤の添加量が上記好ましい範囲であると、相分離速度の顕著な上昇がみられる。また、相分離助剤の添加量が上記好ましい範囲であると、樹脂溶液が混合の段階で白濁して樹脂成分が析出してしまうのを防ぐ。
【0099】
改質多孔層を積層することによるポリオレフィン製積層多孔質膜のカールを低減させるために、ワニスに無機粒子または架橋高分子粒子を添加することが重要である。ワニスに無機粒子または架橋高分子粒子を添加することによって、電池の内部における電極の樹枝状結晶の成長に起因する内部短絡の防止効果(デンドライト防止効果)、熱収縮率の低減、滑り性付与などの効果も得ることができる。これら粒子添加量の上限としては98重量%が好ましく、より好ましくは95重量%である。粒子添加量の下限は80重量%が好ましく、より好ましくは85重量%である。粒子添加量が上記好ましい範囲であるとカール低減効果が十分であり、改質多孔層の総体積に対して機能性樹脂の割合が最適であり、かつ、改質多孔層の十分な0°の剥離強度が得られる。
【0100】
無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカーアルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどが挙げられる。耐熱性架橋高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子などが挙げられる。
【0101】
これら粒子の平均粒径はポリオレフィン製積層多孔質膜の平均細孔径の1.5倍以上、50倍以下であることが好ましい。これら粒子の平均粒径はより好ましくはポリオレフィン製積層多孔質膜の平均細孔径の2.0倍以上、20倍以下である。粒子の平均粒径が上記好ましい範囲であると、耐熱性樹脂と粒子が混在した状態でポリオレフィン製積層多孔質膜の細孔を塞いでしまい、結果として透気抵抗度を維持し、さらに電池組み立て工程において該粒子が脱落し、電池の重大な欠陥を招くのを防ぐ。
【0102】
粒子の形状は真球形状、略球形状、板状、針状、多面体形状が挙げられるが特に限定されない。
【0103】
改質多孔層の膜厚については1〜5μm、好ましくは1〜4μm、より好ましくは1〜3μmである。改質多孔層の膜厚が上記好ましい範囲であると、改質多孔層を積層して得られた電池用セパレータは融点以上で溶融・収縮した際の破膜強度と絶縁性を確保でき、また十分な孔閉塞機能が得られ異常反応を防ぐことができる。また、改質多孔層の膜厚が上記好ましい範囲であると、巻き嵩を抑制することができ電池の高容量化には適する。さらに改質多孔層の膜厚が上記好ましい範囲であると、カールを抑えることで電池組み立て工程での生産性の向上に繋がる。
【0104】
改質多孔層の空孔率は30〜90%が好ましく、より好ましくは40〜70%である。改質多孔層の空孔率が上記好ましい範囲であると、改質多孔層を積層して得られた電池用セパレータは膜の電気抵抗が低く、大電流が流れやすく、また膜強度が維持される。
【0105】
改質多孔層を積層して得られた電池用セパレータの全体の膜厚の上限は25μmが好ましく、より好ましくは20μmである。改質多孔層を積層して得られた電池用セパレータの全体の膜厚の下限は6μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上である。電池用セパレータの全体の膜厚が上記好ましい範囲であると、改質多孔層を積層して得られた電池用セパレータは十分な機械強度と絶縁性を確保できる。また、電池用セパレータの全体の膜厚が上記好ましい範囲であると、容器内に充填できる電極面積が減少することにより容量の低下を回避できる。
【0106】
電池用セパレータの透気抵抗度は、もっとも重要な特性のひとつであり、好ましくは50〜600sec/100ccAir、より好ましくは100〜500sec/100ccAir、さらに好ましくは100〜400sec/100ccAirである。電池用セパレータの透気抵抗度が上記好ましい範囲であると、十分な絶縁性が得られ、異物詰まり、短絡および破膜を防ぐ。また、膜抵抗を抑えることで実使用可能な範囲の充放電特性、寿命特性が得られる。
【0107】
次に本発明の電池用セパレータの改質多孔層の積層方法について説明する。
ポリオレフィン製積層多孔質膜へ改質多孔層を積層する方法は、前記ワニスをポリオレフィン製積層多孔質膜に直接塗工し改質多孔層に変換する方法(直接法)でもよいし、いったん基材フィルム(例えば、ポリプロピレンフィルムやポリエステルフィルム)に前記ワニス塗工してから特定の湿度環境下に置いて機能性樹脂成分と溶剤成分を相分離させて改質多孔層とした後、ポリオレフィン製積層多孔質膜に転写させて積層する方法(転写法)でもよい。
