(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は、いずれも本発明の要旨の認定において限定的な解釈を与えるものではない。また、同一又は同種の部材については同じ参照符号を付して、説明を省略することがある。
【0022】
(装置構成)
以下、撹拌・脱泡状態をリアルタイムでモニタする状態監視システムの構成について説明する。
【0023】
図1は、撹拌・脱泡処理の状態監視システム1の構成を示す。
センサ部2は、
放射温度計3(例えば赤外線温度センサ
、以下「温度センサ3」ともいう。)、電源4(例えば電池)及び通信部5を備える。通信部5は、記録部6、時計部7、送受信部8を備える。
温度センサ3は、被処理物を収容する容器の上方、例えば蓋に設置され、被処理物から放射される放射光の強度により、被処理物の温度を直接測定する。この意味において、本発明における「温度センサ」とは、赤外光など、物質からの放射光に関する物理量を計測するものを意味する。
【0024】
通信部5は、記録部6に記録された測定命令に従って、所定の頻度、例えば1秒間隔で、所定の期間、例えば撹拌・脱泡処理の開始時から終了時まで、時計部7の計測機能により指定された時刻に、温度センサ3の温度測定値を読み取り、無線通信規格、例えばIEEE 802.15.4等に則り、送受信部8から温度測定値及び測定時刻を出力(送信)する。
電源4は、温度センサ3及び通信部5に電力を供給する。
【0025】
解析部9は、送受信部10、制御部11、表示部12、操作部13、判別部14及び記録部15を備える。
解析部9は、送受信部10によって、センサ部2から送信された温度測定値及び測定時刻を受信することができる。そのため、撹拌・脱泡処理中にセンサ部2と解析部9との間で、送受信が可能であり、リアルタイムで温度測定値をもとに状態の監視が可能である。
【0026】
操作部13は、解析部9と操作者とのインターフェイスとなり、操作者からの命令、情報を入力する。例えば被処理物の構成材料の入力、処理条件の入力が可能であり、入力された情報は、制御部11によって記録部15に記録(登録)することができる。
【0027】
制御部11は、送受信部10から取得した温度測定値を、測定時刻とともに記録部15に記録する。また、表示部12に温度測定値及び測定時刻を表示することも可能である。
判定部14は、記録部15に記録された温度測定値及び測定時刻を読み込み、記録部15に記録(登録)された判別条件(後述する対処)にしたがい、被処理物の状態を判別し、記録部15に記録されている対処の内容に従って、判別された状態に対応した対処、例えばアラームの表示、撹拌・脱泡処理の停止命令の出力、正常終了の履歴の保存等を実行する。
後述するように、個々のケースに応じて、温度測定値の時間推移の特徴が記録部15に記録(登録)されており、その特徴により被処理物の状態判別ができる。
【0028】
図2は、被処理物の状態をリアルタイムで観察するため、センサ部2を撹拌・脱泡装置100に取り付けた一実施形態を示す。
被処理物を収容する容器20の蓋部に温度センサ3(赤外線センサ)を備えたセンサ部2を設置し、温度センサ3の出力値をリアルタイムで送信し、解析部9は受信した出力値をデータとしての記録部15に保存する。
【0029】
以下、状態監視システム1を適用する撹拌・脱泡装置100の例について、その動作原理を説明する。
公転歯車101を有する回転ドラム102は、軸受を介して公転軸103(固定軸)に対して回転自在に支持されている。モータ104による回転運動が、公転歯車101を介して回転ドラム102に伝達され、回転ドラム102は、公転軸103を軸に回転する。
【0030】
公転テーブル105は、回転ドラム102に連結(固定)されており、回転ドラム102とともに回転する。
容器ホルダー106は、回転軸107(自転軸)を有し、回転軸107は、軸受を介して公転テーブル105に回転自在に支持されている。
そのため、容器ホルダー106は、公転テーブル105の回転により、公転軸103を中心に回転(公転)する。
【0031】
容器ホルダー106は、自転歯車108を有している。自転歯車108は、軸受を介して公転テーブル105に回転自在に支持されている中間歯車109と噛合する。さらに中間歯車109は、太陽歯車110と噛合する。
太陽歯車110は、回転ドラム102の外側に配置されており、回転ドラム102に対して、軸受を介して回転自在に支持されている。
【0032】
さらに太陽歯車110は、歯車111に噛合する。歯車111には、互いに噛合する歯車112及び歯車113を介して、パウダーブレーキ等の制動装置114の制動力が伝達される。
【0033】
太陽歯車110は、制動装置114により加えられる制動力が無い(制動力がゼロの)場合、回転ドラム102に従動して、回転する。
【0034】
制動装置114の制動力が歯車111を介して太陽歯車110に伝達された場合、太陽歯車110の回転速度が回転ドラム102の回転速度に比べて減少し、太陽歯車110の回転速度と回転ドラム102に連結されている公転テーブル105の回転速度との間に差が生じる。その結果、太陽歯車110に対して、中間歯車109が相対的に回転する。中間歯車109は、自転歯車108と噛合するため、自転歯車108が回転し、容器ホルダー106は、回転軸107を軸に回転(自転)する。
