【実施例】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係るX線CT装置の概略図およびブロック図である。本実施例では、断層撮影装置としてX線CT装置を例に採って説明する。
【0035】
図1に示すように、本実施例に係るX線CT装置1は、対象物Oを撮像する撮像部2と、対象物Oを載置するステージ3と、そのステージ3を駆動するステージ駆動部4と、撮像部2を駆動する撮像駆動部5と、撮像部2のX線管21に管電流や管電圧を与えるために高電圧を発生する高電圧発生部6と、撮像部2のX線検出器22によって得られた投影データに対して再構成処理を行う再構成処理部7とを備えている。再構成処理部7は、本発明における演算手段に相当する。
【0036】
撮像部2は、対象物OにX線を照射するX線管21と、X線管21から照射され対象物Oを透過したX線を検出するX線検出器22とを備えている。X線検出器22については、イメージインテンシファイア(I.I)やフラットパネル型X線検出器(FPD: Flat Panel Detector)などに例示されるように、特に限定されない。本実施例では、X線検出器22としてフラットパネル型X線検出器(FPD)を例に採って説明する。
【0037】
FPDは、画素に対応して縦横に並べられた複数の検出素子からなり、X線を検出素子が検出して、検出されたX線のデータ(電荷信号)をX線検出信号として出力する。このようにして、X線管21からX線を対象物Oに向けて照射し、FPDからなるX線検出器22がX線を検出してX線検出信号を出力する。そして、X線検出信号に基づく画素値を画素(検出素子)に対応付けて並べることで投影データを取得する。
【0038】
ステージ駆動部4は、図示を省略するモータや駆動軸などから構成され、ステージ3を図中のZ軸心周りに水平面内で回転させる。ステージ3の水平面内での回転によって対象物OもZ軸心周りに水平面内で回転し、複数の投影データを取得する。
【0039】
撮像駆動部5は、ステージ駆動部4と同様に、図示を省略するモータや駆動軸などから構成されている。X線検出器22にX線管21が対向するようにそれぞれを移動させてX線CT撮影を行う。また、X線管21またはX線検出器22を水平方向(図中のX方向)に移動させて、X線CT撮影における拡大率を変更することも可能である。また、X線管21またはX線検出器22をX軸に対して傾斜させて、対象物Oの斜め方向から撮像することも可能である。
【0040】
高電圧発生部6は、高電圧を発生させて管電流や管電圧をX線管21に与えることで、X線管21からX線が発生して、対象物Oに対してX線を照射する。再構成処理部7は、後述する画像再構成処理プログラム8Aを実行することで、対象物Oに関する再構成画像を取得する。再構成処理部7の具体的な機能については詳しく後述する。
【0041】
その他に、X線CT装置1は、メモリ部8と入力部9と出力部10とコントローラ11とを備えている。
【0042】
メモリ部8は、コントローラ11を介して、X線検出器22で得られた投影データや再構成処理部7で得られた再構成画像などのデータを書き込んで記憶し、適宜必要に応じて読み出して、コントローラ11を介して、投影データや再構成画像を出力部10に送り込んで出力する。メモリ部8は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)やハードディスクなどに代表される記憶媒体で構成されている。
【0043】
本実施例では、投影データや制約として与える物質情報をメモリ部8から読み出して、コントローラ11を介して再構成処理部7に送り込んで、逐次近似法による画像更新や事前知識に対する重み係数マップを更新する重み係数マップ更新などの画像再構成処理(
図2のフローチャートを参照)を行う。また、画像再構成処理プログラム8Aがメモリ部8に記憶されており、コントローラ11を介して、画像再構成処理プログラム8Aをメモリ部8から再構成処理部7に読み出して、画像再構成処理プログラム8Aを再構成処理部7が実行することで、
図2のフローチャートに示す画像再構成処理を行う。画像再構成処理プログラム8Aは、本発明における画像再構成処理プログラムに相当する。
【0044】
入力部9は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ11に送り込む。入力部9は、キーボードと、マウスやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。
【0045】
出力部10は、モニタなどに代表される表示部やプリンタなどで構成されている。本実施例では、投影データや再構成画像を出力部10のモニタに表示する。
【0046】
コントローラ11は、X線CT装置1を構成する各部分を統括制御する。X線検出器22で得られた投影データや再構成処理部7で得られた再構成画像などのデータを、コントローラ11を介して、メモリ部8に書き込んで記憶、あるいは出力部10に送り込んで出力する。出力部10が表示部の場合には出力表示し、出力部10がプリンタの場合には出力印刷する。
【0047】