【0108】
本発明においては、改質多孔層を積層する好ましい方法は、製造工程に工程(i)及び(ii)を含む。
工程(i):ポリオレフィン製積層多孔質膜上に機能性樹脂と無機粒子または架橋高分子粒子を含むワニスを塗布した後、絶対湿度0.5g/m
3以上、絶対湿度6g/m
3未満の低湿度ゾーンと絶対湿度7.0g/m
3以上、絶対湿度25.0g/m
3未満の高湿度ゾーンを通過させてポリオレフィン製積層多孔質膜上に機能性樹脂膜を形成する工程。
工程(ii):工程(i)で得られた機能性樹脂膜が積層された複合膜を、凝固浴に浸漬させて機能性樹脂膜を改質多孔層に変換させ、洗浄、乾燥し、電池用セパレータを得る工程。
【0109】
さらに詳細に説明する。
機能性樹脂に対して可溶で且つ水と混和する溶剤で機能性樹脂を溶解した機能性樹脂溶液と前記無機粒子または架橋高分子粒子を主成分とするワニスをポリオレフィン製積層多孔質膜に塗布し、その後に特定の湿度環境下に置き、前記ワニスを相分離させ、さらに水浴(凝固浴)に投入して機能性樹脂を凝固させることによって改質多孔層は得られる。
【0110】
本発明でいう低湿度ゾーンとは、絶対湿度が6g/m
3未満であり、好ましい絶対湿度の上限は4g/m
3、より好ましくは3g/m
3であり、絶対湿度の下限は0.5g/m
3、好ましくは0.8g/m
3に調整されたゾーンである。絶対湿度が上記好ましい範囲であると、相分離が十分に行われ多孔質となり、透気抵抗度の上昇幅を抑える。また、相分離と平行して改質多孔層を構成する樹脂の凝固を抑え、ポリオレフィン製積層多孔質膜への改質多孔層を構成する樹脂成分の浸透が十分に行われ、その結果十分な改質多孔層の0°の剥離強度が得られる。また、低湿度ゾーンの通過時間が3秒未満では前記相分離が十分行われず、20秒を超えると改質多孔層を構成する樹脂の凝固が進行し好ましくない。
【0111】
次いで、該塗布膜を高湿度ゾーンに3秒以上、10秒以下で通過させる。本発明でいう高湿度ゾーンとは、絶対湿度の下限が6g/m
3、好ましくは7g/m
3、より好ましくは8g/m
3であり、絶対湿度の上限は25g/m
3、好ましくは17g/m
3、より好ましくは15g/m
3に調整されたゾーンである。絶対湿度が上記好ましい範囲であると、ゲル状化(非流動状化)が十分に行われ、ポリオレフィン製積層多孔質膜への改質多孔層を構成する樹脂成分の浸透が進み過ぎず、透気抵抗度の上昇幅を抑えることができる。また、絶対湿度が上記好ましい範囲であると、樹脂成分の凝固の進み過ぎを抑え、ポリオレフィン製積層多孔質膜への機能性樹脂成分の浸透が小さくなり過ぎるのを防ぎ十分な0°の剥離強度が得られる。
なお、低湿度ゾーン、高湿度ゾーンともに温度条件は絶対湿度が上記範囲内であれば特に限定されないが、省エネルギーの観点から20℃以上、50℃以下が好ましい。
【0112】
ワニスを塗布する方法としては、例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、マイヤーバーコート法、パイプドクター法、ブレードコート法およびダイコート法などが挙げられ、これらの方法は単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0113】
凝固浴内では、樹脂成分と粒子が三次元網目状に凝固する。凝固浴内での浸漬時間は3秒以上とすることが好ましい。凝固浴内の浸漬時間が上記好ましい範囲であると、十分に樹脂成分の凝固が行われる。凝固浴内での浸漬時間の上限は制限されないが、10秒もあれば十分である。
【0114】
さらに、上記の未洗浄多孔質膜を、機能性樹脂に対する良溶媒を1〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%含有する水溶液中に浸漬させた後、純水を用いた洗浄工程、100℃以下の熱風を用いた乾燥工程をこの順番で経ることにより、最終的な電池用セパレータを得ることができる。
【0115】
洗浄については、加温、超音波照射やバブリングといった一般的な手法を用いることができる。さらに、各浴槽内の濃度を一定に保ち、洗浄効率を上げるためには、浴間で多孔質膜内部の溶液を取り除く手法が有効である。具体的には、空気または不活性ガスで多孔層内部の溶液を押し出す手法、ガイドロールによって物理的に膜内部の溶液を絞り出す手法などが挙げられる。
【0116】
本発明の電池用セパレータは、乾燥状態で保存することが望ましいが、絶乾状態での保存が困難な場合は、使用の直前に100℃以下の減圧乾燥処理を行うことが好ましい。
【0117】
