(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558886
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】屋外設備損傷部補修構造及び屋外設備損傷部補修方法
(51)【国際特許分類】
F16L 55/16 20060101AFI20190805BHJP
B29C 73/10 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
F16L55/16
B29C73/10
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-214332(P2014-214332)
(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公開番号】特開2016-80118(P2016-80118A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(74)【代理人】
【識別番号】100161492
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 栄斉
(72)【発明者】
【氏名】高木 竜太郎
【審査官】
渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3120574(JP,U)
【文献】
特開2009−113222(JP,A)
【文献】
特開2006−116734(JP,A)
【文献】
特開2005−194768(JP,A)
【文献】
米国特許第02924546(US,A)
【文献】
特開2003−328500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/16
B29C 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外設備の、配管経路の表面に形成された傷、窪み、配管経路の外表面から内面に貫通する孔、又は切れ目が存在する損傷部を含む周辺部位の輪郭に沿って全周に亘り囲うことなく嵌め込まれたカバー部材、
前記カバー部材に接着剤を介して貼り付けられた補強シート、及び
前記補強シートに塗布された樹脂を含み、前記カバー部材が剛性を有するシート体で所定の形状に形成され、前記接着剤を塗布する塗布面が形成されていることを特徴とする屋外設備損傷部補修構造。
【請求項2】
前記カバー部材が前記カバー部材の弾発力によって前記屋外設備に定着されている請求項1に記載の屋外設備損傷部補修構造。
【請求項3】
屋外設備の、配管経路の表面に形成された傷、窪み、配管経路の外表面から内面に貫通する孔、又は切れ目が存在する損傷部を含む周辺部位の輪郭に沿って全周に亘り囲うことなくカバー部材を嵌め込む工程、
前記カバー部材に接着剤を介して補強シートを貼り付ける工程、及び
前記補強シートに樹脂を塗布する工程
を含み、前記カバー部材が剛性を有するシート体で所定の形状に形成され、前記接着剤を塗布する塗布面が形成されていることを特徴とする屋外設備損傷部補修方法。
【請求項4】
前記カバー部材を前記カバー部材の弾発力によって前記屋外設備に定着させる請求項3に記載の屋外設備損傷部補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管経路等の屋外設備の損傷部を補修するための屋外設備損傷部補修構造及び屋外設備損傷部補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室外に設置された配管経路等の屋外設備には、配管や機器等を外気や衝撃から保護する保護材が施されている。しかしながら、これら保護材が雨や風などの影響により経時劣化した場合や、人の作業等の外的要因によって損傷した場合は、保護材も含め、屋外設備を補修する必要性が生じる。そこで、これまでに、屋外設備を補修するための様々な手法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014−114818号公報)には、配管経路の損傷部にパッチ部材を貼り付け、その上から金属管を囲んで覆う合成樹脂製の包囲カバーを取り付けることにより、損傷部を補修する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特開昭57−116992号公報)には、パイプラインの補強個所に、型枠を配置し樹脂を注入して硬化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−114818号公報
【特許文献2】特開昭57−116992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の補修方法では、場所によっては、作業が難しくなる、作業に時間を要する、などの問題がある。具体的には、例えば、特許文献1に記載の補修方法では、合成樹脂製の包囲カバーを金属管に取り付けなければならいので、作業スペースが狭い場合、その取り付け作業が困難になる。
【0007】
更に、包囲カバーは、金属管の径に適合したものとなっている必要があり、包囲カバーに対し金属管の径が極端に大きい場合や小さい場合には使用できない。そのため、包囲カバーは、様々な管径に対応せず、適用範囲が限られる。
【0008】
