(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の過電流保護装置は、過電流の発生を検出するために、スパッタ装置の両端電圧を基準値と対比しているので、対比素子としての比較器は、大型化する。
【0008】
特許文献2の過電流保護装置は、小型のCTが使用可能になっているものの、スパッタ装置等に適用される電源装置の過電流保護装置における過電流の検出には不十分である。なぜなら、CT自体が、過電流の発生から検出するまでに約1μs程度、要するとともに、CTの出力に基づいて駆動電流路のスイッチングがオフになるまでに、さらに、時間を要する。
【0009】
本発明の目的は、過電流の発生時の駆動電流路の遮断を早めることができる過電流保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の過電流保護装置は、
電源側端子と負荷側端子との間の駆動電流路に介在し、前記駆動電流路における駆動電流をそれぞれ通過及び遮断する通過位置と遮断位置とを有するスイッチング部と、
前記駆動電流路に介在するシャント抵抗部を有し、該シャント抵抗部の両端電圧を検出値として出力する駆動電流検出部と、
前記駆動電流検出部の前記検出値に基づいて前記駆動電流が所定の閾値を超えたと判断したときは、前記スイッチング部を前記通過位置から前記遮断位置に切り替える切替制御部と
を備え
、
前記駆動電流検出部は、前記電源側端子から前記負荷側端子への第1方向とその逆方向としての第2方向との双方向の前記駆動電流に対する前記シャント抵抗部の両端電圧と前記閾値に対応する基準電圧との比較に基づいて検出パルスを前記検出値として生成する検出パルス生成部を有し、
前記スイッチング部は、
直列に接続されて、前記駆動電流路に介在する第1電力用FET及び第2電力用FETと、
前記第1電力用FETに対して並列に接続されるとともに、前記第1方向及び前記第2方向の前記駆動電流に対してそれぞれ非導通及び導通となる第1整流素子と、
前記第2電力用FETに対して並列に接続されるとともに、前記第1方向及び前記第2方向の前記駆動電流に対してそれぞれ導通及び非導通となる第2整流素子と、
前記第1方向の前記駆動電流に対しては前記第1電力用FET及び前記第2電力用FETがそれぞれオン及びオフになり、前記第2方向の前記駆動電流に対しては前記第1電力用FET及び前記第2電力用FETがそれぞれオフ及びオンになるように、ゲート電圧を前記第1電力用FET及び前記第2電力用FETのゲートに供給するゲート電圧供給部と、
を有し、
前記切替制御部は、
前記駆動電流検出部の前記検出パルスに応じて一次側の電流を変化させ、前記駆動電流検出部の前記出力に、前記駆動電流が所定値を超えたことを示す変化があると、二次側にインパルス電圧を発生して、該インパルス電圧により前記第1電力用FET及び前記第2電力用FETのうちオンになっている方をオフに切り替えるトランスを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、駆動電流路の駆動電流の検出は、駆動電流路に介在するシャント抵抗部の両端電圧に基づいて行われる。したがって、過電流の検出を、CTを使っての検出に比して大幅に早めることができ、これにより、過電流の発生時の駆動電流路の遮断を早めることができる。
【0013】
例えばHiPIMSの電源は、正負の電力パルスを混在させてスパッタ装置のような負荷に供給することがある。
本発明によれば、双方向の駆動電流に対するシャント抵抗部の両端電圧と閾値に対応する基準電圧との比較に基づいて検出パルスを検出値とする検出パルスが生成される。こうして、正負の電力パルスを混在させて出力する電源に過電流保護装置を提供するときにも、検出パルスを使って、双方向の過電流を的確に検出し、該電源を保護することができる。
【0015】
本発明によれば、第1方向の過電流の発生時では、第1電力用FETがインパルス電圧によりオンからオフに切り替えられるので、電源側端子は、第1電力用FETと第1整流素子とにより過電流に対して遮断される。また、第2方向の過電流の発生時では、第2電力用FETがインパルス電圧によりオンからオフに切り替えられるので、電源側端子の側は、第2電力用FETと第2整流素子とにより過電流に対して遮断される。
