特許第6559081号(P6559081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559081
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   H02M3/155 Q
   H02M3/155 P
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-27950(P2016-27950)
(22)【出願日】2016年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-147850(P2017-147850A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 将也
(72)【発明者】
【氏名】山口 宜久
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 仁浩
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−129393(JP,A)
【文献】 特開2011−211797(JP,A)
【文献】 特開2015−095935(JP,A)
【文献】 特開2006−223008(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/105795(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相補にスイッチングを行うメインスイッチと同期整流スイッチと、第1磁気部品と、を備え、前記メインスイッチと前記同期整流スイッチが相補的にオンオフされることにより、入力電圧を所定電圧に変換して出力するスイッチング回路と、
補助スイッチと、第2磁気部品と、を備え、前記メインスイッチと前記同期整流スイッチのいずれかがオフ状態のときに前記補助スイッチがオン状態にされることにより、前記メインスイッチと前記同期整流スイッチの容量成分と前記第2磁気部品とで共振動作させる補助スイッチング回路と、
前記メインスイッチと前記同期整流スイッチと前記補助スイッチのスイッチングを制御する制御部と、
前記メインスイッチと前記同期整流スイッチの端子間電圧を検出する電圧検出部と、を備える電力変換装置であって、
前記制御部は、前記電圧検出部により検出された前記メインスイッチと前記同期整流スイッチの端子間電圧の立ち上がり波形又は立ち下がり波形に基づいて、前記補助スイッチに対する制御信号を生成し、
前記スイッチング回路は、容量成分を並列に備えたメインスイッチと、容量成分を並列に備え前記メインスイッチに直列接続された同期整流スイッチと、第1端及び第2端を両端とし前記メインスイッチと前記同期整流スイッチとの接続点に前記第1端が接続された第1磁気部品と、を備え、
前記補助スイッチング回路は、前記第1磁気部品の前記第1端に前記第1磁気部品に並列に接続された回路であって、前記補助スイッチと、前記第2磁気部品と、前記補助スイッチとは別の素子の補助スイッチ又はダイオードである補助素子とを備え、
前記第1磁気部品はメインリアクトルであり、
前記第2磁気部品は補助リアクトルであり、
前記メインスイッチがオン状態のときに、電源から前記メインリアクトルに電流が供給され、前記同期整流スイッチがオン状態のときに、前記メインリアクトルから負荷に電流が供給されるものであり、
前記メインスイッチと前記同期整流スイッチとの直列体の高電位側端子と低電位側端子との間に接続された第1平滑コンデンサと、
前記メインリアクトルの第2端と前記直列体の前記低電位側端子との間に接続された第2平滑コンデンサと、
前記メインスイッチ又は前記同期整流スイッチの前記端子間電圧と閾値との比較と、前記同期整流スイッチに対する制御信号とから、前記同期整流スイッチの端子間電圧の立ち上がり又は前記メインスイッチの端子間電圧の立ち下がりの開始から終了までの遷移時間を検出する遷移時間検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記電源の入力電圧と、前記負荷の目標電圧又は目標電流と、前記負荷の実電圧又は実電流とに基づいて、前記メインスイッチ及び前記同期整流スイッチに対する制御信号を生成するとともに、
前記遷移時間検出部により検出された前記遷移時間の検出値と、前記遷移時間の目標値とに基づいて、前記補助スイッチに対する制御信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記目標電圧と前記実電圧との電圧偏差に基づき、前記実電圧が前記目標電圧になるように、又は、前記目標電流と前記実電流との電流偏差に基づき、前記実電流が前記目標電流になるように、前記メインスイッチ及び前記同期整流スイッチに対する制御信号を生成するとともに、
前記遷移時間の目標値と前記遷移時間の検出値との時間偏差に基づき、前記遷移時間の検出値が前記遷移時間の目標値になるように、前記補助スイッチに対する制御信号を生成することを特徴とする請求項に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記遷移時間の目標値は、前記遷移時間に対する損失の変化量が所定値未満となる前記遷移時間の範囲内の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記遷移時間の目標値は、前記補助リアクトルと、前記メインスイッチに並列に接続された容量成分と、前記同期整流スイッチに並列に接続された容量成分との共振周期の1/8から4/13までの範囲内の値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記遷移時間の目標値は、前記補助リアクトルと、前記メインスイッチに並列に接続された容量成分と、前記同期整流スイッチに並列に接続された容量成分との共振周期の1/4であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記メインスイッチ、前記同期整流スイッチ、前記第1磁気部品及び前記補助スイッチング回路は降圧コンバータを構成し、
前記メインスイッチ及び前記同期整流スイッチは、降圧コンバータの直列接続されたスイッチであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記メインスイッチ、前記同期整流スイッチ、前記第1磁気部品及び前記補助スイッチング回路は昇圧コンバータを構成し、
前記メインスイッチ及び前記同期整流スイッチは、昇圧コンバータの直列接続されたスイッチであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第1磁気部品の両端の間に、前記補助スイッチング回路と並列に容量成分が接続されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第1磁気部品はメインリアクトルであり、
前記第2磁気部品は補助リアクトルであり、
