(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)は流動性有機物質に溶解し難く、これを流動性有機物質の増粘剤として使用することは困難であることがわかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、流動性有機物質を所望の粘度に増粘若しくはゲル化、又は流動性有機物質を含有する組成物を均一に安定化する化合物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記化合物を含有する増粘安定剤、前記増粘安定剤により増粘、ゲル化、又は安定化された増粘安定化組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物は、流動性有機物質に容易に溶解して、増粘、ゲル化、又は流動性有機物質を含有する組成物を均一に安定化すること(組成物の沈降、局所的な凝集又は濃縮を防ぎ、均一状態を安定的に維持すること)ができること、流動性有機物質の種類により選択して使用することにより、流動性有機物質の粘度を所望の粘度にまで増粘又はゲル化、若しくは流動性有機物質を含有する組成物を均一に安定化することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される化合物を提供する。
【化1】
(式中、R
1、R
2は互いに異なって、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基である。nは1〜3の整数を示す)
【0011】
本発明は、また、前記化合物を含む増粘安定剤を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記増粘安定剤と流動性有機物質を含む増粘安定化組成物を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記増粘安定剤と流動性有機物質を相溶させる工程を経て増粘安定化組成物を得る増粘安定化組成物の製造方法を提供する。
【0014】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 式(1)で表される化合物。
[2] 式(1)で表される化合物が式(1-1)〜(1-4)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である[1]に記載の化合物。
[3] 式中のR
1、R
2の一方が炭素数6〜10の分岐鎖状アルキル基であり、他方が炭素数12〜18の直鎖状アルキル基又は直鎖状アルケニル基である[1]又は[2]に記載の化合物。
[4] [1]〜[3]の何れか1つに記載の化合物を含む増粘安定剤。
[5] 増粘安定剤全量(100重量%)において式(1)で表される化合物の含有量(2種以上含有する場合はその総量)が60重量%以上である[4]に記載の増粘安定剤。
[6] [4]又は[5]に記載の増粘安定剤と流動性有機物質を含む増粘安定化組成物。
[7] 流動性有機物質が、レオメーターによる粘度[25℃、せん断速度10(1/s)における粘度(η)]が0.1Pa・s未満の有機物質である[6]に記載の増粘安定化組成物。
[8] 流動性有機物質が、炭化水素油、エーテル、ハロゲン化炭化水素、石油成分、動植物油、シリコーン油、エステル、芳香族カルボン酸、及びピリジンから選択される少なくとも1種の化合物である[6]又は[7]に記載の増粘安定化組成物。
[9] [4]又は[5]に記載の増粘安定剤と流動性有機物質を相溶させる工程を経て増粘安定化組成物を得る増粘安定化組成物の製造方法。
[10] [4]又は[5]に記載の増粘安定剤と流動性有機物質を混合して加温し、相溶させた後、冷却する工程を経て増粘安定化組成物を得る増粘安定化組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の式(1)で表される化合物は、流動性有機物質と相溶させることにより、容易に流動性有機物質を増粘若しくはゲル化、又は流動性有機物質を含有する組成物を均一に安定化することができる。そのため、化粧料、塗料、食品、医薬品等に使用することによりそれらの粘度を所望の範囲に調整することができ、それらの組成を均一に維持することができ、それらの使用性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記式(1)で表される。式中、R
1、R
2は互いに異なって、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基である。nは1〜3の整数を示す。
【化2】
【0017】
式(1)で表される化合物としては、例えば、下記式(1-1)〜(1-4)で表される化合物等を挙げることができる。
【化3】
【0018】
本発明の式(1)で表される化合物としては、なかでも上記式(1-1)及び/又は(1-2)で表される化合物が、流動性有機物質の溶解性に優れる点で好ましい。また前記化合物は、流動性有機物質が透明の場合はその透明性を維持しつつ、前記流動性有機物質に擬塑性挙動及び強い貯蔵弾性率を付与することができる点でも好ましい。
【0019】
上記式中、R
1、R
2は互いに異なって、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基を示し、例えば、ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ラウリル、ミリスチル、ステアリル、ノナデシル基等の炭素数4〜20程度(好ましくは6〜18、特に好ましくは8〜18)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;3−ブテニル、4−ペンテニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル、7−オクテニル、9−デセニル、11−ドデセニル、オレイル基等の炭素数4〜20程度(好ましくは6〜18、特に好ましくは12〜18)の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、オクチニル、デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基等の炭素数4〜20程度(好ましくは6〜18、特に好ましくは12〜18)の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