【0035】
なお、上記攪拌・脱泡装置100は、1つの駆動モータ104により、容器ホルダー106を公転及び自転させる構成例を示したが、攪拌・脱泡装置の構成はこの
図2の例に限定するものではない。
例えば、公転用駆動モータと自転用駆動モータを別々に備え、容器ホルダー106を公転及び自転させてもよく、他の構成であってもよい。センサ部2は、容器20に設置することができるため、既存の様々な攪拌・脱泡装置に適用可能であるからである。
さらに、センサ部2と解析部9とは無線通信によってデータの送受信を行うため、本状態監視システム1は、既存の様々な攪拌・脱泡装置に適用可能である。
【0036】
図2においては、2つの容器20を搭載している。このように2つ以上の複数の容器20を同時に攪拌・脱泡処理を行い、同時に複数の容器20に収容されている被処理物の温度測定を行うことが可能である。
複数の容器20、すなわち複数のセンサ部2と単一の解析部9とは、上記通信規格に則り、無線通信で接続可能である。
1回の通信で送信するデータ量が少ないため、上記通信規格の他に様々な通信規格、例えばIEEE 802.15.1を利用することができる。
【0037】
センサ部2の温度センサ3は、角度θで決定される測定視野を有する。測定視野は、容器20の底部で定まる範囲内に設定されており、測定視野内の被処理物の温度を測定することができる。従って、温度センサ3を用いて温度測定を行うと、測定視野の範囲内の温度変化を温度測定値に反映することができる。
【0038】
さらに温度センサの出力値は、測定対象物から放射される放射光の強度を反映するものである。放射光の強度は測定対象物の放射率に依存するため、温度が同一であっても測定対象の放射率が異なれば、温度センサは異なる温度測定値を出力する。従って、温度センサの出力値は、単に温度を測定するに留まらず、測定対象物の種類、状態に依存した放射光強度を検出することになる。温度センサは、熱型、量子型のいずれも使用できるが、被処理物に依存した特定の放射光を検出する場合、光の波長依存性の強い量子型が好適に使用できる。
【0039】
(状態監視方法)
以下、本状態監視システム1による、被処理物の状態監視方法について詳細に説明する。
まず、温度計測値が状態変化を監視できる理由について説明し、その後、実際の測定事例に基づき具体的に説明する。
【0040】
被処理物の最も単純な温度変化は、容器20の回転運動によって定常的に発生した摩擦熱が被処理物に流入するとともに、被処理物の温度(T)と周囲温度(Ta)との差に依存した熱伝導によって熱が流出すると仮定することにより算出される。
被処理物の温度(T(t))は、
T(t)=Ta+A(1−exp(−αt)) (式1)
と表すことができる。ここで、A、αは定数、tは時間である。
【0041】
この最も単純なモデルに対する温度変化のずれ(乖離)は、被処理物の状態の単純モデルからのずれを反映すると考えられる。
そこで、このような温度変化のずれを生み出す原因について考察した結果、以下の要因が存在すると考えられる。
【0042】
(熱の流入)
処理時に発生する熱は、摩擦熱の他に被処理物の化学反応により生じることがある。
摩擦熱は、容器と被処理物との摩擦熱の他に、被処理物内部での摩擦熱がある。
例えば、被処理物が液体と固体から構成される場合、液体と固体、固体と固体、液体と液体との摩擦熱の発生が起こりうる。
液体と固体(例えば粉体)から構成される場合の摩擦熱の寄与は、材料の配合比率だけでなく、撹拌・脱泡処理時の混合状態に依存する。
液体と液体との摩擦熱は、液体の粘性により流れの接線方向に働く剪断応力により発生する。また、液体の粘性は、液体と液体、液体と固体との混合状態だけでなく、液体と気体(気泡)との混合状態にも依存する。
被処理物が液体と固体から構成される場合であっても、均一な混合状態となる前には、固体と固体の摩擦が発生する。また、固体と容器側壁との摩擦も生じる。
被処理物に依っては、化学反応を生ずることがあり、化学反応により熱が発生する。
化学反応は、摩擦熱により活性化エネルギーを得て進行する場合もあり、ある温度に到達すると、温度上昇率が増加する場合もある。
【0043】
(熱の流出)
熱の流出は、被処理物から容器や大気等の他の物質への熱伝導や、被処理物が気化するときの気化熱によっても生じる。
熱伝導による熱の流出は、被処理物の熱伝導率に依存するが、被処理物が異なる熱伝導率の物質を含む場合、混合状態や気泡の混入により熱伝導率が異なる場合、熱伝導率の不均一性(例えば容器中央と周辺における熱伝導率の不均一)も熱伝導に影響を与える。
なお、被処理物が異なる熱伝導率の物質を含む場合は、異なる伝導率の液体と液体、液体と固体、液体と気体(気泡)の組合わせが考えられる。
【0044】
そこで、様々な被処理物に対して系統的に研究を行った結果、温度測定値の時間依存性は、被処理物の様々な構成、撹拌・脱泡条件に依存しており、特有のパターンが存在し、その温度測定値の時間的推移(時間依存性)を実際に測定することにより、被処理物の状態を定量的にリアルタイムに監視できることを見出した。