前記メインリアクトルと前記補助リアクトルとは互いに磁気結合していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記補助スイッチング回路はダイオードを含み、
前記ダイオードのアノード端子がグラウンド電位に接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記補助スイッチング回路はダイオードを含み、
前記ダイオードのアノード端子が電源の高電位側に接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記補助スイッチング回路は、2つの補助スイッチを含み、
前記2つの補助スイッチは、前記第2磁気部品を介して直列接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力電圧を所定電圧に変換して出力する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置には、スイッチング損失を低減させて高効率化するために、スイッチング素子に印加される電圧をゼロにした状態でそのスイッチング素子をスイッチングさせるという、ゼロボルトスイッチング(以下、ZVSと言う)制御を行うものがある。ZVS制御を行う電力変換装置として、特許文献1に記載のDC/DCコンバータがある。
【0003】
特許文献1に記載のDC/DCコンバータは、オンオフ操作されることにより入力電圧を所定電圧に変換するメインスイッチ及び同期整流スイッチと、補助共振回路とを備える。そして、上記DC/DCコンバータは、電流センサを用いて補助共振回路を流れる補助電流を検出し、検出した補助電流が、メインスイッチの端子間電圧がゼロとなる所定の条件を満たした場合に、同期整流スイッチをターンオフして共振動作を起こしている。さらに、デッドタイム後にメインスイッチをターンオンして、メインスイッチの確実なZVSを達成している。所定の条件は、検出した補助電流が、入出力電圧やスイッチの寄生容量、リアクトルのインダクタンス値等によって決まる値以上となることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−129393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記DC/DCコンバータは、電流センサを用いて検出した補助電流に基づいて、ZVS制御を行っている。電流センサにより検出される補助電流は、入出力電圧の変動、電流センサの検出精度、スイッチの寄生容量のばらつき、リアクトルのインダクタンス値のばらつき、及び温度特性等により変動する。そのため、種々のばらつきを考慮して、最もばらつきが大きい場合でもZVSを達成するように、補助共振回路に余裕を持った補助電流が流れるようにする必要がある。その結果、ZVSを実現する最小の補助電流よりも大きな補助電流が流れコンバータ全体の損失が増加するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑み、最適なZVSを実現することが可能な電力変換装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、メインスイッチと、同期整流スイッチと、第1磁気部品と、を備え、前記メインスイッチと前記同期整流スイッチとが相補的にオンオフされることにより、入力電圧を所定電圧に変換して出力するスイッチング回路と、補助スイッチと、第2磁気部品と、を備え、前記メインスイッチがオフ状態のときに前記補助スイッチがオン状態にされることにより、前記メインスイッチの端子間電圧を抑制するエネルギを放出する補助スイッチング回路と、前記メインスイッチと前記同期整流スイッチと前記補助スイッチのスイッチングを制御する制御部と、前記メインスイッチ又は前記同期整流スイッチの端子間電圧を検出する電圧検出部と、を備える電力変換装置であって、前記制御部は、前記電圧検出部により検出された前記同期整流スイッチの端子間電圧の立ち上がり波形又は前記メインスイッチの端子間電圧の立ち下がり波形に基づいて、前記電力変換装置の損失が所定よりも小さくなるように、前記補助スイッチに対する制御信号を生成する。
【0008】
本発明によれば、同期整流スイッチがオン状態のときに、補助スイッチをターンオンすることにより、第2磁気部品に補助電流が流れエネルギが蓄積される。そして、補助スイッチをオン状態にしたまま同期整流スイッチをターンオフすると、第2磁気部品に蓄積されたエネルギがメインスイッチ及び同期整流スイッチ側に放出される。その結果、メインスイッチの端子間電圧がゼロとなり、メインスイッチのZVSが実現される。このとき、補助スイッチング回路を流れる補助電流がZVSを実現できる最小値よりも大きければ電力変換装置の損失が大きくなり、補助電流がZVSを実現できる最小値よりも小さければZVSを実現できずに損失が大きくなる。
【0009】
ここで、補助スイッチと同期整流スイッチとが同時にオン状態となっている時間が長いほど、第2磁気部品に流れる補助電流は大きくなり、第2磁気部品に蓄積されるエネルギが大きくなる。第2磁気部品に蓄積されるエネルギが大きくなると、第2磁気部品に蓄積されたエネルギの放出時に、同期整流スイッチの端子間電圧が急激に立ち上がり、メインスイッチの端子間電圧が急激に立ち下がる。したがって、同期整流スイッチの端子間電圧の立ち上がり波形、及びメインスイッチの端子間電圧の立ち下がり波形には、補助電流の情報が表れる。すなわち、立ち上がり波形が急激に立ち上がっている場合、及び立ち下がり波形が急激に立ち下がっている場合は、補助電流が過大であり、立ち上がり波形が緩やかに立ち上がっている場合、及び立ち下がり波形が緩やかに立ち下がっている場合は、補助電流が過小である。また、立ち上がり波形及び立ち下がり波形は、入出力電圧の変動や、素子のばらつき、温度特性等の要因を全て含んだ過渡現象である。よって、同期整流スイッチの立ち上がり波形又はメインスイッチの立ち下がり波形に基づいて、補助スイッチに対する制御信号を生成することにより、素子のばらつき等を考慮して余裕を見た補助電流を流さなくてもZVSを実現できる。そのため、電力変換装置の損失を低減することができる。したがって、最適なZVSを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る降圧コンバータの構成を示す図。
図2】降圧コンバータの(a)上アームのゲート電圧、(b)下アームのゲート電圧、(c)補助スイッチのゲート電圧、(d)上アーム端子間電圧、(e)下アーム端子間電圧、(f)メインリアクトル電流、(f)補助電流のタイムチャート。
図3図2のA期間を拡大したタイムチャート。
図4】降圧コンバータの動作態様を示す回路図。
図5】降圧コンバータの動作態様を示す回路図。
図6】降圧コンバータの動作態様を示す回路図。
図7】降圧コンバータの動作態様を示す回路図。
図8】降圧コンバータの動作態様を示す回路図。
図9】降圧コンバータの動作態様を示す回路図。
図10】降圧コンバータの動作態様を示す回路図。