【0016】
このように、過電流発生時に、過電流を大抵抗に流すことがないので、過電流発生時の大きな電力損失を回避することができる。なお、
本発明において、過電流を流して小電流化する大抵抗を省略できるのは、シャント抵抗部の両端電圧に基づいて過電流を検出するので、検出が早まった分、小さい過電流で駆動電流路を遮断することが理由の1つになっている。
【0017】
好ましくは、本発明の過電流保護装置において、
前記検出パルス生成部は、
前記検出パルスを出力して、前記トランスの一次側の通電及び非通電を切り替えるモノマルチバイブレータを有する。
【0018】
この構成によれば、検出パルスはモノマルチバイブレータの出力を検知パルスとするので、過電流の遮断、駆動電流の復帰、及び過電流の発生が短時間に繰り返されるときも、確実に過電流を遮断することができる。
【0019】
好ましくは、本発明の過電流保護装置において、
前記スイッチング部の前記第1電力用FET及び前記第2電力用FETは、ソース同士が相互に接続され、
前記切替制御部の前記トランスの前記インパルス電圧は、前記ソースに供給される。
【0020】
この構成によれば、第1及び第2電力用FETはソースが相互に接続されていて、インパルス電圧はソースに供給されるので、第1及び第2電力用FETをオンからオフに切替時のインパルス電圧の供給回路を簡単化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[成膜形成システム]
図1は、HiPIMS方式の成膜形成システム1の概略図である。成膜形成システム1は、三相交流電源2、直流生成部3、電力パルス生成部4、過電流保護装置5、バイアス電源6、スパッタ装置7及び制御部8を備える。直流生成部3及び電力パルス生成部4は、パルス電源装置9を構成する。過電流保護装置5は、本発明の実施形態として、成膜形成システム1に含まれる。
【0023】
パルス電源装置9は、その構成自体は周知である。直流生成部3は、三相全波整流回路31と、コンデンサ32と、DC−DCコンバータ33とを含む。三相全波整流回路31は、三相交流電源2の三相交流電圧を直流電圧Vaiに変換する。コンデンサ32は、直流電圧Vaiを安定化する。DC−DCコンバータ33は、直流電圧Vai(例:280V)を直流電圧Vao(例:1000V)に変換する。
【0024】
直流生成部3は、1対の出力端子34a,34bを有する。出力端子34aには、直流電圧Vaoの正側が出力され、出力端子34bには、直流電圧Va0の負側が出力される。出力端子34bは、アース(=0V)に接続されている。
【0025】
電力パルス生成部4は、1対の入力端子40a,40b、パルス生成スイッチ41、短絡スイッチ42及び1対の出力端子43a,43bを有する。入力端子40a,40bは、直流生成部3の出力端子34a,34bにそれぞれ接続されている。
【0026】
制御部8は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース、及び不揮発メモリを含む周知の構成を備え、所定のプログラムを実行することにより成膜形成システム1を制御する。制御部8による成膜形成システム1の制御には、パルス生成スイッチ41及び短絡スイッチ42のオン(閉)、オフ(開)の制御も含む。パルス生成スイッチ41及び短絡スイッチ42のオンオフパターンは、スパッタ装置7において最適な成膜が生成されるように、カスタマイズ可能になっている。
【0027】
パルス生成スイッチ41及び短絡スイッチ42がそれぞれオン及びオフである期間は、パルスの生成期間として出力端子43aの電圧はVaoとなる。パルス生成スイッチ41及び短絡スイッチ42がそれぞれオフ及びオンである期間は、パルスの消失期間として出力端子43aの電圧は0Vとなる。
【0028】
過電流保護装置5は、1対の入力端子51a,51bと、1対の出力端子52a,52bとを有する。入力端子51a,51bは、パルス電源装置9の出力端子43a,43bにそれぞれ接続されている。過電流保護装置5の詳細は、
図2を参照して、後述する。
【0029】
