特許第6558634号(P6558634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558634
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】揚抗力計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/04 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   G01M9/04
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-158637(P2015-158637)
(22)【出願日】2015年8月11日
(65)【公開番号】特開2017-37005(P2017-37005A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】513069961
【氏名又は名称】岩永 正裕
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】岩永 正裕
【審査官】 多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−049833(JP,A)
【文献】 特開平10−300628(JP,A)
【文献】 特開平09−210839(JP,A)
【文献】 特開2011−122992(JP,A)
【文献】 米国特許第05056361(US,A)
【文献】 実開昭63−053671(JP,U)
【文献】 特開平9−72822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00 − 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風洞内の模型に作用する揚抗力を計測するための揚抗力計測装置であって、
大円盤に形成される開口部に模型を固定するための小円盤を着脱自在に嵌合してなる回転台座と、
前記回転台座の裏面の中心に固定される回転軸と、
風洞の壁面に固定され前記回転軸を軸支する回転軸支持手段と、
模型に作用する重力が前記回転軸に付与する回転トルクとバランスする回転トルクを該回転軸に付与するための第1の回転トルク付与手段と、
模型に作用する揚抗力が前記回転軸に付与する回転トルクとバランスする回転トルクを該回転軸に付与するための第2の回転トルク付与手段と、
前記回転トルクのバランス状態を提示するためのバランス状態提示手段と、
を含む、
揚抗力計測装置。
【請求項2】
前記第1の回転トルク付与手段は、
前記回転軸に対して回転自在に固定される軸固定手段と、
前記軸固定手段の対向する位置に前記回転軸に直交して固定される一対の第1の軸と、
前記第1の軸に対して軸方向の固定位置を変更自在に固定される第1の錘と、
を含み、
前記第2の回転トルク付与手段は、
前記回転軸に対して固定される軸固定手段と、
前記軸固定手段の対向する位置に前記回転軸に直交して固定される一対の第2の軸と、
前記第2の軸に対して軸方向の固定位置を変更自在に固定される第2の錘と、
を含む、
請求項1に記載の揚抗力計測装置。
【請求項3】
前記バランス状態提示手段は、
前記回転軸に対して回転自在に嵌合される軸受と、
一方の端が前記軸受に接続され他方の端に錘が接続される紐と、
前記回転軸に固定される円板であって、前記紐が提示する鉛直方向に対する位置合わせを行うための指標が表示される位置合わせ用円板と、
を含む、
請求項1または2に記載の揚抗力計測装置。
【請求項4】
前記大円盤に形成される前記開口部は、その径が該大円盤の表面から裏面に向かって次第に大きくなるようにテーパ状に形成され、該開口部の縁の全周にわたって角度を示す目盛が刻まれる、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の揚抗力計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚抗力計測装置に関し、より詳細には、風洞実験において模型に作用する揚力・抗力を電子機器を用いずに計測するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風洞実験において模型に作用する揚力・抗力を測定する装置には、何らかの電子機器を搭載する必要があった(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−249527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、風洞実験において模型に作用する揚力・抗力を電子機器を用いずに計測するための新規な揚抗力計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、風洞実験において模型に作用する揚力・抗力を電子機器を用いずに計測するための構成につき鋭意検討した結果、以下の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0006】