図11】降圧コンバータの(a)補助電流、(b)下アーム端子間電圧、(c)上アームのゲート電圧、(d)下アームのゲート電圧、(e)補助スイッチのゲート電圧、(f)遷移時間のタイムチャート。
図12】降圧コンバータの遷移時間検出器の構成を示す図。
図13】共振時における上アームと下アームの接続点の電位のタイムチャート。
図14】遷移時間に対する損失を示す図。
図15】降圧コンバータの制御器の機能を示すブロック図。
図16】第2実施形態に係る昇圧コンバータの構成を示す図。
図17】昇圧コンバータの遷移時間検出器の構成を示す図。
図18】昇圧コンバータの制御器の機能を示すブロック図。
図19】第3実施形態に係る双方向型コンバータの構成を示す図。
図20】双方向型コンバータの遷移時間検出器の構成を示す図。
図21】第4実施形態に係る降圧コンバータの構成を示す図。
図22】第5実施形態に係る降圧コンバータの構成を示す図。
図23】第6実施形態に係る降圧コンバータの構成を示す図。
図24】第7実施形態に係る降圧コンバータの構成を示す図。
図25】第8実施形態に係る降圧コンバータの構成を示す図。
図26】第8実施形態に係る降圧コンバータの(a)リアクトル電流、(c)補助電流、(c)下アーム端子間電圧のタイムチャート。
図27】各相の出力電圧に所定の誤差を与えた場合における(a)ZVS制御なしの各相のリアクトル電流、(b)ZVS制御時の各相のリアクトル電流を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、電力変換装置を具現化した各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0012】
(第1実施形態)
<降圧コンバータの基本構成>
第1実施形態では、電力変換装置を降圧コンバータとして具現化した。まず、本実施形態に係る電力変換装置10の基本構成について、図1を参照して説明する。電力変換装置10は、スイッチS1、スイッチS2、メインリアクトルL1、補助共振回路15、平滑コンデンサCs1及び平滑コンデンサCs2から成る電圧変換部と、制御器20と、遷移時間検出器50とを備える。
【0013】
スイッチS1とスイッチS1とは、電力変換装置10の端子11,12の間に、直列に接続されている。本実施形態では、スイッチS1,S2として、NチャネルMOSFETを用いている。スイッチS1のドレイン端子が、高電位側の端子11に接続されており、スイッチS2のソース端子が、低電位側の端子12に接続されている。そして、スイッチS1のソース端子とスイッチS2のドレイン端子とが接続点Poで接続されている。
【0014】
メインリアクトルL1(第1磁気部品)の両端のうちの第1端は、接続点Poに接続されている。メインリアクトルL1の両端のうちの第2端は、高電位側の端子13に接続されている。端子11,12間には、電源70が接続され、端子13、14間には、負荷80が接続される。さらに、スイッチS1とスイッチS2との直列体の高電位側端子であるスイッチS1のドレイン端子と、直列体の低電位側端子であるスイッチS2のソース端子との間に、電源70に並列に、平滑コンデンサCs1(第1平滑コンデンサ)が接続されている。また、メインリアクトルL1の第2端とスイッチS2のソース端子との間に、負荷80に並列に、平滑コンデンサCs2(第2平滑コンデンサ)が接続されている。平滑コンデンサCs1,Cs2は、それぞれ、電源70の入力電圧と出力電圧を安定させるものである。
【0015】
スイッチS1,S2は、それぞれ並列に容量成分であるコンデンサC1,C2が接続されている。コンデンサC1,C2は、トランジスタの浮遊容量であってもよいし、外付けしたスナバコンデンサであってもよい。また、スイッチS1,S2には、それぞれ逆並列にダイオードD1,D2が接続されている。ダイオードD1,D2は、トランジスタのボディダイオードであってもよいし、外付けのダイオードであってもよい。
【0016】
スイッチS1,S2は相補的にオンオフされる。スイッチS1がオン状態のときに、端子11,12間に接続された電源70から、メインリアクトルL1へ電流が供給される。そして、スイッチS2がオン状態のときに、メインリアクトルL1から、端子13,14間に接続された負荷80へ電流が供給される。これにより、端子11、12間に接続された電源70の入力電圧が所定電圧に降圧されて、端子13,14間から出力される。すなわち、上アームのスイッチS1は電力変換を行うメインスイッチであり、下アームのスイッチS2は同期整流を行う同期整流スイッチである。なお、スイッチS1,S2及びメインリアクトルL1からスイッチング回路が構成される。
【0017】
補助共振回路15(補助スイッチング回路)は、メインリアクトルL1の第1端に、メインリアクトルL1に並列に接続された回路である。補助共振回路15は、スイッチS3、補助リアクトルL2(第2磁気部品)、及びダイオードDS(補助素子)から構成されている。本実施形態では、スイッチS3(補助スイッチ)として、NチャネルMOSFETを用いている。スイッチS3には、逆並列にダイオードD3が接続されている。ダイオードD3は、トランジスタのボディダイオードであってもよし、外付けのダイオードであってもよい。スイッチS3のソース端子は、メインリアクトルL1の第1端に接続されており、スイッチS3のドレイン端子は、補助リアクトルL2の第1端に接続されている。また、ダイオードDsのカソード端子は、補助リアクトルL2の第2端に接続されており、ダイオードDsのアノード端子は、メインリアクトルL1の第2端に接続されている。
【0018】
制御器20(制御部)は、CPU、メモリ、I/O等を備えたマイクロコンピュータである。制御器20は、スイッチS1,S2のスイッチングを制御して、入力電力を所定電力に変換する。また、制御器20は、スイッチS3のスイッチングを制御して、コンデンサC1とコンデンサC2と補助リアクトルL2とで共振動作させる。すなわち、制御器20は、スイッチS1〜S3のオンオフを制御する制御信号を生成して、各スイッチのゲート端子に接続されたドライバへ送信する。遷移時間検出器50は、スイッチS1又はスイッチS2の遷移時間を検出する。制御器20及び遷移時間検出器50の機能及び遷移時間の詳細は後述する。
<降圧コンバータの基本動作>
次に、電力変換装置10の基本動作について図2〜10を参照して説明する。図2は、電力変換装置10の動作態様を示すタイムチャートである。図2(a)〜(c)は、それぞれ、スイッチS1〜S3のゲート電圧Vgs1,Vgs2,Vgs3のタイムチャートを表す。すなわち、図2(a)〜(c)は、スイッチS1〜S3のオンオフを表す。図2(d),(e)は、上アームの端子間電圧Vds1及び下アームの端子間電圧Vds2を表す。端子間電圧Vds1,Vds2は、スイッチS1,S2のドレイン端子とソース端子との端子間電圧である。
【0019】