バイアス電源6は、構成自体は、直流生成部3と同一であり、出力電圧としてのバイアス電圧Vboの値が、直流電圧Vaoの値と相違しているだけである(Vao≠Vbo)。バイアスパルス生成スイッチ61は、制御部8からの制御信号によりオン、オフを切り替えられ、端子62−端子63間の接続を制御する。端子62は、バイアス電源6のアースでない方の出力端子に接続され、端子63は、スパッタ装置7の入力端子75aに接続されている。バイアス電圧Vboを、種々のパターンで入力端子75aに供給することにより、真空室70内の基板に生成する成膜を細かく調整することが可能になる。
【0030】
スパッタ装置7は、それ自体は周知の構成を有している。スパッタ装置7は、真空室70の外部に外部接続端子として入力端子71a,71b,75a,75bを有している。入力端子71a,71bは、それぞれ過電流保護装置5の入力端子51a,51bにそれぞれ接続されている。入力端子75a,75bは、それぞれ端子63及び入力端子71bにそれぞれ接続される。入力端子71bは、アースに接続されている。
【0031】
スパッタ装置7は、真空室70の内部に、ターゲットとしてのターゲット電極72、基板電極73及びバイアス電極74を有している。ターゲット電極72は入力端子71aに接続され、基板電極73は入力端子71bに接続され、バイアス電極74は入力端子75aに接続されている。
【0032】
スパッタ装置7における成膜処理を概略的に説明する。成膜対象の基板(図示せず)が、基板電極73に取り付けられる。次に、真空排気ポンプ(図示せず)が作動して、真空室70内が真空状態にされる。次に、ガス供給源からアルゴン(Ar)などの放電ガスが導入され、真空室70内が所定の放電圧力に維持される。
【0033】
次に、パルス電源装置9を作動開始させて、ターゲット電極72と基板電極73との間に電力パルスを印加する。これにより、真空室70内に、グロー放電が発生して、プラズマが生成される。そして、プラズマ中の正イオンがターゲット電極72の表面に衝突し、ターゲット電極72の原子をはじき出す。このようなスパッタ現象を利用することにより、ターゲット電極72の材料からなる薄膜が基板電極73の基板の上に形成される。
【0034】
[過電流保護装置の構成]
図2は、過電流保護装置5の詳細な回路図である。なお、この過電流保護装置5は、過電流を双方向に防止する構成になっている。説明の便宜上、入力端子51aから出力端子52aに向かって流れる電流の方向及びその逆方向をそれぞれ「第1方向D1」及び「第2方向D2」と定義する。
【0035】
図1のパルス電源装置9は、第1方向D1の駆動電流Idとしての電力パルスしか出力しない。電源装置によっては、スパッタ装置7に負の駆動電流Id(第2方向D2の駆動電流Id)のみを供給したり、正及び負が混在する駆動電流Idを供給したりすることもある。この過電流保護装置5は、正の駆動電流Idのみだけでなく、負の駆動電流Idのみや、正負の双方向の駆動電流Idを出力する電源装置を保護できるようになっている。
【0036】
図2において、各記号の意味は次のとおりである。
CP:比較器
D:ダイオード
E1〜E3:直流電圧
FET:電界効果トランジスタ
R:抵抗
T:トランス
W:トランスの巻線
【0037】
なお、
図2において、すべてのD及びFETは、電力用ダイオード及び電力用FETである。また、ただし、E1〜E3>0Vである。
【0038】
過電流保護装置5は、駆動電流検出部55、切替制御部56及びスイッチング部57を備えている。駆動電流線501は、電源側端子としての入力端子51aと負荷側端子としての出力端子52aとの間の駆動電流路を形成し、パルス電源装置9で生成された電力パルスをスパッタ装置7に導く。
【0039】
駆動電流検出部55は、第1部分55a及び第2部分55bと、OR素子514と、モノマルチバイブレータ515とを含む。第1部分55a及び第2部分55bは、それぞれ第1方向D1及び第2方向D2の電流を検出する。第1部分55aと第2部分55bとの対応要素は、共通の数字にそれぞれa,bを付けた符号で示している。第1部分55aのシャント抵抗510aと第2部分55bのシャント抵抗510bとは、直列に接続され、本発明のシャント抵抗部に相当する。
