【文献】
日本食品科学工学誌, 1995, Vol. 42, No. 1, pp. 20-25
【文献】
Biosci. Biotech. Biochem., 1992, Vol. 56, No. 2, 806-807
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の乳風味呈味材は、油脂、より好ましくは乳脂肪を含有する油脂、無脂乳固形分および糖類を含む混合物(以下、「原料混合物」ということもある。)を特定の条件下で加熱することにより得ることができ、特定量以上の特定成分を含み、逆に別の特定成分は特定量以下しか含まないことを特徴とする。
【0014】
本発明の乳風味呈味材に使用する油脂は、甘くて香ばしい自然なバター風味を付与できることから、乳脂肪を含むことが好ましい。乳脂肪以外に含む油脂は、食用に適するものであれば特に限定はないが、例えばナタネ油、コーン油、大豆油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、ラード、牛脂、魚油などの油脂、及びこれらの分別・硬化・エステル交換などの処理された油脂が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0015】
前記乳脂肪とは、乳に含まれる脂肪であり、通常は牛乳の脂肪を意味し、例えばバター、生クリームや、これらから水相部を除いて得られる油相部を使用すれば良い。本発明においては、特に乳脂肪の一部に酵素処理した乳脂肪を併用することが好ましい。
【0016】
前記油脂の含有量は、原料混合物中、60〜98.9重量%が好ましく、70〜88重量%がより好ましい。60重量%より少ないと乳風味呈味材原料中の固形分の割合が相対的に多くなるため、固形分を油脂中に均一に分散させることが困難となり、固形分が加熱によって焦げ付き、焦げた風味が生成される場合がある。前記乳脂肪の含有量は、前記油脂全体中、30〜100重量%が好ましく、50〜90重量%がより好ましく、67〜80重量%がさらに好ましい。30重量%より少ないと甘くて香ばしい焦がしバター様の風味やコクが不足する場合がある。
【0017】
本発明の乳風味呈味材に使用する無脂乳固形分とは、乳から脂肪分と水分を除去した物を言い、例えば、チーズ、ヨーグルト、無糖れん乳、加糖れん乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、発酵乳、バター、生クリーム、バターミルク、全粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエーパウダー、ホエー蛋白濃縮物(WPC)、乳蛋白濃縮物(MPC)、乳糖及び乳清ミネラルなどに含まれる無脂固形分を意味し、これらの群から選ばれる少なくとも1つを使用すれば良い。中でも特に、風味の点から脱脂粉乳の使用が好ましい。また、前記無脂固形分に加えて酵素処理物や乳酸発酵物である発酵乳やヨーグルトなどを併用することで、焦がしバター様の甘く香ばしい風味やコクを一層強くすることができる。
【0018】
前記無脂乳固形分の含有量は、原料混合物中、0.5〜10重量%が好ましく、3〜8重量%がより好ましい。0.5重量%より少ないと焦がしバター様の甘く香ばしい風味が不足する場合がある。10重量%より多いと乳風味呈味材中の蛋白質や糖の濃度が高く、メイラード反応が過剰に進み、焦げ臭い風味が強くなる場合がある。
【0019】
本発明の乳風味呈味材に使用する糖類とは、乳糖を除く単糖又は二糖を言い、例えば、キシロース、アラビノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ショ糖及びマルトース等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1つを使用すれば良い。それらの内、特に還元糖が好ましく、その中でもグルコースやキシロースがより好ましい。
【0020】
糖類の含有量は、原料混合物中、0.5〜12重量%が好ましく、2〜8重量%がより好ましい。0.5重量%より少ないと糖類を添加してもメイラード反応を効率よく促進することができないため、焦がしバター様の甘く香ばしい風味やコクが強くならない場合がある。12重量%より多いと乳風味呈味材中で糖類を均一に分散させてメイラード反応を促進させることが難しくなり、焦げた風味が強くなる場合がある。
【0021】
