(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
通常、同一鶏舎には日齢や週齢の揃った産卵鶏が飼育されており、養鶏場全体では複数の鶏舎で様々な日齢の産卵鶏が存在する。一般的に、親鶏群の日齢の若いときはその親鶏群から産まれる卵の卵重は軽く、日齢が進むにつれて卵重が重い方にシフトすることが知られている。これを選別集合システムに利用して、日齢の異なる複数の親鶏群から産まれた卵を混ぜることにより、卵重分布の幅を広げた状態で選別処理を行う場合がある。
【0003】
ところで、親鶏群の日齢が進むにつれて卵質が劣化することも知られている(例えば、下記特許文献1または非特許文献1を参照)。例えば、日齢の若い親鶏群から産まれる卵のハウユニットに比べて日齢の高い親鶏群から産まれる卵のハウユニットは低く、また、卵黄係数も若鶏の卵に比べて老鶏の卵の方が低い。さらに、若鶏の卵と老鶏の卵の割卵品質が同じという前提のもとでは、老鶏の卵の方が若鶏の卵よりも卵黄破壊率が高いという実験結果も報告されている。このように、同じ卵重区分に属する鶏卵であっても、それが日齢の若い若齢鶏の産んだ卵か、それとも日齢の高い老齢鶏の産んだ卵かによって品質が異なると言える。
【0004】
一例としては、例えば卵重区分SS、S、MSに属する鶏卵は、殻付き卵としてそのままスーパーなどに出荷されることは少なく、割卵後、液卵としてマヨネーズ工場やケーキ製造工場などに出荷されることが多い。その際、卵重区分SS、S、MSに属する鶏卵のうち、日齢の高い老齢鶏が産んだ卵は、日齢の若い若齢鶏が産んだ卵と異なり、液卵として利用する場合に卵黄膜の品質が低下して卵黄が破れやすい。その結果、卵黄と卵白の分離が困難となり、液卵としての利用範囲が制限されてしまう。このような理由により、加工特性の優れた「若齢鶏が産んだ卵」の供給が求められている。また、ゆで卵加工業者に殻付き卵として出荷される鶏卵は、ゆで時間などの関係から加工特性の揃った卵の供給が求められ、特に加工特性の優れた「若齢鶏が産んだMSサイズの卵」が好まれる。これは、下記非特許文献2に記載のあるように、鶏卵の鮮度が低下すると卵白の凝固性が低下するという研究結果からも理解できる。
【0005】
このような事情からもわかるように、卵質の異なる、日齢の若い若齢鶏が産んだ卵と、日齢の高い老齢鶏が産んだ卵とを分けたいというニーズが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかして、本発明は、非破壊で卵質を判別することができる鶏卵の検査装置、この検査装置を備えた選別集合システム、および鶏卵の検査システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち、請求項1に記載の鶏卵の検査装置は、検査対象の鶏卵の卵殻表面に対して加振する加振手段と、この加振手段によって発生した振動を検出する振動検出手段と、この振動検出手段にて検出された振動の振幅の減衰する速さに基づいて、検査対象の鶏卵が若齢の鶏群由来のものであるか否かを判定する判定手段とを備えてなる。
【0009】
ここで、「若齢の鶏群由来の鶏卵」とは、卵を産み始めるおおよそ150日齢から廃鶏となるまでの中で比較的若い日齢の鶏から産まれた卵を指している。
【0010】
本発明者らは、若齢の鶏群由来の鶏卵と老齢の鶏群由来の鶏卵の殻の質の違いを探るべく、卵殻の振動と殻の関係について種々の実験を繰り返し、以下のような知見を得た。すなわち、若い日齢の鶏から産まれた卵は、卵殻と卵殻膜との結合が強い。そのため、加振手段によって卵殻表面を加振すると卵殻の振動に対して卵殻膜が振動を吸収するダンパーの役割を果たして、振動が比較的速く減衰する。一方、老齢の鶏から産まれた卵は、卵殻と卵殻膜との結合が弱く、加振手段によって卵殻表面を加振すると卵殻が振動しても卵殻膜がこの振動を吸収しにくい。そのため、振動がなかなか減衰しない。
【0011】
本発明者らが発見したこのような特性を利用した上記鶏卵の検査装置によれば、振動の減衰する速さに基づいて卵質を検査することができる。言い換えれば、加工特性に優れたハウユニットの高い鶏卵、つまり若齢の鶏群由来の鶏卵と、加工特性に劣るハウユニットの低い鶏卵、つまり老齢の鶏群由来の鶏卵とを、割卵することなく非破壊で判別することができる。
【0012】
