【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明は、その主題として、第一態様により、以下の連続工程:
i)固体−液体ミキサーに、水、脂肪、および乳タンパク質濃縮物を含むベース組成物を導入する工程、
ii)均質で乳化され脱気された練粉、またはプレチーズミックス、が得られるまで、当該組成物を乳化させ均質化させるために当該ミキサーを1500rpm以上の撹拌速度および35℃〜60℃の温度T1において作動させ、次いでそれを減圧下において脱気する工程、
iii)当該練粉を温度T1より低い温度T2、好ましくは35℃〜55℃、で冷却する工程、
iv)1種もしくは複数種の凝乳酵素、ならびに任意選択により1種もしくは複数種の酸性化発酵体および/またはレオロジー特性を変更する1種もしくは複数種の芳香族酵素および/または1種もしくは複数種の風味生成発酵体および/または1種もしくは複数種の酸性化剤が当該冷却された練粉に加えられる、凝乳工程、
v)45℃以上の温度T3での当該練粉への蒸気または熱水の添加と、任意選択により事前の粉砕工程とを含む、チーズのテクスチャリング工程、
vi)成形/型出し工程、
を含む、調理時に展延および/または伸長するチーズを製造する方法を有する。
【0018】
有利には、当該乳タンパク質濃縮物における総窒素物(TNM)に対するカルシウムの質量比は、0.10%以上かつ2.80%以下であり、当該方法は、凝乳工程iv)後に形成された乳清を分離する工程を含まない。
【0019】
好ましくは、国際食品規格の規定に従って、乳タンパク質は、乾燥抽出物の関数として計算された最低50%の乳タンパク質を含有する乳生成物として定義される(窒素×6.38)。したがって、総窒素物(TNM)は、乳タンパク質および非タンパク質性窒素物を含む。
【0020】
本発明との関連において使用される乳タンパク質濃縮物は、粉末形態および/または液体形態であり得る。
【0021】
好ましくは、当該乳タンパク質濃縮物は、使用場所から当該タンパク質濃縮物の合成を分離したい場合に、特にそれらの貯蔵を容易にするために、粉末形態である。
【0022】
本発明との関連において、Ca/TNM比を算出する際に考慮されるカルシウムは、総カルシウムであり、すなわち、可溶性カルシウムとタンパク質(特にカゼイン)に結合した不溶性カルシウムとを含む。
【0023】
乳生成物、特に乳タンパク質濃縮物、のカルシウム含有量は、FIL 119(国際酪農連盟)(2007年から始まるISO 8070(国際標準化機構)方法)に従って、原子吸光分光法によって特定することができる。
【0024】
有利には、所定の間隔において、カルシウムCa/TNM比を有する乳タンパク質濃縮物の使用と組み合わせて、温度、撹拌速度、および真空パック基準を尊重しつつ、上記において言及された様々な工程を実践することは、従来のチーズ(例えば、モツァレラなど)に近い、向上した展延特性および/または伸長特性を有するチーズの製造を可能にする。
【0025】
本発明のメリットの1つは、乾燥抽出物、乾燥物中の脂肪、およびTNMに従ってチーズの全範囲に対してCa/TNM質量比を調節することによって、乳タンパク質濃縮物から、調理時に展延および/または伸長するチーズを製造することを可能にすることである。
【0026】
好ましくは、用語「調理時」は、チーズを熱源にさらすことによって、チーズを回転させたときに展延するようにおよび/または糸を引くように当該チーズを変える工程からなる任意の作業を意味するとして理解され、好ましくは、当該熱源は60℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、特段には150℃以上であり、より特段には250℃以上である。
【0027】
好ましくは、「調理時に展延する」は、特に下記のII章において開示される方法により、およそ270℃の熱が6.5分間適用された場合に、0%を超えて、特に20%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは120%以上、展延する任意のチーズを意味するとして理解される。
【0028】
