【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図11は、本実施例の吸遮音ハニカムパネル1の断面図である。ハニカム材11のセル空間にフォーム材12を充填した吸音層、吸音面を構成する通気性材13、遮音面を構成する反射材14の3つを積層して、それぞれの間を接着した構造である。
【0034】
なお、反射材14とフォーム材12を充填したハニカム材11との間の接着については、ハニカム材11を構成する素材(セルの壁面材)の厚みだけではなく充填されたフォーム材12の反射材14との対向面も接着面として使えるので、ハニカム材11のセルの壁面材の反射材14側の先端(
図11で上側)をT字型に変形させる必要は無い。
【0035】
吸遮音ハニカムパネル1において、外部から音が入射するのは、通気性材13の有る面(
図11で下側)からである。
図11においてハニカム材11のセルの壁面材は同じ形状のものが繰り返して描かれているので、図が煩雑になるのを避けるため、その内の1つにだけ符号11を付けてある。また
図11は、左右に伸びる全体の一部分だけを示している。(これらは類似の他の図についても同じ)
【0036】
図8に通気性材の図を示す。
図8は通気性材の一部を切り取って示している。
図8(b)は
図8(a)にA−A’で示した位置の断面図である。通気性材13はシート状のアルミニウム合金繊維不織布131をアルミニウム合金製エキスパンドメタル132によって両面からサンドイッチしたものである。(株式会社ユニックス製ポアルC1)全体の厚さは1.6mmで、エキスパンドメタルの厚さは0.4または0.6mmで、開口率は40%である。
【0037】
なお、本実施例ではアルミニウム合金繊維不織布をもって、吸音層を構成する通気性材として使用したが、他の金属、無機/有機系繊維材シートでも良い。
【0038】
図9はフォーム材を充填していないハニカム材と通気性材を重ねた状態の平面図である。全体の一部を切り取って、
図11のハニカム材側から俯瞰したものである。
【0039】
図7にハニカム材の図を示す。
図7はハニカム材11の一部を切り取って示している。
図7(a)はハニカム材の斜視図である。
図7(b)は
図7(a)に一点鎖線Aで示した位置の断面図である。ハニカム材11は、本実施例では吸水性ハニカム材(タイガレックス製セラミックハニカムHR20)を使用した。吸水性ハニカム材の成分は例えば含水ケイ酸マグネシウム、パルプ、シリカ、接着剤類である。
なお、ハニカム材は含水ケイ酸マグネシウムの代わりに水酸化アルミニウムを成分として含むものであっても構わない。
【0040】
ここで用いたハニカム材はパルプを主な原料として、不燃性などの機能を持たせるための副原料としてケイ酸マグネシウムや水酸化アルミニウムの微細粒子を混合して、全体を結合剤で固定している。ここで、微細粒子の隙間、パルプ(繊維)の隙間が有り多孔質構造になっているために、ハニカム材として親水性がある。水を吸収すると機械的な絡み合いがほどけ、また化学的にも結合が解け、その結果、膨張し、また柔軟化する。
【0041】
なお、ケイ酸マグネシウムや水酸化アルミニウムを含まずパルプ単体で構成される紙製ハニカム材でも良い。その場合は、ハニカム材が可燃性であるので用途が限定される課題はあるが、水分によって壁面材先端が軟化、変形し、通気性材との接触面積が拡大する効果は同じである。
【0042】
本実施例で使用したハニカム材11の六角形のセルサイズは20mmであり、セルの壁面材の厚さ寸法は0.3mmである。ハニカム材11の厚さ寸法は、変形による短縮分を考慮して31mmとした。
【0043】
ハニカム材に充填するフォーム材12は硬質フェノールフォーム材である。フェノールフォームはフェノール樹脂を発泡させて製造されるもので、本実施例では、連通気泡率95%以上を有し、密度19kg/m
3の製品を使用した。(松村アクア株式会社製)気泡が連続している連通気泡により吸水性を示す。ハニカム材11の厚さ寸法31mmに対して、フォーム材12の厚さ寸法は29〜30mmである。なお、硬質フェノールフォーム材に代わって硬質ウレタンフォーム材を使用しても良い。
【0044】
反射材14は、吸音層の後ろに設置して遮音するための層として使われるもので、非通気性であるアルミニウム製の薄板である。本実施例では厚さ寸法1.2mmのものを使用した。