また、原料混合物中の水分量は、0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。0.1重量%より少ないと、無脂乳固形分や糖類が均一に分散せず、メイラード反応が進行しない場合がある。また、10重量%より多いと、140℃以上の温度に加熱することが難しくなる場合がある。
【0022】
本発明の乳風味呈味材に使用できるその他の原料としては、香料、酸味料、塩類、乳蛋白質以外の蛋白質、ぺプチド、アミノ酸、乳化剤などが挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲でそれらを加えても差し支えない。
【0023】
本発明においては、乳風味呈味材全体中、2,3−ジヒドロ−3,5−ジヒドロキシ−6−メチル−4H−ピラン−4−オン(2,3-Dihydro-3,5-dihydroxy-6-methyl-4H-pyran-4-one、以下「DDMP」ともいう。)を65ppm以上含むことが好ましく、150p
pm以上であることがより好ましい。また、製造のし易さを考慮すると、300ppm以下が好ましい。DDMPが65ppmより少ないと、バターを加熱した際に生成する様な、甘くて香ばしい焦がしバター様の風味が不足する場合がある。ここでDDMPとは、糖類を加熱した時に、糖類の分解によって生成する物質であり、甘くて香ばしいバター様の風味に関与するものであると考えられる。
【0024】
本発明において、乳風味呈味材全体中、ラクトン類を20ppm以上含有することが好ましく、40ppm以がより好ましい。ラクトン類の含有量が20ppmより少ないと、バター様の風味やコクが不足する場合がある。また、ラクトン類の含有量は、乳風味呈味材全体中150ppm以下が好ましい。150ppmより多いと、バター風味が強くなり過ぎて風味のバランスが崩れ、本発明の目的とする甘く香ばしい風味が感じられにくくなる場合がある。ここでラクトン類は、無脂乳固形分や乳脂肪などの乳原料由来の風味成分であり、具体的にはδ−ヘキサラクトン、δ−デカラクトン、δ−ドデカラクトン、δ
−トリデカラクトン、δ−オクタラクトン、δ−テトラデカラクトンなどが挙げられる。
【0025】
本発明においては、乳風味呈味材全体中、アルデヒド類の含有量は少ない程よく、具体的には5ppm以下であることが好ましく、3ppm以下がより好ましく、2ppm以下が更に好ましい。アルデヒド類の含有量が5ppmよりも多いと、油脂が劣化したような不快な風味が付与される場合がある。ここでアルデヒド類とは、油脂が加熱などにより酸化されて生成する劣化風味成分であり、具体的にはヘキサナール、2−ヘキセナール、2−デセナール、2,4−デカジエナール、オクタナール、2−ヘプテナール、2−オクテナール、2,4−ヘプタジエナール、ノナナール、2−ノネナール、2−トリデセナール、オクタデカナール、テトラデカナール、ヘキサデカナール、2−ドデセナール、2−ウンデセナールなどが挙げられる。
【0026】
本発明の乳風味呈味材中のDDMP、ラクトン類およびアルデヒド類の含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析法によって測定できる。具体的な測定条件は以下の通りである。
【0027】
ガスクロマトグラフ装置:Agilent Technologies社製「7890A」
分析手法:昇温分析法
カラム:DB−WAX
カラムサイズ:10m×0.18mm×0.18μM(LTM)
キャリアーガス:ヘリウム
検出器(MS):Agilent Technologies社製「5975C」
(ガスクロマトグラフ条件)
イニシャル温度:40℃
イニシャル温度保持時間:2分間
昇温スピード:145℃まで毎分6℃、その後250℃まで毎分20℃
最終温度:250℃
最終温度保持時間:9分
キャリアーガス圧:339.65kPa
キャリアーガス流量:0.92ml/min
MS(検出器条件):イオン源温度 230℃、四重極温度 150℃
(インジェクション条件)
インジェクション装置:GERSTEL社製、「TDU」
Cold trap material:ガラスウール
(測定試料)
試料量:3mg
(TDS条件)
イニシャル温度:40℃
イニシャル温度保持時間:0.2分間
昇温スピード:毎分720℃
最終温度240℃
最終温度保持時間:5分間
(CIS条件)
イニシャル温度:−100℃
イニシャル温度保持時間:0.2分
昇温スピード:毎秒12℃
最終温度:250℃
最終温度保持時間:15分間
【0028】
(測定手順)
10℃に調整した乳風味呈味材3mgをマイクロバイアル(商品名:TDU液体注入用マイクロバイアル)に量りとり、インサートライナーの容器に入れてガスクロマトグラフ質量分析法にて分析を実施する。
