(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る複合ナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
【
図2】実験例におけるアセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B、アニオン化ナノ繊維C及び金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DのSEM写真である。
【
図3】実験例におけるアセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B、アニオン化ナノ繊維C及び金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dの平均直径を示すグラフである。
【
図4】実験例におけるアセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B及びアニオン化ナノ繊維CのFT−IRスペクトルのグラフである。
【
図5】実験例における金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DのEDSスペクトルのグラフである。
【
図6】実験例における金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dの元素マッピング図である。
【
図7】実験例における金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DのTEM写真である。
【
図8】実験例における複合ナノ繊維EのSEM写真である。
【
図9】実験例における複合ナノ繊維EのTEM写真である。
【
図10】実験例における、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D及び複合ナノ繊維EのXPSによる分析結果、並びに、アニオン化可能なナノ繊維B、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D及び複合ナノ繊維EのXRDによる分析結果を示すグラフである。
【0021】
以下、本発明に係る複合ナノ繊維の製造方法について説明する。
【0022】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る複合ナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
実施形態に係る複合ナノ繊維の製造方法は、ナノ繊維と当該ナノ繊維の表面に形成された金属ナノスフィアとを有する複合ナノ繊維を製造するためのものである。
本明細書において「金属ナノスフィア」とは、ナノ金属構造の一種であり、直径80nm〜1000nmの球(スフィア)状微細構造を有するもののことをいう。なお、金属ナノスフィアの内部は、基本的に詰まっている(中空ではない)。金属ナノスフィアは、いわゆる金属ナノ粒子(直径数十nm程度又はそれ以下の金属粒子)の球状集合体と考えることもできる。
【0023】
実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法は、
図1に示すように、第1工程S10と、第2工程S20と、第3工程S30と、第4工程S40とをこの順序で含む。以下、各工程について説明する。
【0024】
1.第1工程S10
第1工程S10は、ナノ繊維としてアニオン化可能なナノ繊維を準備する工程である。アニオン化可能なナノ繊維としては、セルロースからなるナノ繊維を挙げることができる。
【0025】
なお、現在知られているナノ繊維の形成方法では、ナノ繊維を形成するために、原料(ポリマー)を一度溶媒に溶解させる工程を経ることが多い。セルロースは溶媒に対する可溶性が低いため、セルロースからなるナノ繊維を形成する際には、以下のような方法を用いることもできる。
すなわち、第1工程S10では、まず、アセチルセルロースからなるナノ繊維を形成し、その後、アセチルセルロースからなるナノ繊維を脱アセチル化することにより、セルロースからなるナノ繊維を形成する(後述する実験例も参照。)。脱アセチル化は、例えば、アルカリ性の溶液を用いた加水分解により行うことができる。当該方法におけるアセチルセルロースのアセチル化度及び平均分子量は、製造する複合ナノ繊維の用途や溶媒への溶解度等に応じて選択することができる。なお、アセチルセルロースは、後述する実験例に示すようにアセトンとDMFとの混合溶媒(アセトン:DMF=3:2)に溶解することが可能であるが、当該混合溶媒以外の溶媒に溶解させてもよい。
ナノ繊維を形成する方法としては任意の方法を用いることができるが、品質等の観点から電界紡糸法を好適に用いることができる。
【0026】
なお、上記したセルロースからなるナノ繊維は具体例であり、本発明の複合ナノ繊維の製造方法では、アニオン化可能なナノ繊維であれば、製造する複合ナノ繊維の用途に応じて任意の材料からなるナノ繊維を準備することが可能である。ただし、アニオン化の関係から、本発明に用いるアニオン化可能なナノ繊維としては、水酸基や窒素を含む官能基を有するポリマーからなるものを好適に用いることができる。
