(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0041】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、時計の一例として機械式時計を例に挙げて説明する。
【0042】
(時計の基本構成)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
なお、本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上方、その反対側を下方と定義して説明する。
【0043】
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋及びガラス2からなる時計ケース内に、ムーブメント(本発明に係る時計用ムーブメント)10と、少なくとも時に関する情報を示す目盛りを有する文字板3と、時針5、分針6及び秒針7を含む指針4と、を備えている。
【0044】
図2に示すように、ムーブメント10は基板を構成する地板11を有している。なお、
図2は、表側から見たムーブメント10の平面図である。さらに
図2では、図面を見易くするためにムーブメント10を構成する部品の一部の図示を省略している。
地板11の表側には、表輪列(本発明に係る輪列)12と、表輪列12の回転を制御する脱進機13と、脱進機13を調速する調速機14と、を備えている。
【0045】
表輪列12は、主に香箱車20、二番車21、三番車22及び四番車23を備えている。香箱車20は、地板11と図示しない香箱受との間に軸支されており、内部に図示しないぜんまい(動力源)が収容されている。ぜんまいは、角穴車24が回転することによって巻き上げられる。なお、角穴車24は、
図1に示すリュウズ25に連結された図示しない巻真の回転によって、同じく図示しない巻上輪列を介して回転する。
【0046】
二番車21、三番車22及び四番車23は、地板11と図示しない輪列受との間に軸支されている。これら二番車21、三番車22及び四番車23は、巻き上げられたぜんまいの弾性復元力によって香箱車20が回転すると、この回転に基づいて順に回転する。
【0047】
すなわち、二番車21は香箱車20と噛合しており、香箱車20の回転に基づいて回転する。なお、二番車21が回転すると、この回転に基づいて図示しない筒かなが回転する。筒かなには、
図1に示す分針6が取り付けられており、筒かなの回転によって分針6が「分」を表示する。分針6は、脱進機13及び調速機14によって調速された回転速度、すなわち1時間で1回転する。
【0048】
二番車21が回転すると、この回転に基づいて図示しない日の裏車が回転し、さらに日の裏車の回転に基づいて図示しない筒車が回転する。なお、日の裏車及び筒車は、表輪列12を構成する時計部品である。筒車には、
図1に示す時針5が取り付けられており、筒車の回転によって時針5が「時」を表示する。時針5は、脱進機13及び調速機14によって調速された回転速度、例えば12時間で1回転する。
【0049】
三番車22は、二番車21と噛合しており、二番車21の回転に基づいて回転する。四番車23は、三番車22に噛合しており、三番車22の回転に基づいて回転する。四番車23には、
図1に示す秒針7が取り付けられており、四番車23の回転に基づいて秒針7が「秒」を表示する。秒針7は、脱進機13及び調速機14によって調速された回転速度、例えば1分間で1回転する。
【0050】
四番車23には、がんぎかな61を介して後述するがんぎ車60が噛合している。これにより、がんぎ車60には、主に二番車21、三番車22及び四番車23を介して、香箱車20内に収容されたぜんまいからの動力(回転エネルギー)が伝達される。これにより、がんぎ車60は第1軸線O1回りに回転する。
【0051】
調速機14は、主にてんぷ30を備えている。
図3及び
図4に示すように、てんぷ30は、てん真31、てん輪32及び図示しないひげぜんまいを備え、地板11と図示しないてんぷ受との間に軸支されている。てんぷ30は、ひげぜんまいを動力源として、第2軸線O2回りに、香箱車20の出力トルクに応じた定常振幅(振り角)で往復回転(正逆回転)する。
【0052】
具体的には、
図3に示すようにてんぷ30は、第2軸線O2を中心として互いに逆向きの第1回転方向M1及び第2回転方向M2に往復回転する。本実施形態では、ムーブメント10の表側から見た平面視で、第2軸線O2を中心としててんぷ30が反時計回りに回転する方向を第1回転方向M1といい、その反対に時計回りに回転する方向を第2回転方向M2という。
【0053】
図3及び
図4に示すように、てん真31における軸方向の両端には、先細りした上ほぞ部31a及び下ほぞ部31bがそれぞれ形成されている。てん真31は、これら上ほぞ部31a及び下ほぞ部31bを介して、地板11とてんぷ受との間に軸支されている。てん真31には、てん輪32が一体的に外嵌固定されていると共に、図示しないひげ玉を介してひげぜんまいの内端部が固定されている。
図示の例では、第2軸線O2を中心として90度の間隔をあけて4つのアーム部33が配置されたてん輪32としているが、アーム部33の数、配置や形状はこの場合に限定されるものではなく、自由に変更して構わない。
【0054】
てん真31には、てんぷ30の構成部品であると共に脱進機13の構成部材でもある円環状の振り座35が外嵌固定され、第2軸線O2と同軸に配置されている。
振り座35は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成されている。振り座35の製造方法としては、例えば電鋳加工、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGAプロセス、DRIE、金属粉末射出成形(MIM)等が挙げられる。ただし、この場合に限定されるものではなく、その他の方法で振り座35を形成しても構わない。
【0055】
図3〜
図6に示すように、振り座35は、がんぎ車60に対応した高さに配置された大つば36と、大つば36に一体に形成されると共に、大つば36よりも下方(地板11側)に配置された小つば37と、を備えている。
大つば36には、該大つば36を上下に貫通する貫通孔38と、径方向に沿って延びると共に径方向の外側に開口するようにU字状に形成されたスリット39と、が形成されている。
【0056】
貫通孔38は、第2軸線O2の軸方向から見て、径方向の外側に平面を有し、且つ径方向の内側に円弧上に膨らんだ半円形状に形成されている。貫通孔38には、ルビー等の人工宝石から形成された振り石40が例えば圧入固定されている。なお、スリット39には、後述する接触爪石50が固定されている。
【0057】
振り石40は、貫通孔38の形状に対応して、径方向の外側に平坦面41を有し、且つ径方向の内側に弧状面42を有する平面視半円形状に形成されている。振り石40は、大つば36よりも下方に向けて延びるように形成されている。これにより、振り石40は、がんぎ車60よりも下方に配置された後述するアンクル71に対して接触可能とされている。
なお、振り石40は、てんぷ30に伴って第2軸線O2回りに往復回転し、その途中で後述するアンクルハコ81に対して離脱可能に係合する。
【0058】
小つば37は、大つば36よりも小径に形成されている。小つば37のうち振り石40に対して径方向に対応した部分には、径方向の内側に曲面状に凹むツキガタ43が形成されている。ツキガタ43は、後述するアンクルハコ81と振り石40とが係合しているときに、後述する剣先82が小つば37と接触することを防止する逃げ部として機能している。また、小つば37の外周面のうちツキガタ43を除く部分は、剣先82が摺接可能とされている。
【0059】
(脱進機の構成)
図3及び
図4に示すように、脱進機13は、上述した振り座35と、てんぷ30に設けられた接触爪石50と、ぜんまいから表輪列12を介して伝達される動力によって回転するがんぎ車60と、てんぷ30の回転に基づいてがんぎ車60を回転及び停止させる制御部材70と、を備えている。
なお、これ以降、がんぎ車60に伝達される動力を、単にトルクと称する場合がある。
【0060】
(接触爪石)
接触爪石50は、がんぎ車60の後述するがんぎ歯63に対して接触可能とされ、がんぎ車60に伝わったトルクをてんぷ30に伝えるための爪石とされている。接触爪石50は、振り座35における大つば36に取り付けられている。
【0061】
具体的には、接触爪石50は、大つば36に形成されたスリット39内に径方向の外側から挿入され、例えば接着剤等により固定されている。接触爪石50は、振り石40と同様に例えばルビー等の人工宝石によって形成されている。接触爪石50は、大つば36の径方向に沿って延びた矩形板状に形成され、先端部が大つば36の外周縁よりも径方向の外側に突出している。
【0062】
図6に示すように、接触爪石50の先端部のうち第2回転方向M2側を向いた側面は、径方向に沿って平坦に形成され、がんぎ歯63における作用面63aが接触(衝突)可能な接触面51とされている。さらに、接触爪石50の先端部には、第1回転方向M1側を向いた傾斜面52が形成されている。
なお、接触爪石50は、大つば36よりも下方に突出しないようにスリット39内に固定されている。これにより、接触爪石50と後述するアンクル71とが互いに接触することが防止されている。
【0063】
上述のようにてんぷ30に取り付けられた接触爪石50は、てんぷ30の回転によって後述するがんぎ歯車64の回転軌跡Rに対する進入と退避とを繰り返す。これにより、がんぎ歯車64におけるがんぎ歯63の作用面63aを、接触爪石50の接触面51に対して接触(衝突)させることが可能とされている。がんぎ歯63の作用面63aが接触爪石50の接触面51に対して接触することで、がんぎ車60から接触爪石50にエネルギーが伝えられる。
【0064】
(がんぎ車)
図3、
図4及び
図6に示すように、がんぎ車60は、四番車23と噛合するがんぎかな61が形成されたがんぎ軸部62と、がんぎ軸部62に例えば圧入等によって一体的に固定され、複数のがんぎ歯63を有するがんぎ歯車64と、を備えている。
なお本実施形態では、がんぎ歯63の歯数を8歯、がんぎかな61の歯数を10歯とした場合に例に挙げて説明している。ただし、この場合に限定されるものではなく、がんぎ歯63及びがんぎかな61の歯数は、適宜変更して構わない。
【0065】
さらに本実施形態では、
図6に示すようにムーブメント10を表側から見た平面視で、がんぎ車60が、がんぎかな61を介して四番車23側から伝達されたトルクによって第1軸線O1を中心として時計回りに回転する場合を例に挙げて説明する。
なお、第1軸線O1を中心として時計回りに回転する方向を時計方向M3、その反対方向を反時計方向M4という。さらに、がんぎ車60の回転に伴ってがんぎ歯63の歯先が描く回転軌跡Rを、単にがんぎ歯車64の回転軌跡Rという。
【0066】
図3及び
図4に示すように、がんぎ軸部62における軸方向の両端には、先細りした上ほぞ部62a及び下ほぞ部62bがそれぞれ形成されている。がんぎ車60は、これら上ほぞ部62a及び下ほぞ部62bを介して、地板11と図示しない輪列受との間に軸支されている。
【0067】
図6及び
図7に示すように、がんぎ歯車64は、例えば振り座35と同様に金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成されている。がんぎ歯車64の製造方法としては、電鋳加工、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGAプロセス、DRIE、金属粉末射出成形(MIM)等が挙げられ。ただし、この場合に限定されるものではなく、その他の製造方法によりがんぎ歯車64を形成しても構わない。
【0068】
がんぎ歯車64は、中央部分に挿通孔65aが形成され、該挿通孔65aを通じてがんぎ軸部62が圧入等によって組み合わされる円環状のハブ部65と、ハブ部65から径方向の外側に向かって延びると共に、周方向に等間隔をあけて配置された4本の第1スポーク部66と、ハブ部65から径方向の外側に向かって延びると共に、周方向に等間隔をあけて配置された4本の第2スポーク部67と、を備え、これらハブ部65、第1スポーク部66及び第2スポーク部67が一体に形成されることで構成されている。
【0069】
第1スポーク部66と第2スポーク部67とは、周方向に交互に配置されるように形成され、径方向の長さは同一とされている。第1スポーク部66及び第2スポーク部67は、径方向の外側に向かうにしたがって先細りとなるように形成されていると共に、その先端部分は時計方向M3に向けて僅かに屈曲するように形成されている。この屈曲した先端部分が、がんぎ歯63として機能する。
【0070】
これにより、本実施形態のがんぎ車60は、8歯のがんぎ歯63を有している。がんぎ歯63のうち、時計方向M3を向いた側面は、接触爪石50に対して接触すると共に、後述する入爪石(本発明に係る第1爪石)72及び出爪石(本発明に係る第2爪石)73に対して係合する作用面63aとされている。
【0071】
なお、第1スポーク部66の基端部側(根元側)は、第2スポーク部67の基端部側よりも周方向に沿った周幅が幅広となるように形成されている。第1スポーク部66の基端部には、径方向に長い平面視楕円状の第1肉抜き孔68が形成されている。第2スポーク部67の基端部には、平面視三角形状の第2肉抜き孔69が形成されている。
がんぎ車60は、主にこれら第1肉抜き孔68及び第2肉抜き孔69によって計量化が図られている。ただし、この場合に限定されるものではなく、がんぎ車60の性能や剛性等に影響を与えない範囲で、さらに肉抜き孔を形成しても構わないし、薄肉部等を設けても構わない。
【0072】