【0029】
乳風味呈味材中のDDMP、ラクトン類およびアルデヒド類の濃度を測定するための標準品として、以下の試薬を用いる。
・マルトール(3-Hydroxy-2-methyl-4-pyrone):和光純薬株式会社製(製品番号089−06112)
・ヘキサナール:和光純薬株式会社製(製品番号085−02633)
・2,4−デカジエナール:和光純薬株式会社製(製品番号040−20122)
・ノナナール:和光純薬株式会社製(製品番号149−06002)
・δ−ヘキサラクトン:和光純薬会社製(製品番号322−26011)
・δ−デカラクトン:和光純薬会社製(製品番号327−25162)
・δ−ドデカラクトン:和光純薬会社製(製品番号044−26002)
上記試薬のうち、ヘキサナール、2,4−デカジエナール、ノナナールを50μlずつ量りとり、5mlの乳風味呈味材に添加し、混和する。乳風味呈味材を用いてこれをさらに1000分の1、5000分の1、10000分の1に希釈する。また、上記試薬のうちδ−ヘキサラクトン、δ−デカラクトン、δ−ドデカラクトンを50μlずつ量り取り、5mlの乳風味呈味材に添加して混和する。乳風味呈味材を用いてこれをさらに100分の1、500分の1、1000分の1に希釈する。上記試薬のうちマルトールを50μl量りとり、5mlの乳風味呈味材に添加し、混和する。乳風味呈味材を用いてこれをさらに10分の1、100分の1、500分の1に希釈する。これらの希釈液を前述のガスクロマトグラフ質量分析法にて分析する(分析例1とする)。乳風味呈味材そのものを前述のガスクロマトグラフ質量分析法にて分析する(分析例2とする)。
【0030】
分析例1と分析例2におけるマルトール、アルデヒド類およびラクトン類のピーク面積の差分を、マルトール1000ppm、100ppm、20ppm、アルデヒド類10ppm、2ppm、1ppm、ラクトン類100ppm、20ppm、10ppm相当とする。マルトールの検量線を用いて、DDMPのピーク面積から濃度を算出する。同様に、アルデヒド類およびラクトン類の検量線を用いてそれぞれピーク面積から濃度を算出する。
【0031】
上記に示したような、ガスクロマトグラフのDDMPが65ppm以上、ラクトン類が20ppm以上、アルデヒド類の合計値が5ppm以下である乳風味呈味材を得るためには、以下のような製造方法に従えば良い。
【0032】
(加熱処理)
油脂、好ましくは乳脂肪を含有する油脂、無脂乳固形分および糖類を含む混合物を加熱するが、その際、該原料混合物が密閉状態で、流動させながら均一に加熱されることが好ましい。均一な加熱処理を施す手段としては、仕込み量が20kg以下のような少量であれば、撹拌効率さえよければ、焦げを生じないように注意して加熱すればよく、例えばポータブルリアクターのような装置で実施できる。
【0033】
しかし、仕込み量が20kgを超えるような大量になれば、均一な加熱処理を施す手段としては、前記原料混合物を加熱装置の加熱容器内に導入し、該容器に設けた加熱面に強制的に接触させ、略均一な厚さの薄い膜状に拡げた状態で該加熱面に沿って流動させながら、所定の品温に到達するまで加熱することが好ましく、従来公知の加熱装置を用いることができる。
【0034】
具体的には、前記記載の油脂、無脂乳固形分および糖類を所定量含む混合物を加熱装置の加熱容器内に導入し、該容器に設けた加熱面に強制的に接触させ、略均一な薄膜上に拡げた状態で該加熱面に沿って流動させながら、所定の品温に到達するまで加熱すれば良い。
【0035】
上記加熱装置の例を挙げれば、例えば
図1に示すような二重筒加熱装置10を用いることができる。
図1(a)は、二重筒加熱装置10の側断面図、
図1(b)は、
図1(a)におけるI―I線断面図である。この二重筒加熱装置10は、それぞれ加熱用のジャケットを有する内筒12および外筒13の内外二本の円筒から加熱容器11を構成し、内筒12の外壁面12aと外筒13の内壁面13aとの二つの壁面間に、被加熱処理物である原料混合物の流路となる円筒状の間隙14を形成するとともに、間隙14に連通して、原料混合物の供給口14aと、加熱容器11内で加熱された原料混合物(加熱処理物)の排出口14bとが、それぞれ設けられている。この二重筒加熱装置10では、内筒12と外筒13とを相対的に回転させてもよい。その場合は、内筒12または外筒13の一方のみを回転させて他方は固定しておいても良いし、内筒12、外筒13の両方を互いに反対方向に回転させても良い。
