(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接続ポートを吸気ポートとして備えるとともに、外部に設置された真空ポンプに接続される排気ポートと、前記吸気ポートおよび前記排気ポートを結ぶ排気経路とをさらに備え、
前記ロータと前記ステータとが対向する部分によって前記排気経路の少なくとも一部が構成されている、請求項1に記載のX線発生装置用ターゲットマウント。
前記ロータと前記ステータとが対向する部分の一部にネジ溝真空ポンプが設けられることにより、前記排気経路上に排気機能を有する非接触シール部が形成されている、請求項2または3に記載のX線発生装置用ターゲットマウント。
前記複数のロータ側フィン部と前記複数のステータ側フィン部とに互いに異なる向きに傾斜するタービン翼が形成されることにより、前記排気経路上にターボ分子ポンプが設けられている、請求項2から5のいずれかに記載のX線発生装置用ターゲットマウント。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態においては、X線発生装置およびX線発生装置用ターゲットマウントとして、各種試料の構成元素やその電子状態を分析することができるX線光電子分光分析装置およびこれに具備されるターゲットマウントに本発明を適用した場合を例示して説明を行なう。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるX線光電子分光分析装置の概略図である。まず、この
図1を参照して、本実施の形態におけるX線光電子分光分析装置1の構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、X線光電子分光分析装置1は、チャンバ2と、電子線源3と、コリメータ4と、光電子分析管5と、ターゲットマウント10Aと、図示しない真空ポンプとを主として備えている。
【0029】
チャンバ2は、真空容器からなり、電子線源3が接続される電子線源接続部2aと、ターゲットマウント10Aが接続されるターゲットマウント接続部2bとを有している。また、チャンバ2内の所定位置には、分析対象物である試料100が設置されている。
【0030】
電子線源3は、電子線101を放射することが可能なフィラメントを含んでおり、チャンバ2に設けられた電子線源接続部2aに接続されている。電子線源3は、フィラメントにおいて発生させた電子線101を電子線源接続部2aを介してチャンバ2内に放射する。
【0031】
ターゲットマウント10Aは、ターゲット80を支持する機器であり、当該ターゲット80がチャンバ2の内部に配置されることとなるように、チャンバ2に設けられたターゲットマウント接続部2bに接続されている。ターゲットマウント10Aによって支持されたターゲット80は、たとえば銅やアルミニウム等の金属材料からなり、電子線101が照射されることによってX線102を発生させてこれを放射する。なお、ターゲット80は、ターゲットマウント10Aによって回転可能に支持されているが、その詳細については後述することとする。
【0032】
また、ターゲットマウント10Aは、チャンバ2に接続される接続ポートとしての吸気ポート41と、上述した図示しない真空ポンプが接続される排気ポート21とを有しており、さらにその内部にこれら吸気ポート41および排気ポート21を接続する排気経路70を有している。なお、ターゲットマウント10Aのより詳細な構成については、後述することとする。
【0033】
コリメータ4は、ターゲット80から放射されて試料100に照射されるX線102の太さを調整するものであり、チャンバ2内に配置されている。
【0034】
光電子分析管5は、試料100の表面にX線102が照射されることにより、原子軌道の電子が励起されることで試料100から放射された光電子103を分光して検出することで光電子103の運動エネルギー分布を測定するものであり、チャンバ2内に配置されている。
【0035】
上述した図示しない真空ポンプは、チャンバ2内を高真空状態に維持するためのものであり、ターゲットマウント10Aの排気ポート21に取付けられた排気管22を介して当該ターゲットマウント10Aに接続されている。これにより、チャンバ2は、ターゲットマウント10Aに設けられた排気経路70を介して図示しない真空ポンプに接続されることになる。
【0036】
以上において説明したX線光電子分光分析装置1においては、チャンバ2内が高真空状態に維持されるとともに、ターゲット80がチャンバ2内において高速に回転させられた状態とされ、この状態において電子線源3から放射された電子線101がターゲット80に照射される。これにより、ターゲット80にて発生したX線102がコリメータ4を経由して試料100の表面に照射され、試料100の表面から放射された光電子103が光電子分析管5に照射されることにより、光電子分析管5によって光電子103の運動エネルギー分布が測定される。以上により、X線光電子分光分析装置1において、試料100の構成元素やその電子状態が特定されることになる。