図2(f),(g)は、それぞれ、メインリアクトルL1を流れるリアクトル電流IL1及び補助リアクトルL2を流れる補助電流IL2を表す。図3は、図2のA期間を拡大したタイムチャートである。スイッチS1とスイッチS2は交互にオンオフされるが、オンオフの切替え時には、どちらもオフになるデットタイムが挟まれる。スイッチS2がオンからオフになってから、スイッチS1はオフからオンになり、スイッチS1がオンからオフになってから、スイッチS2がオフからオンになる。なお、リアクトル電流IL1は、接続点Po側から平滑コンデンサCs2側へ流れる方向を正とし、補助電流IL2は、ダイオードDs側からスイッチS3側へ流れる方向を正とする。
【0020】
図4は、図3に示す時点t0から時点t1の直前までの期間における動作態様を示す回路図である。この期間では、スイッチS1,S3がオフ状態で、スイッチS2がオン状態となっている。そのため、メインリアクトルL1のフライバック電流のみが流れ、メインリアクトルL1に蓄積された磁気エネルギが出力側に放出されている。
【0021】
次に、図5は、時点t1から時点t2の直前までの期間における動作態様を示す回路図である。時点t1でスイッチS3がターンオンされ、この期間では、スイッチS1がオフ状態で、スイッチS2,S3がオン状態となっている。平滑コンデンサCs2からダイオードDs、補助リアクトルL2、スイッチS3の閉ループで補助電流IL2が流れる。よって、平滑コンデンサCs2から供給された電気エネルギが、補助リアクトルL2に磁気エネルギとして蓄積される。スイッチS2とスイッチS3とが同時にオン状態となっている期間が長いほど、補助リアクトルL2に蓄積される磁気エネルギは多くなる。なお、補助リアクトルL2のインダクタンスが大きいと、補助電流IL2の増減傾きが緩くなり、上昇速度が遅くなる。よって、補助リアクトルL2のインダクタンスは、メインリアクトルL1のインダクタンスよりも小さい値とするのが望ましい。
【0022】
次に、図6は、共振動作時における動作態様を示す回路図である。時点t2でスイッチS2がターンオフされると、スイッチS3がオン状態、スイッチS1,S2がオフ状態となり、補助リアクトルL2とコンデンサC1,C2との共振動作が起こる。共振動作により、補助電流IL2がコンデンサC1,C2を流れる電流に分配され、接続点Poの電位が上がる。すなわち、スイッチS2の端子間電圧Vds2が大きくなり、スイッチS1の端子間電圧Vds1が小さくなる。
【0023】
ここで、スイッチS2をターンオフする時点t2における補助電流IL2が、次の式(1)の条件を満たしている場合に、共振動作により端子間電圧Vds2が入力電圧V1まで上昇する。式(1)において、C1,C2はコンデンサC1,C2の静電容量であり、L2は補助リアクトルL2のインダクタンスである。また、V1は入力電圧であり、V2は出力電圧である。式(1)の導出については、公知であるため省略する(詳しくは、特許文献1参照)。
【0024】
【数1】
【0025】
次に、図7は、共振動作により端子間電圧Vds2が入力電圧V1に到達して、端子間電圧Vds1が0になった状態における動作態様を示す回路図である。端子間電圧Vds1が0になると、ダイオードD1がオンして、コンデンサC1には電流が流れなくなり、共振動作が終了する。
【0026】
次に、図8は、時点t3から時点t4の直前までの期間における動作態様を示す回路図である。時点t3において、ダイオードD1がオン状態で、スイッチS1がターンオンされる。この期間では、スイッチS1,S3がオン状態で、スイッチS2がオフ状態となる。ダイオードD1がオン状態のときに、スイッチS1がターンオンされることにより、スイッチS1のZVSが実現される。スイッチS1のZVSを実現されることにより、スイッチS1のスイッチングに伴うスイッチS1の導通損失が最小となる。なお、時点t2から時点t3の期間は、デッドタイムに相当する。
【0027】
次に、図9は、時点t4から時点t5の直前までの期間における動作態様を示す回路図である。時点t4において、スイッチS3がターンオフされ、この期間では、スイッチS1のみがオン状態となる。この期間では、電源70から供給される電気エネルギがメインリアクトルL1に蓄えられる。
【0028】
次に、図10は、時点t5における動作態様を示す回路図である。時点t5において、スイッチS1がターンオフされ、全てのスイッチがオフ状態になる。そして、コンデンサC1からもメインリアクトルL1へ電流が流れる。
<最適なZVS制御>
上述したように、補助電流IL2が式(1)の条件を満たした時点で、スイッチS2をターンオフにすることにより、スイッチS1のZVSを実現できる。よって、補助電流IL2を電流センサで検出し、検出した補助電流IL2が式(1)の条件を満たした場合に、スイッチS2をターンオフすることが考えられる。しかしながら、電流センサの検出精度、入力電圧V1及び出力電圧V2の変動、静電容量C1,C2のばらつき、インダクタンスL2のばらつき、及び温度特性等の要因で、式(1)を満たす補助電流は変動する。上記要因を考慮して、ばらつき等による変動が最大のときでも式(1)を満たすように、補助電流IL2の大きさを余裕を見た大きさにしなければならない。
【0029】
しかしながら、補助電流IL2が大きくなると、スイッチS2,S3の導通損失が大きくなり、電力変換装置10の回路全体の損失が大きくなる。電力変換装置10の回路全体の損失を抑制するためには、補助電流IL2の大きさを、スイッチS1のZVSを達成する最小値にすることが望ましい。
【0030】
ここで、本発明者は、スイッチS2をターンオフした後における、端子間電圧Vds2の立ち上がり波形及び端子間電圧Vds1の立ち下がり波形に、補助電流IL2の情報が表れることに着目した。端子間電圧Vds1と端子間電圧Vds2との合計は入力電圧V1で一定であるため、端子間電圧Vds2の立ち上がり波形と端子間電圧Vds1の立ち下がり波形は、相補的な波形となる。
【0031】
スイッチS2とスイッチS3が同時にオン状態となっている時間が長いほど、補助電流IL2は大きくなり、補助リアクトルL2に蓄積される磁気エネルギは大きくなる。補助リアクトルL2に蓄積される磁気エネルギが大きくなるほど、スイッチS2をターンオフして共振動作を起こした際に、コンデンサC2の端子間電圧が急激に上昇する。すなわち、端子間電圧Vds2が急激に立ち上がり、端子間電圧Vds1が急激に立ち下がる。よって、端子間電圧Vds2の立ち上がり波形、及び端子間電圧Vds1の立ち下がり波形には、補助電流IL2の情報が表れる。また、上記立ち上がり波形及び上記立ち下がり波形は、入出力電圧の変動や、素子のばらつき、温度特性等の要因を全て含んだ過渡現象である。
【0032】
図11に、(a)補助電流IL2、(b)端子間電圧Vds2、(c)〜(e)スイッチS1〜S3のゲート電圧Vgs1,Vgs2,Vgs3、(f)遷移時間Taのタイムチャートを示す。図11(a),(b),(e),(f)において、補助電流IL2がZVSを実現できる最小の場合を最適な補助電流として実線で示す。また、最適な補助電流IL2に対して過大な補助電流IL2を破線、過小な補助電流IL2を鎖線で示す。
【0033】