また、被処理物情報及び処理情報の組合わせ(以下、簡単に被処理物情報及び処理情報と記載することがある)と温度測定値の時間依存性とを関連付けて記録(登録)し、さらに、被処理物情報及び処理情報に対する解析結果及び対処をデータベース化することで、撹拌・脱泡処理の最適条件の決定、製品の品質の維持向上及び管理に効果的に利用することができる。
【0045】
以下、被処理物情報、処理情報(撹拌・泡処理条件についての情報)と解析結果及び対処の関係について、典型的なケース(事例)の例を挙げて、具体的に説明する。
【0046】
(ケース1)
(1)被処理物情報:
シリコーン300,000mm
2/s、総重量100g
(2)処理情報:
常圧及び減圧下(設定圧力0.1kPa)
公転回転数1340rpm、自転回転数 1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図3に常圧下で撹拌・脱泡処理(単に処理と称す)を行ったサンプル(サンプルA、図中点線)と減圧下で処理を行ったサンプル(サンプルB、図中実線)の温度測定値の時間変化を比較して示す。また、図中一点鎖線Pは、処理時の圧力を示す。
なお、グラフにおいて横軸の時間の原点(0)は、測定開始時刻であり、容器の回転開始時刻とは必ずしも一致しない。他のグラフも同様である。
【0047】
常圧下で処理を行ったサンプルAは、時間120秒で測定温度の時間依存性が変化することが分かる。
一方、減圧下で処理を行ったサンプルBには、そのような変化点は見られない。
そこで、被処理物が、処理時間に依存してどのような状態変化が生じているかを調査するため、ストロボ撮影による画像データにより確認した。
【0048】
図4は、サンプルA及びBを、各時間においてストロボ撮影した表面写真を比較して示す。
サンプルAに関しては、時間40秒において微細な気泡が確認され、さらに時間120秒において微細な気泡が増加している。時間140秒においては、微細な気泡が全体に拡がり、全体が白濁して見える。
一方、サンプルBに関しては、時間40秒においては、わずかに微細な気泡が確認されるもののサンプルAと比較し明らかに気泡は少なく、時間120秒及び時間140秒においては、気泡は確認されない。
【0049】
一般に液体を撹拌すると気泡が混入する。サンプルAについて、120秒付近まで見受けられる渦上の気泡は流動性が高い。この状態では、気泡が変形し表面張力による変形抵抗が消失することで粘度を低下させる。そうしたレオロジー特性により、サンプルAの流動性が高まる。液体の中で、気泡が多い領域、少ない領域所が存在すると、それぞれの領域の粘度が異なる。そのため、それらの領域の境界部では、せん断力が高くなり、摩擦熱が増大し、温度測定値の時間に対する上昇率(以下、単に温度上昇率と称す)が高くなる。
一方、気泡が液体全体に飽和すると、上記のような場所に依存した粘度の違いが低減し、せん断力が弱まり、液内部での摩擦熱が低減し、温度上昇率が低くなる。
【0050】
温度測定値の変化は、気泡による粘度の変化、流動性の変化、不均一性を反映していることが理解できる。
【0051】
一方、
図3に示すように、サンプルBに関しては、サンプルAと比較し温度上昇率が低い。シリコーンは飽和蒸気圧が非常に低く、気化熱による冷却効果は無視できることから、温度上昇率が低いのは、せん断力が低く、摩擦熱の発生が少ないことを示唆する。
実際、
図4からサンプルBに関しては、気泡の混入が抑制されており、温度測定値の時間依存性の挙動と整合する。
【0052】
温度測定値の変化点の時間や温度上昇率を、被処理物情報、処理情報と関連付けて、 記録部15に、解析結果及び対処の情報の一部として登録しておき、被処理物を処理する場合、登録された温度測定値の変化点の時間や温度上昇率を用いて、閾値との比較判定等により、以下に記載するように種々の対処が可能である。
【0053】
例えば、温度上昇率をモニタし、その温度上昇率が閾値より大きい場合、気泡の混入による温度上昇が大きいと判断し、アラームを表示する等の対処ができる。
なお、温度上昇率は、所定の時間での平均の温度上昇率(例えば、過去5秒間の時間と温度測定値の相関関係の線型近似式の傾き)により計算することができる。閾値は、例えば
図3から得られた温度上昇率を基準にして、余裕を持たせて設定することができる。
また、温度上昇率をモニタし、その温度上昇率が閾値以下であれば、撹拌・脱泡処理の終了時点まで、温度測定値を継続して取得し、正常終了したことを記録するという対処ができる。
なお、時間ではなく温度測定値、即ち、撹拌・脱泡処理を、温度センサの出力値により制御することで、物理的状態の変化に基づいた制御を実行することも可能である。
【0054】
さらに、粘度の均一性を検出できるため、均一な起泡処理への応用も可能であることが分かる。この場合、気泡が混入し温度上昇率が一旦増加し(第1の閾値以上となり)、その後、気泡が均一になり温度上昇率が低下する(第2の閾値以下となる)ことが判別(検出)された場合、均一な起泡処理が完了したと判断し、撹拌・脱泡装置100に撹拌・脱泡処理の停止命令を出力するか、正常終了したことを記録するという対処ができる。
なお、均一な乳化処理についても、同様の判別と対処が可能である。
【0055】
