(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558522
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から熱可塑性樹脂成形体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20190805BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
B29C45/00
B29B17/00
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-31710(P2015-31710)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-153189(P2016-153189A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊男
(72)【発明者】
【氏名】喜多 康夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 早矢花
(72)【発明者】
【氏名】北代 運
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−015721(JP,A)
【文献】
特開平11−207312(JP,A)
【文献】
特開平10−244536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00,
B29B 17/00−17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球体換算サイズとして直径が15mm〜50mmの範囲に入る熱可塑性樹脂の塊状物、粉末状の熱可塑性樹脂、そして熱可塑性樹脂以外の固形成分を含み、球体換算サイズとして直径が50mmを越える塊状物を実質的に含むことのない熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から熱可塑性樹脂成形体を製造するための下記の工程を含む方法:
熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物を順に、上記の熱可塑性樹脂の塊状物を分離除去する工程、粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程、そして比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程を含む方法により処理して再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得る工程、そして
上記再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を射出成形することにより成形体を得る工程。
【請求項2】
上記の熱可塑性樹脂の塊状物を分離除去する工程を、振動篩を用いて行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記の粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程を、風力を利用して行う請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記の比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程を、水を分散媒体とする比重差分離装置を利用して実施する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物について、予め磁石を用いる金属成分除去処理を行った後に、熱可塑性樹脂の塊状物を分離除去する工程に供する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物が、家庭用電化製品の熱可塑性樹脂成形体部品、または自動車の熱可塑性樹脂製内装部品もしくは外装部品の粉砕物である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂成形体廃棄物がポリプロピレン樹脂成形体廃棄物である請求項1に記載の予備処理方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から得た再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を射出成形することにより熱可塑性樹脂成形体を製造する方法であって、該再生熱可塑性樹脂成形体製造材料が、球体換算サイズとして直径が15mm〜50mmの範囲に入る熱可塑性樹脂の塊状物、粉末状の熱可塑性樹脂、そして熱可塑性樹脂以外の固形成分を含み、球体換算サイズとして直径が50mmを越える塊状物を実質的に含むことのない熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物を順に、上記の熱可塑性樹脂の塊状物を分離除去する工程、粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程、そして比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程を含む方法による予備処理を行って得た再生熱可塑性樹脂成形体製造材料であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から熱可塑性樹脂成形体を製造する方法の改良に関し、特には、ポリプロピレン樹脂成形体廃棄物の粉砕物からポリプロピレン樹脂成形体を製造する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年生産されている家庭用電化製品(以下、家電製品という)、自動車、事務用品、家具、日用品などの様々な商品あるいはその部品には、安価で軽量の熱可塑性樹脂の成形体が大量に使用されている。