【0037】
図2は、
図1に示す本実施の形態におけるターゲットマウントの模式断面図であり、
図3は、
図2中に示す領域IIIの拡大断面図である。次に、これら
図2および
図3を参照して、本実施の形態におけるターゲットマウント10Aの構成についてより詳細に説明する。
【0038】
図2に示すように、ターゲットマウント10Aは、ベース20と、下部側第1ステータ30aと、下部側第2ステータ30bと、上部側ステータ40と、ロータ50と、回転駆動機構60と、上述したターゲット80とを主として備えている。ターゲットマウント10Aの外殻は、ベース20、下部側第1ステータ30aおよび上部側ステータ40によって構成されており、これらによって囲まれた内部空間に、下部側第2ステータ30b、ロータ50および回転駆動機構60等が収容されている。また、ターゲットマウント10Aの内部には、上述した吸気ポート41および排気ポート21を結ぶ排気経路70が設けられている。
【0039】
ベース20は、略円盤状の形状を有しており、その上面に下部側第1ステータ30a、下部側第2ステータ30bおよび回転駆動機構60が載置されている。より具体的には、ベース20の上面の中央部には凹部が形成されており、当該凹部にその一部が収容されるように回転駆動機構60が配置されている。ベース20の上面のうち、上記凹部を取り囲む位置には、下部側第2ステータ30bが配置されており、さらに当該下部側第2ステータ30bを取り囲むようにベース20の上面の周縁部には、下部側第1ステータ30aが配置されている。
【0040】
回転駆動機構60は、カバー61と、回転軸62と、玉軸受63と、モータ65とを含んでおり、ロータ50を高速に回転させるものである。回転軸62は、その下端側の部分がカバー61の内部に位置しており、その上端側の部分が当該カバー61の外部に位置している。回転軸62のカバー61の内部に位置する部分には、玉軸受63およびモータ65が組付けられており、回転軸62のカバー61の外部に位置する部分には、ロータ50が固定されている。
【0041】
モータ65は、ロータ50が固定された回転軸62を回転駆動するものであり、玉軸受63は、回転軸62を回転可能に支承するものである。このうちモータ65が駆動することにより、回転軸62が回転することでロータ50が回転軸62の軸線AX周りに高速で回転することになる。なお、回転軸62を回転可能に支承する手段としては、上述した玉軸受63に代えて磁気軸受を用いてもよい。
【0042】
ロータ50は、上部側ロータ部51と下部側ロータ部52とを有しており、その下端の中央部が回転駆動機構60の回転軸62に固定されている。
【0043】
上部側ロータ部51は、上部側ステータ40によって囲繞されており、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置された複数のロータ側フィン部53Aを有している。複数のロータ側フィン部53Aは、ロータ50の軸部から径方向外側に向けて突出して位置している。また、上部側ロータ部51の軸部の上端位置には、ターゲット取付座51aが設けられている。当該ターゲット取付座51aには、ターゲット80が良好な伝熱状態(たとえば金属同士を密着させた状態等)で取付けられている。
【0044】
下部側ロータ部52は、下部側第1ステータ30aによって囲繞されており、上部側ロータ部51の下端から下方に向けて延設されている。下部側ロータ部52は、略円筒状の形状を有しており、下部側第1ステータ30aおよび下部側第2ステータ30bによって径方向において挟み込まれて位置している。
【0045】
下部側第1ステータ30aは、上述した下部側ロータ部52を囲繞する略円筒状の形状を有しており、上述したようにベース20の上面の周縁部上に配置されている。下部側第1ステータ30aは、その内周面が下部側ロータ部52の外周面に対向するように配置されている。
【0046】
下部側第2ステータ30bは、上述した下部側ロータ部52によって囲繞された略円筒状の形状を有しており、上述したようにベース20の上面の所定位置に配置されている。下部側第2ステータ30bは、その外周面が下部側ロータ部52の内周面に対向するように配置されている。
【0047】
下部側ロータ部52の外周面に対向する部分の下部側第1ステータ30aの内周面には、雌ネジ形状の1次側ネジ溝部31が設けられている。一方、下部側ロータ部52の内周面に対向する部分の下部側第2ステータ30bの外周面には、雄ネジ形状の2次側ネジ溝部32が設けられている。
【0048】
これにより、下部側ロータ部52、下部側第1ステータ30aおよび下部側第2ステータ30bによってネジ溝真空ポンプAが構成されることになり、排気経路70上に排気機能を有する非接触シール部が形成されることになる。
【0049】