これらの対処は、被処理物情報及び処理情報の組合わせ、例えば「シリコーン300,000mm2/s、総重量100g」及び「常圧。公転回転数1340rpm、自転回転数 1340rpm(公転方向と逆回転)」の組合わせや、「シリコーン300,000mm2/s、総重量100g」及び「減圧下(設定圧力0.1kPa)。公転回転数1340rpm、自転回転数1340rpm(公転方向と逆回転)」の組合わせに関連付けて登録しておく。一旦被処理物情報及び処理情報に対する解析結果及び対処を登録しておけば、例えば製品を量産する際に、状態監視システム1は、リアルタイムで
取得した温度測定値の時間変化と、被処理物情報及び処理情報に関連付けて登録しておいた対処の内容に従って、適切な対処を実行することが可能となる。このことは、以下の各ケースにおいても同様である。
【0056】
図4のように画像データから判断する場合、操作者が常時画像を確認し、瞬間的に対処を判断する必要があるが現実的に不可能である。
上記のように温度センサの温度測定値を用いることにより、容易に定量データを得ることができ、登録された対処の内容を自動で実行することが可能となる。
【0057】
このように画像データを用いた解析を開発段階で行い、温度センサの温度測定値に対して対処内容を予め登録することで、量産段階で、自動で対処を行うことができようになる。
また、対処内容が確立しているため、撹拌・脱泡手法の技術を開発部門から製造部門への技術移管も容易になる。さらに、コンピュータを用いた対処を行うことにより、操作者に依存した判定の差がなく、安定して品質を維持、管理することができる。
【0058】
(ケース2)
(1)被処理物情報:
球状黒鉛(30g)とIPA(10g)との混合物。
溶媒として揮発性の高いIPA(イソプロピルアルコール)を使用。
(2)処理情報:
常圧及び減圧下(設定圧力3kPa)。
公転回転数1340rpm、自転回転数1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図5に常圧(大気圧)下で処理を行ったサンプル(サンプルA、図中点線)と減圧下で処理を行ったサンプル(サンプルB、図中実線)の温度測定値の変化を比較して示す。また、図中一点鎖線Pは、処理時の圧力を示す。
減圧下で処理を行ったサンプルBは、時間25秒付近でピークが確認された。
IPA内部の気体が、気泡となり一度に放出され、流動性が大きく変化したためである。
気泡が一度に発生すると体積が膨張し、被対象物の表面が盛り上がり、温度センサとの距離が変化するとともに、気泡によって放射率も変化する。温度センサは、このような変化を敏感に検知することができる。
この結果より、揮発性の高い溶媒を用い減圧下で処理を行う場合、処理開始直後に急激に状態が変化することが分かる。
【0059】
その後、サンプルBは、気化熱によりサンプルAより温度は低く推移し、時間150秒から温度上昇率が増大する。時間150秒では、IPAが蒸発することで、球状黒鉛同士の摩擦熱の寄与が増大したためである。
以上より、温度センサによる温度測定値の変化から、溶媒から気泡が発生する状態、溶媒が気化により消失する状態(固体間の摩擦の発生状況)がわかる。
また、経過時間とともに気化熱が生じている状態(溶媒の気化の状態)がわかる。
【0060】
被処理物情報及び処理条件に対して、上記結果に基づいた時間(又は温度測定値)を関連付けて、記録部15に、解析結果及び対処の情報の一部として登録しておき、その登録した時間(又は温度測定値)により、撹拌・脱泡処理を制御するという対処が可能となる。例えば、処理時間150秒以下で処理を完了させるよう、撹拌・脱泡装置100に指令する等の対処ができる。
また、上記温度測定値の変化から、排気速度(減圧速度)の制御の重要性が理解できる。
排気速度は、真空ポンプの回転数や、排気ラインの途中に設けた大気の流入口のバルブ開度等により調整できる。
このように被処理物情報に対応して、撹拌・脱泡装置100の排気システムに対して、排気速度の制御を指令するという対処も可能となる。
減圧下で処理により、25秒付近のピークの検出がなく、その後の温度上昇率の変化が無い場合、正常終了との履歴を記録部15に記録するという対処も可能である。
【0061】
上記のように、温度センサを用いることにより、1回の実験により、被処理物の状態の変化点となる時間が複数あること、及びその複数の変化点となる時間を測定できる。
従来の手法では、20〜180秒の範囲で20秒毎の9個のサンプルを準備し、その処理結果から状態が変化する時間は、20秒から40秒の間、140秒から160秒の間に存在すると推定することになる。
すなわち、本発明による状態監視システムを用いることにより、サンプル数が9分の1に低減でき、さらに正確な時間が同定できるため、開発段階においても開発コスト、工期を低減できるという効果もある。
【0062】
(ケース3)
(1)被処理物情報:
膠(にかわ)40g+水40g
(2)処理情報:
減圧下(設定圧力5kPa)。
公転回転数1340rpm、自転回転数297rpm(公転方向と逆回転)(二次撹拌)
(3)解析結果及び対処:
図6に、減圧下で処理を行ったサンプル(サンプルA、図中実線)の温度測定値の変化を示す。また、図中一点鎖線Pは、処理時の圧力を示す。
