特許第6559002号(P6559002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6559002ラムダセンサ故障診断方法及び車両用動作制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559002
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ラムダセンサ故障診断方法及び車両用動作制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20190805BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20190805BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20190805BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20190805BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20190805BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   G01N27/26 391A
   G01N27/41 325P
   G01N27/419 327P
   G01N27/409 100
   F02D41/22 305K
   F02D45/00 368H
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-149844(P2015-149844)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-32312(P2017-32312A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−105960(JP,A)
【文献】 特開2000−205032(JP,A)
【文献】 特開2008−231994(JP,A)
【文献】 特開平07−083098(JP,A)
【文献】 特開2011−164087(JP,A)
【文献】 特開2009−025251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26
G01N 27/409
G01N 27/41
G01N 27/419
F02D 41/22
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中の酸素濃度を検出するラムダセンサの始動後における前記ラムダセンサの素子温度が所定の基準温度を超えてない場合に、前記ラムダセンサの故障と診断するラムダセンサ故障診断方法において、
外気温度を間接的に推測可能な指標温度によって、前記外気温度が所定の判定温度を下回るか否かを判定し、前記外気温度が前記判定温度を下回ると判定された場合に、前記ラムダセンサのヒータに通電制御を行っても外気によって熱が奪われることによる該ラムダセンサの素子温度の低下があることにより前記ラムダセンサの素子温度の上昇抑圧されラムダセンサ素子冷えの状態にあるとして、前記ラムダセンサの素子温度によるラムダセンサの故障の有無の診断を一時的に保留することを特徴とするラムダセンサ故障診断方法。
【請求項2】
前記指標温度は、排気ガスの温度であることを特徴とする請求項1記載のラムダセンサ故障診断方法。
【請求項3】
前記指標温度は、前記排気ガスが通過する排気管の壁面温度であることを特徴とする請求項1記載のラムダセンサ故障診診断方法。
【請求項4】
前記ラムダセンサの素子温度によるラムダセンサの故障の有無の診断が一時的に保留されている間、前記ラムダセンサのヒータの通電量を、前記ラムダセンサのヒータの通電制御に優先して強制的に低下せしめ、前記ラムダセンサの保護を図ることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれか記載のラムダセンサ故障診断方法。
【請求項5】
ディーゼルエンジンの動作制御実行可能に構成されてなる電子制御ユニットと、排気ガス中の酸素濃度を検出するラムダセンサとを具備し、前記ラムダセンサの出力信号が、前記電子制御ユニットによるエンジンの動作制御処理に供されるよう構成されてなる車両用動作制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記ラムダセンサの始動後における前記ラムダセンサの素子温度が所定の基準温度を超えてない場合に、前記ラムダセンサの故障と診断する一方、
外気温度を間接的に推測可能な指標温度によって、前記外気温度が所定の判定温度を下回るか否かを判定し、前記外気温度が前記判定温度を下回ると判定された場合に、前記ラムダセンサのヒータに通電制御を行っても外気によって熱が奪われることによる該ラムダセンサの素子温度の低下があることにより前記ラムダセンサの素子温度の上昇抑圧されラムダセンサ素子冷えの状態にあるとして、前記ラムダセンサの素子温度によるラムダセンサの故障の有無の診断を一時的に保留するよう構成されてなることを特徴とする車両用動作制御装置。
【請求項6】
前記指標温度は、排気ガスの温度であることを特徴とする請求項5記載の車両用動作制御装置。
【請求項7】
前記指標温度は、前記排気ガスが通過する排気管の壁面温度であることを特徴とする請求項5記載の車両用動作制御装置。
【請求項8】
前記電子制御ユニットは、
