(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記復元機構は、前記切り欠き部のうちの一側壁に固定される第1部材と、当該第1部材に、前記内輪の中心点側において、ヒンジピンにより枢支連結されるとともに、所定角度をもって立ち上げられた状態の第2部材と、前記第1部材と第2部材の開閉側に当該第1部材及び第2部材に沿って配置される板状バネとを備え、前記第2部材が、前記脚部の後方向の側辺に当接することで、前記内輪の前方向に対する前回転を抑制するとともに、前記板状バネによる反発力により、前記内輪を前方向に対して後回転となるよう反転可能とするものであることを特徴とする請求項1記載の車輪構造体。
前記回転制止部は、前記内輪の側面の片側又は両側に形成されており、当該回転制止部が、前記脚部の下方側辺に当接することで、前記内輪の所定位置から、当該内輪の前方向に対する後回転を制止するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の車輪構造体。
前記内輪の側面のうち、前記軸孔が設けられた位置を含む所定の範囲を他の範囲よりも深く掘り下げることにより生じる段差部を前記回転制止部としていることを特徴とする請求項1〜3何れか1項記載の車輪構造体。
【背景技術】
【0002】
車椅子、ベビーカー、台車などの車輌に取り付けられている車輪では、道路や建物内にある、たかだか高さ数センチ程度の段差等の障害物を乗り越える際にも、大きな力が必要となり、困難を伴う事が多い。また、車輪が段差に到達(衝突)した際に、水平移動から垂直移動の瞬間的な変化から衝撃力が発生し、この衝撃力が、利用者に不快感を与え、最悪の場合、車輌が転倒するなどのおそれがある。このため、車輪が段差等の障害物を容易に乗り越え可能な機構の開発が重要な課題とされている。
【0003】
そこで、例えば、補助輪等を使用して段差の乗り越えを容易にする技術として、特許文献1には、脚輪の軸受よりも前位に前部軸受を設けるほか、この前部軸受には、放射状に突出する3本の腕がある三股扛重体を遊回可能に枢着すると共に、各腕の先端付近には小車輪を設け、かつ三股扛重体には位置規制用の付勢手段を付設して、小車輪の1個が常時前方の斜め下向きに位置で、他の1個が後方の斜め下向きに位置となる傾向を付与し、更に側面から見て後方の小車輪の下端面が脚輪の前方斜め下向きの周面と一致するようにしたことを特徴とする段差走行型車輪装置が開示されている。そして、この技術によると、「てこ」の作用の発揮により車台を容易に上昇させることができ、さらに、小車輪が付設されているため、段差部分を軽快に乗り上げることができるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、段差乗り越え機構として、本体には左右方向に延在して回転軸が取り付けられており、中央において回転軸に固定されたリンクの前端には前輪が後端には後輪が回転可能に取り付けられており、本体にはリンク上方の異なる上下前後位置において1対のストッパーが設けられていることを特徴とする段差乗越え機構が開示されている。
【0005】
さらに、フレームやアーム等を使用して一時的に車輪の直径を大きくすることで段差乗り越えを容易にする技術として、特許文献3には、天板の上部において、持出と前輪の主軸からたてた支柱によって、軸管と基軸を設け、支持金具の内側で、前輪の両側に位置する、半円アームを軸管に基軸により結合し、半円アームの両側先端と後部に連結棒で補強し、半円アームの底面にゴム板を張り、支柱と半円アームとを結ぶ戻しバネを設けたことを特徴とする振子式自動段差解消器が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、本体の下部に取り付けられる取付基体と、該取付基体に旋回軸により軸着されて該旋回軸を中心に水平方向に旋回可能な主枠と、該主枠の両側から下方に向けて延設される両脚部と、該両脚部間に水平方向に懸架される車軸によって支承される走行車輪とを有するキャスターにおいて、前記走行車輪よりも回転半径を大きくし、通常走行時のセット状態にて一方が前記走行車輪よりも前方に位置する当接部を回転方向に対して等間隔に二箇所備え、前記車軸が挿通される長孔を有し、該長孔に車軸を挿通させることで、長孔内を車軸が移動して乗越えフレームが車軸に対して偏心しながら回転可能な状態で、該乗越えフレームを主枠にて支持し、主枠と乗越えフレームとの間に、該乗越えフレームを前記セット状態に保持する復帰手段を有するリンク機構を介装したことを特徴とするキャスターが開示されている。
【0007】