【0040】
第1部分55aにおいて、シャント抵抗510a及びダイオード511aは、相互に並列に接続され、駆動電流線501に挿入される。ダイオード511aは、第1方向D1及び第2方向D2をそれぞれ逆方向(非導通の方向)及び順方向(導通の方向)にされている。比較器512aは、シャント抵抗510aの両端電圧と基準電圧としての直流電圧E1とを対比し、第1方向D1の電流が閾値以下であるときは、二値論理の0に相当する電圧を出力し、第1方向D1の電流が閾値を超えるときは、二値論理の1に相当する電圧を出力する。
【0041】
以下、二値論理の1,0に対応する電圧をそれぞれL1,L0(例:
図3)で表す。この例では、L0=0V、L1>L0で定義されている。
【0042】
第2部分55bのダイオード511bは、第2整流素子として第1方向D1及び第2方向D2をそれぞれ順方向及び逆方向にされている。この結果、比較器512bは、第2方向D2の電流が絶対値換算で閾値以下であるときは、L0を出力し、第2方向D2の電流が閾値を超えるときは、L1を出力する。
【0043】
OR素子514は、比較器512a,512bのいずれかの出力がL1である期間、L1を出力する。モノマルチバイブレータ515は、OR素子514からの入力がL0からL1に切り替わると、パルス幅Ta(
図3)のL1を1回出力する。
【0044】
比較器512a,512b、OR素子514及びモノマルチバイブレータ515は、第1方向D1と第2方向D2との双方向の駆動電流に対するシャント抵抗部の両端電圧と閾値に対応する基準電圧E1との比較に基づいて検出パルスを駆動電流検出部55の検出値として生成する。
【0045】
切替制御部56は、一次側のループ回路にMOS−FET521、一次巻線522及び直流電圧E2を備える。MOS−FET521がオフからオンに切り替わると、一次巻線522には、直流電圧E2を相殺する誘起起電力が発生する。トランスTの各巻線Wにおける何れかの側のドット「・」は、MOS−FET521がオフからオンに切り替わった時に生じる誘起起電力の正側を示している。
【0046】
スイッチング部57は、第1部分57a及び第2部分57bを備える。第1部分57a及び第2部分57bは、それぞれ第1方向D1及び第2方向D2の過電流を遮断する回路部分となっている。第1部分57aと第2部分57bとの対応要素は、同一の数字にそれぞれa,bを付けた符号で示している。第1部分57aのMOS−FET531aと第2部分57bのMOS−FET531bとは、直列に接続されている。
【0047】
第1部分57aにおいて、MOS−FET531aは、ドレインからソースの方向を第1方向D1にして駆動電流線501に挿入されている。ダイオード532aは、第2方向D2が順方向となるように、MOS−FET531aに対して並列接続される。
【0048】
分圧抵抗536a,537aは、直列に接続されて、直流電圧E3に接続されている。分圧抵抗536a,537aの相互の接続点には、直流電圧E3を分圧したゲート電圧が生成されて、MOS−FET531aのゲートに供給される。MOS−FET531aは、駆動電流Idを第1方向D1に流す期間では、このゲート電圧によりオンに維持される。
【0049】
切替制御部56の二次巻線524aは、一端において抵抗538aを介してMOS−FET531aのゲートに接続され、他端においてMOS−FET531aのソースに接続されている。
【0050】
第2部分57bにおいて、MOS−FET531bは、ドレインからソースの方向を第2方向D2にして駆動電流線501に挿入されている。ダイオード532bは、第1方向D1が順方向となるように、MOS−FET531bに対して並列接続される。切替制御部56の二次巻線524bは、一端において抵抗538bを介してMOS−FET531bのゲートに接続され、他端においてMOS−FET531bのソースに接続されている。
【0051】
[過電流保護装置の作用]