前記ラムダセンサの素子温度によるラムダセンサの故障の有無の診断が一時的に保留されている間、前記ラムダセンサのヒータの通電量を、前記ラムダセンサのヒータの通電制御に優先して強制的に低下せしめるよう構成されてなり、前記素子冷えの状態における前記ラムダセンサの保護を可能としたことを特徴とする請求項5乃至請求項7いずれか記載の車両用動作制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の空燃比制御等のために用いられるラムダセンサの故障診断方法に係り、特に、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車両においては、エンジンにおける燃料の燃焼効率の向上が常に重要な技術的課題であり、そのため、例えば、ラムダセンサ等のセンサにより燃焼状態を把握しつつ燃焼状態を良好に維持するための方法、装置等が種々提案、実用化されていることは良く知られている通りである。
車両動作に大きな影響を与える燃焼状態の把握等に用いられるラムダセンサは、センサ自体の温度がある一定温度範囲に維持された状態において正確な検出動作が保証されるものであるため、センサに設けられたヒータの温度制御が重要であり、様々な温度制御に関する方法、装置等が提案、実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
ところで、ラムダセンサは、ほぼ外気に晒される状態で設けられることが多く、車両が極低温の環境下において用いられる場合などにおいては、ヒータが発生する熱が外気や冷風により奪われるため、ヒータによるラムダセンサの素子温度上昇が遅々として進まず、むしろ温度低下が生じてしまう、いわゆる素子冷えの状態となることがある。
【0004】
一方、ラムダセンサを備えた車両においては、ラムダセンサの重要性等の観点から、正常な状態か否かの診断処理が実行されるよう構成されており、その診断処理の手法としては、例えば、ヒータ温度が所定温度以上に所定時間以上維持されているか否かによって正常か否か等の診断が行われるものが一般的である。
【0005】
ところが、このような従来の故障診断においては、車両が用いられる際の環境条件を何ら考慮していないため、先の素子冷えによってラムダセンサの素子温度の上昇が遅いだけであっても故障と診断され、警報発生等の処理が行われる場合があり、必ずしも十分な信頼性のある故障診断を提供するものではない。
そこで、そのような問題に対処する方策としては、例えば、外気温度を直接検出する温度センサを設け、検出温度に基づいて、素子冷えが生じているか否かを判定することで、上述のような誤診断を回避する構成とすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−24538号公報(第5−17頁、図1図13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のように外気温度検出のため専用の温度センサを新たに設ける構成は、問題解決の手段としては、簡潔であるが、部品の設置スペースについて数々の制約がある車両にあっては、新たな構成部品の追加は現実的ではなく、仮に、そのような構成と採り得るとしても、単に部品点数の増加に留まらず、製造工程においては、追加センサの取り付け作業、検査作業等の新たな作業が必要となり、結果的に装置価格の上昇を招くという問題がある。
【0008】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、新たな部品を追加すること無く、極低温の環境下にあってもラムダセンサの故障の有無をより的確に診断可能なラムダセンサ故障診断方法及び車両用動作制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るラムダセンサ故障診断方法は、
ラムダセンサの始動後における前記ラムダセンサの素子温度が所定の基準温度を超えてない場合に、前記ラムダセンサの故障と診断するラムダセンサ故障診断方法において、
外気温度を間接的に推測可能な指標温度によって、前記外気温度が所定の極低温状態にあるか否かを判定し、前記指標温度によって外気温度が所定の極低温状態にあると判定された場合に、前記ラムダセンサの素子温度の上昇が前記極低温状態のために抑圧され、前記ラムダセンサが素子冷えの状態にあるとして、前記ラムダセンサの素子温度によるラムダセンサの故障の有無の診断を一時的に保留するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両用動作制御装置は、
ディーゼルエンジンの動作制御が実行が可能に構成されてなる電子制御ユニットと、排気ガス中の酸素濃度を検出するラムダセンサとを具備し、前記ラムダセンサの出力信号が、前記電子制御ユニットによるエンジンの動作制御処理に供されるよう構成されてなる車両用動作制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記ラムダセンサの始動後におけるラムダセンサの素子温度が所定の基準温度を超えてない場合に、前記ラムダセンサの故障と診断する一方、