すなわち、本発明によれば、風洞内の模型に作用する揚抗力を計測するための揚抗力計測装置であって、模型を偏心位置に取り付け可能な円盤状の回転台座と、前記回転台座の裏面の中心に固定される回転軸と、風洞の壁面に固定され前記回転軸を軸支する回転軸支持手段と、模型に作用する重力が前記回転軸に付与する回転トルクとバランスする回転トルクを該回転軸に付与するための第1の回転トルク付与手段と、模型に作用する揚抗力が前記回転軸に付与する回転トルクとバランスする回転トルクを該回転軸に付与するための第2の回転トルク付与手段と、前記回転トルクのバランス状態を提示するためのバランス状態提示手段と、を含む揚抗力計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上述したように、本発明によれば、風洞実験において模型に作用する揚力・抗力を電子機器を用いずに計測するための新規な揚抗力計測装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の揚抗力計測装置が取り付けられた縦型風洞装置を示す図。
図2】本実施形態の揚抗力計測装置の斜視図。
図3】本実施形態における回転台座を示す図。
図4】迎え角を設定する方法を説明するための模式図。
図5】翼に作用する空気力(揚力・抗力)を説明するための模式図。
図6】回転台座の位置合わせを説明するための模式図。
図7】4種類の基準状態を示す図。
図8】基準状態(1)および(2)の設定手順を説明するための模式図。
図9】基準状態(1)および(2)の設定手順を説明するための模式図。
図10】基準状態(1)の下での実験手順を説明するための模式図。
図11】基準状態(2)の下での実験手順を説明するための模式図。
図12】基準状態(3)および(4)の設定手順を説明するための模式図。
図13】基準状態(3)および(4)の設定手順を説明するための模式図。
図14】基準状態(3)の下での実験手順を説明するための模式図。
図15】基準状態(4)の下での実験手順を説明するための模式図。
図16】基準状態(1)〜(4)の下で回転台座に作用する揚力Lと抗力Dを説明するための模式図。
図17】位置合わせ用円板を示す図。
図18】実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0010】
図1は、本発明の実施形態である揚抗力計測装置100が取り付けられた縦型風洞装置200を示す。縦型風洞装置200は、第1の整流部92と、縮流部93と、透明な円筒状部材によって構成される風洞94と、第2の整流部95と、吸気ファン97と、台座98とを含み、吸気ファン97の駆動によって、第1の整流部92で整流された空気が縮流部93を通って風洞94内に導入され鉛直方向下方に流下するように構成されている。この縦型風洞装置200に対して、本実施形態の揚抗力計測装置100は、風洞94の壁面に跨る形で固定される。
【0011】
図2は、揚抗力計測装置100の斜視図を示す。図2に示すように、揚抗力計測装置100は、円盤状の回転台座10と、回転台座10に固定される回転軸20と、摩擦抵抗の小さい軸受によって回転軸20を軸支する回転軸支持手段30と、回転軸20に回転トルクを付与するための第1の回転トルク付与手段40および第2の回転トルク付与手段50と、回転軸20に付与される回転トルクのバランス状態を提示するためのバランス状態提示手段60とを含んで構成されている。
【0012】
回転軸支持手段30は、風洞94の壁面に固定され、その軸受が回転軸20を風洞94の長手方向に直交する形で回転自在に軸支する。回転軸支持手段30に軸支された回転軸20は、その一部が風洞94の内側に突出し、残りの部分が風洞94の外側に突出する。
【0013】
一方、回転台座10は、風洞94の内側に突出した回転軸20の端部に取り外し自在に固定される。図3(a)は、回転台座10の表面を示し、図3(b)、(c)は、回転台座10のA−A’線の断面図を示す。図3に示すように、回転台座10は、大円盤12と小円盤14からなり、図3(b)、(c)に示すように、大円盤12の裏面の中心には、回転軸20の端部を嵌合するため孔を備えた嵌合部19が形成されている。
【0014】