請求項2に記載の鶏卵の検査装置は、請求項1に記載の鶏卵の検査装置であって、振動検出手段が、加振手段によって発生した振動音を検出するものであり、判定手段が、振動音の減衰する速さを数値化する演算部を備え、この演算部により数値化された値が所定の閾値以下の場合に、検査対象の鶏卵が若齢の鶏群由来のものであると判定する。
【0013】
請求項3に記載の鶏卵の検査装置は、請求項1に記載の鶏卵の検査装置であって、振動検出手段が、加振手段によって発生した振動を卵殻に接触して検出するものであり、判定手段が、振動の振幅の減衰する速さを数値化する演算部を備え、この演算部により数値化された値が所定の閾値以下の場合に、検査対象の鶏卵が若齢の鶏群由来のものであると判定する。
【0014】
請求項4に記載の鶏卵の選別集合システムは、複数列に並ぶ鶏卵を搬送する搬送装置と、この搬送装置上を搬送される鶏卵が若齢の鶏群由来のものであるか否かを検査する請求項1、2または3に記載の鶏卵の検査装置と、この検査装置の下流側に配置され当該検査装置の検査結果に基づいて鶏卵が分配される分配装置とを備えたものである。
【0015】
請求項5に記載の鶏卵の検査システムは、検査対象の鶏卵を回転させる回転手段と、この回転手段上の鶏卵の卵殻表面に対して複数回加振する加振手段と、この加振手段によって発生した振動を検出する振動検出手段と、この振動検出手段にて検出された振動の振幅の減衰する速さの各回の平均値に基づいて、検査対象の鶏卵が若齢の鶏群由来のものであるか否かを判定する判定手段とを備えてなる。
【0016】
ここで、「平均値」とは、算術平均の他に、中央値や最頻値など統計学で用いられる他の代表値も含む概念である。
【0017】
請求項6に記載の鶏卵の検査システムは、検査対象の鶏卵を回転させる回転手段と、この回転手段上の鶏卵の卵殻表面に対して複数回加振する加振手段と、この加振手段によって発生した振動を検出する振動検出手段と、検査対象の鶏卵がひび卵であるか否かを判定するひび卵判定手段と、検査対象の鶏卵が若齢の鶏群由来のものであるか否かを判定する品質判定手段とを備え、ひび卵判定手段と品質判定手段とは、振動検出手段にて検出された振動に基づいて判定を行うものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非破壊で卵質を判別することができる鶏卵の検査装置、この検査装置を備えた選別集合システム、および鶏卵の検査システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態について、
図1を用いて説明する。
【0021】
本実施形態にかかる鶏卵の選別集合システムは、複数列に並ぶ鶏卵Eを搬送する搬送装置1と、この搬送装置1上を搬送される鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであるか否かを検査する鶏卵の検査装置2と、この検査装置2の下流側に配置され当該検査装置2の検査結果に基づいて鶏卵Eが分配される図示しない分配装置とを備えてなる。
【0022】
搬送装置1は、図示しない方向整列装置によって鶏卵Eの鋭端と鈍端の方向が揃えられた後、等間隔で6列に並んで搬送されるものである。ここで、鶏卵Eは、前後に隣り合う一対のつづみ型ローラ11によって、鶏卵Eの長軸がほぼ水平になった状態で保持されて搬送される。なお、搬送装置1には、鶏卵Eの重量を順次計量する図示しない計量部が設けられている。
【0023】
鶏卵の検査装置2は、卵の品質を検査するものであって、検査対象の鶏卵Eの卵殻E1表面に対して加振する加振手段3と、この加振手段3によって発生した振動を検出する振動検出手段4と、この振動検出手段4にて検出された振動の振幅の減衰する速さに基づいて、検査対象の鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであるか否かを判定する判定手段5とを備えてなる。
【0024】
加振手段3は、搬送装置1上に載せ置かれた鶏卵Eの卵殻E1表面にそれぞれ同一の衝撃を与えるためのロータリーソレノイド駆動式のハンマー3である。
【0025】
振動検出手段4は、加振手段3によって発生した振動を非接触で検出するものであり、具体的には加振手段3で衝撃を与えた際に発生する振動音を受信するマイクロフォン4を用いている。
【0026】
