(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6558960
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】レーザ光合成分岐装置及びレーザ測定装置
(51)【国際特許分類】
G01P 3/36 20060101AFI20190805BHJP
G02B 6/32 20060101ALI20190805BHJP
G02B 6/293 20060101ALI20190805BHJP
G02B 6/287 20060101ALI20190805BHJP
G02B 6/27 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
G01P3/36 E
G02B6/32
G02B6/293
G02B6/287
G02B6/27
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-112279(P2015-112279)
(22)【出願日】2015年6月2日
(65)【公開番号】特開2016-223973(P2016-223973A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】大島 良太
【審査官】
岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−72141(JP,A)
【文献】
特開平11−230712(JP,A)
【文献】
特開平8−21849(JP,A)
【文献】
特開昭60−36910(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0035111(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101614878(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00− 3/80
G01B 9/00−11/30
G01S17/00−17/95
G02B 6/00− 6/54
G02B27/00−27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる波長のレーザ光を合成し分岐するレーザ光合成分岐装置であって、
波長が第1の波長のレーザ光である第1レーザ光を出射する第1レーザ光源と、
波長が前記第1の波長と異なる第2の波長のレーザ光である第2レーザ光を出射する第2レーザ光源と、
前記第1レーザ光源が出射した第1レーザ光と前記第2レーザ光源が出射した第2レーザ光が導入され、導入された第1レーザ光と第2レーザ光とを波長合成した合成光を出射するファイバ型WDM光カプラと、
前記ファイバ型WDM光カプラから出射された合成光が入射され、直線偏光の合成光を出射する偏光装置と、
前記偏光装置から出射された直線偏光の合成光を、当該分岐用ビームスプリッタにとってのp偏光の合成光と、当該分岐用ビームスプリッタにとってのs偏光の合成光とに分岐する偏光ビームスプリッタである分岐用ビームスプリッタとを有し、
前記偏光装置は、基体と、前記基体に固定された、前記ファイバ型WDM光カプラの前記合成光の出射端を少なくとも固定する固定部と、前記基体に固定された、前記出射端より出射された前記合成光を平行光に変換するコリメータレンズと、前記基体に固定された、前記コリメータレンズが平行光に変換した前記合成光の、前記基体に対して定まる所定の方向の偏光成分を抽出し、抽出した偏光成分よりなる直線偏光の合成光を、前記分岐用ビームスプリッタに出射する偏光素子とを備え、
前記偏光装置は、前記偏光素子が出射する前記直線偏光の合成光の偏光方向が、前記分岐用ビームスプリッタにとってのp偏光の偏光方向とs偏光の偏光方向のそれぞれに対して、前記分岐用ビームスプリッタの合成光の分岐比に応じた角度傾くように配置されていることを特徴とするレーザ光合成分岐装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ光合成分岐装置であって、
前記第1レーザ光源は、直線偏光の第1レーザ光を出射し、
前記第2レーザ光源は、直線偏光の第2レーザ光を出射し、
前記ファイバ型WDM光カプラは、偏波保持型のファイバ型WDM光カプラであって、当該ファイバ型WDM光カプラには、直線偏光の偏光方向が揃えられた形態で第1レーザ光と第2レーザ光とが導入され、
前記偏光素子は、前記固定部に固定された前記ファイバ型WDM光カプラの出射端から出射される前記合成光中の第1レーザ光と第2レーザ光の前記ファイバ型WDM光カプラによって偏波保持された偏光方向の偏光成分を抽出し、抽出した偏光成分よりなる直線偏光の合成光を出射するように配置されていることを特徴とするレーザ光合成分岐装置。
【請求項3】
請求項2記載のレーザ光合成分岐装置であって、
前記偏光素子は、偏光ビームスプリッタであり、