上述のように構成されたがんぎ車60は、てんぷ30が第1回転方向M1に回転したときに、伝達されたトルクをてんぷ30に対して直接的に伝えると共に、てんぷ30が第2回転方向M2に回転したときに、伝達されたトルクを、制御部材70を介しててんぷ30に対して間接的に伝える役割を担っている。
【0073】
(制御部材)
図3、
図4及び
図6に示すように、制御部材70は、てんぷ30の回転に基づいて第3軸線O3回りに回動するアンクル71を備え、がんぎ車60の回転を制御、すなわちがんぎ車60の回転の開始、及び回転の停止を制御する。
アンクル71は、がんぎ歯63に対して係脱可能とされた入爪石72及び出爪石73を有している。またアンクル71は、回動軸であるアンクル真75と、2本のアンクルビーム76、77を有するアンクル体78と、を備えている。
【0074】
アンクル真75は、第3軸線O3と同軸に配置されている。アンクル真75における軸方向の両端には、先細りした上ほぞ部75a及び下ほぞ部75bがそれぞれ形成されている。アンクル真75は、これら上ほぞ部75a及び下ほぞ部75bを介して、地板11と図示しないアンクル受との間に軸支されている。
アンクル真75における軸方向の中央部分には、アンクル真75よりも拡径したフランジ部75cが一体に形成されている。アンクル体78は、フランジ部75c上に載置された状態で、例えば圧入等によりアンクル真75に一体に固定されている。
【0075】
アンクル体78は、例えば電鋳加工やMEMS技術によって板状に形成され、がんぎ車60及び振り座35における大つば36よりも下方に配置されている。なお、がんぎ車60と同様に、アンクル体78に肉抜き孔や薄肉部等を適宜設けて軽量化を図っても構わない。図示の例では、アンクル体78に肉抜き孔を複数形成している。
【0076】
アンクル体78における2本のアンクルビーム76、77の接続部分79には、アンクル真75を固定するための挿通孔が形成されている。アンクル体78は、この挿通孔内にアンクル真75が圧入等によって嵌め込まれることで、フランジ部75c上に載置された状態でアンクル真75と一体に固定されている。
【0077】
一方のアンクルビーム76は、アンクル真75が固定された接続部分79から、がんぎ車60の回転方向とは反対の反時計方向M4側に向けて、すなわちてんぷ30側に向けて延びるように形成されている。他方のアンクルビーム77は、アンクル真75が固定された接続部分79から、がんぎ車60の回転方向である時計方向M3側に向けて延びるように形成されている。
【0078】
一方のアンクルビーム76の先端部には、第3軸線O3の周方向に並んで配置された一対のクワガタ80が設けられている。クワガタ80の内側は、てん真31側に向けて開口すると共に、てんぷ30の往復回転に伴って移動する振り石40が係脱可能に収容されるアンクルハコ81とされている。
【0079】
さらに一方のアンクルビーム76の先端部には、剣先82が取り付けられている。
剣先82は、一方のアンクルビーム76の先端部に対して下方から例えば圧入等によって嵌め込まれることで、アンクルビーム76に一体に固定されている。ただし、この場合に限定されるものではなく、例えば一方のアンクルビーム76の先端部に接着剤、カシメ等を利用して剣先82を固定しても構わない。
【0080】
剣先82は、平面視で一対のクワガタ80間に位置(すなわちアンクルハコ81の内側に位置)すると共に、クワガタ80よりもてん真31側に僅かに突出するように延びている。なお、剣先82は、振り石40よりも下方に位置し、且つ小つば37と同等の高さに位置するように固定されている。
なお、剣先82の先端部は、振り石40がアンクルハコ81から離脱している状態において、小つば37の外周面のうちツキガタ43を除いた部分に対して若干の隙間をあけて径方向に対向し、且つ振り石40がアンクルハコ81に係合している状態において、ツキガタ43内に収容される。
【0081】
なお、振り石40がアンクルハコ81から離脱しているときに、剣先82の先端部が小つば37の外周面に対して若干の隙間をあけて径方向に対向しているので、例えばてんぷ30の自由振動中に外乱が入力され、その外乱の影響によってアンクル71の停止が解除されようとしても、剣先82の先端部を小つば37の外周面に対して真っ先に接触させることができる。これにより、外乱によるアンクル71の変位を抑制でき、アンクル71の停止が解除されてしまうことを防止することができる。なお、アンクル71の停止については、後に詳細に説明する。
【0082】
さらに、一方のアンクルビーム76には、剣先82よりもアンクル真75側に位置する部分に、入爪石72を固定するための石取付孔83が形成されている。石取付孔83は、アンクルビーム76を上下に貫通するように形成されている。入爪石72は、がんぎ歯車64におけるがんぎ歯63の作用面63aに対して係脱可能とされ、がんぎ車60の停止及びその解除を行うための爪石とされている。
【0083】
入爪石72は、振り石40と同様にルビー等の人工宝石により形成され、石取付孔83内に例えば圧入による固定、或いは接着剤等により接着固定されている。入爪石72は、アンクルビーム76よりも上方に向けて延びる四角柱状に形成され、がんぎ車60と同等の高さに達するように固定されている。
入爪石72のうち、がんぎ車60の回転方向とは反対の反時計方向M4側を向いた側面は、がんぎ歯車64におけるがんぎ歯63の作用面63aが係合する係合面72aとされている。
【0084】
他方のアンクルビーム77の先端部には、出爪石73を固定するためのスリット85が形成されている。スリット85は、アンクルビーム77を上下に貫通すると共に、がんぎ車60側に向けて開口するように形成されている。出爪石73は、がんぎ歯車64におけるがんぎ歯63の作用面63aに対して係脱可能とされ、がんぎ車60の停止及びその解除を行うための爪石であると共に、がんぎ車60に伝わった動力を、アンクル71を介しててんぷ30に伝えるための爪石とされている。
【0085】
出爪石73は、振り石40と同様にルビー等の人工宝石により形成され、スリット85内に例えば圧入による固定、或いは接着剤等により接着固定されている。出爪石73は、スリット85に沿って延びた矩形板状に形成され、アンクルビーム77よりもがんぎ車60側に向かって突出するように固定されている。さらに出爪石73は、アンクルビーム77よりも上方に向けて延びるように形成され、がんぎ車60と同等の高さに達するように固定されている。
【0086】
出爪石73の先端部には、係合面73a及び摺動面73bががんぎ車60の回転方向とは反対の反時計方向M4を向くように形成されている。
係合面73aは、スリット85に沿うように平坦に形成され、がんぎ歯車64におけるがんぎ歯63の作用面63aが係合可能とされている。
摺動面73bは、係合面73aよりもがんぎ車60側に位置していると共に、スリット85側からがんぎ車60側に向かうにしたがって、がんぎ車60の回転方向である時計方向M3側に向けて延びるように形成された傾斜面とされ、がんぎ歯63が摺動可能とされている。
【0087】
具体的には、がんぎ車60におけるがんぎ歯63は、係合面73aに対する係合が解除された後に、摺動面73b上を摺動するように構成されている。がんぎ歯63の作用面63aが摺動面73b上を摺動することで、がんぎ車60から出爪石73側にトルクが伝えられる。
【0088】
上述のように構成されたアンクル71は、先に述べたようにてんぷ30の回転に基づいて第3軸線O3回りを回動する。
具体的には、アンクル71は、てんぷ30の往復回転に伴って移動する振り石40によって、てんぷ30の回転方向とは反対の方向に向けて第3軸線O3回りに回動する。このとき、入爪石72及び出爪石73は、アンクル71の回動によってがんぎ歯車64の回転軌跡Rに対する進入と退避とを交互に繰り返す。これにより、がんぎ歯車64におけるがんぎ歯63の作用面63aを、入爪石72の係合面72a、或いは出爪石73の係合面73aに対して係合させることが可能となる。
特に、入爪石72及び出爪石73は、第3軸線O3を挟んで配置されているので、がんぎ歯63と入爪石72とが係合しているときに、出爪石73ががんぎ歯63から離脱し、がんぎ歯63と出爪石73とが係合しているときに、入爪石72ががんぎ歯63から離脱する。
【0089】
より具体的には、てんぷ30が第1回転方向M1に回転したときに、がんぎ歯63と入爪石72との係合が解除され、且つがんぎ歯63と接触爪石50とが接触した後に、がんぎ歯63と出爪石73とが係合する。また、てんぷ30が第2回転方向M2に回転したときに、がんぎ歯63と出爪石73との係合が解除され、且つがんぎ歯63が出爪石73の摺動面73b上を摺動しながら相対移動した後に、がんぎ歯63と入爪石72とが係合する。この点は、後に詳細に説明する。
【0090】
さらに脱進機13は、入爪石72及び出爪石73ががんぎ車60のがんぎ歯車64と係合したときに、アンクル71を位置決めする第1ドテピン90及び第2ドテピン91を備えている。
第1ドテピン90は、一方のアンクルビーム76を挟んでがんぎ車60とは反対側に配置されている。第2ドテピン91は、他方のアンクルビーム77を挟んでがんぎ車60とは反対側に配置されている。これら第1ドテピン90及び第2ドテピン91は、例えば地板11から上方に向けて突出するように固定され、アンクル体78と同等の高さに位置している。
【0091】
このように第1ドテピン90及び第2ドテピン91が配置されているので、一方のアンクルビーム76のうち、がんぎ車60を向いた外側面とは反対側に位置する外側面76aは、第1ドテピン90に対して接触可能とされている。これにより、アンクル71の回動を規制して位置決めすることが可能となる。同様に、他方のアンクルビーム77のうち、がんぎ車60を向いた外側面とは反対側に位置する外側面77aは、第2ドテピン91に対して接触する可能とされている。これにより、アンクル71の回動を規制して位置決めすることが可能となる。
【0092】
ところで上述した入爪石72は、所定の引き角を有した状態で係合面72aががんぎ歯63の作用面63aに係合するようにアンクルビーム76に固定されている。
さらに、
図6に示すように、アンクル真75の第3軸線O3とがんぎ歯63の歯先とを結ぶ仮想線を第1直線L1、第1直線L1と直交する仮想線を第2直線L2と定義したときに、入爪石72の係合面72aとがんぎ歯63の作用面63aとが係合した際、入爪石72の係合面72aが第2直線L2に対して、がんぎ車60の回転方向である時計方向M3側に所定角度αだけ傾斜するように、入爪石72がアンクルビーム76に固定されている。なお、所定角度αとしては、例えば11°から16°程度である。
【0093】
このように、入爪石72の係合面72aが第2直線L2に対して所定角度αだけ傾斜しているので、がんぎ歯63と入爪石72との係合時、入爪石72にはがんぎ車60の回転トルクによってがんぎ車60側に引き込まれるようにトルクが作用する。従って、がんぎ歯63と入爪石72との係合状態を安定させることができ、例えば外乱によって入爪石72とがんぎ歯63との係合位置にずれ等が発生することを抑制することができる。従って、アンクル71が外乱により回動し、例えば小つば37及び剣先82同士が接触する等して、てんぷ30の自由振動を妨げる異常動作を防止することが可能とされている。
【0094】
また、出爪石73は入爪石72と同様に、所定の引き角を有した状態で係合面73aががんぎ歯63の作用面63aに係合するようにアンクルビーム77に固定されている。
さらに、入爪石72と同様に、出爪石73の係合面73aとがんぎ歯63の作用面63aとが係合した際(
図10参照)、出爪石73の係合面73aが第2直線L2に対して、がんぎ車60の回転方向である時計方向M3に所定角度αだけ傾斜するように、出爪石73がアンクルビーム77に固定されている。なお、所定角度αとしては、例えば11°から16°程度である。
【0095】
このように、出爪石73の係合面73aが第2直線L2に対して所定角度αだけ傾斜しているので、がんぎ歯63と出爪石73との係合時、出爪石73にはがんぎ車60の回転トルクによってがんぎ車60側に引き込まれるようにトルクが作用する。従って、がんぎ歯63と出爪石73との係合状態を安定させることができ、例えば外乱によって出爪石73とがんぎ歯63との係合位置にずれ等が発生することを抑制することができる。従って、アンクル71が外乱により回動し、例えば小つば37及び剣先82同士が接触する等して、てんぷ30の自由振動を妨げる異常動作を防止することが可能とされている。
【0096】
上述のように構成された脱進機13において、がんぎ車60からてんぷ30にトルクを直接的に伝えるときの第1回転作動角度θ1(
図15、
図16参照)と、がんぎ車60からてんぷ30にトルクを間接的に伝えるときの第2回転作動角度θ2(
図15、
図16参照)と、が異なる作用角度となるようにがんぎ車60は回転が制御されている。
具体的には、第1回転作動角度θ1が第2回転作動角度θ2よりも大きくなるようにがんぎ車60の回転が、アンクル71を含む制御部材70によって制御されている。この点については、後に詳細に説明する。
【0097】
(脱進機の動作)
次に、上述のように構成された脱進機13の動作について説明する。
なお、以下の説明における動作開始状態では、
図6に示すように、がんぎ歯63の作用面63aが入爪石72の係合面72aに係合していると共に、他方のアンクルビーム77における外側面77aが第2ドテピン91に対して接触してアンクル71が位置決めされている。これにより、がんぎ車60は回転が停止している。さらに、てんぷ30の自由振動によって振り石40が第1回転方向M1に移動し、アンクルハコ81の内側に進入している。なお、接触爪石50は、がんぎ歯車64の回転軌跡Rから退避している。
【0098】
このような動作開始状態から、てんぷ30の往復回転に伴う脱進機13の動作について、順を追って説明する。
