特許第6558851号(P6558851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6558851金属ナノ粒子−スルホン酸化ポリエステルコンポジット、およびこれを製造する環境に優しい方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558851
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子−スルホン酸化ポリエステルコンポジット、およびこれを製造する環境に優しい方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20190805BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08K3/08
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-209565(P2015-209565)
(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公開番号】特開2016-89164(P2016-89164A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2018年10月16日
(31)【優先権主張番号】14/531,862
(32)【優先日】2014年11月3日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・エム・ファルジア
(72)【発明者】
【氏名】アラーナ・デソウザ
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ・ジェイ・ガードナー
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101812181(CN,A)
【文献】 特表2008−523246(JP,A)
【文献】 ACS Appl.Mater.Interfaces,2012,Vol.4,p.5625-5632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含まない溶媒中で、スルホン酸化ポリエステル樹脂を加熱すること;
加熱された前記スルホン酸化ポリエステル樹脂に、銀(I)イオン水溶液を加えて混合物を作成すること;及び
前記混合物を60℃〜95℃の温度で加熱し、外部からの還元剤が存在しない状態で、銀(I)イオンから銀(0)への還元を行うことを含む、方法。
【請求項2】
銀(I)イオンから銀(0)への還元を監視することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
目標の銀(0)濃度が得られたときに前記混合物を冷却することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記目標の銀(0)濃度は5ppm〜500,000ppmの範囲にある、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物を加熱している間に、第2の部分量のスルホン酸化ポリエステル樹脂を加えることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
スルホン酸化ポリエステル樹脂と銀(I)イオンとの比率が1:100〜1:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有機物を含まない溶媒中におけるスルホン酸化ポリエステル樹脂の加熱が、65℃〜90℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有機物を含まない前記溶媒が水である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