そして、この技術によると、旋回性を維持したまま、走行路面上のわずかな段差や小石などの比較的低い障害物の乗り越えが容易となる。また、当接部を乗越えフレームの回転方向に対して等間隔に二箇所備えることによって、障害物などを乗り越えた際、乗越えフレームが半回転することでセット状態に復帰することができるので、一度段差を乗り越えてからセット状態に復帰するまでのキャスターの進む距離が短くなり、障害物などが狭い間隔で連続している場合にも、連続して乗り越えることが可能となり、また、乗越えフレームは、該乗越えフレームと主枠との間に介装されるリンク機構によって支持されており、車軸等に軸支される構造とはなっていないので、障害物を乗り越える際の本体の荷重は乗越えフレーム側のみにかかることとなり、既存のキャスターの構成部材の強度の向上を図る必要がないとされている。
【0008】
さらに、車輪支持部や車輪内部等に溝を設け、その溝に沿って車軸が移動することにより段差乗り越えを容易にする技術として、例えば、特許文献5には、車体を支持しながら接地して回転する車輪と、車体の進行に伴う車輪の回転方向に対して反対方向にのみ回転可能な回転体を備え、前記車輪の回転軸と前記回転体の回転軸を略平行に配置し、前記回転体の回転軸は、車体の進行方向に対して車輪の回転軸よりも後方かつ上方に配置し、前記車輪の回転軸は、車輪と回転体を連動させながら、車輪と回転体が連動しない位置まで車体の進行方向に向かって前方に移動した基準位置から、車輪と回転体が連動する連動位置までの間を車体の進行方向に対して後方に向かって回転体の回転軸を中心として円弧状の軌道に沿って移動自在であり、且つ、前記車輪の両側に板状部材を備え、前記板状部材にガイド溝をそれぞれ備え、前記車輪の回転軸をガイド溝内で移動させる車輪の支持構造が開示されている。そして、この技術によれば、車輪を段差等の障害物上に円滑に乗り上げさせることができるとしている。
【0009】
そして、特許文献6には、支軸に対して旋回可能に支持されたブラケットの下端に、軸部材を介して環状のタイヤ部材とそれを支持する支持部材とからなる車輪が取り付けられ、車輪の回転により前方へ進行するキャスターにおいて、前記タイヤ部材を支持部材に対して回転可能に設け、支持部材にはタイヤ部材の回転中心より前方へ延びる長孔を透設し、該長孔に軸部材を挿通し、支持部材をブラケット及び軸部材に対して回転不能に支持するとともに、該軸部材は長孔内を前方へ摺動することにより軸部材の偏心を許容する構成としたことを特徴とするキャスターが開示されており、段差を軽い力で容易に乗り越えることができるとしている。
【0010】
さらに、特許文献7には、車輪支持部、当該車輪支持部の一部に設けられた少なくとも一個の車輪を取り付ける車軸、当該車輪支持部の上部に設けられている、車輌の車体部と接合する車体接合部、当該車輪支持部に設けられている摺動片部であって、当該摺動片部は、当該車輪支持部の当該車輪が移動する移動面に対向する下縁部に設けられており、且つ当該移動面に対して凸状を示す湾曲型をした下面部輪郭を持つものであり、然も、当該車軸の下方部を介して当該摺動片部が、当該車軸と直交する方向に、当該移動面に対して凸状を示す湾曲型の軌跡を呈する様に移動可能に構成されている摺動片部及び当該車輪支持部に設けられており通常時には、当該摺動片部を当該車輪支持部の進行方向先端部位置に保持する様に当該摺動片部にバイアスを与える弾性部材とから構成されている車輪構造体であって、少なくとも、当該摺動片部の当該車輪支持部の進行方向先端位置と対向する長手方向先端部に衝撃緩衝材を配置した事を特徴とする車輪構造体が開示されており、車輪前方に設けた摺動片部が、車輪支持部内の案内面に沿って移動し、車軸を押し上げることにより、段差乗り越えを容易にするとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1〜4に記載の技術では、補助輪や、フレーム及びそれら支持構造が必要となるため、構造が複雑で、重量増加を招いてしまう。また、衝撃力に対する備えも無く、利用者に不快感を与えてしまい、さらに、車輌の転倒まで引き起こしてしまう可能性がある。
【0013】
また、上記特許文献5及び6に記載の技術では、車軸を移動させるための構造が複雑であり、また、車軸の移動は操縦者による押し上げ、自重による押し下げに依存するため、スムーズな動きができず、適切な効果が発揮できないおそれがある。そして、上記特許文献7に記載の技術では、双輪構造にせざるを得ず、重量増加を招き、コンパクト性に欠けるといった問題がある。
【0014】