また、本発明に用いるアニオン化可能なナノ繊維は、後述する浸漬を行う際に用いる溶媒に溶けない材料からなるものを好適に用いることができる。なお、材料であるポリマー自体は上記溶媒に溶けるものであっても、繊維化後の不溶化処理等により、ナノ繊維としたときに十分な不溶性を得られるものであれば、本発明の複合ナノ繊維の製造方法に用いることができる。
【0027】
2.第2工程S20
第2工程S20は、アニオン化可能なナノ繊維の全部又は一部をアニオン化してアニオン化ナノ繊維とする工程である。
本明細書において「アニオン化」とは、ある物質(本明細書ではアニオン化可能なナノ繊維)にマイナスの電荷を帯びさせることをいう。
【0028】
アニオン化の方法としては、ナノ繊維を極端に損傷させるような方法でなければ任意の方法を用いることができる。例えば、第2工程S20では、アニオン化可能なナノ繊維を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後にモノクロロ酢酸ナトリウム水溶液に浸漬することにより、ナノ繊維をアニオン化ナノ繊維とすることができる(後述する実験例も参照。)。
【0029】
3.第3工程S30
第3工程S30は、金属ナノスフィアに対応する金属塩を溶解させた金属塩溶液にアニオン化ナノ繊維を浸漬して、アニオン化ナノ繊維の表面に金属イオンを付着させる工程である。
実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法においては、金属ナノスフィアを構成する金属として、アルミニウムよりもイオン化傾向が小さい金属を用いる。当該金属の具体例としては、銅、銀、金、白金、パラジウム、鉄、ニッケルを挙げることができる。
【0030】
例えば、銅からなる金属ナノスフィアを形成する場合には、第3工程S30では、金属塩として塩化第二銅(CuCl
2)を用い、溶媒として水を用いることが好ましい。
なお、金属塩溶液中に金属イオンを存在させるため、銅以外の金属を用いる場合であっても、溶媒としては極性溶媒、特に水を用いることが好ましい。この場合、金属塩としては水に可溶なもの、例えば、多くの金属の塩化物や銀の硝酸塩(AgNO
3)を用いることができる。金属塩溶液中に金属イオンが存在するようになるならば、水以外の溶媒を用いてもよい。また、金属のイオン化を促進する物質や金属イオンを安定化させる物質を、溶媒とともに用いてもよい。
【0031】
本発明における第3工程は、金属イオン以外のものがアニオン化ナノ繊維に付着することを否定するものではない。特に、金属イオン源として金属塩を用いる場合には、当該金属塩もアニオン化ナノ繊維に不可避的に付着する(後述する実験例も参照。)。このため、「金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維」には、アニオン化ナノ繊維の表面に金属イオン以外のもの、特に当該金属イオンに対応する金属塩が付着していてもよい。
【0032】
4.第4工程S40
第4工程S40は、アニオン化ナノ繊維に付着した金属イオンを還元することにより金属ナノスフィアを形成して、複合ナノ繊維を製造する工程である。
第4工程S40では、金属アルミニウムからなる還元剤を用いて金属イオンを還元する。具体的には、還元剤として、アルミニウム箔を用いる。
なお、本発明において「アルミニウム箔」とは、金属アルミニウムからなる薄紙状のもののことをいう。本発明には、アルミニウム部分が露出しているものであれば、種々の厚さ、大きさのアルミニウム箔を用いることができる。アルミニウム箔は、特殊なものを用いる必要はなく、一般的な市販品を用いることができる。
【0033】
第4工程S40では、まず、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維と還元剤とを水分が存在する状態で共存させる。具体的には、アルミニウム箔で金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を水分が存在する状態で包む。その後、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維と還元剤とが共存した状態で金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を乾燥させる。
本明細書における「金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維と還元剤とを水分が存在する状態で共存させる」とは、「金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維と還元剤とを水分が存在する状態で接触させる」ことを含む。本明細書において「共存」とは、「同じ場所に置く」というような意味で用いている。
【0034】
第4工程S40では、真空条件下又は減圧条件下で金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を乾燥させることが好ましい。
