(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6558611
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】スモーク加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/044 20060101AFI20190805BHJP
A23B 4/00 20060101ALI20190805BHJP
A23B 4/005 20060101ALI20190805BHJP
A23B 4/023 20060101ALI20190805BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20190805BHJP
【FI】
A23B4/044 503A
A23B4/00 A
A23B4/005
A23B4/023 B
A23L13/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-239066(P2018-239066)
(22)【出願日】2018年12月21日
【審査請求日】2019年2月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】317014448
【氏名又は名称】有限会社肉のまるかつ
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】篠原 勝広
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−078865(JP,A)
【文献】
特開平06−284877(JP,A)
【文献】
特開2011−254702(JP,A)
【文献】
特開2003−210140(JP,A)
【文献】
4.ハム・ベーコン,食品加工シーズ 第5巻 食肉加工法,1968年,p.119-163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/00−4/32
A23L 3/00−5/49
A23L 13/00−13/70
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空包装した生精肉を、タンパク質の凝固温度に至ることを確実に避けるように60℃を超え65℃以下の温度で加熱し、肉の中心温度が60℃を超えてからさらに60℃を超え65℃以下の温度条件で1時間〜1時間15分加熱して一次加工物とする第1工程と、
前記一次加工物の包装を解き、前記一次加工物100質量部に対して水25〜30質量部および食塩0.15〜0.2質量部を含む調味液を加えて再度真空包装し、前記一次加工物に前記調味液を浸透させて味付けを行い、二次加工物とする第2工程と、
前記二次加工物の包装を解き、水分を拭き取ってスモーク加工装置に入れ、スモーク加工してスモーク加工食品とする第3工程と
を含むスモーク加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程は、前記スモーク加工装置内の温度を40℃〜48℃としてスモーク加工することを特徴とする請求項1記載のスモーク加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程は、前記スモーク加工後、前記スモーク加工食品を真空包装して凍結しないように急速冷却し、前記スモーク加工食品の中心温度を4℃以下とすることを含む請求項1または2に記載のスモーク加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程は、前記加熱終了後、前記一次加工物が凍結しないように急速冷却し、前記一次加工物の中心温度を4℃以下とすることを含む請求項1から3のいずれか1項に記載のスモーク加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枝肉から筋等を除去した生精肉をスモーク加工したスモーク加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛、豚、馬、山羊、綿羊、トナカイ、スイギュウ、ヤクなどの肉畜や、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ホロホロチョウなどの食鳥は、タンパク質、脂質、無機質、ビタミンなどの栄養素を豊富に含む食肉食材として調理に供されることが知られている。これらの屠肉から枝肉に分離され、さらに筋等を切り除かれた精肉は、生か、あるいは、生を冷凍した冷凍肉として消費者に提供されるが、精肉の表面には少なからず菌が付着しているため、時間の経過とともに菌が繁殖し、鮮度が低下していく。
【0003】