本発明の電池用セパレータは、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウム二次電池、リチウムポリマー二次電池等の二次電池、およびプラスチックフィルムコンデンサ、セラミックコンデンサ、電気二重層コンデンサなどのセパレータとして用いることができるが、特にリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いるのが好ましい。以下にリチウムイオン二次電池を例にとって説明する。
【0118】
リチウムイオン二次電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されており、セパレータは電解液(電解質)を含有している。電極の構造は特に限定されず、公知の構造であってよい。例えば、円盤状の正極及び負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極及び負極が交互に積層された電極構造(積層型)、帯状の正極及び負極が重ねられて巻回された電極構造(巻回型)等の構造とすることができる。
【0119】
正極は、通常集電体とその表面に形成されたリチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極活物質層とを有する。正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム複合酸化物)、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。遷移金属としては、V、Mn、Fe、Co、Ni等が挙げられる。正極活物質の中でリチウム複合酸化物の好ましい例としては、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、α−NaFeO
2型構造を母体とする層状リチウム複合酸化物等が挙げられる。
【0120】
負極は、集電体とその表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層とを有する。負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック等の炭素質材料が挙げられる。電解液はリチウム塩を有機溶媒に溶解することにより得られる。リチウム塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、Li
2B
10Cl
10、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiPF
4(CF
3)
2、LiPF
3(C
2F
5)
3、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン等の高沸点及び高誘電率の有機溶媒や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の低沸点及び低粘度の有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。特に高誘電率の有機溶媒は粘度が高く、低粘度の有機溶媒は誘電率が低いため、両者を混合して用いるのが好ましい。
【0121】
電池を組み立てる際に、本発明のセパレータに電解液を含浸させ、セパレータにイオン透過性を付与することができる。通常、含浸処理は微多孔膜を常温で電解液に浸漬して行う。例えば、円筒型電池を組み立てる場合、まず正極シート、セパレータ(複合多孔質膜)、及び負極シートをこの順に積層し、この積層体を一端より巻き取って巻回型電極素子とする。次にこの電極素子を電池缶に挿入し、上記電解液を含浸させ、さらに安全弁を備えた正極端子を兼ねる電池蓋を、ガスケットを介してかしめることにより電池を得ることができる。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例よって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法で測定した値である。
【0123】
1.突起の数
突起の数と大きさは免震台上に設置したコンフォーカル(共焦点)顕微鏡(Lasertec社製 HD100)を用いて、光源を安定化させた後に測定した。
【0124】
(手順)
(1)実施例および比較例で得られたポリオレフィン多孔質膜を製膜時に冷却ロールに接していた面に1cm×1cmの正方形の枠を極細油性ペンで描いた。
【0125】
(2)上記正方形の枠を描いた面を上にしてサンプルステージに載せ、コンフォーカル顕微鏡付属の静電気密着装置を用いてサンプルステージに密着固定させた。
【0126】
(3)倍率5倍の対物レンズを用いて、
