【実施例】
【0044】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
血漿中のアクネ菌菌体成分の検出
アクネ菌菌体成分(リポテイコ酸)に対する特異的なマウスモノクローナル抗体を捕獲抗体とし、アクネ菌破砕液を免疫抗原として作成したウサギポリクローナル抗体を検出抗体とするサンドイッチ ELISAによりリポテイコ酸の検出を行った。
【0046】
モノクローナル抗体の作製
モノクローナル抗体の作製は、当技術分野における技術常識に基づき、Negi M. et al., Modern Pathology, 25: 1284-1297 (2012)、Yuan Bae et al., PLOS ONE, 9(2), e90324, February (2014)等に記載した手順で行った。
【0047】
簡単に記載すると、血清型I型アクネ菌溶解物でBALB/cマウス(CLEA Japan)を免疫し、アクネ菌に対する抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を、アクネ菌感染ラット肝組織切片を用いた免疫染色によってスクリーニングした。ヒト組織及び他の細菌との交差反応性を示さず、最も強い特異性を示した抗体を産生するハイブリドーマを選択してクローニングした。得られたクローンを重症複合型免疫不全症のマウス(CLEA Japan)の腹腔内に注入し、1〜2週間後に腹水を回収し、抗体を取得した。
【0048】
得られた抗体の特異性を、血清型I型のアクネ菌株(ATCC6919及びATCC11827)、血清型II型のアクネ菌株(ATCC11828)、19種のアクネ菌臨床単離株(血清型I型10株及びII型9株)、及び他の対照細菌株を用い、ウエスタンブロッティングにより確認した。
【0049】
その結果、得られた抗体(PAL抗体)は、血清型I型アクネ菌が有するリポテイコ酸のエピトープを特異的に認識するものであった。
【0050】
同様にして、血清型II型アクネ菌が有するリポテイコ酸のエピトープを特異的に認識する抗体(PAC2抗体)を作製した。
【0051】
アクネ菌リポテイコ酸の抽出及び精製
アクネ菌リポテイコ酸の抽出には、血清型I型であるATCC6919株、及びII型であるATCC 11828株を用いた。菌をGAM培地で6日間嫌気培養し、1gを滅菌PBS 15m1に懸濁し、ロイペプチンを最終濃度1μg/mlになるよう添加した後、超音波破砕を1時間行った。菌破砕液を3000回転20分遠心し、上清を回収後、等容のフェノールを加え、4℃で1時間振盪した。5000回転10分遠心し、分離した2層のうち上清を回収し、透析膜を用いてMQ透析を一晩行った。翌日、透析膜からサンプルを回収して凍結乾燥を行い、クロロホルムとメタノールを2:1の割合で混合し、凍結乾燥前のサンプルと等量加え、4℃で1時間振盪させた。5000回転10分で遠心後、沈殿成分を10mlの0.05M Tris-HC1(pH 8.0)に10 mM MgCl
2を加えた溶液に再浮遊させた。次いで、DNase、RNaseをそれぞれ最終濃度が0.02 mg/mlになるよう加え、37℃で16時間インキュベートした。等容のフェノールを加え、4℃で1時間振盪させた後に5000回転10分遠心し、上清に対しMQ透析、凍結乾燥を行った。凍結乾燥後、クロロホルム、メタノール混合液を等量加え、4℃、1時間で振盪し、5000回転で10分遠心した。上清を捨て1mlの滅菌MQ水に溶解して凍結乾燥し、抽出したリポテイコ酸の乾燥重量を計測し、解析に利用した。
【0052】
血漿サンプルの処理
血中リポテイコ酸の検出系の開発にあたり、健常人血漿に、精製した血清型I型及びII型アクネ菌リポテイコ酸を最終濃度0、0.1、1、10μg/mlになるように加えたものをサンプルとし、サンプル処理条件の検討を行った。
【0053】
本発明の方法の処理を行う場合、滅菌PBSで4倍希釈したヒト血漿25μlに、0.1Mグリシン塩酸塩(pH1.0)を等量加えてpH2.5に調整し、十分混和させた後、4℃で一晩インキュベートした。翌日煮沸を10分間行い、1M Tris-HC1(pH 13)を4.5μl加えて測定時のサンプルのpHを中性(pH7.0)に戻した。
【0054】
サンドイッチ ELISA