判定手段5は、制御装置7の一部を構成するものである。制御装置7は、CPU、ROM、RAM、その他適切な周辺素子を備えたいわゆるマイクロコンピュータであり、検査対象の鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであるか否かに関する品質判定処理やその他本検査装置2の各部の動作を実現するためのプログラムが組み込まれている。判定手段5は、振動音の減衰する速さを数値化する演算部6を備えている。そして、この判定手段5が実行する品質判定処理は、振動検出手段4で検出された振動の振幅の減衰する速さ、より具体的には演算部6により数値化された演算値に基づいて行われる。
【0027】
演算値は、例えば、加振手段3で卵殻E1に打撃を加えてから所定時間内に得られる振動音データの波形に、Envelope処理を施して得られるEnvelope振幅(包絡線)を平均化した値が用いられる。振動音データの波形をEnvelope処理する際には、非特許文献(戸田浩・章忠・川端洋昭「最新ウェーブレット実践講座 入門と応用」、ソフトバンククリエイティブ株式会社発行、2005年10月、p.35-46)に記載のあるような公知のHilbert変換を使えばよい。例えば、
図2の破線で示すような振動音データ(入力信号)が得られた場合、この入力信号をHilbert変換して、実部信号f(t)と虚部信号h(t)とからなる解析信号z(t)(=f(t)+ih(t))を生成する。次に、実部信号f(t)および虚部信号h(t)をそれぞれ2乗する。そして、2乗された実部信号f(t)及び虚部信号h(t)の和(=f(t)
2+h(t)
2)、すなわち瞬時パワーp
nを算出する。この瞬時パワーp
nの平方根を算出することにより包絡信号a
n(=√p
n)を算出する。この包絡信号a
nに基づいて
図2に実線で示したような包絡線を得ることができ、この包絡線は瞬時振幅を表す。なお、包絡線の抽出には、上述のHilbert変換のほか公知の信号処理技術を任意に採用すればよい。
【0028】
なお、ここでEnvelopeの値の平均とは、特定のハンマー3の振幅データを取得したデータ取得時間内の「振幅の積算値÷時間幅」で算出されるものであり、中央値や最頻値など統計学で用いられる他の代表値を用いてもよいのはもちろんである。また、データ取得時間(上述した所定時間)は、検査対象の鶏卵Eの振動音と次に打撃される鶏卵Eの振動音とが干渉しない程度の長さで自由に設定可能である。
【0029】
本実施形態の判定手段5は、この演算値が所定の閾値T1以下の場合に、検査対象の鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであると判定し、逆に演算値が所定の閾値T1を超えない場合に、検査対象の鶏卵Eが老齢の鶏群由来のものであると判定する。ここで、若齢の鶏群由来の鶏卵として、おおよそ150日齢から300日齢程度の鶏から産まれた卵を想定している。
【0030】
分配装置は、図示しない分配コンベヤに直交して設けられており、この分配コンベヤから所定の集合場所に鶏卵Eを放出するものである。詳述すれば、卵重を計量された6列の鶏卵Eは、公知の図示しない移し替え装置により単列の分配コンベヤに移し替えられた後、各集合場所へと振り分けられる。なお、各集合場所の選別区分の設定は任意であるが、ここでは選別区分として卵重を用いて、LLサイズ、Lサイズ、Mサイズ、MSサイズ、Sサイズ、SSサイズに対応する集合場所をそれぞれ設定し、さらに、MSサイズ、Sサイズ、SSサイズについては、鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであると判定された場合のMSサイズ、Sサイズ、SSサイズの各集合場所と、鶏卵Eが老齢の鶏群由来のものであると判定された場合のMSサイズ、Sサイズ、SSサイズの各集合場所とを設定している。
【0031】
次に、鶏卵の選別集合システムの作動を説明する。
【0032】
コンベヤに載置された被検査卵Eが搬送され、ハンマー3の衝撃付与位置に到達するとハンマー3は判定手段5からの駆動信号に基づきロータリーソレノイドによって駆動され被検査卵Eに衝撃を与える。その際に発生した振動音は、マイクロフォン4によって受信される。受信した振動音は、振動音データとして、判定手段5に取り込まれる。
【0033】