なかでも、ポリプロピレン樹脂は、安価であって、実用的には充分満足できる耐久性、耐衝撃性、そして耐熱性を示すため、各種の成形体製造用の樹脂原料として使用されることが多く、その成形体材料としての使用量は熱可塑性樹脂のなかでも圧倒的に多くなっている。
【0003】
このような熱可塑性樹脂の使用量の急激な増加に伴い、その成形体製品廃棄物の再資源化の要求が高まり、例えば、家電製品については、平成13年に家電リサイクル法が制定され、合成樹脂製品廃棄物の再資源化が義務化されている。このため、冷蔵庫、洗濯機、テレビジョンに代表される家電製品の廃棄物の再資源化の取り組みが急速に高まり、家電製品の製造メーカーでは、廃棄された家電製品の効率的な再資源化のための研究や技術開発が進められている。また、家電製品の製造メーカー以外にも、廃棄された家電製品の再資源化を業とする独立業者も現れ、同様に家電製品廃棄物の再資源化のための技術開発を行いながら、実際に家電製品の再資源化のビジネスを行っている。
【0004】
一方、現時点では、家電製品以外の合成樹脂成形体製品(例、自動車の内装部品及び外装部品、オフィスチェアーなどの事務用品、家具、日用品)の廃棄物については法律による規制は存在していないものの、各種材料の再利用という社会的な要求に応じて、それらの製品についても合成樹脂材料の再資源化の検討が行われ、一部ではそれらの再資源化作業も進んでいる。
【0005】
現在実施されている家電製品廃棄物を含めて各種の熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物の再資源化は通常、回収した廃棄物を粉砕機により一旦粉砕して粉砕物にした後、その粉砕物を加熱溶融しながら混練し、その混練物をペレット化する方法により実施されている。ただし、廃棄物の種類によっては、廃棄物の洗浄、金属材料等の異種材料の除去などの付随的な作業が行われる。このような作業は、再資源化した合成樹脂材料であっても、各種物性や純度については、可能な限り未使用の熱可塑性樹脂(バージン熱可塑性樹脂)に近づける必要があるため行われる作業である。このような廃棄物の洗浄や異種材料の除去などの予備的な処理は近年まで、主として人間の手によって行われていた。しかしながら、廃棄物の量の増大や人件費の高騰などのために、予備的な処理の省略あるいは簡略化の傾向が現れている。従って、近年では、回収され家電製品廃棄物のような金属材料を中心とした異種材料を含む熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物を、その異種材料を予め充分に取り除くことなく粉砕機により粉砕した廃棄物の粉砕物が再資源化原料として供給されるようになってきている。
【0006】
家電製品廃棄物のような異種材料を含む熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物の再資源化に際して近年見られる、上述の回収された廃棄物の予備処理作業の簡略化により発生する再資源化材料の品質の劣化については、再資源化処理を行う関係者の間で既に問題となっており、これまでにも廃棄物の粉砕物の予備処理に関する技術開発が行われている。
【0007】
例えば、特許文献1には、複数種の合成樹脂が混在する廃材から対象樹脂を分別・選別して再資源化するに際し、外観品位を向上し得る熱可塑性樹脂再生材を提供する発明が開示されているが、この特許文献1には、回収された家電製品については、家電リサイクル工場において、破砕(粉砕と同義)後に、磁気、風力、振動等を利用して材料毎に分別回収することが既に行われている旨の記載がある。そして、特に金属材料については、比重選別装置や磁気選別装置を利用することにより、その金属材料自体の再資源化も行われていることの記載もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−205258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の発明者もこれまでに、特にポリプロピレン樹脂成形体廃棄物を中心にした熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るための効率的な予備処理方法の開発を行ってきた。そして、最近顕著になった家電製品廃棄物を中心にした熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物の粉砕物の品質低下、すなわち異種材料の混入量の増加や粉砕物の粒径の不揃いの発生などの理由による品質低下による再資源化原料の品質の低下を考慮し、このような再資源化原料の品質の低下の発生を回避するための技術の確立を目指して、研究と技術開発を行ってきた。その結果、家電製品廃棄物などの熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物の再資源化のための予備処理方法として知られている、磁気、風力、振動などの予備処理を単独で行っても、近年の品質低下が顕著な熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物の粉砕物を再資源化材料として有効な熱可塑性樹脂材料とすることが困難であることを見出した。