なお、本サンプルは、予め一次撹拌(常圧下、公転回転数1340rpm、自転回転数1340rpm(公転方向と逆回転))処理により乳化している。
【0063】
図6より、処理開始直後から30秒付近まで、温度測定値が増減し、乱れていることが分かる。また、140秒付近で温度測定値に変化点(約3℃の低下)が観察される。
記録部15には、温度測定値の時間依存性だけでなく、解析結果及び対処の情報の一部として、上記変化点の時間を登録する。
【0064】
図7(a)、(b)に、ストロボ撮影による、時間30秒及び140秒でのサンプルの表面写真を示す。
図7(a)より、時間30秒では、容器の側壁面にサンプルの一部が付着していることが分かる。すなわち、一次撹拌にて多量の気泡が混入しているサンプルを、減圧下で二次撹拌したため、激しく突沸したことが分かる。
30秒付近では、温度センサは、放射率の異なる膠と容器からの放射光を検出しており、さらに気泡の影響により膠の放射率が変化し、膠からの放射光が変動している状態を検出しているものであると理解できる。
このように乱れた温度測定値は、被対象物の状態が大きく変動していることを温度センサが検知する能力を有することを示すものである。この能力は、各物質が有する放射率という物性値の違い(変化)を、放射光の強度の違い(変化)として温度センサが検出できるという特性に依るものである。また、温度センサは応答性が高いため、このような短時間での状態の変化を敏感に検出することができる。
【0065】
また、
図7(b)より、時間140秒では、容器とサンプルが接する付近からゲル化が進んでいることが確認される。
このことから、140秒付近での温度測定値の変化点は、ゲル化が進むことで被処理物の流動性が低下し、ずり応力の低下により摩擦熱の発生が低下し、さらに気化熱により温度が低下したものと考えられる。
【0066】
以上の結果から、減圧開始時の突沸を防止するためには減圧速度(真空ポンプによる排気速度)を最適化する必要があることが分かる。そのため、温度測定値の変動量、例えば極大値と極小値の差分をパラメータとして、定量的に減圧速度の最適化をすることができる。それにより、減圧速度の条件決定が容易となり、また過剰に減圧速度を低減し、処理時間を不必要に長くすることもなくなる。
また、被処理物を処理している過程において、上記変動量の値が所定の閾値を超えた場合、突沸が発生したと判別しアラームを表示又は履歴として記録部15に記録し、閾値以下であれば撹拌・脱泡処理完了後正常終了であることを表示又は履歴として記録部15に記録するという対処も可能である。
また、ゲル化が発生する時間が分かるため、処理時間をゲル化が発生する時間より短く設定することができる。例えば、操作者が、処理条件としてゲル化が発生する時間より長い時間設定を行った場合、アラームを表示するとう対処も可能である。
また、温度測定値の変化点(温度測定値の低下)が検出された場合、ゲル化が発生したと判別し、アラームを表示又は履歴として記録部15に記録してもよい。
【0067】
品質管理ができるように、製品のロット番号と処理履歴(温度測定値、アラームの有無)とを対応させて記録装置に登録するという対処ができる。このように製品のロット番号と処理履歴による品質管理は、他のケースにおいても同様に可能である。
【0068】
(ケース4)
(1)被処理物情報:
エポキシ樹脂 主剤100g+硬化剤 20g
(2)処理情報:
減圧下(設定圧力0.1kPa)。
公転回転数1340rpm、自転回転数1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図8は、本サンプルの温度測定値の時間依存性を示す。
温度測定値は、150秒付近まで徐々に非線形に上昇し、150秒付近から450秒付近まで線形に上昇し、その後非線形に急増していることが分かる。
記録部15には、温度測定値の時間依存性だけでなく、解析結果及び対処の情報の一部として、温度上昇率が変わる時間、及び温度測定値の上昇率を登録することができる。
【0069】
このような温度測定値の挙動は、撹拌により温度が上昇し、75℃付近からエポキシ樹脂の化学反応(架橋反応)が活発になり、反応熱により急激に温度が上昇したことに基因する。さらにエポキシ樹脂の架橋が進行した箇所ではエポキシ樹脂の粘度が上がり、粘度の不均一が発生し、せん断応力により摩擦熱が増大したことも温度測定値の上昇の要因となっていると考えられる。
なお、
図8には示されていないが、架橋反応が終了しエポキシ樹脂が固まると摩擦熱も低減する傾向がある。
【0070】
このように温度測定値の変化点から、新規な樹脂であっても1回の測定で、樹脂の架橋反応が開始する時間(又は温度)を容易に測定することができる。そのため、樹脂に対応した撹拌処理時間(温度)の上限を登録し、処理時間をその上限以下に設定することができる。
また、樹脂を処理する過程において、温度測定値が上限の温度を超えた場合、状態監視システム1の解析部9は、アラームを表示し、アラームが発生したことを処理履歴として記録部15に記録し、上限以下であれば正常終了したことを処理履歴として記録部15に記録するという対処を実行することができる。また度測定値が上限の温度を超えた場合、撹拌・脱泡装置100に処理の停止命令を送信するという対処も可能である。