上記のようにするのは、後述するように乾燥時間短縮や異物混入抑制の観点から有利なためであるが、乾燥時間や異物混入が問題とならないのであれば、自然乾燥や加熱乾燥により金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を乾燥させてもよい。
【0035】
実施形態1においては、第4工程S40を実施することにより複合ナノ繊維を製造することができる。
複合ナノ繊維は製造後そのままのナノ繊維として用いてもよいし、さらなる加工(例えば、糸や布とする加工)を実施してから用いてもよい。
【0036】
実施形態1により製造した複合ナノ繊維は、例えば、金属の電気伝導性を利用した伝導体、センサー、電磁シールド等や、金属の触媒能を利用した触媒として用いることができると考えられる。無論、これらは現在考えられる主な用途であり、本発明の複合ナノ繊維を他の用途に用いることを妨げるものではない。
【0037】
以下、実施形態に係る複合ナノ繊維の製造方法の効果について記載する。
【0038】
実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法は、上記した第1工程S10〜第4工程S40をこの順序で含むため、電気的な引力により金属イオンをアニオン化ナノ繊維上に付着させた後に還元を行うことで、ナノ金属構造であるナノスフィアを安定してナノ繊維の表面に形成することが可能な複合ナノ繊維の製造方法となる。
【0039】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、金属ナノスフィアを構成する金属として、アルミニウムよりもイオン化傾向が小さい金属を用い、第4工程S40では、金属アルミニウムからなる還元剤を用いて金属イオンを還元するため、空気中で安定かつ入手容易な金属アルミニウムを用いることで、金属イオンの還元の難易度及びコストを低くすることが可能となる。
【0040】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、第4工程S40では、まず、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維と還元剤とを水分が存在する状態で共存させ、その後、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維と還元剤とが共存した状態で金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を乾燥させるため、乾燥という簡単な方法でナノスフィアを形成することが可能となる。
【0041】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、還元剤としてアルミニウム箔を用いるため、アルミニウム箔に還元剤と金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を包む容器とを兼用させることで、一層簡単な方法でナノスフィアを形成することが可能となる。
【0042】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、第4工程S40では、真空条件下又は減圧条件下で金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を乾燥させるため、乾燥時間を短くすることが可能となり、かつ、異物の混入を抑制することが可能となる。
【0043】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、第1工程S10では、アニオン化可能なナノ繊維としてセルロースからなるナノ繊維を準備する場合には、水に不溶かつアニオン化が容易なセルロースからなるナノ繊維を用いて、アニオン化を容易に行うことが可能となる。
【0044】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、第1工程S10で、まずアセチルセルロースからなるナノ繊維を形成し、その後、アセチルセルロースからなるナノ繊維を脱アセチル化することによりセルロースからなるナノ繊維を形成する場合には、溶媒への可溶性が高いアセチルセルロースを経ることで、セルロースからなるナノ繊維を比較的容易に形成することが可能となる。
【0045】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、第2工程S20で、アニオン化可能なナノ繊維を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後にモノクロロ酢酸ナトリウム水溶液に浸漬することによりナノ繊維をアニオン化ナノ繊維とする場合には、2種類の溶液にアニオン化可能なナノ繊維を浸漬するという比較的単純な方法でアニオン化を行うことが可能となる。
【0046】
また、実施形態1に係る複合ナノ繊維の製造方法によれば、第3工程S30で、金属塩として塩化第二銅(CuCl