上部側ステータ40は、略円筒状の形状を有しており、下部側第1ステータ30a上に配置されることで上部側ロータ部51を囲繞するように位置している。上部側ステータ40は、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置された複数のステータ側フィン部43Aを有している。複数のステータ側フィン部43Aは、上部側ステータ40の筒状部の内周面からそれぞれ径方向内側に向けて突出して位置している。
【0050】
また、上部側ステータ40は、その上端部に上述した吸気ポート41を有しているとともに、当該吸気ポート41を取り囲む部分の上部側ステータ40には、ターゲットマウント10Aをチャンバ2に接続するためのフランジ状の接続部42が設けられている。
【0051】
ここで、ロータ50の上部側ロータ部51に設けられた複数のロータ側フィン部53Aと、上部側ステータ40に設けられた複数のステータ側フィン部43Aとは、互いに隙間を介して回転軸62の軸線AXと平行な方向において対向するように交互に配置されている。これにより、複数のロータ側フィン部53Aと複数のステータ側フィン部43Aとは、互いに所定のクリアランスをもって配置されることになり、上部側ロータ部51と上部側ステータ40とが、互いに噛み合う櫛歯構造を有することになる。
【0052】
上部側ステータ40の外周面上には、液冷式冷却機構としての冷却管44およびこれを覆うジャケット45が組付けられている。当該液冷式冷却機構は、冷却管44中に冷却液を流通させることにより、当該冷却液によって上部側ステータ40が有する熱を外部に向けて放熱するためのものである。なお、当該液冷式冷却機構を含む、本実施の形態におけるターゲットマウント10Aに付設された放熱機構の詳細については、後述することとする。
【0053】
上述したように、本実施の形態におけるターゲットマウント10Aにおいては、上部側ステータ40に設けられた吸気ポート41とベース20に設けられた排気ポート21とを接続するように、当該ターゲットマウント10Aの内部に排気経路70が形成されている。具体的には、排気経路70は、上部側ステータ40と上部側ロータ部51との間の隙間や、下部側第1ステータ30aと下部側ロータ部52との間の隙間、下部側第2ステータ30bと下部側ロータ部52との間の隙間、下部側第2ステータ30bの内側の空間、ベース20内に設けられた経路等によって構成されている。
【0054】
このうち、上述したように下部側ロータ部52、下部側第1ステータ30aおよび下部側第2ステータ30bによってネジ溝真空ポンプAが構成されているため、当該排気経路70上には、排気機能を有する非接触シール部が形成されることになり、当該非接触シール部によってチャンバ2内の空間が多くのガス発生源を有する回転駆動機構部から気密に封止されることになる。これにより、チャンバ2内が高真空状態に維持されることになる。
【0055】
なお、ベース20と下部側第1ステータ30aとの間、下部側第1ステータ30aと上部側ステータ40との間等には、それぞれOリング等のシール部材が介装されている。これにより、吸気ポート41から排気ポート21に至る排気経路70の気密性が確保されることにより、排気経路70を形成する各部材間における漏気の発生が防止できることになる。また、ベース20と排気管22との間にも必要に応じてOリング等のシール部材が介装される。
【0056】
ここで、
図3に示すように、本実施の形態におけるターゲットマウント10Aにおいては、ロータ50の上部側ロータ部51に設けられた複数のロータ側フィン部53Aが、金属製の基材部53aと、当該基材部53aの表面を覆うように形成された被覆層53bとを有しているとともに、上部側ステータ40に設けられた複数のステータ側フィン部43Aが、金属製の基材部43aと、当該基材部43aの表面を覆うように形成された被覆層43bとを有している。
【0057】
これにより、本実施の形態におけるターゲットマウント10Aにおいては、複数のロータ側フィン部53Aおよび複数のステータ側フィン部43Aが対向する部分において、これら複数のロータ側フィン部53Aおよび複数のステータ側フィン部43Aの表面に設けられた被覆層43b,53b同士が排気経路70を介して対面して位置することになる。
【0058】
これら被覆層43b,53bは、金属製の基材部43a,53aに比較して高い放射率を有しており、上部側ロータ部51から上部側ステータ40への放射による熱の移動を促進させるものである。
【0059】
一般に、熱の移動は、熱伝導と、対流熱伝達と、放射とに分類される。熱伝導および対流熱伝達は、媒質の分子や自由電子の衝突による運動量変換によるエネルギー伝達であるのに対し、放射は、物質表面から放出される電磁波によるエネルギー伝達である点において熱伝導および対流熱伝達と区別される。
【0060】