判定手段5は、振動検出手段4にて検出された振動の振幅の減衰する速さに基づいて、具体的には、この振動の振幅の減衰する速さが数値化された演算値に基づいて、次のようにして被検査卵Eが若齢の鶏群由来のものか否かを判定する。演算値と所定の閾値T1とを比較して、演算値が所定の閾値T1以下の場合、すなわち、所定時間内に振動音の振幅が大きく減衰する場合には、被検査卵Eが若齢の鶏群由来のものであると判定して、その品質情報が制御装置7内に記憶される。一方、演算値と所定の閾値T1とを比較して、演算値が所定の閾値T1よりも大きい場合、すなわち、所定時間内に振動音の振幅がほとんど減衰しない場合には、被検査卵Eが老齢の鶏群由来のものであると判定して、その品質情報が制御装置7内に記憶される。
【0034】
そして、搬送装置1で運ばれた鶏卵Eが計量部により計量されると、卵重情報が制御装置7内に記憶される。その後、制御装置7に記憶された品質情報と卵重情報とに基づいて分配装置が制御されて、鶏卵Eがそれぞれ適切な集合場所に放出される。
【0035】
このように、本実施形態の鶏卵の選別集合システムによれば、検査対象の鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものか否かを判定することができるので、従来の卵の検査装置で種々行われてきた正常卵か否かのみの判定に基づいた選別ではなく、正常卵の中でさらに品質による選別を行うことが可能となる。すなわち、加工特性など品質の異なる、若齢の鶏群由来のサイズの小さい鶏卵Eと、老齢の鶏群由来のサイズの小さい鶏卵Eとをそれぞれ別の場所に集めることができる。
【0036】
<実施例>
次に、このような検査装置2を用いた一実施例を
図3〜
図14を用いて説明する。なお、本発明はこの実施例に限られないのはもちろんである。
【0037】
本実施例の検査装置2で検査される卵Eの属性を以下に示す。これら2種類の卵Eは、互いに親鶏群の日齢が異なる。
若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵:親鶏の日齢→211日齢、鶏種→後藤さくら、サイズ→MまたはL、卵殻色→ピンク、個数→30個
老齢の鶏群由来(O)の鶏卵:親鶏の日齢→700日齢、鶏種→後藤さくら、サイズ→MまたはL、卵殻色→ピンク、個数→29個
【0038】
本実施例の鶏卵の検査装置2は、加振手段3として、従来公知のひび卵検査装置で用いられるのと同一のロータリーソレノイド駆動式のハンマー3を使用し、振動検出手段4として、従来公知のひび卵検査装置で用いられるのと同一の振動音受信用のマイクロフォン4を使用している。
【0039】
図3は、若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eの振動音の典型的な例を2つ示す。縦軸は、振動音をマイクロフォン4で受信し、受信電圧をアンプ41で増幅してAD変換した値を表し、横軸は時間を表す。測定時間は、2.5msec程度としている。これらの例から分かるように、若齢の鶏群由来(Y)の場合には、振動音の振幅が時間の経過とともに減衰している。一方、
図4は、老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eの振動音の典型的な例を2つ示す。これらの例から分かるように、老齢の鶏群由来(O)の場合には、振動音の振幅がほとんど減衰することなく振動し続けていることが読み取れる。
【0040】
本実施例の判定手段5が行う品質判定処理は、マイクロフォン4で検出された振動音の振幅の減衰する速さに基づいて行う。具体的に言えば、加振手段3で卵殻E1に打撃を加えてから所定時間内に得られる振動音データの波形に、Envelope処理を施して得られるEnvelope振幅を平均化した値と、所定の閾値T1とを比較している。
【0041】
図5は、若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eの振動音データ(
図3で示したものと同じ、振動音の元データを破線で示す)にEnvelope処理を施したもの(
図5において実線で示す)を表しており、一方、
図6は、老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eの振動音データ(
図4で示したものと同じ、振動音の元データを破線で示す)にEnvelope処理を施したもの(
図6において実線で示す)を表している。また、
図7には、
図5で示したもの以外で、若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eの振動音データにEnvelope処理を施した典型的なものを3つ例示しており、
図8には、