当該偏光素子は、前記コリメータレンズが平行光に変換した前記合成光の、当該偏光素子にとってのp偏光の成分のみを透過して、前記直線偏光の合成光として前記分岐用ビームスプリッタに出射することを特徴とするレーザ光合成分岐装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のレーザ光合成分岐装置であって、
前記第1レーザ光の第1の波長は可視領域外の波長であり、
前記第2レーザ光の第1の波長は可視領域内の波長であることを特徴とするレーザ光合成分岐装置。
【請求項5】
請求項4記載のレーザ光合成分岐装置であって、
前記第1レーザ光の第1の波長は1400nm以上2600nm以下であることを特徴とするレーザ光合成分岐装置。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載のレーザ光合成分岐装置と、当該レーザ光合成分岐装置の前記分岐用ビームスプリッタで分岐された合成光を、被測定体に照射し当該被測定体の計測を行う計測手段とを有することを特徴とするレーザ測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐したレーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置等において、レーザ光の合成と分岐を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分岐したレーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置としては、レーザ光源から出射されたレーザ光を二つのレーザ光に分岐し、分岐した二つのレーザ光を異なる方向から被測定物に照射し、被測定物による二つのレーザ光の反射光に含まれるビート信号の周波数より被測定物の速度を測定するレーザ速度計(たとえば、特許文献1)や、レーザ光源から出射されたレーザ光を測定光と参照光に分岐し、測定対象物で反射した測定光と、音響光学素子(AOM)を用いて周波数をシフトした参照光との合成光に含まれるビート信号の周波数より測定対象物の振動や速度や変位を測定するレーザドップラ振動計(たとえば、特許文献2)が知られている。
【0003】
また、赤外光を用いて距離を計測する光学式距離計において、赤外光に可視光を波長合成器で合成して測定対象物に出射することにより、測定対象物上の赤外光の照射箇所を可視光により視認可能とする技術も知られている(たとえば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-52280号公報
【特許文献2】特開2001-159561号公報
【特許文献3】特開2005-098835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分岐したレーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置において、測定に用いるレーザ光として、人間の目に対する安全性が高いアイセーフレーザ(波長1400nmから2600nmのレーザ)と呼ばれる近赤外のレーザ光を用いつつ、不可視光である近赤外のレーザ光の照射位置を視認できるように、可視光のレーザ光を近赤外のレーザ光に同軸状に合成して出射することが考えられる。
【0006】
しかし、このような可視光のレーザ光と近赤外のレーザ光との合成を、分岐した二つの近赤外のレーザ光のそれぞれに可視光のレーザ光を合成する構成により実現する場合には、近赤外のレーザ光と分岐した近赤外のレーザ光の二つのそれぞれについて可視光のレーザ光を合成する構成を設ける必要が生じる。
【0007】
したがって、可視光のレーザ光と近赤外のレーザ光との合成は、分岐する前の近赤外のレーザ光に可視光のレーザ光を合成することにより行い、その後に近赤外のレーザ光と可視光のレーザ光との合成光を分岐することが好ましい。
【0008】
そして、この場合には、レーザ測定装置には、近赤外のレーザ光と可視光のレーザ光とを合成する構成に加え、近赤外のレーザ光と可視光のレーザ光との合成光を、所定の分岐比で分岐する構成を備える必要がある。すなわち、たとえば、分岐した合成光のうちの一方のみをAOMなどの減衰を伴う素子を通過させた上で測定に用いる場合に、二つの合成光の強度を等しくするためには、当該素子における減衰分、当該素子を通過する合成光の強度が大きくなるように、合成光の分岐比を設定する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、不可視光のレーザ光と可視光のレーザ光との合成と分岐を、簡易かつ分岐比の設定が容易な構成で実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題達成のために、本発明は、異なる波長のレーザ光を合成し分岐するレーザ光合成分岐装置に、波長が第1の波長のレーザ光である第1レーザ光を出射する第1レーザ光源と、波長が前記第1の波長と異なる第2の波長のレーザ光である第2レーザ光を出射する第2レーザ光源と、前記第1レーザ光源が出射した第1レーザ光と前記第2レーザ光源が出射した第2レーザ光が導入され、導入された第1レーザ光と第2レーザ光とを波長合成した合成光を出射するファイバ型WDM光カプラと、前記ファイバ型WDM光カプラから出射された合成光が入射され、直線偏光の合成光を出射する偏光装置と、前記偏光装置から出射された直線偏光の合成光を、当該分岐用ビームスプリッタにとってのp偏光の合成光と、当該分岐用ビームスプリッタにとってのs偏光の合成光とに分岐する偏光ビームスプリッタである分岐用ビームスプリッタとを備えたものである。