2)を用い、溶媒として水を用いる場合には、優れた電気伝導性や触媒能等の機能が期待される、銅からなるナノスフィアをナノ繊維上に形成することが可能となる。
【0047】
[実験例]
実験例においては、本発明の複合ナノ繊維の製造方法により複合ナノ繊維を実際に製造し、当該複合ナノ繊維の観察及び分析を行った。
【0048】
まず、実験例で用いた原料、試薬、装置及び測定条件について説明する。
実験例では、ナノ繊維の原料としてアセチルセルロース(アセチル化度39.8%、平均分子量30kDa)を用いた。
アセチルセルロース、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFという。)及びアセトンは、シグマアルドリッチ社を通じて購入したものをそのまま用いた。
塩化第二銅(CuCl
2)、塩化ナトリウム及びモノクロロ酢酸ナトリウムは、和光純薬工業株式会社を通じて購入したものをそのまま用いた。
還元剤であるアルミニウム箔は、住軽アルミ箔株式会社を通じて購入したものをそのまま用いた。
【0049】
電界放射式走査型電子顕微鏡(FE−SEM)としては、日立製作所のS−5000を用いた。
透過型電子顕微鏡(TEM)としては、日本電子株式会社(JEOL)のmodel2010 FasTEMを用いた。また、スパッタ用の金属として白金及びプラチナを用いた。
エネルギー分散型X分析(EDS)用の走査型電子顕微鏡(SEM−EDS)としては、日立製作所の3000H SEMを用いた。
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)としては、株式会社島津製作所のIR Prestage−21を用いた。
X線光電子分光装置(XPS)としては、クラトス・アナリティカルリミテッド(販売は株式会社島津製作所)のKratos Axis−Ultra DLDを用いた。
【0050】
次に、実験例に係る複合ナノ繊維の製造方法について説明する。
実験例に係る複合ナノ繊維の製造方法は、基本的には実施形態に係る複合ナノ繊維の製造方法と同様であり、第1工程〜第4工程を含む。以下、各工程について説明する。
なお、以下の実験例に示す製造条件はあくまで一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
実験例における第1工程では、まずアセチルセルロースからなるナノ繊維を形成し、その後、アセチルセルロースからなるナノ繊維を脱アセチル化することにより、セルロースからなるナノ繊維を形成した。具体的には、以下のようにした。
まず、3.6gのアセチルセルロースをアセトンとDMFとの混合溶媒(アセトン:DMF=3:2)20mLに溶解させて18wt%ポリマー溶液を調製した。
上記ポリマー溶液を、0.6mmチップを取り付けた5mLプラスチックシリンジに入れ、チップ・コレクター間距離(TCD)12cm、電圧10kV、25℃(室温。以下、25℃の記載は室温を表す。)の条件で電界紡糸を行い、アセチルセルロースからなるナノ繊維を得た。以下、実験例において、このようにして得たアセチルセルロースからなるナノ繊維を「アセチルセルロースからなるナノ繊維A」ということにする。
【0052】
次に、アセチルセルロースからなるナノ繊維Aを100mg計量し、0.05M水酸化ナトリウム水溶液100mLに浸漬した。浸漬時間は48時間、温度は25℃とした。浸漬後、ナノ繊維を蒸留水で洗浄して水酸化ナトリウムを洗い流し、オーブンで乾燥させた。乾燥時間は4時間、温度は60℃とした。以下、実験例において、このようにして得たアニオン化可能なナノ繊維を「アニオン化可能なナノ繊維B」ということにする。
【0053】
実験例における第2工程では、アニオン化可能なナノ繊維Bを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後にモノクロロ酢酸ナトリウム水溶液に浸漬してアニオン化した。具体的には、以下のようにした。
まず、第1工程で準備したアニオン化可能なナノ繊維Bを1.5M水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した。浸漬時間は30秒、温度は25℃とした。浸漬後のナノ繊維を0.05M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、その後空気中で乾燥させ、続いて1.0Mモノクロロ酢酸ナトリウム水溶液に浸漬した。浸漬時間は6時間、温度は25℃とした。その後、アニオン化ナノ繊維となったナノ繊維をモノクロロ酢酸ナトリウム水溶液から取り出して蒸留水で洗浄し、空気中で乾燥させた。以下、実験例において、このようにして得たアニオン化ナノ繊維を「アニオン化ナノ繊維C」ということにする。
【0054】
実験例における第3工程では、金属塩として塩化第二銅(CuCl
2)を用い、溶媒として水を用いた。具体的には、0.1M塩化第二銅水溶液50mLを調製し、アニオン化ナノ繊維Cのうち50mgを浸漬した。浸漬時間は24時間、温度は25℃とした。その後、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を純水で洗浄した。以下、実験例において、このようにして得た金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維を「金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D」ということにする。