一方、損傷部に貼り付けるパッチ部材は、金属管の壁部が欠損している場合、その欠損部から管路の内部に入り込み、管路の内部領域を侵してしまう。そのため、損傷部の状態によっては、適用できない場合がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、複数の箇所に損傷があった場合には、補強に長い時間を要することになる。
【0010】
そこで、本発明は、様々な状態の損傷部に対応できる屋外設備損傷部補修構造及び屋外設備損傷部補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明に係る屋外設備損傷部補修構造は、屋外設備の
、配管経路の表面に形成された傷、窪み、配管経路の外表面から内面に貫通する孔、又は切れ目が存在する損傷部
を含む周辺部位の輪郭に沿って全周に亘り囲うことなく嵌め込まれたカバー部材、前記カバー部材に接着剤を介して貼り付けられた補強シート、及び前記補強シートに塗布された樹脂を含む。そして、前記カバー部材が剛性を有するシート体で所定の形状に形成され
、前記接着剤を塗布する塗布面が形成されている。
【0012】
また、本発明に係る屋外設備損傷部補修方法は、屋外設備の
、配管経路の表面に形成された傷、窪み、配管経路の外表面から内面に貫通する孔、又は切れ目が存在する損傷部
を含む周辺部位の輪郭に沿って全周に亘り囲うことなくカバー部材を嵌め込む工程、前記カバー部材に接着剤を介して補強シートを貼り付ける工程、及び前記補強シートに樹脂を塗布する工程を含む。そして、前記カバー部材が剛性を有するシート体で所定の形状に形成され
、前記接着剤を塗布する塗布面が形成されている。
【0013】
本発明において、カバー部材は、カバー部材自体の弾発力によって屋外設備に定着するものであることが好ましい。また、カバー部材の形状は、屋外設備の損傷部が存在する部位の形状に適合することが好ましい。例えば、補修対象が円管の損傷部であれば、カバー部材の形状を、長手方向に形成されたスリットにより周方向に分割された円筒形とすることができる。
【0014】
なお、本発明において、屋外設備とは、上記の配管経路の他、装置機械等を収容し装置機械等を外気や衝撃から保護する筐体も含むものとする。また、配管経路とは、流体や配線などの目的物を通すための管状部に加え、流量計、バルブ、その他配管付属品を収容するための筐体部も含むものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カバー部材を損傷部に嵌め込むことで、損傷部の形状によらず、接着材を塗布するための作業に好適な塗布面を形成することができる。また、カバー部材は剛性を有するシート体で所定の形状に形成されているため、狭いスペースにも簡単に設置することができる。しかも、損傷部を有する部位の輪郭に沿って設置されるため、管路や筐体の内部領域を侵すことなく、補修できる。そのため、様々な状態の損傷部に対応できる。
【0016】
また、カバー部材を、カバー部材自体の弾発力によって屋外設備に定着するものとすれば、カバー部材を損傷部に嵌め込む作業を、より容易に行うことができるため、作業時間の短縮を図ることができ、更に狭い場所での補修作業を可能にすることができる。しかも、カバー部材自体の弾発力によって屋外設備に定着するので、例えば、種々の管径の配管や種々の寸法の筐体であっても、同じ大きさのカバー部材で定着させることができる。したがって、適用範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の屋外設備損傷部補修構造の実施形態の一例を示す写真である。
【
図2】
図1に示す屋外設備損傷部補修構造のA−A断面の模式図である。
【
図7】補強シートの貼り付け作業を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(配管経路損傷部補修構造)
次に、本発明に係る屋外設備損傷部補修構造について、実施形態の一つである配管経路損傷部補修構造について、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る配管経路損傷部補修構造の写真であり、
図2は、
図1に示されている配管経路損傷部補修構造のA−A断面の模式図である。なお、
図2において、補修構造を構成する各部位は位置関係を明確に示す便宜上厚く表示されているため、各部位の厚みは正確ではない。
【0019】
配管経路損傷部補修構造1は、配管経路10の損傷部に嵌め込まれたカバー部材5、接着剤7により貼り付けられた補強シート8、及び補強シート8に塗布して硬化させた樹脂9からなる。
【0020】
配管経路10は、円管11で構成された管状部と、流量計、バルブ、その他配管付属品を収容するための図示しない筐体部とで構成されている。なお、本実施形態の管状部は円管11で構成されているが、水や空気などの流体、或いは電線、通信線などのケーブルを通すことができるものであれば、その形状や材質は、特に制限されない。
【0021】
損傷部は、配管経路10の表面に形成された傷、窪みなど、或いは配管経路10の外表面から内面に貫通する孔、切れ目などの損傷が存在する箇所である。これらは、錆などによって自然に形成されたり、人為的に形成されたりする。
【0022】
本実施形態の損傷部は、管状部のピンホール3が形成された部位となっている。そして、ピンホール3を含む周辺部位は、カバー部材5により覆われている。カバー部材5は、剛性を有するシート体で配管経路10に適合する形状に形成されている。具体的には、本実施形態においては、損傷部が、円管11で構成された配管経路の管状部に存在しているため、カバー部材5は、
