【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術創造促進事業(異分野融合共同研究)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Oyama, Kin-ichi et al.,Tetrahedron Letters,2008年,49,p.3176-3180
【文献】
Saito, A. et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2004年,12,p.4783-4790
【文献】
Saito, A. et al.,Tetrahedron,2009年,65,p.7422-7428
【文献】
Kubata, B. K. et al.,International Journal for Parasitology ,2005年,35,p.91-103
【文献】
Suda, M. et al.,Synthesis,2014年,46,p.3351-3355
【文献】
Saito, A. et al.,Synlett,2004年,(6),p.1069-1073
【文献】
須田 真人 他,P37 自己縮合法を用いたepicatechin二量体の選択的合成とprocyanidin C1の合成への応用,日本農芸化学会創立90周年・中部支部創立60周年記念 第171回例会 講演要旨集,2014年,p.21
【文献】
Oizumi Y. et al.,heterocycles,2012年,85(9),p.2241-2250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
カテキン又はエピカテキン等のフラボノイドが2つ以上重合した化合物は、プロシアニジンと総称され、抗酸化作用や抗ウイルス作用、抗菌作用、抗腫瘍作用、動脈硬化抑制作用、胃潰瘍抑制作用、発ガン抑制作用、育毛活性作用、美白作用等の生理作用があり、健康食品や化粧品などの素材として広く利用されている。
プロシアニジンとしては、エピカテキン−(β4→8)−カテキンの構造を有するプロシアニジンB1、エピカテキン−(β4→8)−エピカテキンの構造を有するプロシアニジンB2、カテキン−(α4→8)−カテキンの構造を有するプロシアニジンB3、カテキン−(α4→8)−エピカテキンの構造を有するプロシアニジンB4、エピカテキン−(β4→6)−エピカテキンの構造を有するプロシアニジンB5などが知られている。
また、昨今の健康志向、自然派志向の高まりにより、天然由来の生理活性物質に対する各種の研究が進められており、例えば、小豆のフラボノイド類やポリフェノールにはビタミンCや抗酸化剤であるBHAと同程度の抗酸化作用を示すことが確認されている。
小豆に含まれるポリフェノールについては、プロアントシアニジンであることが確認されている。また、具体的な構造に関するデータが少ないものの、エピカテキンを主体とするオリゴマーで、そのうちカテキンが1分子含まれているヘテローガスなオリゴマーという事が確認されている。
【0003】
プロシアニジンは、カテキン又はエピカテキンの単量体には見られない生理活性があり、オリゴマーが多量体になるほど、生理活性が強くなることが期待されている。そのため、カテキン等のフラボノイドからプロシアニジン類を製造する方法として幾つかの方法がこれまでに提案されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
非特許文献1には、カテキンを公知の方法により求電子体と求核体の2種の反応性誘導体に変換し、四塩化チタンを触媒として、低温条件下(例えば、−20℃)に、1対4.5当量ずつ反応させて得られる2量体混合物から光学選択的にプロシアニジンB3誘導体を得る方法が開示されている。
また、非特許文献2には、同様にカテキンより変換された2種の反応性誘導体を、四塩化チタンを触媒として2対1で反応させることで、光学選択的に2量体誘導体に導く方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、非特許文献1、2に開示されたカテキン又はエピカテキン重合体の製造方法は、例えば、一方の製造原料を大過剰に使用することによる経済的な損失の問題、反応後の製造原料の残留による精製操作の煩雑さの問題等により著しく効率が悪いという問題があった。また、例えば、低温条件(例えば、−20℃)での反応が必須で、低温を維持するための設備を必要とするという欠点や、得られる生成物の光学純度も低いという欠点もあった。このような問題からこれらの合成反応は産業的にほとんど利用されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、プロシアニジンは、植物中に多く含まれる成分ではあるが、構造が複雑でかつ化学的に不安定であることから、これまで高純度の化合物を得ることが難しかった。特に多量体になるほど、その製造が難しかった。
