(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
菌根性茸類は、マツ科、ブナ科、カバノキ科などの樹木根と共生(菌根形成)して生活する。そのため、菌根性茸が発生しない林地において、茸子実体を発生させるには、菌根性茸の種菌を林地等に接種して、樹木根と菌根形成させる必要がある。
【0003】
林地等に接種する種菌を人工的に調整する場合は、目的となる菌根性茸の菌糸を何らかの担体に蔓延させ、固形の培養物として調製する必要がある。液体培養した菌糸体では、目的の位置に設置するのが困難なためである。
【0004】
さて、茸の菌糸が成長するには、窒素、リン酸、カリウム、その他微量ミネラル成分、ビタミンのほかに、ブドウ糖などのエネルギー源となる有機物が必要である。そのため、林地接種に使用する種菌の調製には、これら有機物等を鉱物質の担体にしみこませたものを一般的に使用する。
【0005】
しかし、菌糸体が担体全体に蔓延して種菌が完成した段階でも、培地含まれる有機物はそのかなりの部分が消費されずに残存している。そのため、種菌を土壌等に埋設した場合、土壌中の成長が旺盛な糸状菌やバクテリアが、残存した有機物を利用して目的とした菌根菌の菌糸体を駆逐してしまう。これによって、ホンシメジなど菌糸の成長が旺盛な一部の菌根性茸を除き、培養した種菌を林地に接種しても、宿主植物と菌根共生を成して、茸の子実体を発生させることができなかった。
【0006】
林地等に接種したのちの土着の微生物対策としては、従来から、様々な方法が考え出されている。具体的には、培地担体に菌根菌の生育を阻害しない程度の殺菌剤を混和して、種菌を調製する方法(特許文献1を参照。)、水不透性シートを使用して接種部位を野外の条件から物理的に隔離する方法(特許文献2を参照。)、飢餓培養により担体中の有機物を低減する方法(特許文献3を参照。)などが考え出されている。ただ、いずれの方法も目的とする茸の子実体は発生できていなかった。
【0007】
また、高糖濃度の寒天培地と低糖濃度の担体を接して配置して培養することによって、低糖濃度の担体に菌根性茸の菌糸体を蔓延させる方法が考えられている(特許文献4を参照。)。ただ、この方法は、特別な培養容器を作製することが必要なうえ、寒天培地まで菌糸が延伸し、接種前の寒天培地と担体との分離作業が煩雑となるので、簡易に実施することができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、菌根性茸の子実体を発生させることができる簡便な菌根性茸類の種菌調製方法及び接種方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、鋭意検討の結果、糖類やアミノ酸、ビタミン類、無機塩類、水分などはセロハンシート等の多孔質膜を透過できるが、菌根性茸の菌糸体は多孔質膜を通過できないことに着目し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の請求項1に記載の菌根性茸類の種菌調製方法は、(1)菌根性茸類の菌糸体破砕物と、菌根性茸類の菌糸体の成長に必要な栄養分を含まない無菌の担体との混合物を調製する工程と、(2)栄養分を含む固体栄養培地を、栄養分と水分は透過するが菌糸体及び担体は透過しない多孔質膜で覆う工程と、(3)
前記混合物を
前記多孔質膜上に配置して、菌根性茸類の菌糸体を培養して種菌を得る工程と、(4)
前記種菌と
前記固体栄養培地とを
前記多孔質膜の上下で分離する工程とを含む方法である。
【0012】
また、本発明の請求項2に記載の菌根性茸類の種菌調製方法は、請求項1に記載の方法であって、
前記菌根性茸類がバカマツタケの方法である。さらに、本発明の請求項3に記載の菌根性茸類の種菌調製方法は、請求項1に記載の方法であって、
前記多孔質膜がセロハンシートの方法である。
【0013】
また、請求項4に記載の菌根性茸類の接種方法は、請求項1から請求項3の何れかに記載の方法で調製された菌根性茸類の種菌を使用する方法である。
【0014】
さらに、請求項5に記載の菌根性茸類の接種方法は、請求項4に記載の方法であって、(1)請求項1から請求項3の何れかに記載の方法で調製された菌根性茸類の種菌と、宿主植物とを準備する工程と、(2)
前記種菌と