【0071】
(ケース5)
(1)被処理物情報:
アルミナ 70g+シリコーン
10,000mm
2/s
(30g)
(2)処理情報:
減圧下(設定圧力0.1kPa)。
公転回転数1340rpm、自転回転数1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図9は、本サンプルの温度測定値及び圧力の時間依存性を示す。
温度測定値は、処理開始後、非線型に増加し、時間44秒付近で変化点が見られ、その後100秒付近までほぼ線型に増加した後、上昇率が緩や
かに低減しながらも増加している。
記録部15には、温度測定値の時間依存性だけでなく、解析結果及び対処の情報の一部として、変化点の時間と温度測定値の上昇率も登録しておく。
【0072】
図10(a)、(b)、(c)に、ストロボ撮影による、処理前、時間40秒及び60秒でのサンプルの表面写真を示す。
時間40秒では、少なくとも表面にダマが生じており、均一に混合されていないことが分かる。一方処理時間60秒では、ダマがなく均一に混合されたスラリーとなっていることが分かる。
不均一な状態の領域では流動性が乱れ、せん断応力が生じ、摩擦熱が大きくなるため、温度測定値の上昇率が大きくなり、その後均一に混合されると、温度測定値はなだらかなカーブを描きながら上昇する。
【0073】
アルミナとシリコーンから均質なスラリーを得るためには、このようなダマが生じている時間以上に撹拌する必要がある。温度測定値の推移から撹拌不良状態となる時間を登録しておき、その時間以上に処理時間を設定するという対処により、均質なスラリーを得る。すなわち最小処理時間を決定することができる。例えば、処理条件として、上記の変化点を検出後、さらに50秒間処理を行うという対処も可能となる。
また、上記変化点となる時間が、予め設定した閾値、例えば60秒より長い場合、ダマが生じている状態が許容範囲以上に長いと判定し、アラームを表示し、処理履歴として記録部15に記録することもできる。
【0074】
また、温度測定値の変動量の実績値から閾値(例えば、実績値の最大値)を設定しておき、品質管理を行うため、製品ロット処理時に温度測定値の変動量が閾値を超えた場合にはアラームを表示し、閾値以下の場合には正常終了したことをロット処理履歴として記録部15に記録するという対処を実行することができる。
なお、温度測定値の変動量は、例えば、44秒付近の温度測定値の変化点における変動量で評価し、例えば、30秒から60秒の間の温度測定値の最大と最小の差分に依って容易に得ることができる。
【0075】
(ケース6)
(1)被処理物情報:
サンプルA:アルミナ 70g+シリコーン
10,000mm
2/s
(30g)
サンプルB:アルミナ 30g+シリコーン
10,000mm
2/s
(70g)
(2)処理情報:
減圧下(設定圧力0.1kPa)。
公転回転数1340rpm、自転回転数1340rpm(公転方向と逆回転)
(3)解析結果及び対処:
図11は、サンプルA及びサンプルBの温度測定値の時間依存性を示す。サンプルAはサンプルBよりアルミナの配合率が高く、材料の配合の違いにより温度測定値の上昇率が変わることが分かる。例えば、サンプルAの温度測定値は、時間55秒でピークが確認されるが、サンプルBの温度測定値にはこのピークは確認されず、アルミナの配合比率によって温度測定値の時間推移が変化することが分かる。
記録部15には、温度測定値の時間依存性だけでなく、このピーク値(時間及び温度測定値)も解析結果及び対処の情報一部として登録することができる。
【0076】
ピークが発生する原因は、サンプルAはアルミナの配合比率が高く、ケース1と同様に、ダマが発生しているが、サンプルBはアルミナの配合比率が低くダマの発生が抑えられているためであると考えられる。
また、アルミナの量が多いサンプル
Aの方が、温度測定値が高く、アルミナの配合比率が高い方が摩擦による熱の発生が大きいことが理解できる。
【0077】
このように、アルミナの配合比率の違いが、温度測定値の時間依存性から検知することができる。
そのため温度測定値を監視することで、材料の配合比率の間違いを検知することができ、アラームの表示といった対処を実行することができる。
すなわち、解析部9は、品質管理が可能となるように、温度測定値の変化点の有無や、特定の時間、例えば80秒での温度測定値の上昇率を、製品のロット番号と関連付けて記録するという対処を実行する。
なお、特定の時間は、被処理物情報及び処理情報に関連付けられたデータベースに登録されている変化点の時間(55秒)より長い時間を設定することができる。
【0078】
その他:
図2に示すように、撹拌・脱泡装置100が、複数の容器20を有する場合、それぞれの温度測定値の時間依存性を比較し、その乖離の有無を判定して、登録された対処を実行することも可能である。
例えば、被処理物が同じ構成のサンプル、例えば、同じ配合比率のシリコーンとアルミナを、異なる複数の容器20において、撹拌・脱泡装置100において同時に処理を行った場合、それぞれの温度測定値の差分をリアルタイムで監視し、差分が所定の閾値より大きい場合、アラームを表示し、アラーム情報を温度測定値とともに処理履歴として記録部15に記録するという対処を行い、差分が所定の閾値以下の場合、正常終了したことを処理履歴として記録部15に記録するという対処を行うことができる。