【0008】
上述の課題を解決するべく本発明者らが研究した結果、カテキン又はエピカテキンより誘導した、求電子体と求核体の2種のカテキン又はエピカテキンの反応性誘導体を用意する工程と;反応触媒として、イッテルビウムトリフラート(Yb(CF
3SO
3)
3)、インジウムトリフラート(In(CF
3SO
3)
3)、カッパートリフラート(Cu(CF
3SO
3)
2)、ランタントリフラート(La(CF
3SO
3)
3)又はスカンジウムトリフラート(Sc(CF
3SO
3)
3)などの金属トリフラート若しくは四フッ素化ホウ素銀(AgBF
4)又はトリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン(B(C
6F
5)
3)などのホウ素化合物を用いて反応させる工程と;を含む製造方法により、効率的にプロシアニジンB1〜B4などのカテキン又はエピカテキン2量体を合成することができることを知見した(特許文献1参照)。
なお、「金属トリフラート」とはトリフルオロメタンスルホン酸と金属との塩であり、上記式中の(CF
3SO
3)を「OTf」と記載することもある。
【0009】
特許文献1記載の製造方法では、反応触媒として、金属トリフラート、好ましくは、イッテルビウムトリフラート(Yb(OTf)
3)、インジウムトリフラート(In(OTf)
3)、カッパートリフラート(Cu(OTf)
2)、ランタントリフラート(La(OTf)
3)又はスカンジウムトリフラート(Sc(OTf)
3)若しくはホウ素化合物、好ましくは、四フッ素化ホウ素銀(AgBF
4)又はトリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン(B(C
6F
5)
3)の存在下、求電子体と求核体のカテキン又はエピカテキン単量体の反応性誘導体を反応させて、カテキン又はエピカテキンの2量体を製造している。
【0010】
本発明者らは、特許文献1記載の製造方法に準じて、金属トリフラート、四フッ素化ホウ素銀(AgBF
4)又はトリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン(B(C
6F
5)
3)を用いて、カテキン又はエピカテキンの4〜6量体の製造を試みたが、所望の収率及び純度で製造することが出来なかった。
【0011】
一方、昨今の健康志向、自然派志向の高まりにより、天然由来の生理活性物質に対する各種の研究成果が報告されている。例えば、小豆のフラボノイド類やポリフェノールにはビタミンCや抗酸化剤であるBHAと同程度の抗酸化作用を示すことが報告されている。
また、小豆に含まれるポリフェノールの一種が、エピカテキンを主体とし、そのうちカテキンが1分子含まれているプロアントシアニジンである事が確認されている。
しかしながら、これまでに製造が報告されているカテキン又はエピカテキン重合体は、カテキンまたはエピカテキンのみのホモローガスなオリゴマーが中心であった。そのため、ホモローガスなオリゴマーに限定されず、例えばプロアントシアニジンのような、ヘテローガスなオリゴマーも効率的に製造できる製造方法が求められていた。
【0012】
上記のように、小豆には有用な生理活性を示す成分が含まれているが、小豆は和菓子や煮豆等加工品の原料に用いられているだけで、その他の加工品には殆ど利用されていない。そのため、小豆に含まれる生理活性物質に着目した新たな用途の拡大が求められていた。
しかしながら、生理活性を確認するための標品を製造することが困難で、生理活性の研究を進められなかった。
【0013】
以上より、本発明の目的は、小豆に含まれるような、ヘテローガスオリゴマーも簡易に製造できる合成方法を提供することを目的とする。また本製造方法によって得られるオリゴマーの生理活性解明により、小豆の生理活性に着目した新たな用途の拡大を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の内容に関する。