補助電流IL2の上昇傾き及び下降傾きは、インダクタンスL2で決まる。よって、スイッチS3をターンオンするタイミングが最適なタイミングよりも早いと、スイッチS2,S3を同時にオンする時間が最適な時間よりも長くなり、スイッチS2をターンオフする際の補助電流IL2が過大となっている。この場合、端子間電圧Vds2の立ち上がり波形は、最適な補助電流IL2に対する波形と比べて急激に立ち上がっている。
【0034】
また、スイッチS3をターンオンするタイミングが最適なタイミングよりも遅いと、スイッチS2,S3を同時にオンする時間が最適な時間より短くなり、スイッチS2をターンオフする際の補助電流IL2が過小となっている。この場合、端子間電圧Vds2の立ち上がり波形は、最適な補助電流IL2に対する波形と比べて緩やかに立ち上がっている。その結果、スイッチS1をターンオンする際に、端子間電圧Vds2がV1となっておらず、ZVSを実現できていない。
【0035】
よって、端子間電圧Vds2の立ち上がり波形、又は端子間電圧Vds1の立ち下がり波形を観測し、立ち上がり波形又は立ち下がり波形が目標とする波形となるように、スイッチS3に対する制御信号を生成すれば、最適な補助電流IL2を流すことができる。
【0036】
本実施形態では、立ち上がり波形又は立ち下がり波形として、端子間電圧Vds2の立ち上がり開始から終了までの遷移時間Ta、又は端子間電圧Vds1の立ち下がり開始から終了までの遷移時間Taを検出し、検出した遷移時間Taを目標遷移時間Trに制御する。本実施形態では、入力電圧V1の例えば90%の値を閾値Vthとし、スイッチS2ターンオフしたタイミングから、端子間電圧Vds2が閾値Vthに到達したタイミングまでを遷移時間Taとして検出する。
【0037】
図12に、遷移時間を検出する遷移時間検出器50の構成を示す。遷移時間検出器50(遷移時間検出部)は、電圧検出器51と、XOR回路53とを備える。電圧検出器51(電圧検出部)は、抵抗R1〜R4とコンパレータ52とを備える。コンパレータ52の非反転入力端子には、入力電圧V1を抵抗R1,R2で分圧した閾値Vthが入力される。また、コンパレータ52の反転入力端子には、端子間電圧Vds2が入力される。端子間電圧Vds2が閾値Vth未満のときは、コンパレータ52の出力は「1」となり、端子間電圧Vds2が閾値Vthを超えると、コンパレータ52の出力は「0」となる。
【0038】
XOR回路53には、コンパレータ52の出力と、スイッチS2の制御信号すなわちゲート指令信号が入力される。XOR回路53の出力は、コンパレータ52の出力が「1」且つスイッチS2のゲート指令信号が「0」のときに「1」となり、コンパレータ52の出力が「0」且つスイッチS2のゲート指令信号が「0」のときに「0」となる。よって、XOR回路53の出力は、スイッチS2がターンオフしてから、端子間電圧Vds2が閾値Vthを超えるまでの間「1」となり、端子間電圧Vds2が閾値Vthを超えると「0」となる。したがって、XOR回路53の出力が「1」の期間が遷移時間Taとなる。そして、制御器20が、マイクロコンピュータのキャプチャ機能により、XOR回路53の出力が「1」の時間を検出する。
【0039】
なお、立ち下がり波形から遷移時間Taを検出する場合は、閾値Vthを例えば入力電圧V1の10%とする。そして、コンパレータ52の非反転入力端子には、端子間電圧Vds1を入力し、コンパレータ52の反転入力端子には、閾値Vthを入力する。そして、コンパレータ52の出力を、端子間電圧Vd1が閾値Vthよりも大きい間は「1」とし、端子間電圧Vds1が閾値Vth未満になると「0」とすればよい。また、閾値Vthの設定に、入力電圧V1を用いずに、他の電源を用いてもよい(図17参照)。
【0040】
図11では、補助電流IL2が最適な場合は、遷移時間Taは時点t10から時点t12までとなる。この場合の遷移時間Taを目標遷移時間Trとする。目標遷移時間Trの設定については後述する。補助電流IL2が過大な場合は、遷移時間Taは時点t10から時点t11までとなり、目標遷移時間Trよりも短い。また、補助電流IL2が過小な場合は、遷移時間Taは時点t10から時点t13までとなり、目標遷移時間Trよりも長い。制御器20は、検出した遷移時間Taが、設定した目標遷移時間Trとなるように、スイッチS3のターンオンタイミングを制御する。
【0041】
次に、目標遷移時間Trの設定について説明する。共振作動時における共振周波数frは、式(2)のように表される。L=L2、C=C1+C2である。なお、コンデンサC1,C2が浮遊容量のみの場合は、静電容量C1,C2は浮遊容量の値となり、コンデンサC1,C2が浮遊容量と外付けのスナバコンデンサから成る場合は、静電容量C1,C2は浮遊容量とスナバコンデンサの静電容量との合計値となる。
【0042】
【数2】
【0043】
図13に、共振動作時における接続点Poの電位の変動を示す。理論的には、共振開始から共振周期τr=1/frの1/4経過した時点で、補助リアクトルL2に蓄えられたエネルギは全てコンデンサC1,C2へ移され、接続点Poの電位はV1まで上昇する。
【0044】
図14に、遷移時間に対する電力変換装置10の損失のシミュレーション結果を示す。共振周期τrの1/4を含む所定の遷移時間の範囲内で、遷移時間に対する損失の変化量が所定値未満となるので、この遷移時間の範囲内で目標遷移時間Trを設定すれば、損失を抑制することができる。具体的には、共振周期τrの1/8〜4/13の範囲内で、目標遷移時間Trを設定すれば、損失が最も低い場合と比べて、損失の増加を0.5W程度(10%程度の増加)に抑えることができる。本実施形態では、目標遷移時間Trは、式(3)に示すように、理論的に損失が最小となる共振周期τrの1/4とするが、遷移時間検出器50やスイッチS1,S2の遅延等を考慮して、共振周期τrの1/8〜4/13の範囲内で設定してもよい。
【0045】
【数3】
【0046】
次に、制御器20の機能の詳細について、図15を参照して説明する。制御器20は、上下デューティ比算出部21、電圧偏差算出部22、電圧制御器23、上補正部24、下補正部25、デッドタイム補正部26、時間偏差算出部27、遷移時間制御器28、及びサブデューティ比算出部29の機能を備える。
【0047】
上下デューティ比算出部21は、入力電圧V1の検出値、及び出力電圧V2の検出値(負荷80の実電圧)から、スイッチS1,S2のデューティ比を算出する。電圧偏差算出部22は、検出された出力電圧V2と目標電圧との電圧偏差を算出する。
【0048】
電圧制御器23は、算出された電圧偏差に基づいて、出力電圧V2が目標電圧になるように、算出されたスイッチS1,S2のデューティ比の補正量を算出する。詳しくは、出力電圧V2の検出値が目標値よりも高い場合は、算出されたスイッチS1のオン時間を減らすように補正量を算出とともに、算出されたスイッチS2のオン時間を増やすように補正量を算出する。上補正部24は、上下デューティ比算出部21により算出されたスイッチS1のオン時間に、電圧制御器23により算出された補正量を減算して、スイッチS1のデューティ比のオン時間を補正する。また、下補正部25は、上下デューティ比算出部21により算出されたスイッチS2のオン時間に、電圧制御器23により算出された補正量を加算して、スイッチS2のデューティ比のオン時間を補正する。さらに、デッドタイム補正部26は、上補正部24及び下補正部25により算出されたスイッチS1,S2のデューティ比に、デッドタイムを設けて、スイッチS1,S2の制御信号であるゲート指令信号を生成する。