平底の96穴プレートをELISA用プレートとして用いた。まず、捕獲抗体として血清型I型アクネ菌リポテイコ酸に特異的なマウスモノクローナル抗体(PAL抗体)、及び血清型II型アクネ菌リポテイコ酸に特異的なマウスモノクローナル抗体(PAC2抗体)をクエン酸緩衝液(pH 9.6)で1000倍希釈し、1ウェル当たり50μl分注して、37℃で1時間静置して固相化した。
【0055】
プレートをTween-PBSで洗浄後、調整した各血漿サンプル及びスタンダードサンプルを1ウェル当たり50μlずつ分注し、37℃で1時間反応させた。
【0056】
Tween-PBSで洗浄後、検出抗体として、アクネ菌破砕液を免疫して作製した抗アクネ菌ウサギポリクローナル抗体をTween-PBSで500倍希釈したものを、1ウェル当たり50μl分注し、37℃で1時間反応させた。
【0057】
Tween-PBSで再度洗浄後、2次抗体としてEnvision(HRP標識抗ウサギポリマー抗体:Dako社製)をTween-PBSで10倍希釈し1ウェル当たり50μ1分注し、室温で30分反応させた。
【0058】
Tween-PBSで洗浄し、0.3%o-フェニレンジアミン二塩酸塩、0.04% H
2O
2を加えたクエン酸リン酸緩衝液(pH5.4)を1ウェル当たり50μl加えて遮光し、室温で15分発色させ、2N HClを1ウェル当たり25μl加え発色反応を停止させた。その後、プレートリーダーにて490 nmの吸光度を測定した。
【0059】
結果
血漿中に存在するアクネ菌菌体を検出するために通常のサンドイッチ ELISA法を用いた場合、血中にアクネ菌菌体が多量に存在すると想定されるサルコイドーシス患者及び健常者のいずれにおいても、ほとんど検出は不可能であった(
図1)。
【0060】
健常人血漿にアクネ菌より抽出精製したリポテイコ酸を添加したものをサンプルとして用いて検討した結果、サンプルの前処理を行わず、従来のサンドイッチELISA法により検出したところ、高濃度のリポテイコ酸を含有するサンプルでも濃度に対応したリポテイコ酸の検出ができなかった(
図2(a))。この原因としては、検出に用いる抗体と血漿中に存在するリポテイコ酸に結合可能な内在性の抗体とがリポテイコ酸との結合において競合していることが考えられた。従って、この条件では免疫複合体を形成した状態のリポテイコ酸を検出することができず、遊離した状態のリポテイコ酸のみを検出していると考えられた。
【0061】
次いで、サンプルを低pH条件(pH2.5)で処理し、4℃で一晩インキュベートすることでヒトイムノグロブリンをリポテイコ酸から解離させ、測定時にpHを中性に戻したサンプルを用いて検出を試みたが、これも検出は不可能であった(
図2(b))。これは、低pH処理によってリポテイコ酸と解離した内在性抗体が、pHを中性にした際に、リポテイコ酸に再結合したことが原因と考えられた。そのため、処理しなかった場合と検出効率は大きく変化しなかった。
【0062】
そこで、サンプルに一晩低pH処理をした後、煮沸を10分間行うことで、内在性抗体を失活させることとした。煮沸処理後、pHを中性に戻して測定した結果、リポテイコ酸を検出することができた(
図2(c))。煮沸処理によって、サンプル中の内在性抗体が変性し、再結合を回避することができ、リポテイコ酸を濃度依存的に検出することができたと考えられる。
【0063】
[実施例2]
煮沸処理によるリポテイコ酸への影響
本発明の方法、特に煮沸処理が、検出対象のリポテイコ酸に与える影響の有無を確認した。アクネ菌ATCC6919株破砕液の320μg/m1からの希釈系列を作成して滅菌PBS中に添加したサンプルを用い、実施例1と同様の処理を行ってリポテイコ酸の検出を行った。
【0064】
その結果、
図3に示すように、煮沸処理を行った場合(
図3(b))、煮沸処理を行わなかった場合(
図3(a))と比較して、リポテイコ酸の検出値は若干低くなる傾向が認められたが、本方法の有効性が損なわれるものではなかった。
【0065】
リポテイコ酸自体への処理の影響を考慮するためには、例えば規定量のリポテイコ酸を含む標準サンプルを同様に処理することによって、検出結果を補正することができる。
【0066】
[実施例3]
サンプル中の内在性抗体量による検出結果への影響
リポテイコ酸に対する抗体価が低い健常人血漿、及び高い健常人血漿に対し、アクネ菌ATCC6919株の破砕液を過剰量添加したものをサンプルとして用い、本発明の方法によって測定を行い、サンプル処理の有無による比較を行った。
【0067】