(1)下記一般式(I)
【化1】
(一般式(I)中、R
1〜R
8は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基を表し、X
1〜X
2は、それぞれ独立して、アルコール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基を表し、Yは脱離基を表す。)で表される化合物と、
下記一般式(II)
【化2】
(一般式(II)中、R
9〜R
16は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基を表し、nは0または1以上10以下の整数を表し、波線で表される結合は、それぞれ独立して、実線又は破線のくさび形結合を表す。但し、波線で表される結合の全てが破線のくさび形結合である場合を除く。なお、nが2以上の場合に括弧内の繰り返し構造中複数存在するR
13〜R
16及び波線で表される結合の内容は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)で表される化合物とを縮合させる工程を含む、
下記一般式(III)
【化3】
(一般式(III)中、R
1〜R
16、X
1〜X
2、n及び波線で表される結合は、上述と同じ意味を有する。)で表される化合物の製造方法。
(2)R
1〜R
16が、それぞれ独立して、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基である、(1)に記載の製造方法。
(3)X
1及びX
2が、それぞれ独立して、アシル基、置換アシル基、ベンジル基、置換ベンジル基、アルキル基、アリールアルキル基又は置換アリールアルキル基である、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)Yが、アルキルオキシ基、アルキルオキシアルキルオキシ基又はアリールアルキルオキシ基である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の製造方法。
(5)縮合をルイス酸の存在下で行う、(1)〜(4)のいずれか一項に記載の製造方法。
(6)縮合を0℃以上23℃以下で行う、(5)に記載の製造方法。
(7)(1)〜(6)のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる、下記一般式(III)
【化4】
(一般式(III)中、R
1〜R
16、X
1〜X
2、n及び波線で表される結合は、上述と同じ意味を有する。)で表される化合物。
(8)(1)〜(6)のいずれか一項に記載の製造方法によって得られた一般式(III)で表される化合物のR
1〜R
16及びX
1〜X
2で表される保護基を脱保護する反応を更に行う、下記一般式(IV)
【化5】
(一般式(IV)中、n及び波線で表される結合は、上述と同じ意味を有する。)で表される化合物の製造方法。
(9)(8)に記載の製造方法によって得られる、下記一般式(IV)
【化6】
(一般式(IV)中、n及び波線で表される結合は、上述と同じ意味を有する。)で表される化合物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、エピカテキンを含むオリゴマーを簡易に製造することができる。さらに、カテキンを一部に含む、エピカテキン含有ヘテローガスオリゴマーも簡易に製造することができる。
本発明の製造方法で得られる、カテキンを一部に含む、エピカテキン含有ヘテローガスオリゴマーは、従来のプロシアニジンと同様に、抗酸化作用、抗ウイルス作用、抗菌作用、抗腫瘍作用、動脈硬化抑制作用、胃潰瘍抑制作用、発ガン抑制作用、育毛活性作用、美白作用等の生理作用を示すことが期待され、健康食品や化粧品などの素材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
[製造方法]
本発明の実施形態は、例えば、一般式(III)
【化7】
(一般式(III)中、R
1〜R
16は、それぞれ独立して、フェノール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基を表し、X
1〜X