本実施例では、再構成処理部7やコントローラ11は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。なお、再構成処理部7については、GPU(Graphics Processing Unit) などで構成されてもよい。
【0048】
次に、再構成処理部7(
図1を参照)の具体的な機能について、
図2〜
図6を参照して説明する。
図2は、実施例に係る画像再構成処理のフローチャートであり、
図3は、各ステップにおける生成データであり、
図3(a)は、ステップS2で得られた再構成画像μであり、
図3(b)は、ステップS3で得られたエッジ画像Eであり、
図3(c)は、ステップS4で得られた重み係数マップWであり、
図4は、微細構造保持に関する重み係数マップの適用結果であり、
図4(a)および
図4(b)は物質情報による制約がない逐次近似法による再構成画像であり、
図4(c)および
図4(d)は重み係数マップなしの物質情報による制約がある逐次近似法による再構成画像であり、
図4(e)および
図4(f)は重み係数マップありの物質情報による制約がある逐次近似法による再構成画像であり、
図5は、ガタツキ低減に関する重み係数マップの適用結果であり、
図5(a)は重み係数マップなしの再構成画像であり、
図5(b)は重み係数マップありの再構成画像であり、
図6は、物質境界のプロファイルである。
【0049】
(ステップS1)初期重み係数設定
事前知識の重み係数マップをWとする。事前知識の重み係数マップWの各要素を1.0で初期化する。なお、j番目の画素に対応するマップ係数をW
jで表す。また、何らかの初期マップを用いて重み係数マップWを初期化してもよい。ここで、事前知識として、例えば上述した物質情報や複数の画素値における滑らかさを示す平坦情報などがある。
【0050】
(ステップS2)逐次近似法による画像更新
再構成画像をμとする。各種の逐次近似法により再構成画像μを更新する(
図3(a)を参照)。最適化アルゴリズムとして上述した最急降下法を使用した場合、n回目の繰り返しにおける再構成画像μ中の各画素μ
jの更新式は、下記(4)式で表される。
【0051】
【数2】
【0052】
上記(4)式は上記(3)式のβにW
jを掛けた形となっており、これにより画素位置に応じて事前知識の重みに異なる値を持たせることが可能となる。逆に、W
jを1とすれば上記(3)式と等価となる。上記(3)式は上記(1)式を最大化(最適化)する更新式であるのに対し、上記(4)式は上記(1)式から直接導出していないので、厳密には上記(1)式を最大化(最適化)する更新式にはなっていない。つまり、この係数βの置き換えは、間接的に目的関数の事前知識を修正していることになる。なお、上記では最急降下法を例に説明したが、最適化アルゴリズムとしては上述したNewton法などを用いてもよく、上述した遺伝的アルゴリズムや焼きなまし法などの組み合わせ最適化法が適用されていてもよい。
【0053】
また、本ステップS2ではX線管21(
図1を参照)やX線検出器22(
図1を参照)の物理的特性(例えばビームハードニング・散乱等)を補正する処理を含んでいるのが好ましい。本実施例では当該処理を行っているが、これらの特性が無視できるような場合には、この処理を行わなくてもよい。その他、物理的特性の補正の有無や順序を適宜変更する場合も、本発明に含まれる。このステップS2は、本発明における画像更新工程に相当する。
【0054】
(ステップS3)再構成画像からエッジ抽出
エッジ画像をEとする。ステップS2での処理の画像更新によって得られた再構成画像μからエッジを抽出し、エッジ画像Eを生成する(
図3(b)を参照)。なお、j番目の画素におけるエッジ強度をE
jで表す。エッジ抽出手法としては、SobelフィルターやLaplacianフィルター等を利用する。これらのフィルタリング処理によって、再構成画像μの画素値に依存したエッジ強度E
j(具体的には一次微分値・二次微分値)が算出される。なお、微細なエッジを連結するなどの目的のために、エッジ画像Eに平滑化フィルターなどを適用してもよい。
【0055】
なお、「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、境界を滑らかにすることを目的として再構成処理後に再構成画像そのものに平滑化を行うことも考えられる。重み係数マップを伴わない物質情報制約付きの逐次近似法では、微細構造が保持されずに再構成画像が得られてしまうので、かかる微細構造が保持されずに得られた再構成画像に対して平滑化を行ったとしても、微細構造を復元することができない。
【0056】
(ステップS4)重み係数マップ更新
ステップS3での処理で抽出されたエッジ画像Eを用いて、重み係数マップWを更新する(
図3(c)を参照)。エッジ強度E
j(j:画素番号)が大きいほど、重み係数マップの値W
jが小さくなるように、以下のような計算式を用いる。
計算式の例:W
j=exp(−γ×E
j) (γは定数)
この処理によって再構成画像μのエッジ部分に対応するマップ係数W
jに適当な値が設定されることになる。以上のように、このステップS4は、本発明における重み係数マップ更新工程に相当する。次に、逐次近似式での繰り返し回数(反復回数)のカウンタ変数nをインクリメントする。
【0057】
(ステップS5)画像更新の終了?