【0036】
また、加熱については、内筒12、外筒13の両方に加熱ジャケットを設けた両面加熱式でも良いし、いずれか一方のみに加熱ジャケットを設けて片面加熱としても良い。この二重筒加熱装置10では、内筒12および外筒13の内外二本の円筒のいずれか一方のジャケットまたは両方のジャケットに蒸気を導入し、供給口14aから加熱容器11内にポンプなどを用いて原料混合物を圧入すると、原料混合物は内筒12および/または外筒13からの加熱を受けながら、内筒12と外筒13との間の間隙14内を薄膜状となって排出口14bに向かって流動し、排出される。この時、内外二本の円筒12、13を相対的に回転させると、加熱容器11内に導入された原料混合物は、相対的に回転する内筒12と外筒13との間の間隙14内を、内筒12の外壁面12aと外筒13の内壁面13aとの相対的移動方向(回転方向)に対して直交する方向(回転軸方向)に流動し、排出口14bから排出される。この装置では、内筒12の外径寸法と外筒13の内径寸法により間隙14の幅dを調整し、加熱容器11の間隙14内を流動する原料混合物の膜厚を調整することができる。また、加熱具合は、内筒12及び/または外筒13のジャケットに導入する蒸気圧と、前記膜厚(間隙14の幅d)に加えて、加熱容器11への原料混合物の単位時間当たりの圧入量(流量)で調整できる。
【0037】
更に、複数の二重筒加熱装置10を連設する、または二重筒加熱装置10の排出口14bから排出された原料混合物を再度供給口14aに圧入することを繰り返して循環させることにより、原料混合物が所定の品温および時間に到達して目的とする特定量のDDMP及びラクトン類が生成する加工状態になるまで、加熱処理を繰り返し行うこともできる。
【0038】
加熱面に沿って薄膜状に流動する原料混合物の膜厚は、通常は0.5〜125mmの範囲内となることが好ましい。前記膜厚が、125mmを超えると、薄膜状で流動する原料混合物の内部まで均一に加熱ができない場合があり、加熱面から遠いところではメイラード反応が進行しにくくなるめ、DDMP及びラクトン類の生成量は少なく、目的とする乳風味呈味材を得ることができない。また、0.5mm未満では過熱により焦げ付き等が発生し、得られる乳風味呈味材の品質が著しく低下する場合がある。使用する加熱装置の構造にもよるが、原料混合物に対する加熱制御の容易さを考慮すると、前記膜厚は1mmから30mmの範囲がより好ましく、2mmから10mmの範囲とするのが更に好ましい。
【0039】
加熱温度は、品温が140〜210℃の範囲内になるように加熱することが好ましく、160〜190℃がより好ましい。加熱温度が140℃未満ではDDMP及びラクトン類の生成量が少なく、目的とする香味に富んだ乳風味呈味材を得ることができない場合がある。また、品温が210℃を超えると、過熱により焦げ付き等が発生したり、油脂が劣化してアルデヒド類が多く生成し、風味が悪化する場合がある。加熱処理のための昇温速度は、5〜25℃/分が好ましく、7〜20℃/分がより好ましく、10〜15℃/分が更に好ましい。5℃/分より遅いと所定の加熱処理温度に到達するまでに時間が掛かり過ぎて油脂が劣化し、アルデヒド類が増加する場合がある。20℃/分を超えると製造装置上、困難な場合がある。
【0040】
加熱時間は、上記品温に達温後、1秒〜50分間保持することが好ましく、1秒〜20分間保持することがより好ましい。加熱保持時間が1秒間よりも短いと焦がしバター様の甘く香ばしい風味が十分に生成しない場合がある。また、50分間を超えると、過熱により焦げ付き等が発生したり、風味が悪化する場合がある。
【0041】
前記加熱前には予備加熱をすることが好ましく、予備加熱は密閉状態で行うことが好ましく、加熱温度(品温)は70〜100℃が好ましく、80〜95℃がより好ましい。加熱温度が70℃未満では予備加熱による風味向上の効果が十分に得られない場合がある。また、100℃を超えると過熱により焦げた風味が強くなる場合がある。また、予備加熱の時間は、5分間〜3時間が好ましく、10〜30分間がより好ましい。加熱時間が5分間よりも短いと予備加熱による風味向上の効果が十分に得られない場合がある。また、3時間を超えると油脂の劣化により風味が悪化する場合がある。
【0042】
本発明の乳風味呈味材は、加熱処理したそのままのものを使用しても良く、更には、水相部を遠心分離や濾過により除去した油相部のみを使用しても良い。
【0043】