銀(I)イオン源は、硝酸銀、スルホン酸銀、フッ化銀、過塩素酸銀、乳酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、酸化銀、酢酸銀から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記スルホン酸化ポリエステル樹脂は分枝鎖ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記スルホン酸化ポリエステル樹脂は直鎖ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記スルホン酸化ポリエステル樹脂は、ポリ(1,2−プロピレン−5−スルホイソフタレート)、ポリ(ネオペンチレン−5−スルホイソフタレート)、ポリ(ジエチレン−5−スルホイソフタレート)、コポリ−(1,2−プロピレン−5−スルホイソフタレート)−コポリ−(1,2−プロピレン−テレフタレート)、コポリ−(1,2−プロピレンジエチレン−5−スルホイソフタレート)−コポリ−(1,2−プロピレン−ジエチレン−テレフタレートフタレート)、コポリ(エチレン−ネオペンチレン−5−スルホイソフタレート)−コポリ−(エチレン−ネオペンチレン−テレフタレートフタレート)、およびコポリ(プロポキシル化ビスフェノールA)−コポリ−(プロポキシル化ビスフェノールA−5−スルホイソフタレート)からなる群より選択されるポリマーのナトリウム塩、リチウム塩、またはカリウム塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記スルホン酸化ポリエステル樹脂は、トリメチロールプロパン、1,2−プロパンジオール、ジエチレングリコール、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるポリオールモノマー単位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記スルホン酸化ポリエステル樹脂は、テレフタル酸、スルホン酸化イソフタル酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される二酸モノマー単位を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンポジットに関する。特に、本開示は、コンポジットマトリックス全体に分散した金属ナノ粒子を含むコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンポジット材料に対して与えるそれぞれの個々の構成要素の特性の利点に起因して、混合した無機/有機コンポジット系への興味が高まってきている。ある特定の興味がある分野は、銀ナノ粒子(AgNP)を保持するポリマーコンポジットである。このようなコンポジットは、抗菌用途および抗微生物用途、バイオセンサー材料、コンポジット繊維、低温超伝導材料、化粧品および電子機器の要素に有用であろう。大きさおよび形状に依存する光学特性、電気特性および磁気特性、および抗菌性および抗微生物性を含め、AgNPの固有の特性によって、消費者および医療製品への使用が増しつつある。
【0003】
金属/ポリマーナノ構造の材料を製造するための多くの方法は、ポリマーマトリックスに組み込む前に、金属塩前駆体を還元することによる金属ナノ粒子の前加工を必要とする。例えば、銀/ポリマーナノ構造材料を製造するための従来の方法は、特に、一般的に、ポリマーマトリックス中での銀ナノ粒子(AgNP)の溶融混合または押出成型を必要とする。残念なことに、これらの方法は、多くは、銀ナノ粒子の凝集に悩まされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ある態様では、本明細書の実施形態は、有機物を含まない溶媒中、スルホン酸化ポリエステル樹脂を加熱することと;この加熱した樹脂に、水中で銀(I)イオン溶液を加えて混合物を作成することと;混合物を加熱し、外部からの還元剤が存在しない状態で、銀(I)イオンから銀(0)への還元を行うこととを含む、方法に関する。
【0005】
ある態様では、本明細書の実施形態は、コンポジットであって、スルホン酸化ポリエステルマトリックスと;マトリックス全体に分散した複数の銀ナノ粒子とを含み、このコンポジットが、外部からの還元剤からの痕跡量の残留副生成物を含まない、コンポジットに関する。
【0006】
種々の本開示の実施形態を、図面を参照して本明細書で以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、銀イオン存在下、外部からの還元剤を使用せずに、スルホン酸化ポリエステル自己集合の考えられる機構を示す。
図2図2は、3時間加熱した後の、さまざまな濃度の分枝鎖スルホン酸化ポリエステル(BSPE)を含み、一定保持量の硝酸銀(AgNO)を含むサンプル1〜6の重なりあった紫外線−可視光(UV−Vis)吸収スペクトルを示す。