【0079】
また、複数の容器20の1つに、リファレンスサンプル、例えばアルミナを含まないシリコーン、を収容し、他の容器に別の構成の評価用サンプル、例えばアルミナを所定の配合比率で含むシリコーン、を収容し、撹拌・脱泡装置100において同時に処理し、温度測定を行い、それぞれの温度測定値の時間変化及びリファレンスサンプルに対する評価用サンプルの差分を処理履歴として記録部15に記録し、場合によっては、その差分が所定の閾値を超えた場合、アラームを表示し、処理履歴にアラーム情報とともに温度測定値を記録部15に記録するという対処を行い、差分が所定の閾値以下の場合、正常終了したことを処理履歴として記録部15に記録するという対処を行うことができる。
リファレンスサンプルとして温度測定値の変化点が無いサンプルを用い、評価用サンプルとの差分を検出することで、温度測定値の変化点がより一層検知し易くなる。
【0080】
この場合、解析結果及び対処の情報に、複数の容器20で処理を行う場合の情報を登録すればよく、同じ被処理物である場合と異なる被処理物である場合の上記対処を登録しておけばよい。解析部9の制御部11は、複数の被処理物の処理を行うか否かを判別し、単独の被処理物の対処と複数の被処理物の対処といずれか一方又は両方の対処の実行を行うことができ、操作者は、処理開始前に対処の選択を行い、制御部9に選択した対処の実行を命令すればよい。
【0081】
同時に処理を行う複数の被処理物を比較することにより、処理条件の変動の影響を受けること無く、被処理物間の品質の管理が可能となる。
【0082】
(変化点の自動検出)
温度測定値をリアルタイムで監視する際に、温度測定値は定量データであるため変化点を自動で検出することが可能であり、自動検出は、各被処理情報に従って最適な方法を選択できる。
例えば、過去数点の温度測定値の時間依存性から平均的な温度測定値の上昇率を求めておき、上昇率の変動量が閾値より大きくなった時間を変化点であるとすることができる。その他の方法として、例えば、
(i)過去数点(3点以上)の微分(差分)の平均値を計算し、傾きを求め、その変化で判定する
(ii)過去数点(3点以上)の温度測定値に対する近似直線を最小自乗法で算出し、傾きを求め、その変化で判定する
(iii)PID制御のIのように漸近する直線との差の面積を算出して、その変化で判定する。
(iv)カオス系で使用するローレンツプロットを利用し、ある点から次の点までの距離の変化で判定する。
といった方法なども考えられる。
【0083】
(状態監視システムの活用)
以上のように、温度測定値の時間依存性は、被処理物の状態の推移を反映し、被処理物の材料、配合比率に依存することが判明した。
従って、状態監視システム1は被処理物情報及び処理情報に応じて温度測定値の時間依存性が取得でき、製品開発時及び製品生産(量産)時において、有効に活用することができる。
【0084】
(1)製品開発段階
製品開発段階や撹拌・脱泡処理条件を決定するための最適化作業の段階において、以下に示す手順で状態監視システム1を活用することができる。
S1:被処理物情報及び処理情報の記録
解析部 9の操作部13は、操作者によって、例えば入力端末から入力された被処理物情報及び処理情報を取得し、制御部11は、取得した被処理物情報及び処理情報を記録部15へ記録(登録)する。
【0085】
S2:測定命令の送信
操作者は、撹拌・脱泡処理の開始を撹拌・脱泡装置100に命令するとともに、状態監視システム1に操作部13を介して温度測定の開始を命令する。温度測定開始命令を取得した解析部9の制御部11は、温度測定開始命令に従い、送受信部10を介してセンサ部2に測定命令を送信する。
温度測定開始命令は、測定の開始時刻だけで無く、測定の頻度、測定期間を指示することも可能である。
このとき、解析部9は、例えば上記の通信規格等の公知の通信規格に従い、センサ部2に温度測定開始命令を送信するが、容器20が複数存在し、複数のセンサ部2を有する場合、各センサ部2を識別する識別番号とともに温度測定開始命令を送信することで、各容器20において、異なる頻度等の測定条件で温度測定を行うことも可能である。
なお、状態監視システム1は、撹拌・脱泡装置100を介して、操作者による撹拌・脱泡処理の開始命令を取得してもよく、逆に状態監視システム1から撹拌・脱泡装置100に操作者による撹拌・脱泡処理の開始命令を出力してもよい。
【0086】
S3:温度測定の実行
センサ部2の通信部5は、解析部9からの測定開始命令を送受信部8によって受信し、時計部7の計時機能を用いて、所定の頻度で所定の期間、温度センサ3の温度測定値を取得し、測定時間と共に、記録部6に温度測定値を記録(保存)する。
【0087】
S4:温度測定値の記録
センサ部2は、記録部6に記録された温度測定値を送受信部8によって送信する。
なお、センサ部2の記録部6は温度測定値を一時的に記録し、送信後に、温度測定値を削除してもよい。
解析部9は、温度測定値を送受信部10により受信し、制御部11は、温度測定値と測定時間を記録部15に記録する。このとき、温度測定値と測定時間は、既に記録されている被処理物情報及び処理情報に関連付けて、記録部15に記録する。