【0099】
図6に示す状態から、てんぷ30がひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギー(動力)によって第1回転方向M1にさらに回転すると、振り石40がアンクルハコ81の内面のうち、振り石40よりも該振り石40の進行方向側に位置するクワガタ80側の内面に接触して係合すると共に、アンクルハコ81を第1回転方向M1に押圧する。これにより、振り石40を介して、ひげぜんまいからの動力がアンクル71に伝わる。
なお、アンクルハコ81と振り石40との係合時、ツキガタ43が形成されているために、小つば37と剣先82とは互いに接触することがない。従って、てんぷ30からの動力をアンクル71に効率よく伝えることができる。
【0100】
これにより、
図8に示すように、アンクル71が第3軸線O3を中心として時計回りに回動して、アンクルビーム77における外側面77aが第2ドテピン91から離間する。また、アンクル71が回動することで、入爪石72ががんぎ歯車64から離脱する方向(がんぎ歯車64の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。
そして、入爪石72ががんぎ歯車64の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、入爪石72をがんぎ歯63から離脱させて、がんぎ歯63との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車60の停止の解除を行うことができる。
【0101】
なお、がんぎ歯63と入爪石72との係合を解除する際、入爪石72には引き角がついているので、がんぎ車60は本来の回転方向である時計方向M3ではなく、その反対の反時計方向M4に瞬間的に後退する。がんぎ車60は、この瞬間的な後退を経た後に、表輪列12を介して伝えられたトルクによって時計方向M3に回転を再開する。
このように、がんぎ車60を瞬間的に後退させることで、表輪列12の噛み合いをより確実にすることができ、安定且つ高い信頼性で表輪列12を作動させることができる。
【0102】
そして、
図9に示すように、がんぎ車60が時計方向M3に向けて回転を再開すると、てんぷ30の第1回転方向M1への回転に伴ってがんぎ歯車64の回転軌跡R内に進入してきた接触爪石50の接触面51に対してがんぎ歯63の作用面63aが接触(衝突)する。これにより、がんぎ車60に伝わったトルクを、接触爪石50及び振り座35を介しててんぷ30に直接的に伝えることができると共に、振り石40に追従するようにアンクル71を引き続き回動させることができる。このように、がんぎ車60に伝わったトルクをてんぷ30に対して直接的に伝えることで、てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0103】
上述のようにがんぎ歯63が接触爪石50に接触すると、がんぎ歯63は接触面51上を滑りながら時計方向M3に回転すると共に、接触爪石50はてんぷ30の回転に伴って徐々にがんぎ歯車64から離脱する方向(がんぎ歯車64の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。また、てんぷ30の回転によって接触爪石50ががんぎ歯車64から離脱する方向に移動している際、出爪石73がアンクル71の時計回りへの回動によってがんぎ歯車64の回転軌跡Rに進入しはじめる。
【0104】
そして、接触爪石50ががんぎ歯車64の回転軌跡Rから外れた位置まで移動すると、
図10に示すように、がんぎ歯車64の回転軌跡Rに進入していた出爪石73の係合面73aに対してがんぎ歯63の作用面63aが接触する。
【0105】
なお、接触当初の段階では、アンクル71は時計回りの回動に伴って第1ドテピン90に向かって移動しているが、第1ドテピン90に対して非接触とされている。そのため、がんぎ歯63と出爪石73とが接触したまま、アンクル71は僅かに回動する。そして、一方のアンクルビーム76における外側面76aが第1ドテピン90に接触すると、アンクル71はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、がんぎ歯63と出爪石73とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車60は回転が停止し、アンクル71は停止した状態となる。なお、
図10では、アンクルビーム76の外側面76aと第1ドテピン90とが接触した状態を図示している。
この段階で、てんぷ30への直接的なトルク伝達動作が終了する。
【0106】
その後、振り石40はアンクルハコ81内から離脱し、てんぷ30の第1回転方向M1への回転に伴ってアンクル71から離間する。これ以降、てんぷ30は慣性によって第1回転方向M1に回転し続けると共に、その回転エネルギーがひげぜんまいに蓄えられていく。そして、回転エネルギーが全てひげぜんまいに蓄えられると、てんぷ30は第1回転方向M1への回転を止めて、一瞬静止した後に、ひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギーによって反対の第2回転方向M2に向けて回転を開始する。
【0107】
これにより、振り石40は、てんぷ30の第2回転方向M2への回転に伴ってアンクル71に向けて再び接近するように移動を開始する。
そして、
図11に示すように、振り石40がアンクル71のアンクルハコ81内に進入すると、振り石40はアンクルハコ81の内面のうち、振り石40よりも該振り石40の進行方向側に位置するクワガタ80側の内面に接触して係合すると共に、アンクルハコ81を第2回転方向M2に向けて押圧する。これにより、振り石40を介してひげぜんまいからの動力がアンクル71に伝わる。
【0108】
これにより、
図12に示すように、アンクル71が第3軸線O3を中心として反時計回りに回動して、一方のアンクルビーム76における外側面76aが第1ドテピン90から離間する。また、アンクル71が回動することで、出爪石73ががんぎ歯車64から離脱する方向(がんぎ歯車64の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。そして、出爪石73の係合面73aががんぎ歯車64の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、係合面73aとがんぎ歯63との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車60の停止の解除を行うことができる。
【0109】
なお、入爪石72と同様に、出爪石73には引き角がついているので、がんぎ車60は反時計方向M4に瞬間的に後退した後に、表輪列12を介して伝えられた動力によって時計方向M3に回転を再開する。そして、がんぎ車60が時計方向M3に向けて回転を再開すると、
図13に示すように、がんぎ車60は、がんぎ歯63が出爪石73の摺動面73b上を摺動しながら相対移動し、時計方向M3に回転する。これにより、がんぎ車60に伝わったトルクを、出爪石73を介してアンクル71に伝えることができ、アンクルハコ81の内面のうち、振り石40よりも該振り石40の進行方向とは反対側に位置するクワガタ80側の内面が振り石40に接触して係合する。
【0110】
従って、がんぎ車60に伝わったトルクを、アンクル71を介しててんぷ30に間接的に伝えることができると共に、振り石40に追従するようにアンクル71を引き続き回動させることができる。このように、がんぎ車60に伝わったトルクを、てんぷ30に対して間接的に伝えることで、てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0111】
その後、アンクル71の回動によって出爪石73ががんぎ歯車64の回転軌跡Rから外れた位置まで移動すると、
図14に示すように、がんぎ歯車64の回転軌跡Rに進入した入爪石72の係合面72aに対してがんぎ歯63の作用面63aが接触する。
【0112】
なお、接触当初の段階では、アンクル71は、反時計回りの回動に伴って第2ドテピン91に向かって移動しているが、第2ドテピン91に対して非接触とされている。そのため、がんぎ歯63と入爪石72とが接触したまま、アンクル71は僅かに回動する。そして、他方のアンクルビーム77における外側面77aが第2ドテピン91に接触すると、アンクル71はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、がんぎ歯63と入爪石72とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車60は回転が停止し、アンクル71は停止した状態となる。なお、
図14では、アンクルビーム77の外側面77aと第2ドテピン91とが接触した状態を図示している。
この段階で、てんぷ30への間接的なトルク伝達動作が終了する。
【0113】
これ以降、てんぷ30の往復回転に伴って、脱進機13は上述した動作を繰り返す。従って、接触爪石50と、入爪石72及び出爪石73を有するアンクル71と、を利用して、てんぷ30が1往復する間に、直接的なトルク伝達と間接的なトルク伝達とを交互に行いながら(切り換えながら)、がんぎ車60に伝わったトルクをてんぷ30に補充することができると共に、てんぷ30に対応した一定に振動でがんぎ車60の回転を制御することができる。
つまり、直接衝撃及び間接衝撃を併用した、半間接−半直接衝撃型の脱進機13として動作させることができ、間接衝撃型である従来のクラブトゥース・レバー脱進機に比べて、トルク伝達効率を高めることができる。
【0114】
特に、本実施形態の脱進機13は、
図15及び
図16に示すように、てんぷ30が第1回転方向M1に回転して、伝達されたトルクをてんぷ30に対して直接的に伝えるときのがんぎ車60の第1回転作動角度θ1と、てんぷ30が第2回転方向M2に回転して、伝達されたトルクをてんぷ30に対して間接的に伝えるときのがんぎ車60の第2回転作動角度θ2と、が同じ作動角度ではなく、異なる作動角度(不均等)となるように、がんぎ車60の回転が制御部材70によって制御されている。
【0115】
具体的には、第1回転作動角度θ1が第2回転作動角度θ2よりも大きくなるようにがんぎ車60の回転が制御されている。
より詳細には、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車60が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合が50%よりも大きく、且つ75%未満となるようにがんぎ車60の回転が制御されている。
本実施形態では、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車60が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合が略66.7%となるようにがんぎ車60の回転が制御されている。
【0116】
詳細に説明する。
上述の動作において、てんぷ30が1往復する間、がんぎ車60は1歯分だけ回転する。本実施形態のがんぎ車60は、がんぎ歯63を8歯有しているので、てんぷ30が1往復する間、第1軸線O1回りに45度回転する。従って、
図15に示すように、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車60が回転する所定回転作動角度θ3は、45度となる。
【0117】
次いでがんぎ車60は、てんぷ30が第1回転方向M1に回転することに伴って、
図6に示す状態(がんぎ歯63の作用面63aと入爪石72の係合面72aとが係合している状態)から、
図10に示す状態(がんぎ歯63の作用面63aと出爪石73の係合面73aとが係合している状態)に移行するまでの間、回転する。そして、この間にてんぷ30への直接的なトルク伝達を行う。
従って、
図15に示すように、
図6に示す状態を二点鎖線で表したがんぎ車60から、
図10に示す状態を実線で表したがんぎ車60に移行するまでの角度が第1回転作動角度θ1に相当し、本実施形態では30度としている。
【0118】
さらにがんぎ車60は、てんぷ30が第2回転方向M2に回転することに伴って、
図11に示す状態(がんぎ歯63の作用面63aと出爪石73の係合面73aとが係合している状態)から、
図14に示す状態(がんぎ歯63の作用面63aと入爪石72の係合面72aとが係合している状態)に移行するまでの間、回転する。そして、この間にてんぷ30への間接的なトルク伝達を行う。
従って、
図16に示すように、
図11に示す状態を二点鎖線で表したがんぎ車60から、
図14に示す状態を実線で表したがんぎ車60に移行するまでの角度が第2回転作動角度θ2に相当し、本実施形態では15度としている。
なお、第1回転作動角度θ1と第2回転作動角度θ2との合計が、所定回転作動角度θ3に相当する。
【0119】
従って、上述したように、本実施形態ではてんぷ30が1往復する間にがんぎ車60が回転する所定回転作動角度θ3(45度)に対して、第1回転作動角度θ1(30度)が占める割合を、略66.7%としている。
【0120】
本実施形態の脱進機13によれば、第1回転作動角度θ1及び第2回転作動角度θ2を異なる作動角度(不均等)としているので、てんぷ30に直接的にトルクを伝達する際のトルク伝達量と、てんぷ30に間接的にトルクを伝達する際のトルク伝達量と、の供給バランスを最適なバランスとなるように調整することができ、結果的にトルク伝達効率(脱進機効率)を高めることができる。