図3のようなポリオレフィンの球晶に由来するリング状痕をモニターに二次元画像(本装置ではREAL画面と称す)として表示させ、リング状痕の最も色の濃い部分がモニター画面のほぼ中央に位置するようにサンプルステージ位置を調整した。リング状痕が2つ連なっている場合はその接点に合わせた。突起高さ測定の対象は前記ポリオレフィンの球晶に由来するリング状痕の長径が0.2mm以上のものとした。リング状痕の長径は前記二次元画像にて長径方向にリングの両端にカーソルを合わせ、その長さを読み取った。
【0127】
(4)対物レンズを20倍レンズに替え、モニター画面の中央部にフォーカスを合わせて(本装置ではモニター画面の中央部が最も明るく表示されようにする)、この高さ位置を基準高さとした(本装置ではREFSETと称す)。
【0128】
(5)高さ方向の測定範囲は前記基準高さを0μmとして上下15μmに設定した。また、スキャン時間120秒、STEP移動距離0.1μm/Stepとし、三次元データを取り込んだ。
【0129】
(6)三次元データ取り込み後、データ処理用画像(本装置ではZ画像と称す)を表示させ、スムージング処理を行った(スムージング条件:フィルタサイズ3x3、マトリックスタイプ SMOOTH3−0、回数1回)。また、必要に応じて水平補正画面にて水平補正を行った。
【0130】
(7)データ処理用画像にて最も高い突起を通る位置(最も明るい部分)に水平方向にカーソルを置き、前記カーソルに対応した断面プロファイルを、断面プロファイル画像に表示させた。
【0131】
(8)断面プロファイル画像にて垂直方向に2本のカーソルを突起の両袖の変曲点に合わせ両カーソル間の距離を突起の大きさとした。
【0132】
(9)断面プロファイル画像にて水平方向に2本のカーソルを突起の頂点と突起の両袖の変曲点に合わせ(突起の両袖の変曲点の高さが異なる場合は低い方)両カーソル間の距離を突起の高さとした。
(10)前記操作を前記1cm×1cmの正方形の枠内で繰り返し、大きさ5μm以上、50μm以下、高さ0.5μm以上、3.0μm以下の突起の数を数え1cm
2当たりの突起数を求め、さらにその突起の高さ平均値を求めた。
【0133】
2.改質多孔層の0°の剥離強度
図1に、評価方法を模式的に示す。1が積層試料、2がポリオレフィン製積層多孔質膜、3が改質多孔層、4が両面粘着テープ、5及び5'がアルミニウム板であり、図中の矢印が引張方向である。大きさ50mm×25mm、厚さ0.5mmのアルミニウム板5に同じ大きさの両面粘着テープ(ニチバン社製NW−K50)4を貼り付けた。その上に幅50mm×長さ100mmに切り出した試料1(電池用セパレータ)のポリオレフィン製積層多孔質膜2の面を前記アルミニウム板5の25mm長さの片辺の端から40mmが重なるように貼り付け、はみ出た部分を切り取った。次いで、長さ100mm、幅15mm、厚さ0.5mmのアルミニウム板5'の片面に両面粘着テープを貼り付け、前記アルミニウム板5の25mm長さの試料側の片辺の端から20mmが重なるように貼り付けた。その後、試料を挟持したアルミニウム板5とアルミニウム板5'を引張試験機(島津製作所製 Autograph AGS-J 1kN)に取り付け、アルミニウム板5とアルミニウム板5'のそれぞれを平行に反対方向に引張速度10mm/minで引っ張り、改質多孔層が剥離したときの強度を測定した。この測定を長手方向に30cm以上の間隔を空けた任意の3点について行い、その平均値を改質多孔層の0°の剥離強度とした。
【0134】
3.膜厚
接触式膜厚計(Mitutoyo社製 ライトマチック VL-50A)を使用して20点の測定値を平均することによって求めた。超硬球面測定子φ9.5mmを用い、加重0.01Nの条件で測定した。
【0135】
4.表層の平均孔径
ポリオレフィン製積層多孔質膜の表層における平均孔径は以下の方法で測定した。試料を測定用セルの上に両面テープを用いて固定し、プラチナまたは金を数分間真空蒸着させ、適度な倍率で膜の表面をSEM測定した。SEM測定で得られた画像上で任意の10箇所を選択し、それら10箇所の孔径の平均値を試料の平均孔径とした。
【0136】
5.透気抵抗度
テスター産業(株)社製のガーレー式デンソメーターB型を使用して、ポリオレフィン製積層多孔質膜又は電池用セパレータをクランピングプレートとアダプタープレートの間にシワが入らないように固定し、JIS P8117に従って測定した。試料は10cm角とし、測定点は試料の中央部と4隅の計5点として、その平均値を透気抵抗度[sec/100ccAir]として用いた。なお、試料の1辺の長さが10cmに満たない場合は5cm間隔で5点測定した値を用いてもよい。
【0137】