逐次近似法による画像更新を終了する反復回数をN
iterとし、カウンタ変数nが反復回数N
iterに達したか?否かを判断する。なお、反復回数N
iterについてはオペレータが予め設定すればよい。カウンタ変数がN
iter以下の場合にはステップS2〜S4を継続するために、ステップS2に戻る。カウンタ変数がN
iterを超えた場合には一連の計算を終了する。
【0058】
このようにして得られた推定画像を再構成画像として取得する。また、反復回数N
iterを設定せずに、更新の度に得られた推定画像をオペレータが観察して、観察結果に基づいて一連の計算をオペレータが中断して、そのときに得られた推定画像を再構成画像として取得してもよい。または、何らかの収束評価値(目的関数の値など)が判定基準値を上回った、あるいは下回ったかによって判定してもよい。
【0059】
以上のステップS1〜S5の操作により、混合画素に対する事前知識(物質情報)の効果が弱められる。その結果、物質情報によるアーティスト低減効果を維持しながらも、微細構造が保持された再構成画像(
図4を参照)や、滑らかな境界を持つ再構成画像(
図5および
図6のプロファイルを参照)が得られる。
【0060】
図4(a),
図4(c)および
図4(e)は、同一の画像からそれぞれ得られた逐次近似法による各々の再構成画像であり、
図4(b),
図4(d)および
図4(f)は、同一の画像からそれぞれ得られた逐次近似法による各々の再構成画像である。物質情報による制約がない場合には、
図4(a)では左斜め方向のアーティファクトが生じていることが確認され、重み係数マップなしの物質情報による制約がある場合には、
図4(d)では微細構造が保持されていないことが確認されている。これらに対して、本実施例のように、重み係数マップありの物質情報による制約がある場合には、
図4(e)および
図4(f)ともに物質情報によるアーティスト低減効果を維持しながらも、微細構造が保持された再構成画像が得られることが確認された。これにより、本微細な構造が消失することもなく再構成画像を得ることができる。
【0061】
図5(a)および
図5(b)は、同一の画像からそれぞれ得られた逐次近似法による各々の再構成画像である。重み係数マップがない場合には、
図5(a)では境界においてガタツキが発生し、
図6の点線のプロファイルでは境界において急峻な段差が確認されている。これらに対して、本実施例のように、重み係数マップがある場合には、
図5(b)では境界においてガタツキがなくなり、
図6の実線のプロファイルでは境界において段差が滑らかになっていることが確認された。これにより、本来滑らかであるべき物質情報が不自然にがたつくこともなく再構成画像を得ることができる。
【0062】
本実施例に係る画像再構成処理方法によれば、画像更新工程(
図2ではステップS2)では、逐次近似法により画像(再構成画像μ)を更新し、重み係数マップ更新工程(
図2ではステップS4)では、当該画像更新工程(ステップS2)での画像の更新によって得られた再構成画像μから、事前知識に対する重み係数マップWを生成して、当該重み係数マップWに基づいて各画素jに対する事前知識の重み係数W
jを調整することで重み係数マップWを更新する。このように、画像の更新によって得られた(推定中の)再構成画像μから、事前知識に対する重み係数マップWを生成して、当該重み係数マップWに基づいて各画素jに対する事前知識の重み係数W
jを調整することで、高画質な再構成画像が得られないという問題点を解決することができる。つまり、各画素jに対する事前知識の重み係数W
jを調整することで、再構成画像μの画素に対して過度な制約を与えることを回避することができ、高画質な再構成画像μを得ることができる。
【0063】
なお、「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、特許文献2:米国特許第8,958,660号公報で提案されている手法は、ボクセル依存型スケーリング・ファクタを算出するための係数マップを目的関数の勾配に適用する。つまり、特許文献2では目的関数全体から算出される更新量に対して重み係数マップを生成する点で本発明の実施例と相違する。
【0064】
また、特許文献2では目的関数全体に対して重み係数を調整しようとすると、データ項にまで重み係数が掛けられ、データ項の更新量までが抑制されてしまい、逐次近似法における再構成の処理スピードが遅くなる。その結果、逐次近似法での繰り返し回数(反復回数)を増やさなければならない。これに対して、本発明の実施例の場合には重み係数マップWを事前知識のみ(上記(4)式の妥当性項Rを参照)に適用するので、逐次近似法における再構成の処理スピードが速くなり、逐次近似法での繰り返し回数(反復回数)nを減らすことができる。
【0065】