また、第1回転作動角度θ1と第2回転作動角度θ2とがあえて同一の作動角度となるように、がんぎ車60、てんぷ30及びアンクル71を配置する必要がないので、これらがんぎ車60、てんぷ30及びアンクル71をそれぞれ制約少なく自由に設計配置することが可能である。そのため、最適なレイアウトで脱進機13を構成することができ、作動誤差が少なく、計時精度に優れた(時刻誤差が少ない)脱進機13とすることが可能である。
【0121】
特に、第1回転作動角度θ1を第2回転作動角度θ2よりも大きくしているので、てんぷ30が1往復する間に、がんぎ車60からてんぷ30に間接的にトルクを伝える場合よりも、直接的にトルクを伝える割合を大きくすることができるので、トルク伝達効率をさらに高め易い。
【0122】
しかも、本実施形態では、所定回転作動角度θ3に対して第1回転作動角度θ1が占める割合を75%未満である66.7%としているので、てんぷ30が第2回転方向M2に回転するときのがんぎ車60の回転作動角度(第2回転作動角度θ2)が例えば過度に小さい作動角度になることを防ぐことができる。これにより、例えばアンクル71が適切に作動するための作動角を確保することができ、安定して作動する信頼性の高い脱進機13とすることができる。
従って、優れたトルク伝達効率を維持しつつ、アンクル71を適切に作動させることができ、安定した作動性能を具備する信頼性の高い脱進機13とすることができる。
【0123】
さらに、がんぎ歯63の歯数は8歯であるので、第1回転作動角度θ1及び第2回転作動角度θ2が例えば過度に大きくなることを抑制できる。そのため、アンクル71を例えばコンパクトに設計できるうえ、アンクル71を大きく回動させる必要がない。従って、さらに作動が安定した信頼性の高い脱進機13とすることができる。
【0124】
以上説明したように、本実施形態の脱進機13によれば、トルク伝達効率に優れているうえ、作動誤差が少なく、計時精度に優れた脱進機13とすることができる。
また、本実施形態のムーブメント10及び時計1によれば、上記脱進機13を具備しているので、同様に計時精度に優れた高性能なムーブメント10及び時計1となる。特に、トルク伝達効率に優れた脱進機13を具備するので、例えばてんぷ30の振り角を大きく維持し易く、例えば外乱の影響を受け難いムーブメント10及び時計1となる。
【0125】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態では、がんぎ車60が単層構造とされていたが、第2実施形態では、がんぎ車が二層構造とされている。
【0126】
図17及び
図18に示すように、本実施形態の脱進機100は、四番車23と噛合するがんぎかな61が形成されたがんぎ軸部62と、第1がんぎ歯車110と、第1がんぎ歯車110に対して第1軸線O1の軸方向に重ねて配置された第2がんぎ歯車120と、を有する二層構造のがんぎ車101を備えている。
【0127】
第1がんぎ歯車110は、第1実施形態におけるがんぎ歯車64と同一の構成とされているので、詳細な説明は省略する。
本実施形態では、
図19に示すように、第1実施形態におけるがんぎ歯63を、第1がんぎ歯111と称する。また、がんぎ車101の回転に伴って第1がんぎ歯111の歯先が描く回転軌跡R1を、単に第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1という。
さらに、第1がんぎ歯111のうち、時計方向M3を向いた側面は、接触爪石50に対して接触すると共に、入爪石72に対して係合する第1作用面111aとされている。
【0128】
図17、
図18及び
図20に示すように、第2がんぎ歯車120は、第1がんぎ歯車110の下方に配置された状態で、第1がんぎ歯車110と同様に、がんぎ軸部62に例えば圧入等によって一体的に固定されている。第2がんぎ歯車120は、複数の第2がんぎ歯121を有し、第1がんぎ歯車110よりも小径に形成されている。
なお、第2がんぎ歯121の歯数は、第1がんぎ歯111の歯数と同様に、8歯とされている。また、がんぎ車101の回転に伴って第2がんぎ歯121の歯先が描く回転軌跡R2を、単に第2がんぎ歯車120の回転軌跡R2という。
【0129】
第2がんぎ歯車120は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成されている。第2がんぎ歯車120の製造方法としては、電鋳加工、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGAプロセス、DRIE、金属粉末射出成形(MIM)等が挙げられ。ただし、この場合に限定されるものではなく、その他の製造方法により第2がんぎ歯車120を形成しても構わない。
【0130】
図21に示すように、第2がんぎ歯車120は、中央部分に挿通孔122aが形成され、該挿通孔122aを通じてがんぎ軸部62が圧入等によって組み合わされる円環状のハブ部122と、ハブ部122から径方向の外側に向かって延びると共に、周方向に等間隔をあけて配置された4本の第3スポーク部123と、ハブ部122から径方向の外側に向かって延びると共に、周方向に等間隔をあけて配置された4本の第4スポーク部124と、を備え、これらハブ部122、第3スポーク部123及び第4スポーク部124が一体に形成されることで構成されている。
【0131】
第3スポーク部123と第4スポーク部124とは、周方向に交互に配置されるように形成され、径方向の長さは同一とされている。第3スポーク部123及び第4スポーク部124は、径方向の外側に向かうにしたがって先細りとなるように形成されていると共に、その先端部分は時計方向M3に向けて屈曲するように形成されている。この屈曲した先端部分が、第2がんぎ歯121として機能する。
【0132】
これにより、本実施形態の第2がんぎ歯車120は、8歯の第2がんぎ歯121を有している。第2がんぎ歯121のうち、時計方向M3を向いた側面は、出爪石73に対して接触する第2作用面121aとされている。
なお、第2がんぎ歯121は、いわゆるクラブトゥース・レバー脱進機におけるがんぎ歯車の歯形を有しており、時計方向M3を向いた側面(第2作用面121a)を介して出爪石73に対して衝撃を与え、アンクル71にエネルギー伝達を行う役割を担っている。
【0133】
第3スポーク部123の基端部側は、第4スポーク部124の基端部側よりも周方向に沿った周幅が幅広となるように形成されている。第3スポーク部123の基端部には、径方向に長い平面視楕円状の第3肉抜き孔125が形成されている。第4スポーク部124の基端部には、平面視三角形状の第4肉抜き孔126が形成されている。
なお、第3肉抜き孔125は、第1がんぎ歯車110に形成された第1肉抜き孔68と同一且つ同サイズの形状とされている。
【0134】
第2がんぎ歯車120は、主にこれら第3肉抜き孔125及び第4肉抜き孔126によって計量化が図られている。ただし、この場合に限定されるものではなく、第2がんぎ歯車120の性能や剛性等に影響を与えない範囲で、さらに肉抜き孔を形成しても構わないし、薄肉部等を設けても構わない。
【0135】
上述のように構成された第2がんぎ歯車120は、
図18及び
図20に示すように、第1がんぎ歯車110に対して位相が一致するように重ね合わされている。すなわち、第2がんぎ歯車120は、第1がんぎ歯車110における第1スポーク部66の基端部及び第2スポーク部67の基端部に対して、第3スポーク部123の基端部及び第4スポーク部124の基端部が下方に重なるように、第1がんぎ歯車110に対して重ね合わされた状態で、がんぎ軸部62に固定されている。
【0136】
特に、第3肉抜き孔125が、第1がんぎ歯車110に形成された第1肉抜き孔68と同一且つ同サイズの形状とされているので、第1肉抜き孔68及び第3肉抜き孔125を周方向に位置合わせすることで、第1がんぎ歯車110と第2がんぎ歯車120とを容易且つ適切に位相合わせすることが可能とされている。
【0137】
なお、第2がんぎ歯車120における第3スポーク部123及び第4スポーク部124の先端部は、第1がんぎ歯車110における第1スポーク部66及び第2スポーク部67の先端部よりも、時計方向M3側に屈曲している。そのため、第2がんぎ歯121は、第1がんぎ歯111に対して位相がずれている。
【0138】
上述のようにがんぎ車101が、第1がんぎ歯車110及び第2がんぎ歯車120を有する二層構造とされているので、出爪石73は第1実施形態よりもがんぎ車101側に突出するように形成されていると共に、第1実施形態よりも上方に突出することなく形成されている。
【0139】
(脱進機の動作)
上述のように構成されている本実施形態の脱進機100であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。以下、本実施形態の脱進機100の動作について簡単に説明する。
【0140】
なお、動作開始状態では、
図20に示すように、第1がんぎ歯111の第1作用面111aが入爪石72の係合面72aに係合していると共に、他方のアンクルビーム77における外側面77aが第2ドテピン91に対して接触してアンクル71が位置決めされている。これにより、がんぎ車101は回転が停止している。さらに、てんぷ30の自由振動によって振り石40が第1回転方向M1に移動し、アンクルハコ81の内側に進入している。なお、接触爪石50は、第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1から退避している。
【0141】
このような動作開始状態から、てんぷ30の往復回転に伴う脱進機100の動作について、順を追って説明する。
図20に示す状態から、てんぷ30が第1回転方向M1に回転すると、振り石40がアンクルハコ81の内面に接触して係合すると共に、アンクルハコ81を第1回転方向M1に押圧する。これにより、振り石40を介して、ひげぜんまいからの動力がアンクル71に伝わる。
【0142】
これにより、アンクル71が第3軸線O3を中心として時計回りに回動して、他方のアンクルビーム77における外側面77aが第2ドテピン91から離間する。また、アンクル71が回動することで、入爪石72が第1がんぎ歯車110から離脱する方向(第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1から退避する方向)に移動する。そして、入爪石72が第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1から僅かに外れた位置まで移動することで、入爪石72を第1がんぎ歯111から離脱させて、第1がんぎ歯111との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車101の停止の解除を行うことができる。
【0143】
そして、
図22に示すように、がんぎ車101が時計方向M3に向けて回転を再開すると、てんぷ30の第1回転方向M1への回転に伴って第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1内に進入してきた接触爪石50の接触面51に対して第1がんぎ歯111の第1作用面111aが接触(衝突)する。
これにより、がんぎ車101に伝わったトルクを、接触爪石50及び振り座35を介しててんぷ30に直接的に伝えることができる。従って、がんぎ車101に伝わったトルクを、てんぷ30に対して直接的に伝えることで、てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0144】
上述のように第1がんぎ歯111が接触爪石50に接触すると、第1がんぎ歯111は接触面51上を滑りながら時計方向M3に回転すると共に、接触爪石50はてんぷ30の回転に伴って徐々に第1がんぎ歯車110から離脱する方向(第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1から退避する方向)に移動する。また、てんぷ30の回転によって接触爪石50が第1がんぎ歯車110から離脱する方向に移動している際、出爪石73がアンクル71の時計回りへの回動によって第2がんぎ歯車120の回転軌跡R2に進入する。
【0145】
そして、接触爪石50が第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1から外れた位置まで移動すると、
図23に示すように、第2がんぎ歯車120の回転軌跡R2に進入していた出爪石73の係合面73aに対して第2がんぎ歯121の第2作用面121aが接触する。
【0146】
なお、接触当初の段階では、アンクル71は、時計回りの回動に伴って第1ドテピン90に向かって移動しているが、第1ドテピン90に対して非接触とされている。そのため、第2がんぎ歯121と出爪石73とが接触したまま、アンクル71は僅かに回動する。そして、一方のアンクルビーム76における外側面76aが第1ドテピン90に接触すると、アンクル71はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、第2がんぎ歯121と出爪石73とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車101は回転が停止し、アンクル71は停止した状態となる。なお、
図23では、アンクルビーム76の外側面76aと第1ドテピン90とが接触した状態を図示している。
この段階で、てんぷ30への直接的なトルク伝達動作が終了する。
【0147】
その後、振り石40はアンクルハコ81内から離脱し、てんぷ30の第1回転方向M1への回転に伴ってアンクル71から離間する。これ以降、てんぷ30は慣性によって第1回転方向M1に回転し続けると共に、その回転エネルギーがひげぜんまいに蓄えられていく。そして、回転エネルギーが全てひげぜんまいに蓄えられると、てんぷ30は第1回転方向M1への回転を止めて、一瞬静止した後に、ひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギーによって反対の第2回転方向M2に向けて回転を開始する。