なお、第3工程後の金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dの色は、ライトブルーであった。これは、アニオン化ナノ繊維Cに付着した金属イオン(Cu
2+)及び塩化第二銅の色に由来すると考えられる。
【0055】
実験例における第4工程では、還元剤としてアルミニウム箔を用いた。具体的には、まず、アルミニウム箔で金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dを水分が存在する状態で包んだ。その後、そのままの状態(金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dとアルミニウム箔とが共存した状態)で金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dを乾燥させた。乾燥は真空条件下で行い、乾燥時間は24時間とした。
【0056】
以上のようにして、実験例における複合ナノ繊維を製造した。以下、実験例において、このようにして製造した複合ナノ繊維を「複合ナノ繊維E」ということにする。なお、複合ナノ繊維Eの色は、ライトブラウンであった。これは、金属としての銅の色に由来すると考えられる。
【0057】
次に、実験例における複合ナノ繊維の観察及び分析の結果を説明する。
まず、第1工程〜第3工程が想定どおり進行しているか確認するため、アセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B、アニオン化ナノ繊維C及び金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dについて、SEM写真による観察を行った。
【0058】
図2は、実験例におけるアセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B、アニオン化ナノ繊維C及び金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DのSEM写真である。
図2(a),(b)はアセチルセルロースからなるナノ繊維AのSEM写真であり、
図2(c),(d)はアニオン化可能なナノ繊維BのSEM写真であり、
図2(e),(f)はアニオン化ナノ繊維CのSEM写真であり、
図2(g),(h)は金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DのSEM写真である。なお、同じナノ繊維について、倍率の異なる2枚のSEM写真がある。
図2の各SEM写真の撮影位置及び倍率は、それぞれに特徴的な構造を見やすいことを意図して設定した。後述する他のSEM写真及びTEM写真についても同様である。
【0059】
図3は、実験例におけるアセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B、アニオン化ナノ繊維C及び金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dの平均直径を示すグラフである。
図3のグラフの縦軸は平均直径(単位:nm)を表す。
図3において、符号Aのグラフはアセチルセルロースからなるナノ繊維Aの分析結果を表し、符号Bのグラフはアニオン化可能なナノ繊維Bの分析結果を表し、符号Cのグラフはアニオン化ナノ繊維Cの分析結果を表し、符合Dのグラフは金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dの分析結果を表す。
なお、各ナノ繊維の平均直径は、
図2に示した各SEM写真を画像処理ソフトウェアであるImageJで処理して算出したものである。算出した平均直径の最大偏差は、0.5nmである。
【0060】
まず、
図2に示すように、SEM写真により、実験例で用いた方法により各ナノ繊維が形成できていることが確認できた。また、アセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B及びアニオン化ナノ繊維Cについては表面が比較的滑らかであるのに対し、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dについては、繊維表面に凹凸が多数見られた。当該凹凸は、主に金属塩(CuCl
2)の付着に起因するものと考えられる。
【0061】
さらに、
図2及び
図3に示すように、(a)アセチルセルロースからなるナノ繊維をAアニオン化可能なナノ繊維Bとすると平均直径が減少すること、(b)アニオン化可能なナノ繊維Bをアニオン化ナノ繊維Cとすると平均直径が微増すること、及び、(c)アニオン化可能なナノ繊維Cを金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dとすると平均直径が大きく増加することが確認できた。