大円盤12と小円盤14は同じ厚みを有しており、大円盤12に形成される円形の開口部13に小円盤14を嵌合して一体化することによって回転台座10が構成される。大円盤12に形成される開口部13は、回転台座10の回転中心から偏心した位置にその中心を有し、開口部13の径が大円盤12の表面から裏面に向かって次第に大きくなるように、その内周側面がテーパ状に形成されている。一方、小円盤14の外周側面は、開口部13の内周側面に合致するようにテーパ状に形成されており、小円盤14を大円盤12に嵌合したときに回転台座10の表面が面一になるように構成されている。
【0015】
ここで、小円盤14の表面には、計測対象となる模型の翼80を取り付けるための2つの突起16a,16bがその直径方向に並設されており、小円盤14を大円盤12に嵌合したときに突起16a,16bが回転台座10の表面に突出するようになっている。一方、翼80の側面には、突起16a,16bに対応する形状・大きさを有した2つの孔82a,82bが翼弦方向に並設されており、孔82a,82bに突起16a,16bを嵌合することにより、翼80が、その翼弦方向を小円盤14の直径方向に一致させる形で、回転台座10の偏心位置に取り付けられるようになっている。
【0016】
さらに、本実施形態においては、小円盤14の表面に翼80の翼弦方向を示す印17が表示され、小円盤14が嵌合される開口部13の縁の全周にわたって角度を示す目盛18が等間隔(例えば5度おき)に刻まれている。本実施形態においては、この目盛18を目安にしながら、図3(c)に示すように、小円盤14を円周方向に回転させて大円盤12に嵌合することによって、図4(a)、(b)に示すように、翼80の迎え角θを所望の角度に設定することができるようになっている。
【0017】
さらに、本実施形態においては、後述する4種類の基準状態を設定するために、大円盤12の中心と小円盤14の中心を通る直線上に位置する2つの目盛18のそれぞれに対して、大円盤12の中心から見て順番に、印「2」および印「1」が付されており、さらに、印「2」から見て時計回りに90°離れた位置の目盛18には印「4」が付され、印「1」から見て時計回りに90°離れた位置の目盛18には印「3」が付されている。
【0018】
再び、図2に戻って説明を続ける。
【0019】
図2に示すように、風洞94の外側に突出する方の回転軸20には、風洞94から見て順番に、第1の回転トルク付与手段40、第2の回転トルク付与手段50、およびバランス状態提示手段60が取り付けられる。
【0020】
まず、第1の回転トルク付与手段40について説明する。第1の回転トルク付与手段40は、回転軸20に対して回転自在に固定されるリング状の軸固定手段42と、軸固定手段42の外周側面の対向する位置に、回転軸20に直交する形で固定される一対の軸44,44と、軸44に嵌合されるリング状の錘48を含んで構成される。本実施形態では、回転台座10の偏心位置に取り付けられる翼80に作用する重力による回転トルクが回転軸20に作用する。これに対し、軸44に固定された錘48の重力による回転トルクが翼80の重力による回転トルクを打ち消すように作用する。
【0021】
ここで、錘48は、軸44の軸方向に摺動させることで、その固定位置を自由に変更することができるようになっており、これにより、回転軸20に付与する回転トルクの大きさを調節することができるようになっている。また、軸固定手段42は、回転軸20の軸回りに回転させることで、その軸回りの固定位置を自由に変更することができるように構成されている。
【0022】
次に、第2の回転トルク付与手段50について説明する。第2の回転トルク付与手段50は、回転軸20に固定される円柱状の軸固定手段52と、軸固定手段52の外周側面の対向する位置にその軸中心を一致する形で固定される一対の軸54,54と、軸54に嵌合されるリング状の錘58を含んで構成される。
【0023】
本実施形態においては、風洞94内の回転台座10に固定された翼80に向けて鉛直方向に空気が流下すると、図5に示すように、翼80に対して空気力Aが作用する。この空気力Aの鉛直方向成分が抗力Dとして観念され、その水平方向成分が揚力Lとして観念される。そして、本実施形態においては、先述したように、回転台座10の偏心位置に翼80が取り付けられるため、翼80に作用する空気力Aによる回転トルクが回転軸20に作用する。これに対し、軸54に固定された錘58の重力による回転トルクが翼80に作用する空気力Aによる回転トルクを打ち消すように作用する。
【0024】