本発明の乳風味呈味材を使用できる食品としては、特に制限はないが、マーガリン、ショートニング、香味油などの油脂製品、バターロール、クロワッサン、食パン、ブリオッシュなどのパン類、マドレーヌ、クッキー、クレームブリュレ、スポンジケーキ、カップケーキなどの菓子類、ホワイトソース、スープ、パスタソース、ドレッシングなどの加工食品などが挙げられる。
【0044】
食品への添加量は、食品の種類により最適値は異なるが、通常、食品全体中、0.1〜20重量部が好ましく、1〜10重量部がより好ましい。0.1重量部より少ないと乳風味呈味材による風味付与の効果が得られない場合がある。20重量部より多いと、風味付与の効果が頭打ちになったり、風味が強すぎて食品の品質を損なう場合がある。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において、「部」や「%」は重量基準である。
【0046】
<官能評価方法>
実施例、比較例で得られた乳風味呈味材を添加したパウンドケーキ及びロールパン(バターロール)の官能評価は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーにより、以下の基準により実施し、それらの平均点を評価値とした。
【0047】
(バター風味)
5点:自然なバター様の風味とコクが非常に強く、大変好ましい。
4点:自然なバター様の風味とコクが強く、好ましい。
3点:自然なバター様の風味とコクがやや強く、やや好ましい。
2点:自然なバター様の風味とコクが弱く、もの足りない。
1点:自然なバター様の風味とコクが感じられない。
【0048】
(甘い風味)
5点:甘い風味が非常に強く、大変好ましい。
4点:甘い風味が強く、好ましい。
3点:甘い風味がやや強く、やや好ましい。
2点:甘い風味が弱く、もの足りない。
1点:甘い風味が感じられない。
【0049】
(香ばしい風味)
5点:香ばしい風味が適度に強く、大変好ましい。
4点:香ばしい風味が強く、やや好ましい。
3点:香ばしい風味が感じられない。
2点:焦げた風味が強く、やや好ましくない。
1点:焦げた風味が非常に強く、好ましくない。
【0050】
(総合評価)
パウンドケーキ又はロールパンの総合的な風味について、各評価値(3項目)を乗じた値の累乗根(3乗根)を総合点数とし、以下の基準で各実施例・比較例の評価をした。
☆:パウンドケーキ又はロールパンとして、大変好ましい(総合点数=4点を超え5点以下)。
◎:パウンドケーキ又はロールパンとして、好ましい(総合点数=3点を超え4点以下)。
○:パウンドケーキ又はロールパンとして、そこそこ好ましい(総合点数=2点を超え3点以下)。
△:パウンドケーキ又はロールパンとして、やや劣る(総合点数=1点を超え2点以下)。
×:パウンドケーキ又はロールパンとして、劣る(総合点数=1点)。
【0051】
(実施例1)
密閉式加熱処理装置(耐圧硝子工業株式会社製、「ポータブルリアクターTPR1−VS2−500」)を用いて、表1に示す原料、加熱条件に従い乳風味呈味材を作製した。ポータブルリアクターは、加熱処理前に約60℃の温水200gを投入し、150℃まで加熱後、温水を容器外に取り出す操作を行うことで、容器を十分に温めた状態で使用した。精製ナタネ油、乳脂肪を溶解し60℃に温調し、卓上型ハイシェアミキサー(シルバーソン、LART)を用いて3500rpmで攪拌しているところに、水、脱脂粉乳、グルコースを順番に投入し、60分間保持して混合液を調製した。この混合液200gを、密閉式加熱処理装置に投入し、1000rpmで攪拌しながら、密閉状態で品温が70℃から180℃になるまで加熱した。180℃に達温後、製品出口コックを開放し、加熱処理した乳風味呈味材をステンレスビーカーに受け、直ちに氷水を入れたボールにステンレスビーカーを浸けて、ゴムベラで攪拌しながら60℃まで冷却し、乳風味呈味材(実施例1)を得た。このようにして得た乳風味呈味材の分析結果を表1に示した。尚、乳脂肪は、バター(よつ葉乳業(株)社製、よつ葉バター(食塩不使用))を溶解し、遠心分離で水相部を除去したものを使用した。
【0052】
【表1】
【0053】
(実施例2及び3、比較例1)
表1に示す原料、加熱条件に従い、乳風味呈味材を以下のように作製した。即ち、油脂全体中の植物油脂と乳脂肪の比率を変えた以外は、実施例1と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表1に示した。
【0054】
表1から明らかなように、油脂中の乳脂肪の割合が30重量%以上の実施例1〜3ではDDMPが65ppm以上、ラクトン類が20ppm以上及びアルデヒド類が5ppm以下で、焦がしバター様の甘く香ばしい風味を有していたのに対して、油脂中の乳脂肪の割合が24.9重量%(比較例1)ではラクトン類の含有量が少なく、バター様の風味が不足していた。
