(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558747
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポート
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20190805BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/04 A
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-507050(P2017-507050)
(86)(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公表番号】特表2017-514048(P2017-514048A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】CN2014084193
(87)【国際公開番号】WO2015161587
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年12月7日
(31)【優先権主張番号】201410166593.9
(32)【優先日】2014年4月23日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】317004069
【氏名又は名称】華南理工大学建築設計研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】舒 宣武
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−013322(JP,A)
【文献】
特開2006−118170(JP,A)
【文献】
特開2011−214391(JP,A)
【文献】
特開2002−188317(JP,A)
【文献】
特開平06−257319(JP,A)
【文献】
特開平11−350787(JP,A)
【文献】
特開2009−097301(JP,A)
【文献】
中国実用新案第201567693(CN,U)
【文献】
中国特許出願公開第101624847(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートにおいて、
上部構造に連結される上板と、底部のベース構造に連結される下板と、前記上板と前記下板との間に縦方向に設置されるK(K≧3)本の支柱とを含み、
前記支柱は、前記上板、前記下板にそれぞれ球状ヒンジで連結され、
前記支柱の間にL(L≧N×K、N≧1)個の弾性連結板が横方向に設置されており、
前記支柱は、
前記支柱の両端を凹球面にし、対応する凸球面を前記上板、前記下板の連結箇所に設置することにより、
前記上板、前記下板にそれぞれ前記球状ヒンジで連結され、
前記弾性連結板は、両端を隣り合う前記支柱の同一の高さに取り付けられ、折り畳み部分が略上下方向に重ねられた、側面視略N字状の折り畳み型であることにより、前記上板と前記下板とに相対変位がある場合であっても相対変位がない場合であっても、隣り合う前記支柱に接続された前記弾性連結板の両端の距離が所定の距離であることを特徴とする重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造の免震防風分野に関し、特に重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートに関する。
【背景技術】
【0002】
免震技術は、構造設計に応用されて地震の被害を小さくし、すでに成熟した技術になっている。これに関する研究と応用は、日本で先行して行われている。中国でも、これに関する応用と研究がこの二十年で行われており、一定数の免震建築物が建てられている。中国の現行免震設計基準には、免震設計に関する内容も含まれている。
【0003】
現在、国内外の免震構造に採用される免震サポートは、いずれもゴムサポートである。
【0004】
ゴムサポートは、通常、円柱形であり、その縦方向の支持力がN=Af=fπD
2/4である(A:サポートのゴム水平面積;f:ゴムの抗圧強度;D:サポートの径)。円柱形ゴムサポートの水平剛性は、K=12EJ/h
3に近似される(E:ゴムの弾性率;J=πD
2/64:ゴム水平断面の慣性モーメント;h:サポートのゴム総厚さ)。故に、K=3πED
4/16h
3。このように、円柱形ゴムサポートの水平剛性Kと縦方向の支持力Nとの関係は、K=(3E/4f)×(D
2/h