たとえば、上述した基材部43a,53aをアルミニウム合金製とし、上述した被覆層43b,53bをセラミック層の一種である黒色アルマイト層とした場合には、被覆層43b,53bの放射率を基材部43a,53aよりも高い放射率とすることができる。その場合、たとえば、アルミニウム合金表面(切削面)の温度120[℃]での放射率(全放射率)は、概ね0.1以下であるのに対し、黒色アルマイト層表面の温度120[℃]での放射率(全放射率)は、概ね0.7以上となる。そのため、ロータ側フィン部53Aおよびステータ側フィン部43Aを金属素地のままとするよりも、より放射率の高い材料にて被覆することにより、放射による放熱性能を大幅に高めることができる。
【0061】
この種の放射率の高い被覆層43b,53bを基材部43a,53a上に形成する方法としては、種々の方法が考えられる。たとえば、基材部43a,53aをアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成した場合には、アルマイト処理を適用することが可能である。ここで、アルマイト処理とは、陽極酸化処理と呼ばれる表面処理の一種で、表面処理を行なう部材(ここでは、基材部43a,53a)を陽極とし、鉛等を陰極として電解質溶液中に浸漬して直流電解する処理のことである。当該処理により、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された基材部43a,53aの表面には、アルミナ(Al
2O
3)からなる酸化被膜が形成されることになり、当該酸化被膜が上述した被覆層43b,53bとなる。なお、アルミナからなる酸化被膜に含まれる多孔質層中にたとえばニッケル等を電気化学的に析出させることにより、被覆層を黒色とすることができ、このアルマイト処理のことを特に黒色アルマイト処理と言う。
【0062】
また、この他にも、基材部43a,53aの表面に他のセラミックス層(たとえばSiO
2系のセラミックコーティング層)を形成することにより、当該セラミック層にて上述した被覆層43b,53bを構成することも可能である。また、基材部43a,53aの表面に黒色の無電解ニッケルめっき層を形成することにより、当該無電解ニッケルめっき層にて上述した被覆層43b,53bを構成することも可能である。さらには、基材部43a,53aの表面にセラミック複合めっき層を形成したり、カーボンやニッケルクロム鋼等の被膜を形成したりすることにより、これらの層または被膜にて上述した被覆層43b,53bを構成することも可能である。
【0063】
以上において説明した本実施の形態におけるX線光電子分光分析装置1およびこれに具備されたターゲットマウント10Aにおいては、ターゲット80にて発生した熱が熱伝導によってロータ50のロータ側フィン部53Aに伝熱され、その後、放射によってロータ側フィン部53Aからステータ側フィン部43Aに伝熱され、さらにその後、当該ステータ側フィン部43Aに伝熱された熱が上部側ステータ40に組付けられた冷却管44中を通流する冷却液に伝熱されて外部に放熱されることになる。
【0064】
ここで、本実施の形態においては、回転軸62の軸線と平行な方向においてロータ側フィン部53Aおよびステータ側フィン部43Aが交互に多段に積層されており、上述した被覆層43b,53bは、これら複数のロータ側フィン部53Aおよびステータ側フィン部43Aの表面の全域に設けられている。これにより、円盤状のロータを一対のステータにて挟み込む構成とした場合に比べ、ロータ側フィン部53Aとステータ側フィン部43Aとが対向する領域の面積を大幅に増加させることができるため、ロータ側フィン部53Aからステータ側フィン部43Aに放射により伝熱される熱量を大幅に増加させることが可能になり、より効率的にロータ側フィン部53Aが有する熱をステータ側フィン部43Aに伝熱することができる。そのため、ロータ50に取付けられたターゲット80をより効果的に冷却することができる。
【0065】
また、本実施の形態においては、ロータ50に冷却液を供給する構成ではないため、ロータ50を十分に高速に回転させることもできる。そのため、この点においてもターゲット80の温度上昇を十分に抑制することができる。
【0066】
したがって、本実施の形態におけるX線光電子分光分析装置1およびこれに具備されたターゲットマウント10Aとすることにより、従来に比してターゲット80の冷却効率を大幅に高めることが可能になり、強力なX線を持続的に発生させることができる程度にまでターゲット80の温度上昇を十分に抑制することが可能になる。また、ロータ側フィン部53Aとステータ側フィン部43Aとの積層数を増加させることにより、その放熱性能を容易に高めることもできる。したがって、ターゲット80における発熱量に応じてそれらの積層数を設定することにより、必要な放熱性能を簡便に得ることもできる。
【0067】