その結果、サンプル処理を行わなかった場合(
図4(a))、菌体成分の最終濃度が40μg/mlの場合、抗体価が低い血漿においてはリポテイコ酸の検出が可能であったが、抗体価の高い血漿においては検出不能であった。一方、サンプル処理を行った場合(
図4(b))、血漿中の抗体価に影響されることなく、低濃度の菌体成分でも同程度に検出された。
【0068】
[実施例4]
標準曲線の作成
実施例2の結果より、本発明の方法でサンプル処理を行った場合、リポテイコ酸の検出値が予測値よりも若干低くなるため、異なる濃度の規定量のリポテイコ酸を含む標準サンプルを準備し、同様のサンプル処理を行うことで標準曲線を作成した。
【0069】
定量系を作製するために、リポテイコ酸を含まない健常者血漿を用いた標準サンプルを作製した。標準サンプルを用いることで、サンプル中のリポテイコ酸の上記処理によるダメージによる検出結果への影響を補正することができる。
【0070】
定量における標準サンプルは、健常人血漿数名分を用いた予備検討においてアクネ菌に対する抗体価が高く、通常のサンドイッチ ELISAでは検出ができない健常人血漿を滅菌PBSで4倍希釈し、アクネ菌ATCC6919株、及びATCC11828株のリポテイコ酸を加えて希釈系列を作成し、低pH処理及び煮沸処理を行った。
【0071】
標準サンプルは、血清型I型アクネ菌リポテイコ酸の検出では10000 ng/ml、血清型II型アクネ菌リポテイコ酸の検出では1000 ng/mlから希釈して調製した。各標準サンプルを実施例1と同様に処理し、490nmで測定した吸光度より標準曲線を作成した。標準曲線の一例を
図5に示す。
【0072】
次に、本発明の方法による測定の精度を確認するために、別日に施行したアッセイ5回分の標準サンプルによる検出結果を用い、アッセイ内、及びアッセイ間の変動係数を算出した。表1に血清型I型リポテイコ酸での結果を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、アッセイ内の変動係数は、血中リポテイコ酸測定濃度領域において、いずれのアッセイおよびリポテイコ酸濃度においても概ね10%未満であり、同一プレートにおけるウェル間のばらつきは低いものであった。一方、アッセイ間の変動係数においては、約30%以下となっており、十分な測定精度であった。同様の結果が、血清型II型のリポテイコ酸の検出系でも得られた。
【0075】
[実施例5]
サルコイドーシス患者血漿及び健常人血漿の比較
本発明の方法を用いて、サルコイドーシス患者58名の血漿、及び対照サンプルとして健常人35名の血漿を用い、リポテイコ酸の検出を実施した。血清型I型、及びII型アクネ菌のリポテイコ酸を定量したところ、血清型II型リポテイコ酸は患者、健常人ともに低値であった。一方、血清型I型リポテイコ酸においては、サルコイドーシス患者で有意に高く(p<0.0001)検出された(
図6)。
【0076】
上記の血清型I型リポテイコ酸の定量結果から、ROC曲線による解析を行った。ROC曲線による解析にはGraphPAD PRISM ver.6(GraphPad Software,Inc,USA)を用いた。有意差の検定にはMann Whitney testを使用し、P値0.05未満を統計学的に有意であると判断した。
【0077】
その結果、ROC曲線下面積は0.85と高いものであり有用な検査法であることが示された。またカットオフ値は6.72 ng/ml、この値を用いて算出された感度は74%、特異度は94%、オッズ比は47倍と高いものであった(
図7)。
【0078】
さらに、本発明の方法により得られたサルコイドーシス患者43名の血漿における血清型I型リポテイコ酸の定量値について、性別、年齢、stage、サルコイドーシス臨床マーカーであるACE(アンジオテンシン変換酵素)値、リゾチーム(1ysozyme)値、気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage、BAL)中リンパ球数、BAL細胞CD4/8比との関連性を検討した。他の臨床マーカーとの比較では、StatView software(version5.0;SAS Institute,Cary,NC)により重回帰分析を行った。その結果、どのマーカーとも有意な関連は見出だせなかった(表2)。従って、血中アクネ菌のリポテイコ酸の検出は、サルコイドーシスの診断において独立した新たなマーカーになる可能性があると考えられた。