【0148】
これにより、振り石40は、てんぷ30の第2回転方向M2への回転に伴ってアンクル71に向けて再び接近するように移動を開始する。
そして、
図24に示すように、振り石40がアンクル71のアンクルハコ81内に進入すると、振り石40はアンクルハコ81の内面に接触して係合すると共に、アンクルハコ81を第2回転方向M2に向けて押圧する。これにより、振り石40を介してひげぜんまいからの動力がアンクル71に伝わる。
【0149】
そのため、アンクル71が第3軸線O3を中心として反時計回りに回動して、一方のアンクルビーム76における外側面76aが第1ドテピン90から離間する。また、アンクル71が回動することで、出爪石73が第2がんぎ歯車120から離脱する方向(第2がんぎ歯車120の回転軌跡R2から退避する方向)に移動する。そして、出爪石73の係合面73aが第2がんぎ歯車120の回転軌跡R2から僅かに外れた位置まで移動することで、係合面73aと第2がんぎ歯121との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車101の停止の解除を行うことができる。
【0150】
そして、がんぎ車101が時計方向M3に向けて回転を再開すると、
図25に示すように、がんぎ車101は、第2がんぎ歯121が出爪石73の摺動面73b上を摺動しながら相対移動し、時計方向M3に回転する。これにより、がんぎ車101に伝わったトルクを、出爪石73を介してアンクル71に伝えることができる。従って、がんぎ車101に伝わったトルクを、アンクル71を介しててんぷ30に間接的に伝えることができ、てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0151】
その後、アンクル71の回動によって出爪石73が第2がんぎ歯車120の回転軌跡R2から外れた位置まで移動すると、
図26に示すように、第1がんぎ歯車110の回転軌跡R1に進入した入爪石72の係合面72aに対して第1がんぎ歯111の第1作用面111aが接触する。
【0152】
なお、接触当初の段階では、アンクル71は、反時計回りの回動に伴って第2ドテピン91に向かって移動しているが、第2ドテピン91に対して非接触とされている。そのため、第1がんぎ歯111と入爪石72とが接触したまま、アンクル71は僅かに回動する。そして、アンクルビーム77における外側面77aが第2ドテピン91に接触すると、アンクル71はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、第1がんぎ歯111と入爪石72とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車101は回転が停止し、アンクル71は停止した状態となる。なお、
図26では、アンクルビーム77の外側面77aと第2ドテピン91とが接触した状態を図示している。
この段階で、てんぷ30への間接的なトルク伝達動作が終了する。
【0153】
上述のように、本実施形態の脱進機100であっても、てんぷ30が1往復する間に、直接的なトルク伝達と間接的なトルク伝達とを交互に行いながら、がんぎ車101に伝わったトルクをてんぷ30に伝えて該てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0154】
さらに、本実施形態の場合であっても、
図27及び
図28に示すように、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車101が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合が50%よりも大きく、且つ75%未満となるようにがんぎ車60、101の回転が制御されている。
具体的には、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車101が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合が略66.7%となるようにがんぎ車101の回転が制御されている。
【0155】
詳細に説明する。
上述の動作において、てんぷ30が1往復する間、がんぎ車101は1歯分だけ回転する。従って、
図27及び
図28に示すように、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車60が回転する所定回転作動角度θ3は、45度となる。
【0156】
がんぎ車101は、てんぷ30が第1回転方向M1に回転することに伴って、
図20に示す状態(第1がんぎ歯111の第1作用面111aと入爪石72の係合面72aとが係合している状態)から、
図23に示す状態(第2がんぎ歯121の第2作用面121aと出爪石73の係合面73aとが係合している状態)に移行するまでの間、回転する。そして、この間にてんぷ30への直接的なトルク伝達を行う。
従って、
図27に示すように、
図20に示す状態を二点鎖線で表したがんぎ車101から、
図23に示す状態を実線で表したがんぎ車101に移行するまでの角度が第1回転作動角度θ1に相当し、本実施形態では30度としている。
【0157】
さらにがんぎ車101は、てんぷ30が第2回転方向M2に回転することに伴って、
図24に示す状態(第2がんぎ歯121の第2作用面121aと出爪石73の係合面73aとが係合している状態)から、
図26に示す状態(第1がんぎ歯111の第1作用面111aと入爪石72の係合面72aとが係合している状態)に移行するまでの間、回転する。そして、この間にてんぷ30への間接的なトルク伝達を行う。
従って、
図28に示すように、
図24に示す状態を二点鎖線で表したがんぎ車101から、
図26に示す状態を実線で表したがんぎ車101に移行するまでの角度が第2回転作動角度θ2に相当し、本実施形態では15度としている。
【0158】
従って、本実施形態においても、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車101が回転する所定回転作動角度θ3(45度)に対して、第1回転作動角度θ1(30度)が占める割合を、略66.7%としている。よって、本実施形態の脱進機100であっても、第1実施形態の脱進機13と同様の作用効果を奏功することができる。
【0159】
さらに、本実施形態の脱進機100によれば、第1がんぎ歯111と接触爪石50とが接触可能となるように第1がんぎ歯車110を配置できると共に、第2がんぎ歯121と出爪石73とが接触可能となるように第2がんぎ歯車120を配置することができる。従って、例えば接触爪石50の高さ位置に影響されることなく、出爪石73を設計できるので、出爪石73が上下方向に長くなることを防止でき、設計の自由度を向上することができる。そのため、出爪石73の軽量化を図ることが可能であり、アンクル71の慣性モーメントを低減することができる。従って、アンクル71を介したてんぷ30への間接的なトルク伝達の際、トルク伝達効率をさらに向上することができる。
【0160】
さらに、第1がんぎ歯車110と第2がんぎ歯車120とを別個に設計することができ、例えば第1がんぎ歯111及び第2がんぎ歯121をそれぞれに適した異なる形状に形成する、或いは第1がんぎ歯車110及び第2がんぎ歯車120をそれぞれ異なる径に形成する等、トルク伝達効率のさらなる向上に繋がる最適な設計を行い易い。
【0161】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態では、制御部材70が1つのアンクル71を備えていたが、第3実施形態では、制御部材70が複数のアンクルで構成されたアンクルユニットを備えている。
さらに第1実施形態では、大つば36及び小つば37が一体形成された振り座35を有し、大つば36に振り石40及び接触爪石50が固定されていたが、第3実施形態では、大つば及び小つばが別体に形成された振り座を有し、大つばに振り石が固定され、小つばに第1接触爪石が固定されている。
【0162】
図29〜
図31に示すように、本実施形態の脱進機130は、てん真31に固定された振り座140と、てんぷ30に設けられた第1接触爪石150と、ぜんまいから伝達される動力によって回転するがんぎ車160と、てんぷ30の回転に基づいてがんぎ車160を回転及び停止させる制御部材70と、を備えている。
【0163】
なお、本実施形態では、ムーブメント10を表側から見た平面視で、がんぎ車160が第1軸線O1を中心として反時計回りに回転する場合を例に挙げて説明する。さらに、がんぎ車160の回転方向に対応して、本実施形態では、ムーブメント10の表側から見た平面視で、第2軸線O2を中心として時計回りにてんぷ30が回転する方向を第1回転方向M1といい、その反対に反時計回りにてんぷ30が回転する方向を第2回転方向M2という。
【0164】
(振り座)
振り座140は、互いに別体に形成された大つば141及び小つば142を備えている。大つば141は、中心部にてん真31を挿通させるための図示しない挿通孔が形成された円板状に形成され、第2軸線O2と同軸上に配置された状態でてん輪32の下方に配置されている。大つば141のうち、後述する小つば本体142bよりも径方向の外側に位置する部分に、振り石40を固定するための貫通孔143が形成されている。この貫通孔143内に振り石40が圧入等により固定されている。
なお、振り石40は、大つば141よりも下方に延びるように形成されているが、小つば本体142bよりも上方に位置するように形成されている。
【0165】
大つば141の外周縁のうち、振り石40に対して径方向の外側に位置する部分には、径方向の内側に曲面状に凹むツキガタ43が形成されている。なお、大つば141には、軽量化を図るための複数の肉抜き孔が形成されている。
なお、肉抜き孔に代えて薄肉部等を形成しても構わないし、肉抜き孔に加えて薄肉部等をさらに追加して形成しても構わない。
【0166】
小つば142は、第2軸線O2と同軸に配置された多段状に形成され、大つば141の下方に配置されている。具体的には、小つば142は、最も上方に位置する図示しない挿入部と、挿入部の下方に配置されると共に挿入部よりも拡径したフランジ部142aと、フランジ部142aの下方に配置されると共にフランジ部142aよりも縮径した図示しない接続部と、接続部の下方に配置されると共に、接続部及びフランジ部142aよりも拡径した小つば本体142bと、を備えた多段状に形成されている。
【0167】
さらに小つば142には、小つば142全体を上下に貫く図示しない挿通孔が形成されている。小つば142は、挿通孔内にてん真31が挿通された状態で、該てん真31に対して外嵌固定されている。これにより、小つば142はてん真31に対して一体的に組み合わされている。
さらに小つば142は、挿入部が大つば141に形成された挿通孔内に下方から挿入されて該挿通孔の内側に嵌合されると共に、フランジ部142aが大つば141に対して下方から接触した状態でてん真31に対して組み合わされている。これにより、大つば141は、小つば142に対して一体的に組み合わされていると共に、小つば142を介しててん真31に一体的に組み合わされている。
【0168】
従って、互いに別体に形成された大つば141及び小つば142は、てん真31と共に一体的に組み合わされている。また小つば本体142bには、該小つば本体142bを周方向に分断するようなスリット144が形成されている。ただし、スリット144の形状は、この場合に限定されるものではなく、例えば第1実施形態と同様に、径方向の外側に開口するようにU字状に形成されていても構わない。そしてスリット144内に、第1接触爪石150が固定されている。
【0169】
(第1接触爪石)
第1接触爪石150は、がんぎ車160の後述するがんぎ歯161に対して接触可能とされ、がんぎ車160に伝わったトルクをてんぷ30に伝えるための爪石とされている。
第1接触爪石150は、小つば本体142bに形成されたスリット144内に径方向の外側から挿入され、例えば接着剤等により固定されている。第1接触爪石150は、振り石40と同様に例えばルビー等の人工宝石によって形成されている。第1接触爪石150は、小つば本体142bの径方向に沿って延びた矩形板状に形成され、先端部が小つば本体142bの外周縁よりも径方向の外側に突出している。
【0170】
第1接触爪石150のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、径方向に沿って平坦に形成され、後述するがんぎ歯161における作用面161aが接触(衝突)可能な第1接触面151とされている。さらに、第1接触爪石150の先端部には、第1回転方向M1側を向いた第1傾斜面152が形成されている。
なお、第1接触爪石150は、振り石40よりも下方に位置する小つば本体142bに固定されているので、後述するアンクルユニット170に対して接触することが防止されている。
【0171】
上述のように振り座140を介しててんぷ30に取り付けられた第1接触爪石150は、てんぷ30の回転によって後述するがんぎ歯車162の回転軌跡Rに対する進入と退避とを繰り返す。これにより、がんぎ歯車162におけるがんぎ歯161の作用面161aを、第1接触爪石150の第1接触面151に対して接触(衝突)させることが可能とされている。
がんぎ歯161の作用面161aが第1接触爪石150の第1接触面151に対して接触することで、がんぎ車160から第1接触爪石150にエネルギーが伝えられる。
【0172】
(がんぎ車)