2は、それぞれ独立して、アルコール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基を表し、括弧内の構造の繰り返しの数であるnは0または1以上10以下の整数を表し、波線で表される結合は、それぞれ独立して、実線又は破線のくさび形結合を表す。但し、波線で表される結合の全てが破線のくさび形結合である場合を除く。なお、nが2以上の場合に括弧内の繰り返し構造中複数存在するR
13〜R
16及び波線で表される結合の内容は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)で表される化合物の製造方法に関する。実施形態に係る製造方法によればエピカテキンを含むホモローガスオリゴマーに限定されることなく、カテキンを一部に含む、エピカテキン含有ヘテローガスオリゴマーも効率的に製造できる。
【0018】
実施形態に係る製造方法は、例えば、一般式(I)
【化8】
(一般式(I)中、R
1〜R
8、X
1〜X
2は、上述と同じ意味を有する。)で表される求電子体としての化合物と、
一般式(II)
【化9】
(一般式(II)中、R
9〜R
16、n及び波線で表される結合は、上述と同じ意味を有する。)で表される化合物と、を縮合させる工程(以下「第一縮合工程」ともいう)とを含む。
【0019】
本製造方法においては、一般式(I)で表されるエピカテキンの2量体を求電子体として用いることで、室温以下において短時間で、しかも高収率で目的物を製造することができる。具体的には、エピカテキンの2量体を求電子体にした場合、従来法であるエピカテキンの単量体を求電子体にする場合と比較して3量体以上のオリゴマーの合成の工程数が約半分になり、合成の効率が格段に向上する。これは本発明者らが初めて知見したものである。
【0020】
本製造方法においては、上述の第一縮合工程により、一般式(III)で表される化合物を製造することができるが、第一縮合工程において得られた化合物に、一般式(I)または(II)で表される化合物をさらに縮合させる第二縮合工程を有してもよい。また第一縮合工程において得られた化合物同士を縮合させてもよい。そのため、一般式(III)で表される化合物の設計が容易になり、また製造効率も向上する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態における縮合反応の機構を示す。
図1に示されるように、まずルイス酸がアセチル基及び求電子部位であるアルコキシル基の酸素原子に配位し、アルコキシ基を活性化して脱離する。次に、アセチル基の隣接基関与により立体選択的に求電子部位が活性化され、電子密度の高い求核体の8位が求電子体の4’位を攻撃することで、オリゴマーが生成される。
【0022】
実施形態に係る製造方法は、任意の工程として、第一縮合工程で得られた一般式(III)で表される化合物のフェノール性水酸基の保護基及びアルコール性水酸基の保護基を脱保護すること(以下「脱保護工程」ともいう)により、一般式(IV)
【化10】
(一般式(IV)中、括弧内の構造の繰り返しの数であるnは0または1以上10以下の整数を表し、波線で表される結合は、それぞれ独立して、実線又は破線のくさび形結合を表す。但し、波線で表される結合の全てが破線のくさび形結合である場合を除く。なお、nが2以上の場合に括弧内の繰り返し構造中複数存在する波線で表される結合の内容は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)で表される化合物が製造される。
【0023】
R
1〜R
16は、互いに同一であっても異なっていてもよい、フェノール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基であり、好ましくは芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基である。
【0024】
R
1〜R
16は、好ましくは、アルキル、ベンジル、置換ベンジル、アリールアルキル、置換アリールアルキルなどを挙げることができ、より好ましくはアルキル又はベンジルであり、さらに好ましくはベンジルである。
「置換ベンジル」としては、それぞれ、独立して、例えば、アルキルで置換されたベンジルが挙げられ、「置換アリールアルキル」としては、それぞれ、独立して、例えば、アルキルで置換されたアリールアルキルが挙げられる。これらのアルキル置換基は、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数1〜10であることがより好ましい。