【0045】
積層構造をなす吸遮音ハニカムパネルにおいて通気性材13とハニカム材11を接着している接着剤は、水溶性のエマルジョン系接着剤(コニシ株式会社製ボンドCX50、不揮発分43.5〜46.5%)である。既に説明したように、接着剤に含まれる水分によって吸水性ハニカム材11の壁面材の先端部を柔軟化することができる。
【0046】
水溶性接着剤の一般的なPH値は3.5〜7.0の酸性域にあり、水分の存在下で金属を腐食させる。ボンドCX50のPH値は3.5〜5.0であり、腐食の対策が必要である。従って、アルミニウム合金繊維不織布については純度の高い材質を選択する。
【0047】
図11において、フォーム材12の表面とハニカム材11の壁面材111の先端部が一体となって形成している面と、反射材14とを接着している接着剤16はエポキシ系接着剤である。
【0048】
次に、吸遮音ハニカムパネルを製造する手順について説明する。発明者は、ハニカム材と通気性材との接着面積を増加することによって、ハニカム材自身の破壊強度を超えるほどの強い接着強度を得た。
【0049】
その手段は、吸水性ハニカム材のセルの壁面材の先端部をエマルジョン系接着剤のプールに浸漬して、接着剤を付着させ、一定時間をかけて付着部分のハニカム材を柔軟化させた後に、強い圧力をかけることで、柔軟化した部分の断面を逆T字型に変形させ、接着面積を拡大させる方法である。
【0050】
図3はハニカム材の壁面の先端部を接着剤に浸漬して付着させる製造工程を示す概念図である。
図3は左右全体の一部分を示している。
図3(a)に示すように、水平に置いた定盤2の上に、図では見えないが、周囲が閉じた形状である深さ設定プレート21を配置する。定盤2と設定プレート21でプールを形成するので、ここに設定プレート21の上面の高さまでエマルジョン系の接着剤15を注ぐ。
【0051】
図3(a)に示すように、吸水性ハニカム材11のセルの壁面材111の先端部をこの接着剤15のプールの底に着くまで浸漬する。定盤2が水平であるので、全ての壁面材111が同じ深さまで漬かる。浸漬した状態で一定時間待つ。実施例のハニカム材11のセルの壁面材111の先端部は約90秒後には柔軟化を開始して、約120秒後には十分柔軟化するので、通気性材に強く押し付ければ変形する状態になる。
【0052】
図3(b)に示すように、吸水性ハニカム材11を接着剤15のプールから引き揚げると、吸水性ハニカム材のセルの全ての壁面材111の先端部には接着剤15のプールの深さの寸法と同じ高さで接着剤15が付着し、ハニカム材の接着剤付着部分は軟化している。本実施例における浸漬深さ、すなわち接着剤付着高さは1mmである。また、付着量は80〜100g/m
2である。
【0053】
このとき、接着剤15に含まれる水の一部は吸水性ハニカム材11の壁面材111の内部に経時的に浸透してゆく。水分の浸透が、接着剤15が付着した部分に集中するので、当該集中部分のみが柔軟化する。
ハニカム材11の柔軟化した部分には、接着剤そのものも浸透するので、その後、接着剤は硬化すると、ハニカム材の構成組織と相まって、強固な複合構造を生成する。
【0054】
続いて、
図4はハニカム材と通気性材を接着する工程を示す概念図である。
図4(a)に示すように、平らに置いた通気性材13の上に吸水性ハニカム材11のセル壁面材11を対向させ、図示しないプレスを使って、図に矢印で示したように下降させ通気性材13に圧力5トン/m
2で押し付ける。
【0055】
図4(b)に示すように、通気性材13に強く押し付けられた吸水性ハニカム材11のセルの壁面材111の先端部の断面は逆T字型に変形する。壁面材111の先端部に付着していた接着剤の一部は逆T字型の底部から流動して、通気性材13に浸透する。また、他の一部は
図2(a)で説明したように隅肉を形成する。
【0056】
逆T字型に変形することによって壁面材111の厚みは0.3mmであったものが、T字型横棒部の広がりは、0.9mmとなる。すなわち、接着面積が3倍に拡大する。
【0057】
この状態で接着剤が硬化するのを待つ。接着剤15の、壁面材111の先端部に浸透した部分は吸水性ハニカム材11の成分である含水ケイ酸マグネシウムならびにパルプ(繊維)と一緒に複合構造を形成して硬化する。同様に、通気性材13に浸透した部分は通気性材を構成する一要素である繊維材と一緒に複合構造を形成して硬化する。