前記宿主植物の根部とを接触させ、これらを透水膜で覆って密着させ、宿主植物・種菌複合体を製作する工程と、(3)
前記宿主植物・種菌複合体を接種場所に接種する工程とを含む方法である。
【0015】
加えて、請求項6に記載の菌根性茸類の接種方法は、請求項5に記載の方法であって、
前記宿主植物・種菌複合体を製作する際に使用する
前記透水膜がセロハンシートの方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の菌根性茸の種菌調製方法及び接種方法は、菌根性茸をより簡便に栽培できる。そのため、本発明の種菌調製方法及び接種方法によって、バカマツタケ等の菌根性茸の栽培が新規産業として確立でき、山村地域の経済発展に大きく貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、菌根性茸類の種菌調製方法及びこれを使用する菌根性菌類の接種方法である。そこで、その詳細について以下に説明する
【0019】
1.菌根性茸類の種菌調製方法
本発明の菌根性茸類の種菌調製方法は、
図1に示すように、(1)混合工程、(2)培地準備工程、(3)培養工程、(4)取出分離工程を含む方法である。そこで、
図1に基づいて、これらの工程について以下に説明する。
【0020】
(1)混合工程
混合工程は、菌根性茸類の菌糸体破砕物1と担体2との混合物3を調製する工程である。ここで、菌根性茸類とは、生きた樹木の根と共生関係を保ちながら生育する茸類のことである。具体的には、アミタケ、ハツタケ、コウタケ、アイシメジ、ホンシメジ、マツタケ、バカマツタケなどが挙げられる。
【0021】
また、菌糸体破砕物1とは、液体培地及び固体培地等で培養された菌糸体を、その再生能力を損なわない公知の方法、例えばミキサーやブレンダー、超音波破砕機などを使用して破砕したものであり、液体又は固体の何でもよく、培養に使用された培地を含んでいてもよい。
【0022】
さらに、担体2は、菌根性茸類の菌糸体を生育するための栄養分を含まず、無菌の公知の担体であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、バーミキュライト、パーライト、土、砂、ピートモス、パルプ等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
菌糸体破砕物1と担体2とを混合方法は、菌糸体の再生能力が失われず、混合物3に雑菌が生じない公知の方法であれば特に限定することなく、使用できる。具体的には、滅菌した薬匙、撹拌機等を利用して撹拌することが挙げられる。なお、菌糸体破砕物1と担体2と混合割合は、菌糸体破砕物1と担体2の種類や含まれる固形分の量に応じて自由に設定できる。
【0024】
(2)培地準備工程
培地準備工程は、調製用容器4中に、多孔質膜5によって覆われた固体栄養培地6を製作する工程である。ここで、調製用容器4は菌根性茸類の菌糸体の培養に使用できる公知の容器であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、プラスチック製の使い捨て容器等が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0025】
多孔質膜5は、菌根性茸類の菌糸体の生育に必要な栄養分と水分は透過させるが、菌糸体破砕物1の菌糸及び担体2は透過しない公知の多孔質膜であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、セロハン、コロジオン膜、膀胱膜、卵殻膜、アセチルセルロース膜、ポリアクリロニトリル膜、テフロン(登録商標)膜、ポリエステル系ポリマーアロイ膜あるいはポリスルホン膜などの半透膜のシートや、ろ過滅菌に用いられるメンブレンフィルターが利用できる。中でも、生分解性を有し、安価であることからセロハンシートが好ましい。また、合成繊維を使用する場合には、環境への影響を考えて、生分解性を有するもの(ポリ乳酸など)が好ましい。
【0026】
固体栄養培地6は、菌根性茸類の菌糸体の生育に必要な栄養分を含む液体培地を、ゲル化剤によって固体化した培地である。ここで、菌根性茸類の菌糸体の生育に必要な栄養分としては、菌根性茸類の菌糸体の培養に使用されている公知の成分であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、菌根性茸類の種類や菌株に応じて、各種糖類、アミノ酸類、蛋白質類、塩類、ビタミン類等が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0027】