【0055】
(実施例4)
表2に示す原料、加熱条件に従い、乳脂肪の一部を酵素処理乳脂肪に変えた以外は、実施例2と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表2に示した。
【0056】
【表2】
【0057】
(実施例5)
表2に示す原料、加熱条件に従い、グルコースをキシロースに変えた以外は、実施例4と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表2に示した。
【0058】
(実施例6)
表2に示す原料、加熱条件に従い、水を除く原料の比率は同じで、水分量を10.0重量%に変えた以外は、実施例4と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表2に示した。
【0059】
(実施例7)
表2に示す原料、加熱条件に従い、予備加熱を行う以外は、実施例4と同様にして乳風味呈味材を作製した。即ち、密閉式処理装置に原料を投入して、品温90℃で15分間ホールド(予備加熱)し、その後180℃まで加熱して乳風味呈味材を作製した。その分析結果を表2に示した。
【0060】
(実施例8)
表2に示す原料、加熱条件に従い、加熱装置をポータブルリアクターから
図1で例示される二重筒加熱装置に変えた以外は、実施例4と同様にして乳風味呈味材を作製した。即ち、二重筒加熱装置の供給口14aの上流に、仕込みタンク、モーノポンプ、プレート式熱交換器を設置し、加熱装置の排出口14bの下流に、温度180℃で維持できる品温ホールド用二重配管および背圧弁、冷却用プレート式熱交換器を設置し、配管でつないだ。ポンプは流量60L/h、ジャケット温度は175℃に調節した。表2に示す原料を40kgタンクに仕込み溶解・混合後、60℃に温調し、インラインミキサー(シルバーソン、ハイシアインラインミキサー600LS)で2500rpm、60分間循環させて、混合液を調製した。この混合液、プレート式熱交換器にて110℃まで加熱後、二重筒加熱装置で160℃まで加熱し、品温ホールド用二重配管にて品温180℃で90秒間ホールド、冷却用二重管にて品温75℃に冷却し、常圧下に取り出して乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表2に示した。尚、モーノポンプから背圧弁間の圧力は0.7MPaとなるように背圧弁で調整し、二重筒加熱装置は内筒を400rpmで回転させた。
【0061】
(比較例2)
表2に示す原料、加熱条件に従い、油脂を86.0重量%から87.7重量%、脱脂粉乳を5.0重量%から0.3重量%、グルコースを6.0重量%から8.0重量%、水を3.0重量%から4.0重量%に変えた以外は、実施例2と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表2に示した。
【0062】
(比較例3)
表2に示す原料、加熱条件に従い、油脂を86.0重量%から91.6重量%、グルコースを6.0重量%から0.3重量%、水を3.0重量%から0.2重量%に変えた以外は、実施例2と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表2に示した。
【0063】
(比較例4)
表2に示す原料、加熱条件に従い、加熱処理時の条件を密閉から、ポータブルリアクターの上部コックを開いて開放系に変えた以外は、実施例2と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表2に示した。
【0064】
表2から明らかなように、乳脂肪の一部を酵素処理した乳脂肪に変えた実施例4では、ラクトン類の含有量が増加してバター様の風味が増強されていた。更に、酵素処理した乳脂肪を使用し、グルコースをキシロースに変えた実施例5では官能評価の結果、甘い風味や香ばしい風味が強かった。乳風味呈味材原料中の水分量を10重量%に変えた実施例6ではDDMPの濃度が高くなり、バター風味が強くなった。予備加熱を行った実施例7は、予備加熱なしの実施例4に比べDDMPが増加し、焦がしバター様の甘くて香ばしい風味が増強されていた。加熱装置を二重筒加熱装置で行った実施例8の乳風味呈味材においても、良好な焦がしバター様の甘く香ばしい風味を有していた。一方、無脂乳固形分が少ない比較例2、グルコースが少ない比較例3ではDDMPやラクトン類の生成量が少なく、風味が不足していた。また、加熱処理を開放系で行った比較例4では、油脂の酸化が促進され、劣化臭であるアルデヒド類の含有量が多くなり、好ましくない風味が付与されていた。