がんぎ車160は、四番車23と噛合するがんぎかな61が形成されたがんぎ軸部62と、がんぎ軸部62に例えば圧入等によって一体的に固定され、複数のがんぎ歯161を有するがんぎ歯車162と、を備えている。
本実施形態では、第1実施形態と同様に、がんぎ歯161の歯数を8歯とした場合に例に挙げて説明している。ただし、この場合に限定されるものではなく、がんぎ歯161の歯数は、適宜変更して構わない。
さらに本実施形態において、がんぎ車160の回転に伴ってがんぎ歯161の歯先が描く回転軌跡Rを、単にがんぎ歯車162の回転軌跡Rという。
【0173】
がんぎ歯車162は、例えば金属材料や単結晶シリコン等の結晶方位を有する材料等により形成されている。がんぎ歯車162の製造方法としては、電鋳加工、フォトリソグラフィ技術のような光学的な手法を取り入れたLIGAプロセス、DRIE、金属粉末射出成形(MIM)等が挙げられ。ただし、この場合に限定されるものではなく、その他の製造方法によりがんぎ歯車162を形成しても構わない。
【0174】
がんぎ歯車162は、中央部分に図示しない挿通孔が形成され、該挿通孔を通じてがんぎ軸部62が圧入等によって組み合わされる円環状のハブ部164と、ハブ部164から径方向の外側に向かって延びると共に周方向に等間隔をあけて配置された8本のスポーク部165と、を備え、これらハブ部164及びスポーク部165が一体に形成されることで構成されている。
【0175】
スポーク部165は、径方向の外側に向かうにしたがって先細りとなるように形成されていると共に、径方向の外側に向かうにしたがって反時計方向M4に僅かに湾曲するように形成されている。この湾曲した先端部分が、がんぎ歯161として機能する。
がんぎ歯161のうち、反時計方向M4を向いた側面は、第1接触爪石150及び後述する第2接触爪石200に対して接触すると共に、後述する第1停止爪石(本発明に係る第1爪石)210及び第2停止爪石(本発明に係る第2爪石)220に対して係合する作用面161aとされている。
【0176】
なお、スポーク部165には、平面視三角形状の肉抜き孔166が形成されている。がんぎ車160は、主に肉抜き孔166によって計量化が図られている。ただし、この場合に限定されるものではなく、がんぎ車160の性能や剛性等に影響を与えない範囲で、さらに肉抜き孔を形成しても構わないし、薄肉部等を設けても構わない。
【0177】
上述のように構成されたがんぎ車160は、てんぷ30が第1回転方向M1に回転したときに、伝達されたトルクをてんぷ30に対して直接的に伝えると共に、てんぷ30が第2回転方向M2に回転したときに、伝達されたトルクを、制御部材70を介しててんぷ30に対して間接的に伝える役割を担っている。なお、がんぎ車160は、小つば本体142b及び第1接触爪石150と同等の高さ位置に配置されている。
【0178】
(制御部材)
制御部材70は、複数のアンクル180、190で構成され、てんぷ30の回転に基づいて回動するアンクルユニット170を備え、がんぎ車160の回転を制御、すなわちがんぎ車160の回転の開始、及び回転の停止を制御する。
本実施形態のアンクルユニット170は、第1アンクル180及び第2アンクル190を備えている。これら第1アンクル180及び第2アンクル190は、互いに相対変位可能に連結され、これによって一列状に繋がるように連結されている。そして、アンクルユニット170は、てんぷ30の往復回転に基づいて、第1アンクル180及び第2アンクル190を各別に回動させるように変位する。
【0179】
さらにアンクルユニット170は、がんぎ歯161に対して接触可能とされた第2接触爪石200と、がんぎ歯161に対して係脱可能とされた第1停止爪石210及び第2停止爪石220と、を備えている。
【0180】
第2接触爪石200は、がんぎ車160に伝わったトルクを、アンクルユニット170を介しててんぷ30に伝えるための爪石とされ、第1アンクル180に固定されている。
第1停止爪石210及び第2停止爪石220は、がんぎ車160の停止及びその解除を行うための爪石とされ、第2アンクル190にそれぞれ固定されている。
【0181】
第1アンクル180について詳細に説明する。
第1アンクル180は、回動軸である第1アンクル真181、及び第1アンクル体182を備え、てんぷ30の往復回転に基づいて第4軸線O4回りに回動する。
【0182】
第1アンクル真181は、第4軸線O4と同軸に配置されている。第1アンクル真181における軸方向の両端には、先細りした上ほぞ部181a及び下ほぞ部181bがそれぞれ形成されている。第1アンクル真181は、これら上ほぞ部181a及び下ほぞ部181bを介して、地板11と図示しないアンクル受との間に軸支されている。
第1アンクル真181における軸方向の中央部分には、第1アンクル真181よりも拡径したフランジ部181cが一体に形成されている。第1アンクル体182は、フランジ部181c上に載置された状態で、例えば圧入等により第1アンクル真181に一体に固定されている。
【0183】
第1アンクル体182は、例えば電鋳加工やMEMS技術によって板状に形成され、大つば141と小つば本体142bとの間に位置するように配置されている。すなわち、第1アンクル体182は、がんぎ車160よりも上方に配置されている。なお、がんぎ車160と同様に、第1アンクル体182に肉抜き孔や薄肉部等を適宜設けて軽量化を図っても構わない。図示の例では、第1アンクル体182に肉抜き孔を複数形成している。
【0184】
第1アンクル体182は、第1アンクル真181が固定された部分からてんぷ30側に向けて延びるように形成された第1アンクルビーム183と、第1アンクル真181が固定された部分から第2アンクル190側に向けて延びるように形成された第2アンクルビーム184と、第1アンクル真181が固定された部分からがんぎ車160側に向けて延びるように形成され、第1アンクルビーム183及び第2アンクルビーム184の間に位置する第3アンクルビーム185と、を備えている。
【0185】
第1アンクルビーム183の先端部には、第4軸線O4の周方向に並んで配置された一対のクワガタ80が設けられている。クワガタ80の内側は、てん真31側に向けて開口すると共に、てんぷ30の往復回転に伴って移動する振り石40が係脱可能に収容されるアンクルハコ81とされている。
【0186】
さらに第1アンクルビーム183の先端部には、剣先82が取り付けられている。
本実施形態の剣先82は、第1アンクルビーム183の先端部に対して上方から例えば圧入等によって嵌め込まれることで、第1アンクルビーム183に一体に固定されている。ただし、この場合に限定されるものではなく、例えば第1アンクルビーム183の先端部に接着剤、カシメ等を利用して剣先82を固定しても構わない。
剣先82は、平面視でアンクルハコ81よりも第1アンクル真181側に寄った位置に固定されていると共に、大つば141と同等の高さに位置するように固定されている。
【0187】
剣先82の先端部は、振り石40がアンクルハコ81から離脱している状態において、大つば141の外周面のうちツキガタ43を除いた部分に対して若干の隙間をあけて径方向に対向し、且つ振り石40がアンクルハコ81に係合している状態において、ツキガタ43内に位置する。
【0188】
なお、振り石40がアンクルハコ81から離脱しているときに、剣先82の先端部が大つば141の外周面に対して若干の隙間をあけて径方向に対向しているので、例えばてんぷ30の自由振動中に外乱が入力され、その外乱の影響によってアンクルユニット170の停止が解除されようとしても、剣先82の先端部を大つば141の外周面に対して真っ先に接触させることができる。これにより、外乱によるアンクルユニット170の変位を抑制でき、アンクルユニット170の停止が解除されてしまうことを防止することができる。なお、アンクルユニット170の停止については、後に詳細に説明する。
【0189】
第2アンクルビーム184の先端部には、第4軸線O4の周方向に分岐した二股状の係合フォーク186が形成されている。第3アンクルビーム185の先端部には、第2接触爪石200を固定するためのスリット187が形成されている。スリット187は、第2アンクルビーム184を上下に貫通すると共に、がんぎ車160側に向けて開口するように形成されている。
【0190】
第2接触爪石200は、第1接触爪石150と同様にルビー等の人工宝石により形成され、スリット187内に例えば圧入による固定、或いは接着剤等により接着固定されている。第2接触爪石200は、スリット187に沿って延びた矩形板状に形成され、第3アンクルビーム185よりもがんぎ車160側に向かって突出するように固定されている。さらに第2接触爪石200は、第3アンクルビーム185よりも下方に向けて延びるように形成され、がんぎ車160と同等の高さに達するように固定されている。
【0191】
第2接触爪石200の先端部のうち、がんぎ車160の回転方向とは反対の時計方向M3側に向いた側面は、スリット187に沿うように平坦に形成され、がんぎ歯161における作用面161aが接触(衝突)可能な第2接触面201とされている。さらに、第2接触爪石200の先端部には、がんぎ車160の回転方向である反時計方向M4側を向いた第2傾斜面202が形成されている。
【0192】
上述のように構成された第1アンクル180は、先に述べたようにてんぷ30の回転に基づいて回転する。
具体的には、第1アンクル180は、てんぷ30の往復回転に伴って移動する振り石40によって、てんぷ30の回転方向とは反対の方向に向けて第4軸線O4回りに回動する。このとき、第2接触爪石200は、第1アンクル180の回動によってがんぎ歯車162の回転軌跡Rに対する進入と退避とを繰り返す。これにより、がんぎ歯車162におけるがんぎ歯161の作用面161aを、第2接触爪石200の第2接触面201に対して接触(衝突)させることが可能とされている。がんぎ歯161の作用面161aが第2接触爪石200の第2接触面201に対して接触することで、がんぎ車160から第2接触爪石200にエネルギーが伝えられる。
【0193】
なお、てんぷ30の回転方向と第1アンクル180の回動方向とは反対とされているので、がんぎ歯161の作用面161aが第1接触爪石150に対して接触するときに、第2接触爪石200はがんぎ歯車162の回転軌跡R内に進入する挙動を示し、がんぎ歯161の作用面161aが第2接触爪石200に対して接触するときに、第1接触爪石150はがんぎ歯車162の回転軌跡Rから退避する挙動を示す。
【0194】
第2アンクル190について詳細に説明する。
第2アンクル190は、第1アンクル180よりも、がんぎ車160の回転方向とは反対の時計方向M3側に配置され、回動軸である第2アンクル真191及び第2アンクル体192を備えている。そして、第2アンクル190は、第1アンクル180の回転に基づいて、第1アンクル180の回動方向とは反対の方向に向けて第5軸線O5回りに回動する。
【0195】
第2アンクル真191は、第5軸線O5と同軸に配置されている。第2アンクル真191における軸方向の両端には、先細りした上ほぞ部191a及び下ほぞ部191bがそれぞれ形成されている。第2アンクル真191は、これら上ほぞ部191a及び下ほぞ部191bを介して、地板11と図示しないアンクル受との間に軸支されている。
第2アンクル真191における軸方向の中央部分には、第2アンクル真191よりも拡径したフランジ部191cが一体に形成されている。第2アンクル体192は、フランジ部191c上に載置された状態で、例えば圧入等により第2アンクル真191に一体に固定されている。
【0196】
第2アンクル体192は、例えば電鋳加工やMEMS技術によって板状に形成され、第1アンクル体182よりも下方に配置されている。すなわち、第2アンクル体192は、がんぎ車160と同等の高さ位置に配置されている。なお、がんぎ車160と同様に、第2アンクル体192に肉抜き孔や薄肉部等を適宜設けて軽量化を図っても構わない。図示の例では、第2アンクル体192に肉抜き孔を複数形成している。
【0197】
第2アンクル体192は、第2アンクル真191が固定された部分から第1アンクル体182側に向けて延びるように形成された第4アンクルビーム193と、第2アンクル真191が固定された部分から第4アンクルビーム193とは反対側に向けて延びるように形成された第5アンクルビーム194と、を備えている。
【0198】
第4アンクルビーム193の先端部には、上方に向けて延びた係合ピン195が圧入等によって固定されている。係合ピン195は、例えば中実の円柱状に形成され、その上端部は第1アンクル180の係合フォーク186の内側に入り込んでいる。
係合フォーク186の内側に係合ピン195が入り込んでいることで、係合ピン195の外周面と係合フォーク186の内面とは、互いに摺動可能に係合している。これにより、第1アンクル180及び第2アンクル190は、相対変位可能に互いに連結され、且つ互いに反対方向に向けて回動することが可能とされている。
【0199】
第4アンクルビーム193のうち、第2アンクル真191と係合ピン195との間に位置する部分には、第1停止爪石210を固定するためのスリット196が形成されている。スリット196は、第4アンクルビーム193を上下に貫通すると共に、がんぎ車160側に向けて開口するように形成されている。
【0200】
第1停止爪石210は、第1接触爪石150及び第2接触爪石200と同様にルビー等の人工宝石により形成され、スリット196内に例えば圧入による固定、或いは接着剤等により接着固定されている。第1停止爪石210は、スリット196に沿って延びた矩形板状に形成され、第4アンクルビーム193よりもがんぎ車160側に向かって突出するように固定されている。
第1停止爪石210の突出した部分のうち、がんぎ車160の回転方向とは反対の時計方向M3側を向いた側面は、がんぎ歯車162におけるがんぎ歯161の作用面161aが係合する第1係合面210aとされている。なお、第1停止爪石210は、いわゆる入爪石72として機能する。