また、ゲル化剤としては、菌根性茸類の菌糸体の固体培養に使用されている公知のゲル化剤であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、寒天、ゲルライト、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、マンナン、ペクチン、ゼラチンなどが挙げられる。中でも、安価なことから寒天が好ましい。
【0028】
固体栄養培地6は、公知の手段によって調製用容器4の中に製作する。具体的には、ゲル化剤を含む液体培地を滅菌したのち、固化する前に調製用容器4に注ぎ入れる方法、又は、ゲル化剤と液体培地の混合物を調製用容器4の中に入れ、調製用容器4ごと滅菌する方法等が挙げられる。固体栄養培地6を多孔質膜5で覆う方法としては、公知の方法であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、固体栄養培地6の上から、滅菌した多孔質膜5を滅菌したピンセットなどで被せる方法が挙げられる。
【0029】
(3)培養工程
培養工程は、(1)混合工程で調製した混合物3を、(2)培地準備工程で製作した多孔質膜5の上に配置して、培養する工程である。混合物3を多孔質膜5の上に配置する方法としては、公知の方法、例えば、混合物3を滅菌した薬匙等で配置する方法が挙げられる。配置される混合物3の量は、調製用容器4に収納される範囲であれば特に限定する必要はないが、一般的に、混合物3に加える菌糸体破砕物1の量が多ければ多いほど、培養時間を短縮できる。
【0030】
混合物3の培養は、公知の菌根性茸類の菌糸体の培養方法であれば、特に限定することなく使用できる。具体的には、混合物3が配置された調製用容器を培養室、孵卵器等に入れて、培養する方法が挙げられる。なお、培養条件は、菌根性茸類の菌糸体の培養する際の培養条件、具体的には温度20〜22℃、相対湿度約60%、暗黒下での培養等が挙げられる。
【0031】
(4)取出分離工程
取出分離工程は、混合物3が成長してなる種菌10を調製用容器4から取出して固体栄養培地6と分離する工程である。具体的には、(a)調製用容器4の蓋を開けて、固体栄養6と調製用容器4の横壁と間にスパティラ等を差し込んで切り出し、両者が合体した状態で取出したのち、多孔質膜5を使用して両者を分離する方法、(b)調製用容器4を破壊して、種菌10と固体栄養培地6とが合体した状態で取出し、多孔質膜5を使用して両者を分離する方法、(c)調製用容器4の蓋を開けて容器の開口部を下に向け、開口部を板などに打ち付けてその振動により、両者が合体した状態で取出したのち、多孔質膜5を使用して両者を分離する方法、(d)調製用容器4の蓋を開けて、多孔質膜5の対向する辺や角をピンセットなどで引っ張って、種菌10だけを取出す方法等が挙げられる。このように、種菌10と固体栄養培地6とは多孔質膜5によって分離されているため、両者は容易に分離できる。
【0032】
2.菌根性菌類の接種方法
本発明の菌根性茸類の接種方法としては、公知の菌根性茸類の接種方法であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、(a)種菌をゲルなどに包埋して、これをアカマツ、コナラ、クヌギ等の宿主植物の生根の成長部分に配置する方法、(b)種菌と微細粒子からなる鉱物質とを順次充填した容器に、宿主植物の根の先端を挿入する方法、(c)殺菌剤を含んだ培養液をバーミキュライト等の支持体に添加した培地で種菌をさらに培養して、雑菌に強い種菌を作り、これを宿主植物の根に接種する方法、(d)宿主植物の取り木苗に種菌を付着させ、これを土壌に植え付ける方法、(e)宿主植物の取り木苗と種菌とを透水膜で密着させて複合体を製作し、この複合体を土壌に植え付ける方法等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらのうち、発明者らの研究から、菌根の成長性や接種作業の生産性の高さ等が確認されている(e)について、
図2に基づいて、以下に説明する。