【0049】
時間偏差算出部27は、検出された遷移時間Taと目標遷移時間Trとの時間偏差を算出する。遷移時間制御器28は、算出された時間偏差から、遷移時間Taが目標遷移時間Trになるように、スイッチS3のデューティ比の補正量を算出する。具体的には、遷移時間Taが目標遷移時間Trよりも長い場合は、補助電流IL2が過小なので、スイッチS3のオンタイミングを早くして、オン時間を長くするように補正量を算出する。また、遷移時間Taが目標遷移時間Trよりも短い場合は、補助電流IL2が過大なので、スイッチS3のオンタイミングを遅くして、オン時間を短くするように補正量を算出する。サブデューティ比算出部29は、遷移時間制御器28により算出された補正量に基づいて、スイッチS3のデューティ比を補正し、スイッチS3の制御信号であるゲート指令信号を生成する。
【0050】
上下デューティ比算出部21からデッドタイム補正部26までのループは、入力電圧V1を目標電圧に変換する電圧変換制御を実施するループである。一方、時間偏差算出部27からサブデューティ比算出部29までのループは、ZVS制御を実施するループである。すなわち、電圧変換制御とZVS制御とは、それぞれ独立に実施される。そのため、ZVS制御を高速に実施することができる。
【0051】
なお、図15では、電圧制御の例を示したが、電流制御を実施してもよい。電流制御の場合、入力電圧V1及び出力電圧V2の代わりに、入力電流及び出力電流(実電流)を検出し、出力電流と目標電流との電流偏差に基づいて、出力電流を目標電流に制御すればよい。
【0052】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0053】
・端子間電圧Vds2の立ち上がり波形又は端子間電圧Vds1の立ち下がり波形に基づいて、スイッチS3に対する制御信号を生成することにより、素子のばらつき等を考慮して余裕を見た補助電流IL2を流さなくてもZVSを実現できる。ひいては、電力変換装置10の損失を低減することができる。したがって、最適なZVSを実現することができる。また、電流センサを用いないため、コストを低減することが可能となる。
【0054】
・検出された遷移時間Taと目標遷移時間Trとに基づいて、スイッチS3に対する制御信号が生成される。これにより、適切なタイミングでスイッチS3をオンして、最適なZVSを実現することができる。
【0055】
・出力電圧V2を制御するスイッチS1及び同期整流を行うスイッチS2に対する制御信号と、ZVSを制御するスイッチS3に対する制御信号とを、独立して生成するため、ZVS制御を高速に行うことができる。
【0056】
・目標電圧と出力電圧V2の検出値との電圧偏差に基づいて、出力電圧V2を目標電圧にフィードバック制御することができる。また、目標遷移時間Trと検出された遷移時間Taとの時間偏差に基づいて、検出された遷移時間Taを目標遷移時間Trにフィードバック制御することができる。
【0057】
・目標遷移時間Trを、共振周期τrの1/4とすることにより、理論的に損失を最小にすることができる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る電力変換装置について、第1実施形態と異なる点を説明する。本実施形態に係る電力変換装置10Aの構成を図16に示す。電力変換装置10Aの端子13,14間には電源80aが接続され、端子11,12間には負荷70aが接続される。電力変換装置10Aは、電源80aの入力電圧V2を昇圧して負荷70aへ出力する昇圧コンバータである。
【0059】
電力変換装置10Aは、補助共振回路15Aの構成が、電力変換装置10の補助共振回路15の構成と異なる。ダイオードDsのアノード端子は、メインリアクトルL1の第1端に接続されており、ダイオードDsのカソード端子は、補助リアクトルL2の第1端に接続されている。補助リアクトルL2の第2端には、スイッチS3のドレイン端子が接続されている。そして、スイッチS3のソース端子は、メインリアクトルL1の第2端に接続されている。
【0060】
電力変換装置10Aでは、電力変換装置10とリアクトル電流IL1及び補助電流IL2の向きが逆になり、スイッチS1とスイッチS2の役割が逆になる。すなわち、スイッチS2が電力変換を行うメインスイッチとなり、スイッチS1が同期整流を行う同期整流スイッチとなる。スイッチS2がオン状態のときに、電源80aからメインリアクトルL1へ電流が供給される。そして、スイッチS1がオン状態のときに、メインリアクトルL1から負荷70aへ電流が供給される。
【0061】
本実施形態では、メインスイッチであるスイッチS2の端子間電圧Vds2が0のときに、スイッチS2をターンオンするZVS制御を実施する。本実施形態において、ゲート電圧Vgs1,Vgs2は、図2及び図3の(a)と(b)が逆になったものとなり、端子間電圧Vds1,Vds2は、図2及び図3の(c)と(d)が逆になったものとなる。よって、本実施形態では、端子間電圧Vds1の立ち上がり波形又は端子間電圧Vds2の立ち下がり波形に基づいて、スイッチS3のオンタイミングを制御する。すなわち、閾値Vthを例えば入力電圧V1の90%の値とし、スイッチS1をターンオフしたタイミングから、端子間電圧Vds1が閾値Vthに到達するまでの時間を、遷移時間Taとして検出する。あるいは、閾値Vthを例えば入力電圧V1の10%の値とし、スイッチS1をターンオフしたタイミングから、端子間電圧Vds2が閾値Vthに到達するまでの時間を、遷移時間Taとして検出する。
【0062】
本実施形態に係る遷移時間検出器50の構成を図17に示す。コンパレータ52の非反転入力端子には、端子間電圧Vds2が入力され、反転入力端子には電源54の電圧が入力される。電源54の電圧が閾値Vthとなる。XOR回路53の出力は、スイッチS1がターンオフしてから、端子間電圧Vds2が閾値Vthよりも大きい間「1」となり、端子間電圧Vds2が閾値Vth未満になると「0」となる。したがって、XOR回路53の出力が「1」の期間が遷移時間Taとなる。なお、端子間電圧Vds1から遷移時間Taを検出してもよい。
【0063】
次に、本実施形態に係る制御器20の機能について、図18を参照して説明する。第1実施形態に係る制御器20と異なる機能は、上下デューティ比算出部21、電圧偏差算出部22、及び電圧制御器23であり、他は同様である。上下デューティ比算出部21は、入力電圧V2の検出値、及び出力電圧V1の検出値(負荷80aの実電圧)から、スイッチS1,S2のデューティ比を算出する。電圧偏差算出部22は、検出された出力電圧V1と目標電圧との電圧偏差を算出する。