図6で示したもの以外で、老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eの振動音データにEnvelope処理を施した典型的なものを3つ例示している。
【0042】
次に、
図9は、Envelope振幅を平均化した値を品質別・サイズ別にプロットした散布図である。縦軸は、Envelope振幅の平均値であり、横軸は、左側から順に若齢の鶏群由来(Y)のMサイズ、若齢の鶏群由来(Y)のLサイズ、老齢の鶏群由来(O)のMサイズ、老齢の鶏群由来の(O)のLサイズである。それぞれのサイズの範囲内での左右方向へのプロットの広がりは、検査した卵の順番によるものであり、相関には影響を与えない。なお、老齢の鶏群由来(O)のひび卵についてもプロットしているが、ひび卵はそもそも振動音が正常卵と異なるため、本実施例の鶏卵の検査装置2で、若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eか否かは検査できない。
【0043】
本実施例の検査装置2では、平均値=100を所定の閾値T1として設定しており、Envelope振幅を平均した値が100以下のものを若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eと判定し、100を超えるものを老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eと判定する。その判定結果を
図10に示す。入手時に若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eのうち、検査装置2により正しく若齢の鶏群由来(Y)と判定された数は30個中24個、逆に検査装置2が間違って老齢の鶏群由来(O)と判定した数は30個中6個で、誤判定率は、6/30=20%であった。一方、入手時に老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eのうち、検査装置2により正しく老齢の鶏群由来(O)と判定された数は25個中20個、逆に検査装置2が間違って若齢の鶏群由来(Y)と判定した数は25個中5個で、見逃し率は、5/25=20%であった。なお、この誤判定率、見逃し率は、Mサイズのみについて計算するとLサイズを含めたものよりも誤判定率、見逃し率が小さくなる。
【0044】
本発明の検査装置2は、卵Eを割ることなく非破壊で、加工特性に影響を与える品質を判別するものであるが、この検査装置2の原理の説明のために、若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eと、老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eの卵殻E1の断面の様子を
図11〜
図14に示す。
【0045】
図11及び
図13は、卵Eを割り、中央付近の卵殻E1及び卵殻膜E2をはさみで適当なサイズに切った後、デジタル顕微鏡で撮影した断面写真である。
図11は、若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eの卵殻E1の断面であり、
図12は
図11を説明用に模式的に示した図である。一般的に卵殻E1はスポンジ状に小孔が分布したスポンジ基質E3と乳頭突起E4とから構成され、表面をクチクラ層E5に覆われている。しかしながら、
図11及び
図12では乳頭突起E4を観察することができず、卵殻E1と卵殻膜E2の境界が不明確となっている。若齢の鶏群由来(Y)の鶏卵Eでは、このように卵殻E1と卵殻膜E2との結合が強い状態であるため、卵殻膜E2がダンパーの役割を果たして、ハンマー3等で加振された後時間とともに振動が減衰すると考えられる。一方、
図13は、老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eの卵殻E1の断面であり、
図14は
図13を説明用に模式的に示した図である。
図13及び
図14では、卵殻E1と卵殻膜E2との間に多数の乳頭突起E4が観察でき、隣接する乳頭突起E4間に隙間E6が形成されているのも確認できる。老齢の鶏群由来(O)の鶏卵Eでは、このように卵殻E1と卵殻膜E2との結合が弱い状態であるため、ハンマー3等で加振された後時間が経っても振動が減衰しにくいと考えられる。
【0046】