【0020】
本発明の式(1)で表される化合物としては、特に、R
1、R
2の一方が炭素数4〜20程度(好ましくは4〜18、更に好ましくは6〜12、特に好ましくは6〜10、最も好ましくは8〜10)の分岐鎖状アルキル基であり、R
1、R
2の他方が炭素数4〜20程度(好ましくは6〜20、より好ましくは8〜20、更に好ましくは10〜20、特に好ましくは12〜20、最も好ましくは12〜18)の直鎖状アルキル基又は直鎖状アルケニル基である化合物が、流動性有機物質の溶解性に優れ、流動性有機物質を増粘する効果を発揮することができる点で好ましい。
【0021】
式(1)で表される化合物は、例えば、下記方法等により製造することができる。
1.シクロヘキサンテトラカルボン酸を塩化チオニルと反応させてシクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライドを得、得られたシクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライドにアミン(1)(R
1−NH
2)及びアミン(2)(R
2−NH
2)(R
1、R
2は前記に同じ)を反応させる方法
2.シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物にアミン(1)(R
1−NH
2)を反応させてアミック酸を得、更にアミン(2)(R
2−NH
2)を縮合剤を用いて縮合させる方法
【0022】
上記1の製造方法におけるシクロヘキサンテトラカルボン酸としては、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を好適に使用することができる。
【0023】
上記1の製造方法におけるアミン(R
1−NH
2、R
2−NH
2)としては、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、へキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の炭素数4以上(好ましくは、炭素数6〜20)の脂肪族炭化水素基(例えば、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基)を有するアミンを挙げることができる。
【0024】
上記1の製造方法において、シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライドとアミンの反応は、例えばアミンを仕込んだ系内にシクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライドを滴下することにより行うことができる。
【0025】
アミンの使用量(アミン(1)とアミン(2)の使用量の和)は、シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライド1モルに対して、例えば4〜8モル程度、好ましくは4〜6モルである。
【0026】
そして、アミン(1)とアミン(2)の使用割合(前者:後者、モル比)は、所望の式(1)で表される化合物に応じて適宜調整することができる。すなわち、アミン(1)とアミン(2)の使用割合を調整することにより、得られる式(1)で表される化合物中の(−CONHR
1)基と(−CONHR
2)基の数をコントロールすることができる。
【0027】
シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライドとアミンの反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の飽和又は不飽和炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;スルホラン等のスルホラン系溶媒;ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;シリコーンオイル等の高沸点溶媒等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
前記溶媒の使用量としては、シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライドとアミンの総量に対して、例えば50〜300重量%程度である。溶媒の使用量が上記範囲を上回ると反応成分の濃度が低くなり、反応速度が低下する傾向がある。
【0029】
シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラクロライドとアミンの反応(=滴下)は、通常、常圧下で行われる。また、上記反応(=滴下時)の雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。反応温度(=滴下時温度)は、例えば30〜60℃程度である。反応時間(=滴下時間)は、例えば0.5〜20時間程度である。反応(=滴下)終了後は、熟成工程を設けてもよい。熟成工程を設ける場合、熟成温度は例えば30〜60℃程度、熟成時間は例えば1〜5時間程度である。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0030】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0031】
上記2の製造方法では、例えば、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物とアミン(1)(R
1−NH
2)及び下記溶媒を系内に仕込み、熟成させることによりアミック酸を形成し、その後、アミン(2)(R
2−NH
2)と縮合剤(例えば、カルボジイミド又はその塩等)を仕込み、熟成させることにより式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0032】