これらの精肉を鮮度維持する方法としては、例えば特許文献1に提案されている。特許文献1に提案されている方法は、フィルム包装で生肉が真空包装された包装体に紫外線を照射し、その直後に、上記包装体をフィルム包材の熱収縮および殺菌のために、70〜92℃の高温雰囲気内にもたらすというものである。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、紫外線照射によって殺菌されるのは肉の表面のみであり、肉の内側まで殺菌されるものではないため、細菌が残存しているおそれがある。また、紫外線照射後に70〜92℃の高温雰囲気内に置かれることで、肉のタンパク質が凝固してしまい、さらに水分が分離されてしまうため、肉質が硬いものとなる。そのため、この包装体から生肉を取り出した際、包装体内に残った肉汁、旨味成分、水分はそのまま廃棄され、この生肉を加熱すると肉は焼けすぎてパサパサになり、味や食感に欠けるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明者は、適度の滅菌を施しつつ生精肉の肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させた状態で生精肉を保存することが可能な生精肉の保存処理方法を提供している(例えば、特許文献2参照。)。この生精肉の保存処理方法は、真空包装した生精肉を、60℃を超え65℃以下の温度で加熱し、肉の中心温度が60℃を超えてからさらに1時間〜1時間15分加熱し、加熱終了後、肉が凍結しないように急速冷却し、肉の中心温度を4℃以下とするものである。
【0006】
この生精肉の保存処理方法によれば、適度の滅菌を施しつつ生精肉の肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させた状態で保存し、生肉の代替品とすることが可能となり、食卓等での加熱調理時に柔らかな食感とジューシー感を保持し、肉特有の赤色の発色保持、肉汁や水分の保持による歩留まりの向上、調理作業の簡素化を図ることが可能となる。
【0007】
ところで、従来、ハムなどのスモーク加工食品は、一般的に、塩漬工程、塩抜(水洗い)工程、熟成(乾燥)工程、燻煙(スモーク)工程、ボイル(加熱)工程、冷却工程を経て製造される(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−327747号公報
【特許文献2】特許第6174226号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“加熱ハムの作り方”,[online],日本ハム株式会社,[平成30年12月14日検索],インターネット<URL:https://www.nipponham.co.jp/special/dictionary/ham_make/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来の一般的なスモーク加工食品の製造方法では、スモーク工程の後に、そのまま食べられるように調理することと殺菌することを目的としてボイル工程がある。そのため、ボイルする際にスモークが湯に流出してしまい、スモークの味が異なったものとなるし、スモークの殺菌効果が減少することになる。また、熟成工程において肉を乾燥させるため、肉自体に水分は保持されず、さらにボイルによって肉は煮えてしまうため、肉質は大きく変化してしまう。
【0011】
そこで、本発明においては、適度の滅菌を施しつつ肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させたスモーク加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のスモーク加工食品の製造方法は、真空包装した生精肉を、60℃を超え65℃以下の温度で加熱し、肉の中心温度が60℃を超えてからさらに1時間〜1時間15分加熱して一次加工物とする第1工程と、一次加工物の包装を解き、水および食塩を含む調味液を加えて再度真空包装し、一次加工物に調味液を浸透させて二次加工物とする第2工程と、二次加工物の包装を解き、水分を拭き取ってスモーク加工装置に入れ、スモーク加工してスモーク加工食品とする第3工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のスモーク加工食品の製造方法では、まず第1工程として、真空包装した生精肉を、60℃を超え65℃以下の温度で加熱し、肉の中心温度が60℃を超えてからさらに1時間〜1時間15分加熱して一次加工物とする。食肉に付着している細菌でサルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、カンピロバクター菌、黄色ブドウ球菌などは60℃以下の加熱温度下では死滅しないが、上記の温度条件、加熱時間で細菌付着を有効に防止することができる。加熱により肉の温度は60℃を超え65℃程度の設定温度に向けて緩やかに上昇し、タンパク質の凝固温度に至ることを確実に避けることができ、肉自体に肉汁、旨味成分、水分を保持させる。また、65℃以下の加熱であるため、肉の繊維の凝固作用がなくレア状態の柔らかな仕上がりになる。
【0014】