先に、過電流保護装置5の必要性について説明する。スパッタリングによる成膜の問題点として過電流と過電圧がある。過電流は、スパッタリング動作中に、真空室70内でアーク放電が突発的に発生することにより、パルス電源装置9の駆動電流Idが過大になる現象である。過電圧は、ガス供給源から供給されるガスと真空排気ポンプによる排気速度とのバランスが変動したような場合のように、放電条件が満たされなくなると放電が停止してプラズマが消失することにより発生することがある。
【0052】
図3は、
図2の回路図の各部位の電圧等についての時間変化を示す図である。
図3を参照して、過電流保護装置5の作用について説明する。なお、
図3は、第1方向D1に過電流が生じたときの波形図である。
【0053】
図3において、t1は、過電流保護装置5が過電流を検出した時刻を示す。時刻t1になるまでの期間は、過電流保護装置5を通過する駆動電流Idは、所定値I1以下に維持される。したがって、モノマルチバイブレータ515がパルスを出力することなく、インパルス電圧が切替制御部56のトランスTからスイッチング部57に供給されることはない。
【0054】
また、この期間では、MOS−FET531aでは、ソース側の電圧はドレイン側の電圧より高く、MOS−FET531bでは、ソース側の電圧はドレイン側の電圧より低くなる。MOS−FET531a,531bは、共に、ソース側の電圧に対するドレイン側の電圧がより高いときに、オンになるゲート電圧を直流電圧E3から供給されている。なお、このことは、
図3では、ソースに対するゲートの相対電圧Vsg≧閾値V1として記載されている。
【0055】
この結果、MOS−FET531a,531bは、それぞれオン及びオフにある。したがって、第1方向D1の駆動電流Idは、MOS−FET531a及びダイオード532bを通過して、成膜形成装置としてのスパッタ装置7に供給される。
【0056】
時刻t1より少し前に、スパッタ装置7に例えばアーク放電が発生する。このため、駆動電流Idは、時刻t1より少し前から上昇開始し、時刻t1において所定値I1を超える(過電流の検出)。この結果、第1部分55aのシャント抵抗510aの両端電圧が基準電圧E1を超えるので、比較器512aの出力は、L0からL1に変化する。すなわち、比較器512aは、パルスを出力する。過電流の検出をCT(計器用変成器)により検出する場合は、約1μs要するが、シャント抵抗510a,510bの両端電圧から検出することにより、駆動電流検出部55からのパルス出力を約500msに半減することができる。
【0057】
比較器512aが出力したパルスは、OR素子514を経てモノマルチバイブレータ515に入力する。これにより、モノマルチバイブレータ515は、出力をL0からL1に変化させる。すなわち、モノマルチバイブレータ515は、時刻t1からパルス幅Taのパルスを出力する。
【0058】
切替制御部56のMOS−FET521は、ゲートにL0からL1の変化を受けると、オンからからオフに切り替えられる。これにより、切替制御部56の一次巻線522に直流電圧E2が作用し、二次巻線524a,524bにインパルス電圧Imが生成される。
【0059】
MOS−FET531aは、ソースに切替制御部56からのインパルス電圧Imが供給されることに伴って、ソースに対するゲートの相対電圧Vsgが閾値V1未満になる。こうして、MOS−FET531aは、オンからオフに切り替わる。MOS−FET531bは、もともとオフにあるので、ソースに切替制御部56からのインパルス電圧Imが供給されても、オフを維持する。
【0060】
この結果、駆動電流線501の第1方向D1の過電流は、MOS−FET531a及びダイオード532aにより阻まれて、消失する。
【0061】
駆動電流線501の第1方向D1の過電流が消失すると、比較器512aの出力がL1からL0に変化する。これにより、切替制御部56のMOS−FET521は、モノマルチバイブレータ515からのパルスが消失する時刻t2においてオンからオフに切り替わり、一次巻線522の電圧は−E2となる。
【0062】
これにより、MOS−FET531a,531bは、時刻t1のインパルス電圧Imとは逆方向のインパルス電圧Imがソースに供給され、MOS−FET531aは、オンに復帰する。なお、MOS−FET531bは、逆方向のインパルス電圧Imがソースに供給されても、そのままオフを維持することになる。