本発明が解決しようとしている課題は、上述の問題に対応するためのもので、所定の高さを有する段差等の障害物の乗り越えに労する力を低減でき、簡易でコンパクトな構造の車輪構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するために、本発明は、以下の技術的手段を講じている。
即ち、請求項1記載の発明は、所定の間隙をもって相対する1対の脚部が形成されてなる車輪支持部材と、前記車輪支持部材の脚部間において、水平に架設される車軸と、前記車軸に支承されることで、前記車輪支持部材の脚部間に配置される車輪とを備え、物体の任意の位置に前記車輪支持部材を取り付けることにより、当該物体を前記車輪により前方向又は後方向へと押し引き移動可能にする車輪構造体であって、前記車輪は、少なくとも、外輪と、当該外輪の内側に嵌装される内輪と、から構成され、
前記車輪が水平面である平地に載置されている場合において、前記内輪には、その中心点に対して、偏心した位置に軸孔が設けられるとともに、当該軸孔が、前記中心点を通る
鉛直線より前方向で、且つ、前記中心点を通る水平線より上方向の位置となる状態で、前記車軸に支承されており、
前記内輪には、所定範囲において、切り欠き部が形成されているとともに、当該切り欠き部に、前記内輪が、前方向に対して前回転した場合に、その回転を抑制するとともに、
その抑制により前記内輪の前回転の動作が収まる位置から、当該内輪を前方向に対して後回転となるよう反転可能とする復元機構が、少なくとも、1つ設けられ、前記内輪の所定箇所には、前記車輪を前記車輪支持部材に配置させた際の前記内輪の所定位置から、当該内輪の前方向に対する後回転を制止する回転制止部が、少なくとも、1つ設けられていることを特徴とする車輪構造体である。
【0016】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の車輪構造体であって
、前記復元機構は、前記切り欠き部のうちの一側壁に固定される第1部材と、当該第1部材に、前記内輪の中心点側において、ヒンジピンにより枢支連結されるとともに、所定角度をもって立ち上げられた状態の第2部材と、前記第1部材と第2部材の開閉側に当該
第1部材及び第2部材に沿って配置される板状バネとを備え、前記第2部材が、前記脚部の後方向の側辺に当接することで、前記内輪の前方向に対する前回転を抑制するとともに、前記板状バネによる反発力により、前記内輪を前方向に対して後回転となるよう反転可能とするものであることを特徴としている。
【0017】
さらに、請求項
3記載の発明は、請求項1
又は2記載の車輪構造体であって、前記回転制止部は、前記内輪の側面の片側又は両側に形成されており、当該回転制止部が、前記脚部の下方側辺に当接することで、前記内輪の所定位置から、当該内輪の前方向に対する後回転を制止するものであることを特徴としている。またさらに、請求項
4記載の発明は、請求項1〜
3何れか1項記載の車輪構造体であって、前記内輪の側面のうち、前記軸孔が設けられた位置を含む所定の範囲を他の範囲よりも深く掘り下げることにより生じる段差部を前記回転制止部としていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車輪構造体によれば、車軸を車輪の回転中心に対して進行方向前方・上方に偏心させ、内輪と車輪支持部との間に復元機構を備えているため、段差の乗り越えに労する力を低減し、且つ、快適に段差を乗り越えることが可能となる。また、内輪に切り欠きを設け、その内部に復元機構を取り付けることで、車輪構造体自体をコンパクトな構造とすることが可能となる。
【0019】
そして、復元機構に、例えば、引張、圧縮、曲げ、ねじりの力に対して復元を行うことができるバネ構造を用いることで、衝撃力の吸収・緩和を行うのと同時に、前方向に対して前回転した内輪を当初の位置(車輪支持部材に配置した際の初期位置)へ復元させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る車輪構造体の実施形態を示した一例図で、(a)は側面図、(b)は斜視図、(c)は分解斜視図を表している。
【
図2】本発明に係る車輪構造体の実施形態を示した一例図で、(a)は外輪、(b)は外輪に内輪を嵌め込む状態、(c)は内輪に復元機構を取り付けた状態、(d)は、車輪を車輪支持部材に取り付けた状態を表している。
【
図3】本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、内輪を構成する一方側のパーツを示した一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を表し、(d)は内輪として両側からパーツ同士を組み立てた状態の斜視図である。