また、上記加熱時間とすることで、肉汁、旨味成分、肉の柔らかさを肉自体に保持させた一次加工物を得ることができる。なお、加熱温度65℃から、肉からは水分が出て肉の繊維が硬化し始め、旨味成分、肉汁も肉から分離して流出する。肉の柔らかさと肉汁、旨味、水分を肉内に閉じ込め得る温度としては60℃を超え65℃以下の温度であるが、機械設定と実際温度との誤差を考慮して60℃を超え63℃以下の温度で加熱するのがより好適である。
【0015】
また、一次加工物は、加熱終了後、凍結しないように急速冷却し、一次加工物の中心温度を4℃以下、より好ましくは3℃以下とすることで、適度の滅菌を施しつつ生精肉の肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させた状態で第1工程加工品を保存することができる。この第1工程加工品は、生肉の代替品とすることが可能である。
【0016】
そして、第2工程において、一次加工物の包装を解き、水および食塩を含む調味液を加えて再度真空包装し、一次加工物に調味液を浸透させて二次加工物とする。第2工程は、一次加工物100質量部に対して水を25〜30質量部、食塩を0.15〜0.2質量部とすることが望ましい。これにより、一次加工物に対して調味液を最も効率良く浸透させることが可能となる。なお、食塩が0.15質量部未満の場合、食塩濃度が薄く、一次加工物の中心部まで調味液が浸透するのに時間がかかりすぎ、作業時間が長くなる。
【0017】
次に、第3工程において、二次加工物の包装を解き、水分を拭き取ってスモーク加工装置に入れ、スモーク加工することで、適度の滅菌を施しつつ肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させたスモーク加工食品が得られる。
【0018】
なお、第3工程において、スモーク加工後、スモーク加工食品が凍結しないように急速冷却し、スモーク加工食品の中心温度を4℃以下、より好ましくは3℃以下とすることが望ましい。これにより、適度の滅菌を施しつつ肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させた状態でスモーク加工食品を保存することができる。
【0019】
また、第3工程は、スモーク加工装置内の温度を40℃〜48℃としてスモーク加工することが望ましい。これにより、細菌の増殖温度(35℃前後)を避けつつ、スモーク加工による肉の水分の蒸発を防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスモーク加工食品の製造方法によれば、適度の滅菌を施しつつ肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させたスモーク加工食品が得られる。このスモーク加工食品は、従来のスモーク加工食品と比較して、味が濃厚で、柔らかなプリッとした食感とジューシー感を保持しており、生肉に近い新しい感覚のスモーク加工食品となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態におけるスモーク加工食品の製造方法について説明する。なお、本実施形態におけるスモーク加工食品の製造方法が対象とする生精肉は、牛、豚、馬、山羊、綿羊、トナカイ、スイギュウ、ヤクなどの肉畜や、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ホロホロチョウなどの食鳥を含み、その他の人の食材として供されるジビエ(獣肉)などの食肉であり、枝肉から筋等を切り除いた生精肉(生肉)である。
【0022】
(1)第1工程
第1工程では、真空包装した生精肉を、タンパク質の凝固温度に至ることを確実に避けるように60℃を超え65℃以下の温度で加熱し、肉の中心温度が60℃を超えてからさらに60℃を超え65以下の温度条件で1時間〜1時間15分加熱して一次加工物とする。
【0023】
具体的には、生精肉のブロック肉を真空包装袋に入れて真空包装した状態で、低温加熱処理する。生精肉のブロック肉としては、好適には1kg〜2kg〜4kg〜数kg〜数十kgの一般消費者が捌くことができない状態の塊肉を使用する。当該ブロック肉を密封性のある袋に入れて真空包装した状態とし、この真空包装した生精肉をスチームまたは湯煎で60℃を超え65℃以下の温度で1時間15分程度加熱する。肉の大きさ、厚さによっては、適宜スチームあるいは湯浴加熱を使い分けて加熱することも可能である。
【0024】
食肉に付着している細菌でサルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、カンピロバクター菌、黄色ブドウ球菌などは60℃以下の加熱温度下では死滅しないが、上記の温度条件、加熱時間で細菌付着を有効に防止できることを実験的に確認している。また、加熱時間は1時間〜1時間15分程度が肉汁、旨味成分、肉の柔らかさを効果的に保持し得る。
【0025】