外気温度を間接的に推測可能な指標温度によって、前記外気温度が所定の極低温状態にあるか否かを判定し、前記指標温度によって外気温度が所定の極低温状態にあると判定された場合に、前記ラムダセンサの素子温度の上昇が前記極低温状態のために抑圧され、前記ラムダセンサが素子冷えの状態にあるとして、前記ラムダセンサの素子温度によるラムダセンサの故障の有無の診断を一時的に保留するよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、既存のセンサの出力値又はシミューレーション温度を指標温度として用いて外気が極低温状態にあるか否かを判定するようにし、極低温状態にあると判定され、しかも、ラムダセンサ自体は正常であるにも関わらず、ラムダセンサの素子温度が本来の温度に至っていないと判定された場合には、ラムダセンサの素子温度のみでラムダセンサの故障の有無を診断する従来の処理を強制的に保留状態とするため、ラムダセンサの素子温度のみに依存することに起因する誤った故障診断結果の発生を確実に低減、防止し、より信頼性の高い故障診断を行うことができるという効果を奏するものであり、ラムダセンサや電子制御ユニットの無用な交換を低減する効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態における車両用動作制御装置としてのコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態におけるエンジンに適用される排気ガス再循環装置の構成例を示す構成図である。
図3】本発明の実施の形態におけるラムダセンサ故障診断処理の前半部分の手順を示すサブルーチンフロチャートである。
図4】本発明の実施の形態におけるラムダセンサ故障診断処理の後半部分の手順を示すサブルーチンフロチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図4を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるラムダセンサ故障診断方法が適用される車両用動作制御装置としてのコモンレール式燃料噴射制御装置の一構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料を内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下「エンジン」と称する)3の気筒へ燃料を噴射供給する複数のインジェクタ(燃料噴射弁)2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述するラムダセンサ故障診断処理などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種のコモンレール式燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0013】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0014】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
インジェクタ2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。
【0015】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、インジェクタ2−1〜2−nを通電駆動するための回路(図示せず)や、調量弁6等を通電駆動するための回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数、アクセル開度、外気温度、大気圧などの各種の検出信号が、エンジン3の動作制御や燃料噴射制御、さらには、本発明の実施の形態におけるラムダセンサ故障診断処理等に供するために入力されるようになっている。
【0016】
また、本発明の実施の形態においては、エミッションの低減等のために図2に示されたように排気ガス再循環装置101が設けられたものとなっている。
以下、図2を参照しつつ、排気ガス再循環装置101の構成について説明する。
エンジン3のインテークマニホールド14aには、燃料の燃焼のために必要な空気を取り入れる吸気管12が、また、エキゾーストマニホールド14bには、排気ガスを排気するための排気管13が、それぞれ接続されている。
【0017】
そして、吸気管12と排気管13を連通する連通路15が、吸気管12と排気管13の適宜な位置に設けられると共に、この連通路15の途中には、排気管13側から、通過排気ガスの冷却を行うためのEGRクーラ17と、連通路15の連通状態、換言すれば、排気ガスの還流量を調節するためのEGRバルブ16とが順に配設されている。
【0018】
また、排気管13において連通路15より下流側に設けられた可変タービン19と、吸気管12において連通路15より上流側に設けられた圧縮機20とを主たる構成要素としてなる公知・周知の構成を有する可変ターボ18が設けられている。そして、可変タービン19により得られた回転力により圧縮機20が回転せしめられて、圧縮された空気が吸入空気としてインテークマニホールド14aへ送出されるようになっている。
さらに、吸気管12には、先に述べた連通路15と可変ターボ18の間の適宜な位置において、吸入空気の冷却を行うインタークーラ21が設けられている。
そして、このインタークーラ21と連通路15との間には、吸入空気の量を調整するためのインテークスロットルバルブ22が設けられている。
【0019】
また、吸気管12の上流側には、吸入空気を清浄するためのフィルタ23が設けられており、その下流側には、フィルタ23を介して流入する吸入空気量を検出するためのエアマスセンサ24が設けられている。
さらに、吸気管12においては、インタークーラ21とインテークスロットルバルブ22との間に、エンジン1の吸入空気の温度を検出するための吸気温度センサ25が設けられると共に、インテークスロットルバルブ22の下流側には、インテークマニホルド14aの吸気圧を検出する吸気圧センサ26が設けられている。