【0088】
なお、複数の容器20によって被処理物を処理する場合、それぞれの容器20の被処理物を識別する情報をさらに関連付けて記録部15に、データベースとして記録(登録)する。例えば、複数の容器20に、リファレンスサンプルと評価用サンプルとを収容する場合、配合の異なる複数のサンプルを収容する場合、再現性を評価するために同一の構成のサンプルを収容する場合、それぞれのサンプルを識別して、温度測定値を記録しておくことができる。
【0089】
この場合、複数の容器20に設置された各センサ部2には、予め識別番号(識別名)が割り当てられており、センサ部 2の記録部6に記録されている。一方、解析部9の記録部15には、各センサ部2に割り当てられた識別番号が記録されており、各センサ部2に対応して、温度測定値を記録することができる。そのため、複数の容器20に収容されたサンプル毎に、被処理物情報、処理情報及び温度測定値を関連付けて記録することができる。
【0090】
S5:解析
操作者は、解析部9の記録部15に記録された温度測定値を表示部12に表示することで、各被処理物情報及び処理情報に対応した温度測定値の時間依存性を確認及び解析することができる。また、これらの温度測定値のデータは、デジタルデータとして出力することも可能であり、外部のコンピュータ等で解析することができる。
操作者は、例えば変化点等の解析結果と、各被処理物情報及び処理情報に対応した対処を、解析部9の操作部13を用いて、解析部9に入力する。解析部9の制御部11は、入力された解析結果及び対処、例えば、変化点の記録、閾値の設定、アラーム表示等を被処理物情報及び処理情報に関連付けて、解析部9の記録部15に記録(登録)する。
【0091】
なお、対処とは、上記各ケースに記載したように、各被処理物情報及び処理情報に応じて異なる。
そのため、このように被処理物情報及び処理情報と対処の情報を蓄積し、テーブルで管理することにより、状態監視システム1に学習機能を持たせることができる。
【0092】
(2)製品処理段階
S1:データの読み込み
操作者は、状態監視システム1に被処理物情報及び処理情報を入力する。
状態監視システム1は、解析部9の記録部15に記憶されたデータベースから、入力された被処理物情報及び処理情報に対応した解析結果及び対処の有無を判断し、解析結果及び対処がある場合、温度測定を開始し、解析結果及び対処が無い場合、操作者に解析結果及び対処が無いことを表示部12を介して警告し、測定及び撹拌・脱泡処理を留保することも可能である。
S2:測定
状態監視システム1の解析部9はセンサ部2に指令を送信する。センサ部2は、温度センサ3により測定された被処理物の温度測定値及び時間を、所定の頻度で所定の期間、容器20に設置されたセンサ部2の識別番号とともに解析部9に送信する。
S3:解析結果及び対処の実行
状態監視システム1の解析部9は、センサ部2から受信した温度測定値及び時間を記録する。
解析部9の制御部11は、記録部15に記録(登録)されている被処理物情報及び処理情報に対応した解析結果及び対処を読み込む。判別部14は、温度測定値及び時間と読み込んだ解析結果及び対処の情報に従い、対処の要否を判別する。例えば、変化点の時間及び温度、温度測定値の上昇率や変動量と閾値との比較等に基づいて個別に判別し、アラームの表示、撹拌・脱泡処理の停止、正常終了の記録等の対処を実行する。
【0093】
以上のように、状態監視システム1は、開発段階(条件の最適化段階)において、被処理物情報及び処理情報をデータベースとして登録し、被処理物情報及び処理情報に関連づけて温度測定値の時間推移(時間依存性)を登録し、さらに被処理物情報及び処理情報に関連づけて解析結果及び対処をデータベースとして登録する。
この開発段階においては、従来困難であった撹拌・脱泡処理のリアルタイムの状態変化の定量的測定を行うことができ、熟練を要する撹拌・脱泡条件の最適化にかかるコスト及び労力が低減できる。
【0094】
また、状態監視システム1は、製品処理段階(量産段階)においては、被処理物の温度測定値の時間推移(時間依存性)を取得し、被処理物情報及び処理情報に対応した、登録された解析結果及び対処を読み込み、取得した温度測定値の時間依存性(時間推移)と読み込んだ解析結果及び対処から、個々のケースに応じた判別を行い、必要な対処を実行する。
この製品処理段階においては、撹拌・脱泡処理中の被処理物の状態をリアルタイムで定量的に監視することができ、予め登録された対処に基づいて、適格な撹拌・脱泡状態の判別、及び撹拌・脱泡処理の制御が可能となり、製造された製品の品質の維持向上及び管理を容易にする。
【課題】 撹拌・脱泡処理時の被処理物の状態を、容易にリアルタイムで定量的に監視することができる状態監視システムの提供及びそれを用いた撹拌・脱泡方法を提供することを目的とする。
【解決手段】撹拌・脱泡処理時の被処理物の状態監視システムは、センサ部と解析部を備え、センサ部は、温度センサにより被処理物の温度の時間依存性を測定し、解析部に送信し、解析部は、受信した温度測定値の時間依存性に基づき、被処理物及び処理条件に関連付けられた解析結果及び対処を実行する。本状態監視システムを用いることにより、容易に撹拌・脱泡処理の品質管理が可能となる。