【0010】
従って、本発明の課題、すなわち本発明の目的は、最近顕著になっている、再生熱可塑性樹脂成形体製造材料の製造に用いる熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物の粉砕物の品質低下を考慮して、そのような品質低下が目立つ熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物の粉砕物から、良好な品質の再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得ることを可能にする改良された予備処理工程を含む熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することにあり、特には、ポリプロピレン樹脂成形体廃棄物の粉砕物から良好な品質の再生ポリプロピレン樹脂成形体製造材料を得るための改良された予備処理工程を含む熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の目的の研究を行った結果、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るための予備処理工程を特定の順序にて組み合わせた予備処理を行うことにより、所望の品質や物性を示す再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を円滑に得ることが可能になること、そしてこのような予備処理を行って得た再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を射出成形することにより最終的に良好な外観と品質を持つ熱可塑性樹脂成形体を製造することが可能となることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から熱可塑性樹脂成形体を製造するための下記の工程を含む方法にある:
熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物を順に、塊状物を分離除去する工程、粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程、そして比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程を含む方法により処理して再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得る工程、そして
上記再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を射出成形することにより成形体を得る工程。
【0013】
また、本発明は、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から得た再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を射出成形することにより熱可塑性樹脂成形体を製造する方法であって、該再生熱可塑性樹脂成形体製造材料が、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物を順に、塊状物を分離除去する工程、粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程、そして比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程を含む方法により予備処理を行って得た再生熱可塑性樹脂成形体製造材料であることを特徴とする方法にもある。
【0014】
本発明において、予備処理の対象となる熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物は、熱可塑性樹脂成形体製品廃棄物および製品化されることなく廃棄処理された熱可塑性樹脂成形体を含む。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から熱可塑性樹脂成形体を得るために利用される予備処理の好ましい態様を以下に記載する。
(1)塊状物を分離除去する工程を、振動篩を用いて行う。
(2)粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程を、風力を利用して行う。
(3)比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程を、水を分散媒体とする比重差分離装置を利用して行う。
(4)熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物について、予め磁石を用いる金属成分除去処理を行った後に、塊状物を分離除去する工程に供する。
(5)熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物が、家庭用電化製品の熱可塑性樹脂成形体部品、または自動車の熱可塑性樹脂製内装部品もしくは外装部品の粉砕物である。