ただし、前記偏光装置は、基体と、前記基体に固定された、前記ファイバ型WDM光カプラの前記合成光の出射端を少なくとも固定する固定部と、前記基体に固定された、前記出射端より出射された前記合成光を平行光に変換するコリメータレンズと、前記基体に固定された、前記コリメータレンズが平行光に変換した前記合成光の、前記基体に対して定まる所定の方向の偏光成分を抽出し、抽出した偏光成分よりなる直線偏光の合成光を、前記分岐用ビームスプリッタに出射する偏光素子とを備えている。また、前記偏光装置は、前記偏光素子が出射する前記直線偏光の合成光の偏光方向が、前記分岐用ビームスプリッタにとってのp偏光の偏光方向とs偏光の偏光方向のそれぞれに対して、前記分岐用ビームスプリッタの合成光の分岐比に応じた角度傾くように配置されている。
【0011】
ここで、偏光素子が出射する前記直線偏光の合成光の偏光方向は偏光装置の傾きに追従して分岐用ビームスプリッタにとってのp偏光の偏光方向とs偏光の偏光方向のそれぞれに対して傾く。
【0012】
よって、このようなレーザ光合成分岐装置によれば、第1レーザ光と第2レーザ光を合成した合成光の分岐用ビームスプリッタにおける合成光の分岐比を、偏光装置のみを、所望の分岐比に応じて、分岐用ビームスプリッタに対して傾けて配置するだけで、容易に設定することができる。
【0013】
ここで、このようなレーザ光合成分岐装置は、前記第1レーザ光源は、直線偏光の第1レーザ光を出射し、前記第2レーザ光源は、直線偏光の第2レーザ光を出射し、前記ファイバ型WDM光カプラは、偏波保持型のファイバ型WDM光カプラであって、当該ファイバ型WDM光カプラには、直線偏光の偏光方向が揃えられた形態で第1レーザ光と第2レーザ光とが導入され、前記偏光素子は、前記固定部に固定された前記ファイバ型WDM光カプラの出射端から出射される前記合成光中の第1レーザ光と第2レーザ光の前記ファイバ型WDM光カプラによって偏波保持された偏光方向の偏光成分を抽出し、抽出した偏光成分よりなる直線偏光の合成光を出射するように配置されているものであってもよい。また、この場合には、前記偏光素子として、偏光ビームスプリッタを用い、当該偏光素子において、前記コリメータレンズが平行光に変換した前記合成光の、当該偏光素子にとってのp偏光の成分のみを透過して、前記直線偏光の合成光として前記分岐用ビームスプリッタに出射するようにしてもよい。
【0014】
このようにすることにより、ファイバ型WDM光カプラ内でのクロストークの温度変化等に伴う変動に起因する、分岐用ビームスプリッタで分岐した各合成光の変動を抑制することができる。また、第1レーザ光源から出射された第1レーザ光の直線偏光の成分と、第2レーザ光源から出射された第2レーザ光の直線偏光の成分が、そのまま分岐用ビームスプリッタまで伝達されるので、分岐比の設定のために第1レーザ光や第2レーザ光が大きく減衰することもない。
【0015】
ここで、以上のレーザ光合成分岐装置において、前記第1レーザ光の第1の波長は可視領域外の波長であり、前記第2レーザ光の第1の波長は可視領域内の波長であってもよい。また、この場合、第1レーザ光の第1の波長は1400nm以上2600nm以下とすることも好ましい。
また、本発明は、以上のレーザ光合成分岐装置と、当該レーザ光合成分岐装置の分岐用ビームスプリッタで分岐された合成光を、非測定体に照射し非測定体の計測を行う計測手段とを備えたレーザ測定装置も提供する。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、不可視光のレーザ光と可視光のレーザ光との合成と分岐を、簡易かつ分岐比の設定が容易な構成で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザドップラ速度計の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るファイバ型WDM光カプラの構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る偏光装置の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る偏光用PBSの周波数ゲイン特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、ドップラ速度計への適用を例にとり説明する。