好ましくは、「調理時に伸長する」は、Ia)章において開示される方法に従って測定されるか、または特にIb)章において開示されるように、270℃の温度に6.5分間さらされた場合に、20cm以上、より好ましくは40cm以上伸長する任意のチーズを意味するとして理解される。
【0029】
好ましくは、ベース組成物は、その総質量(水を含む)の少なくとも15質量%、好ましくはその総質量の少なくとも20質量%、より好ましくはその総質量の少なくとも25質量%、ならびに最大でその総質量の40質量%まで、の乳タンパク質濃縮物、特に粉末化乳タンパク質濃縮物を含む。
【0030】
好ましくは、ベース組成物は、当該ベース組成物の総質量に対する%で表された、少なくとも40%の水、より好ましくは少なくとも45%の水、ならびに当該ベース組成物の総質量に対する%で表された、より好ましくは最大で60%までの水、より好ましくは最大で50%までの水、を含む。
【0031】
好ましくは、(任意選択により工程ii)または冷却工程iii)の後に)ベース組成物に加えられる脂肪の総量は、ベース組成物(水を含む)の総質量の少なくとも15質量%、より好ましくはベース組成物の総質量の少なくとも20質量%、ならびにより好ましくはベース組成物の総質量の最大で35質量%までを表す。
【0032】
本発明のメリットの1つは、乳タンパク質濃縮物中のTNMの質量比にかかわらず、凝乳工程iv)後に形成された乳清を分離する工程を伴わない製造方法を提案することである。実際に、本発明により、乳タンパク質濃縮物がそれらの総質量に対して10質量%を超える乳糖を含んでいる場合でさえ、乳清分離工程は必要ではない。後者の場合、ベース組成物における水、脂肪、および粉末化乳タンパク質濃縮物の質量割合に従って、最終的なチーズの乾燥抽出物を調節することが可能である。
【0033】
好ましくは、テクスチャリング工程の際、回転工程および伸長工程が練粉に対して実施される。特に、当該回転工程および伸長工程は統合される。実際に、練粉が伸長されるとき、それは回転もされる。
【0034】
好ましくは、蒸気が練粉に注入される。したがって、熱水が注入される場合と比べて、調理時の展延特性および糸引き特性の向上が認められる。
【0035】
本文章における「粉砕工程」は、その後続のテクスチャリング工程を考慮して練粉を小片に切断する工程からなる任意の工程を意味するとして理解される。
【0036】
本発明の方法は、任意選択により、成形/型出し工程(vi)の後に塩形成工程(例えば、塩水漬け工程)および/または熟成工程を含んでいてもよい。この熟成工程は、古典的な意味において、従来タイプ/熟成タイプのチーズの製造における熟成工程ではない。実際に、本発明との関連における熟成は、概して、最長で1ヶ月継続する。さらに、発酵体はテクスチャリング工程v)の際に破壊されており、この工程の目的は、従来のチーズ/熟成チーズの場合のようにチーズにおいて特に風味を高めることではなく、チーズの物理的機能性、特に調理時の展延性および糸引き性、を向上させることである。
【0037】
工程ii)に示された1500rpmの撹拌速度は、均質で脱気された練粉が得られるまで、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間、さらにより好ましくは少なくとも15分間にわたって混合物に適用されなければならない撹拌速度である。
【0038】
代替の実施形態において、本発明の方法は、工程ii)の後に、特に熱処理工程の前に、および/または冷却工程iii)の後に、好ましくは減圧下での、脂肪の添加を含む。
【0039】
驚くべきことに、工程ii)および/または工程iii)の後、好ましくは工程ii)の後、特に工程iii)の後、の脂肪の添加は、工程i)においてベース組成物に単一工程において加えられた同量の脂肪を含むチーズと比較して、チーズの展延値を著しく向上させる。
【0040】
工程ii)の後および/または工程iii)の後の脂肪の添加は、均質で乳化され脱気された練粉が得られるように実施されなければならない。
【0041】
当該脂肪は、好ましくは溶融状態において、特に45℃以上の温度、特に約45℃の温度において加えられる。
【0042】