(6)熱可塑性樹脂成形体廃棄物がポリプロピレン樹脂成形体廃棄物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法において、前述の予備処理を行って得た再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を利用して射出成形により成形体とすることにより、最近品質低下が顕著になっている、再生熱可塑性樹脂(特にポリプロピレン樹脂)成形体製造材料の製造に用いる熱可塑性樹脂(特にポリプロピレン樹脂)成形体廃棄物の粉砕物から、公知の材料選別手段を用いて、良好な品質の熱可塑性樹脂成形体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から熱可塑性樹脂成形体の製造原料となる再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るための予備処理のフロー図である。
【
図2】本発明で利用する予備処理に含まれる「塊状物を分離除去する工程」の実施に用いることのできる振動篩の構造の例を示す模式図である。
【
図3】本発明で利用する予備処理に含まれる「粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程」の実施に用いることのできる風力選別装置の構造の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を経て熱可塑性樹脂成形体を製造する方法で利用される予備処理は、前述のように、品質低下が顕著になっている熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から、良好な品質の再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るために有効な三つの工程を特定の順序にて行うことを特徴とする。添付図面の
図1には、本発明で利用する予備処理にて実施する各工程、そして予備処理を施した熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から、溶融混練押出工程とペレット化工程を経てペレット状の再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得る方法の工程のフロー図を示す。
【0019】
以下に、本発明の熱可塑性成形体の原料となる再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るための予備処理方法にて実施する各工程の説明、そして各工程が特定の順序とする必要性に関する詳しい説明を記載する。
【0020】
<第1工程:粉砕物から塊状物を分離除去する工程>
第1工程は、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から、主として熱可塑性樹脂の塊状物を分離除去する工程である。本発明の予備処理の対象となる熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物の代表例としてはポリプロピレン樹脂成形体廃棄物の粉砕物を挙げることができるが、ポリプロピレン樹脂成形体廃棄物の粉砕物に限られるわけではなく、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂などの各種の熱可塑性樹脂の成形体廃棄物の粉砕物を処理対象とすることができる。ここで「熱可塑性樹脂の塊状物」とは、実質的に熱可塑性樹脂のみからなる塊状物及び熱可塑性樹脂と金属材料破片などの異種材料とで形成されている塊状物を意味する。また、分離除去の対象となる「塊状物」とは、球体換算サイズとして、直径が15mm〜50mmの範囲に入るものを意味する。ただし、分離除去される塊状物にこの範囲のサイズ以外の粉砕物もしくは粉砕物の塊が含まれていてもよい。
【0021】
また、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の例としては、電気冷蔵庫、電気洗濯機、炊飯器、空気清浄機、テレビジョン、ラジオ、ラジオカセットなどの家庭用電化製品、自動車内装部品、自動車外装部品、家具、什器、事務用品、玩具などの各種の熱可塑性樹脂成形体製品の廃棄物、そして、製品化されることなく廃棄処理された各種の熱可塑性樹脂成形体を含む。
【0022】
すなわち、本発明者の研究によると最近供給されている熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物には、所望のサイズの粉砕物以外に、主として熱可塑性樹脂を主成分とするサイズの大きな塊状物が少なくない量にて混入する傾向があることが判明した。このような塊状物の混入は、回収した熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕に際して、予め人手をかけての充分な廃棄物の分類、再生対象でない金属材料の除去などが行われないため、金属材料破片と熱可塑性樹脂とからなる塊状物ができやすいこと、そして粉砕処理条件の制御の不充分さに起因する熱可塑性樹脂の粉砕物の粒度分布の拡大、そして粉砕処理の際に発生する熱による熱可塑性樹脂粒子同士の融着などが原因で発生すると推測される。本発明者の研究によると、このような塊状物の混入は、熱可塑性樹脂成分からの金属材料成分の分離除去の妨げになり、また予備処理物を加熱混練するために混練機(溶融混練機、押出混練機などとも呼ぶ)に投入した際に、混練機に装着したスクリーンに詰まったり、また混練機の入り口に装着されているロールに詰まったりするため、円滑な加熱混練操作の妨げとなる場合があることが判明した。