3)Nである。E、fが定数であり、hが大きくなり過ぎてはならず、Dも小さくなり過ぎてはならないため、ゴム免震サポートの水平剛性は、小さくなりすぎることがなく、相当部分の地震エネルギーがゴム免震サポートを介して上部構造に伝達される。
【0005】
構造免震について、免震サポートの水平剛性と減衰が小さいほど、その免震効果が優れる。しかし、免震サポートの水平剛性がゼロになると、地震後、免震サポートに回復力が存在せず、上部構造が初期状態に復帰できない。従って、免震サポートに一定の水平剛性を保留する必要がある。
【0006】
従って、免震サポートは、縦方向の支持力が大きく、水平剛性が制御可能であり、サイドスウェイ防止支持力が充分であり、減衰が小さいことが理想とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の欠点と不備を克服するために、重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、以下の技術手段により実現される。
【0009】
重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートにおいて、上部構造に連結される上板と、底部のベース構造に連結される下板と、前記上板と前記下板との間に縦方向に設置されるK(K≧3)本の支柱とを含み、前記支柱は、前記上板、前記下板にそれぞれ球状ヒンジで連結され、前記支柱の間にL(L≧N×K、N≧1)個の弾性連結板が横方向に設置されている。
【0010】
前記支柱は、前記支柱の両端に凹球面を、対応する凸球面を前記上板、前記下板の連結箇所に設置し、又は、前記支柱の両端に凸球面を、対応する凹球面を前記上板、前記下板の連結箇所に設置することにより、前記上板、前記下板にそれぞれ前記球状ヒンジで連結される。支柱の両端を凹球面にすることが好ましい。支柱の両端を凸球面にすると、免震層の高さが一定であるときに、球中心の間の距離が小さくなり、免震性能が劣る。
【0011】
前記連結板は、折り畳み型である。折り畳み型の連結板は、耐屈曲剛性が小さくなるため、耐屈曲支持力が大きくなり、さらに免震サポートのサイドスウェイ防止支持力が大きくなる。
【0012】
前記球状ヒンジは、摩擦回転部分の摩擦力を小さくするために、接触面に潤滑剤又はポリテトラフルオロエチレンが塗布されている。
【0013】
前記上板、下板、支柱は、共に高強度の金属材から作製され、前記連結板は、高強度の弾性材から作製される。
【0014】
本発明の動作原理は、以下のとおりである。
1)剛性K、質量mの一自由度系の無減衰円振動数は、
【数1】
である。
【0015】
2)
図1に示す単振り子は、その重力の作用により質点を平衡位置に復帰させ、その等価剛性が正剛性である。当該単振り子は、重力作用下の無減衰円振動数は、
【数2】
である。故に、当該単振り子の等価剛性は、k
b=mg/Hであり、重力剛性と称する。
【0016】
3)
図2に示す系は、普通の単振り子に加えてバネを追加したものであり、その重力とバネの作用が共に質点を平衡位置に復帰させることであり、重力等価剛性とバネの剛性が共に正剛性である。このような複合単振り子の無減衰円振動数は、
【数3】
である。故に、このような複合単振り子の等価剛性は、k
d=mg/H+kである。
【0017】
4)
図3に示す系には、単振り子を載せ、重力加速度が質点から振り子の回転軸に向け、質点の安定を維持するバネが存在する。このような複合単振り子は、重力作用により質点を平衡位置からシフトさせ、その等価剛性k
b=mg/Hが負剛性であり、重力負剛性と称する。バネの作用により質点を平衡位置に復帰させ、その剛性が正剛性である。このような複合単振り子の無減衰円振動数は、
【数4】
である。故に、このような複合単振り子の等価剛性は、k
d=k−mg/Hである。明らかに、mg/Hが一定であると、バネの剛性kを調整すれば、当該システムの等価剛性を調整することができ、円振動数ωに調整する目的を達成する。
【0018】
5)
図4に示す系は、
図3に示す系から進展したものである。このような複合系のマスは、リンクの制限作用により、回転できず、水平にしか移動できない。しかも、その縦方向の運動を無視でき、その水平運動のみを研究する。このような複合系の重力作用により、マスを平衡位置からシフトさせ、その等価剛性がk
b=−mg/Hであり、負剛性である。バネの作用により、質点を平衡位置に復帰させ、その剛性が正剛性である。このような複合系の無減衰円振動数も
【数5】
である。故に、このような複合系の等価剛性もk
d=k−mg/Hである。同様に、mg/Hが一定であると、バネの剛性kを調整すれば、当該システムの等価剛性を調整することができ、円振動数ωに調整する目的を達成する。
【0019】
6)