図1に、本実施形態に係るレーザドップラ速度計の構成を示す。
図示するように、レーザドップラ速度計は、測定用レーザ光源1、照準用レーザ光源2、ファイバ型WDM光カプラ3、偏光装置4、PBS(偏光ビームスプリッタ)5、AOM(音響光学素子)6、ミラー7、対物レンズ8、光検出器9、計測装置10を備えている。
【0019】
ここで、測定用レーザ光源1は、計測装置10によって駆動され、直線偏光の近赤外レーザ光を測定光として出射する。測定用レーザ光源1が出射する近赤外レーザ光の波長としては、1400nmから2600nmまでのアイセーフレーザと呼ばれるレーザの波長範囲の波長を用いる。以下では、測定光として波長1550nmの近赤外レーザを用いるものとして説明を行う。
【0020】
また、照準用レーザ光源2は、計測装置10によって駆動され、直線偏光の可視レーザ光を照準光として出射する。以下では、照準光として波長635nmの赤色のレーザを用いるものとして説明を行う。
【0021】
測定用レーザ光源1から出射された測定光は、波長1550nm用の偏波保持光ファイバ11によってファイバ型WDM光カプラ3に導入され、照準用レーザ光源2から出射された照準光は、波長635nm用の偏波保持光ファイバ21によってファイバ型WDM光カプラ3に導入される。ここで、ファイバ型WDM光カプラ3に、偏波保持光ファイバ11と偏波保持光ファイバ21とから、測定光と照準光を同じ偏光方向に揃えられた状態で導入されるように、測定用レーザ光源1と偏波保持光ファイバ11、照準用レーザ光源2と偏波保持光ファイバ21、偏波保持光ファイバ11とファイバ型WDM光カプラ3、偏波保持光ファイバ21とファイバ型WDM光カプラ3は結合されている。
【0022】
次に、ファイバ型WDM光カプラ3は、偏波保持型のファイバ型WDM光カプラ3であり、偏光方向を維持したまま、導入された測定光と照準光とを同軸状に波長合成し、波長合成した光を合成光として偏光装置4に出射する。
【0023】
偏光装置4は、ファイバ型WDM光カプラ3から入射する合成光を、所定の偏光方向の直線偏光の平行光束に変換してPBS5に出射する。
PBS5は、偏光装置4から入射する合成光を分岐し、分岐した一方の合成光である第1分岐合成光を被測定物100に照射し、分岐した他方の合成光である第2分岐合成光をAOM6に出射する。より具体的には、偏光ビームスプリッタであるPBS5は、偏光装置4から入射する合成光のp偏光の成分を透過し第1分岐合成光として被測定物100に照射し、偏光装置4から入射する合成光のs偏光の成分を反射し第2分岐合成光としてAOM6に出射する。
【0024】
次に、AOM6は、計測装置10から入力する所定周波数fsの駆動信号で駆動される。そして、AOM6は、PBS5から入射する第2分岐合成光をミラー7に向けて出射する。また、このとき、AOM6は、第2分岐合成光の測定光を周波数fsシフトする。
【0025】
そして、ミラー7は、AOM6から入射する第2分岐合成光を反射し被測定物100に照射する。
ここで、PBS5から出射された第1分岐合成光とミラー7から出射された第2分岐合成光は、被測定物100の同じ領域を照射する。また、PBS5から出射された第1分岐合成光は、被測定物100の移動方向と垂直な方向から被測定物100の正の移動方向にθ傾けた方向から被測定物100を照射し、ミラー7から出射された第2分岐合成光は、被測定物100の移動方向と垂直な方向から被測定物100の負の移動方向にθ傾けた方向から被測定物100を照射する。なお、移動方向の正負は、測定の目的に応じて任意に設定してよい。
【0026】
したがって、第1分岐合成光の測定光と第2分岐合成光の測定光が照射されている領域には、第1分岐合成光の照準光と第2分岐合成光の照準光による可視の光スポットも形成される。
【0027】
次に、対物レンズ8は、被測定物100で散乱された第1分岐合成光と第2分岐合成光の散乱光を光検出器9に集光し、光検出器9は集光された散乱光の測定光の成分を光電変換し、測定光の成分の強度を表す検出信号を計測装置10に出力する。
【0028】
ここで、第1分岐合成光の測定光の散乱光の周波数と第2分岐合成光の測定光の散乱光の周波数には、被測定物100の移動速度に応じた大きさのドップラーシフトが生じており、光検出器9が出力する検出信号には、ドップラーシフトの大きさと、AOM6における測定光のシフト周波数fsとに応じた周波数のビートが生じている。
【0029】
そこで、計測装置10は、光検出器9から出力された検出信号のビート周波数を計測し、計測したビート周波数と、シフト周波数fsとに基づいて、被測定物100の移動速度vと移動方向を算定する。
【0030】
次に、
図2にファイバ型WDM光カプラ3の構成を示す。
図示するように、ファイバ型WDM光カプラ3は、二本の波長1550nm用の偏波保持光ファイバ(PANDAファイバ)31、32を溶融延伸して中央部で融着延伸した波長1550nm用の偏波保持型のファイバ型WDM光カプラ3であり、二本の偏波保持光ファイバの入力側端にはそれぞれ光コネクタ33、34が設けられており、各光コネクタ33、34には、測定用レーザ光源1から出射された測定光を伝送する偏波保持光ファイバ11と、照準用レーザ光源2から出射された測定光を伝送する偏波保持光ファイバ21が、それぞれ接続される。なお、波長1550nm用の偏波保持光ファイバとは、波長1550nmの光に対して低損失となる偏波保持光ファイバである。