一方、加熱温度65℃から、肉からは水分が出て肉の繊維が硬化し始め、旨味成分、肉汁も肉から分離して流出する。肉の柔らかさと肉汁、旨味、水分を肉内に閉じ込め得る温度としては60℃を超え65℃以下の温度であるが、機械設定と実際温度との誤差を考慮して60℃を超え63℃以下の温度で加熱するのがより好適である。
【0026】
また、加熱に際しては、肉の中心温度が60℃を超えてから1時間〜1時間15分程度加熱する。肉の中心温度を測定する芯温度計をセットしておき、加熱による肉の中心温度変化を監視し、加熱開始後、肉の中心温度が60℃を超えてから、さらに60℃を超え65℃以下の温度条件で、1時間〜1時間15分程度の加熱を維持する。
【0027】
このとき、加熱温度設定時の機械設定を、60℃を超え65℃以下とする。そして、肉の中心温度を測定しながら中心温度が60℃を超えてから1時間〜1時間15分程度加熱する。したがって、加熱により肉の温度は60℃を超え65℃程度の設定温度に向けて緩やかに上昇し、タンパク質の凝固温度に至ることを確実に避けることができ、肉自体に肉汁、旨味成分、水分を保持させる。また、65℃以下の加熱であるため、肉の繊維の凝固作用がなくレア状態の柔らかな仕上がりになる。
【0028】
そして、加熱終了後、肉が凍結しないように、急速冷却し、肉の中心温度を4℃以下、より好ましくは3℃以下とする。なお、急速冷却は、例えば氷水等で4℃〜0℃程度に冷却する。このとき、肉が凍結しないように注意する。肉が凍結すると肉の細胞膜が破壊され、ドリップが発生してしまうため、肉の食感が変化してしまう。こうして処理した生精肉を冷蔵保存する。
【0029】
(2)第2工程
第2工程では、第1工程で得られた一次加工物の包装を解き、水および食塩を含む調味液を加えて再度真空包装し、一次加工物に調味液を浸透させて二次加工物とする。
【0030】
具体的には、まず、一次加工物を必要に応じて1cm〜5cmや、5cm〜10cm程度の大きさにカットする。このカットした一次加工物と、水および食塩を含む調味液と、香辛料、ハーブやタマネギ等の他の材料とを、真空包装袋に入れて真空包装し、調味液等の味を一次加工物の中まで浸透させるために1〜2日間冷蔵庫で寝かせる。なお、調味液は、一次加工物100質量部に対して水を25〜30質量部、食塩を0.15〜0.2質量部とする。他の材料は適量とする。
【0031】
(3)第3工程
第3工程では、第2工程で得られた二次加工物の包装を解き、水分を拭き取ってスモーク加工装置に入れ、スモーク加工してスモーク加工食品とする。
【0032】
具体的には、真空包装袋から二次加工物のみを取り出し、水分を拭き取ってスモーク加工装置に入れる。スモーク加工装置としては、例えば燻製用オーブンや、スモーク専用装置を備えたスチームコンベクションオーブン等を使用することができる。なお、スモーク加工装置の設置温度は40℃〜48℃とする。この設定温度は、二次加工物(肉)の水分が蒸発せず、ほどよい乾燥が期待できる温度である。このスモーク加工装置によりスモーク専用のチップ(スモークウッド)で香りと色が付くまでスモーク加工する。加工時間は1時間〜1.5時間程度とする。
【0033】
ほどよく香りと色が付いたらスモーク加工装置からスモーク加工食品を取り出し、真空包装袋に真空包装し、スモーク加工食品が凍結しないように急速冷却する。スモーク加工食品の中心温度が4℃以下、より好ましくは3℃以下となったら冷蔵庫または冷凍庫で保存する。なお、急速冷却は、例えば氷水等で4℃〜0℃程度に冷却する。
【0034】
完成したスモーク加工食品は、家庭や調理施設でフライパン加熱やオーブン過熱で調理する。このように、本実施形態におけるスモーク加工食品の製造方法により製造されたスモーク加工食品は、加熱するだけで本格的な燻製肉を食することが可能である。また、このスモーク加工食品は、そのまま食することも可能である。
【0035】
このように、本実施形態におけるスモーク加工食品の製造方法によれば、第1工程において、真空包装した状態で適度の滅菌を施しつつ肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させた状態とし、第2工程において真空包装して味付けを行い、第3工程においてスモーク加工を行うことでスモーク加工食品が得られる。このスモーク加工食品は、従来のスモーク加工食品と比較して、味が濃厚で、柔らかなプリッとした食感とジューシー感を保持しており、生肉に近い新しい感覚のスモーク加工食品となる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本願発明の技術的範囲が当該実施例により限定されるものではない。
【0037】
[一次加工(第1工程)]
機械設定温度を63℃(スチームモード100%)、肉の中心温度を60℃に設定したスチームコンベクション(ニチワ電機株式会社(型式:SCOS-1010RY-R))に真空包装した生精肉のブロック肉として鶏もも250g、豚肉2kg、豚肉4kgをそれぞれ投入した。表1は、スチームコンベクション備え付けの芯温度計が60℃になって自動で加熱停止するまでの時間を測定した結果である。
【0038】