図5に示す系は、
図4に示す系から進展したものである。水平バネを取り除き、リンクの間に剛性連結梁を追加し、梁の屈曲変形による屈曲モーメントにより、マスを平衡位置に復帰させ、その作用が水平バネの追加と等価である。このような複合系の無減衰円振動数は、同様に
【数6】
と示される。故に、このような複合系の等価剛性は、k
d=k
e−mg/Hである。k
eは、梁とリンクの組みあわせ構造による等価水平剛性である。梁の断面サイズ、数を調整すれば、当該システムの等価剛性を調整することができ、円振動数ωに調整する目的を達成する。本発明の重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートは、その力学モデルが
図5に示すモデルであり、弾性連結板の断面サイズ、弾性連結板の数を調整すれば、当該システムの等価剛性を調整することができ、円振動数ωに調整する目的を達成する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、従来技術に比べ、以下の利点と有益な効果を有する。
A)免震作用について、免震層の水平剛性が小さいほど、その免震効果が優れる。しかし、従来のゴム免震サポートは、その水平剛性が縦方向の支持力に関係するため、相当部分の地震エネルギーがゴム免震サポートを介して上部構造に伝達される。一方、本発明の免震サポートは、構造の安定が保証された前提において、その水平剛性を非常に小さく設計することができ、その免震効果がゴムサポートより優れる。
【0021】
B)従来のゴム免震サポートには、ゴムの老化問題が存在するため、サポートの交換を考慮しなければならない。一方、本発明の免震サポートは、金属材から作製されているため、金属材のさび防止(亜鉛めっき)をきちんとすれば、サポートが効力を失うことはない。
【0022】
C)本発明の免震サポートは、水平剛性が容易に制御される。免震層の上部構造の重力負剛性を利用して、調整可能な免震層の正剛性を加え、免震層の剛性を制御する目的を達成する。具体的には、免震層で支持力の高い金属柱で上部構造を支持し、柱の間で弾性連結板により剛性連結してスチールフレームを構成する。従来の柱とは異なり、柱の上下は、剛性連結ではなく、球状ヒンジによる連結が採用される。このように、重力の作用により、いわゆる重力負剛性を形成し、その値がk
b=−mg/Hである。柱と連結板によるスチールフレームは、等価の水平剛性k
eを有する。免震層の実際の剛性がk
d=k
e+k
b=k
e−mg/Hである。k
eを調整すれば、免震層の実際の剛性をk
dに制御することができる。
【0023】
D)剛性制御機構と組み合わせて使用できる。本発明の免震サポートは、水平剛性と縦方向の支持力が制御可能であるため、必要に応じて剛性制御機構を組み合わせて使用すると、免震効果が優れるだけではなく、風荷重に対して有効に抵抗することができる。
【0024】
剛性制御機構の剛性と免震サポートの剛性が並列する。地震作用のない正常使用時に、剛性制御機構の剛性が非常に大きく、風荷重など水平作用の水平力が剛性制御機構を介してベースに伝達される。一方、地震作用の下、地面の運動の加速度が剛性制御機構を作動させ、剛性制御機構の水平剛性をゼロに急変させ、免震層の剛性が免震サポートの剛性のみになり、地震エネルギーが効果的に隔離される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】単振り子にバネを加えたモデルの模式図である。
【
図3】重力負剛性の単振り子にバネを加えたモデルの模式図である。
【
図4】デュアルリンクの重力負剛性にバネを加えたモデルの模式図である。
【
図5】デュアルリンクの重力負剛性に等価バネを加えたモデルの模式図である。
【
図6】本発明の重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートの底面図である。
【
図7】
図6におけるサポートのA-A方向断面図である。
【
図8】本発明の重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートの平面図である。
【
図9】
図8におけるサポートのB-B方向断面図である。
【
図10】球状ヒンジが設けられない剛性制御可能な免震サポートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施例及び図面を参照して本発明を更に詳細に記載するが、本発明の実施形態は、それらに限定されない。
【0027】
(実施例1)