加えて、本実施の形態におけるX線光電子分光分析装置1およびこれに具備されたターゲットマウント10Aにおいては、チャンバ2と図示しない真空ポンプとを接続する排気経路70上に非接触シール部としてのネジ溝真空ポンプAが設けられた構成とされている。ここで、シーリングのための液体等からなるシール材を用いたシール構造(たとえば磁性流体を用いた磁気シール等)を採用した場合には、当該シール材が有する油分等が飛散してチャンバや排気経路の内壁に付着したり、ターゲットからの反跳電子によってボンバートされて気化することでチャンバ内の圧力上昇を生じさせたりするおそれがある。しかしながら、上記のようにネジ溝真空ポンプAをシール構造として採用することにより、このような問題が生じることがなく、チャンバ2や排気経路70の汚染およびチャンバ2内の圧力上昇といった問題の発生を未然に防止することができる。なお、これらの問題の発生を未然に防止することができる非接触シール部としては、上述した排気機能を有するネジ溝真空ポンプA以外にも、排気機能を有さないラビリンスシールが利用できる。
【0068】
また、上述した本実施の形態におけるX線光電子分光分析装置1およびこれに具備されたターゲットマウント10Aにおいては、ロータ50を回転させるための回転駆動機構60が、回転軸62の軸線に沿ってロータ50をターゲット80との間で挟み込む位置に配設されている。このように構成した場合には、回転駆動機構60とロータ50との間に配置された部材(たとえば、回転軸62に装着されるスペーサやスリーブならびに下部側第2ステータ30b等)が、重金属(たとえば真鍮等)にて構成されていることが好ましい。このように構成した場合には、回転駆動機構60に含まれる玉軸受63やモータ65等にX線が照射されてしまうことが抑制でき、これら部品の劣化を抑制することができる。
【0069】
また、上述した本実施の形態におけるX線光電子分光分析装置1およびこれに具備されたターゲットマウント10Aにおいては、回転駆動機構60に含まれる玉軸受63の潤滑剤としてイオン液体を基油とするグリースを用いることが好ましい。このイオン液体を基油とするグリースは、蒸気圧が他の潤滑剤に比較して低い特徴を有している。そのため、回転駆動機構60に含まれる玉軸受63の潤滑剤としてイオン液体を基油とするグリースを用いることにより、チャンバ2や排気経路70の汚染およびチャンバ2内の圧力上昇といった問題の発生を未然に防止することができる。
【0070】
さらには、上述した本実施の形態におけるX線光電子分光分析装置1およびこれに具備されたターゲットマウント10Aにおいては、多段に配置された複数のロータ側フィン部53Aおよびステータ側フィン部43Aの表面の全域を被覆層53b,43bによって覆った場合を例示して説明を行なったが、これら多段に配置された複数のロータ側フィン部およびステータ側フィン部のうち、接続ポートである吸気ポートが位置する側において最も外側に配置された最外側フィン部については、当該最外側フィン部の当該ターゲットマウントの外部に露出する露出表面が、被覆層によって覆われておらず、基材部が露出した状態とされていることが好ましい。すなわち、
図2を参照して、多段に配置された複数のロータ側フィン部53Aおよびステータ側フィン部43Aのうち、チャンバ2側において最も外側に配置された最外側フィン部Cについては、当該最外側フィン部Cのチャンバ2側の表面cが、被覆層53b(
図3参照)によって覆われておらず、基材部53a(
図3参照)が露出した状態とされていることが好ましい。
【0071】
このように構成した場合には、最外側フィン部Cに伝熱した熱が、当該露出表面cを介してチャンバ2側に向けて積極的に放射されることが回避でき、チャンバ2側に設置された各種の機器や部材(たとえば、光電子分析管5や電子線源3、コリメータ4、試料100等)に当該熱が伝熱されてこれら機器や部材が加熱されてしまうことが抑制できる。したがって、当該構成を採用することにより、X線光電子分光分析装置1に含まれるターゲットマウント1A以外の機器や部材への悪影響についても、これを十分に防止することができる。
【0072】
ここで、上述したターゲットマウント以外の機器や部材への悪影響を防止する観点からは、最もチャンバ側に位置する上記最外側フィン部をステータ側フィン部にて構成することが好ましい。これは、ロータ側フィン部の温度に比べてステータ側フィン部の温度が低いためであり、最外側フィン部をステータ側フィン部にて構成することにより、当該最外側フィン部からチャンバ側に向けて放射される赤外線の放射量が低減できるためである。なお、このように構成した場合の本実施の形態に基づいた変形例に係るターゲットマウント10A1の模式断面図を、
図4において図示している。
【0073】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2におけるターゲットマウントの模式断面図である。また、
図6は、
図5に示すターゲットマウントの静翼および動翼の拡大部分断面図である。ここで、
図6は、静翼および動翼の径方向における途中位置をそれらの軸方向と平行な方向に沿って切断して径方向外側から見た場合の切断面を示している。以下、これら
図5および
図6を参照して、本実施の形態におけるターゲットマウント10Bについて説明する。なお、本実施の形態におけるターゲットマウント10Bは、上述した実施の形態1において示したターゲットマウント10Aに代えて上述した実施の形態1におけるX線光電子分光分析装置1に具備され得るものである。