【
図4】本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、車輪支持部材を示した一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図5】本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、復元機構の第1部材を示した一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図6】本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、復元機構の第2部材を示した一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図7】本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、復元機構の一例を示した斜視図である。
【
図8】本発明に係る車輪構造体の実施形態において、復元機構の機能を示した一例図で、(a)は第2部材が、脚部端辺に当接した状態、(b)は第1部材と、第2部材の間が狭まり、板バネの屈曲が進んでいる状態、(c)は復元機構が反発した状態を表している。
【
図9】本発明に係る車輪構造体の実施形態において、段差乗り越え時の状態を示した一例図で、(a)は段差到達時、(b)は段差乗り越え開始時、(c)は段差乗り越え時、(d)は段差乗り越え終了時を表している。
【
図10】本発明に係る車輪構造体の実施形態において、その効果について検証した実験に用いた装置の一例を示した図である。
【
図11】本発明に係る車輪構造体の実施形態の効果について検証した実験の結果(積載重量1.98kg)を示したグラフである。
【
図12】本発明に係る車輪構造体の実施形態の効果について検証した実験の結果(積載重量1.48kg)を示したグラフである。
【
図13】本発明に係る車輪構造体の実施形態の効果について検証した実験の結果(積載重量0.98kg)を示したグラフである。
【
図14】内輪の軸孔を偏心させることによる推進力の低減に関する有効性を検証する際の段差乗り越え条件を示したものである。
【
図15】内輪の軸孔を偏心させることによる推進力の低減に関する有効性を検証実験の結果を示した表である。
【
図16】内輪の軸孔を偏心させることによる推進力の低減に関する有効性を検証実験の結果を示したグラフである。
【
図17】本発明に係る車輪構造体の実施形態における復元機構による衝撃緩和及び復元の実験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る車輪構造体の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る車輪構造体の実施形態を示した一例図で、(a)は側面図、(b)は斜視図、(c)は分解斜視図を表している。また、
図2は、本発明に係る車輪構造体の実施形態を示した一例図で、(a)は外輪、(b)は外輪に内輪を嵌め込む状態、(c)は内輪に復元機構を取り付けた状態、(d)は、車輪を車輪支持部材に取り付けた状態を表している。さらに、
図3は、本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、内輪を構成する一方側のパーツを示した一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を表し、(d)は内輪として両側からパーツ同士を組み立てた状態の斜視図である。
【0022】
そして、
図4は、本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、車輪支持部材の一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を示したもので、
図5は、本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、復元機構の第1部材を示した一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。さらに、
図6は、本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、復元機構の第2部材を示した一例図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【0023】
また、
図7は、本発明に係る車輪構造体の実施形態のうち、復元機構の一例を示した斜視図で、