そして、この機械が自動停止したところで一旦肉を取り出し、専用の芯温度計で数箇所芯温を測り、温度ムラがある場合にはさらに加熱を行い、繰り返し芯温度計で数箇所芯温を測り、芯温に温度ムラがないことを確認した。表2は温度ムラがなくなるまでの加熱時間である。その後、肉を0℃の氷水につけ込み、時間を計りながら芯温を測った。表3は0℃の氷水で冷却し、3℃以下になるまでの時間である。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
第1工程は生精肉をブロック肉(塊肉)のまま60℃を超え65℃以下で低温加熱処理するものであるが、生精肉(生肉)は部位や畜種により大きさや重量が幅広く異なる。そのため、中心温度が60℃に達しても温度にムラが出ることがあるが、表2に示すように温度にムラがなくなるまでの時間が最も長かった豚肉2kgで75分(1時間15分)であった。一方、最も時間が短かった鶏もも250gで30分であったが、一概に生精肉を30分加熱で細菌が完全に死滅して安全とは言いにくく、特に1kg以上の生精肉では中心温度が60℃に達しても温度にムラが出やすいため、ムラをなくすためには1時間〜1時間15分の加熱時間が必要である。
【0043】
また、加熱終了後の急速冷却においても、生精肉が部位や畜種により大きさや重量が幅広く異なるため、表3に示すように一概に冷却時間を設定することができない。そこで、肉が凍結しないという条件で可能な限り早く4℃以下に急速冷却することで、細菌の増殖を防いだ状態で保存するように設定した。
【0044】
[細菌検査]
生の食肉(牛肉、豚肉、鶏肉)を前述の第1工程により真空包装、加熱処理、氷水冷却後3日間冷蔵保存した処理生精肉について行った細菌検査結果を下記に示す。検査機関は株式会社食品微生物センターである。表中の値はいずれも安全合格基準値1.0×10
4以内である。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
上記実施例において加熱時間は1時間から1時間15分という比較的短時間であるから、良好な肉の歩留まり率が得られる。例えば、生精肉100%とすると、1時間加熱で91%、2時間加熱で83%、3時間加熱で79%の歩留まりとなっており、実質的なコスト低減を図れる。
【0051】
[二次加工(第2工程)]
一次加工した豚肉1kgに対し、水300cc、食塩18g、黒こしょう3.3g、ハーブ3gおよび玉葱スライス60gを加えて真空包装袋(福助工業株式会社、ナイロンポリNo.22)に入れ、真空包装して冷蔵庫で1日間保存した。
【0052】
[三次加工(第3工程)]
翌日、スモーク専用のチップを入れたスモーク専用装置(ラショナルvariosumoker)をスチームコンベクションオーブン(ラショナルSelfCookingCenter)に入れて庫内をスモーク状態とした。冷蔵庫から二次加工物を取り出し、真空包装袋から肉のみを取り出して、キッチンタオルで表面の水分を拭き取り、網に乗せてスチームコンベクションオーブンに入れた。
【0053】
スチームコンベクションオーブンはオーブンモードとし、設定温度を40℃〜48℃として、乾燥した風を軽く当てながら香り付けと色付けを行った。肉が1kgと比較的少ないため、加工時間を1時間と設定した。15分経過した際、肉の表面にうっすらとスモークの色がついてきた。30分経過した際、若干表面が乾燥した状態になり、スモークの色がさらについてきた。45分経過した際、スモーク加工した状態のものと分かるくらいの状態となったが、色付けが不十分であった。1時間経過し、ほどよい色が付いたので庫内から取り出し、真空包装を行い、氷水0℃で中心温度が4℃以下となるまで急速冷却した。
【0054】
その後、冷凍庫に保管した。あとは必要に応じた大きさにカットして、加熱して食したり、そのまま食したりした。このスモーク加工食品は、従来のスモーク加工食品と比較して水分含有量が多く、味が濃厚で、柔らかなプリッとした食感とジューシー感を保持していた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のスモーク加工食品の製造方法は、枝肉から筋等を除去した生精肉をスモーク加工したスモーク加工食品の製造方法として有用であり、特に、適度の滅菌を施しつつ肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させたスモーク加工食品の製造方法として好適である。
【要約】
【課題】適度の滅菌を施しつつ肉汁、旨味、水分を肉自体に保持させたスモーク加工食品の製造方法の提供。
【解決手段】真空包装した生精肉を、60℃を超え65℃以下の温度で加熱し、肉の中心温度が60℃を超えてからさらに1時間〜1時間15分加熱して一次加工物とする第1工程と、一次加工物の包装を解き、水および食塩を含む調味液を加えて再度真空包装し、一次加工物に調味液を浸透させて二次加工物とする第2工程と、二次加工物の包装を解き、水分を拭き取ってスモーク加工装置に入れ、スモーク加工してスモーク加工食品とする第3工程とを含む。
【選択図】なし