ここで、錘58は、軸54の軸方向に摺動させることで、その固定位置を自由に変更することができるようになっており、これにより、回転軸20に付与する回転トルクの大きさを調節することができるようになっている。また、軸固定手段52は、回転軸20の軸回りに回転させることで、その軸回りの固定位置を自由に変更することができるようになっている。さらに、軸54の軸方向には、回転軸20の中心軸と錘58の重心との離間距離を読み取るための目盛56が刻まれている。
【0025】
次に、バランス状態提示手段60について説明する。バランス状態提示手段60は、回転軸20に対して回転自在に嵌合される摩擦抵抗の小さい軸受62と、軸受62の外周面に固定される紐64と、紐64の端に固定される錘66と、回転軸20の端部がその中心に固定される位置合わせ用円板68を含んで構成されている。ここで、摩擦抵抗の小さい軸受62の外周面は、回転軸20の回転に抗して軸周りに回転しないようになっており、軸受62から吊り下げられる紐64の長手方向が、常に、鉛直方向と一致するようになっている。一方、位置合わせ用円板68は、透明材料で形成されており、その表面には、紐64が提示する鉛直方向に対して位置合わせを行うための指標として、図6に示すように、円板の中心を通って直径方向に伸びる基準線Rが表示されている。
【0026】
また、本実施形態においては、図6に示すように、回転軸20の回転台座10に固定される端部に位置合わせ用の突条が形成されている。この突条は、回転軸20の十字方向に形成され、その十字の縦方向が位置合わせ用円板68に表示される基準線Rに平行になるように形成されている。一方、回転台座10の嵌合部19の孔には、回転軸20の位置合わせ用の突条に対応する位置合わせ用の溝が孔の十字方向に形成されている。さらに、第2の回転トルク付与手段50の一対の軸54は、基準線Rの直交方向に平行となるように軸固定手段52に固定される。
【0027】
以上、揚抗力計測装置100の構成について説明してきたが、続いて、揚抗力計測装置100を使用した揚抗力の計測方法について説明する。
【0028】
本実施形態においては、揚抗力計測装置100を使用して揚抗力の計測を行う際、1つの計測対象について最大4回の風洞実験を実施する。各実験では、回転台座10が4種類の異なる基準状態に置かれる。図7(a)〜(d)は、4種類の異なる基準状態を示す。
【0029】
基準状態(1)とは、図7(a)に示すように、大円盤12の中心から見て鉛直方向上方に小円盤14が位置し、小円盤14に固定された翼80の前縁が鉛直方向上方を向き、小円盤14の中心と大円盤12の中心を通る直線S1(以下、直線S1という)が鉛直方向Vに一致する状態をいう。
【0030】
基準状態(2)とは、図7(b)に示すように、大円盤12の中心から見て鉛直方向下方に小円盤14が位置し、小円盤14に固定された翼80の前縁が鉛直方向上方を向き、直線S1が鉛直方向Vに一致する状態をいう。
【0031】
基準状態(3)とは、図7(c)に示すように、大円盤12の中心から見て紙面左側に小円盤14が位置し、小円盤14に固定された翼80の前縁が鉛直方向上方を向き、直線S1が水平方向Hに一致する状態をいう。
【0032】
基準状態(4)とは、図7(d)に示すように、大円盤12の中心から見て紙面右側に小円盤14が位置し、小円盤14に固定された翼80の前縁が鉛直方向上方を向き、直線S1が水平方向Hに一致する状態をいう。
【0033】
続いて、風洞実験の具体的な手順を基準状態ごとに説明する。なお、各実験において、気流の流速および翼80の迎え角の条件は統一する。
【0034】
最初に、回転台座10を基準状態(1)に置く。具体的には、まず、印「1」を基準として翼80が決められた迎え角θを取るように小円盤14を回転台座10に嵌合する。その後、翼80を取り付けた回転台座10を風洞94の中に差し入れ、回転台座10の裏面に回転軸20の端部を嵌合して固定する。このとき、図8(a)に示すように、回転台座10の直線S1と位置合わせ用円板68の基準線Rが平行になるように、回転台座10の位置合わせ用の溝に対して回転軸20の位置合わせ用の突条を嵌合する。
【0035】
続いて、図8(b)に示すように、回転台座10の直線S1と第1の回転トルク付与手段40の軸44の軸方向がほぼ平行になるように軸固定手段42を回転軸20の軸周りに回転させた後、小円盤14と向かい合わない方の軸44に対して錘48を嵌合する。その後、位置合わせ用円板68が任意の角度において手を離したところで静止するようになるまで、図9(a)に示すように、軸固定手段42(軸44)の回転軸20の軸周りの角度と錘48の軸44の軸方向の位置を微調整する。換言すると、軸44の軸方向と、回転台座10の回転中心と回転台座10の重心を結ぶ直線とが平行になって、錘48の重力による回転トルクと翼80の重力による回転トルクがバランスするようになるまで、軸固定手段42(軸44)の角度と錘48の位置を試行錯誤的に微調整する。(以下、基準状態(2)〜(3)について同様。)