【0062】
上記(a)は、アセチル基の脱離によるものである考えられる。上記(b)は、アニオン化の際にアニオン化ナノ繊維に付着したNa
+イオンの影響であると考えられる。上記(c)は、金属イオン及び金属塩の付着によるものであると考えられる。
【0063】
次に、脱アセチル化及びアニオン化が成功したことを確かめるため、実験例におけるアセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B及びアニオン化ナノ繊維Cについて、FT−IRによる分析を行った。
図4は、実験例におけるアセチルセルロースからなるナノ繊維A、アニオン化可能なナノ繊維B及びアニオン化ナノ繊維CのFT−IRスペクトルのグラフである。
図4のグラフの縦軸は透過率(単位:%)を表し、横軸は波数(単位:cm
−1)を表す。
図4において、符号Aのグラフはアセチルセルロースからなるナノ繊維Aの分析結果を表し、符号Bのグラフはアニオン化可能なナノ繊維Bの分析結果を表し、符号Cのグラフはアニオン化ナノ繊維Cの分析結果を表す。
【0064】
その結果、
図4に示すように、アセチルセルロースからなるナノ繊維Aについては1730cm
−1、1375cm
−1及び1220cm
−1にそれぞれC=O結合、C−CH結合及びC−O−C結合の伸縮振動に起因するピーク(つまり、アセチル基に起因するピーク)が確認できた。一方、アニオン化可能なナノ繊維Bについては、上記したピークは見られず、3400cm
−1付近に広く分布するヒドロキシル(−OH)基に起因するピークが確認できた。これはアセチル基の脱離に伴うものであり、第1工程における脱アセチル化は成功したものと考えられる。さらに、アニオン化ナノ繊維Cについては、1570cm
−1に−COO
−に起因するピークが現れており、第2工程におけるアニオン化も成功したものと考えられる。
【0065】
次に、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dについて、EDSスペクトル及び元素マッピングによる分析を行った。
【0066】
図5は、実験例における金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DのEDSスペクトルのグラフである。
図5のグラフの縦軸はカウント(個数。単位:1×10
3)を表し、横軸は(X線の)エネルギー(単位:KeV)を表す。
図6は、実験例における金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dの元素マッピング図である。
図6(a)は銅についての元素マッピング図であり、
図6(b)は塩素についての元素マッピング図である。
【0067】
金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DについてEDSスペクトル及び元素マッピングによる分析を行ったところ(
図5,6参照。)、実験例における金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dには、銅が約23.5wt%、塩素が約12.7wt%、それぞれ含まれていることが確認できた。また、元素マッピングによる分析により、
図6に示すように、銅及び塩素(つまり、金属イオン及び金属塩)が、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D上にほぼ均一に分布していることが確認できた。
【0068】
なお、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dにおける銅と塩素との重量比は、金属塩である塩化第二銅(CuCl
2)における銅と塩素との重量比よりも銅の比率が高いことが確認できた。このことから、アニオン化ナノ繊維Cにおけるマイナスの電荷が、金属イオンである銅イオン(Cu
2+)を多く引き付けていることがわかった。
【0069】
次に、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維Dについて、TEM写真により観察を行った。
図7は、実験例における金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維DのTEM写真である。
図7(a),(b)はそれぞれ撮影位置及び倍率が異なるTEM写真である。
【0070】
その結果、
図7に示すように、金属塩がアニオン化ナノ繊維の表面に付着していることが確認できた。さらに、TEM写真の様子から、付着した金属塩が結晶化していることも確認できた。
【0071】
次に、複合ナノ繊維EについてSEM写真及びTEM写真による観察を行った。
図8は、実験例における複合ナノ繊維EのSEM写真である。
図8(a)〜(d)は、それぞれ撮影位置又は倍率が異なるSEM写真である。
図9は、実験例における複合ナノ繊維EのTEM写真である。
図9(a),(b)は、それぞれ撮影位置及び倍率が異なるTEM写真である。
【0072】
まず、SEM写真による観察では、