当該脂肪は、好ましくは撹拌しながら、特に、300rpm以上、より好ましくは500rpm以上、より好ましくは750rpm以上の撹拌速度で撹拌しながら加えられる。
【0043】
代替の実施形態において、工程ii)の後および/または工程iii)の後に加えられる脂肪の質量は、工程i)においてベース組成物に加えられる総脂肪の質量以上、好ましくは工程i)においてベース組成物に加えられる総脂肪の質量の2倍以上である。
【0044】
代替の実施形態において、テクスチャリング工程v)は、特に、凝乳工程iv)の終了時に生成された練粉への熱水もしくは蒸気の添加の後の回転工程および伸長工程を含む。
【0045】
代替の実施形態において、当該方法は、撹拌システム(例えば、スクリュー)を使用して当該練粉を混合する混練工程を含む。当該混練工程は、好ましくは、テクスチャリング工程v)の前かつ粉砕工程の前もしくは後に実施される。
【0046】
代替の実施形態において、乳タンパク質濃縮物におけるTNMに対するカルシウムの質量比は、1.20%〜2.80%、好ましくは1.70%〜2.70%である。
【0047】
有利には、当該Ca/TNM質量比は、従来のチーズに非常に近い、さらにはそれに等しい、調理時の展延特性および糸引き特性を有するチーズを製造することを可能にするが、消費者の要求に従った展延特性および糸引き特性を得ることも可能にする。
【0048】
好ましくは、当該Ca/TNM比は、1.70%〜2.50%、より好ましくは1.70%〜2.30%である。
【0049】
代替の一実施形態において、凝乳工程iv)は、5.10以上かつ5.40以下のpHでの、当該冷却された練粉の酸性化を含む。
【0050】
当該酸性化は、下記において説明されるような1種または複数種の酸性化剤を使用して実施され得る。
【0051】
代替の一実施形態において、当該粉末化乳タンパク質濃縮物は、それらの総質量に対して10質量%未満の乳糖を含む。
【0052】
当該低乳糖含有率は、チーズの調理時の褐変を回避する利点を有する。
【0053】
代替の一実施形態において、TNMは、当該粉末化乳タンパク質濃縮物の総質量の少なくとも50質量%かつ最大で85質量%までを表す。
【0054】
好ましくは、TNMは、当該粉末乳タンパク質濃縮物の総質量の少なくとも60質量%を表す。
【0055】
代替の一実施形態において、プレチーズミックスは、40%〜65%、好ましくは45%〜55%の乾物含量を有する。
【0056】
本発明のメリットの1つは、調理時の満足できる糸引き特性および展延特性を生じつつ、乾物含量を変えることを可能にすることである。
【0057】
好ましくは、乾物含量は、47%〜53%である。
【0058】
代替の一実施形態において、本発明の方法は、工程(i)および/または工程(ii)および/または工程(iii)および/または粉砕工程および/またはテクスチャリング工程(v)の際の、ならびに任意選択により塩水漬け工程の際の塩の添加を含む。
【0059】
代替の一実施形態において、乳タンパク質濃縮物は、0.50を超え、好ましくは0.70を超え、より好ましくは0.80を超え、かつ0.95未満のカゼイン/TNM質量比、より好ましくは0.85〜0.95のカゼイン/TNM質量比を有する。
【0060】
代替の一実施形態において、ベース組成物のTNM/水質量比は、0.20〜0.90、好ましくは0.30〜0.90、より好ましくは0.30〜0.70、とりわけ0.40〜0.60である。
【0061】
代替の実施形態において、当該1種または複数種の酸性化剤は、以下の酸:化学酸、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、乳酸、クエン酸、酢酸など;生物学的酸、例えば、グルコノδ−ラクトンなど、より選択される。
【0062】
代替の一実施形態において、1種または複数種の酸性化発酵体は、ホモ型発酵性および/またはヘテロ型発酵性乳酸発酵体、好熱性および/または中温性発酵体より選択される。
【0063】
代替の一実施形態において、当該1種または複数種の凝乳酵素は、キモシンおよび/またはペプシンより選択される。
【0064】
代替の一実施形態において、レオロジー特性を変更する1種または複数種の芳香族酵素は、プロテアーゼおよび/またはリパーゼより選択される。