図8は、本発明に係る車輪構造体の実施形態において、復元機構の機能を示した一例図で、(a)は第2部材が、脚部端辺に当接した状態、(b)は第1部材と、第2部材の間が狭まり、板バネの屈曲が進んでいる状態、(c)は復元機構が反発した状態を表している。そして、符号は、10が車輪構造体、12が車輪支持部材、14が脚部、16が車軸、18が車輪、20が外輪、22が内輪、23がパーツ、24が軸孔、26が復元機構、28が回転制止部、30が切り欠き部、32が第1部材、34がヒンジピン、36が第2部材、38が板バネ、40が段差部、42がガイド部を表している。
【0024】
本実施形態における車輪構造体10は、
図1、4に示すように、まず、所定の間隙をもって相対する1対の脚部14が形成された車輪支持部材12と、車輪支持部材12の脚部14同士の間において、水平に架設される車軸16と、車軸16に支承されることで、車輪支持部材12の脚部14同士の間に配置される車輪18とを備えるもので、物体(例えば、車輌)の任意の位置、例えば、下部側に取り付けることにで、物体を車輪18により前方向(進行方向)や、後方向(後退方向)へと押し引き移動可能にするものである。
【0025】
また、車輪18は、
図1、
図2に示すように、外輪20と、両側から外輪20の内側に嵌装される内輪22とから構成されていて、この内輪22には、
図3に示すように、中心点に対して、偏心した位置に軸孔24が設けられている。そして、この軸孔24が、中心点を通る垂直線より前方向で、且つ、中心点を通る水平線より上方向の位置となる状態で、車軸16に支承される構成となっている。なお、軸孔24は、中心点から可能な限り離れた位置に設ける(偏心させる)方が、車輪18の段差乗り越え時における推進力の低減に繋がる。
【0026】
また、内輪22の所定箇所には、
図1、2に示すように、内輪22が、前方向(進行方向)に対して前回転した際に、それによる衝撃を吸収し、さらに、回転を抑制するとともに、その回転により到達した位置から、反発力をもって、前方向に対して後回転(反転)させる復元機構26が設けられており、さらに、内輪22の所定箇所には、車輪18を車輪支持部材12に配置させた際の内輪22の所定位置(車輪支持部材12に車輪18を配置させた初期位置)から、内輪22の前方向に対しての後回転を制止する回転制止部28が設けられている。なお、本実施形態においては、回転制止部28は、内輪22の側面のうち、軸孔24が設けられた位置を含む所定の範囲を他の範囲よりも深く掘り下げることにより生じている段差部40が役割を担っている。
【0027】
続いて、本実施形態について、詳細に説明していく。本実施形態における車輪構造体10を構成する車輪18は、
図1及び
図2に示すように、外輪20と、外輪20の両側から相互対称となるパーツ23同士を組み立てることで嵌め込み、複数のボルト及びナットで締結される内輪22で構成されている。
【0028】
そして、内輪22を構成するパーツ23には、
図3に示すように、その中心点に対して、偏心した位置に軸孔24が設けられており、また、復元機構26を取り付けるための切り欠き部30が形成されている。なお、軸孔24は、中心点から可能な限り離れた位置に設ける(偏心させる)方が、車輪18の段差乗り越え時における推進力の低減に繋がる。さらに、内輪22の側面には、車輪支持部材12に取り付けられる領域以外には、外輪20を脱落させず、スムーズに回転させるためのガイド部42が形成されている。このような構成のパーツ23と、これと対称となる構成のパーツ23同士を合わせて組み立てることにより、
図3(d)に一例として示した内輪22が形成されることになるわけである。なお、本実施形態では、パーツ23は相互対称としているが、両側のパーツが組み合わさることで内輪22を構成できれば良いため、一部で非対称の形状があっても構わない。
【0029】
続いて、復元機構26は、
図1や、
図2(c)に示すように、内輪22に形成されている切り欠き部30に備えられるもので、切り欠き部30の一側壁にボルト及びナットで取り付けられた第1部材32(
図5参照)と、この第1部材32に対して所定角度をもって立ち上げられた状態の第2部材36(
図6参照)と、これらを内輪22の中心点側において、枢支連結させるヒンジピン34とからなるヒンジ構造と(
図7参照)、第1部材32と第2部材34の開閉側にこれらの部材に沿って配置される板バネ38とを備えるものである(
図7参照)。
【0030】
なお、本実施形態では、