【0201】
なお、第1停止爪石210は、第1実施形態の入爪石72と同様に、所定の引き角を有した状態で第1係合面210aががんぎ歯161の作用面161aに係合するように固定されている。
【0202】
第5アンクルビーム194には、第2停止爪石220を固定するためのスリット197が形成されている。スリット197は、第5アンクルビーム194を上下に貫通すると共に、がんぎ車160側に向けて開口するように形成されている。
【0203】
第2停止爪石220は、第1停止爪石210と同様にルビー等の人工宝石により形成され、スリット197内に例えば圧入による固定、或いは接着剤等により接着固定されている。第2停止爪石220は、スリット197に沿って延びた矩形板状に形成され、第5アンクルビーム194よりもがんぎ車160側に向かって突出するように固定されている。
第2停止爪石220の突出した部分のうち、がんぎ車160の回転方向とは反対の時計方向M3側を向いた側面は、がんぎ歯車162におけるがんぎ歯161の作用面161aが係合する第2係合面220aとされている。なお、第2停止爪石220は、いわゆる出爪石73として機能する。
【0204】
なお、第2停止爪石220は、第1実施形態の出爪石73と同様に、所定の引き角を有した状態で第2係合面220aががんぎ歯161の作用面161aに係合するように固定されている。
【0205】
上述のように構成された第2アンクル190は、先に述べたように、てんぷ30の往復回転に基づいて回動する第1アンクル180の回動に基づいて第5軸線O5回りに回動する。このとき、第1停止爪石210及び第2停止爪石220は、第2アンクル190の回動によってがんぎ歯車162の回転軌跡Rに対する進入と退避とを交互に繰り返す。これにより、がんぎ歯車162におけるがんぎ歯161の作用面161aを、第1停止爪石210の第1係合面210a、或いは第2停止爪石220の第2係合面220aに対して係合させることが可能となる。
特に、第1停止爪石210と第2停止爪石220とが第5軸線O5を挟んで配置されているので、第1停止爪石210ががんぎ歯車162に対して係合するときに第2停止爪石220ががんぎ歯車162から離脱し、第1停止爪石210ががんぎ歯車162から離脱したときに第2停止爪石220ががんぎ歯車162に係合する。
【0206】
上述のようにアンクルユニット170は、第1アンクル180及び第2アンクル190が互いに一列状に繋がるように連結されることで構成され、てんぷ30の往復回転に基づいて第1アンクル180及び第2アンクル190が各別に回動するように変位する。すなわち、第1アンクル180がてんぷ30の回転方向とは反対の方向に向けて回動し、第2アンクル190が第1アンクル180の回動方向とは反対の方向に向けてそれぞれ回動する。
【0207】
より具体的には、てんぷ30が第1回転方向M1に回転したときに、がんぎ歯161と第1停止爪石210との係合が解除され、且つがんぎ歯161と第1接触爪石150とが接触した後に、がんぎ歯161と第2停止爪石220とが係合する。また、てんぷ30が第2回転方向M2に回転したときに、がんぎ歯161と第2停止爪石220との係合が解除され、且つがんぎ歯161と第2接触爪石200とが接触した後に、がんぎ歯161と第1停止爪石210とが係合する。この点は、後に詳細に説明する。
【0208】
本実施形態では、第1停止爪石210及び第2停止爪石220ががんぎ車160のがんぎ歯車162と係合したときに、1つのドテピン230を利用してアンクルユニット170の変位を規制して、アンクルユニット170を位置決めするように構成されている。
【0209】
ドテピン230は、第1アンクルビーム183を挟んでがんぎ車160とは反対側に位置するように配置され、例えば地板11から上方に向けて突出するように該地板11に固定されている。なお、ドテピン230は、第1アンクル体182と同等の高さに位置している。
【0210】
第1停止爪石210ががんぎ車160のがんぎ歯車162と係合した際、第1アンクルビーム183のうち、がんぎ車160を向いた外側面とは反対側に位置する外側面183aがドテピン230に対して接触するように構成されている。
また、第1アンクル体182には、第1アンクル真181が固定された部分から、第2アンクルビーム184とは反対の方向に向けて延びた規制レバー240が形成されている。そして、第2停止爪石220ががんぎ車160のがんぎ歯車162と係合した際、規制レバー240がドテピン230に対して接触するように構成されている。
【0211】
(脱進機の動作)
上述のように構成されている本実施形態の脱進機130であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。以下、本実施形態の脱進機130の動作について簡単に説明する。
なお、動作開始状態では、
図31に示すように、がんぎ歯161の作用面161aが第1停止爪石210の第1係合面210aに係合していると共に、第1アンクルビーム183における外側面183aがドテピン230に対して接触してアンクルユニット170の全体が位置決めされている。これにより、がんぎ車160は回転が停止している。さらに、てんぷ30の自由振動によって振り石40が第1回転方向M1に移動し、アンクルハコ81の内側に進入している。なお、第1接触爪石150は、がんぎ歯車162の回転軌跡Rから退避している。
【0212】
このような動作開始状態から、てんぷ30の往復回転に伴う脱進機130の動作について、順を追って説明する。
【0213】
図31に示す状態から、てんぷ30がひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギー(動力)によって第1回転方向M1にさらに回転すると、振り石40がアンクルハコ81の内面を第1回転方向M1に押圧する。これにより、振り石40を介してひげぜんまいからの動力が第1アンクル180に伝わる。
なお、アンクルハコ81と振り石40との係合時、ツキガタ43が形成されているために、大つば141と剣先82とは互いに接触することがない。従って、てんぷ30からの動力を第1アンクル180に効率よく伝えることができる。
【0214】
これにより、
図32に示すように、第1アンクル180及び第2アンクル190がそれぞれ回動するように、アンクルユニット170の全体が変位する。すなわち、第1アンクル180が第4軸線O4を中心として反時計回りに回動し、第2アンクル190が第5軸線O5を中心として時計回りに回動する。
第1アンクル180が回動することで、第1アンクルビーム183における外側面183aがドテピン230から離間する。また、第2アンクル190が回動することで、第1停止爪石210ががんぎ歯車162から離脱する方向(がんぎ歯車162の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。
【0215】
そして、第1停止爪石210ががんぎ歯車162の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、第1停止爪石210をがんぎ歯161から離脱させて、がんぎ歯161との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車160の停止の解除を行うことができる。
【0216】
そして、
図33に示すように、がんぎ車160が反時計方向M4に向けて回転を再開すると、てんぷ30の第1回転方向M1への回転に伴ってがんぎ歯車162の回転軌跡R内に進入してきた第1接触爪石150の第1接触面151に対してがんぎ歯161の作用面161aが接触(衝突)する。
これにより、がんぎ車160に伝わったトルクを、第1接触爪石150及び振り座140を介しててんぷ30に直接的に伝えることができ、てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0217】
上述のようにがんぎ歯161が第1接触爪石150に接触すると、がんぎ歯161は第1接触面151上を滑りながら反時計方向M4に回転すると共に、第1接触爪石150はてんぷ30の回転に伴って徐々にがんぎ歯車162から離脱する方向(がんぎ歯車162の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。また、てんぷ30の回転によって第1接触爪石150ががんぎ歯車162から離脱する方向に移動している際、第2停止爪石220が第2アンクル190の回動によってがんぎ歯車162の回転軌跡Rに進入し始める。
【0218】
そして、第1接触爪石150ががんぎ歯車162の回転軌跡Rから外れた位置まで移動すると、
図34に示すように、がんぎ歯車162の回転軌跡Rに進入していた第2停止爪石220の第2係合面220aに対してがんぎ歯161の作用面161aが接触する。
【0219】
なお、接触当初の段階では、規制レバー240は、第1アンクル180の回動に伴ってドテピン230に向かって移動しているが、ドテピン230に対して非接触とされている。そのため、がんぎ歯161と第2停止爪石220とが接触したまま、第1アンクル180及び第2アンクル190は僅かに回動する。そして、規制レバー240がドテピン230に接触すると、第1アンクル180及び第2アンクル190はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、がんぎ歯161と第2停止爪石220とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車160は回転が停止し、アンクルユニット170の全体は停止した状態となる。なお、
図34では、規制レバー240とドテピン230とが接触した状態を図示している。
この段階で、てんぷ30への直接的なトルク伝達動作が終了する。
【0220】
その後、振り石40はアンクルハコ81内から離脱し、てんぷ30の第1回転方向M1への回転に伴ってアンクル71から離間する。これ以降、てんぷ30は慣性によって第1回転方向M1に回転し続けると共に、その回転エネルギーがひげぜんまいに蓄えられていく。そして、回転エネルギーが全てひげぜんまいに蓄えられると、てんぷ30は第1回転方向M1への回転を止めて、一瞬静止した後に、ひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギーによって反対の第2回転方向M2に向けて回転を開始する。
【0221】
これにより、振り石40は、てんぷ30の第2回転方向M2への回転に伴ってアンクル71に向けて再び接近するように移動を開始する。
そして、
図35に示すように、振り石40がアンクル71のアンクルハコ81内に進入すると共に、アンクルハコ81の内面を第2回転方向M2に向けて押圧する。これにより、振り石40を介してひげぜんまいからの動力が第1アンクル180に伝わる。
【0222】
これにより、
図36に示すように、第1アンクル180及び第2アンクル190がそれぞれ回動するように、アンクルユニット170の全体が変位する。すなわち、第1アンクル180が第4軸線O4を中心として時計回りに回動し、第2アンクル190が第5軸線O5を中心として反時計回りに回動する。
第1アンクル180が回動することで、規制レバー240がドテピン230から離間する。また、第2アンクル190が回動することで、第2停止爪石220ががんぎ歯車162から離脱する方向(がんぎ歯車162の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。
【0223】
そして、第2停止爪石220の第2係合面220aががんぎ歯車162の回転軌跡Rから僅かに外れた位置まで移動することで、第2係合面220aとがんぎ歯161との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車160の停止の解除を行うことができる。
【0224】
がんぎ車160が反時計方向M4に向けて回転を再開すると、
図37に示すように、第1アンクル180の回動に伴ってがんぎ歯車162の回転軌跡R内に進入してきた第2接触爪石200の第2接触面201に対してがんぎ歯161の作用面161aが接触(衝突)する。
これにより、がんぎ車160に伝わったトルクを、第2接触爪石200及び第1アンクル180を介しててんぷ30に間接的に伝えることができ、てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0225】
上述のようにがんぎ歯161が第2接触爪石200に接触すると、がんぎ歯161は第2接触面201上を滑りながら反時計方向M4に回転すると共に、第2接触爪石200は第1アンクル180の回動に伴って徐々にがんぎ歯車162から離脱する方向(がんぎ歯車162の回転軌跡Rから退避する方向)に移動する。また、第1アンクル180の回動によって第2接触爪石200ががんぎ歯車162から離脱する方向に移動している際、第1停止爪石210が第2アンクル190の回動によってがんぎ歯車162の回転軌跡Rに進入しはじめる。
【0226】
そして、第2接触爪石200ががんぎ歯車162の回転軌跡Rから外れた位置まで移動すると、
図38に示すように、がんぎ歯車162の回転軌跡Rに進入していた第1停止爪石210の第1係合面210aに対してがんぎ歯161の作用面161aが接触する。
【0227】
なお、接触当初の段階では、第1アンクル180は、時計回りの回動に伴ってドテピン230に向かって移動しているが、ドテピン230に対して非接触とされている。そのため、がんぎ歯161と第1停止爪石210とが接触したまま、第1アンクル180及び第2アンクル190は僅かに回動する。そして、第1アンクルビーム183における外側面183aがドテピン230に接触すると、第1アンクル180及び第2アンクル190はそれ以上の回動が規制されて位置決めされる。そのため、がんぎ歯161と第1停止爪石210とが係合した状態となる。これにより、がんぎ車160は回転が停止し、アンクルユニット170全体は停止した状態となる。なお、