【0020】
一方、排気管13においては、可変タービン19の下流側に排気ガスの流れを妨げるエキゾーストブレーキ28(もしくはエキゾーストフラップ)が設けられ、さらにエキゾーストブレーキ28の下流側にラムダセンサ27が設けられている。
これら、エアマスセンサ24、吸気温度センサ25、吸気圧センサ26、及び、ラムダセンサ27の検出信号は、電子制御ユニット4に入力されて、燃料噴射制御処理や、後述する本発明の実施例におけるラムダセンサ故障診断処理等に供されるようになっている。
【0021】
次に、電子制御ユニット4により実行される本発明の実施の形態におけるラムダセンサ故障診断処理について、図3及び図4を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初に、ラムダセンサ27に設けられているヒータ(図示せず)に通電が行われ、ラムダセンサの素子温度が第1基準温度以下で、かつ、車両用バッテリ(図示せず)の電圧(バッテリ電圧)が基準バッテリ電圧を下回っているか否かが判定される(図3のステップS102参照)。
ステップS102において、ラムダセンサの素子温度が第1基準温度以下で、かつ、車両用バッテリ(図示せず)の電圧(バッテリ電圧)が基準バッテリ電圧を下回っていると判定された場合(YESの場合)には、診断条件に合致せず、診断不可能として一連の処理が終了され(図4のステップS128参照)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0022】
すなわち、ラムダセンサの素子温度が第1基準温度以下で、かつ、バッテリ電圧が基準バッテリ電圧を下回っている状態においては、ラムダセンサの素子温度がラムダセンサ27の正常な動作を確保できる温度に到達しておらず、しかも、バッテリ電圧が基準バッテリ電圧を下回っている状態においてはラムダセンサの素子温度を所望の温度に上昇させるに十分な電圧ではなく、ラムダセンサ27の正常な動作が確保できない状態であるため、 以下の処理に基づく故障診断が不可能とされることとなる。
【0023】
なお、ラムダセンサ27には、ラムダセンサの素子温度計測のための温度計測用内部抵抗器(図示せず)が設けられており、ステップS102において判定されるラムダセンサの素子温度は、温度計測用内部抵抗器(図示せず)を用いて求められるものとなっている。
すなわち、温度計測用内部抵抗器(図示せず)の抵抗値とラムダセンサの素子温度との間には、一定の相関関係があり、その相関関係は、ラムダセンサ27の電気的特性の一つとして予め把握されているため、ラムダセンサの素子温度は、その相関関係に基づいてヒータ(図示せず)への通電電流量を電子制御ユニット4において演算算出すると共に、制御されるものとなっている。
【0024】
一方、ステップS102において、ラムダセンサの素子温度が第1基準温度以下で、かつ、バッテリ電圧が基準バッテリ電圧を下回っている状態にはないと判定された場合(NOの場合)には、ラムダセンサ27自体正常か否かが判定される(図3のステップS104参照)。
すなわち、ラムダセンサ27自体が正常か否かは、例えば、断線や短絡の発生の有無、ラムダセンサ27自体の出力電圧が所定電圧範囲外の状態にあるか否か等を判定することによって行われる。このようなラムダセンサ27自体が正常か否かの判定処理は、従来から行われているものであり、本発明の実施の形態においても、電子制御ユニット4において従来同様に別個に実行されるものとなっていることを前提としている。したがって、このステップS104においては、上述のような断線や短絡等の有無などを改めて判定する必要はなく、上述のように別個に実行されて得られたラムダセンサ27自体が正常か否かの判定結果を流用すれば良い。
【0025】
しかして、ステップS104において、ラムダセンサ27自体は正常と判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS106の処理へ進む一方、ラムダセンサ27自体正常ではないと判定された場合(NOの場合)には、以後の処理を実行するに適した状態ではないため、ステップS128を経て、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0026】
次に、ステップS106においては、ラムダセンサ27のラムダセンサの素子温度計測のためラムダセンサ27内に設けられている温度計測用内部抵抗(図示せず)が正常か否かの判定が行われる。
温度計測用内部抵抗(図示せず)が正常か否かは、例えば、通電により得られる電流と、その通電時の電圧に基づいて算出される抵抗値が、予め求められている温度計測用内部抵抗器の動作状態において生ずる抵抗値の範囲内にあるか否かによって判定することができる。
【0027】
しかして、ステップS106において、温度計測用内部抵抗(図示せず)が正常と判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS108の処理へ進む一方、温度計測用内部抵抗(図示せず)は正常ではないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS128を経て、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0028】