【0025】
R
1〜R
16のフェノール性水酸基の保護基は、それぞれ、互いに同一であっても異なってもよいが、同一であれば、その調製が容易になるという利点がある。
【0026】
X
1及びX
2は、水素原子又は互いに同一であっても異なっていてもよい、アルコール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立して、アシル基、置換アシル基、ベンジル基、置換ベンジル基、アルキル基、アリールアルキル基又は置換アリールアルキル基であることが好ましい。
【0027】
Yは、アルコール性水酸基の保護基として使用される基の中から選択される任意の保護基である。
【0028】
アルコール性水酸基の保護基としては、好ましくは、アシル、置換アシル、ベンジル、置換ベンジル、アルキル、アリールアルキル、置換アリールアルキルを挙げることができる。「アシル」としては、それぞれ、独立して、脂肪族カルボン酸又は芳香族カルボン酸のアシルが挙げられる。
「置換アシル」としては、芳香族カルボン酸のアシルのアリールが置換されたアシルが挙げられ、具体的には、アリール(より具体的には例えば、フェニル)が、置換基、例えば、アルキルで置換されたアシルが挙げられる。
【0029】
置換ベンジル及び置換アリールアルキルは、フェノール性水酸基の保護基と同様に、「置換ベンジル」としては、それぞれ、独立して、例えば、アルキルで置換されたベンジルが挙げられ、「置換アリールアルキル」としては、それぞれ、独立して、例えば、アルキルで置換されたアリールアルキルが挙げられる。これらのアルキル置換基は、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数1〜10であることがより好ましい。
【0030】
Yは、一般式(I)で表される化合物と、一般式(II)で表される化合物との反応の際に脱離する基であり、好ましくは、アルキルオキシ基、アルキルオキシアルキルオキシ基又はアリールアルキルオキシ基である。
【0031】
アルキルオキシ基のアルキル基の大きさは、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数1〜10であることがより好ましい。より好ましくは、炭素数1〜5のアルキルである。さらに好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、アリルなどである。最も好ましくはメチルである。
【0032】
アルキルオキシアルキルオキシ基のアルキルオキシ基の大きさは、それぞれ炭素数1〜10であることが好ましく、炭素数1〜5であることがより好ましい。好ましくは、メトキシメトキシ基などであり、最も好ましくはエトキシエトキシ基である。
【0033】
アリールアルキルオキシ基の大きさは、炭素数7〜20であることが好ましく、炭素数7〜10であることがより好ましい。より好ましくは、炭素数7〜10のフェニルアルキルであり、最も好ましくはベンジルである。
【0034】
本発明の製造方法に用いる製造原料のカテキンまたはエピカテキン単量体の反応性誘導体としては、天然由来、合成由来を問わず、上述の化学式に該当する限り、いずれのカテキンまたはエピカテキンから誘導したものであっても用いることができる。また、公知の有機合成化学的方法により合成したものも用いることができる。小豆由来のカテキン単量体を用いることが好ましい。
【0035】
縮合はルイス酸の存在下で行うことが好ましい。本発明の方法において反応触媒として用いるルイス酸としては、亜鉛トリフラート(Zn(OTf)
2)、イッテルビウムトリフラート(Yb(OTf)
3)が好ましい。単量体から2量体、2量体から4量体、2量体と3量体から5量体を製造する場合は、亜鉛トリフラート(Zn(OTf)
2)が好ましい。単量体と2量体から3量体を製造する場合はイッテルビウムトリフラート(Yb(OTf)
3)が好ましい。
【0036】
これらの反応触媒は、市販されている試薬として入手できる。使用される反応触媒の形態は、特に限定されず、粉末状態のものでも結晶化したものでもよいが、粉末状態のものが好ましい。
【0037】
反応触媒として用いるルイス酸の添加量は、特に限定されないが、カテキン又はエピカテキンの種類及び量体毎に好適な使用量が異なる。例えば、カテキンまたはエピカテキン2量体の製造においては、亜鉛トリフラート(Zn(OTf)