【0079】
【表2】
【0080】
[実施例6]
煮沸時間の検討
本発明の方法におけるサンプルの加熱時間を、煮沸条件下で検討した。
【0081】
血清型I型アクネ菌ATCC6919株を100mg/mlになるよう滅菌PBSに溶き、ロイペプチンを最終濃度1μg/mlになるよう添加し、1時間破砕した。精製したリポテイコ酸は不溶性になりやすく、不安定である等の理由から、本実施例では菌体破砕液をそのまま用いて検討することとし、この破砕液を15000rpm、4℃で30分間遠心した。
【0082】
血清型I型アクネ菌リポテイコ酸に対する抗体価の高い健常人血漿を滅菌PBSで4倍希釈したもの67.5μlに対し、3.13mg/mlに調整したアクネ菌破砕液遠心上清を7.5μl添加し、免疫複合体擬似サンプルを作成した。
【0083】
煮沸処理なしのサンプルには滅菌PBSを、煮沸処理を行うサンプルにはグリシン塩酸塩(pH 1.0)を免疫複合体擬似サンプルと等量加え、4℃で一晩インキュベートし、2000×gで5秒間遠心した。その後、煮沸時間を10秒、30秒、1分、5分、10分と5ポイントふり、煮沸処理を行った。
【0084】
サンプルが冷却した後に2000×gで5秒間遠心後、Tris-HCl(pH 13)を13.5μl加えた。煮沸処理を行わなかったサンプルには、滅菌PBSを13.5μl加えた。
【0085】
血清型I型アクネ菌リポテイコ酸に対するマウスモノクローナル抗体を固相化抗体をとし、実施例1と同様にしてサンドイッチ ELISAを行った。
【0086】
その結果、
図8に示すように、煮沸処理をしない場合と比較して、煮沸処理を行った場合に高い値が検出された。特に10秒間〜1分間の煮沸時間での検出結果が高く、30秒間の煮沸で最もばらつきのない良好な結果が得られた。
【0087】
[実施例7]
加熱温度の検討
本発明の方法におけるサンプルの加熱温度を、加熱時間30秒間で検討した。
【0088】
血清型I型アクネ菌ATCC6919株を100mg/mlになるよう滅菌PBSに溶き、ロイペプチンを最終濃度1μg/mlになるよう添加し、1時間破砕した。この破砕液を15000rpm、4℃で30分間遠心した。
【0089】
血清型I型アクネ菌リポテイコ酸に対する抗体価の高い健常人血漿を滅菌PBSで4倍希釈したもの22.5μlに対し、3.13mg/mlに調整したアクネ菌破砕液遠心上清を2.5μl添加し、免疫複合体擬似サンプルを作成した。
【0090】
加熱処理なしのサンプルには滅菌PBSを、加熱処理を行うサンプルにはグリシン塩酸塩(pH 1.0)を免疫複合体擬似サンプルと等量加え、4℃で一晩インキュベートし、2000×gで5秒間遠心した。その後、加熱温度を50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃(煮沸)と6ポイントふり、水浴による加熱または煮沸処理を行った。
【0091】
サンプルが冷却した後に2000×gで5秒間遠心後、Tris-HCl(pH 13)を4.5μl加えた。加熱処理を行わなかったサンプルには、滅菌PBSを4.5μl加えた。
【0092】
血清型I型アクネ菌リポテイコ酸に対するマウスモノクローナル抗体を固相化抗体をとし、実施例1と同様にしてサンドイッチ ELISAを行った。
【0093】
その結果、
図9に示すように、50℃以上の加熱によっていずれも加熱処理しない場合よりも高い値が検出された。70℃以上の加熱でより検出結果が高く、100℃(煮沸)で最も高い検出結果が得られた。
【0094】
[実施例8]
サルコイドーシス患者血漿及び健常人血漿のアッセイ
実施例6及び7の結果から最も良いと考えられた処理条件を用い、血清型I型アクネ菌リポテイコ酸について実施例5と同様のアッセイを再度行った。サルコイドーシス患者58名の血漿と健常人35名の血漿を使用した。
【0095】
実験は、実施例6及び7に準じ、30秒間の煮沸処理を行った。
また、実施例4と同様にして標準サンプルも同様に処理した。
【0096】
その結果、サルコイドーシス患者で血清型I型リポテイコ酸が有意に高く(p<0.0001)検出された。この結果から、ROC曲線による解析を行った結果、ROC曲線下面積は0.81であった。またカットオフ値105.05 ng/mlとして算出された感度は65%、特異度は86%、オッズ比は11倍であった(
図10)。