前記シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物としては、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物を好適に使用することができる。
【0033】
前記アミン(1)、(2)としては、上記1の製造方法で使用できるものと同様の例を挙げることができる。
【0034】
アミン(1)の使用量としては、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物1モルに対して、例えば2〜4モル程度、好ましくは2〜3モルである。また、アミン(2)の使用量としては、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物1モルに対して、例えば2〜4モル程度、好ましくは2〜3モルである。
【0035】
前記カルボジイミドは下記式で表される。
R−N=C=N−R’
上記式中、R、R’としては、例えば、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい、炭素数3〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は3〜8員のシクロアルキル基を挙げることができる。R、R’は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、RとR’は互いに結合して上記式中の(−N=C=N−)基と共に環を形成していてもよい。
【0036】
前記炭素数3〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、s−ペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、s−ヘキシル、t−ヘキシル基等を挙げることができる。
【0037】
前記3〜8員のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基等を挙げることができる。
【0038】
前記ヘテロ原子含有置換基としては、アミノ基、ジメチルアミノ基等のジ(C
1-3)アルキルアミノ基等の窒素原子含有置換基を挙げることができる。
【0039】
カルボジイミドとしては、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド等を挙げることができる。また、カルボジイミドの塩としては、例えば、塩酸塩(具体的には、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩等)等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
カルボジイミドの使用量としては、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物1モルに対して、例えば2〜6モル程度、好ましくは2〜4モルである。
【0041】
前記溶媒としては、アミック酸の溶解性に優れるプロトン受容性溶媒(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等)を使用することが好ましい。これらは1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0042】
前記溶媒の使用量としては、アミック酸の総量に対して、例えば50〜300重量%程度、好ましくは100〜250重量%である。溶媒の使用量が上記範囲を上回ると反応成分の濃度が低くなり、反応速度が低下する傾向がある。
【0043】
上記反応は、通常、常圧下で行われる。また、上記反応の雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。熟成温度(反応温度)は、例えば30〜70℃程度である。シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物とアミンの熟成時間は、例えば0.5〜5時間程度であり、アミック酸とアミンの熟成時間は、例えば0.5〜20時間程度である。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0044】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0045】
式(1)で表される化合物はアミド結合部位において水素結合により自己会合してファイバー状の自己組織体を形成することができる。更に、R
1、R
2基が流動性有機物質に対して親和性を有するため、流動性有機物質と相溶させることにより、流動性有機物質を増粘、ゲル化、又は流動性有機物質を含有する組成物を均一に安定化することができる。更にまた、式(1)で表される化合物はR
1、R
2基が互いに異なるため適度の結晶性を有する。そのため、流動性有機物質であれば特に制限なく増粘安定化することができる。そして、流動性有機物質が透明性を有する場合はその透明性を維持しつつ増粘安定化することができ、経時的に安定な増粘安定化組成物を形成することができる。そのため、例えば、流動性有機物質の増粘安定剤(更に詳細には、増粘剤、ゲル化剤、又は安定剤)として有用である。一方、式(1)で表される化合物におけるR
1、R
2基が共に同じ基を示す場合(すなわち、式(1)で表される化合物が側鎖として同一の基を4つ有する場合)は結晶性が高くなりすぎるため、増粘安定化できる流動性有機物質が限定される傾向がある。また、増粘安定化により白濁する場合が多く、外観が損なわれる傾向がある。更に、経時的に低粘度化する傾向もある。
【0046】
[増粘安定剤]
本発明の増粘安定剤は、上記式(1)で表される化合物を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて含むことを特徴とする。
【0047】
尚、本発明において「増粘安定剤」とは流動性有機物質に溶解して粘性を生じる化合物であり、流動性有機物質に粘性を付与する増粘剤、流動性有機物質をゲル化するゲル化剤、及び流動性有機物質を含有する組成物を均一に安定化することを目的としてその粘性を高める安定剤を含む概念である。
【0048】