6.メルトダウン温度
熱機械的分析装置(セイコー電子工業株式会社製、TMA/SS6000)を用い、10mm(TD)×3mm(MD)の試験片を、一定の荷重2gfで試験片の長手方向に引っ張りながら、5℃/minの速度で室温から昇温し、溶融により破膜した温度をメルトダウン温度とした。
【0138】
7.重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)
MwおよびMw/Mnは以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Waters Corporation製GPC−150C
・カラム:昭和電工株式会社製Shodex UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o−ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0ml/分
・試料濃度:0.1質量%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製ディファレンシャルリフラクトメーター
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作製した。
【0139】
8.ポリプロピレンの融解熱(ΔH
m)
約5mgの試料を予め精秤したアルミニウム製サンプルパンに入れ、次いで試料を入れたサンプルパンの質量を精秤して、サンプルパン質量との差を試料質量とした。試料を入れたサンプルパンを走査型示差熱量計(PerkinElmer,Inc.製、Diamond DSC)の試料ホルダー内に静置し、窒素雰囲気下において40℃から190℃まで10℃/minで加熱した後、190℃/10分間の熱処理を行った。続いて、40℃まで10℃/minで冷却し、40℃で2分間保持した後、10℃/minの昇温速度で190℃まで昇温した。昇温過程で得られたDSC曲線(溶融曲線)について、85〜175℃の範囲に直線ベースラインを設定し、係る直線ベースラインとDSC曲線とで囲まれる部分の面積から熱量を算出し、これを試料質量当りに換算した。
【0140】
9.対数粘度
耐熱性樹脂0.5gを100mlのNMPに溶解した溶液を25℃でウベローデ粘度管を用いて測定した。
【0141】
10.融点
走査型示差熱量計(PerkinElmer,Inc.製、Diamond DSC)を用い、窒素ガス雰囲気下で樹脂試料5mgを昇温速度20℃/分で昇温したとき観察される融解ピークの頂点温度を融点とした。
【0142】
11.ガラス転移温度
樹脂溶液または電池用セパレータを良溶媒に漬けて改質多孔層のみを溶解させた樹脂溶液を、アプリケーターによってPETフィルム(東洋紡績製E5001)あるいはポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製商品名「パイレン(登録商標)−OT」)に適当なギャップで塗布し、120℃、10分間予備乾燥した後に剥離して、適当な大きさの金枠に耐熱粘着テープで固定した状態で、真空下で200℃、12時間乾燥し、乾式フィルムを得た。得られた乾式フィルムから幅4mm×長さ21mmの試料を切り取り、測定長15mmで動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御製DVA―220)を用いて、110Hz、昇温速度4℃/分の条件下で、室温から450℃までの範囲で測定した時の貯蔵弾性率(E')の屈折点において、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と、屈折点以上における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0143】
12.空孔率
10cm角の試料を用意し、その試料体積(cm
3)と質量(g)を測定し得られた結果から次式を用いて空孔率(%)を計算した。
空孔率=(1−質量/(樹脂密度×試料体積))×100
【0144】
13.耐擦れ性
実施例及び比較例で得られたロール状電池用セパレータの両端をスリット加工した。スリット加工はスリッター(株式会社西村製作所製 WA177A型)を用いて速度20m/分、張力50N/100mmの条件で行った。加工中、塗工面に接触するロールはハードクロムメッキロール2本(いずれもフリーロール)とした。次いで、スリット加工済のロール状電池用セパレータを巻き戻しながら目視、および拡大率10倍のスケール付きルーペ(PEAK社SCALELUPE×10)を用いて、長径0.5mm以上の改質多孔層の剥離欠点を数え、以下の判定基準で評価した。評価面積は幅100mm×長さ500mとした。(幅が100mmに満たない場合は長さを調整し、同様の評価面積になるようにした。)