2)の添加量は、約0.7当量程度が好ましく、カテキンまたはエピカテキン3量体の製造においては、イッテルビウムトリフラート(Yb(OTf)
3)の添加量は、約2.0当量程度が好ましく、カテキンまたはエピカテキン4量体の製造においては、亜鉛トリフラート(Zn(OTf)
2)の添加量は、約2.5当量程度が好ましく、カテキンまたはエピカテキン5量体の製造においては、亜鉛トリフラート(Zn(OTf)
2)の添加量は、約3.0当量程度が好ましい。
【0038】
本発明の実施形態における製造方法において、製造原料の、求電子体と求核体の2種のカテキン又はエピカテキン反応性誘導体の使用比率がほぼ1:1であることが好ましい。従来の製造方法、例えば、非特許文献1〜3に記載の方法は、一方の製造原料を大過剰、例えば1:2〜1:4.5当量用いるものであり、非常に効率が悪く、反応後の精製処理にも手間を要する方法である。
本発明の実施形態に係る製造方法は、求電子体と求核体の反応性誘導体の使用比率が、1:0.8〜1.2と極めて効率的な方法であり、また、保護基の除去及び残留原料の除去等の反応後の処理操作も極めて簡単な方法である。
【0039】
第一縮合工程の製造原料として用いられる、一般式(I)で表される化合物は、エピカテキンの2量体に置換基を導入することによって得られる。すなわち、(イ)エピカテキンの2量体のフェノール性水酸基に、保護基のR
1〜R
8を導入し、必要に応じて、
(ロ)エピカテキンの2量体のアルコール性水酸基に、保護基のX
1、X
2を導入し、
(ハ)エピカテキン反応性誘導体のYとしてエトキシエトキシ基(以下「OEE」ともいう)を導入することにより製造できる。
【0040】
具体的には、手順(イ)のエピカテキンの2量体のフェノール性水酸基に、R
1〜R
8として、脂肪族又は芳香族の炭化水素基を、より好ましい具体例としては、ベンジル基を導入する。
ベンジル基の導入手順としては、例えば、エピカテキンの2量体に臭化ベンジルを添加して反応させることにより行うことができる。臭化ベンジルとの反応は、例えば、溶媒としてジメチルホルムアミド(以下「DMF」ともいう)を用いることにより好適に行うことができる。
手順(ロ)のアルコール性水酸基に、保護基のX
1、X
2としてアセチル基を導入する手順としては、例えば、無水酢酸を添加して反応させることにより行うことができる。無水酢酸の添加は、例えば、溶媒としてのピリジン中で行うことができる。
手順(ハ)のメトキシ基の導入は、例えば、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−パラ−ベンゾキノン(以下「DDQ」ともいう)を添加して、メタノールと反応させることにより行うことができる。当該メトキシ基の導入は、例えば、溶媒としてのジクロロメタン中で行うことができる。
また、エトキシエトキシ基(OEE)の導入は、例えば前述のメトキシ基と同様に、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−パラ−ベンゾキノン(DDQ)を添加して、エトキシエタノールと反応させることによって行うことが出来る。
【0041】
第一縮合工程における化学式(II)で表される化合物は、例えば、カテキン又はエピカテキンの1〜11量体に置換基を導入することによって得られる。すなわち、カテキンもしくはエピカテキンの単量体又は2〜11量体のフェノール性水酸基に、保護基のR
9〜R
16を導入する。
【0042】
手順(イ)〜手順(ハ)の順序としては、(イ)フェノール性水酸基の保護基のR
9〜R
16の導入→(ロ)アルコール性水酸基の保護基のX
1、X
2の導入→(ハ)脱離基Yの導入の順序、又は(イ)フェノール性水酸基の保護基のR
9〜R
16の導入→(ハ)脱離基Yの導入→(ロ)アルコール性水酸基の保護基のX
1、X
2の導入の順序で行うことが好ましい。
【0043】
カップリング反応に用いる溶媒は、反応に影響を及ぼさない溶媒であればいずれであっても良い。例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシドなどの溶媒を、単独もしくは混合して使用することができる。これらの溶媒の中で、ベンゼン、ヘキサン、トルエン、キシレン、四塩化炭素、塩化メチレンが好ましく、塩化メチレンが最も好ましい。
【0044】