本発明の増粘安定剤には、上記式(1)で表される化合物以外にも、必要に応じて他の成分(例えば、基剤、ヒドロキシ脂肪酸類、アクリルポリマー、デキストリン脂肪酸エステル等のオリゴマーエステル類、金属酸化物等の粒子等)を含有していてもよい。他の成分の含有量としては、増粘安定剤全量(100重量%)において上記式(1)で表される化合物の含有量(2種以上含有する場合はその総量)が、例えば0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、特に好ましくは60重量%以上、最も好ましくは85重量%以上となる範囲内である。尚、上記式(1)で表される化合物の含有量の上限は100重量%である。上記式(1)で表される化合物の含有量が上記範囲を外れると、流動性有機物質を増粘、ゲル化、又は流動性有機物質を含有する組成物を均一に安定化することが困難となる傾向がある。
【0049】
本発明の増粘安定剤の剤型としては、例えば、粉末状、顆粒状、液状、乳液状等の種々の剤型を採用することが可能である。
【0050】
本発明の増粘安定剤は、流動性有機物質と相溶させることにより(好ましくは、混合して加温し、相溶させた後、冷却することにより)、前記流動性有機物質を増粘又はゲル化することができ、前記流動性有機物質の粘度を、1倍を超え10000倍以下程度(好ましくは5〜1000倍、特に好ましくは10〜1000倍)の範囲内において用途に応じた所望の粘度に増粘又はゲル化することができる。
【0051】
[増粘安定化組成物]
本発明の増粘安定化組成物は、上記増粘安定剤と流動性有機物質を含み、前記増粘安定剤により流動性有機物質が増粘、ゲル化、又は流動性有機物質を含有する組成物が均一に安定化されてなる組成物である。
【0052】
前記増粘安定化組成物は、増粘安定剤と流動性有機物質を相溶させる工程を経て製造することができる。より詳細には、流動性有機物質の全量と増粘安定剤を混合して加温し、相溶させた後、冷却することにより製造することができる。また、流動性有機物質の一部に増粘安定剤を混合して、加温、相溶させた後、冷却して、増粘安定化組成物を製造し、ここに残りの流動性有機物質を混合する方法でも製造することができる。
【0053】
原料としての流動性有機物質は、レオメーターによる粘度[25℃、せん断速度10(1/s)における粘度(η)]が0.1Pa・s未満の有機物質であり、例えば、炭化水素油(ヘキサン、シクロヘキサン、イソドデカン、ベンゼン、トルエン、ポリαオレフィン、流動パラフィン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン等)、ハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、クロロベンゼン等)、石油成分(ケロシン、ガソリン、軽油、重油等)、動植物油(ヒマワリ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマシ油、牛脂、ホホバ油、スクワラン等)、シリコーン油(ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等)、エステル類(オレイン酸オクチルドデシル、オクタン酸セチル、エチルヘキサン酸セチル、グリセリルトリイソオクタネート、ネオペンチルグリコールジイソオクタネート等)、芳香族カルボン酸、ピリジン等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
増粘安定剤の混合量(若しくは使用量)としては、流動性有機物質の種類にもよるが、流動性有機物質1000重量部に対して、例えば0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜90重量部、特に好ましくは1〜80重量部、最も好ましくは1〜30重量部である。増粘安定剤を上記範囲で混合(若しくは使用)することにより、流動性有機物質が増粘、若しくはゲル化された組成物、又は組成が均一に安定化された組成物を得ることができる。
【0055】
本発明の増粘安定化組成物は、上記増粘安定剤と流動性有機物質以外にも本発明の効果を損なわない範囲内で他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、化粧料、塗料、食品、医薬品等の増粘安定化を所望する組成物に含有される一般的な化合物(例えば、薬効成分、顔料、香料等)を挙げることができる。
【0056】
相溶の際の温度は、使用する増粘安定剤と流動性有機物質の種類によって適宜選択されるものであり、増粘安定剤と流動性有機物質が相溶する温度であれば特に制限されないが、100℃を超えないことが好ましく、流動性有機物質の沸点が100℃以下の場合には沸点程度が好ましい。
【0057】
相溶後の冷却は、室温(例えば、25℃)以下にまで冷却することができればよく、室温で徐々に冷却してもよいし、氷冷等により急速に冷却してもよい。
【0058】
そして、本発明の増粘安定化組成物のレオメーターによる粘度[25℃、せん断速度10(1/s)における粘度(η)]は、原料としての流動性有機物質の粘度の1倍を超え10000倍以下(好ましくは5〜1000倍、特に好ましくは10〜1000倍)の範囲内において、用途に応じて適宜調整することができる。
【0059】
本発明の増粘安定化組成物としては、流動性有機物質を含有し、その増粘安定化が望まれる組成物であれば特に制限されることがなく、例えば、化粧料、塗料、食品、医薬品等を挙げることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0061】
実施例1[増粘安定剤(1)(1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ジ(2−エチルヘキシルアミド)ジ(オレイルアミド))の合成]
ジムロート冷却管、窒素導入口、滴下ロート、熱電対を備えた100mL4つ口セパラブルフラスコにピリジン20mL、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物4.5g(0.02mol)、オレイルアミン10.6g(0.04mol)を仕込み、系内温度を50℃に設定して、3時間熟成した。
その後、2−エチルヘキシルアミン5.2g(0.04mol)、ジイソプロピルカルボジイミド5.5g(0.044mol)を仕込み、更に8時間熟成を行った。