図3図3は、5時間加熱した後の、図2のサンプル1〜6の重なりあったUV−Vis吸収スペクトルを示す。
図4図4は、22時間加熱した後の、図2のサンプル1〜6の重なりあったUV−Vis吸収スペクトルを示す。
図5図5は、一番多いBSPEを含有するバイアル(サンプル5)中、長時間にわたる銀(I)イオンの還元の重なりあったUV−Vis吸収スペクトルを示す。
図6A図6Aは、それぞれの時間間隔について、BSPEの濃度と、440nmでのBSPE−Agナノコンポジットの吸光度の関数としてのUV−Vis吸収プロットを示す。
図6B図6Bは、440nmでの種々の濃度のBSPEでの時間の関数としてのUV−Vis吸収プロットを示す。
図7図7は、本明細書の実施形態に従って調製された例示的なBSPEマトリックス中に存在する還元した銀の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図8図8は、約1〜約2ミクロンの深さのサンプル表面の元素分布を示すエネルギー分散型X線分光(EDS)スペクトルを示す。アルミニウムピークは、サンプルがメッキされたバックグラウンド膜に由来する。白金ピークは、SEM分析中のサンプルのコーティングに由来する。
図9A図9Aは、左から右に向かってBSPEの濃度を上げていき、AgNO濃度が0.32%(w/w)の一定保持量である、22時間後のサンプル1〜5を示す。
図9B図9Bは、BSPEを含まず、AgNO濃度が0.32%(w/w)の一定保持量である、22時間後のコントロールサンプルを示す。
図10A図10Aは、5時間目のサンプル6のUV−Vis測定を行ったときに観察された黒色沈殿を示す。サンプル6は、約0.024g/mLの濃度のBSPEと、外部からの還元剤として1%クエン酸三ナトリウムとを含有する。
図10B図10Bは、14日後のサンプル5を示す。0.032g/mLの濃度のBSPEのみを含有し、外部からの還元剤を含有しない。
図11図11は、14日後のサンプル5(左)および6(右)を示す。サンプル5は、まだ安定であり(沈殿なし)、一方、サンプル6(外部からの還元剤を含む)は、かなりの量の黒色沈殿を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書の実施形態は、外部からの還元剤を必要とせず、水中でスルホン酸化ポリエステル(SPE)の自己整列中に銀イオンを還元する方法を提供する。この方法は、スルホン酸化ポリエステルマトリックスを用いた銀ナノ粒子を保持するコンポジット構造の作成を容易にする。本明細書の方法は、(1)有機物を含まない溶媒(すなわち水)中で行われ、(2)外部からの還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、および廃棄物の適切な廃棄を必要とする他の従来の還元剤の必要性がないため、環境に優しい。スルホン酸化ポリエステルは、銀(I)イオン存在下、水中で自己整列するのに必要な時間が最小限であり、熱水以外の溶媒を必要としない。
【0009】
本明細書に開示する方法は、ポリマーマトリックス中でもっと多くの量の銀が必要な場合に、銀(I)の還元速度を制御し、エマルション安定性を向上させる能力を示す。本明細書に開示するように、銀(I)の還元速度は、ポリマー保持量によって制御され、および/または反応の熱/温度プロフィールを変えることができる。本明細書の方法は、還元反応が室温まで冷却することによって停止し、さらなる還元を妨げることができる「調整可能な」還元条件のため、特定の量の銀(I)の還元が望ましい場合にも有用である。
【0010】
本明細書に開示する方法は、外部からの還元剤の使用と関係がある副生成物として余分のイオン(例えば、クエン酸イオン)の存在をなくす。コンポジットを検知用途および/または他の用途で使用する場合、Ag−ポリマーコンポジットに吸着し、特定の配位子との接続を妨害し得るこれらの副生成物イオンは、目的の検体を検出/キレート化することが必要であった。従って、本明細書に開示するコンポジットは、典型的には、銀(I)を銀(0)に還元するために使用される外部からの還元剤の痕跡量の副生成物が存在しないことから利益を受ける。
【0011】
本明細書に開示するスルホン酸化ポリエステル樹脂は、鎖に接続した疎水性骨格と親水性スルホネート基とを有する。理論によって束縛されないが、図1に示すように、水中に入れ、加熱した場合、疎水性部分が互いに相互作用して疎水性コアを生成し、親水性部分(スルホネート基)は、周囲の水に面すると考えられる。従って、さらなる試薬を必要とすることなく、スルホン酸化ポリエステルが高次元に整列した球状ナノ粒子に自己整列し、従って、水中の自己整列に影響を与える。