【0065】
(実施例9)
表3に示す原料、加熱条件に従い、加熱温度を180℃から140℃に変え、加熱処理後に遠心分離で水相部を除去した以外は、実施例2と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表3に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
(実施例10、比較例5及び6)
表3に示す原料、加熱条件に従い、乳風味呈味材を以下のように作製した。即ち、加熱温度を210℃(実施例10)、130℃(比較例5)、220℃(比較例6)に変えた以外は、実施例9と同様にして乳風味呈味材を作製し、その分析結果を表3に示した。
【0068】
140℃と210℃で加熱した実施例9、10の乳風味呈味材は焦がしバター様の甘くて香ばしい風味を有しており良好であった。一方、比較例5の130℃加熱品はバター様の甘い風味が不足しており、比較例6の220℃加熱品は焦げた風味と油脂の劣化臭が強く好ましくなかった。
【0069】
(比較例7)
特許文献1(特開2002−171903号公報)の記載に準拠し、表3に示す原料、加熱条件に従い、乳風味呈味材を作製した。即ち、精製ナタネ油を60℃に温調し、卓上型ハイシェアミキサー(シルバーソン、LART)を用いて3500rpmで攪拌しているところに、脱脂粉乳、グルコースおよびアラニンを順番に投入し、10分間保持して混合液を調製した。この混合液200gを、密閉式加熱処理装置に投入し、1000rpmで攪拌しながら、60Torrで品温が135℃になるまで加熱し、120分間保持した後、製品出口コックを開放し、加熱処理した乳風味呈味材をステンレスビーカーに受け、直ちに氷水を入れたボールにステンレスビーカーを浸けて、ゴムベラで攪拌しながら60℃まで冷却し、遠心分離して水相部を除去し、乳風味呈味材を得た。その分析結果を表3に示した。表3から明らかなように、ラクトン類は含有されず、バター様の風味が全くなく、香ばしい風味のみが感じられた。
【0070】
(比較例8)
特許文献2(特開昭62−198352号公報)の記載に準拠し、表3に示す原料、加熱条件に従い、乳風味呈味材を作製した。即ち、精製ナタネ油および乳脂肪を溶解し60℃に温調し、卓上型ハイシェアミキサー(シルバーソン、LART)を用いて3500rpmで攪拌しているところに、レシチン、脱脂粉乳、グルコースを順番に投入し、10分間保持して混合液を調製した。この混合液200gを、密閉式加熱処理装置に投入し、開放状態で品温が70℃から110℃まで18分間で加熱した。110℃で20分間保持した後、製品出口コックを開放し、加熱処理した乳風味呈味材をステンレスビーカーに受け、直ちに氷水を入れたボールにステンレスビーカーを浸けて、ゴムベラで攪拌しながら60℃まで冷却し、乳風味呈味材を得た。このようにして得た乳風味呈味材の分析結果を表3に示した。表3から明らかなように、DDMPの含有量が少なく、焦がしバター様の甘くて香ばしい風味が弱くもの足りなかった。
【0071】
(製造例1)マーガリンの作製
表4に示す配合にて、マーガリンを作製した。即ち、エステル交換油脂および精製ナタネ油を60℃に溶解したところに、乳風味呈味材(実施例1)、ソルビタン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルを混合して油相部を調製した。油相部に水を徐々に添加した後、約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し油中水型乳化組成物にした。その後、急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を24℃としてマーガリンを得た。風味を評価したところ、焦がしバター様の甘い香りが強く、バター様のコクがあり良好であった。
【0072】
【表4】
【0073】
(製造例2〜7,10〜12、製造例15〜22)マーガリンの作製
表4、表5に示す配合にて、マーガリンを作製した。即ち、乳風味呈味材の種類を変えた以外は、製造例1と同様にしてマーガリンを作製した。
【0074】
【表5】
【0075】
(製造例8)マーガリンの作製
表4に示す配合にて、乳風味呈味材(実施例7)の添加量を4重量%から2重量%に変え、減少分は油脂を増量して調製した以外は、製造例7と同様にしてマーガリンを作製した。