【0074】
図5および
図6に示すように、本実施の形態におけるターゲットマウント10Bは、上述した実施の形態1におけるターゲットマウント10Aと比較した場合に、ロータ50の上部側ロータ部51および上部側ステータ40の構成においてのみ相違している。
【0075】
具体的には、本実施の形態におけるターゲットマウント10Bにあっては、上部側ロータ部51が、
図2に示した如くの複数のロータ側フィン部53Aに代えて
図5および
図6に示す如くの複数の動翼53Bを有しており、上部側ステータ40が、
図2に示した如くの複数のステータ側フィン部43Aに代えて
図5および
図6に示す如くの複数の静翼43Bを有している。
【0076】
複数の動翼53Bは、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置されており、複数の動翼53Bの各々は、ロータ50の軸部から径方向外側に向けて突出して位置している。複数の動翼53Bの各々は、回転軸62の軸線AXに対して所定方向に傾斜するタービン翼を有している。なお、
図6中に示す矢印DRは、動翼53Bの回転方向を表わしている。
【0077】
複数の静翼43Bは、回転軸62の軸線AXと平行な方向において多段に配置されており、複数の静翼43Bの各々は、上部側ステータ40の筒状部の内周面からそれぞれ径方向内側に向けて突出して位置している。複数の静翼43Bの各々は、回転軸62の軸線AXに対して所定方向に傾斜するタービン翼を有している。ここで、当該複数の静翼43Bに形成されたタービン翼の傾斜する向きは、上述した複数の動翼53Bに形成されたタービン翼の傾斜する向きとは異なる向き(すなわち反対向きの傾斜方向)とされる。
【0078】
ここで、複数の動翼53Bと複数の静翼43Bとは、互いに隙間を介して回転軸62の軸線AXと平行な方向において対向するように交互に配置されている。これにより、複数の動翼53Bと複数の静翼43Bとは、互いに所定のクリアランスをもって配置されることになり、これにより上部側ロータ部51と上部側ステータ40とが、互いに噛み合う櫛歯構造を有することになる。
【0079】
上記構成は、換言すれば、
図2に示した如くの複数のロータ側フィン部53Aと複数のステータ側フィン部43Aとに互いに異なる向きに傾斜するタービン翼が形成された構成と言え、これにより、本実施の形態におけるターゲットマウント10Bにおいては、排気経路70上にターボ分子ポンプBが設けられることになる。
【0080】
ここで、
図6に示すように、本実施の形態におけるターゲットマウント10Bにおいては、ロータ50の上部側ロータ部51に設けられた複数の動翼53Bが、金属製の基材部53aと、当該基材部53aの表面を覆うように形成された被覆層53bとを有しているとともに、上部側ステータ40に設けられた複数の静翼43Bが、金属製の基材部43aと、当該基材部43aの表面を覆うように形成された被覆層43bとを有している。
【0081】
これにより、本実施の形態におけるターゲットマウント10Bにおいては、複数の動翼53Bおよび複数の静翼43Bが対向する部分において、これら複数の動翼53Bおよび複数の静翼43Bの表面に設けられた被覆層43b,53b同士が対面して位置することになる。
【0082】
これら被覆層43b,53bは、金属製の基材部43a,53aに比較して高い放射率を有しており、上部側ロータ部51から上部側ステータ40への放射による熱の移動を促進させるものである。
【0083】
このように構成された本実施の形態におけるターゲットマウント10Bおよびこれを備えたX線光電子分光分析装置においては、上述したターボ分子ポンプBの排気作用により、チャンバ2内をより高真空状態に維持することができる。そのため、上述した実施の形態1の場合と同様に、従来に比してターゲット80の冷却効率を大幅に高めることが可能になり、強力なX線を持続的に発生させることができる程度にまでターゲット80の温度上昇を十分に抑制することが可能になるばかりでなく、さらに電子線源に含まれるフィラメントの消耗をより効果的に抑制できる効果や、比較的放出ガスが発生し易いものを分析対象物である試料100とすることができる効果(これは、ターボ分子ポンプBの排気作用により、試料100から放出される放出ガスを速やかに排気することができるためである)が得られることになる。
【0084】
(検証シミュレーション)
以下においては、本発明の効果を確認するために行なった各種の検証シミュレーションについて説明する。
【0085】
<第1検証シミュレーション>
第1検証シミュレーションにおいては、ターゲットマウント内にロータに直接接触するように冷却液が循環する冷却経路が設けられてなるターゲットマウントにおけるターゲットの温度上昇の抑制に必要な動力を計算により算出し、本発明が適用されたターゲットマウントにおける必要な動力と比較した。ここで、ターゲットマウント内にロータに直接接触するように冷却液が循環する冷却経路が設けられてなるターゲットマウントの詳細な構成としては、冷却液として油を用い、ターゲットマウントの底部に油溜めと当該油溜めに貯留された油を外部から冷却する冷却機構を設けるとともに、当該油を汲み上げてロータの内面に吹きかけることでロータの熱を油に移動させ、流下した油を油溜めにて貯留することで冷却する前提とした。