【0058】
次に
図10はハニカム材にフォーム材を充填する工程を示す概念図である。
図10(a)に示すように、ハニカム材11のセル壁面材111と通気性材13を接着したものをプレス下盤31の上に載せて、その上にフォーム材12を重ねて置く。その上からプレス上盤32を下降させる。
【0059】
図10(b)に示すように、プレス上盤32を下降させるのに従って、ハニカム材のセルの壁面材111はフォーム材12に食い込んでいって、フォーム材12の上面がハニカム材の壁面材111の上端の位置に達する。ここで、プレス上盤32の下降が停止する。このとき、フォーム材12の下面が通気性材13に達しておらず、両者の間に空洞が有っても良い。
【0060】
上の説明では、ハニカム材を強く押し付けて壁面材の先端部を変形させる工程と、ハニカム材にフォーム材を充填する工程を別々に行うこととしたが、2つの工程を同時に行っても良い。その場合、吸水性のフォーム材を接着剤が付着した部分まで充填すれば、ハニカム材に付着した水溶性のエマルジョン系接着剤の水分をハニカム材が吸収し、接着剤の硬化を促進させることができるという効果がある。
【0061】
次に
図11に示すように、反射材14にエポキシ系の接着剤16を全面に塗布し、ハニカム材11の上端とフォーム材12の上面がなす面に、反射材14を重ねて接着する。これで吸遮音ハニカムパネル1が完成した。
【0062】
次に、上に説明した構造を持つ吸遮音ハニカムパネル1の製造方法の効果について重ねて、詳しく説明する。ハニカム材の壁面材の先端部が変形することで接着面積が拡大して、少ない接着剤で大きな接着力を得られるという基本的な効果については既に説明した通りである。
【0063】
図5はハニカム材のセルの壁面材の厚さを示す平面図である。セルの壁面材は紙面に対して垂直である。この図は、接着剤が付着していない状態のセルの壁面材のみを描いている。
図5(a)は、本発明による方法で、セル壁面材の先端部を押圧し逆T字型に変形した場合を示し、同図において、六角形の間の距離は、変形して広がった壁面材の先端部111dの幅であり、すなわち
図2(a)に示したt2である。一方、
図5(b)は、従来技術による方法で、先端部を変形させない場合を示し、同図において、六角形の間の距離は壁面材111の変形前の厚さであり、すなわち
図2(b)に示したt1である。
【0064】
図5(b)に比べて
図5(a)は、逆T字型に変形した分だけ壁面材の厚さが大きく、すなわち接着面積が拡大していることが見て取れる。それに伴って、接着強度が大きくなることは明らかである。
【0065】
ここで使用した水溶性のエマルジョン系接着剤を単体で硬化させて、樹脂状としたときの引張強度は167kgf/cm2であり、一方、単体の吸水性ハニカム材が破壊する引張強度は2.6kgf/cm2である。
【0066】
つまり、本発明の壁面材柔軟化後の押圧による接着面拡大工程においては、ハニカム材の中のパルプ(繊維)は、柔軟化されているので、切断破壊されることがなく、そのパルプ(繊維)と浸透した接着剤とが硬化して、樹脂の複合構造を構成するので、その強度はハニカム材と硬化した接着剤のそれぞれ単体の強度の中間値(2.6〜167kgf/cm2の間の値)となっていると考えられる。すなわち、一旦軟化して、変形したハニカム材の壁面材の先端部は接着剤を含んだ状態になることによって変質し、硬化すると元のハニカム材を超える強度になるという効果が得られる。
【0067】
なお、水溶性エマルジョン系接着剤は硬化後にガラス化した樹脂状態を発現する。この現象は、硬化後さらに一定の時間の経時後に発現し、硬化後にガラス化した樹脂は水に浸漬しても軟化しない耐水性のある樹脂となる。別の経時試験によれば、水に浸漬した後で、硬化した樹脂は水の影響を受けても溶解せず、16年間実用に耐える強度を有した複合樹脂状態が維持されることを確認している。
【0068】
図6は通気性材とハニカム材を接着したときに、ハニカム材側から通気性材表面を俯瞰した平面図であり、通気性材の表面に六角網目状に接着剤が広がっている様子を示す。
図6(a)は
図2(a)に対応し、
図6(b)は
図2(b)に対応しており、いずれもハニカム材の壁面材の先端部を破線で示している。実線は付着した接着剤が壁面材の周囲に流動した輪郭を示している。
【0069】