【0031】
また、融着延伸した二本の偏波保持光ファイバ31、32のうちの一方の偏波保持光ファイバ32の出力側端は終端されており、他方の偏波保持光ファイバ31の出力側端には出力端子35が接続されている。
【0032】
そして、このようなファイバ型WDM光カプラ3において、二本の偏波保持光ファイバ31、32の入力側端から偏波保持光ファイバ31、32に導入された直線偏光の測定光と照準光は、二本の偏波保持光ファイバ31、32の中央の融着延伸部で結合して合成光に波長合成され、直線偏光の合成光が出力端子35から出射される。なお、出力端子35から出射される合成光の直線偏光の方向は、偏波保持光ファイバ311の出力端子35側の端部の向き/回転角に対して定まる。
【0033】
ここで、以上のように、ファイバ型WDM光カプラ3を波長1550nm用の偏波保持光ファイバを用いて形成しているので、波長635nmの照準光は比較的大きく減衰しながらファイバ型WDM光カプラ3内を伝送されることとなるが、ある程度の距離は偏光方向を維持したまま伝送されるので、波長635nmの照準光と波長1550nmの測定光との波長合成は実現できる。
【0034】
また、照準光は速度の測定精度には関わらず、照準光の出射レベルは、測定光の照射位置に視認できる光スポットを形成できるレベルであれば足りる。よって、ファイバ型WDM光カプラ3における照準光の減衰は実用上問題とはならない。
【0035】
次に、
図3に偏光装置4の構成について説明する。
図3aに偏光装置4の構成を示す。
図示するように、偏光装置4は、基板41上に、ファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35を装着し固定する固定部42、コリメータレンズ43、偏光用PBS44を固定配置したものである。
【0036】
コリメータレンズ43は、固定部42に固定されたファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35から入射する合成光を平行光束に変換して偏光用PBS44に出射する。
偏光用PBS44は、キューブ型の偏光ビームスプリッタであり、コリメータレンズ43から入射する合成光の偏光用PBS44にとってのp偏光の成分を透過しPBS5に出射する。また、偏光用PBS44は、コリメータレンズ43から入射する合成光の偏光用PBS44にとってのs偏光の成分を入射方向と直角な方向に反射出力する。なお、反射出力された合成光のs偏光の成分は、偏光用PBS44の後段の各部の動作に関わらない。
【0037】
ここで、偏光用PBS44が出射する合成光の偏光用PBS44にとってのp偏光の偏光方向410は、ファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35から出射される合成光の直線偏光の偏光方向300と一致するように、固定部42におけるファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35の固定の向き/回転角や、固定部42やコリメータレンズ43や偏光用PBS44の配置は設定されている。
【0038】
したがって、ファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35から出射されるファイバ型WDM光カプラ3で偏波保持された合成光の偏光方向(ファイバ型WDM光カプラ3で完全に偏波保持された場合に出力端子35から出射される直線偏光の合成光の偏光方向)を正規偏光方向300として、ファイバ型WDM光カプラ3の内部のクロストーク等により生じた、ファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35から出射される合成光中の、正規偏光方向300と偏光方向が異なる成分である非正規偏光成分は、偏光用PBS44で除去され、ファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35から出射される合成光中の正規偏光方向300の偏光成分のみが偏光用PBS44からPBS5に出射される。よって、このような偏光装置4によれば、温度変動などによって非正規偏光成分の大きさや非正規偏光成分の偏光方向(位相)が変動した場合でも、PBS5で分岐した第1分岐合成光と第2分岐合成光の大きさが大きく変動してしまうことを排除できる。
【0039】
さて、以上のような偏光装置4は、
図3b1、b2に示すように、偏光装置4から出射する合成光の光軸を回転中心とする回転方向に、PBS5における合成光の第1分岐合成光と第2分岐合成光への分岐比に応じた角度、PBS5に対して傾けて配置し固定する。
【0040】