【0063】
時刻t3において、逆方向のインパルス電圧Imが消失すると、MOS−FET531aにおいてソースに対するドレインの電圧は、時刻t1前の値に戻る。なお、時刻t3以降、MOS−FET531aのソースに対するゲートの相対電圧Vsdは、閾値V1以上を保持する。
【0064】
一方、時刻t3以降も、スパッタ装置7において過電流を生じさせる原因が取り除かれていないときは、時刻t3から間もなくして、再び、第1方向D1の過電流が生じて、過電流保護装置5は、
図3の時刻t1−t3の作動を繰り返す。すなわち、過電流の発生及び消失が繰り返される。
続けることになる。
【0065】
過電流保護装置5は、過電流を検知すると、報知を行う報知器(図示せず)を有している。作業員は、報知器からの報知により過電流が発生したことを知得し、パルス電源装置9の電源スイッチを切る。これにより、時刻t3以降の過電流の発生及び消失の繰り返しが終了し、成膜形成システム1の運転は停止する。その後、作業員は、スパッタ装置7における過電流の原因を取り除いた後、時刻t4において、パルス電源装置9の電源スイッチを接に戻して、成膜形成システム1の運転を再開する。
【0066】
一方、スパッタ装置7の真空室70内のプラズマが消失したりして、スパッタ装置7が高インピーダンスになることがある。しかしながら、過電流保護装置5のMOS−FET531a,531bは、パルス電源装置9とスパッタ装置7との間に介在するだけであるので、高インピーダンスに伴って、入力端子51a−出力端子52a間が過電圧になることはない。
【0067】
過電流保護装置5は、第2方向D2の過電流に対しても、第1方向D1の過電流の発生時と同様に、電力損失を防止しつつ、過電流からパルス電源装置9を保護することができる。また、スパッタ装置7の過電圧も、その正負に関係なく、入力端子51a−出力端子52a間に生じることを回避することができる。
【0068】
こうして、第1方向D1及び第2方向D2の双方向の過電流に対して駆動電流路としての駆動電流線501(駆動電流路)を遮断するだけで、過電流を大抵抗に流すことがないので、過電流発生時の電力損失を抑制することができる。
【0069】
[変形例]
スパッタ装置7は、HiPIMS方式のスパッタ装置となっている。本発明の過電流保護装置が適用される電源の負荷は、スパッタ装置以外の
成膜形成装置、各種のレーザ、放電灯、ストロボ装置、放電加工装置、及び光ファイバの融着接続装置が例として挙げられる。
【0070】
パルス電源装置9は、パルス電源となっている。本発明の過電流保護装置が適用される電源は、パルス電源だけでなく、特許文献1に記載されているアナログの高電圧電源も含まれる。
【0071】
過電流保護装置5におけるMOS−FET531a,531bは、それぞれ本発明の第1電力FET及び第2電力FETの一例である。本発明の電力FETは、p型や、非MOS型であってもよい。
【0072】
過電流保護装置5におけるダイオード532a,532bは、それぞれ本発明の第1整流素子及び第2整流素子の一例である。本発明で採用する整流素子は、ダイオードに限定されず、例えば、サイリスタとすることもできる。
【0073】
過電流保護装置5は、双方向の過電流及び過電圧に対処可能になっている。第1方向D1の過電流及び第2方向D2の過電圧に対処するだけであれば、入力端子51b及び第2部分55bを省略することができる。また、第2方向D2の過電流及び第1方向D1の過電圧に対処するだけであれば、入力端子51a及び第1部分55aを省略することができる。
【0074】
第1部分55a及び第2部分55bは、本発明の比較部に相当する。比較器512a,512bは、それぞれ本発明の第1比較器及び第2比較器に相当する。
【解決手段】過電流保護装置5は、駆動電流線501における駆動電流をそれぞれ通過及び遮断するスイッチング部57と、駆動電流線501に介在するシャント抵抗510a,510bを有し、シャント抵抗510a,510bの両端電圧を検出値として出力する駆動電流検出部55と、駆動電流Idが所定の閾値を超えたと判断したときは、スイッチング部57を通過位置から遮断位置に切り替えるインパルス電圧生成部とを備える。