【0064】
電圧制御器23は、算出された電圧偏差に基づいて、出力電圧V1が目標電圧になるように、算出されたスイッチS1,S2のデューティ比の補正量を算出する。詳しくは、出力電圧V1の検出値が目標値よりも高い場合は、算出されたスイッチS2のオン時間を減らすように補正量を算出とともに、算出されたスイッチS1のオン時間を増やすように補正量を算出する。
【0065】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0066】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る電力変換装置について、第1実施形態と異なる点を説明する。本実施形態に係る電力変換装置10Bの構成を図19に示す。電力変換装置10Bの端子11,12間には電源70b又は負荷70bが接続され、端子13,14間には負荷80b又は電源80bが接続される。電力変換装置10Bは、電源70bの入力電圧V1を降圧して端負荷80bへ出力する降圧動作をするとともに、電源80bの入力電圧V2を昇圧して負荷70bへ出力する昇圧動作をする双方向型コンバータである。
【0067】
電力変換装置10Bは、補助共振回路15Bの構成が、電力変換装置10の補助共振回路15の構成と異なる。補助共振回路15Bは、二つのスイッチS3,S4と補助リアクトルL2とから構成されており、ダイオードDsの代わりに、スイッチS4が接続されている。スイッチS4は、ドレイン端子が補助リアクトルL2の第2端に接続されており、ソース端子がメインリアクトルL1の第2端に接続されている。すなわち、補助共振回路15Bは、補助素子が補助スイッチであるスイッチS3又はスイッチS4となる。
【0068】
本実施形態では、電力変換装置10Bが降圧動作をする場合には、スイッチS1がメインスイッチ、スイッチS2が同期整流スイッチ、スイッチS3が補助スイッチの役割をする。また、電力変換装置10Bが昇圧動作をする場合には、スイッチS2がメインスイッチ、スイッチS1が同期整流スイッチ、スイッチS4が補助スイッチの役割をする。制御器20は、第1実施形態で示したような降圧用の機能と、第2実施形態で示したような昇圧用の機能とを備え、適宜切替えて降圧制御又は昇圧制御を実施する。
【0069】
また、本実施形態に係る遷移時間検出器50の構成を図20に示す。遷移時間検出器50は、抵抗R7〜R11、コンパレータ52a,52b、及びXOR回路53a,53bを備える。コンパレータ52aの非反転入力端子には、抵抗R7と抵抗R8,R9とで分圧された電圧V1が閾値Vthとして入力され、コンパレータ52aの反転入力端子には、端子間電圧Vds2が入力される。そして、XOR回路53aには、コンパレータ52aの出力及びスイッチS2のゲート指令信号が入力される。また、コンパレータ52bの非反転入力端子には、端子間電圧Vds2が入力され、コンパレータ52bの反転入力端子には、抵抗R7,R8と抵抗R9とで分圧された電圧V1が閾値Vthとして入力される。そして、XOR回路53bには、コンパレータ52bの出力及びスイッチS1のゲート指令信号が入力される。電力変換装置10Bが降圧動作をするときには、XOR回路53aの出力から遷移時間Taを検出し、電力変換装置10Bが昇圧動作をするときには、XOR回路53bの出力から遷移時間Taを検出する。
【0070】
以上説明した第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0071】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る電力変換装置について、第1実施形態と異なる点を説明する。本実施形態に係る電力変換装置10Cの構成を図21に示す。
【0072】
電力変換装置10Cは、メインリアクトルL1の第1端と第2端とに、メインリアクトルL1に並列にコンデンサC3が接続されている。
【0073】
第4実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、コンデンサC1,C2の容量を低減して、低耐圧のものにすることができる。ひいては、コンデンサC1,C2を小型化することができる。なお、昇圧コンバータの電力変換装置10Aや双方向型コンバータの電力変換装置10Bに、電力変換装置10Cの構成を適用してもよい。
【0074】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る電力変換装置について、第1実施形態と異なる点を説明する。本実施形態に係る電力変換装置10Dの構成を図22に示す。
【0075】
電力変換装置10Dは、補助共振回路15Dの構成が、電力変換装置10の補助共振回路15の構成と異なる。補助共振回路15Dでは、メインリアクトルL1と補助リアクトルL2とが互いに磁気結合している。そのため、共通のコアに2つのコイルを巻き付けて、メインリアクトルL1と補助リアクトルL2とを形成することができる。補助共振回路15Dの等価回路において、メインリアクトルL1側は、巻数N1の1次巻線と励磁インダクタンス成分との並列回路となり、補助リアクトルL2側は、巻数N2の2次巻線と漏れインダクタンス成分との直列回路となる。1次巻線と2次巻線は理想トランスを構成し、漏れインダクタンス成分は、励磁インダクタンス成分よりも十分に小さい。この場合、漏れインダクタンス成分と、コンデンサC1,C2とで共振動作が起こる。よって、式(3)におけるインダクタンスLは、漏れインダクタンス値となる。
【0076】
また、メインリアクトルL1の第1端の極性と、補助リアクトルL2の第2端の極性とを同極性とする。これにより、漏れインダクタンス成分に印加される電圧を、励磁インダクタンス成分の端子間電圧に対して巻数比N2/N1を乗算した値だけ高くすることができる。これにより、漏れインダクタンス成分に磁気エネルギを蓄積する時間を短縮することができる。
【0077】
以上説明した第5実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、以下効果を奏する。なお、昇圧コンバータの電力変換装置10Aや双方向型コンバータの電力変換装置10Bに、電力変換装置10Cの構成を適用してもよい。
【0078】
・メインリアクトルL1と補助リアクトルL2のコアを共通化して、電力変換装置10Dの体格を抑制することができる。
【0079】
・メインリアクトルL1の第1端と補助リアクトルL2の第2端とを同極性としたことにより、スイッチS3のオン状態時に、漏れインダクタンス成分の印加電圧を高めることができ、漏れインダクタンス成分への磁気エネルギの蓄積時間を短縮することができる。
【0080】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係る電力変換装置について、第5実施形態と異なる点を説明する。本実施形態に係る電力変換装置10Eの構成を図23に示す。
【0081】