【0012】
実施形態は、還元剤を使用することなく、自己整列プロセス中に同時にAgNPを合成する方法を提供する。銀イオンは、同時にAgNPに還元されつつ、スルホン酸化ポリエステルの自己整列中にポリマーマトリックス内に捕捉される。本明細書に開示するように、エマルションにもっと多くのスルホン酸化ポリエステル(SPE)を加えると(すなわち、固体含有量が多い)、銀の還元は、もっと速く起こった。もっと保持量が多い硝酸銀が還元のために必要な場合、SPEは、外部からの従来の還元剤を用いて合成されたAgNP/SPEナノコンポジットと比較して優れた安定性を与えた。SPE:硝酸銀の比率の全体的な量を調整し、還元時間、還元の量およびAg−ポリマーエマルションの全体的な安定性を制御することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、ナノサイズの銀粒子は、400nm付近にプラズモン吸収ピークを有するため、還元は、UV−VIS吸収分光法によって長期間監視されてもよい。ピークが広がっているほど、ナノ粒子が小さい。λmaxが大きいほど、ポリマーマトリックス内で還元されたAgNPの量が多くなる。
【0014】
理論によって束縛されないが、スルホン酸化ポリエステル樹脂は、本明細書に開示するコンポジットの合成において、(1)高いポリマー濃度で還元が増加することによって実証されるように、還元能力として潜在的に作用する、(2)ポリマーマトリックス(保護剤)中で銀ナノ粒子が安定化する、(3)水性媒体中で「自己安定化剤」として自身のスルホネート基を利用することを含め、多くの機能を有すると考えられている。
【0015】
固体含有量が多いとき(例えば、約40重量%より多いスルホン酸化ポリエステル(SPE)溶液)、この溶液は、濃くなり、ポリマー鎖が移動を妨害するため、銀イオンがポリマーと会合する能力を低下させる場合がある。しかし、これは、加熱してもっと均一な銀イオン分散物を可能にする前に、混合時間を長くすることによって修正されるだろう。しかし、還元速度は、溶液中に大量のSPEマトリックスが存在することによって遅くなるとは予想されない。濃度にかかわらず、マトリックスは、銀ナノ粒子を水に均一に分散させるときに重要な役割を果たすだろう。対象的に、あらかじめ作られた銀ナノ粒子(AgNP)と、溶融したポリマーを機械的に混合することによって製造されるコンポジットは、通常は、不均一な粒子分散物を生じる。AgNPは、高い表面反応性を有し、ポリマーマトリックス中に分散せずに、互いに凝集してもっと大きなドメインまたはクラスターになる傾向がある。
【0016】
いくつかの実施形態では、有機物を含まない溶媒中、スルホン酸化ポリエステル樹脂を加熱することと;この加熱した樹脂に、水中で銀(I)イオン溶液を加えて混合物を作成することと;混合物を加熱し、外部からの還元剤が存在しない状態で、銀(I)イオンから銀(0)への還元を行うこととを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、有機物を含まない溶媒は、水である。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「外部からの還元剤」は、系中での還元に影響を与えるポリマーおよび銀塩の混合物に加えられてもよい従来の還元剤を指す。外部からの還元剤の例としては、限定されないが、クエン酸塩、チオサルフェート、ヒドリド系試薬、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、遊離還元糖、アスコルビン酸などが挙げられる。本明細書に開示するように、スルホン酸化ポリエステル(SPE)樹脂の濃度と、水性銀(I)/SPE系における高温での有効な還元能力との間に相関関係があり、このことは、スルホン酸化ポリエステルマトリックスが、還元剤として役立ち得ることを示唆している。
【0018】