図38では、第1アンクルビーム183の外側面183aとドテピン230とが接触した状態を図示している。
この段階で、てんぷ30への間接的なトルク伝達動作が終了する。
【0228】
上述のように、本実施形態の脱進機130であっても、てんぷ30が1往復する間に、直接的なトルク伝達と間接的なトルク伝達とを交互に行いながら、がんぎ車160に伝わった動力をてんぷ30に伝えて該てんぷ30にトルクを補充することができる。
【0229】
さらに、本実施形態の場合であっても、
図39及び
図40に示すように、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車160が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合が50%よりも大きく、且つ75%未満となるようにがんぎ車160の回転が制御されている。
具体的には、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車160が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合が略55.6%となるようにがんぎ車160の回転が制御されている。
【0230】
詳細に説明する。
上述の動作において、てんぷ30が1往復する間、がんぎ車160は1歯分だけ回転する。従って、
図39及び
図40に示すように、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車160が回転する所定回転作動角度θ3は、45度となる。
【0231】
がんぎ車160は、てんぷ30が第1回転方向M1に回転することに伴って、
図31に示す状態(がんぎ歯161の作用面161aと第1停止爪石210の第1係合面210aとが係合している状態)から、
図34に示す状態(がんぎ歯161の作用面161aと第2停止爪石220の第2係合面220aとが係合している状態)に移行するまでの間、回転する。そして、この間にてんぷ30への直接的なトルク伝達を行う。
従って、
図39に示すように、
図31に示す状態を二点鎖線で表したがんぎ車160から、
図34に示す状態を実線で表したがんぎ車160に移行するまでの角度が第1回転作動角度θ1に相当し、本実施形態では25度としている。
【0232】
さらにがんぎ車160は、てんぷ30が第2回転方向M2に回転することに伴って、
図35に示す状態(がんぎ歯161の作用面161aと第2停止爪石220の第2係合面220aとが係合している状態)から、
図38に示す状態(がんぎ歯161の作用面161aと第1停止爪石210の第1係合面210aとが係合している状態)に移行するまでの間、回転する。そして、この間にてんぷ30への間接的なトルク伝達を行う。
従って、
図40に示すように、
図35に示す状態を二点鎖線で表したがんぎ車160から、
図38に示す状態を実線で表したがんぎ車160に移行するまでの角度が第2回転作動角度θ2に相当し、本実施形態では20度としている。
【0233】
従って、本実施形態においても、てんぷ30が1往復する間にがんぎ車160が回転する所定回転作動角度θ3(45度)に対して、第1回転作動角度θ1(25度)が占める割合を、略55.6%としている。よって、本実施形態の脱進機130であっても、第1実施形態の脱進機130と同様の作用効果を奏功することができる。
【0234】
さらに、本実施形態の脱進機130によれば、第1アンクル180が第1接触爪石150を有し、第2アンクル190が第1停止爪石210及び第2停止爪石220を有している。そのため、がんぎ車160に対する第1アンクル180の相対位置、及びがんぎ車160に対する第2アンクル190の相対位置をそれぞれ制約少なく自由に設計配置することができ、衝撃及び停止にそれぞれ最適なレイアウトで第1アンクル180及び第2アンクル190を配置することが可能である。従って、トルク伝達効率のさらなる向上に繋がる最適な設計を行い易い。
【0235】
なお、上記第3実施形態では、アンクルユニット170を2つのアンクル(第1アンクル180及び第2アンクル190)で構成したが、この場合に限定されるものではなく、3つ以上のアンクルで構成しても構わない。
【0236】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。各実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0237】
例えば上記各実施形態では、香箱車内に収容されたぜんまいの動力をがんぎ車に伝達する構成を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、例えば香箱車以外に設けられたぜんまいから、がんぎ車に動力が伝達されるように構成されても構わない。
【0238】
また、上記各実施形態では、リュウズを利用してぜんまいを手動で巻き上げる手巻き式のムーブメントとしたが、この場合に限定されるものではなく、例えば回転錘を備えた自動巻き式のムーブメントとしても構わない。
【0239】
また、上記各実施形態では、各爪石をルビー等の人工宝石で形成する場合を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、例えばその他の脆性材料や鉄系合金等の金属材料で形成しても構わない。いずれにしても、上述した爪石としての機能を奏功できれば、材質や形状等は、適宜変更して構わない。
【0240】
上記各実施形態において、各構成品同士の相対的な時計の厚さ方向の位置関係については、脱進機の作動が成立する範囲で適宜変更して構わない。例えば縦断面視で、大つば、小つば、がんぎ歯車、アンクル(アンクル体やアンクルユニット等を含む)等の各構成部品の位置関係が適宜入れ替わるように構成しても構わないし、それらの位置関係に対応して、例えば剣先、各爪石(入爪石、出爪石等)係合ピン等の延在方向を適宜変更しても構わない。
【0241】
さらに第1実施形態及び第2実施形態では、大つば及び小つばが一体に形成された振り座を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではない。例えば第1実施形態及び第2実施形態において、ツキガタを有する小つばと、接触爪石及び振り石を有する大つばと、が別体とされ、且つこれらが組み合わさった振り座を採用して、小つばのツキガタをてん真に設けるように構成しても構わない。いずれにしても、各実施形態において、特定の振り座に限定されるものではなく、種々の振り座を採用して構わない。
【0242】
また、上記各実施形態において、ドテピンとして、例えばアンクル受等に設けられるいわゆる受ドテのようなタイプのドテピンを採用しても構わない。さらに、アンクルとして、例えばアンクル体、爪石、剣先等がLIGA、DRIE等のMEMS製造プロセス或いはMIM等で一体製造されたものを採用しても構わない。また、上記各実施形態において、例えば各がんぎ歯車の先端に、第2実施形態における第2がんぎ歯のような段差を設けても構わない。
さらに、例えば第1実施形態では、一般的な輪列構成(表輪列)を例に挙げて説明したが、輪列構成は時計の用途等に応じて適宜変更して構わない。例えば、四番車とがんぎ車との間に、がんぎ中間車を配置した輪列構成を採用しても構わない。いずれにしても輪列構成に影響されることなく、本願発明を適用することが可能である。
【0243】
また、上記各実施形態では、がんぎ歯の歯数が8歯とされたがんぎ車を用いた場合を例に挙げて説明したが、歯数は8歯に限定されるものではなく、適宜変更して構わない。
ただし、がんぎ歯の歯数が多くなるほど、周方向に隣り合うがんぎ歯間の角度が小さくなり、その逆に、がんぎ歯の歯数が少なくなるほど、周方向に隣り合うがんぎ歯間の角度が大きくなる。従って、がんぎ歯の歯数が少なくなるほど、てんぷに直接的にトルクを伝達するときのがんぎ車の第1回転作動角度θ1、及びてんぷに間接的にトルクを伝達するときのがんぎ車の第2回転作動角度θ2を大きくすることが可能となる。従って、がんぎ歯の歯数が少なくなるほど、トルク伝達効率を高めることが可能である。
【0244】
例えば、
図41に示すように、がんぎ歯の歯数を15歯としたときの、てんぷへのトルク伝達量を1とした場合、がんぎ歯の歯数を10歯とした場合には、トルク伝達量が1.2倍〜1.3倍程度大きくなり、歯数を8歯にした場合には、トルク伝達量が1.4倍程度大きくなる。
【0245】
このように、てんぷへのトルク伝達効率をさらに高めることができるので、がんぎ歯の歯数は少ない方が好ましい。例えば、てんぷが1往復する間にがんぎ車が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合(例えば略66.7%)が同じであったとしても、がんぎ歯の歯数を少なくすることで、所定回転作動角度θ3及び第1回転作動角度θ1を大きくすることができるので、トルク伝達効率をさらに高めることができる。
従って、さらなる高効率を図る観点で、がんぎ歯の歯数を少なくすることが好ましく、本発明では、がんぎ歯を少なくも2歯以上具備するがんぎ車であれば構わない。
【0246】
しかしながら、がんぎ歯の歯数が少なくなるほど、例えばアンクルが大型化する傾向になり易く、これに伴い大型化した脱進機のレイアウトが難しくなることや、アンクルの慣性モーメントが増加することによる、エネルギーの伝達ロスも増加してしまう。そのため、アンクルをコンパクトに設計し、且つアンクルを大きく回動させないためには、がんぎ歯の歯数はある程度確保した方が好ましい。従って、アンクルを適切にレイアウトでき、且つ脱進機を安定に作動させてエネルギーの伝達ロスが少ない脱進機を実現するという観点においては、上記各実施形態のようにがんぎ歯の歯数を8歯とすることが理想である。
【0247】
さらに上記第1実施形態及び第2実施形態では、てんぷが1往復する間にがんぎ車が回転する所定回転作動角度θ3に対して、第1回転作動角度θ1が占める割合が略66.7%となるようにがんぎ車の回転を制御し、上記第3実施形態では所定回転作動角度θ3に対して第1回転作動角度θ1が占める割合が略55.6%となるようにがんぎ車の回転を制御したが、これらの場合に限定されるものではなく、適宜変更して構わない。
【0248】
上記割合を大きくするほど、がんぎ車からてんぷに対して間接的にトルクを伝達するよりも、てんぷに対して直接的にトルクを伝達する割合を大きくすることができるので、トルク伝達効率の高効率化に繋げることができ、好ましい。
【0249】
例えば、
図42に示すように、第1実施形態において、所定回転作動角度θ3に対して第1回転作動角度θ1が占める割合が略66.7%としたときの、てんぷへのトルク伝達量を1とした場合、上記割合を略73.3%とした場合(例えば、所定回転作動角度θ3が45度で、第1回転作動角度θ1が33度の場合)には、トルク伝達量が1.1倍程度大きくなる。また、上記割合を略80.0%とした場合(例えば、所定回転作動角度θ3が45度で、第1回転作動角度θ1が36度の場合)には、トルク伝達量が1.2倍程度大きくなる。
従って、トルク伝達効率の高効率化に繋げる観点においては、上記割合を大きくすることが好ましい。
【0250】
しかしながら、その反面、上記割合を大きくするほど、第1回転作動角度θ1と第2回転作動角度θ2との間に角度差がつきすぎてしまう傾向にシフトするので、例えば上記各実施形態における間接衝撃側レイアウトにおいて、アンクルの出爪石、第2接触爪石、がんぎ歯等が狭小なスペースにレイアウトされることになる。そのため、十分なクリアランスが確保できず、脱進機の安定した作動を確保することが困難になり易い。
従って、優れたトルク伝達効率を維持しつつ、アンクルを適切に作動させることができ、安定した作動性能を具備する信頼性の高い脱進機を実現する観点において、所定回転作動角度θ3に対して第1回転作動角度θ1が占める割合としては、50%よりも大きく、且つ75%未満であることが好ましい。
【0251】
さらには、上記第3実施形態のように、所定回転作動角度θ3に対して第1回転作動角度θ1が占める割合が、50%よりも大きく、且つ56%未満であることが、より好ましい。
この場合には、第1回転作動角度θ1と第2回転作動角度θ2との間に角度差がつきことを抑制できるので、運針角度をほぼ均一にすることが可能である。この場合には、例えば所定回転作動角度θ3が45度で、第1回転作動角度θ1が25度となるように構成すれば良い。
【0252】
ただし、本発明に係る脱進機では、第1回転作動角度θ1と第2回転作動角度θ2とが異なる作動角度(不均等)となっていれば構わない。その中でも、第1回転作動角度θ1が第2回転作動角度θ2よりも大きくなっていればさらに良い。
【解決手段】伝達される動力によって第1軸線O1回りに回転するがんぎ車60と、第2軸線O2を中心として互いに逆向きの第1回転方向及び第2回転方向に往復回転するてんぷ30の回転に基づいて、がんぎ車60を回転及び停止させる制御部材70とを備え、がんぎ車60は、てんぷ30が第1回転方向に回転したときに、伝達された動力をてんぷ30に直接的に伝えると共に、てんぷ30が第2回転方向に回転したときに、伝達された動力を、制御部材70を介しててんぷ30に間接的に伝え、制御部材70は、がんぎ車60からてんぷ30に動力を直接的に伝えるときの第1回転作動角度θ1と、がんぎ車60からてんぷ30に動力を間接的に伝えるときの第2回転作動角度θ2と、が異なる作動角度となるようにがんぎ車60の回転を制御する。