その後、得られた粗液の低沸分をエバポレータにて除去し、メタノールで洗浄し、淡黄色の湿粉を得た。更に得られた湿粉についてCHCl
3/CH
3OH(70/30(v/v))で再結晶を行い、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ジ(2−エチルヘキシルアミド)ジ(オレイルアミド)[1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,4−ジ(2−エチルヘキシルアミド)−2,5−ジ(オレイルアミド)と1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,5−ジ(2−エチルヘキシルアミド)−2,4−ジ(オレイルアミド)の混合物]を11.9g得た(収率:61%)。反応生成物の構造は
1H−NMRにより確認した。
1H-NMR(270MHz,CDCl
3): δ0.81-0.88(m,18H), 1.0-1.4(m,68H), 1.40-1.45(m,2H), 1.76-1.99(m,8H), 2.50-3.10(m,8H), 3.30-3.45(m,4H), 5.21-5.40(m,4H), 6.31(s,4H)
【0062】
実施例2[増粘安定剤(2)(1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ジ(2−エチルヘキシルアミド)ジ(ステアリルアミド))の合成]
ジムロート冷却管、窒素導入口、滴下ロート、熱電対を備えた100mL4つ口セパラブルフラスコにピリジン20mL、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物4.5g(0.02mol)、ステアリルアミン10.7g(0.04mol)を仕込み、系内温度を50℃に設定して、3時間熟成した。
その後、2−エチルヘキシルアミン5.2g(0.04mol)、ジイソプロピルカルボジイミド5.5g(0.044mol)を仕込み、更に8時間熟成を行った。
その後、得られた粗液の低沸分をエバポレータにて除去し、メタノールで洗浄し、淡黄色の湿粉を得た。更に得られた湿粉についてCHCl
3/CH
3OH(70/30(v/v))で再結晶を行い、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ジ(2−エチルヘキシルアミド)ジ(ステアリルアミド)[1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,4−ジ(2−エチルヘキシルアミド)−2,5−ジ(ステアリルアミド)と1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,5−ジ(2−エチルヘキシルアミド)−2,4−ジ(ステアリルアミド)の混合物]を11.2g得た(収率:57%)。反応生成物の構造は
1H−NMRにより確認した。
1H-NMR(270MHz,CDCl
3):δ 0.81-0.88(m,18H), 1.0-1.4(m,84H), 1.40-1.45(m,2H), 2.57-2.77(m,8H), 2.85-3.12(m,4H), 6.31(s,4H)
【0063】
比較例1[増粘安定剤(3)(1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド))の合成]
ジムロート冷却管、窒素導入口、滴下ロート、熱電対を備えた100mL4つ口セパラブルフラスコにピリジン20mL、1,2,3−プロパントリカルボン酸2.97g(0.017mol)、ジイソプロピルカルボジイミド7.0g(0.056mol)を仕込み、系内温度を50℃に設定して、3時間熟成した。
更に2−メチルシクロヘキシルアミン5.7g(0.051mol)を仕込み8時間熟成を行った。
その後、得られた粗液の低沸分をエバポレータにて除去し、メタノールで洗浄し、淡黄色の湿粉を得た。更に得られた湿粉についてアセトンで洗浄し、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリス(2−メチルシクロヘキシルアミド)を4.7g得た(収率:61%)。
【0064】
実施例3〜4、比較例2
表1に示す各種流動性有機物質(流動パラフィン、イソドデカン、オクタン酸セチル:何れも沸点は100℃以上)を試験管に1cm
3ずつ秤とり、これに上記実施例1、2、及び比較例1で得られた増粘安定剤をそれぞれ10mg加えて混合し、100℃で加熱撹拌して流動性有機物質と増粘安定剤を相溶させ、25℃まで冷却して増粘安定化組成物を得た。
得られた増粘安定化組成物の粘度を測定し、各種流動性有機物質の粘度が何倍に増粘されたかを確認して下記基準に従って増粘性を評価し、これらの溶媒に対する増粘性評価結果が全て4以上の場合は増粘効果良好「○」、これらの溶媒に対する増粘性評価結果に3以下が含まれる場合は増粘効果不良「×」とした。
<評価基準>
1: 1.0倍を超え、2.0倍以下
2: 2.0倍を超え、4.8倍以下
3: 4.8倍を超え、10倍以下
4: 10倍を超え、50倍以下
5: 50倍を超え、100倍以下
6: 100倍を超え、10000倍以下
【0065】
尚、各種流動性有機物質及び増粘安定化組成物の粘度はコーンプレートセンサー(直径60mmでコーン角1°、直径35mmでコーン角1°、2°、4°を使用)とペルチェ温度コントローラーを装着した粘度・粘弾性測定装置(レオメータ)(商品名「RheoStress600」、HAAKE社製)を用い、25℃条件下、常流粘度測定モードにより、せん断速度を対数きざみで0.001〜100(1/s)まで変化させて粘度を測定して粘度曲線を得、得られた粘度曲線からせん断速度10(1/s)における粘度を求め、それを本発明の粘度とした。尚、各プロットは装置のトルク値変動が5%以内に収まり、データが安定した時点での値を採用した。
【0066】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
※ 比較例2では、増粘安定剤(3)は何れの流動性有機物質にも溶解せず、増粘効果は見られなかった。
【0067】
以上より、本発明の増粘安定剤は、流動性有機物質を増粘する効果に優れていることがわかる。