いくつかの実施形態では、方法は、さらに、銀(I)イオンから銀(0)への還元を監視することをさらに含む。監視は、任意の検出手段によって達成されてもよい。以下の実施例に示すように、簡単な検出方法は、400nm付近のプラズモン吸収ピークに基づいて監視するUV−Vis吸光が挙げられるだろう。還元の進行を監視するために使用可能な他の方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDSまたはEDX)が挙げられる。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、目標となる銀(0)濃度が得られたときに、混合物を冷却することをさらに含む。いくつかの実施形態では、周囲温度から約65℃未満までに冷却すれば、還元を十分に遅らせるか、止めることができる。いくつかの実施形態では、冷却は、熱源を単純に除去することによって行われる。以下の実施例に示すように、還元は、高温で行われて、その進行が監視されてもよい。いくつかの実施形態では、還元は、最初に、約65℃〜約95℃の高温で行われ、特に良好な目標温度は約90℃である。いくつかの実施形態では、この温度は、約80℃〜90℃である。特定の実施形態では、最初の高温は、約88℃〜約92℃である。還元は、混合物の温度を下げることによって停止することができ、従って、目標とする銀(0)濃度を可能とする。いくつかの実施形態では、停止は、約95℃から約30℃まで、または約90℃から約21℃まで温度を下げることによって行われる。特定の実施形態では、この温度は、周囲温度まで下げられる。いくつかの実施形態では、目標とする銀(0)濃度は、約100〜約10,000ppmの範囲である。約5ppm〜1,000ppmの範囲の銀(0)の濃度が、抗菌性および触媒用途に適している。抗菌濃度は、約5ppm〜約1,000ppm、または約20ppm〜約500ppm、または約30ppm〜約100ppmの範囲であってもよい。100ppm〜100,000ppmの濃度は、材料の熱特性(例えば、熱伝導性)を高めるのに適している。熱特性の向上および他の物理特性(引張強度)は、約100ppm〜約100,000ppm、または約500ppm〜約50,000ppm、または約1,000ppm〜約10,000ppmで実現されるだろう。10,000ppmの濃度は、ポリマー−銀コンポジットの機械特性、例えば、破断時の伸び率、最大引張強度およびヤング弾性率を向上させることが報告されている。
【0020】
いくつかの実施形態では、方法は、混合物を加熱している間に、第2の部分のスルホン酸化ポリエステル樹脂を加えることをさらに含む。このような実施形態では、SPEおよび銀(I)イオンを用いる最初のインキュベーションは、銀(I)イオンとおよびSPEポリマーマトリックスとの平衡関係を確立するのに役立つだろう。第2の部分のスルホン酸化ポリエステル樹脂を、加熱の前、加熱中、または加熱後に加えてもよい。この第2の部分は、外部からではない還元剤の供給源として与えられてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、スルホン酸化ポリエステル樹脂と、銀(I)イオンの量は、約1:100〜約1:1、または約1:25〜約1:3の範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、この比率は、還元度の関数であり、高温での還元時間によって調整することができる。従って、所定の温度で所与の濃度のポリマーマトリックスについて、時間の関数として吸光度の標準的なプロットによって、所与の吸光度に必要な時間を決定することができるだろう。440nmでの銀の吸収は、還元度の測定値として役立つ。図6Bは、このようなプロットの一例を与える。完全な還元は、表面増強ラマン分光法(SERS)によって測定されてもよい。
【0022】
得られるコンポジットの安定性は、ゼータ電位の測定によって評価することができる。評価の基準として、以下の実施例1から得たポリマー固形分が25.5%の例示的なストック溶液は、以下の表に示すように、約−60mVで高い安定性を有する。以下の実施例のサンプル5は、周囲温度で14日間熟成した後に安定であった(図10Bに示されるサンプル)。
【0023】
いくつかの実施形態では、加熱は、約65℃〜約90℃の温度で行われる。選択される正確な温度は、望ましい還元がどの程度速く行われるかの関数であろう。ナノ粒子の保持量が少ないことが望ましい場合には、もっと低い温度で還元を行うことが望ましだろう。実験的に、還元は、約60℃で測定可能な程度に起こることが観察され、もっと高い温度だと、一般的に、時間が短くなるという利点があるだろう。
【0024】
いくつかの実施形態では、銀(I)イオン源は、硝酸銀、スルホン酸銀、フッ化銀、過塩素酸銀、乳酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、酸化銀、酢酸銀からなる群から選択される。
【0025】
いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子は、単に原子状の銀を含んでいてもよく、または他の金属とのコンポジットを含む銀コンポジットであってもよい。このような金属−銀コンポジットは、(i)1つ以上の他の金属および(ii)1つ以上の非金属のいずれかまたは両方を含んでいてもよい。適切な他の金属としては、例えば、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、InおよびNiが挙げられ、特に遷移金属、例えば、Au、Pt、Pd、Cu、Cr、Niおよびこれらの混合物が挙げられる。例示的な金属コンポジットは、Au−Ag、Ag−Cu、Au−Ag−CuおよびAu−Ag−Pdである。金属コンポジット中の適切な非金属としては、例えば、Si、CおよびGeが挙げられる。銀コンポジットの種々の構成要素は、例えば、約0.01%〜約99.9重量%、特に、約10%〜約90重量%の範囲の量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、銀コンポジットは、銀と、1つ、2つ以上の他の金属との金属アロイであり、銀は、例えば、ナノ粒子の重量の少なくとも約20%含まれ、特に、ナノ粒子の重量の約50%より多く含まれる。特記しない限り、銀含有ナノ粒子の構成要素について本明細書に引用される重量%は、安定剤を含まない。
【0026】
銀コンポジットで構成される銀ナノ粒子は、例えば、還元工程中の(i)銀化合物(または複数の化合物、特に、銀(I)イオン含有化合物)および(ii)別の金属塩(または複数の塩)または別の非金属(または複数の非金属)の混合物を用いることによって製造することができる。
【0027】
当業者は、銀以外の金属が有用な場合があり、本明細書に開示する方法に従って調製することができることを理解するだろう。従って、例えば、コンポジットは、銅、金、パラジウムまたはこのような例示的な金属のコンポジットのナノ粒子を用いて調製されてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、スルホン酸化ポリエステル樹脂は、分枝鎖ポリマーである。いくつかの実施形態では、スルホン酸化ポリエステル樹脂は、直鎖ポリマーである。いくつかの実施形態では、スルホン酸化ポリエステル樹脂は、ポリ(1,2−プロピレン−5−スルホイソフタレート)、ポリ(ネオペンチレン−5−スルホイソフタレート)、ポリ(ジエチレン−5−スルホイソフタレート)、コポリ−(1,2−プロピレン−5−スルホイソフタレート)−コポリ−(1,2−プロピレン−テレフタレート)、コポリ−(1,2−プロピレンジエチレン−5−スルホイソフタレート)−コポリ−(1,2−プロピレン−ジエチレン−テレフタレートフタレート)、コポリ(エチレン−ネオペンチレン−5−スルホイソフタレート)−コポリ−(エチレン−ネオペンチレン−テレフタレートフタレート)およびコポリ(プロポキシル化ビスフェノールA)−コポリ−(プロポキシル化ビスフェノールA−5−スルホイソフタレート)からなる群から選択されるポリマーのナトリウム塩、リチウム塩またはカリウム塩である。いくつかの実施形態では、当業者が知っているように、スルホネート基に対する中和作用は、任意の参加していないカチオンであってもよく、限定されないが、ナトリウム、カリウム、リチウムなどを含んでいてもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、スルホン酸化ポリエステル樹脂は、トリメチロールプロパン、1,2−プロパンジオール、ジエチレングリコールおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるポリオールモノマー単位を含む。いくつかの実施形態では、スルホン酸化ポリエステル樹脂は、テレフタル酸、スルホン酸化イソフタル酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される二酸モノマー単位を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、コンポジットであって、スルホン酸化ポリエステルマトリックスと;マトリックス内に分散した複数の銀ナノ粒子とを含み、このコンポジットが、外部からの還元剤からの痕跡量の残留副生成物を含まない、コンポジットが提供される。
【0031】