【0065】
代替の一実施形態において、当該ベース組成物は、テクスチャリング剤、とりわけヒドロコロイド、例えば、タンパク質、特にゼラチン、および/または1種もしくは複数種の多糖、ならびにデンプンなど、を含む。
【0066】
代替の一実施形態において、当該脂肪は、酪酸脂肪および/または植物性脂肪であり、好ましくは当該酪酸脂肪は、単独あるいはクリーム、バター、バターオイル、または無水乳脂肪との組み合わせより選択される。
【0067】
任意選択により、当該植物性脂肪は、液体においてあるいは部分的もしくは完全に水素化された形態の、単独のあるいはパーム油、ココナッツ油、ヤシ油、大豆油、ヒマワリ油との組み合わせより選択される。後者の場合、本発明の方法により結果として得られる生成物は、「チーズ」という名では市販され得ないことに留意されたい。
【0068】
代替の一実施形態において、本発明の方法は、テクスチャリング工程の完了時に、冷水および/または氷水を使用した冷却工程を含む。
【0069】
好ましくは、この冷却工程は、成形工程(vi)および/または型出し工程の後に実施される。
【0070】
好ましくは、当該冷却は、2℃〜6℃、より好ましくは約4℃の温度を有する冷水によって実施される。好ましくは、冷水による冷却は、氷冷(すなわち、約0℃)による冷却によって後続される。
【0071】
代替の一実施形態において、本発明の方法は、工程ii)の完了時および工程iii)の前に、練粉が65℃以上の温度にさらされる熱処理工程を含む。後者の工程は、達した温度に応じた、練粉のサーミゼーションまたはパスツーリゼーションからなる。
【0072】
本発明は、その主題として、第二態様により、特に、本発明の製造方法を実践することによって製造され、先行の代替の実施形態のいずれか1つにより開示され、調理時に糸引き特性および/または展延特性を有し、21%以下のチーズの総質量に対するTNMの質量の比率、40%以上のチーズの総質量に対する乾燥物の質量比、および0.10%〜2.80%のTNMに対するカルシウムの質量比、を有する、モツァレラタイプのチーズ、例えば、モツァレラなど、も有する。
【0073】
当該チーズのTNM含有量は、チーズの総質量(水を含む)に対して計算される。
【0074】
好ましくは、乾物含率は、45%以上、より好ましくは47%以上、かつ60%以下、より好ましくは55%以下、より好ましくは53%以下である。「モツァレラタイプのチーズ」とは、調理時に糸引き特性および/または展延特性を有し、低含水率を有し、均質で、孔のない硬質/半硬質の、ならびに細断とって好適な、任意のチーズを意味する。
【0075】
本発明のメリットの1つは、乳清分離を伴う従来技術を使用して製造されたチーズよりも低い総窒素物含有量、ならびに調理時に糸引き特性および/または展延特性、特に糸引き特性、を有するチーズを、乳タンパク質濃縮物、特に粉末乳タンパク質濃縮物から得ることを可能にすることである。
【0076】
代替の一実施形態において、当該チーズのpHは、5.10以上かつ5.40以下である。
【0077】
代替の一実施形態において、チーズの総質量に対するTNMの質量の比率は、15%〜22%、より好ましくは17%〜21%である。
【0078】
この低いTNM含有量は、23%以上のTNMと比べて、チーズにとっての重要な経済的利益を表している。
【0079】
代替の一実施形態において、チーズの乾燥質量に対する脂肪の質量比(乾燥物中の脂肪)は、40%〜60%、好ましくは44%〜59%である。
【0080】
本発明は、非限定的に列挙され、以下の図によって例示され、ここに追加される下記に開示された実例実施形態を読むことによってより良く理解されるであろう。
【0081】
図2〜6において、点線の灰色のヒストグラムは、%で測定された展延性の増加に対応しており、十字のヒストグラムは、cmで測定された糸引き性に対応している。
【0082】
図4は、「従来対照」として示された、50.6%の乾燥抽出物、総質量に対して22.2%の脂肪、総質量に対して23%のTNM、および40〜45%の乾燥物における脂肪、を有する従来のモツァレラにおいて得られた展延値および糸引き値である。