【0023】
従って、本発明の熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から熱可塑性樹脂成形体を製造するために利用される予備処理では、粉砕物から塊状物を分離除去する工程を最初に行う必要がある。ただし、人手による異物の除去操作や、磁石を利用した金属材料の除去操作を、この「粉砕物から塊状物を分離除去する工程」より先に行なうことも好ましい。
【0024】
図2に、予備処理方法に含まれる第1工程である「塊状物を分離除去する工程」の実施に用いることのできる振動篩の構造の例を示す模式図を示す。
図2に示した振動篩は、重比重物と軽比重物とを選別するための乾式選別機として既に市販されている装置であるが、本発明では、この振動篩を塊状物の分離除去装置として使用することができる。
【0025】
図2に示した振動篩10では,両側面に吸気用の開口を形成した箱形の筐体11の内部にモータ12に接続された送風機13が設置され、筐体の両側面から取り入れた空気を送風機13により上方に送るようにされている。筐体11の上方には、ばねを内包する帆布14により枠体15が支持されている。枠体15には、空気流を整流するための整流格子16と通風多孔膜17を介して選別デッキ(スクリーン)18が傾斜状態で設置されている。
【0026】
回収された家電廃棄物などの熱可塑性樹脂廃棄物の粉砕により得られた粉砕物は、人手による予備選別や磁石を利用した金属材料除去処理を任意に行った後、振動状態とされている振動篩10の選別デッキ18の上面に注ぎ込まれる。振動状態の選別デッキ18の上面に注ぎ込まれた粉砕物は、傾斜配置されている選別デッキから付与される振動により振動し、塊状物(あるいは大きな破片、粗大粒子)は選別デッキ18で高い位置にある側(
図2では、左側)に徐々に移動し、選別デッキ18の最も高い位置に隣接して備えられている塊状物出口19から排出される。一方、標準的な大きさの粒子や粉末状粒子は低い位置にある側(
図2では、右側)に徐々に移動し、選別デッキ18の最も低い位置に隣接して備えられている原料粉砕物出口20から回収される。
【0027】
<第2工程:粉末状の熱可塑性樹脂を分離除去する工程>
上記の第1工程を経た原料粉砕物は、所望により磁石を用いた金属材料除去処理を行った後に、粉末状の熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂)粉末を分離除去する工程(第2工程)に供される。この第2工程は、風力の作用を利用して、相対的に直径が大きい粒子と微粒子状の粉末とを分離するための工程である。本発明の熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るための予備処理方法において、この熱可塑性樹脂粉末を分離除去する工程が必要とする理由は次の通りである。
【0028】
本発明に従って予備処理を行った原料粉砕物(熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物)は通常、次いで再生熱可塑性樹脂成形体製造材料として使用するために、溶融混練押出工程とペレット化工程に供せられる。前者の溶融混練押出工程では、原料粉砕物は、加熱された混練機に投入され、加熱下で溶融混練が行われる。この原料粉砕物の混練機への投入は混練機に設置されているホッパーを介して行われるが、混練機に設置されているホッパーも、混練機の加熱により高温に加熱されることになる。本発明者の調査によると、原料粉砕物を高温となっているホッパーに投入すると、ホッパーの下部の細くなっている管部で熱可塑性樹脂粉末が溶融を始め、このため管部を閉塞させるというトラブルを発生させやすいことが判明した。このようなホッパーの下部の管部の閉塞が発生すると、混練操作を一旦中断しなければならないこともあり、効率的な再生熱可塑性樹脂成形体製造材料の製造には大きな障害となる。
【0029】
上記の風力の作用を利用して、相対的に直径が大きい粒子と微粒子状の粉末とを分離するための第2工程は、添付図面の
図3に示したような構成の風力選別装置を利用して行うことが有利である。
図3において、風力選別装置30は、原料粉砕物供給口31、粒子状粉砕物回収口32、そして粉末回収口33を備えた箱状の筐体34から構成されている。風力選別装置30の略中央部には、筐体内部で回転空気流を作り出すシロッコファン35が設置されている。
【0030】
第1工程の処理により塊状物が分離除去された原料粉砕物は、シロッコファン35を作動させることにより回転空気流が作り出された風力選別装置30の原料粉砕物供給口31から投入される。投入された原料粉砕物は、回転空気流と接触し、原料粉砕物に含まれていた熱可塑性樹脂粉末及びその他の軽量粉末は、回転空気流と共に上方に移動し、その後落下して粉末回収口33に到達する。
【0031】
なお、この第2工程では、主として、相対的に粒子径の小さな熱可塑性樹脂粉末が分離除去されるが、併せて、混在している場合があるパルプ類、微粒子状のゴム成分、微粒子状の熱硬化性樹脂成分なども分離除去される。
【0032】
なお、この第2工程である熱可塑性樹脂粉末を分離除去する工程は、
図3に示したような回転空気流を利用する装置を用いる代わりに、