【0076】
(製造例9)マーガリンの作製
表4に示す配合にて、乳風味呈味材(実施例7)の添加量を4重量%から8重量%に変え、増加分は油脂を減量して調製した以外は、製造例7と同様にしてマーガリンを作製した。
【0077】
(製造例13)マーガリンの作製
表5に示す配合にて、乳風味呈味材(実施例1)を添加せず、減少分は油脂を増量した以外は、製造例1と同様にしてマーガリンを作製した。
【0078】
(製造例14)マーガリンの作製
表5に示す配合にて、乳風味呈味材(実施例1)を焦がしバターに変えた以外は、製造例1と同様にしてマーガリンを作製した。なお、焦がしバターは、無塩バター(よつ葉乳業(株)社製、「よつ葉バター(食塩不使用)」)を、フライパンに入れ、弱火〜中火で攪拌しながら融かした。泡が出てきたら弱火にし、泡が小さくなって、茶色く色づき、品温が160℃に達したら火から降ろして氷水に浸けて冷やした。これを濾布でろ過し、固形分を除去して作製した。
【0079】
(実施例11)パウンドケーキの作製
表6の配合に従い、パウンドケーキを作製した。即ち、砂糖(上白糖)、マーガリン(製造例1)を5Qボールに入れ、縦型ミキサー(HOBART CANADA社製「ホバートミキサー MODEL N−50」)にビーターを取り付け、低速で1分間、高速で2分間攪拌した。これに卵を加え、さらに低速で30秒間、高速で10秒間攪拌した。さらに小麦粉とベーキングパウダーを加え、ミキサーで低速20秒間、高速で30秒間攪拌し、生地を作製した。尚、原料は全て20℃に温調したものを用いた。生地をパウンドケーキ型に380gずつ流し入れ、170℃のオーブンで50分間焼成し、パウンドケーキを作製し、その評価結果を表7に示した。
【0080】
【表6】
【0081】
【表7】
【0082】
(実施例12〜20、比較例9〜14)パウンドケーキの作製
表6の配合に従い、パウンドケーキを作製した。即ち、マーガリン(製造例1)の種類を変えた以外は、実施例11と同様にしてパウンドケーキを作製し、その官能評価結果を表7および8に示した。
【0083】
【表8】
【0084】
表7および8から明らかなように、実施例1〜10の乳風味呈味材を使用したマーガリンで作製したパウンドケーキ(実施例11〜20)は何れも、焦がしバター様の甘く香ばしい風味を有していた。一方、比較例9〜14のパウンドケーキは何れも、バター様の好ましい風味が不足しており、もの足りなかった。また、実施例11〜20のパウンドケーキは、これらを20℃で30日保存しても、その風味が持続し良好な風味を有していた。
【0085】
(実施例21)ロールパン(バターロール)の作製
表9の配合に従い、ロールパンを作製した。即ち、中種生地は小麦粉、砂糖、イースト、イーストフード、水を20Qボールに投入し、縦型ミキサー(関東混合機工業(株)社製「カントーミキサー」)にフックを取り付け、低速で2分間、高速で1分間混捏し、捏ね上げ温度25℃の生地とした。この生地を28℃で2時間30分恒温槽に静置して中種生地を得た。マーガリンを除く本捏配合材料と中種生地を縦型ミキサーのボールに入れ、低速で2分間、高速で5分間混捏した後、15℃に温調された製造例11で作製したマーガリンを縦型ミキサーのボールに入れ、低速で3分間混捏後、高速で6分間混捏し、捏ね上げ温度27℃の本捏生地を得た。得られた生地を28℃の恒温槽にて、20分間フロアータイムをとった後、75gずつの生地に分割した。分割後、28℃で20分間のベンチタイムをとり、モルダー(オシキリ社製「Widefine」)にて生地を伸ばした後、カールして展圧し、棒状の成型物を得た。この成型物を天板の上に置き、温度:38℃、湿度:80%で60分間最終発酵を行った。最終発酵後、190℃のオーブンで12分間焼成し、各種の評価に用いるロールパンを得た。ロールパンの各種評価結果を表10に示す。
【0086】
【表9】
【0087】
【表10】
【0088】
(実施例22、比較例15〜20)ロールパンの作製
表9の配合に従い、ロールパンを作製した。即ち、マーガリン(製造例11)の種類を変えた以外は、実施例21と同様にしてロールパンを作製し、その官能評価結果を表10に示した。
【0089】
表10から明らかなように、実施例9及び10の乳風味呈味材を使用したマーガリンで作製したロールパン(実施例21および22)は何れも、焦がしバター様の甘く香ばしい風味を有していた。一方、比較例15〜20のロールパンは何れも、バター様の好ましい風味が不足しており、もの足りなかった。