【0086】
上記前提に立てば、ロータからの除熱量P[J/s]は、油の比熱c[J/kg・℃]、油の循環量m[kg/s]、および、油溜めから汲み上げられた時点からロータに付着してその後離脱する時点までの油の昇温幅ΔT[℃]を用いて、P=m×c×ΔT(式1)で表わすことができる。
【0087】
通常、冷却に用いられる油の比熱cは、2000[J/kg・℃]程度である。また、高速で回転しているロータに対する油の付着時間は非常に短時間であり、ロータに付着することで油がロータの温度にまで達することはなく、上記油の昇温幅ΔTは、実際にはロータの温度と油溜めにおける油の温度との差よりも小さいと考えられるが、ここでは最大限に熱の移動が生じると仮定し、ロータの温度を120[℃]に想定するとともに油溜めにおける油の温度を40[℃]に想定して、上記油の昇温幅ΔTを80[℃]に仮定した。さらに、ロータからの除熱量Pを200[W]に設定した。
【0088】
この場合、必要となる油の循環量mは、上記式1から算出でき、その値は、概ね0.00125[kg/s]となる。
【0089】
一方、油は、油溜め中における静止状態からロータに付着することで回転するまでに運動エネルギーを獲得することになり、当該油が単位時間あたりに獲得する運度エネルギーE[J/s]は、上述した油の循環量mと、ロータ内面の周速v[m/s]とを用いて、E=m×v
2/2(式2)で表わすことができる。
【0090】
ここで、吸気ポートの開口径を0.15[m]と仮定するとともにロータの内径を0.1[m]と仮定すると、このサイズのロータの回転速度は、一般的に560[rps]程度と考えられるため、上記ロータ内面の周速vは、v=0.1×π×560となり、その値は、概ね176[m/s]となる。
【0091】
この場合、上述した油が単位時間あたりに獲得する運度エネルギーEは、上記式2から算出でき、その値は、概ね19.4[W]となる。
【0092】
すなわち、以上の計算結果から、ターゲットマウント内にロータに直接接触するように冷却液が循環する冷却経路が設けられてなるターゲットマウントにおいては、ロータからの200[W]の除熱量を実現するために、ロータを回転駆動するために必要となる動力以外に油が獲得する運動エネルギーを相殺するために19.4[W]の動力の投入が別途必要となり、非常に大きな動力が必要になることが理解できる。ここで、当該動力は、ロータを回転駆動させるために必要となる動力(約10[W])の2倍近くに達する。
【0093】
これに対し、本発明が適用されたターゲットマウントにおいては、上述したように放射による伝熱によってロータの熱がステータに移動することになるため、ロータからの200[W]の除熱量を実現するために必要となる動力は、基本的にロータを回転駆動させるために必要となる動力(約10[W])で済むことになる。したがって、本発明が適用されたターゲットマウントとすることにより、少ない動力で高い放熱性能が得られる(すなわち、効率的に放熱を行なうことができる)ことになる。
【0094】
<第2検証シミュレーション>
第2検証シミュレーションにおいては、実施例としての本発明が適用されたターゲットマウントと、比較例としての本発明が適用されていないターゲットマウントとの間で、ターゲットの温度上昇の抑制に関する性能限界にどの程度の差が生じるかを計算した。
【0095】
ここで、実施例に係るターゲットマウントとしては、上述した実施の形態1において示した構成を基本的に有し、ロータ側フィン部およびステータ側フィン部の段数をそれぞれ13段に設定し、これらの内径および外径をそれぞれ24[mm]および105[mm]に設定し、これらロータ側フィン部の表面のほぼすべてとステータ側フィン部の表面のすべてとを高放射率の被覆層にて覆う構成とした。当該高放射率の被覆層としては、その表面温度が120[℃]である場合に放射率が0.9であるものに設定した。なお、ロータ側フィン部の表面のうち、これが被覆層にて覆われていない部分は、ロータ側フィン部の1つによって構成される最外側フィン部のチャンバ側の露出表面のみである(当該部分の放射率は、0.1に設定した)。
【0096】
一方、比較例に係るターゲットマウントとしては、動翼であるロータ側フィン部および静翼であるステータ側フィン部を備えたターボ分子ポンプをターゲットマウントに転用し、ロータ側フィン部(動翼)およびステータ側フィン部(静翼)の段数をそれぞれ8段に設定し、これらの内径および外径をそれぞれ24[mm]および105[mm]に設定した。また、ロータ側フィン部(動翼)およびステータ側フィン部(静翼)の表面を被覆層にて覆うことなく金属素地が露出した状態とし(当該部分の放射率は、0.1に設定した)、代わりに高放射率の被覆層にてその表面が覆われた直径が200[mm]の円盤状の台座をロータの軸部の最上部に取付け、当該台座にターゲットを取付けた構成とした。当該高放射率の被覆層としては、その表面温度が120[℃]である場合に放射率が0.9であるものに設定した。