【0036】
最後に、図9(b)に示すように、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向を一致させる。その結果、回転台座10は、図10(a)に示す基準状態(1)に置かれる。
【0037】
回転台座10を基準状態(1)に置いて、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向がずれないように手を軽く添えた状態で、風洞94内に気流を導入すると、図10(b)に示すように、回転台座10に取り付けられた翼80に空気力が作用し、この空気力による回転トルクT1が回転軸20に作用して回転軸20を紙面時計回りに回転させようとする。
【0038】
これを受けて、紙面左側の軸54に対して錘58を嵌合した後、手を離しても基準状態(1)が保持されるようになるまで、錘58の軸54の軸方向の位置を試行錯誤的に微調整する。その結果、図10(c)に示すように、手を離しても基準状態(1)が保持されるようになった時点で、軸54に刻まれた目盛56を読み取って、回転軸20の中心軸と錘58の重心との離間距離d1を取得する。
【0039】
続いて、回転台座10を基準状態(2)に置く。具体的には、まず、翼80が印「2」を基準として決められた迎え角θを取るように小円盤14を回転台座10に嵌合する。その後、翼80を取り付けた回転台座10を風洞94の中に差し入れ、回転台座10の裏面に回転軸20の端部を嵌合して固定する。
【0040】
このとき、基準状態(1)のときと同様に、回転台座10の直線S1と位置合わせ用円板68の基準線Rが平行になるように、回転台座10の位置合わせ用の溝に対して回転軸20の位置合わせ用の突条を嵌合するとともに、回転台座10の直線S1と第1の回転トルク付与手段40の軸44の軸方向がほぼ平行になるように軸固定手段42を回転軸20の軸周りに回転させた後、小円盤14と向かい合わない方の軸44に対して錘48を嵌合する。
【0041】
その後、位置合わせ用円板68が任意の角度において手を離したところで静止するようになるまで、軸固定手段42(軸44)の回転軸20の軸周りの位置および錘48の軸44の軸方向の位置を試行錯誤的に微調整した後、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向を一致させる。その結果、回転台座10は、図11(a)に示す基準状態(2)に置かれる。
【0042】
回転台座10を基準状態(2)に置いて、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向がずれないように手を軽く添えた状態で、風洞94内に気流を導入すると、図11(b)に示すように、回転台座10に取り付けられた翼80に空気力が作用し、この空気力による回転トルクT2が回転軸20に作用して回転軸20を紙面反時計回りに回転させようとする。
【0043】
これを受けて、紙面左側の軸54に対して錘58を嵌合した後、手を離しても基準状態(2)が保持されるようになるまで、錘58の軸54の軸方向の位置を試行錯誤的に微調整する。その結果、図11(c)に示すように、手を離しても基準状態(2)が保持されるようになった時点で、軸54に刻まれた目盛56を読み取って、回転軸20の中心軸と錘58の重心との離間距離d2を取得する。
【0044】
続いて、回転台座10を基準状態(3)に置く。具体的には、まず、翼80が印「3」を基準として決められた迎え角θを取るように小円盤14を回転台座10に嵌合する。その後、翼80を取り付けた回転台座10を風洞94の中に差し入れ、回転台座10の裏面に回転軸20の端部を嵌合して固定する。このとき、図12(a)に示すように、回転台座10の中心を通って直線S1と直交する直線S2(以下、直線S2という)と位置合わせ用円板68の基準線Rが平行になるように、回転台座10の位置合わせ用の溝に対して回転軸20の位置合わせ用の突条を嵌合する。
【0045】
続いて、図12(b)に示すように、回転台座10の直線S1と第1の回転トルク付与手段40の軸44の軸方向がほぼ平行になるように軸固定手段42を回転軸20の軸周りに回転させた後、小円盤14と向かい合わない方の軸44に対して錘48を嵌合する。その後、位置合わせ用円板68が任意の角度において手を離したところで静止するようになるまで、図13(a)に示すように、軸固定手段42(軸44)の回転軸20の軸周りの角度と錘48の軸44の軸方向の位置を微調整する。
【0046】