判定基準
○(極めて良好):10ヶ以下
△(良好):11〜30ヶ
×(不良):31ヶ以上
【0145】
実施例1
重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)30重量%及び重量平均分子量が35万の高密度ポリエチレン(HDPE)70重量%からなる組成物100重量部に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.375重量部を加えたポリオレフィン組成物Aを得た。このポリオレフィン組成物A30重量部を二軸押出機に投入した。この二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン70重量部を供給し、溶融混練して、押出機中にてポリオレフィン樹脂溶液Aを調製した。
【0146】
一方、重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)15重量%及び重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)65重量%、重量平均分子量が53万で、融解熱が96J/gのポリプロピレン20重量%からなる組成物100重量部に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.375重量部を加えたポリオレフィン組成物Bを得た。このポリオレフィン組成物B25重量部を二軸押出機に投入した。この二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン75重量部を供給し、溶融混練して、押出機中にてポリオレフィン樹脂溶液Bを調製した。
【0147】
得られたポリオレフィン樹脂溶液AおよびBを、層構成がA/B/Aで溶液比率が1/1/1となるように多層ダイから190℃で共押し出しして、内部冷却水温度を25℃に保った直径800mmの冷却ロールで引き取りながら積層ゲル状成形物を形成した。この時、積層ゲル状成形物が冷却ロールから離れる点と、ダイから押し出された積層ポリオレフィン樹脂溶液と冷却ロールとが接する点と、の間(積層ゲル状成形物や積層ポリオレフィン樹脂溶液が冷却ロールに接触していない領域)に1枚のポリエステル製ドクターブレードをゲル状成形物の幅方向と平行に冷却ロールに接するようにあてて、冷却ロール上に付着している流動パラフィンを掻き落とした。すなわち、概略板状形状をなすドクターブレードの4つの外縁のうち長辺に相当する部位を、円筒形状をなす冷却ロールの外周部において積層ゲル状成形物や積層ポリオレフィン樹脂溶液に接触していない部位に当該冷却ロールの幅方向に亘って押し当てた。続いてこの積層ゲル状成形物を、温度115℃で5×5倍に同時2軸延伸を行い、延伸成形物を得た。得られた延伸成形物を塩化メチレンで洗浄して残留する流動パラフィンを抽出除去し、乾燥して多孔質成形物を得た。その後、テンターに多孔質成形物を保持し、125℃で3秒間熱処理し、厚さ20μm、空孔率43%、平均孔径0.14μm、透気抵抗度232sec/100ccAir、メルトダウン温度178℃のポリオレフィン製積層多孔質膜を得た。
【0148】
(耐熱性樹脂の合成)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、o−トリジンジイソシアネート(TODI)0.8モル、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)0.2モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が14%となるようにN−メチル−2−ピロリドンと共に仕込み、100℃で5時間攪拌した後、固形分濃度が14%となるようにN−メチル−2−ピロリドンで希釈してポリアミドイミド樹脂溶液を合成した。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は1.35dl/g、ガラス転移温度は320℃であった。
【0149】
ポリアミドイミド樹脂溶液及び平均粒径0.5μmのアルミナ粒子、N−メチル−2−ピロリドンをそれぞれ26:34:40の重量比率で配合し、酸化ジルコニウムビーズ(東レ社製、商品名「トレセラム(登録商標)ビーズ」、直径0.5mm)と共にポリプロピレン製の容器に入れ、ペイントシェーカー(東洋精機製作所製)で6時間分散させた。次いで、濾過限界5μmのフィルターで濾過し、ワニスを得た。