本発明の反応時間は特に制限されず、製造原料の種類及び目的物の種類に応じて、適宜、調整することができる。反応時間が短すぎる場合、反応が不十分であり未反応の原料が残り生産物の収率が低下する場合がある。また、反応時間が長すぎる場合、作業効率が悪化するだけでなく、生産物同士もしくは生産物と未反応原料が不規則に反応し目的以外の夾雑物が生産され、かえって反応効率が低下する場合がある。
具体的には、4量体の製造の場合、カテキン及びエピカテキンの4量体のいずれにおいても、約24時間程度が好ましい。カテキン5量体の場合、約72時間、エピカテキン5量体の場合、約47時間程度が好ましい。
【0045】
本発明の製造方法の特徴点として、反応温度が特に制限されない事が挙げられる。従来の製造方法、例えば非特許文献1記載の方法は、低温条件(例えば、−20℃)を要するものであるのに対して、本発明の方法はこのような低温条件を要しない。
また、本発明の方法における反応温度は特に制限されず、製造原料の種類及び目的物の種類に応じて、適宜、調整することができる。
具体的には、室温以下(0℃以上23℃以下)であることが好ましい。下限値は10℃以上がより好ましく、20℃以上が特に好ましい。
【0046】
第一縮合工程において用いる、化学式(I)で表される化合物と、化学式(II)で表される化合物の使用比率は、1:1のモル比に近い配合とすることが好ましく、1対0.8〜1.2等量で反応させることが好ましい。
このように、添加割合をほぼ同量にすることで原料の過剰使用の無駄を防ぎ、さらに残留原料の除去等を含む精製操作を簡略化することもできる。
【0047】
脱保護工程の化学式(III)で表される化合物の脱保護工程における、脱保護の方法としては、公知の方法を用いることが可能である。
【0048】
具体的には、例えば、アルコール性水酸基の保護基X
1、X
2、Yとしてアセチル基が存在する場合には、ナトリウムメトキシドを添加する方法などにより、アセチル基を脱離させることができる。この際の溶媒としては、例えば、メタノールを使用することができる。
【0049】
また、例えば、フェノール性水酸基の保護基R
1〜R
16としてベンジル基が存在する場合には、水素雰囲気下、水酸化パラジウム(Pd(OH)
2)を添加する方法などにより、ベンジル基を脱離させることができる。この際の溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、水の混合溶媒を使用することができる。
【0050】
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
実施形態においては、ヘテローガスオリゴマーの製造方法について中心に説明してきたが、本発明によればエピカテキンを含むホモローガスオリゴマーを製造することもできる。例えば、一般式(III)において、波線で表される結合の全てが破線のくさび形結合である場合を除いたような化合物を製造することもできる。また一般式(III)において、nが1または2の場合に、波線で表される結合の全てが破線のくさび形結合である場合を除いたような化合物を製造することができる。なお、一般式(III)で表されるホモローガスオリゴマーの置換基の解釈は、上述のヘテローガスオリゴマーと同様である。
製造方法を中心に説明してきたが、本発明によれば、一般式(III)、(IV)で表される化合物が提供される。係る化合物は、例えば、小豆中のプロアントシアニジン画分の同定に有用である。従来のプロシアニジンと同様に、抗酸化作用、抗ウイルス作用、抗菌作用、抗腫瘍作用、動脈硬化抑制作用、胃潰瘍抑制作用、発ガン抑制作用、育毛活性作用、美白作用等の生理作用を示すことが期待され、健康食品や化粧品などの素材として有用である。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の実施の態様について、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、得られるアレカタンニンA2, A3(ヘテローガスオリゴマー)の構造式をまとめて
図2に示す。
【0052】
[調製例1]
2量体縮合物(エピカテキンーエピカテキン)の合成
図3に示すように、一般式(V)で表されるエピカテキン(1量体)を用意した。
次に、このエピカテキンを製造原料として用い、反応触媒としてZn(OTf)
2を0.7当量用いて、塩化メチレン中、室温下(20℃)に1.5時間反応させることにより、一般式(II-1)で表される2量体縮合物を得た(収率約58%)。
【0053】
[調製例2]
3量体縮合物(エピカテキンーエピカテキンーカテキン/アレカタンニン A1)の合成