図3に示されるように、長手方向に形成されたスリット13により、周方向に分割された円筒形とされている。
【0023】
カバー部材5を形成するシート体は、狭い空間にも挿入できる厚みとしたときにも所望の形状を維持できる剛性を有する材質とすることが好ましく、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)を採用することができる。
【0024】
この実施形態のカバー部材5は、FRP製のシート体で形成されており、可撓性を有するため、損傷部に嵌め込まれた状態で径方向の内側に向けて働く復元力によって円管11に定着している。
【0025】
カバー部材5の外表面及びカバー部材5の外表面から連続する円管11の外表面には、接着剤7が塗布されている。本実施形態においては、円管11の外表面にも接着剤7が塗布されているが、少なくともカバー部材5の外表面に接着剤が塗布されていればよい。接着剤7は、カバー部材5と補強シート8を接着可能であればよく、そのような接着剤としては、公知のものを用いることができる。
【0026】
補強シート8は、接着剤7を介してカバー部材5に固定されている。本実施形態においては、補強シート8は、配管経路10を構成する円管11の外周を覆うように固定されている。
【0027】
本実施形態の補強シート8には、アラミド繊維シートが採用されている。アラミド繊維シートは、強度が高く、難燃性であるため、補修部材として優れている。また、合成樹脂や金属からなる補修部材に比べ軽量であり、取り扱いも容易である。
【0028】
補強シート8は、補修する場所や損傷の程度等に応じた形状とすることができ、本実施形態においては、カバー部材5を巻いて固定することができるバンテージ形状とされている。この他にも、例えば、カバー部材5と大きさが適合するシート形状とすることもできる。このようなアラミド繊維シートは、市販品をそのまま用いることもできるし、市販品を任意の形状に予め切断して用いることもできる。
【0029】
補強シート8には、更に、溶媒に溶かした樹脂11が塗布されている。そして、補強シート8の表面及び補強シート8を構成する繊維の空隙に樹脂11が入り込んだ樹脂層が形成されている。アラミド繊維は、樹脂含浸性に優れているので、樹脂11を有することにより、耐候性や耐衝撃性に優れた保護層を形成することができる。このような樹脂11は、例えば、エポキシ樹脂を用いることができ、二液混合型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0030】
カバー部材5は、補修対象が配管経路10を構成する筐体部の損傷部である場合、筐体部の形状に適合するものにできる。カバー部材5の他の実施形態を
図4及び
図5に示す。
【0031】
損傷部が筐体部の陵辺或いは陵辺近傍のときは、陵辺を含む部位に適合するものとして、
図4に示すように、等辺山形とすることができる。この場合、筐体部の陵辺に対して配置される山形部分の内角Bが、その陵辺部分の角度よりも小さくなる形状とすることで、陵辺を挟む方向に働く復元力を利用して、筐体部の陵辺近傍に定着させることができる。
【0032】
また、損傷部が筐体部の角、或いは角近傍のときは、角を含む部位に適合するものとして、
図5に示すように、角を形成する3面を覆う形状とすることができる。すなわち、等辺山形の部材の山形部分の一部を山形の陵辺52に沿って切り離し、切り離されて形成された2つの片部53,54を折り曲げて重なり合った形状とすることができる。この場合、2つの片部53,54の折り曲げ角度を調整することで、各片部が筐体部の面に密着する方向に働く復元力を利用して、筐体部の角に定着させることができる。
【0033】
(配管経路損傷部補修方法)
次に、本発明に係る屋外設備損傷部補修方法の一つの実施形態である配管経路損傷部補修方法について、図面に基づいて説明する。
図6は、配管経路1の損傷部3を示す写真である。
【0034】
まず、損傷部にカバー部材5を嵌め込む。本実施形態においては、補修対象となる損傷部が、配管経路の円管11で構成された管状部にあるので、カバー部材5は、
図3に示されるように、長手方向に形成されたスリット13により、周方向に分割された円筒形のものを用いる。
【0035】
既述のように、本実施形態の損傷部は、管状部においてピンホール3が形成された部位であるため、スリット13を広げて、管状部を構成する円管11のピンホール3を含む周辺部位にカバー部材5を嵌め込む。カバー部材5は、カバー部材5の復元力によって円管11上に定着する。
【0036】
次に、カバー部材5の上に接着剤7を塗布する。接着剤7の塗布は、公知の方法を用いることができる。接着剤7は、少なくとも補強シート8を貼り付ける位置に塗布する。
【0037】
接着剤7を塗布した後、
図7に示されているように、バンテージ形状の補強シート8をカバー部材5の上に巻きつけ、補強シート8をカバー部材に貼り付ける。補強シート8を固定するために、補強シート8に接着剤を塗布してもよい。
【0038】
最後に、補強シート8に、樹脂11を含む溶剤を塗布する。塗布は、公知の方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 配管経路損傷部補修構造
3 ピンホール
5 カバー部材
7 接着剤
8 補強シート
9 樹脂
10 配管経路
11 円管
13 スリット