ワニスをブレードコート法にて前記ポリオレフィン製積層多孔質膜の冷却ロールに接していた面に塗布し、温度25℃、絶対湿度1.8g/m
3の低湿度ゾーンを8秒間で通過させ、引き続き温度25℃、絶対湿度12g/m
3の高湿度ゾーンを5秒間で通過させた後、N−メチル−2−ピロリドンを5重量%含有する水溶液中に10秒間浸漬した。さらに、純水で洗浄した後、最終厚みがポリオレフィン製積層多孔質膜よりも5μm厚くなるようにして、70℃の熱風乾燥炉を通過させて乾燥し、電池用セパレータを得た。
【0150】
実施例2
2枚のポリエステル製ドクターブレードを20mmの間隔で冷却ロールにあてた以外は実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0151】
実施例3
3枚のポリエステル製ドクターブレードをそれぞれ20mmの間隔で冷却ロールにあてた以外は実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0152】
実施例4
冷却ロールの内部冷却水温度を35℃に保った以外は実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0153】
実施例5
ポリオレフィン樹脂組成物Bとして、重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)5重量%及び重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)55重量%、重量平均分子量が53万で、融解熱が96J/gのポリプロピレン40重量%からなる組成物100重量部に、酸化防止剤0.375重量部を加えた組成物を使用し、ポリオレフィン組成物B30重量部に対して流動パラフィン70重量部を供給してポリオレフィン樹脂溶液Bを得た以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0154】
実施例6
ポリオレフィン樹脂組成物Aとして、重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)20重量%及び重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)80重量%からなる組成物100重量部に、酸化防止剤0.375重量部を加えた組成物を使用した以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0155】
実施例7
実施例6と同様にして、ポリオレフィン溶液AおよびBを得た。得られたポリオレフィン溶液Aを190℃で厚さ350μmとなるように単層ダイより押し出して、内部冷却水温度を25℃に保った直径800mmの冷却ロールで引き取りながらゲル状成形物Aを形成した。この時、ゲル状成形物が冷却ロールから離れる点と、ダイから押し出されたポリオレフィン樹脂溶液と冷却ロールとが接する点と、の間(積層ゲル状成形物や積層ポリオレフィン樹脂溶液が冷却ロールに接触していない領域)に1枚のポリエステル製ドクターブレードをゲル状成形物の幅方向と当該ドクターブレードにおける長手方向端部とが平行になるように冷却ロールに接するようにあてて、冷却ロール上に付着している流動パラフィンを掻き落とした。続いて一方、ポリオレフィン溶液Bを190℃で厚さ700μmとなるように単層ダイより押し出して、内部冷却水温度を25℃に保った直径800mmの冷却ロールで引き取りながらゲル状成形物Bを形成した。ゲル状成形物Bの冷却にはドクターブレードを用いなかった。
【0156】
得られたゲル状成形物AおよびBを、ゲル状組成物Aの冷却ロールに接触した面が表面層となるようにA/B/Aの順に積層し、110℃、0.05MPaで圧着して接合し、積層ゲル状成形物を得た。このようにして得られた積層ゲル状成形物を使用した以外は実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0157】
実施例8
ポリオレフィン樹脂組成物A25重量部に対して流動パラフィン75重量部を供給してポリオレフィン樹脂溶液Aを、またポリオレフィン樹脂組成物B30重量部に対して流動パラフィン70重量部を供給してポリオレフィン樹脂溶液Bを得た以外は実施例6と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0158】
実施例9
ポリオレフィン製積層多孔質膜の厚みが表に記載のとおりになるようにポリオレフィン溶液AおよびBの押し出し量を調整した以外は実施例3と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0159】