【0033】
本発明の菌根性菌類の接種方法の一例は、
図2に示すように、(1)準備工程、(2)被覆工程、(3)接種工程を含む方法である。そこで、これらの工程について以下に説明する。
【0034】
(1)準備工程
準備工程は、
図2(1)に示すように、種菌10、取り木苗(宿主植物)11、透水膜12を準備する工程である。ここで、種菌10は本発明の種菌の調製方法によって調製されたものである。また、透水膜12は、前記多孔質膜5に加えて、和紙や木綿布など、生分解性で透水性があり、林地の土壌と物理的に遮断できる素材であれば特に限定することなく使用できる。中でも、生分解性を有し、安価であることからセロハンシートが好ましい。
【0035】
また、取り木苗(宿主植物)11は、取り木法によって得られた苗のことである。ここで、取り木とは、植物の無性繁殖法の一種であり、宿主植物の枝に剥皮等の発根処理を施し、水ゴケなどを巻くことによって、発根処理を行った部位に新しく発根させて苗木を得る方法である。取り木法には、圧条法、盛土法、高取り木法などいくつかの種類がある。これらの、中でも、苗木が地面に接することなく、無菌根苗を容易に得ることができるため、高取り木法が好ましい。
【0036】
なお、宿主植物の根部分が無菌根状態となるのであれば、取り木法以外の方法で製作された宿主植物を使用してもかまわない。具体的には、2〜3年生程度の実生苗の菌根部分を全て切除し殺菌土壌などで養成して菌根がしていない根を出させる方法、水耕栽培により無菌根の苗を養成する方法などが挙げられる。また、宿主植物は、苗だけでなく、成木であっても構わない。
【0037】
(2)被覆工程
被覆工程は、取り木苗11の下部にある根部と種菌10とを接触させ、透水膜12でこれらを覆ったのち、透水膜12の上下端を取り木苗11に巻きつけて密着させ、苗木・種菌複合体(宿主植物・種菌複合体)20を製作する工程である。
【0038】
(3)接種工程
接種工程は、移植ゴテなどを使用する公知の方法によって、苗木・種菌複合体20を林地、植木鉢などの接種場所に植え込む工程である。接種場所は、苗木以外にも共生できるように、他の宿主植物が生育している林地などが好ましい。なお、接種に際して、苗木の根の周りに抗ウイルス剤、抗菌剤、動物忌避剤、栄養分等を合わせて撒いてもよく、苗木の葉や幹にこれらを散布してもよい。
【0039】
苗木・種菌複合体20は、その外周が透水膜12によって覆われているので、その外部から栄養分と水分は取り込めるが、林地に生息する他のカビ類などの微生物、トビムシやキノコバエなどの昆虫の幼虫、ミミズ等はしばらくの間その中に入ってこられない。そのため、微生物、昆虫及び小動物等の影響を受けることが少なく、種菌は菌根を成長させることができる。また、苗木・種菌複合体20は、その外周を透水膜12で被覆するだけで製作でき、そのまま保存しても分離せず、そのまま植え込めば接種できるので、作業性が高い。
【0040】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、この発明の特許請求の範囲は、以下の実施例によって如何なる意味においても制限されない。
【実施例1】
【0041】
1.菌糸体の調製
林地接種用種菌のもとになる菌糸体は、次のようにして調製した。まず、奈良県森林技術センターで保有しているバカマツタケ菌株を、20〜22℃、相対湿度約60%の培養室で、固体栄養培地に接種して伸長させた。菌糸が伸長した固体栄養培地の一部を切り出して、約4ヶ月間液体培地で同様に培養した。この培養液を撹拌機(ペンシルミキサー(登録商標)、アズワン株式会社)で約30〜60秒間破砕し、破砕液10mlを新しい液体培地に植え継ぎ、同様にして液体培養した。植え継ぎして約1ヶ月後に菌糸の成長が肉眼で確認できた。3〜6ヶ月後に植え継ぎ、これを種菌調製用の菌糸体として使用した。
【0042】
なお、固体栄養培地は、表1に示す液体培地に寒天を15g/1Lとなるように加えた培地を滅菌したのち、シャーレで固形化したものを使用した。また、液体培地は、表1に示す培地50mlを容量100mlの三角フラスコ入れて滅菌したものを使用した。
【0043】
【表1】
【0044】
2.林地接種用種菌の調製
前記1で調製した菌糸体を使用して、林地接種用種菌を調製した。具体的には、以下の手順で調製した。
【0045】