<本実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態にかかる鶏卵の検査装置2は、検査対象の鶏卵Eの卵殻E1表面に対して加振する加振手段3と、この加振手段3によって発生した卵殻E1の振動を検出する振動検出手段4と、この振動検出手段4にて検出された振動の振幅の減衰する速さに基づいて、検査対象の鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであるか否かを判定する判定手段5とを備えてなる。そのため、加工特性に優れたハウユニットの高い鶏卵E、つまり若齢の鶏群由来の鶏卵Eと、加工特性に劣るハウユニットの低い鶏卵E、つまり老齢の鶏群由来の鶏卵Eとを、割卵することなく非破壊で判別することができる。
【0047】
また、本実施形態の振動検出手段4は、加振手段3によって発生した振動音を検出するものであり、判定手段5が、振動音の振幅の減衰する速さを数値化する演算部6を備え、この演算部6により数値化された値が所定の閾値T1以下の場合に、検査対象の鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであると判定する。そのため、従来の振動音検知方式のひび卵検査装置、すなわち、ハンマー3の衝撃による卵殻E1の振動(による空気振動)をマイクロフォン4で間接的に検知するひび卵検査装置を応用した形で、被検査卵が正常か否かという従来の判定とは異なり、卵質の良い若齢の鶏群由来の鶏卵Eか否かを判別できる。
【0048】
さらに、本実施形態の鶏卵Eの選別集合システムは、複数列に並ぶ鶏卵Eを搬送する搬送装置1と、この搬送装置1上を搬送される鶏卵Eが若齢の鶏群由来のものであるか否かを検査する鶏卵の検査装置2と、この検査装置2の下流側に配置され当該検査装置2の検査結果に基づいて鶏卵Eが分配される分配装置とを備えてなる。そのため、検査装置2により若齢の鶏群由来と判定された鶏卵Eと老齢の鶏群由来と判定された鶏卵Eとを別々の集合場所に振り分けることができる。一般的に若齢の鶏群由来のものの方が老齢の鶏群由来のものに比べてハウユニットの高い良い卵質のものが多いため、例えば、商品として高品質のものが要求される場合には、若齢の鶏群由来の鶏卵Eが集められた中からピックアップすれば、良い品質の鶏卵Eをより多く集められる可能性が高まる。
【0049】
なお、本発明は上述した実施形態に限られない。
【0050】
本発明の鶏卵の検査装置は、卵殻を加振した際に生じる振動を利用して検査対象の鶏卵の品質を測定するものであり、従来よく知られた、卵殻を加振した際に生じる振動を利用して卵殻のひび割れの有無を検査する機構を種々適用することができる。すなわち、加振手段と振動検出手段とは、上述したハンマーとマイクロフォンに限定されることなく種々変更可能である。一例として、振動検出手段は、圧電素子などを用いて卵殻に直接または間接的に接触して加振手段によって発生した振動を検出するものであってもよい。このように検査装置が卵殻の振動を直接捉える場合であっても、判定手段が振動の振幅の減衰する速さを数値化する演算部を備え、この演算部により数値化された値が所定の閾値以下の場合に、検査対象の鶏卵が若齢の鶏群由来のものであると判定すればよい。
【0051】
また、上述した実施形態及び実施例においては、加振手段及び振動検出手段として、従来公知のひび卵検査装置で用いられるのと同一のハンマーやマイクロフォンを使用していたがこれには限られず種々変更可能である。なお、ひび割れの有無については、1つの卵につき複数箇所(例えば卵の全周にわたって8箇所)を加振する必要があるが、本発明の検査装置による品質検査では、1つの卵につき1箇所を最低1回加振するだけで若齢の鶏群由来の卵か否かを判別可能である。上述した実施形態や実施例においても1回の加振に基づく振動音の振幅の減衰する速さに基づいてEnvelope値の平均を算出することを想定している。もちろん、データの信頼性を高めるべく、1つの卵につき複数箇所を/複数回加振してもよいのは言うまでもない。
【0052】