電力変換装置10Eは、補助共振回路15Eの構成が、電力変換装置10Dの補助共振回路15Eと異なる。補助共振回路15EのダイオードD1のアノード端子が、グラウンド電位に接続されている。グラウンド電位は、低電位側の端子12,14、及びスイッチS2のソース端子と同電位である。
【0082】
ここで、第5実施形態の場合、スイッチS1がオン状態となっている期間には、スイッチS3に逆並列に接続されたダイオードD3のアノード電位がカソード電位よりも高くなる。そのため、ダイオードD3が導通し、スイッチS3の端子間電圧Vds3は0となる。その後、スイッチS2がオン状態となっている期間には、スイッチS3の端子間電圧Vds3は、出力電圧V2と2次巻線の端子間電圧との和になる。
【0083】
これに対して、本実施形態の場合、スイッチS1がオン状態となっている期間には、ダイオードD3の導通により、スイッチS3の端子間電圧Vds3は0となる。その後、スイッチS2がオン状態となっている期間には、スイッチS3の端子間電圧は、2次巻線の端子間電圧となる。したがって、本実施形態の場合、第5実施形態と比較して、スイッチS3の端子間電圧を出力電圧V2の分だけ低下させることができる。
【0084】
なお、ダイオードD1のアノード端子をグラウンド電位に接続する構成は、メインリアクトルL1の第1端と補助リアクトルL2の第2端とを、同極性になるように磁気結合することにより実現される。
【0085】
以上説明した第6実施形態によれば、第5実施形態と同様の効果を奏するとともに、スイッチS3を低耐圧化することができる。ひいては、スイッチS3を小型化することができる。
【0086】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態に係る電力変換装置について、第5実施形態と異なる点を説明する。本実施形態に係る電力変換装置10Fの構成を図24に示す。
【0087】
電力変換装置10Fは、補助共振回路15Fの構成が、電力変換装置10Dの補助共振回路15Fと異なる。補助共振回路15FのダイオードD1のアノード端子が、電源70の高電位側に接続されている。すなわち、ダイオードD1のアノード端子が、高電位側の端子11、及びスイッチS1のドレイン端子に接続されている。
【0088】
第7実施形態によれば、第5実施形態と同様の効果を奏するとともに、スイッチS1のオン状態の期間に、第5実施形態よりも、ダイオードDsの端子間電圧を低くすることができる。よって、ダイオードDsを低耐圧化することができる。
【0089】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態に係る電力変換装置について、第5実施形態と異なる点を説明する。本実施形態に係る電力変換装置10Gの構成を図25に示す。
【0090】
電力変換装置10Gは、電源70及び負荷80に対して互いに並列に接続された2台の電力変換装置10D(#1),(#2)を有する。各電力変換装置10Dでは、上述したZVS制御を実施する。このとき、電力変換装置10D(#1)のスイッチS1〜S3と、電力変換装置10D(#2)のスイッチS1〜S3は、同じタイミングでオンオフする。このように、複数相の電力変換装置10DにおいてZVS制御を実施すると、各相の出力電流のばらつきに応じて、メインリアクトルL1に電圧が印加される時間が変化し、負帰還がかかるため、各相の出力電流が自動的に均衡する。
【0091】
図26(a)に、各相を流れるリアクトル電流IL1a,IL1b、図26(b)に、各相を流れる補助電流IL2a,IL2b、図26(c)に、各相の端子間電圧Vds2a,Vds2bのタイムチャートを示す。リアクトル電流IL1a,補助電流IL2a,端子間電圧Vds2aを、電力変換装置10D(#1)に対応するものとし、リアクトル電流IL1b,補助電流IL2b,端子間電圧Vds2bを、電力変換装置10D(#2)に対応するものとする。
【0092】
図26の例では、リアクトル電流IL1aがリアクトル電流IL1bよりも大きい。ここで、補助電流IL2aが最適である場合、補助電流IL2bは過大となっている。すなわち、リアクトル電流IL1bがリアクトル電流IL1aよりも小さい分、補助電流IL2bは、補助電流IL2aよりも小さい値で最適となる。しかしながら、スイッチS3のオン時間を各相で同じにしているため、各相の補助電流IL2は等しくなる。
【0093】
その結果、補助電流IL2bは過大となっている。補助電流IL2bは過大となっているため、端子間電圧Vds2bは端子間電圧Vds2aよりも急激に立ち上がる。そのため、電力変換装置10D(#2)のメインリアクトルL1には、電力変換装置10D(#1)よりも早く電圧が印加される。したがって、リアクトル電流IL1bは増加し、リアクトル電流IL1aと均衡するようになる。
【0094】
一方、補助電流IL2bが最適である場合、補助電流IL2aは過小となっている。よって、端子間電圧Vds2aは端子間電圧Vdsbよりも緩やかに立ち上がる。そのため、電力変換装置10D(#1)のメインリアクトルL1には、電力変換装置10D(#2)よりも遅く電圧が印加される。したがって、リアクトル電流IL1aは減少し、リアクトル電流IL1bと均衡するようになる。
【0095】
図27(a)に、各相の出力電圧に0.048Vの誤差を与えた場合において、ZVS制御をしない場合の各相のリアクトル電流IL1a,IL1bのタイムチャートを示す。また、図27(b)に、同様の誤差を与えた場合において、ZVS制御をした場合の各相のリアクトル電流IL1a,IL1bのタイムチャートを示す。
【0096】
ZVS制御をしない場合は、リアクトル電流IL1a,IL1bのばらつきΔIが5A程度残ったままになるのに対して、ZVS制御をした場合は、リアクトル電流IL1a,IL1bのばらつきΔIを1A以下に抑えることができている。
【0097】
以上説明した第8実施形態によれば、第5実施形態と同様の効果を奏するとともに、各相のリアクトル電流を自動的に均衡させることができる。ひいては、各相の出力電流を自動的に均衡させることができる。なお、昇圧コンバータの電力変換装置10Aや双方向型コンバータの電力変換装置10Bに、電力変換装置10Gの構成を適用してもよい。
【0098】
(他の実施形態)
・立ち上がり波形又は立ち下がり波形として、立ち上がり波形又は立ち下がり波形の傾きを検出し、傾きに基づいて、スイッチS3,S4のターンオンのタイミングを制御してもよい。また、例えば、立ち上がり波形が閾値Vthの1/2まで上昇するまでの時間を検出し、その時間を2倍して遷移時間Taとしてもよい。
【0099】
・スイッチS1〜S3は、MOSFETに限らず、IGBTやバイポーラトランジスタ等の他の種類のスイッチング素子を用いてもよい。
【符号の説明】
【0100】
10,10A〜10G…電力変換装置、15,15A,15B,15D〜15F…補助共振回路、20…制御器、51…電圧検出器、Ds…ダイオード、S1,S2,S3…スイッチ、L1…メインリアクトル、L2…補助リアクトル、C1,C2…コンデンサ。
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