図8に示すように、球形の金属ナノスフィアが形成されていることが視覚的に確認できた。また、TEM写真による観察では、
図9に示すように、ナノ繊維の表面に金属ナノスフィアが形成され、ナノ繊維の内部には金属ナノスフィアが形成されていないことが確認できた。
なお、
図8,9においては、大きい球体とナノ繊維の表面を覆うように付着している小さい球体とが確認できる(特に
図8(d)参照。)が、大きい球体が金属ナノスフィアである。小さい球体は、いわゆる金属ナノ粒子(直径10〜50nm)である。
SEM写真及びTEM写真にて確認したところ、金属ナノスフィアの平均直径は412nmであった。また、ナノ繊維の(金属ナノスフィアを含まない)平均直径は324nmであった。
【0073】
次に、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D及び複合ナノ繊維Eについて、XPS及びXRDによる分析を行った。また、比較のため、アニオン化可能なナノ繊維B(後述する
図10(b)にて符号Bで示す下段のグラフ参照。)についてもXRDによる分析を行った。
【0074】
図10は、実験例における、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D及び複合ナノ繊維EのXPSによる分析結果、並びに、アニオン化可能なナノ繊維B、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D及び複合ナノ繊維EのXRDによる分析結果を示すグラフである。
図10(a)は金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D及び複合ナノ繊維EのXPSによる分析結果を示すグラフであり、
図10(b)はアニオン化可能なナノ繊維B、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D及び複合ナノ繊維EのXRDによる分析結果を示すグラフである。
図10(a)のグラフの縦軸は強度(単位:a.u.)を表し、横軸は結合エネルギー(単位:eV)を表す。
図10(b)のグラフの縦軸は強度(単位:a.u.)を表し、横軸は2θ(単位:°)を表す。
【0075】
まず、XPSによる分析により、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D(
図10(a)にて符号Dで示す下段のグラフ参照。)においては、952eV及び932eVにおける銅のピークに加え、940〜945eVにおける2価の銅イオンのピークが観測された。これに対して、複合ナノ繊維E(
図10(b)にて符号Eで示す上段のグラフ参照。)においては、2価の銅イオンのピークは観測されなかった。つまり、銅の還元が進行したことが確認できた。
【0076】
また、XRDによる分析により、
図10(b)に示すように、3つのナノ繊維共通で2θ=20.3°,22.7°のセルロースの結晶を示すピークが観測できた。また、金属イオンが付着したアニオン化ナノ繊維D(
図10(b)にて符号Dで示す中段のグラフ参照。)では金属塩の2水和物に起因する微細ピーク(
図10(b)の星印参照。)が多数見られたのに対し、複合ナノ繊維E(
図10(b)にて符号Eで示す上段のグラフ参照。)では2θ=43.3°,50.3°,74.2°の金属銅に起因するピーク(
図10(b)の#印参照。)が見られた。このことからも、銅の還元が進行したことが確認できた。
【0077】
以上の実験例により、本発明の複合ナノ繊維の製造方法により、ナノ繊維と当該ナノ繊維の表面に形成された金属ナノスフィアとを有する複合ナノ繊維が確かに製造可能であることが確認できた。
【0078】
なお、本発明のナノ繊維の製造方法により、金属ナノスフィアが形成されるプロセスについては研究中である。以下、本発明の発明者らが想定するプロセスを、上記実験例の場合を例にとって説明する。
【0079】
まず、水分の存在下においては、金属塩(CuCl
2)は、銅イオン(Cu
2+)と塩素イオン(Cl
−)となる。ここで、アルミニウムと塩素イオンとが反応して塩化アルミニウム(AlCl
3)となる際に、水中の水素イオン(H
+、又はヒドロニウムイオンであるH
3O
+)に電子を供与して原子状の水素、ひいては水素ガス(H
2)が発生する。当該水素により銅イオンが還元され、ナノ粒子状の金属銅が析出する。その後、ファンデルワールス力によりナノ粒子状の金属銅が凝集して金属ナノスフィアが形成されると考えられる。
【0080】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の様態において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0081】
(1)上記実施形態においては、還元剤としてアルミニウム箔を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、還元剤としてアルミニウム箔以外の形態の金属アルミニウム(板状、インゴット状、薄片状、粉状等)を用いることもできる。