図6、7、8、9に示すように、重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートは、上部構造に連結される上板1と、底部のベース構造に連結される下板2と、上板1と下板2の間に縦方向に設置されるK(K≧3)本の支柱3とを含む。支柱3は、上板1、下板2にそれぞれ球状ヒンジ4で連結される。支柱3の間にL(L≧N×K、N≧1)個の弾性連結板5が横方向に設置されている。
【0028】
上記支柱3は、上板1、下板2にそれぞれ球状ヒンジ4で連結される。具体的に、支柱3の両端を凹球面にし、対応する凸球面を上板1、下板2の連結箇所に設置する。
【0030】
上記球状ヒンジ4は、接触面に潤滑剤又はポリテトラフルオロエチレンが塗布されている。
【0031】
上記上板1、下板2、支柱3は、共に高強度の金属材から作製され、上記連結板5は、高強度の弾性材から作製される。
【0032】
具体的には、
図6、
図7において上板1と下板2とは相対変位がなく、
図8、
図9において上板1と下板2とは相対変位があり、このとき折り畳み型連結板が屈曲して変形する。
【0033】
隣接柱の間に弾性連結板を設けず、支柱が上部構造に縦方向の支持力しか与えず、水平の限定力を与えない。このように、縦方向の荷重作用の下、構造が安定しない平衡状態にある。上部構造に小さな水平干渉力があると、水平変位が生じてしまい、支柱が傾斜し、重力荷重により更に傾斜させ、上部構造が崩れる。これは、いわゆる構造の安定消失である。上部構造の安定消失を避けるために、隣接柱間の弾性連結板と柱からなるフレームに頼り、充分な水平剛性と水平支持力を与える。フレームの水平剛性が与える復帰力が重力荷重の傾覆力に比べて大きく、等しく、小さくなると、構造が安定、状況に応じて平衡、不安定状態になる。構造が安定状態にあると、隣接柱の間の弾性連結板の剛性を調整すれば、構造の水平剛性と水平支持力を制御することができる。
【0034】
(実施例2)
支柱の両端を凸球面にし、対応する凹球面を上板、下板連結箇所に設置することを除き、実施例1と同一である。
【0035】
(実施例3)
以下の記載を除き、実施例1と同一である。
図10に示すように、縦方向の支持力が高くない免震サポートは、球状ヒンジを使用しなくてもよく、高支持材からなり、力サイドスウェイ剛性が大きくない単層フレームを免震層に使用する。このようなフレームの幾何非線形を考慮して、その上部構造の重力によっても、重力負剛性を形成する。フレーム自身の剛性を調整して、同様に免震層の実際の剛性を制御する目的を達成できる。このような免震サポートの弾性連結板も、サポートの免震性能向上のため、折り畳み型にしてもよい。
【0036】
上述の実施例は、本発明の好適な実施形態であるが、本発明の実施形態は、上述の実施例による限定を受けない。本発明の実質精神と原理を逸脱することなく成し遂げた変更、修飾、代替、組み合わせ、簡単化は、いずれも等価の置換方式であり、いずれも本発明の保護範囲内に含まれる。
【0037】
(付記)
(付記1)
重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポートにおいて、
上部構造に連結される上板と、底部のベース構造に連結される下板と、前記上板と前記下板との間に縦方向に設置されるK(K≧3)本の支柱とを含み、
前記支柱は、前記上板、前記下板にそれぞれ球状ヒンジで連結され、
前記支柱の間にL(L≧N×K、N≧1)個の弾性連結板が横方向に設置されていることを特徴とする重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポート。
【0038】
(付記2)
前記支柱は、
前記支柱の両端に凹球面を、対応する凸球面を前記上板、前記下板の連結箇所に設置し、又は、前記支柱の両端に凸球面を、対応する凹球面を前記上板、前記下板の連結箇所に設置することにより、
前記上板、前記下板にそれぞれ前記球状ヒンジで連結されることを特徴とする付記1に記載の重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポート。
【0039】
(付記3)
前記連結板は、折り畳み型であることを特徴とする付記1に記載の重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポート。
【0040】
(付記4)
前記球状ヒンジは、接触面に潤滑剤又はポリテトラフルオロエチレンが塗布されていることを特徴とする付記1に記載の重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポート。
【0041】
(付記5)
前記上板、下板、支柱は、共に高強度の金属材から作製され、
前記連結板は、高強度の弾性材から作製されることを特徴とする付記1に記載の重力負剛性を利用した剛性制御可能な免震サポート。