図4に示すように、一般式(V)で表されるカテキン(1量体)と調整例1で得られた一般式(II-1)で表されるエピカテキン2量体を用意した。次に、これらを製造原料として用い、反応触媒としてYb(OTf)
3を2.0当量用いて、塩化メチレン中、室温下(20℃)に4時間反応させることにより、一般式(III-1)で表される3量体縮合物を得た(収率約79%)。
この縮合物を用い、脱ベンジルを行って、アレカタンニンA1を製造した。
【0054】
[比較調製例]
カテキン3量体の合成
反応触媒と反応時間を以下の条件にそれぞれ換えたことを除き、調製例2と同様にエピカテキン3量体を調整した。条件と得られた結果をまとめて以下の表に示す。
【表1】
以上の結果より、反応触媒としてYb(OTf)
3を用いることにより、反応時間が短くなり、また収率が上ることが明らかになった。
【0055】
[実施例1]
4量体縮合物(エピカテキンーエピカテキンーエピカテキンーカテキン/アレカタンニンA2)の合成
図5の反応式に示すように、一般式(II-1)で表されるエピカテキン2量体と、調製例1で調製された一般式(II-2)で表されるカテキン2量体を用意した。次に、これらを製造原料として用い、反応触媒としてZn(OTf)
2を2.5当量用いて、塩化メチレン中、室温下(20℃)に24時間反応させることにより、一般式(III-2)で表される4量体縮合物を得た(収率約64%)。
この縮合物を用い、脱ベンジルを行って、アレカタンニンA2を製造した。
【0056】
[実施例2]
5量体縮合物(エピカテキンーエピカテキンーエピカテキンーエピカテキンーカテキン/アレカタンニン A3)の合成
図6の反応式に示すように、調製例1,2でそれぞれ得られた、2量体と3量体を用意した。次に、用意した2量体と3量体を製造原料として用い、反応触媒として
Zn(OTf)
2を3.0当量用いて、塩化メチレン中、室温下(20℃)に47時間反応させることにより、一端がカテキンである5量体縮合物を得た(収率約59%)。
この縮合物を用い、脱ベンジルを行って、アレカタンニンA3を製造した。(収率約90%)
【0057】
[参考例1]
小豆由来成分の調製(抽出)
小豆を常温の水に12〜18時間浸漬させた後に、綿を用いてろ過して得られたろ過液を試料1とした。
【0058】
[参考例2]
小豆の常温における水抽出物(試料1)に含まれるプロアントシアニジンと合成した試料を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて比較した。HPLCの分析条件を以下に示す。また得られた結果を
図8に示す。
装置:GLサイエンス社製 GL-7400
カラム:InertSustain C18 5μm φ4.6×250mm
カラム温度:35℃
溶離液条件:下記表2に示す
流速:0.8ml/min
注入:5μl
【表2】
【0059】
その結果、小豆の抽出物にはプロシアニジンB1(2量体)、エピカテキンーエピカテキンーカテキン(3量体)(Arecatannin A1),エピカテキンーエピカテキンーエピカテキンーカテキン(4量体)(Arecatannin A2)が含まれていることが分かった。なお、エピカテキンーエピカテキンーエピカテキンーエピカテキンーカテキン(5量体)(Arecatannin A3)は含まれていなかった。
さらに合成物に関してヒト前立腺癌細胞PC−3に関して抗腫瘍活性試験を行った。その結果、ヘテローガスなカテキンおよびエピカテキンオリゴマーに抗腫瘍活性があることが分かった。また重合度が増すにつれて活性が増強することが明らかになった。
つまり、実施例により合成された試料は、小豆中のプロアントシアニジン画分の同定に有用である。実施例により合成された試料は、上述の抗腫瘍活性の他にも、様々な生理活性があることが期待される。
【0060】
[比較例1]
4量体縮合物(エピカテキンーエピカテキンーエピカテキンーカテキン/アレカタンニンA2)の合成
A. Saito et al., Tetrahedron, 2009, 65, 7422-7428記載の方法に準じて、
図7に示す反応式に従って製造した。反応触媒としてTMSOTfを1.0当量用いて、塩化メチレン中、反応温度約−40℃でさせることにより、収率約89%で4量体縮合物を得た。
この縮合物から実施例1と同様な操作により、脱ベンジルを行って、4量体縮合物(アレカタンニンA2)を製造した(収率約58%)。