図6(a)は、吸水性ハニカム材の壁面材111の先端部111dが、接着剤に浸漬、柔軟化された後に、押圧された結果、逆T字型に変形して、本来の厚さt1から厚さt2に拡幅した後で、付着した接着剤の状態を示している。
図6(b)は、吸水性ハニカム材の壁面材112の先端部を、接着剤を塗布してすぐに、押し付けて接着するので、軟化していないので壁面材112は厚さの変化がなく、素材の厚さt1を維持した状態が示されている。
【0070】
また、
図6は、ハニカム材の壁面材に付着していた接着剤が通気性材の表面に転付着し、通気性材の開口部を塞いだ状態を示している。図において6角形状あるいは丸隅6角形状の実線の内側が開口部であり、六角形状の相互間は、接着剤で塞がれた非開口部である。
図6(a)と
図6(b)は、
図2(a)と
図2(b)をハニカム材111、112の方向から見たものである。
【0071】
図6(a)に実線で示した開口41と、
図6(b)に同じく実線で示した開口42の大きさを対比すると次の通りである。
図6(a)に示した吸水性ハニカム材の場合は、接着剤はハニカム材の厚さt2に対して少し広めのw3までにしか広がっていない。
【0072】
一方、
図6(b)の吸水性ハニカム材の場合は、ハニカム材の壁面材先端部に付着させる接着剤の量が多いので、ハニカム材と通気性材との接着において、ハニカム材に付着していた接着剤が通気性材の表面に転付着し、さらに通気材表面を水平の方向に2〜4mm流動し、ハニカム材の厚さt1より遥かに広いw4に拡幅している。
【0073】
このため、
図6(b)の場合、開口は大幅に塞がれ、開口部42は、開口部41に比べてかなり小さくなりなっている。なお、図は判りやすさのために誇張して描いてある。
【0074】
また、接着剤が付着したハニカム材にフォーム材を充填すると、ハニカム材の壁面材の先端部に付着した接着剤のうち、ハニカム材に浸透しない分は逃げ場がなく、フォーム材で押し延ばされながらハニカム材周辺であって、通気性材を構成する繊維材の表面に広がる。すなわち、フォーム材が通気性材の表面に接着剤を押し広げることになり、接着剤の広がり面積は更に大きく広がる。接着剤の広がりは上で説明したように開口部を塞ぎ開口率の低下につながる。
【0075】
図2(a)の本発明の場合は、吸水性ハニカム材を使って壁面材の先端部を時間をかけて軟化、変形させて接着する方法であるので、接着剤の使用量が少なくて済み、その分、通気性材表面に流動する接着剤の少量であり、結果として開口率が大きいという効果が得られる。
【0076】
それに対して、
図2(b)の従来技術の場合は、吸水性ハニカム材を使っても、壁面材の先端部を軟化する時間をかけずに接着する方法であるため、必要な接着強度を得るために、接着剤の使用量を多くしなければならないので、通気材表面への流動量も多くなり、開口率は逆に小さくなる。
開口率の大小についていえば、開口率が大きいほど、外部からフォーム材へ吸収される音が多くなるので、吸音率の特性が向上するという効果に繋がる。
【0077】
図12に示したのは、残響室法吸音率のグラフである。縦軸は残響室法吸音率を示し、横軸は1/3オクターブバンド中心周波数(単位Hz)を示す。本発明による、重量が8kg/m
2、厚さが33mmの吸遮音ハニカムパネルについて、残響室法吸音率測定法(JIS A 1409)で測定した結果の吸音率のデータである。400〜4kHzの範囲で実用に適した高い吸音率を確認した。
【0078】
このように、吸水性ハニカム材を使用して、その壁面材の先端部に水溶系接着剤を付着して柔軟化し、ハニカム材を接着する相手である通気性材に強く押し付けて先端部を逆T字型に変形させることにより接着面積を拡大しつつ接着することにより、接着剤の量を減少したにもかかわらず接着力を増大することができた。その結果、パネルとしての強度が高い吸遮音ハニカムパネルの製造方法が実現できる。
【0079】
以上の説明において、吸水性ハニカム材のセル壁面材先端部を水溶性接着剤に一定時間浸漬し、先端部を柔軟化した後に、引き上げて、接着相手である通気性材に強く押し付けることで、セル壁面材の先端部の断面を逆T字型に変形させて、接着面積を大きくするとしたが、セル壁面材の先端部を水溶性接着剤に浸漬後、適宜引き上げて、先端部が柔軟化するまで、接着剤が付着した状態で放置し、しかる後に通気性材に強く押し付ける手順としてもよい。