図7等に示すように、板バネ38を、所定角度で屈曲させた状態で、ヒンジピン34の内側を通るように配置させているが、引張、圧縮、曲げ、ねじりの力に対して復元(反発)を行うことができるものであれば、どのようなバネ構造を有する復元機構を用いても良い。また、本実施形態では、切り欠き部30に取り付けているが、バネ構造に応じて、内輪22の適切な位置(例えば、側面側)に取り付けても良い。
【0031】
次に、車輪支持部材12は、
図1、
図2及び
図4に示すように、脚部14が、二股状となっており、この脚部14同士の間に車輪18が設置され、また、車輪支持部材12の両脚部14の下部側近傍にそれぞれ設けた支持孔15に車軸16を通すことによって、車輪支持部材12と、車輪18を固定している。その際、この偏心している軸孔24が、中心点を通る垂直線より前方向で、且つ、中心点を通る水平線より上方向の位置で、車軸16に支承させるようにする。
【0032】
そして、内輪22が、段差等に到達し、衝撃を受けたことにより、前方向に対して一定量前回転したときには、まず、
図8(a)に示すように、復元機構26の第2部材が、車輪支持部材12の後方向の端辺に当接した状態から、板バネ38とともに、内輪22が受けた衝撃を吸収していくことで、内輪22の前回転を抑制していく。
【0033】
その状態から、さらに、内輪22が前回転していくと、
図8(b)に示すように、復元機構26の第1部材32が、第2部材36方向に回転し、両者の空間が狭まり、その結果、板バネ38の屈曲が進んでいく。続いて、内輪22が受けた衝撃が吸収され、前回転動作が収まると、板バネ38の屈曲が元の状態に戻ろうとし、その反発力が、
図8(c)に示すように、内輪22の前方向に向けての後回転(逆回転)へと繋がり、衝撃を受ける前の状態に戻っていく。
【0034】
そして、車輪支持部材12の下部の端辺が、内輪22の側面に設けられた回転制止部28と接することにより、車輪18を車輪支持部材12に配置させた際の内輪22の所定位置(車輪支持部材12に車輪18を配置させた初期位置)から、内輪22の前方向に向けての後回転を制止することができるようになっている。なお、回転制止部28は、内輪22の両側面に設けても良いし、一方の側面のみに設けても良い。
【0035】
ここで、本発明に係る車輪構造体が、段差を乗り越える原理について、図面を参照しながら説明する。
図9は、本発明に係る車輪構造体の第1の実施形態において、段差乗り越え時の状態を示した一例図で、(a)は段差到達時、(b)は段差乗り越え開始時、(c)は段差乗り越え時、(d)は段差乗り越え終了時を表している。符号については、56が段差構造体である以外は、
図1等と同様である。
【0036】
まず、車輪18が平地を走行中は、外輪20が、内輪22を軸として回転することにより、車輪18が前方向に向かって前進する。続いて、
図9(a)に示すように、車輪18が段差に到達すると、その衝撃を復元機構26が吸収する。そして、段差の乗り越え開始時には、段差からの水平反力により、内輪22が前方向に対して、さらに前回転する。その際、(b)に示すように、復元機構26の第1部材32が、ヒンジピン34を軸にして、第2部材36方向へと押されて回動することで、両者の間隔が狭まり、板バネ38の屈曲が進んでいく。この動作により、内輪22が受けた衝撃力が復元機構26に吸収・緩和されるとともに、反発力が蓄積されていくことになる。
【0037】
続いて、ある程度の段差乗り越えが行われると、(c)に示すように、内輪22の前回転が停止し、そのままの姿勢で段差の乗り越えが続く。その後は、(d)に示すように、復元機構26が蓄積した反発力によって、内輪22が、徐々に前方向に対して後回転を始め、最終的に所定位置(車輪支持部材12に車輪18を配置させた初期位置)まで戻される。段差乗り越え後は、外輪20が、内輪22を軸として回転することにより、車輪18が前進していく。
【0038】
(検証実験1)
以下に、本発明に係る車輪構造体の効果について検証した実験結果について説明していく。
図10は、本実験に用いた装置の一例を示した図である。符号は、50が荷重試験機、52が滑車、54がワイヤー、56が段差構造体を示している以外は、
図1等と同様である。
【0039】
まず、本実験では、
図10に示すように、車輪構造体10と、車輪18を走行及び乗り越えさせる段差構造体56と、この段差構造体56を車輪18に対して後方向へと引っ張るワイヤー54と、さらに、ワイヤー54を滑車52経由で巻き取り、段差構造体56が受ける車輪18の乗り越え力を計測する荷重試験機50を用いた。つまり、ワイヤー54が、段差構造体56を後方向へと引っ張ることで、車輪18が、段差構造体56にて走行及び乗り越えができ、荷重試験機50が、乗り越え時の推進力を計測することができるわけである。
【0040】