【0097】
また、実施例および比較例に係るターゲットマウントのいずれにおいても、ロータの回転速度は48000[rpm]に設定し、ロータは、アルミニウム合金製とした。
【0098】
なお、当該アルミニウム合金からなるロータは、そのクリープ寿命から使用許容温度の上限は、一般に120℃である。そのため、本第2検証シミュレーションにおいては、定常運転時におけるターゲットからロータへの入熱量とロータの温度との関係をシミュレーションすることとし、ロータの温度が120℃に達してしまうロータへの入熱量をターゲットの温度上昇の抑制に関する性能限界(すなわち限界入熱量)とした。
【0099】
図7は、本第2検証シミュレーションにおいて模擬設計した実施例および比較例に係るターゲットマウントの諸元を示す表である。上述した実施例および比較例に係るターゲットマウントのより詳細な構成は、
図7に記載したとおりである。
【0100】
図8は、本第2検証シミュレーションの結果を示すグラフである。
図8から理解されるように、比較例に係るターゲットマウントにおいては、ターゲットからロータへの限界入熱量が30[W]程度であるのに対し、実施例に係るターゲットマウントにおいては、ターゲットからロータへの限界入熱量が190[W]程度にまで6倍以上に向上している。これは、実施例に係るターゲットマウントにおいて、比較例に係るターゲットマウントよりも、ロータ側フィン部とステータ側フィン部との間における高放射率表面の対向面積が大幅に増加していることがその要因と考察される。
【0101】
上記結果から明らかなように、本発明によれば、強力なX線を持続的に発生させることができる程度にまでターゲットの温度上昇を十分に抑制することができる高い放熱性能が実現されたX線発生装置用ターゲットマウントおよびこれを備えたX線発生装置とすることができることが理解できる。
【0102】
(その他の構成例)
上述した本発明の実施の形態1,2およびその変形例においては、本発明が適用されたX線発生装置およびX線発生装置用ターゲットマウントとして、X線光電子分光分析装置およびこれに具備されるターゲットマウントを例示して説明を行なったが、本発明の適用対象はこれに限られるものではなく、他のX線発生装置およびこれに具備されるX線発生装置用ターゲットマウントにも当然に本発明の適用が可能である。ここで、チャンバ外にX線を放射する構成のX線発生装置においては、チャンバの一部にX線放射用の透過窓が形成されることになるが、その場合に上述した本発明の実施の形態1,2およびその変形例において説明した如くの、シーリングのための液体等からなるシール材を用いないターゲットマウントを利用することとすれば、チャンバや排気経路の汚染が防止されることに関連して、X線放射用の透過窓に当該シール材が有する油分が付着して透過率が低下することもないため、高性能のX線発生装置とすることができる。
【0103】
また、上述した本発明の実施の形態1,2およびその変形例においては、真空ポンプがターゲットマウントを介してチャンバに接続されてなるX線発生装置およびこれに具備されるターゲットマウントに本発明を適用した場合を例示して説明を行なったが、本発明の適用対象はこれに限られるものではなく、チャンバに個別に真空ポンプとターゲットマウントとが接続されてなるX線発生装置およびこれに具備されるターゲットマウントに本発明を適用することも当然に可能である。その場合には、ターゲットマウントに排気ポートを設ける必要がなくなるため、これに応じてターゲットマウントに非接触シール部や分子ポンプ等を設けることも必要なくなる。
【0104】
また、上述した本発明の実施の形態1,2およびその変形例においては、複数のロータ側フィン部および複数のステータ側フィン部のうち、これらが対向する部分のすべての表面の全域、あるいは、複数の動翼および複数の静翼のうち、これらが対向する部分のすべての表面の全域に高放射率の被覆層を形成した場合を例示して説明を行なったが、必ずしもこのように構成されている必要はなく、少なくとも複数のロータ側フィン部および複数のステータ側フィン部が対向する部分にわたってそれらの表面の少なくとも一部に高放射率の被覆層が設けられるか、あるいは、複数の動翼および複数の静翼が対向する部分にわたってそれらの表面の少なくとも一部に高放射率の被覆層が設けられていれば、相当程度の放熱性能の向上が見込まれる。
【0105】
加えて、上述した本発明の実施の形態1,2およびその変形例において示した個々の特徴的な構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、当然にそれらを組み合わせることができる。
【0106】
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。