ゼータ電位の測定による安定性の顕著な差は、還元剤を用いて、または還元剤を用いずに還元を行うときに観察することができる。これらのゼータ電位の差は、熱特性(T)または分子量特性とは独立している。等しい固形分およびAg含有量の2つの分散物を比較し、還元剤を含まない分散物は、実質的にもっと安定であり、このことは、還元剤がある程度の電荷の違いおよびわずかな凝集を引き起こすためであると考えられる。一例として、還元剤を含まないサンプルは、ゼータ電位が−80.7mVであるのに対し、クエン酸ナトリウムを用いて調製されたサンプルは、ゼータ電位が−56.0mVであった。
【実施例】
【0032】
以下の実施例は、本開示の実施形態を示すために提示される。これらの実施例は、説明することのみを意図しており、本開示の範囲を限定することを意図していない。また、部およびパーセントは、特に指示のない限り、重量基準である。本明細書で使用される場合、「室温」は、約20℃〜約25℃の温度を指す。
【0033】
一般的なプロセス:銀ナノ粒子の銀(I)塩、還元剤およびスルホン酸化ポリエステル樹脂を含有し、スルホン酸化ポリエステル樹脂粒子で構成されるエマルションラテックスが生成される、エマルション組成物を調製するための方法は、(i)約65℃〜90℃の温度で、水中で樹脂を加熱することと、(ii)エマルションに硝酸銀水溶液を滴下することとを含む。これにより、AgNP−BSPEコンポジット粒子が得られ、処理条件、例えば、スルホン酸化ポリエステルの固体保持量、銀の量、rpm、温度などに依存して、直径は、約5〜約500ナノメートルのいずれかの範囲であろう。
【0034】
具体的な実施形態では、コンポジット調製物は、分枝鎖スルホン酸化ポリエステル(BSPE)を約90℃で水に分散させ、その後、硝酸銀溶液を添加し、最後に加熱し、Ag(I)からAg(0)への還元を行うことによって調製されてもよい。
【0035】
実施例1
この実施例は、分枝鎖ソジオスルホン酸化アモルファスポリエステル(BSPE−1)の調製を記載する。
分枝鎖アモルファススルホン酸化ポリエステル樹脂は、0.425モル当量のテレフタレート、0.080モル当量のナトリウム 5−スルホイソフタル酸、0.4501モル当量の1,2−プロパンジオールおよび0.050モル当量のジエチレングリコールで構成され、以下のように調製された。1リットルのParr反応器に、加熱した底部ドレインバルブ、高粘度ダブルタービンアジテーター、冷水凝縮器を備える蒸留受け器を取り付け、これに388グラムのテレフタル酸ジメチル、104.6グラムのナトリウム 5−スルホイソフタル酸、322.6グラムの1,2−プロパンジオール(1モル過剰のグリコール)、48.98グラムのジエチレングリコール(1モル過剰のグリコール)、トリメチロールプロパン(5グラム)、および触媒として0.8グラムのブチルスズオキシド水酸化物を加えた。攪拌しつつ、反応器を3時間かけて165℃まで加熱し、次いで、再び1時間かけて190℃まで加熱し、その後、1時間かけて大気圧から約260Torrまで圧力をゆっくりと下げ、2時間かけて5Torrまで下げた。次いで、30分かけて圧力をさらに約1Torrまで下げ、ポリマーを底部ドレインから、ドライアイスで冷却した容器に取り出し、460グラムのスルホン酸化−ポリエステル樹脂を得た。分枝鎖スルホン酸化−ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が54.5℃であり(開始)、軟化点が154℃であると測定された。
【0036】
実施例2(希釈のためのBSPE−1ストック溶液)
0.5gのBSPE−1を125mLの蒸留水に加えることによって、BSPE−1のストック水溶液を製造した。このストック溶液は、[BSPE−1]=0.004g/mLであった。6個の10mLガラスバイアルを蒸留水で3回洗浄し、アセトンで3回洗浄し、風乾させた。種々の容積の水およびストックBSPE溶液を、以下の表1に概説されるように、このバイアルに加えた。このバイアルに磁気攪拌棒を取り付け、アルミニウム箔で蓋をした。このバイアルを90℃まで加熱し、950rpmで攪拌した。1時間後、1.884mLの0.1M AgNO溶液をそれぞれのバイアルにマイクロピペットで加えた。バイアル6に、2.116mLの1%クエン酸三ナトリウム二水和物還元剤をマイクロピペットで加えた。溶液を90℃、950rpmで22時間混合した。UV−Vis測定は、AgNOを加えてから3時間後、5時間目および22時間目に行った。銀の還元は、色が黄色/褐色に変化することによって明らかであった。
【0037】
【表1】
【0038】