(1)調製用容器の製作及び担体の調製
前記1で使用した固体栄養培地70mlを、底面60×60mm、上面65×65mm、高さ95mmのポリカーボネート製角型容器に分注して、121℃で15分間滅菌した。培地が固形化したのち、滅菌したセロハンシート(多孔質膜)をピンセットで固体培地の上面に敷いて、調製用容器を製作した。なお、比較のため、セロハンシートを敷かない調製用容器も製作した。また、バーミキュライト細粒70g及び蒸留水160mlを1Lのガラスビーカーに入れ、その上部をアルミ箔で覆ったのち、121℃で60分間滅菌して室温まで冷し、無菌の担体を調製した。
【0046】
(2)菌糸体破砕物と担体の混合
前記1で調製した菌糸体を、撹拌機で約30〜60秒間破砕して菌糸体破砕液を調製した。液体培地を含む菌糸体破砕液と無菌の担体とを滅菌した薬匙で均一になるよう混合し、(1)で製作した調製用容器に取り分けた。この際、混合物の厚さが1cm程度になるように取り分けたので、8つの調製用容器を使用した。
【0047】
(3)林地接種用種菌の調製
混合物を含む調製用容器を20〜22℃、相対湿度約60%の培養室で培養すると、菌糸体は約1ヶ月後に担体内で成長し始め、約2ヶ月後に担体全体を覆った。さらに、3ヶ月又は4ヶ月後まで培養して、これを林地接種用種菌とした。林地接種用種菌の外観を
図3に示す。また、林地接種用種菌と固体培地はセロハンシートで仕切られているため、林地接種用種菌と固体培地は、
図4に示すように、容易に分離できた。なお、セロハンシートによる仕切りがない場合、種菌と寒天培地が固着し、両者を容易に分離できなかった。
【0048】
3.林地接種1
約4ヶ月間培養した林地接種用種菌と、別途用意したウバメガシの取り木苗とを使用して、4月に奈良県内にあるコナラ林で林地接種し、その効果を調べた。具体的には、以下の手順で調べた。
【0049】
ウバメガシの枝の外側を剥いで、剥いた部位を水ゴケで覆い発根させ、ウバメガシ取り木苗を得た。そして、林内のコナラの根がありそうな場所に、取り木苗と種菌を植えるための穴を掘った。この穴に取り木苗を入れ、取り木苗の根に接するように林地接種用種菌を配置した。そして、穴を掘った時の土で穴を埋め戻した。
【0050】
約15ヶ月経過した翌年の7月に取り木苗を掘り取って観察した。その結果、
図5に示すように、取り木苗の根が種菌に侵入して種菌の周囲にシロ状の構造が形成されていることが、観察できた。このシロ状構造の菌根の一部を光学顕微鏡で観察したところ、付着した菌糸にバカマツタケ特有の厚壁胞子が確認できた。ただ、バカマツタケの子実体は発生していなかった。
【0051】
4.林地接種2
約3ヶ月間培養した林地接種用種菌と、別途用意したウバメガシの取り木苗とを使用して、11月に奈良県内にあるコナラ林で林地接種し、その効果を調べた。具体的には、以下の手順で調べた。
【0052】
ウバメガシの枝の外側を剥いで、剥いた部位を水ゴケで覆い発根させ、ウバメガシ取り木苗を得た。この取り木苗の根系部を覆う水ゴケと種菌とを接触させ、セロハンシートで包み込んだ。セロハンシートの上下端をそれぞれ取り木苗に巻きつけ、取り木苗の根と種菌が密着した苗木・種菌複合体を製作した。苗木・種菌複合体の外観を
図6に示す。
【0053】
林内のコナラの根がありそうな場所に、苗木・種菌複合体を植えるための穴を掘った。この穴に苗木・種菌複合体(宿主植物・種菌複合体)を入れ、穴を掘った時の土で穴を埋め戻した。
【0054】
約11ヶ月経過した翌年10月に苗木・種菌複合体の周囲を観察した。その結果、
図7に示すように、接種した位置からシロ状構造が広がっていることが観察された。このシロ状構造の大きさは、斜面方向が90cmで水平方向が90cmであった。そして、シロの一部には、
図8に示すように、バカマツタケの子実体も発生していた。
【0055】
また、シロ状構造の表面には、
図9に示すように、バカマツタケのシロに特有の菌糸膜が観察された。さらに、この菌糸膜には、
図10に示すように、バカマツタケに特有の厚壁胞子が多数確認された。なお、DNA分析でも、シロ状構造においてバカマツタケのDNAが検出された。
【0056】
なお、接種した取り木苗の地上部は枯死していた。ただ、根系部を掘り出して観察すると、種菌が接した場所には菌根形成された跡が残っており、シロは種菌が配置された方向から伸長していた。