本実施例では、重み係数マップとして、複数の物質が混合した画素である混合画素の情報を反映したマップを用いている。混合画素の情報を用いて当該情報を反映したマップを重み係数マップとすることで、混合画素に対する事前知識(物質情報)の効果が弱められる。その結果、物質情報によるアーティスト低減効果を維持しながらも、微細構造が保持された再構成画像(
図4(e)および
図4(f)を参照)や、滑らかな境界を持つ再構成画像(
図5(b)および
図6の実線のプロファイルを参照)が得られる。
【0066】
具体的には、本実施例では再構成画像μのエッジ情報を用いて重み係数マップWを生成する(
図2のステップS4を参照)。例えば、W
j=exp(−γ×E
j)のように、エッジ強度E
j(j:画素番号)が大きいほど、重み係数マップの値W
jが小さくなるように設定する。また、本実施例では、
図2のフローチャートに示すように重み係数マップを更新するタイミングを画像更新毎としている。
【0067】
本実施例に係る画像再構成処理プログラム8A(
図1を参照)によれば、本実施例に係る画像再構成処理方法(
図2のフローチャートを参照)をコンピュータ(本実施例では
図1に示す再構成処理部7を構成するCPUまたはGPU)に実行させることによって、再構成画像μの画素に対して過度な制約を与えることを回避することができ、高画質な再構成画像μを得ることができる。
【0068】
本実施例に係る断層撮影装置(本実施例ではX線CT装置)によれば、画像再構成処理プログラム8Aを実行する演算手段(本実施例では
図1に示す再構成処理部7を構成するCPUまたはGPU)を備えることによって、再構成画像μの画素に対して過度な制約を与えることを回避することができ、高画質な再構成画像μを得ることができる。
【0069】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0070】
(1)上述した実施例では、断層撮影装置としてX線CT装置を例に採って説明したが、逐次近似法による再構成処理を行う断層撮影装置であれば、特に限定されない。磁気共鳴診断装置(MRI: Magnetic Resonance Imaging) や光CT装置やX線以外の放射線(α線、β線、γ線など)断層撮影装置などに適用してもよい。
【0071】
(2)上述した実施例では、
図1に示すような工業用や産業用の検査装置に適用したが、被検体を人体または小動物とした医用装置に適用してもよい。
【0072】
(3)単一波長X線(単色X線)や複数の波長からなるX線(多色X線)などに例示されるように、適用するX線の種類については特に限定されない。
【0073】
(4)上述した実施例では、
図1に示す撮影態様であったが、トモシンセシス(tomosynthesis) などに例示されるように、断層撮影に関する撮影態様については特に限定されない。
【0074】
(5)上述した実施例では、上記(4)式では1種類の事前知識(妥当性項R)を使用したが、複数の妥当性項(R
1,R
2,…)を導入した場合には、各妥当性項に共通する重み係数マップWを生成してもよいし、各妥当性項に対応する異なる重み係数マップ(W
1,W
2,…)を生成してもよい。すなわち、(a)互いに異なる複数の事前知識(妥当性項R
1,R
2,…)に対して、同一の重み係数マップWを適用してもよいし、(b)互いに異なる複数の事前知識(妥当性項R
1,R
2,…)に対して、それぞれ異なる重み係数マップ(W
1,W
2,…)を適用してもよい。例えば、(b)において、2つの妥当性項R
1,R
2に対して、それぞれ異なる重み係数マップW
1,W
2を適用する場合には、n回目の繰り返しにおける再構成画像μ中の各画素μ
jの更新式は、下記(5)式で表される。β
1,β
2は、上記(1)式での説明でも述べたように妥当性項R
1,R
2の強さをコントロールする係数であり、経験的に決められることが多い。
【0075】
【数3】
【0076】
(6)上述した実施例では、重み係数マップを更新するタイミングを画像更新毎としていたが、重み係数マップを更新するタイミングは、一定間隔毎,一定の基準を満たすタイミングあるいは任意のタイミングであってもよい。
【0077】
(7)上述した実施例では、再構成画像のエッジ情報を用いて重み係数マップを生成することで、重み係数マップの生成を自動的に行ったが、重み係数マップの生成を手動で行ってもよい。例えば、再構成画像を表示(モニタリング)して、表示された再構成画像の(境界と認識される)任意の場所(画素)をオペレータ(ユーザ)が指定することで、任意の場所に手動で入力された情報を用いて重み係数マップを生成してもよい。
【0078】
(8)上述した実施例では、事前知識として物質情報を用いたが、事前知識であれば特に限定されず、例えば複数の画素値における滑らかを示す平坦情報などでもよく、物質情報と平坦情報とを組み合わせて用いてもよい。