また、本発明の鶏卵の検査装置は、ひび割れの有無を検査するひび卵検査装置と関連づけて使用してもよい。このような検査システムとして、検査対象の鶏卵を回転させる回転手段(例えば、つづみローラなど)と、この回転手段上の鶏卵の卵殻表面に対して複数回加振する加振手段と、この加振手段によって発生した振動を検出する振動検出手段と、検査対象の鶏卵がひび卵であるか否かを判定するひび卵判定手段と、検査対象の鶏卵が若齢の鶏群由来のものであるか否かを判定する品質判定手段(上述した実施形態や実施例で述べた「判定手段」に対応)とを備え、ひび卵判定手段と品質判定手段とは、振動検出手段にて検出された振動に基づいて判定を行うものが挙げられる。ここで、ひび卵判定手段で用いる振動データと品質判定手段で用いる振動データとは、別々であってもよいし、同一であってもよい。言い換えれば、ひび割れの有無を検査するひび卵検査装置と並列させて、ひび割れの有無を検査した後に若齢の鶏群由来の卵か否かの検査を行うこともできるし、ひび卵検査と卵質検査の加振動作及び振動検出動作を共通化して、1つの振動音信号から得られる2つの情報(ひび割れの有無や程度に関するひび割れ情報と、若齢の鶏群由来の卵か否かに関する品質情報)に基づいて、言い換えれば、ひび割れの確認用に検出した振動音データを品質検査用に再利用して、ひび割れか否かの確認と若齢の鶏群由来の卵か否かの判定を並行して行ってもよい。
【0053】
ひび割れの検査後に品質の検査を行う前者の場合の一例を以下に示す。ひび卵検査装置は、例えば、上述した鶏卵の検査装置と部品を共通化した加振手段(ハンマー)と振動検出手段(マイクロフォン)を備え、さらに、振動検知手段で検知された振動音データに基づいて被検査卵のひび割れを判定するひび卵判定手段を備えた従来からよく知られているものが好ましい。検査方法の一例としては、まず、被検査卵がひび卵検査装置においてハンマーで加振され、その加振により発生した振動音をマイクロフォンで検出し、ひび卵判定手段においてひび割れがあるか否かを判別する。その後、ひび割れがない卵(正常卵)として判定された被検査卵に対して、本発明にかかる検査装置のハンマーで加振した後、振動音を検出し、判定手段により若齢の鶏群由来の卵か否かを判別する。このように従来のひび卵検査装置の機構と本発明の検査装置の機構を並列させて、ひび割れの有無だけでなく、卵の品質についてもチェックすることが可能となる。
【0054】
次に、ひび割れの確認用に検出した振動データを品質検査用に再利用する後者の場合の一例を以下に示す。この検査装置は、例えば、加振手段(ハンマー)と振動検出手段(マイクロフォン)を備える。検査方法の一例としては、まず、被検査卵がハンマーで複数回加振され、その加振により発生した振動音をマイクロフォンで検出し、その検出で得られたひび割れ情報をもとにひび卵判定手段においてひび割れがあるか否かを判別する。一方、複数回の加振のうちの少なくとも1回の加振による振動の検出から得られた品質情報をもとに品質判定手段により若齢の鶏群由来の卵か否かを判別する。品質判定手段では、振動検出手段にて検出された振動の振幅の減衰する速さ(複数回の加振による振動音データを用いる場合にはその平均値)に基づいて判定を行えばよい。
【0055】
さらに、本発明の演算部は、上述したようなEnvelope振幅(包絡線)を平均化した値を算出するものに限られない。例えば、振動音データの波形をEnvelope処理した後の時間と振幅で囲まれる面積を算出し、判定手段でその面積の値と閾値とを比較するものが考えられる。この場合、面積の値が閾値以下の場合、すなわち、所定時間内に振動音の振幅が大きく減衰するため面積が小さくなる場合には、被検査卵が若齢の鶏群由来のものであると判定すればよい。また、他の例としては、振動音データの波形をEnvelope処理した後の(加振直後ではない)特定の時刻の瞬時振幅を算出し、判定手段でその瞬時振幅の値と閾値とを比較するものであってもよい。この場合、瞬時振幅の値が閾値以下の場合、すなわち、加振後時間が経過すると振動音の振幅が大きく減衰するため瞬時振幅が小さくなる場合には、被検査卵が若齢の鶏群由来のものであると判定すればよい。他にも、複数時点における振幅をつないだ勾配を用いて振幅の減衰する速さを演算する方法や、振動データの基準点よりも下側に表れる振幅を基準点より上側に反転させて、その波形の面積などを用いて振幅の減衰する速さを演算する方法などが考えられる。
【0056】
また、判定手段は、検査対象の鶏卵を若齢の鶏群由来のものか、老齢の鶏群由来のものかの2つに分ける場合のみならず、閾値を複数設定するなどして、例えば若齢の鶏群由来のものと、中程度の日齢の鶏群由来のものと、老齢の鶏群由来のものとの3段階、またはそれ以上に分類するようにしてもよい。
【0057】
今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。