最後に、図13(b)に示すように、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向を一致させる。その結果、回転台座10は、図14(a)に示す基準状態(3)に置かれる。
【0047】
回転台座10を基準状態(3)に置いて、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向がずれないように手を軽く添えた状態で、風洞94内に気流を導入すると、図14(b)に示すように、回転台座10に取り付けられた翼80に空気力が作用し、この空気力による回転トルクT3が回転軸20に作用して回転軸20を紙面反時計回りに回転させようとする。
【0048】
これを受けて、紙面左側の軸54に対して錘58を嵌合した後、手を離しても基準状態(3)が保持されるようになるまで、錘58の軸54の軸方向の位置を試行錯誤的に微調整する。その結果、図14(c)に示すように、手を離しても基準状態(3)が保持されるようになった時点で、軸54に刻まれた目盛56を読み取って、回転軸20の中心軸と錘58の重心との離間距離d3を取得する。
【0049】
続いて、回転台座10を基準状態(4)に置く。具体的には、まず、翼80が印「4」を基準として決められた迎え角θを取るように小円盤14を回転台座10に嵌合する。その後、翼80を取り付けた回転台座10を風洞94の中に差し入れ、回転台座10の裏面に回転軸20の端部を嵌合して固定する。このとき、基準状態(3)のときと同様に、回転台座10の直線S2と位置合わせ用円板68の基準線Rが平行になるように、回転台座10の位置合わせ用の溝に対して回転軸20の位置合わせ用の突条を嵌合するとともに、回転台座10の直線S1と第1の回転トルク付与手段40の軸44の軸方向がほぼ平行になるように軸固定手段42を回転軸20の軸周りに回転させた後、小円盤14と向かい合わない方の軸44に対して錘48を嵌合する。
【0050】
その後、位置合わせ用円板68が任意の角度において手を離したところで静止するようになるまで、軸固定手段42(軸44)の回転軸20の軸周りの位置および錘48の軸44の軸方向の位置を試行錯誤的に微調整した後、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向を一致させる。その結果、回転台座10は、図15(a)に示す基準状態(4)に置かれる。
【0051】
回転台座10を基準状態(4)に置いて、位置合わせ用円板68の基準線Rと紐64が提示する鉛直方向がずれないように手を軽く添えた状態で、風洞94内に気流を導入すると、図15(b)に示すように、回転台座10に取り付けられた翼80に空気力が作用し、この空気力による回転トルクT4が回転軸20に作用して回転軸20を紙面時計回りに回転させようとする。
【0052】
これを受けて、紙面左側の軸54に対して錘58を嵌合した後、手を離しても基準状態(4)が保持されるようになるまで、錘58の軸54の軸方向の位置を試行錯誤的に微調整する。その結果、図15(c)に示すように、手を離しても基準状態(4)が保持されるようになった時点で、軸54に刻まれた目盛56を読み取って、回転軸20の中心軸と錘58の重心との離間距離d4を取得する。
【0053】
以上、1つの測定対象について最大4回実施される風洞実験の手順について説明してきたが、続いて、上述した風洞実験の結果を用いて揚抗力を算出する手順について説明する。
【0054】
図16は、回転台座10を基準状態(1)〜(4)に置いて気流を鉛直方向Vに流下させたときに、回転台座10に作用する空気力(揚力Lと抗力D)とその作用点を示す。ここで、基準状態(1)〜(4)における揚力Lと抗力Dの関係は、それぞれ、下記式(1)〜(4)で表すことができる。
【0055】
【数1】
【0056】
上記式(1)〜(4)において、ηは小円盤14の中心と空気力Aの作用点との水平方向の離間距離を表し、ξは小円盤14の中心と空気力Aの作用点との垂直方向の離間距離を表し、rは大円盤12の中心と小円盤14の中心との離間距離を表し、T1〜T4は、空気力Aが回転軸20にもたらす回転トルクを表す。
【0057】
ここで、上記式(1)〜(4)におけるT1〜T4は、回転台座10を基準状態(1)〜(4)に置いて実施した風洞実験で取得された離間距離d1〜d4と、錘58の質量mと、重力加速度gを下記式(5)〜(8)に代入することで求まる。
【0058】
【数2】
【0059】
本実施形態においては、上記式(1)と(2)からなる連立方程式の解として揚力Lを算出することができ、上記式(3)と(4)からなる連立方程式の解として抗力Dを算出することができる。さらに、上記式(1)、(2)、(3)からなる連立方程式または上記式(1)、(2)、(4)からなる連立方程式の解として、揚力Lおよび抗力Dを算出することができる。さらに加えて、上記式(1)、(3)、(4)からなる連立方程式または上記式(2)、(3)、(4)からなる連立方程式の解として、揚力Lおよび抗力Dを算出することができる。