図2に示した振動篩による塊状物の分離操作の際に下部の送風機から吹き上げられる空気流により選別デッキから吹き上げられる熱可塑性樹脂粉末を集塵機を利用して回収除去する方法を利用して実施することも可能である。
【0033】
<第3工程:比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程>
熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るための予備処理方法において、比重差を利用することにより熱可塑性樹脂以外の固形成分を除去する操作自体は先に挙げた特許文献1にも記載されているように、一般的に利用されている操作である。
【0034】
比重差を利用して熱可塑性樹脂以外の固形成分を分離除去する工程で最も一般的な比重差分離装置は、媒体として水を用いる比重差分離装置である。すなわち、比重差分離装置は、比重差による選別のための媒体として水を収容している容器に,処理対象の粉砕物を投入する投入口と回収目的の熱可塑性樹脂粒子を取り出すための回収口からなる基本構成からなる。そして、処理対象の粉砕物を投入口から投入し、回収口側に移動させることにより、通常は、軽量(比重が1.0未満)の熱可塑性樹脂粒子が浮上した状態で移動し、一方、比重が1.0以上の粒子(例、残留していた金属粒子、セラミック粒子、ゴム成分)は、水中に沈降する。なお、比重が1.0以上の合成樹脂粒子が混在していれば、それも同様に沈降する。従って、この第3工程において、回収対象の熱可塑性樹脂成分(例、ポリプロピレン樹脂)と、回収対象外の混在樹脂成分(比重の大きな熱可塑性樹脂成分および熱硬化性樹脂成分)の分離除去を行うこともできる。また、所望により、分散媒体として水より比重が大きい液体を使用することによって、比重が1.0以上の熱可塑性樹脂粒子を金属成分などから分離回収することも可能である。
【0035】
以上に説明した各工程により、熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物から再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るための予備処理は完了する。
【0036】
上記のように熱可塑性樹脂成形体廃棄物の粉砕物の予備処理により得られた熱可塑性樹脂粒子から再生熱可塑性樹脂成形体製造材料を得るためには通常、その熱可塑性樹脂粒子を混練機に投入し、加熱溶融状態で混練と押出を行い、次いでペレット化する。このような熱可塑性樹脂材料の溶融混練押出操作とペレット化操作は、未使用(バージン)の熱可塑性樹脂材料を原料として熱可塑性樹脂ペレットを得るための操作として公知である。
【0037】
<再生熱可塑性樹脂成形体の製造>
これまでに述べた予備処理を施して得た再生熱可塑性樹脂成形体製造材料は、そのまま、あるいはペレットとして用い、これを射出成形により熱可塑性樹脂成形体とすることができる。再生熱可塑性樹脂成形体製造材料の射出成形により熱可塑性樹脂成形体を製造する方法は、バージン熱可塑性樹脂の射出成形により成形体を製造する方法と本質的には相違はなく、公知の装置にて公知の条件を利用して実施することができる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
家電製品廃棄物の粉砕物として廃棄処分された冷蔵庫の熱可塑性樹脂成形体部分の粉砕物(熱可塑性樹脂の大部分はポリプロピレン樹脂であり、大部分の粉砕物の粒径は約10〜15mmの範囲にあるが、粒径が10mm未満の粉砕物及び粒径が15mm以上で50mm以下の粉砕物もそれぞれ少量ずつ混在していた)を入手し、この粉砕物について、本発明に従う予備処理を施した。すなわち、この粉砕物500kgを、
図2に示した振動篩の選別デッキ上に投入し、振動篩の下部に設置された送風機から空気流を上方に送りながら、振動篩を作動させた。この振動篩による粉砕物の選別処理により、ポリプロピレン樹脂を主成分とする塊状物の大部分が分離除去され粉砕物480kgが得られた。次いで、塊状物の大部分が分離除去された粉砕物を
図3に示した風力選別装置に投入し、主としてポリプロピレン樹脂粉末からなる微粒子を分離除去した。その結果として回収された粉砕物は478kgであった。
【0039】
上記の風力選別装置から取り出された粉砕物は、次に水を分散媒体とし、比重差を利用する分離装置に投入し、公知の方法に従って、金属成分などの比重が1.0以上の混入物を沈降させた。次いで、分離装置から回収した後、乾燥することにより、粒径が揃った粒状のポリプロピレン樹脂(再生熱可塑性樹脂成形体製造用材料)470kgが得られた。
【0040】
上記の予備処理を施して得た粒状のプロピレン樹脂を混練機に投入して加熱溶融して混練した後、混練機より押出、次いでペレット化装置を用いてポリプロピレン樹脂ペレット450kgを得た。この粒状のプロピレン樹脂の混練機における溶融混練操作はトラブルが発生すること無く極めて円滑に実施できた。
【0041】
次いで、上記のポリプロピレン樹脂ペレットを射出成形機に投入して射出成形することにより成形体(テストピース)を製造したところ、優れた外観と品質を持つポリプロピレン樹脂成形体が得られた。
【符号の説明】
【0042】
10 振動篩
12 モータ
13 送風機
14 帆布(ばね内包)
15 枠体
16 整流格子
17 通風多孔膜
18 選別デッキ
19 塊状物出口
20 原料粉砕物出口
30 風力選別装置
31 原料粉砕物供給口
35 シロッコファン