ステップS108においては、車両が始動された直後、換言すれば、ラムダセンサ27のヒータ(図示せず)への通電が開始された直後にあって、ヒータデューティ(Heater Duty)が基準デューティを越えているか、又は、同じく、車両が始動された直後にあって、ラムダセンサの素子温度が第2基準温度を超えているか否かが判定される。
そして、ヒータデューティ(Heater Duty)が基準デューティを越えていないと判定され、かつ、ラムダセンサの素子温度が第2基準温度を超えていないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS128を経て、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0029】
一方、ヒータデューティ(Heater Duty)が基準デューティを越える、又は、ラムダセンサの素子温度が第2基準温度を超えている場合(YESの場合)には、ステップS110の処理へ進むこととなる。
ここで、ラムダセンサ27のヒータ(図示せず)の通電は、通常、PWM制御されるものとなっており、ヒータデューティは、そのPWM制御によるヒータ(図示せず)の通電制御の繰り返し周期(時間)に対する通電時間の割合である。
【0030】
車両が始動された直後、換言すれば、ラムダセンサ27のヒータ(図示せず)への通電が開始された直後においては、ラムダセンサ27が十分暖まっていない可能性がある。一方、基準デューティは、ほぼ、最大の通電状態におけるヒータデューティであるため、特に、極低温の気象環境下において、ラムダセンサ27が十分暖まっていないか、ほぼ外気温度に近い状態で、最大の通電状態としてラムダセンサの素子温度を急激に上昇させると、ラムダセンサ27の内部にある水分がヒータ(図示せず)の熱によって急激に暖められて蒸発する(奪われる)際にラムダセンサ27の破損を招く可能性がある。
そのため、ステップS108において、車両が始動された直後にあって、ラムダセンサ27が破損しない様、ヒータ(図示せず)への通電量を抑制し、ラムダセンサ27内部の水分を徐々に蒸発させる予熱の制御を実施しているため、ヒータデューティ(Heater Duty)が基準デューティを越えるまでは、これ以後の故障診断処理を実施する準備が整っていないため、故障診断実施可能な温度に上昇するまで故障診断処理を一時的に保留する。
【0031】
また、車両の始動直後において、ラムダセンサの素子温度が第2基準温度(第1基準温度>第2基準温度)を超えているような場合とは、始動前の直近の時期に、ラムダセンサ27のヒータ(図示せず)の通電が行われ、その後、車両のイグニッションスイッチ(図示せず)がオフとされて動作停止状態とされた後、再始動されて、ステップS108の処理時点で未だラムダセンサの素子温度が比較的高い状態にある場合を意味する。
このような状態は、ラムダセンサ27は正常に動作していたと判断し、ステップS110の処理へ進むこととなる。
【0032】
ステップS110においては、車両がオーバーラン状態にあるか否か、すなわち、アクセルの踏み込みが無く、無噴射状態であるか否かが判定され、オーバーラン状態であると判定された場合(YESの場合)には、故障診断を実行するに適した状態ではないとして、ステップS128を経て、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
車両がオーバーラン状態にある場合には、エキゾーストブレーキ28によって排気風が遮断されてラムダセンサ27に排気ガスが当たらないため、酸素量を正しく計測することができず、この故障診断を実行する意味がなくなるため、上述のように一連の処理を終了することとしている。
【0033】
一方、ステップS110において、オーバーラン状態ではないと判定された場合(NOの場合)には、指標温度が異常か否かが判定される(図4のステップS112参照)。
ここで、指標温度は、ラムダセンサ27のラムダセンサの素子温度が正常か否かを判定するために指標とされ、外気温度を間接的に推測可能な温度であり、具体的には、従来から車両に搭載されている温度センサ、例えば、吸気温度センサ(図示せず)等のセンサにより検出される温度の中から任意に選択し、指標温度として用いる方法を採るのが好適である。
【0034】
また、シミュレーション温度モデルを任意に選定し、電子制御ユニット4においてシュミレーション温度を演算算出したものを指標温度として用いるようにしてもよい。このようなシミュレーション温度としては、例えば、排気管の壁面温度が好適である。排気管の壁面温度は、排気管の熱容量、排気流量、排気温度等を基に、予め定められた演算式により算出可能なものであり、従来から良く知られている手法である。
指標温度は、上述のように所望に応じて任意に選択されるものであるので、その温度が異常か否かの判断基準は、選択したセンサ、又は、温度モデルに応じてそれぞれ設定されるものであり、特定の値に限定されるものではない。
【0035】
しかして、指標温度が異常と判定された場合(YESの場合)には、指標温度を用いたステップS122以降の処理を実行するに適した状態ではないとして、ステップS114の処理へ進む一方、指標温度は異常ではないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS122の処理へ進むこととなる。
【0036】
ステップS122においては、指標温度が判定温度を下回っているか否かが判定され、判定温度を下回っていると判定された場合(YESの場合)には、ステップS124の処理へ進む一方、判定温度を下回っていないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS114の処理へ進むこととなる。