【0060】
つまり、本実施形態においては、揚力Lのみを計測する場合、回転台座10を2つの基準状態(1)および(2)においた2回の風洞実験を行えばよく、抗力Dのみを計測する場合は、回転台座10を2つの基準状態(3)および(4)においた2回の風洞実験を行えばよい。また、揚力Lと抗力Dの両方を計測する場合は、回転台座10を4つの基準状態(1)〜(4)の中から選択されるいずれか3つの基準状態において風洞実験を行えばよい。
【0061】
以上、説明したように、本実施形態の揚抗力計測装置100によれば、風洞実験において模型に作用する揚力・抗力を電子機器を用いずに計測することができる。
【0062】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の設計変更が可能である。
【0063】
例えば、バランス状態提示手段60の位置合わせ用円板68の表面に表示する位置合わせ用の指標は、上述した基準線Rに限定されるものではなく、紐64が提示する鉛直方向に対する位置合わせを可能にするものであれば、どのような態様の指標であってもよい。図17は、位置合わせ用の指標として分度器の目盛を刻んでなる位置合わせ用円板68を例示する。なお、位置合わせ用円板68は、透明でなくてもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、回転軸20および回転台座10の嵌合部19のそれぞれに位置合わせ用の溝および孔を形成する構成を示したが、これに代えて、回転台座10の裏面に直線S1および直線S2を表示した上で、回転台座10の回転軸20周りの固定位置または位置合わせ用円板68の回転軸20周りの固定位置の少なくとも一方を変更自在とする構成を採用してもよい。この場合、位置合わせ用円板68の基準線Rと回転台座10の裏面の直線S1または直線S2が平行になることを目視で確認して、回転台座10または位置合わせ用円板68の回転軸20周りの固定位置を決定する。
【0065】
また、上述した実施形態では、揚抗力計測装置100を縦型風洞装置に取り付ける例を示したが、本実施形態の揚抗力計測装置100は、鉛直方向の流れの風洞のみならず水平方向の流れの風洞においても有効に機能することはいうまでもない。その他、当業者が推考しうるその他の実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の揚抗力計測装置について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0067】
図2に示したのと同様の揚抗力計測装置を作製し、作製した揚抗力計測装置を鉛直円筒吸い込み型の風洞内にセットした。そして、円盤台座を上述した基準状態(1)、(2)、(3)に置いた風洞実験を行い、実験結果に基づいて揚力Lおよび抗力Dを計算により求めた。なお、風洞内の気流の最大流速を7.3m/sとし、4種類の迎え角(5°、10°、15°、20°)を設定して実験を行った。
【0068】
実験で得られた揚力Lおよび抗力Dの計算値を、それぞれ、下記式(9)および(10)に代入して揚力係数Cおよび抗力係数Cを求めた。なお、下記式(9)および(10)において、ρは空気の比重を表し、qは空気の流速を表し、Sは実験に使用した翼の翼面積を表す。
【0069】
【数3】
【0070】
図18は、実験結果を示すグラフである。図18において、■は揚力係数Cの実験値を示し、●は抗力係数Cの実験値を示し、△はポテンシャル理論で求めた揚力係数Cの理論値を示す。図18に示すように、揚力係数Cの実験値と理論値が良く一致したことから、本発明の揚抗力計測装置の実用性を確認することができた。
【符号の説明】
【0071】
10…回転台座、12…大円盤、13…開口部、14…小円盤、16…突起、17…印、18…目盛、19…嵌合部、20…回転軸、30…回転軸支持手段、40…第1の回転トルク付与手段、42…軸固定手段、44…軸、48…錘、50…第2の回転トルク付与手段、52…軸固定手段、54…軸、56…目盛、58…錘、60…バランス状態提示手段、62…軸受、64…紐、66…錘、68…位置合わせ用円板、80…翼、82a,82b…孔、92…第1の整流部、93…縮流部、94…風洞、95…第2の整流部、97…吸気ファン、98…台座、100…揚抗力計測装置、200…縦型風洞装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18