ここで、
図3b2は、偏光装置4から出射する合成光の光軸と平行な方向から見たPBS5と、偏光装置4の偏光用PBS44の位置関係を表している。
ここで、
図3c1、c2に、偏光装置4から出射する合成光の光軸と平行な方向から見たPBS5と、偏光装置4の偏光用PBS44の位置関係と、偏光装置4の偏光用PBS44から出射される合成光の直線偏光の大きさ410と、合成光のPBS5にとってのp偏光方向の成分の大きさ510、合成光のPBS5にとってのs偏光方向の成分の大きさ520との関係を示す。図示するように、偏光装置4のPBS5に対する、偏光装置4から出射する合成光の光軸を回転中心とする回転方向の角度を変えることにより、PBS5に入射する直線偏光された合成光の、PBS5にとってのp偏光方向の成分の大きさ510と、PBS5に入射する直線偏光された合成光のPBS5にとってのs偏光方向の成分の大きさ520との比を任意に設定することができる。
【0041】
そして、上述したように、PBS5は、偏光装置4の偏光用PBS44から入射した合成光のPBS5にとってのp偏光の成分を透過し第1分岐合成光として被測定物100に照射し、偏光装置4の偏光用PBS44から入射した合成光のPBS5にとってのs偏光の成分を反射し第2分岐合成光としてAOM6に出射する。
【0042】
よって、偏光装置4のPBS5に対する、偏光装置4から出射する合成光の光軸を回転中心とする回転方向の角度を所望の分岐比に応じて設定するだけで、PBS5における合成光の第1分岐合成光と第2分岐合成光への分岐比を所望の値に設定することができる。
【0043】
また、以上のように、測定用レーザ光源1から出射された測定光の直線偏光の成分と、照準用レーザ光源2から出射された照準光の直線偏光の成分が、そのまま分岐用ビームスプリッタまで伝達されるので、分岐比の設定のために測定光や照準光が大きく減衰することもない。
【0044】
なお、本実施形態では、AOM6における第2分岐合成光の減衰分、第2分岐合成光が第1分岐合成光よりも大きくなるように、PBS5における合成光の第1分岐合成光と第2分岐合成光への分岐比を設定する。
【0045】
次に、測定装置の偏光用PBS44の周波数ゲイン特性を
図4に示す。
図4aに示すように偏光用PBS44を透過して出力されるp偏光Tpの周波数ゲイン特性は、照準光の波長635nm近傍の周波数領域と、測定光の波長1550nm近傍の周波数領域で減衰が小さく、他の周波数領域で減衰が大きくなるように設定されている。
【0046】
また、
図4bに示すように、偏光用PBS44で反射して出力されるs偏光Rsの周波数ゲイン特性も、照準光の波長635nm近傍の周波数領域と、測定光の波長1550nm近傍の周波数領域で減衰が小さく、他の周波数領域で減衰が大きくなるように設定されている。
【0047】
ここで、このような2つの周波数領域で低損失となる周波数ゲインは、偏光用PBS44の斜面/反射面に蒸着する光学薄膜の構造、素材を適切に設定することにより実現できる。
【0048】
なお、PBS5としては、
図4a、bに示した偏光用PBS44の周波数ゲイン特性と同じまたは同様の周波数ゲイン特性を持つ偏光ビームスプリッタを用いるようにしてよい。または、PBS5と、偏光用PBS44としては同じ二つの偏光ビームスプリッタを用いてもよい。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、以上の実施形態では、偏光装置4の基板41にファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35のみを固定したが、これは偏光装置4の基板41に、ファイバ型WDM光カプラ3の全体を固定するようにしてもよい。
また、偏光装置4の偏光用PBS44に代えて、ファイバ型WDM光カプラ3の出力端子35から出射されるファイバ型WDM光カプラ3で偏波保持された合成光の偏光方向(
図3aの300の方向)の直線偏光の成分のみを抽出しPBS5に出射する任意の偏光素子を用いるようにしてもよい。
【0050】
また、以上の実施形態は、レーザ速度計への適用を例にとり説明したが、本実施形態で示した不可視のレーザ光と可視のレーザ光の合成と、合成したレーザ光の分岐に関わる構成は、分岐したレーザ光を用いて測定を行う任意のレーザ測定装置に同様に適用することができる。また、本実施形態の当該構成は、任意のレーザ光装置において、レーザ光を合成し分岐する構成として適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…測定用レーザ光源、2…照準用レーザ光源、3…ファイバ型WDM光カプラ、4…偏光装置、5…PBS、6…AOM、7…ミラー、8…対物レンズ、9…光検出器、10…計測装置、11…偏波保持光ファイバ、21…偏波保持光ファイバ、31…偏波保持光ファイバ、32…偏波保持光ファイバ、33…光コネクタ、34…光コネクタ、35…出力端子、41…基板、42…固定部、43…コリメータレンズ、44…偏光用PBS、100…被測定物。