AgNPは、光を照射すると、表面プラズモン共鳴(SPR)を示し、UV−VIS波長範囲にSPRピークを生じる。SPR現象は、AgNPの伝導帯における入射光と遊離電子との相互作用の結果である。Luoma,S.N.2008.Project on Emerging Nanotechnologies、The Pew CharitableTrusts;Tolaymat,T.ら、Sci.Tot.Environ.、(408)5:999−1006(2010)。図2〜4は、上に示す表1に与えられるように調製した6個のAgNP−BSPE分散物のUV−Vis吸収スペクトルを示す。λmaxの顕著な増加は、Agに対し、BSPEの量が増加するときにみられる。加熱時間が進むにつれて、それぞれのサンプルのλmaxピークが、図4に示すように顕著に増加した。22時間後に、ある程度の蒸発が観察されたが、銀の還元が全体的に増えていく傾向は明らかである。図4において、22時間後に、BSPEを含まないコントロールサンプル(サンプル1)が、わずかに黄色であり、440nmでのピークを有することがわかるだろう。このことは、以下の式によって与えられ、水性AgNOの熱分解によって説明することができる。2AgNO→2Ag(s)+2NO(g)+O(g)ΔH°298.15=314.97kJ。この反応の平衡定数(K)は、295.15Kおよび400Kでそれぞれ2.13×10−30および1.98×10−6である。Stern,K.H.1972.High temperature properties and decomposition of inorganic salts.Part 3 Nitrates and Nitrites.J.Phys.Chem.Ref.Data、(1)3:767。この実験で使用される温度(363K)で、平衡定数は、これらの値の間にあるはずである。このように平衡定数が比較的小さいことは、最低限の妨害があり、これがバイアル1の顕著ではない量の変色に寄与していることを示す。
【0039】
図2〜4は、さまざまな濃度のBSPEを含み、AgNOの保持量が一定のサンプルのUV−Vis吸収スペクトルを示す。図2は、3時間加熱した後のスペクトルを示し、図3は、5時間加熱した後のスペクトルを示し、図4は、22時間加熱した後のスペクトルを示す。図5は、一番多いBSPEを還元剤として含有するバイアル(サンプル5)中、長時間にわたるAgの還元を示す。図6は、それぞれの時間間隔について、BSPEの濃度と、440nmでのBSPE−Agナノコンポジットの吸光度との関係を示す。440nmで測定した還元した銀の量が、BSPE濃度が増加するにつれて増加することが明らかである。それぞれの時間での測定の吸光度とBSPE濃度の関係は、それぞれの傾向線のr二乗によってわかるように、非常に相関関係がある。
【0040】
図7は、BSPEマトリックス中の還元したAgのSEMを示し、図8は、約1〜約2ミクロンの深さのサンプル表面の元素分布を示すエネルギー分散型X線分光(つまりEDS)を示す。アルミニウムピークは、サンプルがメッキされたバックグラウンド膜に由来する。白金ピークは、SEM分析中のサンプルのコーティングに由来する。
【0041】
BSPEを用いたAgの還元は、温度変化によって制御することができる。Agの還元は、90℃で簡単に起こるが、室温(22℃)では起こらない。これは、図9A/Bに示されている。
【0042】
図9A 左から右に[BSPE]が増加していき、[AgNO]が0.32%(w/w)の一定保持量である、22時間後のサンプル。図9B BSPEを含まず、[AgNO]が0.32%(w/w)の一定保持量である、22時間後のコントロールサンプル。
【0043】
強い還元剤(この実施例では、クエン酸三ナトリウム二水和物)の添加が、銀存在下で迅速である場合、銀は、迅速に還元し、凝集し、不安定化するだろう。このことが、サンプル6を5時間後にUV−Vis測定すると、褐色/黒色の沈殿が観察されることによってわかるだろう(図10A)。図10A 5時間目のバイアル6のUV−Vis測定を行ったときに観察された黒色沈殿。バイアル6は、約0.024g/mLの濃度のBSPEと、1%クエン酸三ナトリウム二水和物(還元剤)とを含有する。図10B 14日後のサンプル5、0.032g/mLの濃度のBSPEのみを含有する。
【0044】
図11は、実験終了から14日後を示し、バイアル5は、まだ安定である(沈殿なし)が、バイアル6は、かなりの量の黒色沈殿を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11