実施例10
ポリオレフィン樹脂組成物Aとして、重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)2重量%及び重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)98重量%を、ポリオレフィン組成物Bとして重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)60重量%、重量平均分子量が53万で、融解熱が96J/gのポリプロピレン40重量%からなる組成物を使用し、各ポリオレフィン組成物と流動パラフィンの比率をそれぞれ30重量%と25重量%とした以外は実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0160】
実施例11
ポリオレフィン樹脂組成物Aとして、重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)30重量%及び重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)70重量%を、ポリオレフィン組成物Bとして重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)65重量%、重量平均分子量が53万で、融解熱が96J/gのポリプロピレン20重量%からなる組成物を使用し、各ポリオレフィン組成物と流動パラフィンの比率をそれぞれ28.5重量%と30重量%とした以外は実施例1と同様にして、ポリオレフィン樹脂溶液AおよびBを得た。
得られたポリオレフィン樹脂溶液AおよびBを、層構成がB/A/Bで溶液比率が1/1/1となるように多層ダイから押し出した以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0161】
実施例12
ポリオレフィン樹脂溶液Aにおいて、ポリオレフィン組成物Aを35重量部、流動パラフィン65重量部とした以外は実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0162】
比較例1
ポリオレフィン溶液Aのみを用いて、190℃で単層ダイから押し出しして単層ゲル状成形物を成形し、積層ゲル状成形物の代わりに得られた単層ゲル状成形物を使用した以外は実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0163】
比較例2
ポリオレフィン溶液Bに用いるポリプロピレンとして、重量平均分子量が49万で、融解熱が70J/gのポリプロピレンを用いた以外は実施例6と同様にして電池用セパレータを得た。
【0164】
比較例3
ポリオレフィン樹脂組成物Bとして、重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)8重量%及び重量平均分子量が30万の高密度ポリエチレン(HDPE)32重量%、重量平均分子量が53万で、融解熱が96J/gのポリプロピレン60重量%からなる組成物を使用した以外は実施例8と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0165】
比較例4
冷却ロールの内部冷却水温度を0℃に保ち、ドクターブレードを用いなかった以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0166】
比較例5
ダイから押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を冷却ロールで冷却する替わりに、25℃に保った水中に1分間浸漬した以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0167】
比較例6
ダイから押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を冷却ロールで冷却し、ゲル状成形物を得る際にドクターブレードを用いず、冷却ロール上に付着している流動パラフィンを掻き落とさなかった以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0168】
比較例7
冷却ロールの内部冷却水温度を50℃に保った以外は実施例1と同様にして、電池用セパレータを得た。
【0169】
実施例1〜12、比較例1〜7で得られたポリオレフィン製積層多孔質膜および電池用セパレータの特性を表1に示す。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】