ここで、判定温度は、指標温度が外気温の極低温状態に対応する温度であるか否かを判定するための温度である。
本発明の実施の形態においては、極低温状態として外気温度が−25度以下にある場合を想定しており、判定温度は、指標温度が外気温−25度以下に対応する温度と判定するための温度である。かかる判定温度は、何を指標温度として用いているかによって異なるものであり、特定の温度に限定されるものではない。
【0037】
しかして、ステップS122において、指標温度が判定温度を下回っていると判定された場合(YESの場合)、すなわち、本発明の実施の形態においては、指標温度が外気温度の−25度以下に対応する温度であると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS124の処理へ進む一方、指標温度が外気温度の−25度以下に対応する温度ではないと判定された場合(NOの場合)には、後述するステップS114の処理へ進むこととなる。
【0038】
ステップS124においては、ラムダセンサ27の故障診断が一時的に保留状状態とされることとなる。ここで、一時的に保留とされる故障診断は、図3及び図4に示された本発明の実施の形態におけるラムダセンサ故障診断処理と独立して実行可能な、例えば、断線検出などの処理を除き、図3及び図4に示された本発明の実施の形態におけるラムダセンサ故障診断処理が実行されることが前提となっている他の故障診断処理が含まれるものとなっている。
指標温度が、外気温度の−25度以下に対応する温度であると判定された状態においては、ラムダセンサ27のヒータ通電を行ってもラムダセンサの素子温度の上昇分に比して、外気によって熱が奪われることによるラムダセンサの素子温度の低下分が大となる、いわゆる”素子冷え”の状態となる。そのため、ラムダセンサ27の見かけ上の素子温度は、通電に見合った温度に至らず、低い温度となるため、このよう状態で故障診断を行うと、ラムダセンサ27自体は故障ではないにも関わらず、故障と誤判定されてしまう可能性がある。ステップS124においては、そのような誤判断を回避するため故障診断の実行が一時的に保留されるものとなっている。
【0039】
次いで、ヒータデューティが強制的に低下せしめられ、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
ここで、ヒータデューティの低下は、ヒータ(図示せず)の通電量を減ずる意味であり、このようにヒータデューティの低下、すなわち、ヒータデューティを強制的に小さくするのは、外気温度が−25度以下の環境下においては、通常同様に大きい通電量でヒータ通電を行うと、想定される最大出力での通電時間が長くなり、製品寿命を著しく低下させる結果となり、それを極力回避するためである。
また、極低温状況においては、ラムダセンサ27の内部に水分が付着もしくは結露が発生し、ラムダセンサ27を破損する可能性があるため、ヒータ(図示せず)への通電を完全に停止せず、水分が急激に蒸発しない程度にヒータ(図示せず)への通電をおこなっている。
なお、ヒータデューティをどの程度低下させるかは、ラムダセンサ27の個々の具体的電気的仕様等を考慮し、試験結果やシミュレーション結果に基づいて定めるのが好適である。
【0040】
一方、ステップS114においては、指標温度が異常で信用できない状況(図4のステップS112参照)、又は、素子冷えが発生していない状況(図4のステップS122参照)であることに対応して、ラムダセンサの素子温度が第3基準温度を下回っており、その状態が所定の判定時間以上継続しているか否かが判定される。
【0041】
そして、ステップS114において、ラムダセンサの素子温度が第3基準温度を下回っており、その状態が所定の判定時間以上継続状態にあると判定された場合(YESの場合)には、ラムダセンサの素子温度が本来の温度に達しない状態、すなわち、”ラムダセンサの素子温度エラー”の状態であるとされ(図4のステップS116参照)、ラムダセンサ27の通電制御が強制的に停止せしめられると共に、警報処理が行われる(図4のステップS118参照)。この後、一連の処理が終了され、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0042】
ここで、所定の判定時間は、ラムダセンサ27の具体的な仕様等を考慮して、試験結果やシミュレーション結果に基づいて適宜選定されるべきものであり、特定の値に限定されるものではない。
また、警報処理は、例えば、いわゆるMIL(Multi function Indicator Lamp)ランプの点灯や鳴動素子による警報音の発生等などが好適であり、これらを適宜組み合わせて行うようにすればさらに好適である。
【0043】
一方、ステップS114において、ラムダセンサの素子温度が第3基準温度を下回った状態が所定の判定時間以上継続状態されていないと判定された場合(NOの場合)には、ラムダセンサ27のヒータ(図示せず)は異常ではないとして、一連の処理が終了され、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる(図4のステップS120参照)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
極低温の環境下におけるラムダセンサの信頼性の高い故障診断が所望される車両に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1…コモンレール
3…エンジン
4…電子制御ユニット
27…ラムダセンサ
図1
図2
図3
図4