なお、本実験では、段差構造体56の段差の高さは、10mm、20mm、30mm、40mmとし、それぞれの段差を乗り越える際の乗り越え力を測定していった。そして、外輪20は、外径を150mm、内径を110mmとし、車軸16は、回転中心から進行方向の前方・上方にそれぞれ30mm偏心した位置で軸孔24を支承させた。
【0041】
さらに、内輪22に取り付けた復元機構26の第1部材32を第2部材36方向に1°回転させる(閉じる)ために必要なトルク値は、87.1Nmmで、車輪18には、車輪支持部材12の重さも含み、1.98kgの重りを搭載させた。また、車輪構造体10との比較のために、外輪(外径:150mm、内径:110mm)と内輪から構成され、車軸の位置が、回転中心にある一般的な従来の車輪構造体についても同様の実験を行った。
【0042】
実験結果を
図11に示す。
図11に示すように、本発明に係る車輪構造体の方が、従来の車輪構造体と比較して、段差高さが高くなると、段差を乗り越えるために必要となる最大の力(乗り越え最大推進力)が低くなることが明らかになった。例えば、段差が20mmの場合には、約10%の低減が、そして、段差が40mmの場合には、約20%の低減が見られた。つまり、本発明に係る車輪構造体の方が、従来の車輪構造体よりも段差を乗り越えやすいということである。
【0043】
(検証実験2)
続いて、他の条件下でも同様の実験を行った。具体的には、車輪18に、車輪支持部材12の重さも含み、1.48kgの重りを搭載させて実験を行うというもので、その他の構成は検証実験1と同様である。実験結果を
図12に示す。本実験でも、本発明に係る車輪構造体の方が、従来の車輪構造体と比較して、段差高さが高くなると、段差を乗り越えるために必要となる最大の力(乗り越え最大推進力)が低くなることが分かる。
【0044】
(検証実験3)
さらに、別の条件下でも同様の実験を行った。具体的には、車輪18に、車輪支持部材12の重さも含み、0.98kgの重りを搭載させて実験を行うというもので、その他の構成は検証実験1と同様である。実験結果を
図13に示す。本実験では、段差が20mmでは、本発明に係る車輪構造体の方が、従来の車輪構造体と比較して、段差を乗り越えるために必要となる最大の力(乗り越え最大推進力)が高くなっているが、それ以降、段差が30mm、40mmになると、やはり、本発明に係る車輪構造体の方が、従来の車輪構造体と比較して、段差高さが高くなると、段差を乗り越えるために必要となる最大の力(乗り越え最大推進力)が低くなることが分かる。
【0045】
ここで、段差乗り越え時の推進力の理論について説明する。車輪が段差に到達した際に生じる推進力F
hは、
図14に示す計算式により算出されるもので、偏心距離であるa(前方)と、b(上方)の値が大きくなっていけば、推進力F
hは小さくなっていく。即ち、車軸の位置が、回転中心にある一般的な従来の車輪構造体よりも、車軸が偏心した位置にある車輪構造体の方が、推進力の面で優れるということになる。
【0046】
(検証実験4)
続いて、内輪の軸孔を偏心させることによる推進力の低減に関する有効性の検証実験を行った。実験は、復元機構26を取り外し、車輪の車軸の位置(即ち、軸孔の位置)をX(前方向)・Y(上方向)軸上、(0,0)/(15,15)/(15,30)/(30,15)/(30、30)と、それぞれ設定し(単位はmm)、段差高さを20mm、車輪18に、車輪支持部材12の重さも含み、0.69kgの重りを搭載させた条件下で、
図10に示す構成の装置により、最大推進力(最大荷重)を計測し、低減比を算出していった。比較として、低減比の理論式を次式(数式1)に示しておく。
【0048】
実験結果は、
図15に示す通りである。図に示すように、車軸の位置が偏心すればするほど、最大推進力(最大荷重)の値は小さくなることが分かる。そして、その結果から算出された実測低減比と、上記数式1の理論式で計算した低減比にも相関性があることが読み取れる。また、
図16にも示すように、経過時間1〜2秒の間にて車輪が段差を乗り越える際、やはり、車軸の位置が偏心している車輪の方が、乗り越え推進力が低いということが読み取れる。
【0049】
(検証実験5)
次に、本発明の実施形態における復元機構による衝撃緩和及び復元(反発力)の検証実験を行った。板バネ(38)には、厚みが1mmで、横幅が25mmのCFRP板バネを用い、復元機構(26)の第1部材(32)を第2部材(36)方向に回転させた際の角度と、それにより生じるトルク値を計測した。その結果を
図17に示す。グラフが示すように、本検証実験にて用いた板バネ(38)を復元機構(26)に用いることが、本発明の実施形態において、適切であるという結論に達した。